ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

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魔と怨の伝説

魔と怨の伝説

劇団1980

シアターX(東京都)

2022/08/17 (水) ~ 2022/08/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「何かつまらなそうだな」と内心思っていたのだが、いざ観てみれば大当たり。気の狂った脚本にゾクゾク。これが映画だったらカルト扱いで大井武蔵野館辺りで延々特集上映されていたことだろう。橋本忍監督作品に通ずる魅力。ただ、一般的には訳の分からぬ超論理に敬遠する方が多いことも確か。

東大卒の息子の農林省への就職が決まり、可愛い婚約者をお披露目するホーム・パーティー。一家の幸福の絶頂の時にそれは起こった。真面目一徹の会社役員の父がパーティー後に息子を滅多刺しにして殺した。止めに入る妻も大怪我。逮捕勾留された父の裁判が始まる。仏頂面で何も答えようとしない父。検事と弁護士の攻防。誰にも理解出来ない父の動機。

後方のスクリーンに映し出される映画のスチールのようなスライド写真。非常に解り易い演出。裁判所から話は始まるが、段々と異世界に迷い込んでいく『羅生門』のようなスタイル。

ずっと仏頂面の父親、神原弘之氏が素晴らしい。全く内面が掴めない。
弁護人、青木和宣氏も自然な語り口で巧い。
証人として呼ばれた刑事、木之村達也氏はずっとニコニコ笑っている。この役作りは怖ろしい。
検事補の角島(かどしま)美緒さんは北川景子や葉月里緒奈系の迫力ある美人。
息子の恋人、山丸莉菜さんはいつもながら可愛かった。彼女が出ているだけで作品の生命力が変わる。
巫女の上野裕子さんも強烈。いつの時代の話なのか?

ネタバレBOX

裁判が進んでいくと、殺された息子が証人として現れる。父が完璧に用意した英才教育、何も選択出来ず鬱屈を抱えたまま素敵な家族を演じ続けたこと。
父は捨て子で東北の養護施設を点々とし、ある家族に養子に貰われた。どうにか勉学に励むことで苦境を脱し、一流企業に就職、妻と子を持つ。だが本当の父親を知らない自分には真似事の父親しか出来ないというコンプレックス。

そして時空は遡り、父の産まれた本州最北端の部落。その地は激しい潮流の為、漁業も出来ず、たまに流れ着く難破した船の積荷が生活の糧であった。その年は難破船もなく、食糧難の為、子供を産むことが禁止される。而して産まれた赤ん坊は殺すに殺せず養護施設に捨てられる。

裁判所に会いに来た実の父親を殺そうとする主人公。「俺が本当に殺したかったのは“父親”だったのだ」と。そこに祈りのような歌が流れる。今や廃村となった生まれ故郷の部落で母親達が歌っている。(ここの歌詞がはっきり聴き取れないのが残念)。呆然とする主人公。降り続ける雪。

いろいろと解釈は可能だが、もう少しラストを上手く纏め上げたらとんでもない傑作になり得た筈。息子を殺さなくてはいけなかった理由が観客にも共有できたなら。

冒頭から襤褸を纏った異形の者達がそれぞれ原始的な道具を使って効果音を鳴らし続ける。この演出が禍々しくて蠱惑的。
ナイゲン(R04年新宿版)

ナイゲン(R04年新宿版)

feblaboプロデュース

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2022/08/18 (木) ~ 2022/08/23 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

成程これが『ナイゲン』か。ワードとしては知っていて、よっぽど完成度の高い戯曲なのだろうと類推。到頭観る機会が来て興味津々。素直に面白かった。伏線回収を含めて見事に練られた脚本。何より演ってる役者陣が楽しそう。作者・冨坂友の母校、千葉県立国府台(こうのだい)高校に実際ある文化祭の内容限定会議、略称『ナイゲン』。自主自立を重んずる校風だった筈が段々と変容し失われていく流れ。冨坂は今作の「どさまわり」的キャラクターで闘争の日々を送ったようだ。

MVPは「監査」の大槻朋華さん。今作で観るのは3回目だがびっくりする程良かった。表情とリズム感、テンポがいい。
「議長」の河西凛氏。この人もいつ観ても良い。売れるんではないか。
「文化副」の兼行凛さん。『青春高校アイドル部』でアイドルをやっていただけに目立つ美人。
ヒールの「アイスクリースマス」の守谷周徒氏は若い時の布袋寅泰にやたら似ている。『INSTANT LOVE』の頃。
「どさまわり」の坂本七秋氏は活動家顔。この人の存在感が作品の肝。
演出の池田智哉氏が「おばか屋敷」で出演も兼ねた。この人のキャスティング・センスは絶妙で役者を見る目が本物。全ての出演者がその力量を発揮していた。
それだけに寺園七海さんと長谷川智也氏の降板が残念。本当はどうなっていたのか観たかった。

ネタバレBOX

高校が舞台なだけに一番盛り上がるネタがチャラ男の浮気と尿意。ちょっと笑いの方向性に余りのれなかった。横暴な権力介入と対峙する姿勢を求める「どさまわり」。本来ならその流れで皆が一つになるのが定番なのだが、今作は新しくそしてリアル。“そんなことも同様に下らない”と学校側の要求を茶化して乗り切ってしまう。その終盤の痛快感が今作の人気なのだろう。
追憶のアリラン(8/18~8/26)、無畏(8/24~8/27)

追憶のアリラン(8/18~8/26)、無畏(8/24~8/27)

劇団チョコレートケーキ

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2022/08/18 (木) ~ 2022/08/27 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『追憶のアリラン』
相当手に余る題材でよくぞここまで作り上げた。1910年「日韓併合」という名目で日本の植民地にされた朝鮮。1941年(?)自ら希望して平壌の朝鮮総督府に赴任した三等検事豊川千造(佐藤誓〈ちかう〉氏)。彼に付けられた朝鮮人事務官、浅井伸治氏演ずる朴(パクでありボクでもある)忠男。この二人の友情物語でもある。豊川の妻役の月影瞳さんがやたら綺麗だった。終戦後、北からのソ連参戦で逃げ惑う日本人達。囚えられ公開人民裁判に掛けられる4人の検事。

ネタバレBOX

豊川の歓迎会で彼にせがまれ朴は仕方なく「アリラン」を歌う。高麗王朝末期に作られたとされるこの歌は、架空のアリラン峠を越えていく旅人の歌。何度も何度も朴は歌わされ、歌詞を覚えた豊川は終いには一緒に歌う。「こんな日本人は初めてでした。」、朴は豊川のことが大好きになる。命を懸けて尽くすべき友達のような敬愛。この純情が作品を貫き、泣かされる。

シナリオが混乱してどうも上手くまとまっていない。このテーマ、この題材への評価は高いが、作品の完成度としては弱い。兎に角作者の視点が定まっていない。無難な戦争観に着地するところも好きにはなれない。超人的な“正義に殉ずる人”頼みな物語に違和感。韓国人側から観ると朴が善良な日本人を讃美する構図に作為的なものを感じるのでは。それでも素晴らしい作品であることに間違いはない。

「それぞれの国の人達が親であり子でもあることを感じ取れなかった国に、『大東亜共栄圏』なんて理想を掲げる資格などなかったのだ!」
帰還不能点(8/17~8/21)、短編連続上演(8/25・26)、ガマ(8/29~9/4)

帰還不能点(8/17~8/21)、短編連続上演(8/25・26)、ガマ(8/29~9/4)

劇団チョコレートケーキ

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2022/08/17 (水) ~ 2022/09/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

『帰還不能点』
初演からの二度目。今回は浅井伸治氏が演った役を照井健仁氏が演っている。
近衛文麿と松岡洋右が強烈に焼き付く。
泥沼の支那事変(日中戦争)の収め方が日本の命運を決めた。
良い役者が勢揃い。岡本篤氏と黒沢あすかさんはぐっと泣かせる。

ネタバレBOX

「みんなを救えないことが貴女一人を救わない理由にはならない!」
この一言が全て。

アフターアクトとして、西尾友樹氏と岡本篤氏の一人芝居が付いてきた。
西尾氏作品は山崎を追悼する飲み会に誘われたものの、どうしてもその山崎を思い出せず悶々とする不可思議なコメディ。一体どう受け止めていいものか観客も苦笑い。
岡本氏作品はモロ師岡調の泥酔おっさんモノ。これがやたら上手い。敗戦2年後、岡田と山崎が久方振りに飲む様子。
下山 ~親鸞の覚悟~

下山 ~親鸞の覚悟~

文化芸術教育支援センター

中目黒キンケロ・シアター(東京都)

2022/08/17 (水) ~ 2022/08/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

素晴らしい作品。自分的にこういう方向性の作品は全面的に支持。地獄の末法の乱世、シリアスに煩悩と戦って超越者にならんとする若き僧達。鎌倉時代、1201年の比叡山延暦寺(滋賀県)が舞台。親鸞役の柿本光太郎氏が秀逸。彼の表情一つ一つがリアルな空気感を伝えてくれる。
ずっと生演奏を続ける「竜馬四重奏」の二人、ヴァイオリンの竜馬氏と鼓(他和楽器)の仁氏。要所要所で和琴(わごん)を演奏し浪曲調にうなる高谷秀司(たかたにひでし)氏。細かい工夫が効いていて飽きさせない。子役の男女二人が可愛らしかった。吉良藍流(きらあいる)さんと坂元明登君。こういう真剣に仏教と向き合った作品を今後も期待。

「南無阿弥陀仏」(阿弥陀仏に帰依します)を唱えたのは空也とされていて、法然、親鸞と続いていく。『仏説無量寿経』に説かれた法蔵菩薩の誓願、「全ての衆生(生物)の救済が叶うまで私は如来にはなりません」。而して法蔵菩薩はすでに阿弥陀如来となられている。このことから法蔵菩薩の誓願は叶っており、この世の生きとし生ける全てのものは救済されることがすでに約束されている。これが浄土宗、浄土真宗の教義の中核。

ネタバレBOX

舞台は下山までだが、もう少し教義を語って欲しくもあった。

自分が浄土真宗に興味を抱いたのは、「日本のヘレン・ケラー」こと中村久子さんの話。「お念仏なさいませ。一切は阿弥陀様にお任せすることです。」との言葉に衝撃を受けた彼女、「煮えたぎっていた坩堝は坩堝のまま坩堝でなくなりました。」との境地に至る。あるがままの自分の許容。そのままの自分自身と向き合う為の念仏。「私を救ったのは、両手両足のない私自身の体であった。」とまで綴った。
夢・桃中軒牛右衛門の【8月16日~17日公演中止】

夢・桃中軒牛右衛門の【8月16日~17日公演中止】

流山児★事務所

小劇場B1(東京都)

2022/08/10 (水) ~ 2022/08/17 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

台風直撃にお盆の土曜、ずぶ濡れになりながら地下の小劇場に集った面々。伊藤弘子さんの「お宅らも好きねえ」的ないなせな口上から開幕。主人公・宮崎滔天(とうてん)の妻役・山﨑薫さんとその姉役・伊藤弘子さんの見事な掛け合いで今作の裏事情が語られていく。宮本研の1976年の作品を詩森ろばさんが現代向けにアレンジ。オリジナルを知りたくなる程の大胆な脚色、これを当時宮本研が書いたのなら衝撃的すぎる。
全然難解ではなく娯楽に徹しているので心配しなくて大丈夫。

盟友、孫文(さとうこうじ氏)による清朝政権の武力革命での打破に夢を懸けていた宮崎滔天(シライケイタ氏)。1904年、その夢は破れ浪曲師に転身。桃中軒(とうちゅうけん)雲右衛門(井村タカオ氏)に押し掛け弟子入りし、桃中軒牛右衛門(うしえもん)と名乗る。とはいえ革命の夢を諦めきれない若き中国人達が協力を求めて訪ねてくる毎日。その世話を焼く、妻の槌(つち)とその姉の波。(本当の名前は前田卓〈つな〉、夏目漱石の『草枕』で那美とされているのでこうしたのだろう)。1911年、孫文による辛亥革命が到頭成功するのだが・・・。

さとうこうじ氏は流石。ある種、キーになる役を演らせたら必ず成立させる強さ、凄い力量。
山﨑薫さんのファンなら今作は必見。開幕から終幕まで常に合いの手を入れ続けるような好演。
シライケイタ氏が「誰かに似ているな」とずっと考えていたのだが、IWA JAPANのプロレスラー、松田慶三だった。熊本のお座敷唄「キンキラキン」を木暮拓矢氏と唄い踊りまくるのは名場面。
牛右衛門の弟子、馬右衛門役の星郁弥氏を観るのは今作で三作目、その度にどんどん大物化している印象。一体何処まで行くのか?

各キャストの直筆サイン付き生写真が一枚300円で販売中、要チェック。

ネタバレBOX

裏MVPは井村タカオ氏。彼の独壇場の2シーンが余りにも胸に焼き付く。東京本郷座で成功を収めて今迄溜めに溜めていた鬱憤を吐き出すシーン。肺結核で死ぬ前に亡き妻・お浜(石本径代さん名演)の三味線を伴奏に一世一代の自らの人生の悔恨節を浪曲でうなるシーン。見事だった。

地獄の日中戦争までの間に、こんな夢のようなひと時が流れていたなんて今となっては信じられない。日本は何処で決定的に間違えたのか?日韓併合か?大逆事件か?
あつい胸さわぎ

あつい胸さわぎ

iaku

ザ・スズナリ(東京都)

2022/08/04 (木) ~ 2022/08/14 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

凄まじい傑作。これを見逃すことを考えるとゾッとした。評判の良いものはきちんとチェックしておいた方がいい。観ればすぐに解るように出来ている。
かなり映画向きの題材、今作のラストをきっちり作品化できる奴がいれば凄い技量。(来年公開予定ですでに撮影済み!やれんのか!?)
役者陣はもう何一つ言及する必要がない完璧な布陣。初演の辻凪子さんヴァージョンも観たかった。

主演の芸大生、千夏役の平山咲彩さん。今作を観て彼女のファンにならない人がいるとは思えない。彼女の醸し出す等身大の痛みや生活の質感は至極。少女にこそ、これを体感して貰いたい。
その母、昭子役の枝元萌さん。もうこの方は黒澤明クラスの映画の女優。この人が象徴している表現はすでに作品の枠を超えている。
昭子の勤める縫製会社の後輩、透子役の橋爪未萠里(いゆり)さん。物語のキーパーソン、難役を見事に成立。
縫製会社の新任係長、木村役の瓜生和成氏。全く演技なのか素なのか判断つかない。最早素人には解読不能。
千夏の幼馴染みの役者志望の芸大生、光輝役の田中亨氏。凄くリアル、絶妙な配役。

シングル・マザーで娘を大学にまでに入れた昭子。母子二人の暮らしには近すぎるが故の口に出せない痛みが点在。千夏は小説という手段で胸の内を吐き出そうとするが。

田舎町にやって来たサーカス小屋、その色褪せたテントの美しさ。皆精一杯に優しくて精一杯に正しかった。ただただその無力さに泣くしかない展開。だがそれだけでは終わらない。

ネタバレBOX

「そんな話は置いといて、まずは腹ごしらえ、ステーキを食おう」。これまでの負け戦の分析ではなく、これからを生き延びる為のルートを探るラスト。「書き続ける事こそが生きる事」と言わんばかりにノートに無我夢中に書き殴り始める千夏。この瞬間こそが文学の誕生で、ひたすら書き殴った文字列がこの世界の根本を揺るがす。生きることは目的なのか、書く為の手段なのか、世界と自分との関係性がぐるぐる廻り始める。クラクラする終幕。
ダンス×人形劇「エリサと白鳥の王子たち」

ダンス×人形劇「エリサと白鳥の王子たち」

日生劇場

日生劇場(東京都)

2022/08/06 (土) ~ 2022/08/07 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

第一幕40分休憩20分第二幕40分。

アンデルセンの『野の白鳥』の舞台化。オリジナルキャラクター、オコジョのチャッピが可愛い。(操演、声は松本美里さん)。縫いぐるみがあれば買ってしまいそうな程。
エリサ役の辻田暁さんはタタタタと走り宙を飛ぶ。
今回の人形は仮面にローブやケープやマントの衣装のみ。魔女の手が何倍にも伸び巨大化する効果など、子供達が怯えまくっていた。
アンデルセンの話は残酷で暗く不条理。

ネタバレBOX

松本美里さんは初登場時の大僧正の左手もやっていたような。ラスト、エリサが編んだ十一着の帷子の片袖が間に合わなくて、人間に戻った王子達の一人の片腕が白鳥の翼のまま。何の説明もなくハッピーエンド風味なのがまさにアンデルセン。
太陽にホエール

太陽にホエール

TKmeets

ステージカフェ下北沢亭(東京都)

2022/07/27 (水) ~ 2022/07/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

正統派アイドル演劇。三谷幸喜の出世作、『やっぱり猫が好き』を思わせるあの空気感。
花奈澪さん、水崎綾さん、永吉明日香さん、遠藤しずかさん、この中の誰かのファンならば必見。絶対に観ておいた方が良い。
同居している四人のOL、アネゴ肌だが歪んだ世界観を持つ水崎綾さん。永吉明日香さんはそのノリに引き込まれてしまう純粋な娘(歌が見事)。花奈澪さんはエロ担当のツッコミ(粗品やぺこぱの松陰寺を彷彿とさせる)。遠藤しずかさんは闇を抱えた変わった娘。
何故かおっさん向けのマニアックな笑いが炸裂する優しい空間に癒やされる。面白かった。

ネタバレBOX

『「分かってる、でも出来ない!」お前は橘いずみか?』のくだりが突き刺さった。
花奈澪さんがほぼ素なのは珍しい。
『おわり』『はじまり』

『おわり』『はじまり』

大駱駝艦

世田谷パブリックシアター(東京都)

2022/07/14 (木) ~ 2022/07/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『はじまり』
キース・レヴィン在籍時のPiLの世界を視覚化したような舞踏。ダリオ・アルジェントの映画音楽を担当していたゴブリンっぽさもある。ラストの曲、『ラララ サピエンス』の言語センスは遠藤ミチロウ的。何か麿赤兒氏とミチロウのキャラ、存在感はだぶる。この曲がなにかの拍子でバズって『パプリカ』のように全国の子供達が踊り出したら面白い。
ボルツマン脳理論はこの世の全ては脳(意識)が見ている夢のようなもの、妄想に過ぎない的な皮肉。(多分)。
谷口舞さん等女性陣の活躍が目を瞠る。あの三人はニュートリノなのか?
田村一行氏の叫び声、「ア゛ア゛ア゛ァァァァァァァ!!」が癖になる。

ネタバレBOX

『おわり』の方が好き。宇宙の謎を解いていく興奮みたいなものがあった。今回は前回と同じキャラ(素粒子)で、目新しさがない。続けて観るのが正解だろう。何事も終わりの方が美しい。

『ラララ サピエンス』のMVはYouTubeで見れるので要チェック。サビは『WOW WAR TONIGHT』っぽい。
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー!!

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー!!

東京にこにこちゃん

シアター711(東京都)

2022/07/21 (木) ~ 2022/07/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『ロミオとジュリエット』のその後を描いた喜劇。このセンスは令和最先端に気が違っている。超満員の観客は新しい笑いに飢えていた。前作、『どッきん☆どッきん☆メモリアルパレード』のラスト、踊り子ありさんと釜口恵太氏のキスシーンが焼き付いている身としては観ざるを得ない。
場内は笑いが絶えず、役者一人ひとり登場するとわっと沸く。四柳智惟(ともただ)氏の作ったオープニング映像、NHK連続テレビ小説風「ジュリさん」が至極の出来。生き延びた二人が子供三人に恵まれて幸せな家庭を築いている。
長女ミア役の加藤睦望さんがガチガチの訛りで一切喋っている内容が判らないのが凄い。九州っぽい方言?
MVPは家政婦として住み着くチューシー役の高畑遊さん。元ハナタラシの大宮イチに似た風貌で、一貫して暴力的。この人の存在感は作品そのもの。

ネタバレBOX

西原理恵子の『パーマネント野ばら』を「た組。」が舞台化したものがこのテイストだった。原作を更に脚色してあっと驚くラストを作り出していた。

1988年、布袋寅泰がBOØWYの解散後初のソロ・アルバムを作っていた。当時の妻、山下久美子は「布袋君、自分で自分のコピーを始めたら終わりよ。」と言ってBOØWYっぽい曲を全部没にした。(「これだけは残してくれ」と頼んで生き残ったのが『GLORIOUS DAYS』)。
そんな逸話を思い出すかのように成功した前作をなぞってしまったような今作。観客は作家の資質そのものを支持している。もっと自分の才能を信じて新たな地平を開拓して欲しかった。(勿論それなりに普通に面白かったのだが)。『ハローワールド』と云うアニメ映画などと同じく、仮想現実モノの一篇。ネタよりも描き方に頭を捻るべき。ジュリエット視点だけでなく、ミア視点に客をのめり込ませられたら、違った味の作品になった。萩田頌豊与(つぐとよ)氏は随分と痩せていたように見えた。
ザ・ウェルキン【7月21日~24日公演中止】

ザ・ウェルキン【7月21日~24日公演中止】

シス・カンパニー

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2022/07/07 (木) ~ 2022/07/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

第一幕65分休憩15分第二幕70分。

ザ・ウェルキンとは英語の古語で“天空”の意味。日本だと“天つ空”みたいな感じか。1759年、ハレー彗星の到来に湧き立つ英国の片田舎。裕福な屋敷の少女が無惨なバラバラ死体で発見される。犯人として男女2名が逮捕され、裁判の後、男はすぐに公開縛首。屋敷の使用人であった共犯の女(大原櫻子さん)は事件のあらましについては黙秘したが自身の妊娠を主張。当時の死刑制度では妊婦は死刑を免れることが出来た。その真偽の判定の為、集められた陪審員は12名の妊娠経験のある女性。ベテラン助産婦・吉田羊さんはかつて自身が初めて取り上げた赤ん坊である彼女の命を何とか救おうとする。

客層は大原櫻子さんのファンが多いのだろう。11000円の高額チケットながら、きっちり入っていた。恐るべし大原櫻子!初めて観たが魅力的な女優。(LIVEはフェスで観たことがあるがピンと来ず)。序盤の鬼気迫った存在感に呑まれた。
吉田羊さんは手堅い。観客のガイドラインとしての役割を粛々とこなす。
那須佐代子さん、凛さんの親子初共演にも興奮。(観ていて初めて知って驚いた)。佐代子さんのメタ台詞、「自分のお腹を痛めて産んだ子ですもの。可愛くない筈がない。」に反応する観客もちらほら。

ネタバレBOX

バケツに小便、搾乳、大原櫻子さんはキャパのデカい良い女優。声色が少々物足りない。
ちょっと遣り取りがTVドラマ調なのが気になるところ。那須凛さん等が突然、「彼女はやっていないんじゃないか」と言い出す展開が不自然。(懸命に搾乳する様子を見ていたからと云うことなのだろうが)。
ホンと演出が上手く噛み合っていない気も。多分“神”が関係する話なのに、日本人には実感として理解出来ない為ズレが生じているのか?悪魔を見た女の話、妄想が現実化したと嬉しそうに語る大原櫻子さんの話。

自分の産んだ娘を自ら手に掛けるラスト。この世からTHE WELKINへと。矢張り足りないのは大原櫻子さんの見ていた風景。何故にハレー彗星をどうしても見たかったのか、だ。生と死の狭間でゆらゆら揺らめく頼りない蝋燭の火。後ろの壁が手前にせり出してくる。

演出加藤拓也氏のけれん味と戯曲の狙いとが互いに殺し合っているような弱さ。ラストはハレー彗星が大原櫻子さんに直撃するぐらいやるべきだった。

吉田羊さん演ずるリズは少女時代、勤め先の屋敷の主人(の友人?)にレイプされ子を孕む。産んだ我が娘は母親の図らいにより小銭で売られる。その娘はサリー(大原櫻子さん)と名付けられ、小さい頃から売春を強要され犯罪の道に走る。散々な人生を送ってきた彼女は、好きでもない暴力的な夫と暮らす日々の中、何処かから理想の男が自分を攫いに来てくれることを夢想している。その願いが叶ったのか、突然男が現れると彼女を誘い連れ去る。だがセクシーで魅力的なその男は邪悪な欲望の塊で、ありとあらゆる悪事を働く。サリーはそんな男の生き様を全肯定する。男に命じられるまま、勤め先の屋敷の少女を誘い出し、少女は身に付けた高価なアクセサリーを奪う為に無惨に殺される。後始末を命じられたサリーは死体をバラバラにして暖炉に捨てる。
「どうでもよかった」とサリーは言う。「死刑を免れたら、アメリカに行って男のように好き放題に生きたい」と。そんなサリーの心象風景に愕然とするも産み捨てた負い目があるのか、リズは彼女の側であろうとする。妊娠が証明され、死刑を免れるサリー。
しかし、大切な娘を惨殺された屋敷の主人(母親)にとってそんな判決を受け入れることは到底出来ない。役人に賄賂を渡し襲わせ、暴力的にサリーを流産させる。このままでは妊娠していないサリーは公開絞首刑にされてしまう。サリーはリズに誰も見ていないこの場で殺して貰うことを懇願する。自身の最期の尊厳の為に。リズは天空を仰ぐ。
真夏の夜の夢

真夏の夜の夢

東京シティ・バレエ団

日生劇場(東京都)

2022/07/16 (土) ~ 2022/07/18 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

第一幕65分休憩20分第二幕40分。

非常にバレエ向きの題材。
やっとこの話の主人公がヘレナ(大内麻莉さん)であることに気が付いた。元彼のディミトリウス(西澤一透〈かずと〉氏)もライサンダー(濱本泰然氏)もハーミア(石井日奈子さん)に夢中。誰にも相手にされないヘレナ。見るに見かねた妖精王オーベロン(吉留諒氏)は惚れ薬を使って男達をヘレナに夢中にさせる。薬の魔法は解かれるが、最後はディミトリウスと結婚に至る。
メンデルスゾーンの『結婚行進曲』は今作の為に書かれたものだった!
妖精パック(渡部一人〈かずひと〉氏)の運動能力と肉体美に目を瞠る。

開演前と幕間に会田夏代さんの見事な解説が入り、大変解り易い。

きゃんと、すたんどみー、なう。

きゃんと、すたんどみー、なう。

やしゃご

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2022/07/07 (木) ~ 2022/07/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

驚く程面白い傑作。非常にブラックな笑いをまぶしていて、イメージと全然違った。笑いと真剣に向き合う姿勢にリスペクト。何か適当な安い人情噺に逃げていない。障害者を扱えば「24時間テレビ」のようにお決まりの文言が繰り返されるしかない世の中。そこをガッチリ笑いに徹してみせた。
事前の告知が下手なのか、糞詰まらない道徳話だと思っていた人々は損をした。喜劇としての完成度の高さ。引越し業者の受難の視点からこの歪な家を語らせるテクニック。

タイトルはリバティーンズの『Can't Stand Me Now』(君は私にもう我慢できない)から来ているのだろう。

知的障害者の長女(豊田可奈子さん)を持つ高木家。両親はとうに亡くなり、世話をする次女(とみやまあゆみさん)は結婚し家を出ることに。残されるのは三女(緑川史絵さん)だけ。長女雪乃は「自分も施設の友達のマサシ君と結婚する」と暴れ出す。てんやわんやの家で一向に進まない引っ越し。途方に暮れる業者の二人(海老根理〈おさむ〉氏と清水緑さん)。部屋中にばら撒かれるハッピーターン。

岡野康弘氏にやられた。『花柄八景』の落語家師匠から、今回はガチ知的障害者マサシ君。昔よくバスで見かけた『仮面ライダー』の名前をずっと羅列し続ける男にソックリ。このリアルさ、言葉に対する反応と返し、本物だ。凄い役者がいるものだ。デ・ニーロ・アプローチ。
清水緑さんの使い勝手のよさ、連発される「すみませ〜ん」。こういう娘、一人置くだけで場の空気が持ち、話は成立する。
清水緑さんの舞台にハズレはない。『ガマ』が楽しみ。

ネタバレBOX

開演前、縁側に佇む男女二人の引越し業者。部屋で眠りこける漫画家。訪ねてくる障害者就労支援施設の職員。暇を持て余した引越し業者の清水緑さんは庭にあったサッカーボールでドリブル&カズダンス。会社の送別会の余興用に温めていたエア・バルーンアートのプードル作りを披露。このマイムが実に上手い。場内アナウンスだけ流れるがそのまま開演。この世界が現実と地続きであることを語る。
「行けるとこまで行くか」と、終演後も長女雪乃のお化粧を続ける次女ツキハ。この話は終わっていない、何も片付いていないことを観客に強烈に印象付けた。

引っ越し会社社長・佐藤滋氏の常に論点のズレた台詞が最高。元大学准教授・辻響平氏の発言も印象的。「普通、普通って一体何処の誰が普通に暮らしてると言うんだ?皆誰も彼もが苦しみ足掻いているじゃないか。皆普通じゃないから助け合おうとしているんじゃないか。」

「“サ”〜の付く言葉は〜?」「サヨナラ」と言い去って行こうとするマサシ君。「寂しい」でも良かった。ここで幕を閉じた方が自分的には満足。そこからアフタートークのようなエピローグがだらだら続く。しかもそこそこ面白い。ただ障害者が場面から消えた途端にありきたりの感想と文脈、盛り下がる空間。最後に三女カスミだけが残ると、死んだ母親が現れる。ああ、これを描きたかったのか?と思うも、その描写もイマイチ。答えのない問題にリアルに向き合おうとして攻めあぐねた感じ。

豊田可奈子さん演じる雪乃がどうもリアルに感じなかった。キャラ設定のせいか。

全く関係ないがこの前の参院選、乙武洋匡氏の落選の弁、「手も足も出なかった」が実に見事だった。

書き忘れたのが電灯の演出。急に電灯を点ける三女の姿から、何かがあるのだと思っていたが。
実録ヤクザ映画の最高傑作、『仁義なき戦い 代理戦争』。抗争中の二つの組が手打ちの為に料亭に集まる。そこで突然の停電、狼狽し殺気立つヤクザ達。女将が蝋燭を持ってくる。頼り無く揺らめく灯り、疑心暗鬼のヤクザ共は上目遣いで辺りを伺いながら話を進める。
改変をひどく嫌う脚本の笠原和夫が、絶賛した深作欣二の演出。今作にもそんな狙いが透けて見えた。電灯が点滅したり消えたり急に点いたり。照明に演出を託すセンス。秀でている。
『おわり』『はじまり』

『おわり』『はじまり』

大駱駝艦

世田谷パブリックシアター(東京都)

2022/07/14 (木) ~ 2022/07/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『おわり』
素晴らしいPUNK ROCK、ナゴム系。
下手に銀色の消防車のゴムホースのようなものが丸まった物体、上手に侘び寂びを感じる曲がり萎びた老木、奥に巨大なシーソー。
御歳79の麿赤児氏の今作における宣言からスタート。これは彼なりに到達した宇宙観、暗黒舞踏でこの世界の成り立ちを解き明かしてみせる。
麿赤兒氏は自身の死を見据えている。今、こんな作品をリアルタイムで体験できる者は運が良い。
観客全員に配られる五十周年記念パンフレットがオールカラーの凄い出来。

ネタバレBOX

①『だるまさんが転んだ』で遊ぶ少女達、独り取り残されてしまう女の子。そこに現れた奇妙な物体にアブダクションされてしまう。銀のゴムホースの塊を神輿のように担ぐ異形の者達は八本脚で蛸を思わせ、異星人をイメージさせる。鎖で背中合わせに繋がれた二人の禅僧がシーソーの天秤(この世の法則)を左右に揺らす。長く白い顎髭を垂らした村松卓矢氏は痴呆のようにヘラヘラ笑い、厳しい修道僧の面構えの田村一行氏は喝を叫んで回る。老木は宙に浮き空間にたゆたう。村松卓矢氏の指の一本一本の長さが気になる。足の指も長い。
②舞台は銀河へ。白、青、金の長大なドレスの三組の女、それぞれ黒塗りの男が対になっている。銀河における陰陽のSEX。禅僧がそれを蹴散らす。金のドレスの女は赤毛でエリザベス一世のよう。特に切っ掛けもないのに全員の舞踏の変化が揃っている。
③額に紐を付けた男女、赤と青の二組。対角線上に張られた二本の紐はこの世界の法則のように人々を囚えて苦しめる。銀のゴムホースの塊を手にする麿赤兒氏。糸は切られる。この塊はきっと宇宙の心臓なのだろう。繰り返されるシーソーの無限運動、手を合わせる村松拓矢氏の姿にぐっと来た。禅の魔境のヴィジョンを超え、到頭本質に至る。物理学と禅の到達点が一致する瞬間。
④80年代のシンセ・ポップのような曲をパロディーのように暗黒舞踏団が送る。カッコイイ。

「麿赤兒氏がこれだけやってるんだから、自分も頑張らないと」と、素直に思えた。
NIGHT HEAD 2041-THE STAGE-

NIGHT HEAD 2041-THE STAGE-

『NIGHT HEAD 2041-THE STAGE-』製作委員会

シアターGロッソ(東京都)

2022/07/01 (金) ~ 2022/07/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

TEAM BLACK

1992年、フジの深夜でやっていた『NIGHT HEAD』。豊原悦司と武田真治の超能力を持つ兄弟が研究所から脱走し、その力を新世界の扉への礎とする物語。元ネタは宮部みゆきの『龍は眠る』であろう。「兄さん、頭が痛いよ」は未だに愛される名台詞。映画も観に行ったが完結とは程遠いまま終わってしまった。この手の作品は完結しようがないのか。2021年アニメとして新たに描かれたものが今作の元となっている。

2014年、超能力者の霧原兄弟は研究所に隔離される。15年後、結界が破られ森の中で目を覚ます。しかしこの世界は全く理解が及ばないディストピアで、しかも2041年であった。
消えた12年間、一体何があったというのか?

霧原直人役は鍵本輝氏。GACKTっぽいルックスで、サイコキネシス(念動力)を操る。
その弟、霧原直也役は大崎捺希(なつき)氏。リーディング(読心術)で人の心に感応する。
超能力者を取り締まる特務部隊には、黒木タクヤ(木原瑠生〈るい〉氏)と黒木ユウヤ(矢部昌暉〈まさき〉氏)の兄弟が。
スタイル抜群エロエロのヒールが元モー娘。の飯窪春菜さんで驚いた。
元宝塚の悠未ひろさんは要所要所を歌声で締めてみせる。
アクションは流石に後楽園ヒーローショーの聖地、ずば抜けている。

かなり凝り練った設定で、SF好きには面白い。
石ノ森章太郎の『サイボーグ009完結編』っぽい世界観。

ネタバレBOX

5次元宇宙とは、リサ・ランドールの唱えた多元宇宙のこと。平たく言えばパラレル・ワールド。地球が近い将来滅亡するので別の世界線の地球に選ばれた者達を移住させる計画が“ゴッドウィル”。2014年、霧原兄弟の実験が成功したことを受けて大規模な移住が始まった。残された地球の人々からすれば人類が次々と消えていく大災厄。『エヴァンゲリオン』の「人類補完計画」に近い発想で、もう一つの地球では人類は精神体として一体化するようだ。“イデ”みたいなものか?どうもその辺が未整理。

前半の面白さが後半、御厨恭二朗、奥原晶子、双海翔子の異次元の予知能力者の話になるともうスピリチュアル系宗教。誰に入信するかの話になって科学的面白さが薄れる。(平井和正の『幻魔大戦』もそうだが)。そうなるともうこの話は畳めない。

2014年、パラレル・ワールドに霧原兄弟が飛ばされる際、誕生した赤子に魂が分与された、それが黒木兄弟。(弟が産まれるのはもっと後だが・・・)。

黒木タクヤがダイナーの物陰に潜んでいた女に後ろから刺される。そこで時が逆戻りする描写があったのだが、あれは何だったのか?
私の恋人 beyond

私の恋人 beyond

オフィス3〇〇

本多劇場(東京都)

2022/06/30 (木) ~ 2022/07/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

かなり面白かった。大林宣彦の『海辺の映画館』や今敏の『千年女優』を想起する、時空間を転生し駆け巡るラブストーリー。
2015年上田岳弘による小説刊行、2019年舞台化、今回はバージョンアップしての再演。
渡辺えりさん67歳、小日向文世氏68歳が、のん28歳と遜色なく歌い踊る音楽劇。洞窟のクロマニョンからナチス収容所から満洲から病院から時計屋からオーストラリアの荒野から、世界中をコスプレ三昧で疾走。10万年の時を越えてまだ見ぬ“私の恋人”を探し続ける“行き止まりの旅”。
早着替えの連続で一体何役やったやら、めくるめく世界線とキャラクターがカオティックにばら撒かれる。

アンサンブル的に脇を固める天使達4人が更に素晴らしい。このスピーディーな演出をつけられる渡辺えりさんの腕前。
山田美波さんはMAXのLinaっぽい長身、奈良美智(よしとも)の描くしかめっ面の子供のイラストに似ている。兎に角インパクトがある。
坂梨磨弥さんは松岡茉優っぽい見事なバレエダンサー。
関根麻帆さんは福島弓子っぽい顔立ちで元気満々走り回る。
松井夢さんは何となくあーりんっぽい愛嬌。

矢張り、のんの存在感はずば抜けている。彼女以外がこの役をやると全く別な話になるだろう。替えの利かない唯一無二のカリスマ性。内面が全く想像つかない。これぞ“純少女”か。アイドル・アングラ。
ひたすら弾き続ける三枝(みえだ)伸太郎氏のピアノが最高。

ノートルダムの鐘【1月6日~8日公演中止】

ノートルダムの鐘【1月6日~8日公演中止】

劇団四季

KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)

2022/05/21 (土) ~ 2022/08/07 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

第一幕80分、休憩20分、第二幕55分。

原作者は『レ・ミゼラブル』のヴィクトル・ユーゴー。
自分は多分、サイレントの『ノートルダムの傴僂男』を観ている筈。(1923年公開)。エスメラルダを抱きかかえて暴れるカジモドは悪役の描かれ方だった印象。
カジモドはフランス語で「ほぼ」、「殆ど」の意味。亜人的なニュアンスで名付けたのだろう。

1996年、ディズニーのアニメ版を映画館で観て、余りのつまらなさにショックを受けた。(今観ると違うかも)。美男美女の恋愛物語を醜悪な奇形がアシストするような都合のいい話。そもそもこんな話だったか?何もかもがディズニー調の嘘臭いヒューマニズムで安っぽく味付けされた粗製品に変えられてしまう昨今。その時の失望感があるので逆に今回どうアレンジするのか、妙に気になった。

結論から言うともう一回観たいくらいの良い出来。話は例によって『醜男の叶わぬ恋』と見せつつ、もっと深みにまで到らんとする。手塚治虫×荻田浩一の『アラバスター』も同テーマだった。一人ひとりの歌声が素晴らしい。大小六つの鐘が音もなくスルスルと降りてくる舞台美術の厳かな完成度。今回、役者陣は額に極小ピンマイクを貼り付けていた。(よくあるのはもみあげ部分)。

真の主人公、フロロー大助祭(司教に次ぐ高位、その下に司祭)役は野中万寿夫氏。キリスト教に人生を捧げた筈が、まさかの情欲(リビドー)に襲われ惑わされていく。
先天的に背中と眼の上に醜い瘤を持つ傴僂男・カジモド役は金本泰潤氏。二つの声を見事に使い分け、いざ歌わせれば絶品。劇中にてメタ的に醜い被差別者を演じるという演出がズバリ嵌っている。
ジプシーの踊り娘、絶世の美少女のエスメラルダ役は松山育恵さん。雛形あきこと仲里依紗を足したような美人。この娘が象徴するものは哲学的命題。神への信仰を裏切ってでも我がものとしたい本能的衝動。理性を簡単に捻じ伏せる、動物に本質的に組み込まれたDNAの強さ。彼女の美しさの前で貴賤の誰もがひれ伏し、理由も解らぬまま崇拝していく。
大聖堂警備隊長フィーバス役は佐久間仁氏。職務を裏切ってまでエスメラルダに惚れ抜く。

金本泰潤氏が登場すると傴僂の甲羅のようなアイテムを装着、顔を指に付いた黒のドーランでこすると一瞬でカジモドに变化。声も嗄れ、醜い傴僂男が現れ物語が滑り出す。

ネタバレBOX

第一幕ではエスメラルダという情欲が男達を狂わせていく情景。「この女が手に入るなら全てを失っても構わない」と男達が狂っていく。ノートルダム寺院に幽閉されていたカジモドは怪物の石像・ガーゴイルを唯一の話し相手として育つ。無論、彼等はカジモドのイマジナリーフレンド(想像上の友達)。
第二幕はトーンダウンしてディズニー調に。悪いフロローから善いカジモドとフィーバスがエスメラルダを救う展開。
エスメラルダとフィーバスが歌う『いつか』の歌詞も唐突で受入れ難い。冤罪で火炙りの刑に遭う前夜に、「いつか皆が平等に暮らせる日が訪れる」なんて夢想するのは余程の思想家だけだろう。

原作ではエスメラルダはカジモドの醜さを嫌い、顔を逸らす。ただ一方的に恋をするだけのカジモドは処刑されたエスメラルダの亡骸を抱き締め、一緒に死体置き場の中で死ぬ。数年後、掘り起こされた二体の白骨遺体、女性の身体を強く抱き締めている畸形の姿。

原作とディズニーの中間のような舞台、個人的にはもっと嫌なものが観たかった。
ラスト、皆が黒のドーランで顔を汚し、逆にカジモドだけが素顔に戻る。「醜さとは何なのか?」を端的に表現。「美醜を決めるのは大衆、貴方達自身なのだ」と云う結末。
ここで観衆が思うのは、「何故エスメラルダに皆狂わされたのか?」である。生まれながらの外見的な醜さ(主観的な美醜)を理性で否定してみせたところで、カジモドがエスメラルダに夢中になったことは事実。理屈不要の生物学的本能(子孫繁栄)なのか?それとも未だ解明されていない何かがあるのか?
もんくちゃん世界を救う

もんくちゃん世界を救う

U-33project

王子小劇場(東京都)

2022/06/22 (水) ~ 2022/06/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ストーリーテラーの中村透子(とうこ)さんが本作の絵本を手に持ち、読み聞かせを始める。文句ばかりで喧嘩が絶えない老人夫婦の話を子供向け番組風味のコミカルなアクションをまぶして展開。皆で同じ動作をダンスのように振り付ける様がリズミカル。子供番組のノリで話は進む。おじいさん(伊藤瑛佑〈えいすけ〉氏)が向かったのは牛丼屋。牛丼の吉田家の店内放送がなか卯の水樹奈々そっくり、何故かaikoばかりかけている。そこにいたゆでちぃ子さんがおじいさんの目に止まるのだった。
ゆでちぃ子さんを中心に桃太郎を模した一行、不条理な世間に文句を言えない弱者達が鬼退治に向かう。会社でパワハラに遭っている犬(柴崎史也氏)、学校で苛めに遭っている猿(早見蛍〈けい〉さん)、誰からも無視されている雉(田中天さん)。町中に痛みが溢れ、被害者の憎悪が向く先は加害者ではなく、何も出来なかった自分自身。

中村透子さんが最高、ずっと観ていられる。彼女のリアクション芝居は秀逸。赤鬼役の平安咲貴さんはこういう嫌なキャラがよく似合う。小泉愛美香さんはもう神々しい。(ただファンなだけ)。

ネタバレBOX

前半は厳しい展開、なかなか面白くならない。後半、小泉愛美香さんの登場からパーッと明るくなる。キク(聞く)ちゃんはひたすら「何で?」と聞いて回る好奇心旺盛な小学生。彼女がいれば場は成立する存在の強さ。更にゆでちぃ子さんが絵本を奪いストーリーテラーの中村透子さんと役割を強引に入れ替える。肩を落とし仕方なく話の続きを力なく展開する中村透子さん。ここからが真骨頂、ぐんぐん面白くなっていく。

いつも物語は同じ構造。正しいと思ったことを突き詰めてみても、更なる絶望的な結末が待っている。相対的な価値観を突き合わせてみても立場が変わるだけで構造自体は変わらないからだ。頭で善悪を考えないで、あるがままに生きていくしかないのか。それにはまず自分を好きになる必要がある。自己肯定がこの世界の肯定に繋がるから。まあそここそが一番の難問なのだが。
たぐる

たぐる

ここ風

テアトルBONBON(東京都)

2022/06/22 (水) ~ 2022/06/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

約2週間前に体調不良で降板が発表された三谷建秀氏。代わりに脚本・演出の霧島ロック氏が浜辺のバーのマスター役を兼ねた。これが流石に何の違和感もないもので、三谷氏バージョンだったらどういう構想だったのか気になるところ。

東京から田舎の海辺の家に独り越してきた元女医・市橋一花(もなみのりこさん)。寺島しのぶを思わせる凛とした独身女性。元同僚(天野弘愛さん)とその息子(岡野屋丈氏)、元患者(はぎこさん)が遊びに来る。更にリョウと云う男に会いに訪れるフリーライター(岸本武亨〈たけゆき〉氏)や勝手に家に入ってくるイケメン久右ェ門(花井祥平氏)。彼女に密かに恋する地元の床屋(?)の斉藤太一氏。記憶喪失のインド人ジョニー役の香月健志氏は最高だった。

何の変哲もない数日間で綴られるのはまさに文学で、作家の創作意図の深さに驚く。誰もが誰かに赦されたがっていて、一体何をすればいいのか判りはしない。けれども何かをせずにはいられない。この物語の全体像が見えた時、観客はこらえきれぬ涙を零す。是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

はぎこさんは男性役かと思った程ずけずけとした関西弁、痛快なキャラ。ウクレレも巧い。(弾く真似か?)
久右ェ門の由来は『オバケのQ太郎』と『ドラえもん』であろう。リョウが拘る娘に嫉妬し、貝の瓶を隠し沖に出たイルカ。そのせいで海難事故に遭ったリョウを救けられなかった悔い。

前半は設定が雑でキャラもイマイチ跳ねない。ワンシチュエーションに拘ると手詰まりになるのか。なかなか話が核心部に行き着かない閉塞感。それが後半、フリーライターの「自分は蜘蛛を殺したことがないんです。」から、一花が「カンダタ?」となって芥川龍之介の『蜘蛛の糸』に話題が飛ぶ。ああ成程タイトルの『たぐる』とはここから来ているのか!どうしようもなく駄目な屑が地獄の底から這い上がる唯一の希望、お釈迦様のお遊びの蜘蛛の糸。誰かの為に自分を犠牲にすることで少しでも己を浄化出来ないかと夢想。無論今更何をしたところで何一つ取り返せはしない。それでも心は痛み苦しみ何かをせずにはいられない。自分の罪が赦される道筋が何処かにないかと。足掻いて足掻いてのたうち回って死んでいく。パーゴラの下で皆が愉しげに一花とリョウの誕生日を祝う酒宴、それを見ていたのかいないのか、『真夜中のカーボーイ』のように死んでいくフリーライター。彼はリョウに自分自身を仮託して、蜘蛛の糸を手繰る方法論を探っていたのだ。

登場しない亡父リョウが舞台上に確かに浮かび上がる。
筋肉少女帯の『戦え!何を!?人生を!』が流れるよう。

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