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2017年度 1-10位と総評
15 Minutes Made Anniversary

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15 Minutes Made Anniversary

Mrs.fictions

25日19:30の回(約2時間、途中休憩10分間)を拝見。
個人的には、2015年7月の『15 Minutes Made Volume12』以来となる、この催し。Mrs.fictionsさんも含めて、出場6団体中5団体が初見だった『12』と違って、16回目の開催となる『Anniversary』では全くのお初は2組のみで、他の4団体は概ね手の内は承知、といった状況での観劇です。

『フランダースの負け犬』~柿喰う客
あの名作アニメの有名なラストシーンをモチーフに、登場人物を第一世界大戦勃発時のドイツの軍人達に置き換えての会話劇。
柿喰う客さんらしいエッセンスが凝縮された、実に手堅い作りの「ドラマ」でした。

『ハルマチスミレ』~吉祥寺シアター演劇部
公募の高校生達が、あやめ十八番・代表の堀越涼さんの指導の下、堀越さんの「追憶の中の高校生像」を、持てる力量の全てを出し切って演じた作品。
感性が摩耗した観劇おじさんには、眩しいほどの初々しさ!
今回の6団体の中で、個人的にイチバン胸打たれた舞台でした。

『BBW』~梅棒(ウメボウ)
ケーキ屋の店主?への想いを打ち明けられずにいる女性をヒロインにしたラブコメディなのに、出演者は全員男性! しかもセリフ無しでストーリーを「語る」、ダンス・ダンス・ダンス!の15分間。
今回、会場をイチバン熱狂させた、パフォーマンス演劇には、大いに刮目させられました。

『ラスト・フィフティーン・ミニッツ』~演劇集団キャラメルボックス
結婚5年目にして初の新婚旅行の旅先から、妻の両親に預けておいた3歳の愛娘に向けて、人生のラストメッセージの動画を送ることになった若い夫婦の最後の15分間を、コミカルに・でも切々と描いた作品です。
でっ、特筆すべきは、10分間の休憩を挟んだとはいえ、梅棒さんのグルーヴ感にすっかり支配された会場の空気を、自分達の世界観に染め直した脚本・役者さんの説得力…さすがは老舗劇団・キャラメルボックスさん、その実力に素直に脱帽です。

『想いをひとつに』~劇団「地蔵中毒」
かねてより評判は耳にしていた地蔵中毒さん。今回の6団体の組み合わせでは、異彩を放つエログロな作風、他人事ながら、大いに心配?!していたんですが…。
吉祥寺シアターという会場の公共性を「忖度」して、エログロのレベル、抑え目にしたのかなぁ? それでも、おいおい!と良心の呵責に苛まれつつ、素直に笑わせてもらいました。

『私があなたを好きなのは、生きてることが理由じゃないし』~Mrs.fictions
トリを務めるMrs.fictionsさんの作品は、亡くなった男の目を通して、残された両親と恋人の歳月の積み重ねを描写していく…シンプルな構成ながら余韻の残る家族モノです。
和洋中ない交ぜな趣きの芝居のフルコースの掉尾を飾るに相応しい、「渋い味わいの珈琲」でした。

2年前の『15 Minutes Made Volume12』で初めて知って、以後、今でも意識して本公演を観に行っている団体さん、3つあります。
今宵の『Anniversary』だと、お初の2団体のうち、地蔵中毒さんの、遠慮なく本領を発揮した本公演、観に行きたいな、と思いました。

KUDAN

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KUDAN

TOKYOハンバーグ

先に結論から申しますが、初日故の緊張、まだ生乾き?な部分を勘案しても、恐らく、今年随一の観劇体験になるのでは、と思いました。
件(くだん)であるクラープの誕生シーン、処分される寸前で牛たちが牧場から解き放たれるシーン、そして生活の場である森の伐採で牛たちが追い詰められる最後のシーン…歳がバレそうですが(苦笑)、真っ先に『ジャングル大帝レオ』での光景が目に浮かびました。
ただし『レオ』のテーマが「人類の文明に追われる動物たち」だったのに対して、本作では、人類の文明の脅威(原発事故)にさらされるのが、動物(飼育牛や被災者に捨てられたペットたち)だけでなく、人間自身にまで及びます。それまで営々と営んできた平穏な暮らしを或る日突然奪われる、その何と理不尽なことよ!
私が作品から受け留めた最初のメッセージです。

原発事故は、動物たちにも・人間にも、多くの「死」をもたらします。さらには、事故後に授かった生命にさえ、暗い影を落とします。動物側ではクラープ、人間の側では三日月の生んだ子。(あえて言葉を選びませんが)「奇形児」であり、さらには三日月の子は生まれてすぐに亡くなっています。しかし、たとえ「奇形児」であろうと・「死者」となろうとも、この世に生まれて来た命を・生きていた証を、尊重し・忘れずにいる心持ち。
生命の尊さ…私が作品から感じ取った、もう一つのメッセージです。

と、まあ、感想はこのくらいにして…。

作劇的な面に関しては、福島原発事故で被ばくした牛たちの飼育を続ける「希望の牧場・ふくしま」にインスパイアされた題材を、「件(くだん)の牛」の伝承を基にした現代の寓話に作り上げた、その着眼点の非凡さに何よりも感心させられました。

役者陣。ヒロイン・クラープ役の山本由奈さんを初め…いえいえ、敢えて個人名を挙げるのは止しましょう。舞台の上に立った座組みの皆さん全員の総合力に、唯々胸を打たれました。

最後に(また演劇とは離れてしまいますが、汗)。
劇中の、三日月が死産した子の症状に関して、「風評被害」の観点から、批判的な意見も寄せられるだろうな、と観ていて感じました。
「希望の牧場・ふくしま」で育てられている牛たちにしろ、原発事故との因果関係のある・疑われる症例にしろ、合理的根拠が認められる限り、「時代の証人」に目を背けてはならない…ワタシが勝手に解釈した、作品からの最後のメッセージかもしれません。

桃テント

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桃テント

ろりえ

6日ソワレ(途中休憩5分込・125分?)を拝見。
前公演『逮捕(仮)』とは全くテイストの異なった作品。
観終わった後、一体、どこをどう叩けば、これほどの荒唐無稽・ワールドワイド?な設定が出てくるんだと、エラく感心させられた。
とはいえ、おはなしのテイスト自体は、オトナのホームコメディというか、ハートウォーミングなストーリー。
主演の後藤剛範さん&加藤夏子さん、お二人の好演で、あと味の良過ぎるぐらい良い芝居となりました(二人がよりを戻す、という安易な結末にしなかったも好感!)。
共演者も、洪潤梨さん&安藤理樹さん、七味まゆ味さん、神戸アキコさん等、キャスティングの妙を充分に堪能出来ました。

それから、今回の公演、客入れ時の対応、途中休憩時・終演時のアナウンスなど、お客さんを愉しませようとする、作り手側の工夫が随所に見受けられました。
こうした試みがクチコミとなって、本公演、さらには次回以降の公演の、集客に繋がればなぁと願わずにはいられません。

最後に記録用に配役をばっ!

SP護闘…後藤剛範さん
護闘の妻ナッツ子…加藤夏子さん(『THE VOICE』の女子高生以来?)
デュオの男・A RIKI…安藤理樹さん
デュオの女・雲丹…洪潤梨さん
護闘の友人・テント屋の店長・尾倉…尾倉ケントさん
尾倉の妻…岩田恵里さん(『逮捕(仮)』での印象よりずっと若い!)
尾倉の母…久保亜津子さん
護闘の部下のSP…徳橋みのりさん
自撮りギャル?…奥山雄太さん
JAL機・機長…岡野康弘さん
副操縦士(ナッツ子の同期)…鈴木研さん
アテンダント(ナッツ子の先輩)…七味まゆ味さん
護闘の母…木村香代子さん
護闘の弟…満間昂平さん
某国のテロリスト…神戸アキコさん
某国の空港職員…山本周平さん
ナッツ子の父…松下伸二さん

光、さえも

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光、さえも

Ammo

18日14:00の回を拝見。
無名の作家から送られてきた「作品?」の芸術性に関して、画家や版画家・彫刻家に、美術評論家、パトロンといった協会の理事たちが白熱した討議を行う、という設定なのですが、本作の作者は更に二つの要素を追加しています。

【その1】
偽名で「作品?」を提出したことにして、マルセル(演・津田修平さん☜声がいい!)自身を、この会議に参加させてみる

【その2】
理事会の雇われ幹事長である画家(西川康太郎さん☜熱演!)と、その妹(土佐まりなさん☜声もいい!)との、南部の父権主義を背景とした対立、そして和解

そのうえで、理事の各々に象徴される、文化・宗教・社会倫理、ひいては各自の人生観をぶつけ合うガチ・バトルが展開されます。
たとえるならば、この「11人の怒れる男女」の密室劇は、知的興奮を呼び起こすだけでなく、1920年代米国の爛熟期における、価値観のパラダイムシフトの波を・その軋轢を、肌感覚で体感させてもらいました。

なお、「1920年代米国の爛熟期」を舞台にするため、更には、従来からの宗教倫理的価値観を体現するフィル(前園あかりさん)の発言に、前線での従軍看護婦体験という重みを与えるため、実際は第一次大戦中の1917年に起きたエピソードを4年、後ろにズラしています。

ということで、脚本・演じ手の熱演のみならず、照明・衣装・音楽をも相まって、恐らくは今年一番の観劇体験になるだろうと思われる程、充実した時間を過ごせました、とさ♪

春に戦ぐ

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春に戦ぐ

ShockArtProject

男性保育士の悩みや葛藤(待遇、将来設計、女性中心の職場での立ち位置、等々)

保育の専門家であるはずなのに、保護者から軽視されがちな保育士の立場

保育所に子供を預けるシングルマザー・ファーザーと子供の関係

在日外国人の子供へのいじめの問題

トラブル発生時の保育所の対応

等の問題につき、かなりの取材をこなされたうえでの脚本です。

さらに、上演会場のある三河島というロケーション。
戦前からのコリアンタウンなので(参考.有名な新大久保界隈は戦後に広がったコリアンタウン)より実感を伴って、舞台、拝見することが出来ました。

子供の大怪我という「事件」も含めて、保育園の先生達の目を通して語られる「出来事」は、上述のような、社会全般にも共通する今日的な重いテーマです。
しかし、それらを一方的に深刻にはせず、ユーモアとヒューマニズムのオブラートに包んだ「リアルなテーマのメルヘン」として提示して頂いた…そんな1時間40分の「疑似体験」でした。

聖女

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聖女

少女都市

思春期の同性のクラスメイトだったり、母親だったり、姉だったり…相手への愛憎の裏返しともいえる、自己愛と承認欲求に関わるエピソードが幾重にも重なった、ミルフィーユ構造の作品。
随分と巧みな作劇だなあ…最初は脚本の構成にばかり目がいってたんです。
ですが、舞台が進むにつれ、そんな作劇の巧みさよりも胸をえぐるセリフの砲弾!
ど真ん中に豪速球を投げ続けるような、作者のパッションの熱さをより強く意識することに。

唯一、不満に感じた点。
主人公のユリの現代における恋人の設定。
演ずる堺谷展之さんの熱演を認めたうえでなんですけど、男性ではなく、同じ女性にした方が他のエピソードとの調和が取れたんじゃないかなぁ、っと。

とりわけ気に入った点。
ユリの中学時代に起きた不幸な「事件」のパート。
ユリ役の陽香さん、クラスメイト役の尾崎菜奈さん・久門海さんによる、思春期の女子中学生たちの酷薄さと愛情が混ぜこぜになった、アンビバレンスな人間関係。
ノスタルジックな味わいも加味された、その危うい美しさには素直に心惹かれました。

THE VOICE

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THE VOICE

チーズtheater

事前知識ゼロで、初日の舞台、観て来ました。
入場時に貰ったリーフを見ても、詳細不明…全くの白紙で舞台に臨む羽目に!
という訳で、東日本大震災の津波による犠牲者を描いた群像劇、という本作品のテーマ、観劇の後半に差し掛かった頃に、ようやく気がつきました(汗)。
おかげで、開演前の出演者たちによるパフォーマンスの意味(海底に眠る…いや、永眠しきれずにいる犠牲者たちの霊)や、前半、長々と続いた平穏な日常生活のスケッチの意味合い(津波に襲われる後半部の理不尽さを際立たせるための布石)も、その時点で腑に落ちました。

さて、作品のヤマである後半部。吹奏楽部の仲良し女子高生5人組が、一人・また一人と波に呑まれていく級友たちを「見送っていく」シーン、本作の登場人物全般に適用されている、散文詩調のモノローグなセリフが、後日、故人の日記に目を通しているような錯覚に陥らせます。思わず涙腺に来ました。
ただ…ただなんですが、女子高生、トッポい消防団員、妊婦、工場勤務の恋人たち…と、犠牲者の描写が続くにつれ、(不謹慎のそしりを恐れずに言うと)これでもか!これでもか!という「悲劇」の波状攻撃に慣れてしまいます。終演時には、涙腺も感情もすっかり乾いてしまいました。

まあ、個人的嗜好なのかもしれませんが、最初の女子高校生たちをメインに悲劇の描写はとどめておいた方が良かったのでは?
大勢の犠牲者を描き過ぎて、個々への印象が散漫になったなぁ…観劇後に真っ先に抱いた感想でした。

最後に役者陣について。
皆さんの全身全霊の演技に何の文句が言えましょう! イチ観客として、唯々、首を垂れるのみです。

幻月パーライティーナ

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幻月パーライティーナ

salty rock

6月30日ソワレと7月2日マチネを拝見。
プロットにすれば、実にシンプルで青臭いストーリー。
天才モーツァルトに対するサリエリの愛憎半ばする感情を描いた、映画『アマデウス』でもお馴染みの、普遍的なテーマ。
適宜、道化を交えながらも、全体として、一本調子な芝居のテンポ…

にもかかわらず(いや「だからこそ」か)、羨望・不安・理想といった、芝居に対する作者の様々な「想い」がこめられた100分間は、構成・演出・演技・セット・照明・音響の総合力をもって、個々の観客に強烈に迫ってきたようです。
かくゆうワタシも、そんな熱にあてられて、観劇後、誰にも邪魔されずに、人生のほろ苦さにいつまでも浸っていたい…そう思わせてくれた作品でした。

そして2回目。
なまじ話の流れを承知しているだけに、劇中の涙腺刺激ポイントで悉く被弾(笑)。エエ歳こいたオッさんの両の瞳が涙止まらず状態に!
あとで、感性豊かな某・若手女優さんが号泣されたという感想ツイートを目にしましたが、それもむべかるかな、と我が身をもって納得させられました。

演劇とは何の関係もない観客でも、誰もが一度は体験したことがあり、誰もが恐らく共感を覚えたであろう、理想と焦燥との狭間の世界。
『幻月パーライティーナ』、本当に良い作品に出逢えました、とさ♪

【付記】
自分の記録用なんですけど、以下、配役を記しておきます。

あンな邦祐さん…劇作家・土門
窪寺奈々瀬さん…土門の妻
小林カナさん…編集者・小倉ミサキ
長瀬巧さん…小劇団の座長・宜野座
千頭和直輝さん…劇団員(若き日の土門)
まついゆかさん…劇団員(若き日の土門の妻)
大寄正典さん…古株の劇団員・楽谷
フジタタイセイさん…劇団員・白野
伊織夏生さん…劇団員・簾藤(白野に思いを寄せている)
松本真菜実さん…戯曲雑誌の編集長、医者、あるいは「キロク」
松村瀬里香さん…ミサキの後輩編集者、看護師、あるいは「キオク」

音楽劇 チンチン電車と女学生

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音楽劇 チンチン電車と女学生

劇団往来

12月3日マチネ(2時間40分+途中休憩15分)を拝見。
平成22年、大阪での初演を皮切りに、広島、大阪、そして広島と上演を重ねて来た作品の、満を持しての東京公演。

純粋に音楽劇としての本作品に触れると、何度も上演を重ねてきた脚本に、稽古を重ねたのであろう出演者たちの演技・歌唱は、当時の若いヒト達の心情がわかりやすく・丁寧に描かれており、途中休憩をはさんだとはいえ、上演時間2時間40分の長丁場も苦になりませんでした。

ただ、自分だけかもしれませんが、メインの戦時中パートの合間に挿入される現代パート、祖父・真太郎と孫娘・マユのやり取りのみに留めておいた方が良かったのでは?と感じました。
今の社会に向けた警告を、現代の少女達が踊り・唄う場面の歌詞に託した作者の想いは大変共感できるのですが、ココで芝居の流れが途切れるのが難点に思われました。

さて、今回の東京公演は2日間のみでしたので、もしでき得れば、都内での再演を期待したいと存じます。
もっと多くの、特に若い方達に観てもらいたいので!

精神を病んでしまった少女の話

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精神を病んでしまった少女の話

兎団

18日夜、そして、都合により?! 19日夜の2回拝見(115分)。
まず何よりも先に言いたいのは、劇中、どころか開演前にも耳に飛び込んで来る、1993~2005のヒット曲の数々。当時、主人公の田村クン(演・長江信二さん)よりはずっと年上の社会人だったが、あの頃の悪戦苦闘ぶり(汗)が蘇ってきて、理屈抜きに懐かしかった。
それと、劇中、田村クンと千鶴さん(谷川史緒さん)との会話シーンでしばしば話題に上った、仙台七夕の前夜祭にあたる花火大会。仙台は何度か訪れたものの、花火を見られる唯一の機会が雨天中止…あの時季の仙台、ホテルがなかなか取れないだろうけど、また行ってみたいなぁ、と(文字通り、遠い目)。

…といった、極めて個人的な感慨はさておき。

今回、舞台上のユーティリティプレーヤー「MOVE」の演出が、何作か拝見してきた兎団さんの作品のうち、今迄で一番、ストーリーに馴染んでいたように思われます。
作品によっては「癖が強いなぁ」と引いてしまうこともあった、MOVEの「内面の声」的な役割。今回に関しては、田村クンを表現するうえでの最善手かな、とさえ感じられました。
その効果もあってか、長江信二さん、谷川史緒さんの、過剰に感情を爆発させるでもなく、淡々と進んでいくやり取りが、従来作以上にじんわりと、こちらの感情にも響いて来たのかな、と。

最後にまた個人的な感慨ですけど(苦笑)、大学生たちのモラトリアムな気分、よく描かれていたと感心しました。田村クンと同じく、留年して就職した者の目からしても(苦笑)。

総評

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