アンサータン・ストーリーズ
演劇ユニット「クロ・クロ」
劇場MOMO(東京都)
2014/10/15 (水) ~ 2014/10/19 (日)公演終了
感想
あらゆる情報、知識を誰もが一瞬の魔法のように手の平から取り出せる夢のような時代にあって、若者の鋭敏な感性がまるで地獄のような精神世界を強いられているという現実を痛いほど思い知らされた劇であった。自分の人生もこの世に起こる事もすべてが必然なのか、あまりにも完成度を高めた社会はそう言っているようだ。しかし実際は、すべてが不確実で不安定(アンサータン=uncertain)のようなのだ。そのような精神世界にあって最後の砦が、「信じる」ということなのだろう。信じたい、理解し合いたいー今の若者はなぜこれほど優しいのだろう、という日頃からの私の疑問が、一部解けたような気がした。
夜明けとともに目が覚める
劇団☆東京SaVannaT’s
ART THEATER かもめ座(東京都)
2014/02/27 (木) ~ 2014/03/02 (日)公演終了
感想
柄谷行人が「新しい哲学」という作品の中で、次のように述べている。「一般に人間の自己回復の欲求は幻想的にしか実現されない、少くとも僕らの短い生涯のことを考えるなら。宗教や芸術の根拠はそこにあり、(後略)」劇団 東京SaVanna T's の「夜明けとともに目が覚める」(作・演出 バブルムラマツ)が4年ぶりに再演された。あくまで一般人としての鑑賞であるが、改めて演劇(文学)の持つ不思議な力を感じた。それは簡単に言うと、社会的弱者の持つ人間らしさ、そして真実を、圧倒的な形で見せてくれる力である。私たちの生活、社会、世界は日々非人間化している。肉体としての人間を回復させるのは医学であり医療であるだろう。そして精神としての人間を回復させる数少ないものの一つが、演劇であれ文学であれ音楽であれ絵画であれ、この種の芸術なのだろうと思われた一日だった。
法王庁の避妊法 [公演終了いたしました。ご来場ありがとうございました!]
劇団☆東京SaVannaT’s
アドリブ小劇場(東京都)
2012/08/31 (金) ~ 2012/09/02 (日)公演終了
劇団 SaVannaT's について
小林秀雄が初期の作品「手帳Ⅱ」の中で、サン・テグジュペリの次の言葉を引用している。「人間の幸福は、自由の裡にはない、義務の容認の裡にある。」
より正確に言えば、アンドレ・ジッドがこの言葉を引用しながら、この言葉自体に逆説的なものはない、個人主義というものの極限にこの真理を発見するということ、その事こそ逆説的なのだ、と述べているくだりを、小林秀雄が引用している。
この少々ややこしい話を紹介した理由は、劇団 東京SaVannaT's の劇を鑑賞するたびに(今回のは特に)、上に引用の言葉が私の脳裏をよぎるからだ。私事で大変恐縮だが、東京歯科大学で20年余り教員(英語)をしていて、最大の不思議の一つが、なぜこの大学から芸術的才能たちが開花するのだろう、というものであった。芸術的才能の開花には、おそらく芸術学部、文学部等にあふれているであろう「自由」が絶対的に必要なのではあるまいか。彼女ら、彼らの才能開花の秘密は、もしかしたら、歯科大学の課する多くの「義務」の(個人的)「容認」と、この容認を源とする(個人的)「幸福」(感)にあるのだろうか、などと考えてしまうのである。
この不思議は、私の中でついに解明されずに終るだろう。しかし願わくば、これらの開花した才能たちが、多くの方々の感性に触れずに終ることのないよう、祈るばかりの気持ちである。