タッキーの観てきた!クチコミ一覧

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サヨウナラなら何度でも

サヨウナラなら何度でも

試験管ベビー

王子小劇場(東京都)

2015/11/06 (金) ~ 2015/11/08 (日)公演終了

満足度★★★★

それぞれに味わいが...
3作品ともしっかり笑わせてくれるし、テンポもよく飽きさせない。
タイトル...「サヨナラなら何度でも」は、三番目に上演されるが、その前の2作品「天使の夜2」、「東京ポエマーズ」との関連はあまり見られなかった。
観客の好みであろうが、自分としては上演順が...。

ネタバレBOX

「天使の夜2」(全員女性キャスト)
試験管大学病院に系列病院から新しい看護師が赴任してくることになった。この新任者から、この病院には死神と呼ばれている看護師がいると...そのような噂は病院にとって好くないと。実は余命が短い入院患者を好きになってしまい、その結果のあだ名だという。

「東京ポエマーズ」(全員男性キャスト)
続唱のような...ポエムを読むだけであるが、そこにはしっかりお題がある。力強い言葉、言い難し言葉、空気が読めない言葉、という3つのキーワード。観客としては、どこかで噛むのでは、と少し期待しだが...真面目だった。

「サヨナラなら何度でも」(男男・女女・男女)
樹海に自殺をしにきた人たちが偶然知り合い、会話をしているうちに自殺(死)の恐ろしさを知ることになり...。自殺という手段から死という表層を観せながら、その逆にある生の尊さを訴えるようなテーマ。それが笑いを交えてライトに描き出す。樹海に授(受)戒するカルト教団も現れて賑やかだった。少し強引な展開であるが、些細なことは気にならないテンポの良さ。この劇団は、女性同士、男性同士の組み合わせが多いような。ここでも先輩(男)と後輩(女)だけが異性アベック。演出し易いのか。

この順番であるが、「天使の夜2」、「サヨナラなら何度でも」は物語であり、その緩い?ようなテーマも垣間見える。「東京ポエマーズ」(言葉=伝える=命?)は読みだけであり、それが間に入ることは繋がりが途切れるような気がする。もともと繋がりが直接的には見えないし感じられない。1番目にして、この公演全体の”つかみ”にしてもよかったと思う。

個人的には、3作品に何らかの隠れテーマがあって繋がっていたら面白いと思っている。
次回(早く東京公演を予定して)も楽しみにしております。
彼女にとって無敵の世界

彼女にとって無敵の世界

ライオン・パーマ

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2015/10/29 (木) ~ 2015/11/01 (日)公演終了

満足度★★★★

好きです
ファンタージーのようであるが、いくつかの文学挿話は寓話のように教訓が刻まれる。主人公・彼女に対する優しい物語...喪失の現実から覚醒した未来が見えるような力強い話であるが、その演出は軽妙である。描かれた絵(シーン)や言葉(せりふ)は、愛する父親の優しい手の温もりの中で、少女が逞しく成長していく様を観せる。その”シーン”や”せりふ”は快活な明るさ、優しさが吹き込まれる。

この公演では繊細な、というより笑いの連続の中で徐々に明らかにされる真実。瞬時に明かされる驚きよりも、悲しい現実が少しずつ氷解するような表現をすることに優しさを感じる。同時に印象的でもある。

この世には厳しい現実がいくつもあるが、それは必ずしも目に見えるものばかりではない。いや見えているが感じないこともある。あまりの大きな悲しみに向き合うことも出来ず、心の目を閉ざしている。この公演ではそのような話をファンタジー・コメディとして描いている。

Vol.62「Rehabili Billy」

Vol.62「Rehabili Billy」

劇団Turbo

駅前劇場(東京都)

2015/10/28 (水) ~ 2015/11/01 (日)公演終了

満足度★★★★

心が豊かに
軽妙なタッチで場面ごとに楽しく面白いが、その底流には人間讃歌がしっかり描かれる。芝居全体としては流れていると思うが、冒頭シーンとラストシーンにおける相関が弱いと思った。逆にそれは物語の関連付けが強引のような...

ネタバレBOX

冒頭は代行(偽装)グループ(特に結婚式における仮家族)のこと、ラストは建設会社(鳶田組)におけるヒューマンドラマである。もちろん、先のグループにいた高橋翼(銀次郎サン)が鳶田組に就職したという繋がりはあるが、それであれば冒頭のシーンはなくても物語は成立するのではないか。その関連に必然性がないから分離(二分)した芝居のように感じてしまった。

さて、登場人物は善人ばかり。その立場や思いが相手に上手く伝わらない。特に親子は身近すぎて知っているようでも理解(了解)はできない。その機微ある描きが実に良い。

親方・鳶田辰夫(富田誠サン)の息子2人(オカマ、落語家志望)は、建設とは無関係な世界にいる。親子の確執、職業に対する誇り、マイノリティーも垣間見える。職人・高橋翼は孤児で家族の温もりを知らないようだ。その悲哀を冒頭シーンで描き、この家族と対照させたかったのだろうか。

終盤は、硬派のような親方が建築現場から落下し、高所恐怖症になり現場復帰できなくなる。心身のうち”心”のリハビリが必要になるが...この経験がいろいろな意味で痛みを知ることになり成長する。このリハビリシーンは落語家を目指している息子の噺とシンクロして描かれる。このタイトルにあるラストシーンは感動的であった。

次回公演も楽しみにしております。
心中天網島

心中天網島

遊戯空間

上野ストアハウス(東京都)

2015/10/29 (木) ~ 2015/11/03 (火)公演終了

満足度★★★★★

共感して…
20代の頃、演劇研究者の故中山幹雄 氏から近世文学(鶴屋南北、近松門左衛門など)を学んだことを懐かしく思い出した。当時は、どれほど理解していたか定かではないが、「女殺油地獄」の朗読劇を発表したことがある。今でも写真とテープが残っており、恥ずかしいが記念でもある。

さて、近松門左衛門の作品についてはチラシ説明で詳しく書かれているが、その魅力は、登場する人物が皆追いつめられて破滅の道を選ぶ。追いつめられる状況が物語であり、その道を選択せざるを得えない、そこに共感が生まれるのだろう。
芝居は、その選択の過程が観客の機敏に触れることが大切だと思う。しかし、制作側が結果・結論を示しては面白くない。”どうして“は観客に委ねることで解釈が画一的ではない広がりが出来る。

本公演は、近松作品の物語としては忠実であるが、その演出は生演奏音楽、舞台美術としての映写文字など新しい試みで観(魅)せていた。

ネタバレBOX

近松作品は、当時実際に起きて世間を騒がせた事件をもとに創作しているという。その中でも「心中物」は、世間の好奇心や同情が集まり人気があったらしい。この頃の暮らしは、元禄バブル期から享保の質素倹約へ閉塞感が漂い始めた時期である。人々の不満など疲弊した状況を、今でいうワイドショーのような驚きと好奇な目で見ていたと思う。当時は心中事件が多く、幕府は世の乱れを憂い厳しい取締りをしていたという。そんな世相と近松作品...人間の本音を浮き彫りにしつつ、覗き見る感覚が庶民に支持されたようだ。

現代においても心中は世間の耳目を集めるが、今の心中動機としては、近松作品のような理由では弱いかもしれない。この心中という結末に向けての道行きが情感豊かに描かれるからこそ愛される。そこには今にも通じる人間の魂が観えるから繰り返し上演されるのだと思う。

本公演は物語(現代ではストーリーに新鮮味がない)こそ忠実のようであるが、観せる工夫として独特の台詞回しを字映し、当時のゆったりとした動作が緩慢に感じないよう、生演奏によって”情”という 間 をつくる、など多くの特長を持たせている。そこには古典芸能を現代でも観やすく、さらには面白くする創意が施されており感心した。

それにしても、江戸時代は庶民の娯楽であったものが、今では学問...本公演でも様式、丹誠というイメージがピッタリする。時を経て”伝統”的になっても、観られなければ廃れる。その意味で、この公演のような伝統を大切にしつつも新しい試みを続けてほしい。

次回公演を楽しみにしております。
シー・ザ・ライト

シー・ザ・ライト

もぴプロジェクト

高田馬場ラビネスト(東京都)

2015/10/28 (水) ~ 2015/11/03 (火)公演終了

満足度★★★★

物語の面白さ、テンポの緩さ
チラシに「有島武郎に敬意を表して」とあり、彼の作品「生まれ出づる悩み」がこの芝居のベースにあるという。
極論すれば、人間は生まれた時、すでに死ぬことに向かって生きることになる。そう考えれば、なぜ生まれてくるのか、という疑問が生じる。さて主宰で脚本・演出の下平慶祐 氏は「…生き様の問題なのだ…」として、この芝居を作り上げたと、今どき珍しい 手書き 挨拶文を配付している。

さて、この舞台セット...暗幕で囲い、その内側(客席以外の三方)に白い板を横向きにブラインドのように組み込んでいる。その雰囲気は、有島武郎(芝居の主人公)の人生末を思わせるようにも感じた。

ネタバレBOX

物語は、映画制作に携わる人々が、某映画賞を獲得するまでの人間関係...主人公・斎藤雅樹(前嶋優治サン)の優柔不断、周りの人々の生活、恋愛が絡み、少し切ない思いも描く。
さて、舞台セットは主人公の高校生時代の教室(机が2つ)と、映画制作事務所(中央に作業台並列・小物、冷蔵庫)の2シーンで構成。相互の場面転換はなく、時間は未来に向かって経過する。そして黒と白というモノトーンが囲む...まるで鯨幕のようである。そこには原作小説家の自死をイメージするような深淵が観てとれる。下平 氏が描きたい(自分の演劇人としての)思いも、この芝居の映画制作人に重ね合わせているようだ。その意味で物語は面白いが、そのテンポ、流れが緩く冗長(飽き)になるシーンもあった。その第一がワンシーズンという設定だとしても、衣装が同じであり時間の経過が感じられない。空気、雰囲気の流れがなく澱んでいる。また役者の沈黙時間が若干長い。その間(ま)は必要かもしれないが、それにしても...。
全体としては観せたいという“思い”が十分伝わるので、それをどう観客に伝える(観せる)かという工夫をしてほしいところ。

次回公演を楽しみにしております。
花とフィーユ

花とフィーユ

少年ギ曲団

シアター風姿花伝(東京都)

2015/10/29 (木) ~ 2015/11/01 (日)公演終了

満足度★★★

笑いの多い冒険活劇だが...
軽妙なタッチの冒険活劇であるが、その底流にあるのは自然との共生である。自然...”漠”として捉え難いが、この公演では「世界樹」を象徴として用い、その花(華)が咲くことが、自然の恵としているようだ。
舞台セットは段差を用いた立体感があり、その組立構(一部照明を含む)を白い布で被い、幻想的な世界を創り上げていた。その幻のような危うい雰囲気は分かり易く、描き難い人間の内面(心理)や時空間を越えてという多重構成はない。それだけにストーリーの面白味が大切であり、その進展をしっかり観せる演出が重要だと思う。

ネタバレBOX

多くの笑いを散りばめ、飽きさせない工夫をしている。しかし、その散りばめのシーンと程度はテンポが緩くなり、シーンによっては冗長に感じてしまう。魅力ある人物が描き出されているのであれば、その背景を観せることによって物語に深みが生まれると思う。
例えば、旅人(ナガレとハジメ)が知り合ったキッカケ、世界樹の花弁が盗(摘)まれた理由...などの説明があると興味が増し理解が得やすい。
暗殺集団(5人衆)との殺陣?は、もう少し緊張・緊迫感があったほうが、各所の笑いとの対比でバランス(メリハリ)が良かったと思う。

テーマの重要性を訴えるのであれば、笑いの面白さ楽しさにとどまらず、その印象を刻み付けてほしかった。その意味で少し勿体ない公演に感じた。

次回公演を楽しみにしております。
最後に歩く道

最後に歩く道

TOKYOハンバーグ

サンモールスタジオ(東京都)

2015/11/01 (日) ~ 2015/11/08 (日)公演終了

満足度★★★★★

生命とは【公開ゲネプロ】
芝居の魅力とは何であろうか。波瀾万丈の物語か、虚実皮膜の世界であろうか。もちろんその要素は大切であるが、やはりその作品で何を訴えようとしているのか、その力強さではないか、そのことをこの公演から強く感じた。この公演は、直接的には動物(犬、猫)の「生」と「死」であり、人間のことではない。しかし、描かれる動物愛護センターでのことは、犬、猫という動物を対象にすることによって、その行為を行う「人間」そのものが描き出されているようだ。
この公演は、しっかり取材(ネット情報はもちろん、実際熊本市動物愛護センターの実地見学)を行っており、その内容が台詞の一言一言に重みとなって伝わる。その言葉が共鳴し合い、公演全体を重厚感あるものにしている。そして単に芝居を観せるという域から記憶に残すというメッセージを感じる。

ネタバレBOX

生命という大きな命題を描くため、その「生」をイメージさせる人間のことば、動物の鳴き声が明確に伝わる演出である。一方、車の走騒音など無機質な音響を挿入することで、生を感じさせない。逆にその効果音が人間も動物も持っている思いのようなものを際立たせる。
人間であれば、喜怒哀楽を「嬉しい」「憤り」等を言葉に当てはめて表現する。言葉は発した先からその感情はこぼれ落ちるかのようだ。言葉は手段であり、その奥には思いがある。相手(人間であれ動物)への膨大で深い思いが愛情や感謝であろう。その生きものがそこにいる、その存在が喜びであり驚きである。その肯定なくしてこの世でのあらゆる生きしものとの共存は難しいであろう。そんなことを改めて考えさせる素晴らしい公演であった。

次回公演も楽しみにしております。
私的恋愛ベスト〜全ての女に懺悔しな!〜

私的恋愛ベスト〜全ての女に懺悔しな!〜

元東京バンビ

スタジオ空洞(東京都)

2015/10/24 (土) ~ 2015/11/01 (日)公演終了

満足度★★★

面白いが...
1話ごとの恋愛話はオムニバスのようであるが、主人公・はやし(はやし大輔サン)の体験談を回想風に描く。それぞれの恋愛話は面白く笑わせてくれる。
なお、当日パンフ...作・演出のアダチヒロキ 氏が、この公演は実話2%、フィクション98%で作ったと書いている。

気になったことは...

ネタバレBOX

もうすぐ40歳非モテ男・はやし の近況から始まる。そこに芝居台本の執筆ネタとして はやし の日記帳から過去恋愛を回想する。劇中劇といった構成であるが、この男の学生時代からの恋愛エピソードは誇張しているが、ありがちな内容である。この非モテ男が感情豊かに表現されていた。
しかし、”笑い”は上辺だけのようで、芯からおかしみを感じられなかった。

さて、制作サイドの件。
客席はL字型で、入口左側に舞台セットが組まれている。右側から奥の壁際へ曲がるように客席がある。芝居を観るには正面(右側席)から観ると分かり易い。本公演は会場入口に向かっての演技が多いことから、奥壁際に座ると後姿の演技が多くなり、役者の仕草や表情が観難い。この席配置にするのであれば、もう少し演出・演技に工夫が必要だと思う。また、開演時間に間に合わなかった観客が入口の正面(増席)付近に座り、結果として観易い席というのも...(誘導しやすいのはわかる)。

また場所によっては、演技する方向の延長先に照明があり、シルエットになるシーンが多々あった(冷蔵庫近くの数席)。スタッフに案内された自分の席も例外ではなく、ストーリーの面白さは分かるが、演出と演技の魅力を掴み取ることが出来なかったのが残念である。集客数との関係もあるだろうが、照明が当たる先には座席を設けないほうがよいと思う。

次回公演を楽しみにしております。
伝六捕物帖 KOI/KATAKI

伝六捕物帖 KOI/KATAKI

劇団岸野組

本多劇場(東京都)

2015/10/18 (日) ~ 2015/10/25 (日)公演終了

満足度★★★

緩いが、観せる芝居
典型的な大衆娯楽(時代)劇...話の展開は分かり易く、その結果も安心して観ていられる。全体的にゆったりとしたテンポ(特に演技)であるが、場面転換が早く心地よい時風で流れる。場面転換はほとんどが暗転...それも完全暗転、薄明かり、スポット照明など、工夫は凝らしている。この上演後、ちょっとしたサプライズが...。座長の60歳の誕生日ということもあり、舞台上で出演者がケーキと赤いタオルをプレゼント。35歳で画気団を旗揚げし、今年で25年になるという。自分も45歳に?と冗談を(爆笑)。コメディ芝居らしい、ウィットに富んだ落ちのある挨拶であった。

ネタバレBOX

梗概は、父の仇を探し求めて苦難の旅を続ける真之輔一家の手助けと、町娘・お妙を付けねらうストーカー退治。ところが、この二つの事件が意外な関わりをみせる。
人情劇であるが、大きく笑う、泣くという場面はなく、坦々と展開する。もちろん捕物帖であるから事件を解決することになるが、そこは幽霊になった恋女房の手助けがある。この見所は、武家嫡子と町娘の恋路、嫡子の父の仇がその娘の実父、その仇討にどう決着をつけるか、どうして仇討になったかという顛末・真相、仮に仇討成就した時、その先は...ラストシーンは大岡裁きならぬ、立会人の名裁き。実はその裏にはもう一つの事実がある。

仇討という武家社会の不条理、貧しい中での庶民の思い遣り。諸法と人情に揺れる描写が実に優しく悲しい。
ラストは予定調和のハッピーエンドであるが、観応えのある好公演であった。

次回公演を楽しみにしております。
蟻と太陽

蟻と太陽

兎団

プロト・シアター(東京都)

2015/10/22 (木) ~ 2015/10/25 (日)公演終了

満足度★★★

少し欲張ったような
「島原の乱」をモチーフの中心にした歴史劇...もっとも脚本家・能登千春 女史は、歴史パロディという分野の芝居だという。しかし、その描き方は多重構成による重厚感を意図しているように感じた。本筋の歴史物は現代への警鐘が聞こえるような内容で示唆に富んでいるようだ。このプロト・シアターという小さな空間に「島原の乱」の緊迫・戦闘と悲しみが広がる。歴史劇ではないと説明(当日パンフ)しているが、しっかりと調べている。それゆえ物語が骨太に観える。
公演全体としては欲張ったもので、訴えたかったテーマが暈けたように思えた。

ネタバレBOX

キリスト教迫害・弾圧、今では考えられない蛮行を行った幕府...その為政(者)の在り方が問われる。そしてキリスト教への仕打ちを現代日本の人権と平和に置き換えた時、足元の危うさが透けて見える、そんな強かな投げかけをしている。その象徴するような台詞、「戦わなければ、心は腐る(朽ちる)」である。そして戦いに直接参戦せず後方支援だけでも参戦したに等しいと…どこかの国の論議に似ている。そのような問題提起をあちこちに散りばめており、社会性が垣間見える公演でもある。
その舞台セットは、木箱が数個と衝立一つという簡易な作り。しかし、城の攻防など臨場感ある観せ方になっていた。

さて構成が、現代(学生時代)、過去(島原の乱)と地球外生命体(宇宙人)を登場させるが、そこまでの壮大さはいらない。現代・過去の二局面で濃密な台詞の応酬があったほうが印象的だと思う。
宇宙人が俯瞰するようであったが、地に足をつけ、しっかり見届てほしい。
その後の天草四郎は、弾圧・迫害されていた殉教徒は、明治時代へスルーすることなく、虐げられても生き続ける人々を見る、そのような強かさがほしいところ。
骨太な作品であるが贅肉もあり、それを削ぎ落としシャープな観せ方へ…ハロウィンのような髪飾・被り物の宇宙生命体の描きは必要ないと思う。

次回公演も期待しております。
Obtain~over the horizon~

Obtain~over the horizon~

風凛華斬

シアター風姿花伝(東京都)

2015/10/22 (木) ~ 2015/10/25 (日)公演終了

満足度★★★

エンターテイメントのようだが…。
海洋冒険ロマン...そのイメージは映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」(2003年公開から)のようでもあった。映画はその映像に訴えたが、本公演はほぼ素舞台で、その演出・演技で観客(自分)の想像を膨らませてくれた。
登場人物は多いが、大別すれば3グループ(当日パンフに顔写真と役柄あり)で、前半の登場時はだいたいグループ単位で現れるので混乱することはないだろう。
この公演は海賊船の描写が中心になり、その大海原の場面をどう描き出せるかがカギとなっていた。それは架空の世界であり、自由に時間軸を操作し大胆な発想が楽しめる。それをどう役者が体現し観(魅)せるか。その芝居は無風ではなく、心地良い風(テンポ)を感じた。
しかし気になるところも...。

ネタバレBOX

梗概は、説明から引用「少年クルシュとトレジャーハンターの一行は伝説の秘宝を求め、 海底をさまよう大海賊ディルハムの船へと乗り込む。 その海賊船で一行を待っていたのは、とんでもない事実だった」となる。

いくつか挿話があるが、回収しきれたのか疑問が残った。
まず、お嬢様(イェン)が執事(セン)に言った、新製品(兵器?)とは何か。追跡する際の重要物に思った。この航海で試用するとのことであり、物語の展開にどう関係していたのか。
次に地の果て(地球の先)で見つけた”糸(紙コップに巻き付け)”は本来の目的ではないとの説明であったが、その本来の使用とは何か。敢えて場面を区切っての会話など...。まだ些細なことはあるが、物語に影響しそうな事柄は気になる(観逃したかもしれないが)。

大海原の帆船イメージ...二海賊団が幽霊船と交戦するシーンは、上手・下手から挟むのは右舷・左舷から乗り移るイメージであり、その臨場感をよく表していた。ほぼ素舞台ではあるが、上手・下手に段差のある台を設けてある。その高低差を利用しマスト、甲板、船倉など船の部位を表現している。その立体感は物語の壮大さとあいまって冒険活劇として動いている。そこに120年前に幽霊船になった悲しい恋愛話が絡む。愛しい人に死なれ、「秘宝」で死人を生き返らせ...。限りある「命」だからこそ、愛しく大切にしたいと思う。この時代を経て伝説化した話と、今に伝わる「秘宝」がしっかり繋がり観応えがあった。

次回公演を楽しみにしております。
無心

無心

劇団 東京フェスティバル

小劇場B1(東京都)

2015/10/23 (金) ~ 2015/10/28 (水)公演終了

満足度★★★★

今日の問題を分かりやすく 【長谷部優 版】
沖縄県における米軍基地反対運動の話。
その問題意識は分かりやすく、誠実な捉え(観せ)方をしていると思う。実際に起きている事柄をいくつかの視点から検証させるような描き方である。
公演として、登場人物はみな善人でその場所...米軍基地反対小屋での立場の違いはあるが、本音としての思いは同じである、とのようだ。
次の点に興味を持ち、同時に気になるところも...。

ネタバレBOX

興味深く観たところは...
第一、沖縄県民による基地反対派と基地(容認)移転派の鬩ぎあい。そこには治安・環境と経済依存という対立面があることは周知のこと。それを日米地位協定を絡め、東京(羽田)と沖縄(那覇)の民間航空運賃・飛行時間を例にとり分かりやすく説明する。

第二、沖縄県以外の人が基地反対運動の応援することに対する、県民の考え、思いが語られる。ここでは、東京(立川)から来た反対運動者の視点を通じて問題提起をしていた。

第三、基地反対派のリーダーの娘と米兵との恋愛。その国籍・立場を超えた人間(本能)的感情の素晴らしさ、父親としての心情が覗く。その例として基地の兵による暴行などが悲惨な事件として語られる。

この物語の舞台セットは、中央に「基地反対違法工作物」としての小屋が建つ。そして反対プラカード。音響に米軍機の爆音が...。

気になるところは...
沖縄県以外の人(自分も含め)は日常的に現実を見ていないが、逆に沖縄県民が自分たちの直面している問題を疾病(痛風)の身体症状の比喩表現として...”小指”ほどという認識・同調?であるとすれば残念である。

さて、日本には第二次世界大戦後に制定発布した「日本国憲法」があるが、それとは別に新日米安保条約に基づき日米で締結した「(日米)地位協定」がある。この協定により在日米軍の取り扱い(治外法権、特に裁判権)は、日本国内であっても日本の法律より優先され、駐在公館(兵は外交官扱い)のようである。1995年に起きた沖縄米兵少女暴行事件等、また、それ以外にニュースにならない痛ましい事件があるかもしれない。日本の中にあってその主権が及ばないという不思議さ。日本国憲法との関係は整理できるのか等々、自分で思考することの重要性を投げかけてくる。
芝居としては、重要な問題提起をしているが、重くならず客観的な描写に徹していたようだ。一人ひとりの立場、考え方の違いがある中で、それでも敢えて沖縄県米軍基地問題を今日的テーマとして取り上げた意義は大きいと思う。

次回公演を楽しみにしております。
家を出た

家を出た

ことのはbox

d-倉庫(東京都)

2015/10/21 (水) ~ 2015/10/26 (月)公演終了

満足度★★★★

格闘している演出と演技【Team葉】
その場...非現実な関係性の中でどう表現するか、極めて難しい演出・演技だと思う。それに果敢に挑み体現しようと格闘しているようであった。
その舞台空間はオフホワイトを基調にした浮揚感あるもの。そして物語は回想録でも自伝でもなく、強制的にその場に連れて...いや出現させられた。その形容し難いものを体現する演技...役者は自然体で「その場を表現」しなければならない。
本公演では、主役は「その場という舞台空間」であり、それを立体し概形するのが役者の役割だと思う。その雰囲気は出ていたが、少し気になるところも...。

ネタバレBOX

舞台セットは上手に踊り場のある階段、中央はテーブルを四方から囲むようにソファー、下手は受付カウンター、キッチン(?)。舞台中央奥と上手に通路。そのイメージはシェアハウスのようである。その場は無念の空間(時の経過や天候もあった)であろう。予期しない「死」、これをどのように受け止め、現世への思いを断ち切れるのか。この形容しがたい世界は非現実であり、もはや自己顕示とは無縁の所である。一方、その場にいる(死)人は、まだ現世への未練と残してきた家族や周りに人々が気になる。この一見矛盾した不条理とも思えるような事象の不思議さ。役者たちは脇役の位置に身を退かせ、むしろこの空間が自分達に似つかわしくないという、世界観を丸ごと描き出してほしかった。

本公演では、”その場の登場人物”は自己主張をし、現世への「未練」と「恨み言」が騒がしいゆえに、その場は現世と来世の挟間で彷徨っている、死しても成仏できないという憐憫が観てとれない。慎ましやかな台詞回しによって、逆に非業(情)な死に対する慟哭のようなものが聞こえるのではないか。

さらに、”消える”に至った心境の変化が分かり難い。突然に4人が消える、管理人さんが消える、という部分を描くことによって、先の場面がイメージできる。その消える思い...それが何であるか、もしかしたら”その場”が無(消)になる。思いがあるから、その・この場が存在するのであれば、その消える気持を十分伝え(観せ)ることが大切だと思う。

次回公演を楽しみにしております。
オバケの太陽

オバケの太陽

劇団桟敷童子

すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)

2015/10/23 (金) ~ 2015/10/30 (金)公演終了

満足度★★★★★

黒い涙が…
場内は、一面ひまわり畑で、それは実に美しい。同じように戦後復興期における労働者、特に炭坑労働者の資本(会社)に対するいくつかの檄文も掲げられている。
その炭坑街をイメージする風景...一瞬の舞台転換で栄枯盛衰を表現する演出の巧みさ。
その後、廃炭坑街で暮らす人々のあり様と人情味は心に沁みる。そしてラストシーンは滂沱する。

ネタバレBOX

戦後の復興期に鉱工業生産が間に合わず、鉄道敷設等が出来なかった。その後、政府の石炭優先の傾斜生産、炭坑治安が功を奏し経済再建に貢献した。
しかし、1970年代オイルショックを契機にエネルギー政策も影響し、炭坑衰退の一途を辿り、1997年の三井三池炭鉱閉山をもって炭坑の灯が消えた。本公演は衰退後の炭坑街を背景にした人情劇であり、鉱産業ノンフィクションのような公演でもあった。その底流にある人間讃歌は観る者の魂に響く。

冒頭はとにかく”熱い!”石炭という黒いダイヤを採掘する人々のエネルギーが場面ごとに観てとれる。国策、企業発展のために酷使された人々、その労働者たちの労働歌「がんばろう」から始まる。仕事へのなりふり構わない情熱、それに伴う街の賑わい。暗い地底で危険との隣り合わせの中から仕事や世相を歌った炭坑節。その音楽選定なども見事であった。

一転、炭鉱閉山...炭坑での事故(爆発、CO中毒等)によって家族離散・孤児になった人々も多くいるという。経済成長の陰で泣いた人。公演ではそんな人(子)に焦点を当て温かい眼差しで見守る。
ラストは、石炭を燃料として走る機関車(OBAKE62号)が疾走する。それは遥か昔のことのようだ。”オバケの太陽”というタイトル、その意味する慈愛にあふれ前向きな言葉(その太陽は沈まない、その太陽は夢を見る)が印象的である。機関車の前部に座っているのが、今はいない2人の姉と当時の僕...松尾元(池下重大サン)。

さて、梁瀬範一(大手忍サン)が、帽子を目深に被り、涙を見せず両肘張って歩く姿...その虚勢のようにも見えるが、まっすぐ前(客席)に向かって歩く姿、そこに(紙)吹雪が、それは向日葵の花弁が舞っているようでもある。本当に余韻があり感動した。

次回(第二部、第三部)の公演も楽しみにしております。
Le Lien Perpetuel~ル・リヤン・ペルペチュエル~

Le Lien Perpetuel~ル・リヤン・ペルペチュエル~

劇団SANsukai

萬劇場(東京都)

2015/10/21 (水) ~ 2015/10/25 (日)公演終了

満足度★★★★

大いに笑って楽しめる
シチュエーション・コメディ...本当に心温まる公演である。そして色々なサプライズがあり、そのプロデュースは藤田あつこ女史(主宰)、作・演出は夢麻呂氏である。
心温まるのは、単に芝居の内容だけではなく、公演全体の印象として「人に優しい」からである。人にフォーカスした内容で、社会性云々はあまり感じられない。表層的には観て面白い、楽しいという明快なコンセプトがある。しかし、裏テーマとしては、人の幸せは嫉妬もあるが、頑な人の心を氷解させ、拗れた問題解決への糸口になるような会話が生まれる、そんな人間がもっている善...愛情・信頼・人情の部分をしっかり観せる。きれいごと、という感じではあるが、そこはコメディなのだから目を三角にしない。

この芝居の展開について、好悪があるか分からないが、自分の好みは...。

ネタバレBOX

次のことが気になった。
結婚式場におけるドタバタ騒動、それ自体はコメディなので細かいことはなしにして、話を散らかしてもよいと思うが、それを回収(全ピースの収納)していく過程があまりに偶然の重なり、ご都合的に思えてしまう。

また、この偽結婚をしなければならないという動機...両親(母は亡く遺影)へのサプライズ プレゼントにしては騒動が大きく理由付が弱い。これが、先生役(福田らんサン)が経験した部活動(女子バスケット部)のエピソードであれば納得できそうである(レギュラー部員が控え部員を試合に出場させるための仮病。嘘は良くないという前提、それでもその部員の父親が末期癌のため娘の勇姿を見せたいという思い遣り)。この余命に絡んだ話は定番のようであるが、時限的であることから信憑性が得やすい。
一方、話を重くしないで軽妙なタッチでという観せ方もある。好みの分かれるところ。

さて、本公演の舞台セットは、披露宴会場...新郎新婦席、丸テーブル3席、上手には従業員出入口、エレクトーン。下手には司会演台と卓上マイク、スタンドマイク。丸テーブル上の装飾品は本物(劇団関係者に結婚プランナーがいるとのこと)。このセットを利用し、観客に結婚式をしてもらうという企画(チラシに掲載)もある。自分が観た回は、なんと劇団員の中で挙式をしていないカップルの結婚式を行った(司会:夢麻呂、来賓挨拶:藤田女史、そしてケーキに入刀のイベント 等々)。芝居より盛り上がったとの感想もあった(実はこの奥様が結婚プランナーという落ち)。
手作り感があり、それが人の温もりとなって親近感を持たせる。
なお、イベントは知人等には好評かも知れないが、関係ない観客には面白くないかも…。そのことにも配慮した対応をすべきであろう。

最後に披露宴会場ということもあり、観客を出席者と見立て夢麻呂 氏をはじめキャストがホールスタッフのように客席(全席指定)に案内誘導する。また主宰自ら もぎりを行い、イベント挨拶、劇場外で客を見送る。その姿が実に好ましい(全体を見ているという前提であるが)。

芝居★3、イベント★1、公演全体として★4つ
次回公演を楽しみにしております。
舞台版天誅-2015

舞台版天誅-2015

ACRAFT

六行会ホール(東京都)

2015/10/21 (水) ~ 2015/10/25 (日)公演終了

満足度★★★★

魅力...エンターテインメント・アクション
第一印象は魅せる芝居であった。冒頭シーン...演技としての奇抜なアクロバット、常道な殺陣はどちらも迫力があった。特にアクロバット・アンサンブルは印象付としての演出効果が見受けられた。主役級の殺陣は千(本)を超える数で、戦闘シーンを牽引していた。どちらにしても視覚に訴え観客の心を掴んだと思う。
また、舞台美術・技術が面白い。戦国時代という設定であるが、リアル(歴史)戦国ではない。あくまでゲームという仮想世界でのこと。登場人物が多いだけに、その衣装による識別は大切だと思われた。そして照明による演出は、全体的に薄暗く重々しい雰囲気を醸し出している。それが戦国時代(忍者群)という殺戮、強・奪略という負の側面を感じさせる。史実ではない分、自由に発想し大胆に構築しているところに魅力を覚える。
この公演は、忍者ゲーム「天誅」シリーズの劇場版で、再演とのことである。初見は観ていないが、この公演はなかなか観応えがあった。

こんなにもお茶が美味い

こんなにもお茶が美味い

ニットキャップシアター

王子小劇場(東京都)

2015/10/16 (金) ~ 2015/10/19 (月)公演終了

満足度★★★★

ねじれた歪が面白い
文章のような起承転結の話が何となく繋がる。しかし、必ずし筋道立てて観やすくするという意図は感じられない。
オムニバスではなく、或る家族...姉弟たちの日常を少し誇張して描いている。それは少し捩れて歪んで観える。そのズレが何とも可笑しい。

少しずつズレる会話、すり替わる話題、緩いテンポながら妙に心に入って笑い、架空と現実の混沌とした世界観。

ネタバレBOX

4つの話
第一話...亡父の三回忌で集まった姉弟の茶の間での話。色々あって父の遺影の前で、弟は姉におチンチンを見せるが、姉はチンチンをながめ理由なく涙を流す。
第二話...場面は横断歩道に変わり三回忌の夜の出来事。妹は兄と再会する。 兄は17年前に交通事故で死んだ。 事故があった電信柱のそばで、妹は兄と再会する。 妹は33歳になっていた。兄はあの頃のままだ。
第三話...日本を離れてヒマラヤをのぞむネパール山中での話。弟は性的に淡白で、その妻との間に子はなかった。場面変わり、弟の妻はネパール...ヒマラヤをのぞむ深い山々での話。
第四話...第一話から1年たった姉弟たちの様子。

三回忌という「起」から始まり、「承・転」を経て1年後の「結」になる。
テーブル 和室畳 ロープの吊り、生演奏(キャストによる)仮面(その動きがコミカル、愛嬌、表情の凡特徴)が逆に印象に残る。

この何とも奇妙な展開をさりげなく繋ぐのが、”お茶どう”という台詞。そしてパントマイムでお茶を淹れる。父親が亡くなった以降、姉弟は記憶とうまく向き合えていないかもしれない。過去にあったことが回想録のようにも感じられ、記憶の蓋が少しずつ開いていくようだ。三回忌で集まることで溢れ出す父との思い出、それまで抱えていた悩みなど、その傷をなめ合うだけの家族。滞積していた日常から少し希望の光が射すようだ。しかし1年後...弟の妻が妊娠しており、新たな「生命」の誕生とともに「苦悩」も生まれそうである。人間の業の深さのようなものが垣間見える。よき思い出の記憶、忘れたい記憶、過去とうまく向き合うことが出来ず、流されるようである。

そんな歪でズレた芝居は面白かった。

次回公演も楽しみにしております。
四谷怪談

四谷怪談

ジェイ.クリップ

俳優座劇場(東京都)

2015/10/18 (日) ~ 2015/10/20 (火)公演終了

満足度★★★★

情念豊かに...
東海道四谷怪談...お顔岩の顔が変わり果てというイメージが強いが、本公演は男女の悲恋を群像劇として描いたというもの。台詞は原作に沿った歌舞伎調が謳い文句である。
さて、歌舞伎の見巧者ではなく、ましてや生半可な付け焼刃的な知識も持ち合わせていない。歌舞伎的云々の台詞回しについては割愛(というか書けない)する。
全体的な印象は謳い文句のとおり男女の恋愛物語であるが、そこに描かれたものは、個人レベルの恋愛と封建時代(武家社会)における「家制度」のあり方という二面性があったと思う。
人間(個人)の欲望のひとつかもしれない情念を「本能」、一方、現代的に言えば貞操の「倫理」という対立を封建(武家)社会という軸の中で描こうとしていたようだ。
歌舞伎が容色本位の見世物から演技を観せる劇へ進歩したと考えた時、この芝居はその観(魅)せるを追求したようだ。

ネタバレBOX

始めは2話の関連性の触り、それから個別に展開し終盤に収斂。独立しつつも魅力的。男のエゴ、侍の意地、武家社会の理不尽、仇討ちの不合理・無情。時代に翻弄されるも、男・女の愛憎、妖しく儚く幽魂。 美しく官能的であるが、一方不安や疑念を巻き込んで展開する濃密で極悪なサスペンス。
 
当日パンフによれば、これは忠臣蔵の裏物語だという。舞台登場人物も相関図があり、四谷家、伊藤家、売春宿の3つの括りで示される。主人公は民谷伊右衛門(鯨井康介サン)で、四谷家のお岩と夫婦。お岩の妹にお袖、その夫が佐藤興茂七、このお袖に横恋慕するのが直助である。この夫婦二組の愛憎を中心に描かれる。そこに忠臣蔵の浅野家家臣(民谷・佐藤両名)、吉良家家臣(伊藤家)が絡み、武家社会の理不尽な様相が見え隠れする。大きく二組の男女の物語がそれぞれ独立して描かれているようであるが、仇討ちという時代軸を通して繋がる。その紡がれ方が情感たっぷり。ラストの殺陣や印象付ける余韻は秀逸であった。
この時代の倫理観、道徳観と現代は違うと思う。敢えてこの人物(主人公)像は、社会の秩序や規範に抵触するが、個人の行動(反倫理)を社会の矛盾に苦しむ姿として投影することによって魅力あるものにしていたと思う。葛藤が深刻に掘り下げるほど「運命」への抗いが観えて面白い。
俳優座の舞台が、エレクトロニックな光(照明)と歌謡曲(音楽)に包まれ、物語としての江戸時代(過去)と歌謡曲(現代)、そしてエキセントリックな感じの照明(未来)の融合...少し暗い照明に現代の歌謡曲と一瞬ギャップを感じせるが実は微妙にマッチしこの公演のオリジナリティを感じせる。そこに大きな世界観を感じた。

次回公演を楽しみにしております。
MAD非正規雇用X

MAD非正規雇用X

岡本塾・ペーチカトライブ

Route Theater/ルートシアター(東京都)

2015/10/17 (土) ~ 2015/10/18 (日)公演終了

満足度★★★

シュールな...【Bチーム】
近未来の労働環境における管理社会(形態)のあり方を問うもの。特に雇用形態の弾力化・流動化によって管理層と非管理層の二分化が明確になる社会システムの弊害...現実の社会においても顕在化しているといえるだろう。それは正規雇用か否かという単なる雇用形態だけではなく、貧富差の拡大という「財貨」、同時に働き甲斐・生きがいという「気持」にも影響している。

近未来...その描き方が突飛な設定のように捉えかねないという遠慮、牽制の意味があるのかもしれないが、観客(少なくとも自分)はラジカルに思う。どのシーンも決して感情的ではなく、醒めたコメディを観ているようだ。国も地域も架空で特定しない寓話風に観せることによって悲惨な現実・現場を想像させない。しかし、ドタバタという騒動の中にしっかり問題提起を行っている。

この脚本の狙いは十分伝わるが、それを体現する役者陣の演技が弱い。一生懸命であることは分かるが、上辺だけで内面感情が覗けない。演技力のバランスも欠いたようで残念に思った。

ネタバレBOX

産業ロボットの出現している現在において、人間の労働力は特定分野にのみ発揮している、という設定である。いわゆる対人間関係を重要視するサービス産業において必要だとしている。各業種に出進している巨大企業「ブラックサバスホールディングス」、その多くは非正規社員で構成されwている。正社員への登用を夢としている姿は、雇用調整を心配する派遣労働者を想起する。
梗概...主人公・猪狩大は、非正規雇用労働者の勤務環境の改善を本社に訴え、逆に辺境のコンビニエンスストアに左遷される。そこは人口減少により荒廃し、スラム化した砂漠の町であった。そこで「ある計画」について知らされる。それは、全国の非正規雇用労働者たちが一斉にボイコットすること。

企業名からブラック企業のイメージ。経営トップ(CEO)は責任を負わない、どこかの国の企業体質のようだ。
この公演で気になる事が...
第一に、辺境に左遷された時、首枷(鎖)を付けられたが、それは自由を奪う比喩として観ていたが、辺境も管理社会か?また、本社で正規社員(シャイン)となっても、自分で首枷をした理由は何か?
第二に、交渉人となった主人公の今後である。雇われるより雇う側、管理する側として起業したのか?人の痛みを知った上での交渉人なのか、ラストのイメージは交渉・ネゴシエーションではなく、総会屋・エゴティズムのように感じてしまう。
次回公演も楽しみにしております。

底ん処をよろしく

底ん処をよろしく

東京ストーリーテラー

高田馬場ラビネスト(東京都)

2015/10/19 (月) ~ 2015/10/25 (日)公演終了

満足度★★★★

創業70年の優しき食堂【Aチーム】
この公演...普通の人の人生にこそドラマがある。そして市井に暮らす人々の物語として見事に結実していた。平凡であっても抱えた苦悩・悔悟があり、その逆境に向き合い克服しようとしているひたむきな姿に感動する。
舞台は戦後間もなく開店した「底ん処」...創業70年という老舗、いや古いだけの大衆食堂である。戦後の食うことに困る、それこそどん底の人たちに食事を...。この食堂に集う人々と店の主人、娘(独身)の交流を描いた泣き笑いの人情劇である。

ネタバレBOX

その描き方は「庶民の腹の味方...安くて旨い食事」といったところ。その精神は先代が書き残した「底ん処 生業の心得」という冊子にある。戦後からの復興、高度成長期を支えた勤労者への讃歌も聞こえるようだ。それは当今のエリート層や損得勘定だけで生きている人々への静かな抵抗のようでもある。「好きな道を生きる」「他人のために生きる」「あきらめずに生きる」人々であり、挫折や悔恨をバネに生きる、どこにでも居そうな日本人である。

舞台は、食堂内、テーブル席4つ、上手には自宅への出入口、中央奥にはレジ台、厨房への入口、下手には店玄関(暖簾)が丁寧に作られている。献立は和食中心に「つくねハンバーグ定食」「豚生姜焼き定食」など550~650円である(劇中で配布されるチラシより抜粋)。
シャッター商店街と揶揄されるような場所にある店。客は常連ばかりで売上げが伸びず生活はギリギリ。店主の父親は跡継ぎもいないことから廃業を考えている。そんなところに元弁護士が...訳ありなのは一目瞭然である。この謎めいた人物の目的とは...。
そして廃業を考えている店主が語る”店の歴史”が心魂に響く。70年を刻んだ店「底ん処(をよろしく)」物語の自主出版、そして店の将来はどうなるのか。謎の女性も登場するが、こちらも気になる~。

戦後70年間で日本人が得たものと、失ったものを思い起こさせる。得たものは間違いなく経済的な繁栄であり、生活の利便性であろう。失ったものは、人生には貧乏や不便から抜け出すこと以上に大切なこと、何かを知る、聞く、助けることで輝くことができるという感覚(人情に近い?)ではないか。
ちなみにラストはハッピーエンドである。

次回公演を楽しみにしております。

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