タッキーの観てきた!クチコミ一覧

1741-1760件 / 2291件中
あのコがエロいのはボクのせいだ!

あのコがエロいのはボクのせいだ!

T.M.DELUX COMPANY

シアター711(東京都)

2015/08/21 (金) ~ 2015/08/23 (日)公演終了

満足度★★★★

笑いの連続だが、話は深い
タイトルのようなエロい場面は、全然ない。どちらかというと、ゲイ人...いや芸人の素晴らしい話術が楽しめる。
女優陣が魅力ある演(艶)技で魅せる。それに絡む男優陣の...なぜか調和して和やかに見えてしまう不思議感覚の芝居である。
もっとも物語はグッとくる好公演である。

ネタバレBOX

基本はコメディであるが、その内容は人心に潜む嫉み、恨みなどの醜悪な面を浮き彫りまたは抉り出すような話である。そしてラストがブラック...スゴイ!

舞台は、シェアハウスの共同スペース(リビングか)を中心に、そこに住む住人たちの不思議な体験物語である。セットは、中央にテーブルと横長ソファー、その奥に2階への階段がある。上手はダイニング・風呂場をイメージさせる舞台裏。上手から下手にかけて3部屋がある。
このシェアハウスの一室の住人が行方不明。その後に入居した住人(女)と大家(男)、さらにはこの住居に住む芸人の相棒(男)...この3人があるきっかけで心と体が入れ替わる。一対一の相互入替わりではなく、3人がシャッフルされた感じである。当然、身体的性差に驚き、違和感を感じさせる面白さ。その入替わりが住人たちの数パターンで繰返され、その都度、性差・性癖・感情・性格の違いを役者が達者な演技で観せる。美人・可愛い女優が変な関西弁を言う芸人に、オジサン大家が乙女チックになる、その変貌振りは実に見事。
そして、行方不明になっていた女が帰ってきて...元の部屋に入居したのが、高校時代の友人であった。行方不明の女は役者志望ということであり、夜はスナックでバイト。役を演じる、客に媚を売る、どれが本当の自分かわからなくなる。そんな女に憧れていたのが高校時代の友人女。

本当の自分とは、その奥に潜む思いとは何か。人が思っているほど自分自身に満足していない。羨まれることはない。この心身入替わりを通じて、本当の自分を知っていく様子が面白、楽しく描かれる。
この入替わりのタイミングは停電...住人の一人が何やら先進的な科学実験を行い、その都度、電力超過になっているのが原因だという。

この公演はミステリーの要素もあり、最後まで飽きさせることなく観させる。そしてテンポもよく観ていて笑い笑いの連続でもあるが、ラスト近くにはホロッとさせる。この落差がまた見事である。人身の入替わりが見た目の面白さ。その延長線にある本当の自分探しと人間の本性を浮き彫りにしたテーマ性。その芝居要素を十分堪能した好公演である。

ラストは、デザインの仕事をしている先生・助手役が例の実験で入替わりになる。その立場の逆転が今までの思いを...実にブラックユーモアで、最後まで見逃すことができない。

次回公演も楽しみにしております。
楽屋

楽屋

Quiet.Quiet

小劇場 楽園(東京都)

2015/08/21 (金) ~ 2015/08/23 (日)公演終了

満足度★★★★

新感覚の楽屋
「楽屋」は相当数の公演を観たが、本公演のような冒頭の斬新な試みは初めてである。そして何より強く「反戦」を意識した描き方のように感じた。

ネタバレBOX

この劇場は、地下入口を入ると客席を左右に分けるように太い柱がある。今回はその柱の舞台側(客席からは反対側)に鏡台を設え、女優の化粧姿が客席に向かう趣向である。入り口の右側席正面の壁に字幕が映し出されるが、それがこの物語で描きたいイメージ、世界観であろう。この”楽屋”にもそれらしい衣装、飾り棚の上には小物(ぬいぐるみ等)がある。

冒頭は女優C(阿部恍沙穂さん)のラップミュージックから始まる。楽屋に現れる女優A(秋葉舞滝子さん)、女優B(齋木亨子さん)の時代間隔、世界隔世の感を観せるためであろうか。そのためのラップ...なんだろうか。

梗概...楽屋。亡霊になった女優Aと女優Bが楽屋で化粧をしながら、永遠にやっては来ない出番にそなえている。今上演中なのはチェーホフの「かもめ」。主役のニーナ役の女優Cが楽屋に戻って来ると、プロンプターをつとめていた女優がパジャマ姿でマクラを抱えて現れる。
女優D(呉城久美さん)は精神を病み入院していたが、すっかりよくなったから、ニーナ役を返せと女優Cに詰め寄る。そして...お馴染みの話である。

女優という職業の凄まじい業...女優の内面夜叉のような美醜が見事に描かれていた。
本公演では、さらに楽屋、女優ということだけではなく、人間としての心魂・深奥を観たような印象である。そこには戦前・戦後そして現在という時代の中で生きてきた証のようなものが感じられる。そして平和への希求が...女優Aの顔の火傷が戦禍を想起させる。

少し残念であったのが、公演全体の人間性を感じさせる雰囲気、厭らしいまでのドロドロ感がなく、案外アッサリした印象を持ち、内面への切り込みが浅い感じがした。

演技は、4女優の特徴を生した“女優魂”を見事に体現していたと思う。
次回公演を楽しみにしております。
≦ Beat!! ≧

≦ Beat!! ≧

[DISH]プロデュース

ウエストエンドスタジオ(東京都)

2015/08/20 (木) ~ 2015/08/23 (日)公演終了

満足度★★★

心温まるが...
冒頭は、某地域の夏祭り...そして花火を楽しむ人々の姿がある。登場人物がすべて登場する場面から物語は始まる。その雰囲気は、古きよき時代を彷彿とさせるような心温まるもの。しかし、単に郷愁に浸るのではなく、そこには少し悲しい哀しい陰のような話があり、この公演に深みを持たせている。

全体としては、地域に伝わる不思議な伝説を絡めた人情話といったところ。


ネタバレBOX

セットは、舞台奥は高く、上手・下手はその上から降りてくる石階段がある。そして真ん中には丸い両引き戸が見える。舞台全体は広場(公園)のイメージである。

梗概は、約20年前の時を隔て過去と現在が交錯する。子供が命に関わる難病になり、母親は少しでも長生きしてほしいと神隠しを願う。いや、実際その行動をすることになった。昔、その地域に鬼が来たが、人間たちは鬼を殺さず面倒をみた。そして舞台奥の丸扉の中で生きている、という迷信が伝わった。鬼の棲む世界は人間の住む世界に比べ時間経過の遅速ができる。子供を助けたい母親はその扉に子供を入れ、長生きさせることを思いつき....神隠しという迷信に縋った。
その結果、子供は生き、そして現在と過去の話が交錯して、ラストシーンへ。人間を助けることで、逆に鬼の寿命が短くなるが、それを承知で鬼は...感謝と哀しさの感動を呼ぶ。
しかし、その展開・構成なりが分かり難くく、物語の主筋が捉えにくい。何故、子供が行方不明になったのか、母親の思いが分かるのが終盤になり、伝説の鬼との関係がもう少し早い段階で分かると、観客(自分)にその真相真意が伝わったと思うと残念でならない。

また、演技力に差があり、演出と相まって上手く物語が進まなかったように思う。最後jにダンスシーンがあるが、芝居とダンスが分離していた。芝居の雰囲気なり余韻を感じさせてほしかった。できれば上手く劇中にダンスシーンを取り込んでほしかった。

次回公演を楽しみにしております。
糸、あと、音。

糸、あと、音。

時々、かたつむり

小劇場 楽園(東京都)

2015/08/13 (木) ~ 2015/08/16 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

テーマは良かったが、表現が…
近未来的な話…コンピューター・ロボットが環境などを操作し、安全で快適な生活を保証してくれるが、その代わりに人間にとって大切な自由が無くなるという、管理社会を描いた風刺劇。テーマは良かったが、その演出が映画でいうカット割が細か過ぎる。それは登場人物6名の対話を中心にし全ての組合で観せようとしているためであろう。場面展開が早く、分かり難くくなっていた。もっと観ている観客を意識して、丁寧な描き方をする工夫が必要だろう。逆にテンポは良かったと思うので、その辺りを考慮して展開・構成しては…。
描きたい内容を、どう上手く伝えるか…演出手腕の発揮どころ。

ネタバレBOX

ほぼ素舞台に椅子2脚...この劇場は地下入口から入ると中央に柱があり、左右に分かれて座席がある。その柱には半透明の薄膜が巻きつけられており、その一部が舞台にも敷かれている。物語の内容から雨降りと水溜りのイメージか。実際は滑り止めのようにも思う。

梗概は、高層ビルの住人は安全で快適な生活を享受している。逆に言えば、そこに生活しないと危険または快適でないことが喧伝される。その建物はコンピューター・ロボットでコントロールされている。そして天候を操り、情報を操作し人間の生活や心にも大きな影響を持つようになっている、という近未来の話。天候(洪水)とその情報操作によって高層ビルへ避難させるという目論み。しかし避難しない人間もいた。その情報の収集・分析がいつの間にか人間の行動を束縛している恐怖が伝わる。

比喩的に「籠の中の鳥の話」...大空に飛び立つ自由と引き換えに、安全と生きる力を要求される。一方、籠の中は安全で餌にも心配なさそうである。そして、もう一つ、人間の対応力が描かれているようにも感じた。例えば占い師の登場であるが、占いの依頼者は、話す、他方占い師は傾聴する態度になる。これが逆転したシーンがあるが、そこに自分の確固たる意見と態度の重要性を感じる。ふわふわとした気持ではない、何か芯が必要なのだと訴えるようである。
このいくつかのシーンが細切れのように交差または交錯するように展開するので、話の大筋がわからなくなる。もう少し丁寧な状況説明(1シーンをもう少し長くするなど)をして、観客にわかるよう工夫する必要がある。
さらに台詞を大切にしてほしい。例えば、先に記した「籠の中の鳥の話」であるが、大空に飛び立つのは鳥の”特権”?にしていたが、話の流れであろうが違和感がある。このような台詞回しがいくつかあった。言葉(台詞)の正確・重要性の検証もお願いしたいところ。

さて最後に、この高層ビルは建築中のイメージから「スカイツリ」ーを、ラストでは「バベルの塔」を想像した。この現実・空想の混同が...。
テーマ性というかその訴えたい内容に共感するが、くどいがその描き方に工夫が必要である。

今後の期待込めての★3つ
次回公演を楽しみにしております。
第三毒奏

第三毒奏

劇団開花雑誌

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2015/08/14 (金) ~ 2015/08/16 (日)公演終了

満足度★★★★

鋭いテーマであるものの、その表現力が...
シアターグリーン学生芸術祭招致公演...大阪芸術大学 劇団開花雑誌による、近未来または仮想・架空という設定の物語。その脚本・演出は鋭く観応えあると思われるが、少し凝り過ぎた感もある。
ちなみに、道頓堀学生演劇祭Vol.8最優秀劇団賞受賞作品でもある。

全体的な雰囲気・印象は、幻想、ファンタジーであり、その観せ方は舞踏要素も取り入れて比喩的に感じた。
小道具、食べ物もその一つになっているが...


ネタバレBOX

まず現況、背景を整理しないと分り難い。自分の解釈としては、<If(仮)>戦争後の世界におけるスラム...そこで生活していたタケと桐也は、富豪の家に空き巣を狙い、桐也が手違いで殺人を犯し逮捕される。その後、スラムが解体され、そこにいた子供たちは少年院へ。そこでは少年法に則り20歳になると「戦争孤児は殺処分になるという」規則である。子供たちは20歳を前に脱出を試みるが、桐也が送り込まれて来る。ここから少しずつ歯車が狂いだし、狂気の世界観が見えてくると...。

まず「第三」は第二次大戦に対する意味であり、まだ起きないであろう仮想の戦後であることを表しているのだろう。そして多くの「毒」が吐き出されるが、その象徴が殺(人)戮...キャベツを足で潰す、またはそれを下に落とす(斬首)表現である。また冒頭に、小道具として包丁、拡声器、懐中電灯、本をボストンバッグに入れるが、それもラストに近いシーンで傷殺のため使用する。戦争は国家命令として多くの人間を殺害するが、ここに登場する桐也はたった1回しか殺人はしていない、と強調する件。その行為に正当性があるのか、という問いかけのように聞こえる。

また、大人(20歳)になれば、世間の目も厳しくなり、簡単に殺処分にできないという、現在の少年法を皮肉る。そのアイロニカルも際立っているが、公演全体を通じて、凝っていたため主張が暈けたように思う。
最後に「奏(音楽)」は、基本的にクラッシックが流れ、その中のドボルザーク交響曲第九番 第二楽章は哀しい。見事な選曲だったと思う。

本公演は、芝居をある程度観ている観客には満足、しかしあまり観ていない観客には難しく感じるのではないか? 観客の感性がどこまで追いついているのか、逆に劇団として捉えているか。その辺りを考えてみてはどうだろうか。

今後の期待込めての★4つ
次回公演を楽しみにしております。
ジジイ達の特攻隊

ジジイ達の特攻隊

サン・マルガン

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2015/08/12 (水) ~ 2015/08/16 (日)公演終了

満足度★★★★

しっかり観せる骨太作品
戦後70周年企画...みんなで考えなければならない年の様相を呈してきている。
この「ジジイ達の特攻隊!」は鮮鋭にその問題提起をしていた。内容は骨太作品であるが、歌謡漫談という明るいシーンも取り入れて、芝居としての魅力も十分観せてくれた。

上演前には、「異国の丘」「海行かば」など当時の歌も流れていた。


ネタバレBOX

梗概は、昭和20年7月。敗戦濃い日本のある下町。そこに歌謡漫談を職とする<これまたぼ-いず>の5人がいた。 ある日、隣人からの通報で家に憲兵が来て、歌の内容が非国民だ、歌を辞めなければ逮捕すると。しかたなく、<これまたぼーいず>は慰問の道を選ぶ。 初めての慰問先は特攻隊がいる島であった。しかも特攻隊の若者はわずか3名を残すのみ。 そして3人に特攻の命が下る。 若い隊員達の国を、そして家族を想う気持ちに<これまたぼーいず>達の想いが重なる・・・ そして最後の特攻隊が飛び立った時、戦争終結の連絡が入る。

この舞台セットは、プロローグとエピローグが下町の藤田家で、ほぼ中央に畳敷・卓袱台そして天井から裸電球、下手が玄関になっている。二場面が慰問に訪れた島(背景幕がジャングル)、第三場面がジジイが乗った戦闘機である。表層的な観方をすれば、本当に軍隊を始め当時の国家体制における理不尽さ、非道さ、それに従わざるを得ない無念さが伝わる。もっと言えば、それに面と向かって疑問を呈することができないところに恐ろしさがある。

芝居としては、ラストシーンは現実的でないが、このように演出したかった心情が当日パンフに記してある「家族を守るという父や母の気持ちと基本的には変わらないのではないか...その慈悲深く尊い気持ちを既存の特攻隊物でない形で表現したい!」とある。

芝居としては、若い特攻隊員1名が出撃するのが現実的であり、涙も誘うであろうが...。
疑問としては、島内には軍人8名と民間人(司令官:大佐の妻)という説明であったが、6名しか登場せず残りは見張役ということのようであるが、必要な設定であろうか。些細なことであるが、これ以外は本当に観応えがあった。
演技は全キャストとも上手いが、特に勝野八重 役(大勝かおり さん)の熱演は素晴らしかった。

この時期、シアターグリーン3館はすべて戦争関連の芝居であり、今、本当に一人ひとり考えなければならない。
上演後の挨拶で藤森太介 氏は、「愛」の反対語は「憎」であり、「無関心」も含まれる、という印象深い言葉を心に刻んだ。

次回公演も楽しみにしております。
チョイスw

チョイスw

ワンチャンUNIT -ストクエ-

シアターブラッツ(東京都)

2015/08/11 (火) ~ 2015/08/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

笑過が消夏になった日
笑い笑いのコメディである。確かに泣かせるシーンもあるが、始めから泣かせようなどと考えて制作していないだろう。また、その非現実的な描き方に配慮を感じる。

観せ方は二元というか異(次)元を通しているが、描いている内容は家族・夫婦の思い違いや思い込みという身近なこと。しかし、激しく口論する内容は日頃思っている本音、またはそれに近い。だからこそ笑いながらも共感してしまう。

ネタバレBOX

福間銀行(福岡県)へ強盗に入った男...人生に嫌気がさして自暴自棄になっての犯行、の予定であった。その実行の矢先、本当に寸前で別の強盗が入り行員を人質に支店を閉鎖してしまう。自身も客の一人として人質になってしまう。芝居的にはありそうなシチュエーションである。この強盗未遂の男は、優柔不断で家族からも見放されている。(そう思い込んでいる)。ラストに家族との繋がりも見え、救いもあるようだ。

コメディ...人生の岐路に立つ悲哀もそこそこ。その間抜け、恍けた風体と仕草は外見からしてウダツが上がらない。そんな人間が、本当に銀行強盗の現場に居合わせたらどうなるか?過去、自分が良かれと判断したこと、家族に迷惑だと勝手に思い込むこと、他人を不快にさせる思い上がり等が、哀しいまでに孤影として描かれる。
喜劇の中の悲劇...そのアイロニカルが素晴らしい。

なお、銀行強盗のシーンは、そのナンセンスな描写...警報装置の誤(手動)、防犯カメラのカラ撮影、緊急時の対応(呼び名)等は、実際には金融行政当局の指導もあり、対処手順はマニュアル化されているだろう。非リアル化が賢明だったと思う。
また、強盗を行う際にも、その手際の良さなど、人事評価のような能力主義的なシ-ンが垣間見れる。本当に見所満載であった。

次回公演も楽しみにしております。
人が流されていく川

人が流されていく川

The Stone Age ブライアント

サンモールスタジオ(東京都)

2015/08/11 (火) ~ 2015/08/16 (日)公演終了

満足度★★★★

考えさせる...
未来にあってもならいことを前提...芝居として観せるまたは考えさせるという発想力に驚かされた。この勾配のある舞台セットのように足元が不安定で、揺らぐような不安感が、公演全体をミステリー・サスペンスの雰囲気を醸し出していたようだ。

しかし、ストーリー展開する上で気になるところも...。

ネタバレBOX

舞台セットは、奥から客席に向かって全体的に斜めに下がっている。それは河川の土手をイメージしている。上手には、途中で寸断したと思われる橋の残滓がある。対岸は客席側になり、舞台上で描かれているのはこの岸のみだが、対岸(客席)には缶詰工場がある。

物語は、この川岸にある施設で働く人々の話。施設は死を願う、無意味に生きていたくない人を安楽死させるためで、町の福祉課が管轄している。調剤指示する医師もいれば、ケアスタッフもいる。近未来の姥捨山。そこは年寄りだけではなく、自殺志願者は総て対象になる。
一旦、安楽死を望んだ後、逃げ出して普通の生活に戻ろうとしても世間の目は、犯罪者よりも厳しいという。それでも死を選択する者は後を絶たず、また逃げ出す者も多くいる。
施設で働くスタッフ達も出来れば殺人に携わりたくない、と考えているというのが実情だ。

人は何のために産まれて、生きていくのか。そして”死”も自身で選択できる。しかしそれに他人、ましてや行政機関が関係しているという。「生・死」の扱いを客観的に見つめ、シュールな感じもする。その着眼点は面白く興味深いが、その状況に至る過程が説明不十分のようだ。物語として敢えての状況設定にしても、人間の内面だけを描いているわけでもない。過去、脛に傷を持つ人達にしても”死”の捉え方が淡白でその重要性が感じられない...逆に言えば”たかが命”と言わんばかりの軽さ。その心境に至る過程の説明が必要ではないか。女二人の邂逅は、静かな狂気が感じられる。その憎しみ合う雰囲気も良かった。

脚本テーマ、その観せる演出と舞台セットは面白い。役者の演技もバランス良くテンポも心地よい。それだけにもう少し臭くならない程度の説明があれば...。

次回公演を楽しみにしております。
食卓の華

食卓の華

演劇企画集団Jr.5(ジュニアファイブ)

ウエストエンドスタジオ(東京都)

2015/08/06 (木) ~ 2015/08/11 (火)公演終了

満足度★★★

不器用な三兄弟
個性が強調された兄弟とそれを温かく見守る母親。その母親が少しずつ変化していく...流れる日常に少しずつ沈殿するモノ...。

「河内家」(チラシに写る兄弟の後の表札から推察)における日常であるが、その描く テンポ 間が自分には心地よくない。公演全体を通して冗漫な感じである。
リフレーンが同じテンポで何の意味があったのだろうか。
1時間以上経過した中・後半になって、人物が生き(動い)てきたようだ。

ネタバレBOX

家族は母親と3兄弟である。父親は家を出て浮気相手と一緒になったようだ。母親はパート勤務をし、子供たちを育ててきた。長男は中学卒業後、ネジ工場で働いている。真面目で父親代わりを自認している。二男は、お笑い芸人を目指すニート。本公演の主人公で、今日生きるのに四苦八苦。三男は大学進学を目指す受験生で、プライドが高い。という性格付と現況の説明。
さて舞台は、ダイニングキッチンの一場面。中央にテーブルと椅子。上手の舞台奥に食器棚、客席側に液晶TV。下手には台上の電話。舞台奥壁の上手側かた片開窓、キッチン、冷蔵庫が作りまたは置かれている。そして、これらのセットはすべて使用・利用する拘りはよかった。

中盤を過ぎた頃...母親が長男を夫と間違えて喚き縋るシーンから動き出したようだ。それまでは兄弟の性格や状況説明(喧嘩、詰問など)に終始したシーンのリフレーンという印象である。この描き方が冗漫で飽きてしまった。
また、TVをつけるシーンがあるが、その時間が長く感じられ、芝居よりその映像に目がいく(これも作りのようであるが)。

母親は若年性認知症か精神的な疾患のようであり、入院検査をすることになる。その前夜であろうか、家族で食卓を囲むシーン。わだかまりが出来た家族の心が氷解するようであるが...。
なお夫の心を繋ぎとめるために三男を産んだ...夫婦の行為?

タイトル「食卓の華」は夫のプレゼントしてくれたバラ一輪(既ドライ-フラワー)が常時食卓にあるのが、裏切られても待つ母の哀れを誘う。もっともこの花瓶に水を差すのも潜在的な狂気のように思う。

少し異常、狂気のようなシーンも観えるが、父親は居ないが、それ以外は何の変哲もない家族の話。

次回公演を楽しみにしております。

追記あり
合歓版・南太平洋 (再々演)

合歓版・南太平洋 (再々演)

SPPTテエイパーズハウス

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2015/08/06 (木) ~ 2015/08/09 (日)公演終了

満足度★★★★★

骨太作品にして軽妙
第二次大戦中の南太平洋にある孤島の日本軍捕虜収容所を舞台にした反戦物語。
再演を繰り返し、今回は合歓版として上演した。もっとも哀歓のようでもある。
明確な主題を持つ骨太な作品であるが、その観せ方として軽妙に演出しているところもある。
敢えてその愚かさ、悲惨さを芝居として観せ(引き込み)、観客(自分)に考えさせる。そんな印象を持たせる作品である。

ネタバレBOX

舞台セットは、上手に日本軍捕虜収容所建屋とそのバルコニー。下手は熱帯性植物か、ハイビスカスのような花も見える。中央は階段状になっており、シーンによってはフラダンスが披露される。もちろん劇中における喜びのシーンであり原住民が踊るということであるから、敢えてプロ仕様にしていないようだ。

気になるところ...
平岡一等兵曹(宮内利士郎さん)が、その階級にも係わらず軍事機密に詳しいこと。
新婚旅行兼取材のように訪れた男・力(平木勇輔さん) 女・純子(倉地彩乃さん)が、それぞれ実父・養父の過去をある程度知っており、それを確かめるようだが、その知る経緯がはっきりしない。また偶然にもこの孤島で過ごした父親同士の子が結婚することになったのか...都合のよい偶然か、違和感を持ったところである。

気になった点ではあるが、この公演の大きな、そして普遍的なテーマを分かり易く観せるための脚本だと解している。また物語は、いくつかの伏線が張られており、次の展開へ上手く誘導する。そして進展するにしたがい、しっかり説明してくれる。そしてラスト...時間的な制約を持たせることで緊張感を高め、最高潮へ。

同じ舞台上であるが、戦時中の緊迫した様子と回想している平和な時代における空気感の違いを感じる。それだけ雰囲気作りが上手かったと言える。

そこには、骨太な作品にありがちな重厚感ではなく、親しみが持てる(初めて演劇を観る人も含め)よう軽妙な演出が見て取れるところが秀逸だと思う。

今、観る...いや普遍的なテーマとして再演を繰り返してほしい作品である。
次回公演も楽しみにしております。
幻想時代劇 『阿弖流為-ATERUI-』

幻想時代劇 『阿弖流為-ATERUI-』

東方守護-EAST GUARDIAN-

新宿村LIVE(東京都)

2015/08/06 (木) ~ 2015/08/09 (日)公演終了

満足度★★★★

魅せる芝居
宝塚歌劇または劇団四季の公演のようなイメージである。もちろんそんな大掛かりな観せ方になっていないが、その雰囲気である(と言っても、両劇団公演もそんなに多くは観ていないが)。華やかで魅せる公演という印象である。途中休憩を含み3時間弱は少し長いような気もする。


ネタバレBOX

全体的に華麗、妖艶という表現が相応しいと思う。しかし内容は、表層的には8世紀末期における戦記として観せる。その当時の歴史の一端を知るには面白かった。

良かったところ...
史実にフィクションを交え、エンターテインメントとして観せる。その展開・構成は遊びの部分も多くあるが、その物語の大きな流れはしっかり捉えている。だからこそ、最後まで飽きることなく楽しめる。些細なこと...小物、仕草に配慮しつつも、この劇団・公演の魅力である壮大、雄大というスケール感は大切にしてほしい。多くの劇団がある中で、独創性を持って活動することが、他の劇団との選別になる。没個性にならないように!
華麗さ...群舞が魅力の一つ。その動作(演技も含め)には人の情も見える。

気になるところ...
遊びに見えるシーン…被り物の役者、戦場になっている地域・場所を示す映像(スライド)などは、物語の展開と雰囲気を損なう(飽きさせない配慮であれば無用)。違和感なく展開させた方が良かった。
魅せる芝居であるが、やはりその衣裳は華やか過ぎたと思う。少なくとも土着民は、自然・土地等と一体となっている雰囲気が無かったのが残念だ。その対立(土着・朝廷)の象徴としてほしかった。

物語の進展・構成を重視し観せる内容にしても、劇団の持っている魅力になんら変わらないと思う。

次回公演を楽しみにしております。
空手親父

空手親父

ネコ脱出

小劇場B1(東京都)

2015/08/05 (水) ~ 2015/08/09 (日)公演終了

満足度★★★★

面白い!
昭和30~40年代を彷彿させるような人情劇...自然体な泣き笑いが優しく温かい気持にさせる秀作。
劇中にある一人パフォーマンスも...。猛暑に暑苦しい姿だが面白い。

ネタバレBOX

この劇場は、入り口から左右に分かれるように客席がある。舞台セットは、両方向から観やすいように奥斜めに家屋玄関を作り込んでおり、その出入りシーンが楽しめるよう工夫されている。この玄関の両側が板塀と溝(ドブ)がある。今のように側溝蓋がなく、当時の雰囲気が感じられる。舞台中央は、広場・路地裏に見立てたスペースで、多くの小学生が遊んでいる風景から物語は始まる。その小学生の一人の女の子・岸下恵子(佐藤佳那さん)の回想と現在を交錯させた展開は、服装や会話によって容易にわかる。その昔は、自分の子でなくても悪事・悪戯をすれば叱る、そんな頑固おやじがいたが...。この芝居では、その姿こそが空手親父・戸城保博(高倉良文 氏)である。

この芝居の好きなところは、どこか日本の良き原風景が見えるところ。とは言っても単にノスタルジーではなく、少し先の将来も見据える。忙しい日常において見過ごすまたは見逃している小さな幸せ、その当たり前のような大事なものを思い起こさせる。過ぎし日々を懐かしく思い、これからの夢に思いを馳せる。誰もが共感するような芝居である。

少し気になるところ...
近所の女の子・岸下と空手親父の関係について、父慕、苛めや不遇に思い遣る、といった上が描かれる。一方、実娘・戸城光(迫 真由美さん)との関係は、父親の心配は分かったが、娘側の気持が解り難い。父親との描く関係性が、娘とその友達とで入れ代わったように感じた。

一人パフォーマンス・ハヤブサシンジ(船戸慎士 氏)は、劇中の物語と直接の関係はなく、時代(時季)を捲るカレンダーのような役割。話の展開を分かりやすく(メリハリ)したが、不自然さもあり勿体ない。このパフォーマンスは面白いが、浮いた感じになったのが残念だ。

次回公演を楽しみにしております。
砂時計

砂時計

しかくさんかく。

王子小劇場(東京都)

2015/08/06 (木) ~ 2015/08/09 (日)公演終了

満足度★★★

詩的な...
抒情的な感じの芝居である。透明・純真・成長・恋愛そして想像といった言葉を連想させるような物語...しかしその展開・構成が観客に理解できるか。
その描きたい内容やテーマなりがもう少し分かると良かった。
一方、みずみずしい感性は大切にしてほしい。


ネタバレBOX

舞台セットのイメージは、公園にある滑り台といったところ。中央が滑り下りるところ、上手側が半回り階段、下手側が直階段(10段)である。そしてセットからの出入り口が上手下手に複数ある。またこの劇場は地下にあるが、その地下にある中二階も使用し落下させるもの有り。

自分では、少女二人の成長(小学生、中学生、大人へ...衣装の変化)と偶然知り合った男女(「せいじ」と「あかね」)の恋物語の繋がり、もしくは交差するところがあったのか。二つの物語が自然や環境の変化の中で、自分自身が成長変化していることを叙景、叙情ある感じで描いたのだろうか。蝉の話をしており、その脱皮にまで言及していたため。

恋愛に関しては、衣装や状況からイメージできないが、男が結婚を申し込むが、同時に遠くに出掛ける(帰る時期は不明)というセリフから、出征を想像した。
当時は当たり前だったであろう、国のための戦争が、時代を経てその愚かさを知る。それこそ天地がひっくり返るような出来事である。

当日パンフ「...夏。夏が嫌いです。夏になると毎年考えることがあります。...」(作・演出の小見波結希望さん)とあり、自分の勝手な思いを膨らませた。

少し比喩的なのか...しかしそのイメージがもう少し観客(自分)に伝わることが出来たらと残念でならない。

次回公演を楽しみにしております。
半夏の会 読む・話す・演じる

半夏の会 読む・話す・演じる

オフィス樹

南大塚ホール(東京都)

2015/08/05 (水) ~ 2015/08/05 (水)公演終了

満足度★★★★

充実した内容
6本の朗読…少し盛り沢山のようにも思えたが、どの作品も印象深いものがあった。朗読劇はあまり観(聞い)ていないが、改めてその魅力を認識した。さて、今回の6作品には共通したテーマがあったのか、その選定理由などは分からなかった。休憩を含め2時間45分。

ネタバレBOX

朗読順

「鉄道開通(私のよこはま物語より)」 作・長崎源之助
群読(8名)...それぞれの役者の持ち味が出ているのでしょうか、そういう演じ(聞かせ)方であるのかと思った。演じるという感じであり「語り聞かせ」という印象ではなかった。役柄とト書きもあわせて話す時もあるが、その時、物語の主筋を引っ張るストーリーテラーとの区別がよく分からなかった。

「汽笛」 作・長崎源之助
広島原爆投下後の病院の様子が痛ましい。小国民としての少年・少女の健気な様子。しかし、ある少女の父親が乗務する機関車が近づいて、汽笛を鳴らす。キレイにまとまりすぎているようで、前段の病院での悲惨な印象が暈けてくる(その対比が狙いか)。

「お父さんの家、ぼくの家」 作・悠崎 仁
放射能汚染区域内に残されたペット(犬の父子)の今日的な話。犬小屋で飼い主を待つ犬親子が食べ物がなくなり餓死する哀れ...死に至るまで互いを思いやる温かな会話が心を打つ。逆に人間の愚かさが際立つ内容である。全体的に明るく優しい雰囲気に救われた。

「雨傘」 作・川端康成
情緒的で、繊細という印象である。美しい旋律にのった男女の淡い、そして気恥ずかしい様子が微笑ましいが...。小説では、その世界の美しさを想像出来そうであるが、朗読という具体的な声色、話し方の雰囲気が、自分なりの小説イメージを作れなかった。

「羅生門」 作・芥川龍之介
映画が有名であり、自分も観たことがある。やはりその映像記憶を辿っている。その鬼気迫る映像(人の心に棲む鬼)以上のことは、この朗読からは感じ取ることが出来なかった。

「ハエ」 作・長崎源之助
圧倒された反戦物語。軍隊内で行われる不条理が若干のユーモアを交えながら切々と訴えてくる。主な登場人物は2人だけだが、学問には疎いが純粋真面目、もう一人は知識人だが傍観冷静という性格の違いにも関わらず、友情を育む。そして軍隊内でのハエとり競争が招いた悲劇...その情景がまざまざと浮かぶ。

全朗読に共通しているのが、その情景がイメージしやすいような音響・照明効果という技術面である。例えば、「ハエ」では、音響では...軍靴・銃声、照明では...灼熱の太陽・夕日・日暮を赤橙・青紫・暗黒(暗転)というように照射色が変化していく。

とても充実した朗読劇であったと思います。
Green(C)OPERA -グリーン・コッペラ-

Green(C)OPERA -グリーン・コッペラ-

劇団コスモル

OFF OFFシアター(東京都)

2015/08/05 (水) ~ 2015/08/09 (日)公演終了

満足度

勿体なく、残念で…
脚本は面白いと思うが、演出と演技に難がある。実は腹立たしい思いもしている。

ネタバレBOX

ほぼ素舞台で、上手に大木をイメージさせるオブジェがある。これは芝居の展開から木霊であることが分かる。

物語は、中小企業(零細企業)に勤めていた男が、同僚の裏切りで会社をリストラされ、悲観して樹海で自殺…。その男の生前の思いなりが地球・自然環境も絡めた壮大観あるもの。我々は自然に生かされいる…その暗喩としての樹海・木霊と自然災害等を表現していた。

この表現(演出)には、憤りを感じた。舞台にブルーシートを敷いた時、嫌な予感がした。食べ物(リッツ)を口に含んで、噛み割った後吹き出す。また、ペットボトルの水を口に含んで霧吹き出す。さらには、火山噴火を表すため粉を吹き出す。それも1回づつではない。その吹き出しの方向(角度)の考慮配慮に欠け客席にもかかる。最前列に座っていた自分にも水が…。自分はまだ少量だったが中央席に近い方々はもっとであった。
地球環境などを説く前に飲食を大事にすべきであろう。小袋に入ったアメを客席に投げていたが、キャストによっては無造作に投げており、終演後に場内を見渡したら多くが床に落ちていた。個人的には、このような演出は嫌いである。最後の挨拶時に気遣う言葉さえない。

また客いじりも3~4回行っていたが、場を楽しませるサービスか?それより、物語の雰囲気やテンポを優先して考えてほしい。

内容は味わい深く、考えさせる良作だけに、この演出と演技(歌やダンス)は低レベルで、その意味でよけい腹か立つ。もっと違う演出ができる力があるのではないか。勿体なく残念でもある。

話の内容に関して…。
家族(妻と2人の娘)と真剣に向き合ってきたのか、という回想と彷徨の描きと地球、自然に生かされている、という壮大な描きが上手く絡み合っていたのか。話として関連性が保たれていたのか疑問である。

いずれにしても、歌やダンスのレベルアップ、またその挿入の必要性と効果を十分に検討してほしい。

-奇譚-地獄たられば

-奇譚-地獄たられば

グワィニャオン

上野ストアハウス(東京都)

2015/08/06 (木) ~ 2015/08/09 (日)公演終了

満足度★★★★

らしい公演
この公演の観せ方は親切で、エピローグがプロローグに繋がりループするような展開である。伏線や散りばめたエピソードを回収し、説明しようとする感じである。その演出は、観客によって丁寧だと思うか、余韻がないと思うか分かれると思う。自分はどちらかと言うと後者である。

「グワィニャオン」と「劇団えのぐ」は、どちらも丁寧な制作をする印象を持っており、その意味で融和していた。しかし、折角のコラボなので、それぞれの劇団の特長を生かし、スパークするようなものがあったら面白かったかもしれない。

ネタバレBOX

舞台セットはシンプルで、中央奥に少し高い段差のある通路または廊下をイメージさせる横台。それに沿って粗格子または乱杭・柵のような造りがある。上手は場面に応じて、舞台上に用意する箱…椅子やゴミ箱に見立てるものが置いてある。下手は、奥通路から客席側にせり出し、壁には端切れのようなものが張られている。

人は、生前の業因によって加減ポイントがあり、地獄など六道への分かれ道があるらしい。これもよく見かける手法であるが、電車が地下に入ったら地獄…。生前、ああしていたら、ああしていれば、という”たら、れば“の悔悟の思い。その悔悟の情は、実に些細なことから、大きな過ちまで人様々である。その辻にいる衆生はどうなるのかを描いた奇譚である。
細かな点であるが気になったところ。
○地獄(迷宮?)や鬼の描写が怖くないのは愛嬌だとしても、もう少し“らしさ”があってもよかった。
○年代・年齢に拘ると、戦時中の母子(息子)が現代と同じ風貌(若い)や思考など齟齬、違和感が見えてしまう。地獄では時間感覚が生前とは違うことの説明がもう少しあると納得出来そうである(例えば、奪衣婆は600年もこの場にいるなどと絡める)。
○最後に、制作サイドに…初日は満席だったようだ。そのため舞台と最前列の間に増席(ミニ椅子)していた。しかし段差がないため最前列の観客は、座臥演技は観難くなっただろう。自分は3列目段差が大きい席に座ったので良く観えた。増席位置などは、一工夫が必要であろう。

次回公演を楽しみにしております。
星の王子さま

星の王子さま

ハグハグ共和国

萬劇場(東京都)

2015/07/29 (水) ~ 2015/08/02 (日)公演終了

満足度★★★★★

ハグハグ共和国の今らしい、素晴らしい内容
童話・寓話の類であり、夏休み・日曜日のマチネ公演は、就学前後の子供も多く観に来ていた。自分(自由席)の席の左側、そして前列(こちらは指定席)にも3人座っていた。芝居の始まりは幕にかわいらしいアニメ(?)が映し出され、子供達は乗り出して観ていた。しかし、直ぐに幕が開かない。トラブルか、と少し心配しかけた時、ようやく始まった。

ファンタジー色のある大人向けの話...現代に向けられた問題提起。

ネタバレBOX

芝居内容に理屈を並べても味気ない気がするが...ハグハグ共和国らしい観せる舞台セットであった。芝居と同時にアクロバット、ダンスなど魅せるパフォーマンスも物語の中に取り込んでいる。そして雰囲気のある衣装を着、小物を持って現れる星の数々...、その色々な星を旅する 星の王子さま が見て感じたことはなんだろう。そして最後に訪れた地球は、人間が殺し合い絶滅寸前の状況である。その寓話・寓言は明確に意図して制作されており、しっかり観客(自分)に伝わった。

さて、劇団側が知らないであろうエピソードを一つ。
子供達の前の席に大柄な大人のグループが座ることが分かった時、そのグループの人が席を交代しましょうと声かけしている。観難くなるための親切心だ。周りの観客が微笑ましく見守る優しい場内...ほぼ中央の階段席のことであるから多くの人が見ていたと思う。
子供が観るような公演の時は、厚手の座布団を用意しておいたらどうか。

終演後、主演・星の王子さま(月野原りん さん)が子供達やその母親から頼まれ記念撮影していたが、折り敷きしっかり子供の目線に合わせる。「大事なものは目に見えない、心で見る」といった旨のセリフがあったが、それを地でいくような姿。公演は受付から始まり、観客を見送る迄だとすれば、実に気持ちの良い観応えのある対応であった。
この温かな雰囲気が劇団の歴史を15年まで刻んできたと思う。

次回公演も楽しみにしております。
伝奇浪漫「芳一(ほういち)」

伝奇浪漫「芳一(ほういち)」

劇団め組

吉祥寺シアター(東京都)

2015/07/30 (木) ~ 2015/08/02 (日)公演終了

満足度★★★★★

素晴らしかった!
自分が観た「劇団め組」公演では一番好きかもしれない。脚本、演出、演技、照明・音響効果等、全てにおいて堪能した。舞台の雰囲気を「妖幻」と造語するが、観(魅)せ方が自然体で本当に楽しめた。
特に、新宮乙矢さん の演技は悲哀・情念・怨念など時代を超えた思いが…迫力があった。

少し気になったところ…。
初日のせいか、殺陣シーンが粗いように感じたので丁寧に演じてほしい。
また、冒頭の事件(乱)は、歴史に詳しければ理解しやすいが…。少し割愛し過ぎたかもしれない。

些細な難点はあるが、大きな見方(娯楽芝居という観点)をすれば秀作だと思う。

ネタバレBOX

梗概は、説明を一部引用…「保元の乱で敗れた崇徳院が讃岐に流刑され、その怨念が700年の時を経て、幕末の京に現れる。長きに渡り、武家政権の実効支配のもと、その権威を封印されてきた朝廷が復権を目論み、勤王の志士達との連携を開始しようとしていた。彼らが目指すは倒幕。
そのころ、京の一条戻り橋に一人の法師が姿を現した。名は芳一。何処から来て何処へ行くのか知る者はない。芳一は、式神が潜むという一条戻り橋で不穏の気配を嗅ぎ取る。式神を使役出来るのは、安倍晴明の流れをくむ陰陽師土御門家。血の抗争が激しさを増す京で、芳一は、朝廷の野望と、その歴史に隠された怨念の闇に足を踏み入れようとしていた」ということ。

この舞台の良かったところは、もちろん演劇要素が素晴らしいことであるが、人間の業という、本人の意思をも飲み込むような不思議な力。その如何ともしがたい悲しさのようなものが滲み出ている味わいである。観ている者が思わず納得してしまうような内なる魂...それが怨霊へ変化しようとも、打ち消したくない気持にさせる。朽ちた姿であるが、何故か美しいのである(「徳」の字を諡号することで鎮魂された)。

さて、舞台セットは中央が宮殿内、場面によっては公家の門前を作る。基本は上手側だけ見たら流水文様のようで、その円形真ん中を刳り貫いた造作である。客席側の上手・下手には波涛文様の高衝立が各一対。そして、先に記した一条戻り橋が下手に架かる。
このシンプルなセットを照明が見事に映えさせた。基本的な射光もシンプルで、その衣装...例えば束帯や十二単をイメージさせる華やかさ、それが彩りとして照明効果を際立たせた。そして見せ場のスポットなどメリハリが印象に残る。そして、ラストの崇徳院の成仏というか昇華というか、その定法に従った演出は見事で、大きな余韻を残してくれた。
本当に娯楽芝居の醍醐味を堪能させてもらった。

次回公演も楽しみにしております。
into the shadow

into the shadow

EgHOST

バニラスタジオ(東中野)(東京都)

2015/07/31 (金) ~ 2015/08/03 (月)公演終了

満足度★★★

示唆するような…
電車遅延(人身事故)であったがギリギリ開演に間に合った。その旨事前にメールし連絡しておいたが、制作サイドから丁寧な返信があった。また受付もスムーズで時間通りに開演した。
そのような劇団の芝居は…。

ダンス2本と芝居2本であったが、芝居のうち1本目は2014年12月の忘年会を兼ねた公演と同じ演目であった。しかし、昨年末は1時間程度あった上演時間を今回は約40分に短くしている。
また、2本目との関係性が分からない。この点を終わった後、作・演出の西荻小虎 氏に尋ねたがあまり関係については考えていないようであった。

しかし自分としては、次のような関係を感じていたのだが…。

ネタバレBOX

1本目「tHe End oF EveRyThing」は、年末公演に比べると、数学的な定理の説明、労働と労働力というマルクス経済学的なシーンを短くし、またはカットするなど整理し観やすくなった感じである。一方、年末の時のような客席を縫いながら演じる緊張感、椅子に乗るダイナミックさ、難解な台詞をまくし立てるような迫力は削がれた。

2本目「into the shadow」は、初めて観るが、寓話のような...登場するのが人造人間か生身の人間か判然としないところもあったが、混在した社会・世界観を描いたと思われる。その物語であるが、食品工場と思われるところでの単純労働、しかし、それでも「任される」という自尊心を持たされる嬉しさ。それに慣れるとさらにステップ・アップしたくなる。単調な仕事への不満、変化という刺激を欲する...人間(的)らしい欲求。

本公演では照明技術が素晴らしく、素舞台を立体的に演出していた。

1本目と2本目の関連が無いようだが、何かスパークするような気がしていた。観終わった後に漠然と感じていたこと(西荻小虎 氏にも話したが)。

全体を通して、宇宙・ビッグバン⇒地球形成⇒人類誕生(ここまでが1本目)、薬物依存による廃人⇒ロボット(人造人間)化⇒破滅的な先にある未来(これが2本目)という壮大なストーリーがあるように思えてくる。物理学や数学という宇宙観、リンゴなど食の挿話に見られる人類誕生のイメージなど、エピソードが散りばめられている。今後は、散らばりを収集・収斂し、再構築して観せてほしい。

なお、敢えて短く(分割)しているのは、某演劇コンクール参加(上演時間、役者数の規定あり)のためとのこと。

多くの引き出しを持っていると思われる、西荻小虎 氏の次回公演を楽しみにしております。
君原毬子の消息

君原毬子の消息

劇26.25団

駅前劇場(東京都)

2015/07/30 (木) ~ 2015/08/03 (月)公演終了

満足度★★★★

極上なサスペンスドラマ
戦時中から昭和40(1965)年頃と思われる時期の芸能一家で起こる極上のミステリー・サスペンス劇。その住まいを中心に過去と現在が交錯し、其々の思惑が渦巻く自我の世界。登場人物は多い(当日パンフに家系、相関図あり)が、そのキャラクターと立ち位置が分かる様な説明プロローグとストーリー展開があり、観せる芝居であった。その雰囲気は耽美・妖艶といった感じであった。とはいえ、シリアス、ポップという違いの見せ方も...起用で丁寧な制作という印象を受けた。


ネタバレBOX

舞台の作りは能舞台のような正面席、中正面席、脇正面席のような感じで脇正面に相当する席(ひな壇)が自由席である。要は下手側で舞台横から観るイメージであるが、それでも十分堪能できる。そして、正面通路、舞台と自由席最前列との間の空間を通路とし、会場出入り口方向へ延びている。それ以外に通常の上手・下手(実際は捌けない)にも口があり、変幻自在な入退場をすることで、臨場感と心地良いテンポを生み出している。

自宅・日本家屋で絞殺された稀代の女優・君原夢子(リサリーサさん)、そして5人の子供がいるが、すべて養子縁組である。そして第一発見者の使用人セツ(林佳代さん)など、登場人物は一癖二癖あるような人たちばかり。その人々が紡ぎ織り成す物語は、同一人物が子供時代から大人に成長した現在との対比、そこには同じ時間・境遇を共有した子供(其々の血の繋がりはない)と義理の両親、君原英夫・夢子との関係性が丁寧に描かれる。端役俳優と有名女優の相克した夫婦関係、テレビ界の隆盛と映画界の斜陽の中で、”映画女優”という矜持、そのプライドを踏みにじるような状況にイラつく姿に迫力があった。そして、一人の人間・女としての心情がしっかり伝わる哀しい思い。

さて、タイトル「君原毬子」は、愛子の実の娘(父は英夫ではない。結婚前に夢子は妊娠していた)という設定である。現在、その消息が分からないという。その娘が実母を殺害した容疑者に...。殺害現場にそのイニシャルが刻まれたペンダントが落ちていたから。果たして犯人とその殺害動機は? そして実娘の消息は? 劇場へ足を運んで確かめて。

次回公演を楽しみにしております。

このページのQRコードです。

拡大