1
花柄八景
Mrs.fictions
12日19時開演回(80分)を拝見。
駒場東大前に寄席出現!
滑稽噺やSFや師弟の情やらが合わさった80分の一席は、マクラからサゲにいたるまで、一部の隙も無く、常に観客の笑いを誘いつつも、芸事=表現することの愉しさが自然と伝わってくる傑作だった。
終演時、出演者一同打ち揃っての挨拶に、観客席から文字通り、万雷の拍手が沸き起こったのも頷ける、実に得難い貴重な時間を過ごせた。
【配役】
花柄花壇(落語界の大御所だったが、AIとの落語対決で完敗し、一門は離散、人間の噺家が演じる落語界の衰退を招いた)
…岡野康弘さん(相変わらず、凄い役者さんだよなぁ!)
プラン太(花柄一門の元・前座。今はブラック企業の訪問販売員に身を落とすも、実は落語への情熱が…)
…ぐんぴぃさん
鉢(幽霊が出ると噂の花壇の古家に侵入も、いつの間にか花壇の弟子となったパンクロッカー)
…今村圭佑さん
苗(常にいがみ合っているも実は鉢のカノジョ。勢いで花壇の弟子に)
…永田佑衣さん(今回も”投げっぱなしジャーマン”な人物を好演)
燐(花壇師匠が橋の下から拾って来た不思議少女。季節外れの花を取ってくる!という伏線からみて、この世のヒトじゃない?)
…前田悠雅さん(今回、一番の収穫。良い役者さんになりそう)
2
リア王~スマホVSリア王~
一般社団法人銀座舞台芸術祭
27日13時開演の千穐楽回を拝見(136分)。
上演中、適宜設けられた写真撮影タイムに始まり、LINEによるアンケートにコメント・写真のアップなど、観客の主体的舞台参加を促すユニークな試みの数々にまず驚かされた。
ただ、これらの試み以上に
過去幾度も特色あるシェイクスピア劇を”魅”せてくれた、カクシンハン主宰・木村龍之介さんの演出に
リア王役の栗田芳宏さんを初めとするベテラン・中堅・新鋭が融合した役者陣の熱演は
初見の方以外にはお馴染みのはずの「リア王」という題材を、まるで全くの新作を観るような新たな発見と驚きと感動の舞台に昇華させたようだった。
事前の想定をはるかに上回る斬新な「リア王」に導いてくれたことに大いに感謝したい。
【配役】
リア王…栗田芳宏(くりた・よしひろ)さん
ゴネリル(リアの長女。オールバニー公の妻)…猪狩綾(いがり・あや)さん
リーガン(リアの次女。コンウォール公の妻)…今井由希さん
コーディリア(リアの三女。後のフランス王王妃。酷薄な姉二人と違い、リアの身を案じている)
…柳本璃音(やなぎもと・りおん)さん
リア王付きの道化…岩崎MARK雄大さん
グロスター伯爵(リア王に忠実な配下ゆえに後に悲劇が…)…矢嶋俊作さん
エドガー(グロスター伯爵の長男・実子。お人好し)…岡直樹さん
エドマンド(グロスター伯爵の次男・庶子。野心家で父・兄、リア王の長女・次女を手玉に取る)
…天野翔太さん
ケント伯爵(リア王の忠臣。リアに諫言したために追放され、以降は変装してリアのもとに仕える)
…横山敬(よこやま・たかし)さん
オールバニー公爵(ゴネリルの夫。エドマンドと妻の不倫を知り、激怒)
…池田直広さん
コーンウォール公爵(リーガンの夫。グロスター伯爵への残酷な仕打ちに怒った部下に殺される)
…越川みつおさん
フランス王(コーディリアの夫)…水戸將弘さん
オズワルド(ゴネリルの下僕)…牛膓侑志(ごちょう・ゆうし)さん
3
「クォンタム・アリアの碧い首」
家で出来る演劇
27日17時開演回(65分)を拝見。
屋外の光明寺・神谷町オープンテラスでの上演。
折からの蝉時雨に、開演直後から吹き始めた微風が重なって、「日本霊異記」をベースにしたおはなしにふさわしく、客席はまるで幽玄?の彩りに染まったような気分。
さらに、4人の役者さんの見事な発声からは、和風シェークスピア劇の趣きさえ体感できた。
【配役】
タマヨリ…日野あかりさん
スガル…依乃王里さん
ハコベ…佛淵和哉(ほとけふち・かずや)さん
タタラ…山森信太郎さん
4
「カレル・チャペック〜水の足音〜」
劇団印象-indian elephant-
10日13時開演の千穐楽の舞台を拝見(135分)。
旧・チェコスロバキアの国民的作家の半生の背景である世界情勢は、今、まさにウクライナ・ロシア間で…さらには我が国も決して他人事ではないリアルな現実として、観客の一人一人に突きつけられていたのではないか?
しかしながら、そうした世界情勢の中にあっても、作・演の鈴木アツトさんが訴えたかったのであろう、個々の民族・政治体制に拠らず、自立した地球市民的な考え方には強い共感を覚えた。
なお、演じ手では、そんな作者の理想を具現化した人格であると個人的に感じていた、アレナ役の山村茉梨乃さんが大変印象に残った。
【追記】
”その後”のカレルの兄・ヨゼフやヤン・マサリクの最期を知り、改めて、考え込む羽目に陥った。
【配役】
カレル・チャペック…二條正士(にじょう・まさし)さん
ヨゼフ・チャベック(カレルの兄。画家。作家)…根本大介さん
フランティシェク・ランゲル(カレルの親友。軍医。作家)…岡田篤弥(おかだ・とくや)さん
オルガ・シャインプフルゴヴァー(女優。後にカレルの妻に)…今泉舞さん
ヤルミラ・チャプコヴァ-(ヨゼフの妻。仏語の翻訳家)…岡崎さつきさん
ギルベアタ・ゼリガー(独語の教師。”民族対立の象徴”的存在だが、実は凄惨な体験が…)…勝田智子さん
トマーシュ・マサリク(チェコスロバキヤ共和国大統領)…井上一馬さん
ヤン・マサリク(トマーシュの息子。外交官。政治家)…柳内佑介さん
アレナ・チャブコヴァー(ヨゼフ、ヤルミラの娘)…山村茉梨乃さん
アンサンブル…
河波哲平さん、佐藤慶太さん、佐藤勇輝さん
星野真央さん、堀慎太郎さん、松浦プリシラ亜梨紗さん
5
コチラハコブネ、オウトウセヨ
ポップンマッシュルームチキン野郎
23日19時開演回(123分)を拝見。
本作は、まず全体を貫くストーリーとして「箱舟の浮上」があり、病床にある主人公・俊樹の意識を覚醒させようと、彼の演劇仲間たちが脚本を朗読して聴かせているという設定で
「無音はお前の耳にも届いている」
「透明組長」
「赤の男」
「ふたりは永遠に」(この話だけ、以前、どこかで観た記憶がある)
「縦歩きのサイモン・クラブ」
の5本の短編がぶら下がっている構成。
各短編はそれぞれ、シリアスだったり、大のオトナがよくもまぁ〜!だったり、笑わせつつも不意にしんみりしたり・ハートウォーミングだったり、と多種多様。
そしてメインストーリーの「箱舟…」は、今は亡き吹原幸太さんへの想いが切々と語られているようにも感じられた。
実は、当初、見込みが甘くて、チケット発売日以降に予約しようとしたときには既に全回ソールドアウト。
ところが19日の晩、キャンセル発生につき空きが出たというツイートが流れ、慌てて予約を押し込んだところ、故・吹原幸太氏の誕生日である今宵の観劇につながるという奇跡を生んだ。
その結果、出演者の皆さんの気持ちとチカラのこもった舞台を体感することが出来たことに、心から感謝申し上げたい!
【配役(敬称略)】
「箱舟の浮上」
俊樹(意識不明の植物人間状態の男)…野口オリジナル
宗助(俊樹の意識下に現れた謎の人物)…NPO法人
白村(俊樹の友人。かっての芝居仲間)…高田淳
糸井(俊樹の友人。俳優)…井上ほたてひも
宇佐見(俊樹の後輩。俳優)…廣瀬響乃
清水(俊樹の友人。脚本・演出家)…横尾下下(よこお・しもしも)
野村(俊樹の元・恋人。かっての芝居仲間)…増田赤カブト
洋子(俊樹の身内)…小岩崎小恵(こいわさき・こめぐみ)
伊藤(宗助の父親)…笠原紳司
「無音はお前の耳にも届いている」
バーのマスター…高田淳(たかだ・じゅん)、作家・正田…横尾下下
バーの客…野口オリジナル
「透明組長」
透明一郎(透明組・組長)…???
アキラ(透明組・若頭)…野口オリジナル
下川(アキラの舎弟)…井上ほたてひも
上原(アキラの舎弟)…青地洋(あおち・よう)
里崎(アキラのライバル)…辻響平
神崎(透明一郎と旧知の果汁組・若頭)…大野清志(おおの・きよし)
渋川(透明一郎と旧知の情報屋)…今井孝祐(いまい・こうすけ)
のりこ(スナックのりこのママ)…横見恵
大崎(少年院の刑務官)…笠原紳司、北条孝明(アキラの実の父)…横尾下下
チンピラ…高田淳、渡辺裕太、ホステス…廣瀬響乃、小岩崎小恵
「赤の男」
亀の大魔王…笠原紳司、キノコの国の桃色の姫…廣瀬響乃
緑のヒゲの配管工(赤の弟)…青地洋、赤のヒゲの配管工…横尾下下
キノコ兵…横見恵、栗の雑魚…井上ほたてひも、亀の雑魚…渡辺裕太
お化け…大野清志、恐竜…今井孝祐、剣士…高田淳
丸いの…増田赤カブト、住人…辻響平
「ふたりは永遠に」
辰郎(偏屈な天才科学者)…野口オリジナル
メカ辰郎(辰郎が自分とそっくりに作った人間型ロボット)…NPO法人
八重子(辰郎の妻)…小岩崎小恵、松本(辰郎の昔からの友人)…青地洋
坊主…辻響平
「縦歩きのサイモン・クラブ」
サイモン(時を超える蟹)…渡辺裕太
テリー(サイモンの親友の年老いたシャコ)…今井孝祐
ベス(メスの蟹)…横見恵、ウニ…辻響平
チンアナゴ…大野清志、イカ…青地洋
6
だからビリーは東京で
モダンスイマーズ
26日18時半開演回(105分)を拝見。
評判の良さに惹かれて、東京芸術劇場シアターイーストへ足を運んだが、ここ2、3年のコロナ禍で、雌伏を強いられ、あるいは、途半ばで夢破れた演劇人の無念の思いを、笑いと熱情とで表現した105分は、評判をはるかに超えた出来栄えだった。
それにしても、作者は、作品中の劇団と同じく、私たち観客にではなく、自身等を含めた、演劇に関わる・かって関わったことのある”同志”に向けての
懐かしい思い出を蘇らせる牧歌として
打ちのめされた魂を安らげるレクイエムとして
この脚本を書かれたのかな?
その調べは劇場からの帰路、永らく胸に響き続けた。
【配役】
石田凛太朗(ミュージカル『ビリーエリオット』を観て、主人公の生き方に自分を投影し…)
…名村辰(なむら・しん)さん
住吉加恵(凛太朗が入った劇団の劇団員。韓国人の彼氏がいるが…)
…生越千晴(おごし・ちはる)さん
能見洋一(劇団の主宰、作・演。演劇でしか、自身を肯定的にとらえられない)
…津村知与支(つむら・のりよし)さん
長井進(劇団員。コロナ禍で生活の糧を得るために始めた家庭教師の仕事が…)
…古山憲太郎(ふるやま・けんたろう)さん
山路真美子(劇団員。乃莉美とは昔からの付き合いだったが、彼女の…)
…伊東沙保(いとう・さほ)さん
久保乃莉美(劇団員。コロナ禍の中、自宅に籠っているうちにLINEを通して…)
…成田亜佑美(なりた・あゆみ)さん
石田恒久(凛太朗の父親。酒が原因で妻と別居。かって凛太朗に暴力を振るっていた)
…西條義将(にしじょう・よしまさ)さん
7
APOFES2022
APOCシアター
6日16時開演回、石澤希代子さんの「震える私の心の音」(41分)を動画配信で視聴。
2013年10月、今は無き新宿ゴールデン街劇場での「中野の処女がイクッ」から存じ上げている、石澤希代子という役者さんの集大成というか、一世一代の演技を”魅”せて頂き、感無量…。
嗚呼、それにしても、直に舞台に立ち会えなかったことを百万遍後悔!
8
令嬢ジュリー Miss Julie
もぴプロジェクト
4日18時開演の千穐楽の舞台を拝見。
夏至の夜、ふとしたきっかけから生じた軋みが、やがて相手を、更には自身を切り刻んでいく剃刀の刃となって…。
平体まひろ、萩原亮介、堀口紗奈のお三方が魅せる、ある意味、リズミカルでさえある熱い感情のうねりに、ただただ圧倒された、ザ・新劇テイストな90分。
なお、会場であるギャラリーCASA TANAの佇まい、適宜、背景に映し出される映像、そして照明等が、この演劇作品を盛り上げるのに大いに効果的だったことも強調しておきたい。
【配役】
伯爵令嬢ジュリー(父母それぞれに対して複雑な思いを抱いているものの、実生活では天真爛漫・自由奔放。なお、近頃、婚約が解消された)
…平体まひろさん
下男のジャン(伯爵とその令嬢には従順だったが、ふとしたきっかけで、それまで抑えていた野心が鎌首をもたげる)
…萩原亮介さん
召使いのクリスティン(ジャンの婚約者。敬虔なキリスト教信者だが、ジャンに裏切られたため…)
…堀口紗奈さん
9
「だらしなくあいた唇」
カラスミカ企画
24日18時開演回(100分)を拝見。
大学時代から付き合っている彼氏、実姉、女性向け風俗の男、そして"ワタシ"の4者から突きつけられた、(唾棄すべき母親と変わらない、いや、それ以上の)自身の醜さに、一旦は自己崩壊しつつも、最後には、ナマの本心を押し殺して、したたかなフリを演じながら生き続けるヒロイン。
強力な共演陣の支えもあって、主演の杏奈さんにとって、本舞台、代表作になりそうな予感がする100分間。
【配役】
井上亜咲美(25歳。女性。会社員)
…杏奈さん(初見の「桜の森の満開のあとで」(2016.9)以来、幾度も舞台を拝見してきた杏奈さん。有望な役者さんだとは思っていたが、まさか、ここまで立派に主役をはれるとは!…かなり感動しています)
堤賢人(源氏名・久住)(35歳。男性。フリーライター 兼 女性用風俗店『Noir』キャスト)
…瀧啓祐さん (こわっぱちゃん家の舞台でお馴染みの方)
清水廉(25歳。男性。会社員。亜咲美の彼氏)…
…河西凜さん(亜咲美と”久住”の関係に薄々気づいた辺りからの、スポットライトから外れた場面で、亜咲美を見つめる視線の痛々しさ。「ドント・コールミー・バッドマン」(2021.10)で杏奈さんと共演した際のシマダ役を想起させられた)
井上穂乃果(28歳。女性。専業主婦。亜咲美の家の近所に住んでいる実姉)
…あずき菜月さん(「森に棲む魚とハルニレのウタ」や兎団の舞台でお馴染みの方)
ワタシ(少女であり、女性であり、老婆である、私の中のワタシ。制御のない世界の生き物)
…伊織夏生さん(ヒロインに寄り添ったり、はねつけたり、苦しんだり…亜咲美に語り掛ける一つ・一つのセリフの説得力の深さ! 文字通り”影の主役”)
10
ガラテアの審判
feblaboプロデュース
21日20時開演回(115分)を拝見。
AI技術の発達により人間同等の知性・感情を有するようになったアンドロイドが犯した世界初の殺害事件。
被告となったアンドロイドの処遇を巡って、擁護・糾弾の対立が過熱する世論を背景に、公判前整理手続の段階から丁寧に描いた法廷劇は、まさしく、重厚な"人間"ドラマ。
2時間弱の上演時間中、あますところなく、これこそ演劇だ!という舞台を堪能させてもらった。
感謝!
法廷劇なので、法曹三者(裁判官,検事,弁護士)と被告を演じた4人の役者さん達のパフォーマンスは、勿論、称賛に値するものであったが、個人的には、更に、役柄上、注目しないと気づかない程のささやかな演技を続けておられた、アンドロイドの庶務官役・ニュームラマツさんを高く評価したい。
【配役】
弁護士フルカワ・バンリ(ヤメ検)…坂本七秋さん
検事キリシマ・ヨーコ…陽向さとこ(ひなた・さとこ)さん
被告ジャック…新井裕士さん
裁判官ケンザキ・アスミ(フルカワと法曹同期)…坪和あさ美さん
証人1(ジャックを制作した会社の技術主任)ウダガワ・コウタロウ…阿部遊劇手さん
証人2(ジャックの派遣先家庭の夫)オオサキ・シノブ…神野剛志さん
証人3(殺された少女アンナの母親)ココノエ・ミナミ…佐神寿歩(さがみ・ひさほ)さん
証人4(アンナのベビーシッター)ヤシロ・フユ…長門佳歩さん
(レポーター)ワタナベ・レオナ…久保田伶奈さん
裁判所庶務官(アンドロイド)…ニュームラマツさん