満足度★★★★
理解できなかったはずなのに・・・
物語のシチュエーションや構成を
理解できないままに終演まで来て・・・。
分からないと断じた瞬間、
霧散せずに残る感覚の強さに気が付きました。
理解を経ることなく
記憶に直接なにかが積み上げられていく感覚に
とまどいながら、惹かれてしまいました。
ネタバレBOX
舞台上で発せられる台詞や動作から
いろんなものが浮かんでくるのですが、
観ていてもそれらが自分のなかに
再構築されていくわけではない・・・。
ところどころ、直感的に面白くて、
思わず笑ってしまったり、
かと思えば、
やってくるものがとても冗長に感じて
刹那、寝落ちてしまう時間も
あった気がする。
ただ、何度も、
見つめる舞台で認識するものと
異なるものが勝手に入り込んできて
なにかをこちら側に置いていくような感じがあって。
動作、台詞のスピードやイントネーション、間・・・・。
掴んで捉えたものと、
するっと抜け出てこちらに入り込んできたものが
それぞれ勝手にイメージを広げていくみたいな・・。
あるいは、
観ているものと、なにか違うものが
勝手にこちらの心に居場所をみつけて
好きなことを書き込んでいくような・・。
観終わって、
作り手が作品に込めたものは
きっと理解できていなかったはず。
でも、
きっぱり分からないと言い切れずに
「はず」などという曖昧な表現をするのは、
理解と別なところで
自分でもつかめないような感覚が
終演後も霧散せずに残っているから・・・。
役者達のテンションと規律をもった動きが、
どこかで作り手側の調和として世界をつくり
観る側の手の届かないところに
繋いでくれている感じがして。
そして、
その感覚に惹かれていたりもして。
なんというか、
とても不思議な体験をさせていただきました。
★★★○
満足度★★★★★
乾杯を重ねただけなのに・・・
場内の美術(?)や、時間の重ね方、
普遍を感じさせる生と死の法則性・・・。
それが家の歴史にまで昇華していく感覚、
時代に翻弄されていく姿、
そして家の終焉に
深く柔らかなペーソスを感じて。
もう片方のバージョンも観たかったのですが
すでにソールドアウト。
当日券はなし。理由は良く分かるのでなおさら悔しい。
この作品、再演を熱望いたします。
ネタバレBOX
会場にはいってびっくり。
そこには大きな邸宅の食堂が現出していて。
大きなテーブルに席が指定されていて、
当日パンフレットの出し方もお洒落。
全員が席につくと、
その家に嫁いだばかりの女性が現れ
出演者と観客がテーブルを囲む体で
クリスマスディナーが始まります。
グラスを重ねる音が響き
ディナーの雰囲気に浸っているうちに、
観る側がふっと揺らぐような感覚がやってきて
時間の流れの車止めが外されたことに気がつく。
そこから、流れるように
ディナーの乾杯が繰り返され、
そのたびに人は齢を重ねていきます。
入口から表れ出口に消えていく人の一生。
訪れる生と死。
誕生は高揚とともに祝福され、
死は静かな出口への歩みとしてやってくる。
生まれすぐ、看護婦に抱かれたまま
通り過ぎるように召される子供の姿に
心が痛む。
成長、結婚、老い・・・。
世代がかわり、子供はやがて主人の席に移り、
あるいは自らの道を歩み始めて・・・。
グラスの音とともに訪れる変化に
観る側までがなすすべもなく流されていきます。
繁栄の時代、不況、戦争・・・。
さらにはアメリカの歴史が織り込まれ、
ジェネレーションギャップと確執が生まれ
気がつけば冒頭の乾杯は遠い過去におかれて・・・。
人であふれていたその家は、
再び訪れるクリスマスの喜びと、
きっとその間を埋める
日々の暮らしに満ちながら
やがて古ぼけて、朽ちていく。
ラストのシーンで、
一人残される遠い血筋の老婆の姿に
人や家が過ごした時間の尺と
その質感の軽重が鮮やかに浮かび上がり
戯曲の企てとそれを表す作り手の秀逸に
息を呑みました。
この作品、2バージョンでの上演にたいして、
片方しか予約しておらず、
当日券もなしで
他バージョンは観ることができず。
久しぶりにとても悔しい思いをしました。
たとえば、クリスマスのころに、
是非に再演をしていただければと・・・・。
毎年、継続して上演いただくのもよいかもしれません。
年をまたいで上演し続ける価値が
十分にある作品だとおもうのです。
満足度★★★★
その場所に収める力
近未来のような設定で、
観る側のイマジネーションを広げながら、
物語をその場所で醸成させていく手練が
しっかりと機能して。
ドリンクを傾けながら
気がつけばがっつりとドラマに浸っておりました。
開演時間にもバリエーションがあって、
よい工夫だと思います。
自分のスタイルで劇場に足を運ぶ楽しみと
お芝居の秀逸がしなやかに噛み合っておりました。
ネタバレBOX
まもなく世界の終わりがやってくるという設定の中、
そのバーに流れる時間が
重ねられていきます。
タイムリミットがそこにあることで、
キャラクターたちが抱えるものが、
様々に抽出されていく・・・。
物語の尺の中で、観る側が設定を理解するのに費やす
時間のバランスがとてもよい。
「世界の終わり」的映画のタイトルなども借景にして
しなやかにバックグラウンドを作っていく。
そのベースがあるから、
世界と隔絶したバーの空気が
空々しくならず、
役者達のしなやかでメリハリを持った演技から
滲み出てくるキャラクターの背景に
観る側がしっかりと入り込んでいけるのです。
「世界の終わり」の空気を醸成しておいて、
「終らなかった世界」からこぼれだしてくるものを
観る側に供する。
舞台に満ちた空気は
最後にもうひとつのけれんを
観る側の腑に落ちさせるだけの
懐の深さを生み出していく。
閉塞と救いとほろ苦さのカクテルに
一滴のシニカルなテイストが加わって・・・。
スタイリッシュに過ぎない、
でも大人の粋を感じる
その場所を生かしたお芝居を
余韻を含めて楽しむことができました。
会場的にはそれほど広いわけではないんですが
この公演に関しては
バー公演やカフェ公演にありがちな狭苦しさもそれほどなく
リラックスしてお芝居に浸ることができて・・・。
開演時間の工夫も含めて
作り手の志や工夫がうまく機能した公演かと。
会社帰りに観て、そのあと少し高揚した気持ちのなかで
感想を語り合うみたいなのもよいかも。
気さくな友人どおしや恋人どおしにもお勧めです。
満足度★★★★
肌合いが変わって
戯曲を演出が自らの感覚で読み解いて。初演とは異なるテイストで作品が新たな力を得ていました。
再演が単なる繰り返しにならずに、戯曲の別の奥行きをしっかりと観る側に伝えていて、初演を観た方にも、戯曲のことなった肌合いを感じることができる、お勧めの公演でありました。
ネタバレBOX
初演時には、観る側の感性にいどむような部分があって、
密度を持った強いテンションが舞台を支配していた記憶があります。
今回の公演は、演出が
いたずらに初演を踏襲することをせずに
自らの感性にしたがって舞台のトーンを作り上げることで
戯曲のもつ別の奥行きを観客に表した印象。
初演時の時間を磨き上げるようなデフォルメがほどけて、
ひりひり感をもった舞台の空気にかわって
馴染むような肌合いがやってきます。
作品のテーマとなる感覚が
初演時のように戦闘服を着て観る側に挑んでくるのではなく
普段着で語りかけてくる・・・。
まだ初演から1年もたっていない、
それもがっつりインパクトを持った作品だったので
前回の記憶もしっかり残っていて。
でも、そこには初演・再演の優劣ということではなく、
戯曲の持つ懐の深さこそが感じられて。
もちろん、作品としても秀逸なのですが
それに加えて作品の再演の意義というものを
考えさせてさせてくれる公演となりました
役者の方たちも
稽古中に演目が変更になるなど、
大変だったと思うのですが
そんな風情はおくびにも出さず
キャラクターのニュアンスを
舞台のトーンに合わせて
したたかに作り上げていました。
ナチュラルなのですが
キャラクターの芯がぶれない・・・。
繊細な陰影を観客に伝えるだけの
安定が個々の役者にあって、
派手さはないのですが、
ボディブローのように
シーンごとのお芝居が観る側を閉じ込める
質感にかわっていく。
公演期間の前半での観劇でしたが
今が悪いということでなく、
膨らんで変容していく余白を感じる部分もいくつかあって、
後半に
このお芝居がさらにどう育っていくのか
見届けることができなそうなのが
残念でなりません。
満足度★★★★
距離感の秀逸なコラージュ
シーンごとの質感や人々の感情の表現、
さらにはそのつながり方に洗練があって。
様々な距離感が、シーンの中に配置されていて、
「今」の秀逸なコラージュに
情報や記憶の不思議なリアリティが
膨らんでいく。
やってくる感覚に厚みがあり、とても瑞々しく、
作り手の表現の鋭さと確かさに
キャラクターたちのそのままの内心が
驚くほどしなやかに伝わってきました
ネタバレBOX
様々な距離が織り込まれていきます。
ネット上に浮かぶものから、
友人、会社の同僚たち、上司と部下、恋人、別れた恋人、同性の恋人、
見知らぬ他人まで・・・。
表現に絶妙な力加減のようなものがあって、
無理強いされることなく
観る側がそれぞれのシーンをすっと受け入れることができる。
よしんば、殺人までが織り込まれても
シーンの色を構成するキャラクターたちの感覚に、
不思議な自然さがあって
物語全体の流れに
強いリンクやインパクトがないにもかかわらず、
キャラクターたちの想いが個々のものとして
それぞれの距離感の中で
しなやかに醸成されていくのです。
すっと過去に裏打ちされていくような過去のシーンが
まるで「今」を支える裏地のように
要所に縫い込まれて
キャラクターたちの表層的な想いに
豊かなふくらみを導いていく。
いくつもの感覚が重なり合い
それぞれの色の重なりが、
その世界にプロットされて
「今」という時間への驚くほど自然なデフォルメに
観る側が染められて。
音、匂い、ルーズにつながっていく人間関係・・・。
淡々と描かれる想いは多様でありながらぶれがない。
さらなる洗練の余白はあるとしても
観る側を浸潤するには十分なクオリティで
作り手の世界が観る側にしみこんでくる。
舞台美術も、随所に工夫が見られ、
作品の世界観をしっかりとサポートしていて・・・。
空気のようにやってきて
観る側が取り込まれているという意識もなく
作り手が描く世界の具象に染められてしまう。
派手さが表にでる舞台ではないのですが、
終演時には
作り手独特の感性というかテイストに
たっぷりと浸されていて。
今後、どのような作品が作られていくのか
とても楽しみな劇団が一つ増えました。
満足度★★★★
暑く、溶けだしてくるように
確信犯的にタイトルがとても謙虚に思える場内でしたが、それがキャラクター達の閉塞感やいらだちを観る側に押し込んでもいて・・・。
不思議な立体感とともに物語が伝わってきました。
場所をしっかりと味方につけて、4人の女優たちがしたたかに物語のテイストを作り上げていました。
ネタバレBOX
4人の女優達の個性が
物語にしたたかに取り込まれていて。
比較的ラフな物語の骨組みなのですが、
逆に、だからこそ、
役者の色が絶妙な抑制をもって生かされていく。
役者達それぞれに
他の役者のよいところを生かしながら
自らの色を出していく手練があるのです。
4人で暮らすその場所を
守ろうとする想いと失われていく感覚・・。
それらが、細線で緻密に描かれるのではなく、
太い線で描かれ、はみ出していくことで、
供された飲み物の甘さや、
息が詰まるほどの熱に見事に重なりあっていく。
よしんば、常ならぬデフォルメされたキャラクターであっても
役者たちがぶれずに衒いなくそのロールを貫いていくことで、
観る側の視座や感覚が変容し
不思議なリアリティが生まれていく。
カタストロフ的な展開も、
チープな夢も、喪失感も
ミュージカル仕立てのエンディングから、
その場所に積もった時間にしみこんだ
暖かさとペーソスも、
すべてがその場の暑さにとろけて
ひとつになって・・・。
終演時、
汗をぬぐいながら
通り過ぎた感覚と残されたテイストに
しばし浸り込んでしまいました。
☆★★★○○
満足度★★★★
滲み出る本質
あけすけな部分が心地よくあけすけになっていて、
だからこそ、じわっと滲み出てくるキャラクターたちの本質を
強く感じることができました
ネタバレBOX
さすが東京芸術劇場で
漆黒の闇を作ることができる・・・。
この世界が観る側に、
舞台のシチュエーションをしっかりとたたき込みます。
で、仕組み自体はあっけなく晒されてしまうのですが、
その段階で、
冒頭の状況が劇中劇的な感覚をしっかりと残していて・・・。
一方で灯りがついた世界には
物語のバックステージ的なニュアンスが漂う。
建前の闇と裏側の世界の狭間から
滲みだしてくるキャラクターたちの内心。
かなりとほほな部分を感じさせながら
そのさらに奥に、ぞくっとくるような
質感が作り上げられていて・・・。
物語の仕組みで絞り出された
キャラクター達の色から
目が離せなくなっている
下世話だし、ストレートだし
ネタばれでも書けないxxx(♂)やxxxxx(♀)などの単語も
普通にでてきたりするのですが、
そのテイストがなければ表現できないであろう
キャラクターの色が質感を持って
しっかりと伝わってきて・・・。
ちょっとだけ後ろめたい笑いのなかだからこそ
感じることができるリアリティというか・・・。
江本表現のしたたかさに舌を巻きました。
満足度★★★★
ラクダスピリッツ
ひとつずつのシーンには
ちゃんとラクダのスピリットが詰まっていて、
にもかかわらず、
落語ワールドのラクダとは
素敵に異なった空間が
構築されていました。
ネタバレBOX
よしんば、落語の世界の内側でだって
演者によって噺のニュアンスがかわったりするもの。
ましてや、それが演劇というフィールドに持ち出された時
ただ、落語の世界をなぞるだけじゃ面白くもなんともありゃしない。
開演前の場内は、
ちょっと岡崎芸術座が寄席で上演した
「三月の5日間」を彷彿とさせる感じ・・・。
役者たちが客を演じ、物語の大外をつくりあげていきます。
そこに落語家が登場・・・。いきなり箍の外れたかs噺のいろんなエキスを吸い取りながら、
高座を維持していきます
箍の外れ方がとてもしなやか。
「かんかんのう」がコンテンポラリーダンスに置き換わり、
さらには東京芸術劇場にまで置き換わるそのふらから
一気にやられました。
ラクダのの体が冷蔵庫に置き換わる感覚が秀逸。
屑屋の酔い方がいろんなものを絡め取っていく。
大家や長屋の衆なども
落語の世界の顔をしながら
個性が良い方に生きている。
一通りではないグルーブ感が
落語の枠を凌駕するはみ出し感とともにやってきて・・・。
オチですっと納めるところも
落語のいいとこどりなのですが、
それがすっと観る側に落ち着くのは
そこまでのカオスに
落とせるだけの品質があるから。
この劇団、もっといろんな作品を観たくなりました。
☆★★★
満足度★★★★
生きている側の素敵な生々しさ
葬式で同級生たちの出来事を描いていく・・・。
でも、暗いというわけではなく、
そこにウィットとともに
生きていくそれぞれの素顔が垣間見えて・・・。
役者たちのやや濃いめのお芝居が
台本とうまくマッチして、たっぷりと楽しめました。
ネタバレBOX
80分程度の中編なのですが、
そこに、個々のキャラクターの変遷がしっかり描かれていて。
一人の同級生の死が
それぞれの生きていく時間の断片となって
ミルフィーユ状にかさなっていく。
死んだ同級生たちが、
当たり前のように
時間というか記憶の一里塚として組み入れられていることが
不謹慎な感じにならずに
生きている側の感覚を切り取っていくのです。
役者たちのキャラクター作りが
物語の設定に合わせての、
したたかなデフォルメを持っているのが良い。
冒頭に見せた個々の色が
時間とともに変化していく
その感じがとても自然な感じで
見る側に伝わってくる。
男3人女2人というキャラクターの構成も
上手いなと思う。
最初から全員をひとつにせず
主にその中の2人もしくは3人で物語を形成していく
そのバランス感覚や物語のリズム感に秀逸で上
手くのせられて身をゆだねることができました。
それほど大きくない実際のバーが会場ですから
冷静に考えるとかなりの制約もあったはず。
照明操作のスタッフがステージ的な場所に
堂々と黒子でいたりするわけで・・・。
それを全く気にさせないだけの
役者たちの力量は、
やはり半端ではないと思うのです。
ラストのシーンではクラスの1/3が死んだことになっているのですが、
不謹慎な言い方をすれば、
もういくつかの葬式での
それぞれの変化を見たいとすら思うほど・・・。
気がつけば彼らの時間の流れに、
どっぷりと浸っておりました。
☆☆★★○
満足度★★★★
くっつけ感と剥ぎ取り感、それぞれに・・・
常日頃みるお芝居とは
違った感覚を刺激されて・・・。
こういう表現だからこそ、
伝わってくるものがありました。
というか、この表現、
癖になる・・・。
ネタバレBOX
当日パンフレットに
舞台兼客席の見取り図があって、
それぞれの場所の概念が示されています。
開演前、その世界を引き寄せるように
部屋までパンの切れはしをならべる「私」
まるで鳥のようにそのパンを拾いながら、
やがて私の部屋にまで妻が引き寄せられるところから
物語が始まります。
物語の主語を見つけるまでに
ちょっと時間がかかったものの、
寝台特急の車掌がよっぱらって行くあたりから、
現実と想いがねじれていく感覚があって・・。
そこから舞台上に表現される世界の
コアに入り込んでしまう。
車掌の抑制が失われた寝台列車が
揺らぎながら私の世界に取り込まれていく、
その感覚に、違和感が痺れ浸り込んでしまうのです。
色濃い役者たちの表現に加えて
「私」というロールにくっつけられていく想いに
不思議な実存感があって・・・。
ホチキスで衣裳に秘密のものが止められていくたびに
夫婦とか愛人とかの
形骸化したステレオタイプな概念に
血が注ぎ込まれて行く感じ。
さらには、その服に少しずつ鋏がはいり
やがて切り裂かれていく感触にも
鳥肌が立つ・・・。
その残滓をキャラクター達と見つめるなか、
復帰した車掌のアナウンスとともに
寝台列車は正常な運行にもどって・・・。
その醒め方にも、実存感があるのです。
道ならぬ恋をするときの感覚って
こんなものかもしれないと思う。
役者の表現も強く繊細に、
その世界に溶け込んで・・・。
ダンスの振付もビシっと美しく、
表現のセンスの多様さに舌を巻く。
ラテンの高揚、虚実の行き先、
モラルの溶けだし方・・・。
心の絡まり方や突き刺さり方、その形状。
観終わって、「私」の部屋を見せていただいて
(展示として終演後公開)
想いに対する、表現力の豊かさに
改めて瞠目。
作品のテイストに、間違いなく癖になる要素がいっぱりあって。
アンケートは出し忘れてしまったけれど、
この作り手たちの作品、もっと見たいと感じました。
満足度★★★★
ほんと粒ぞろい
美術的な表現力、音が醸し出す世界、パフォーマーの安定感・・・。
時間など圧倒言う間に過ぎてしまい、
あとには充実感が幾重にも残っておりました。
満足度★★★★
丁寧に作られたシーンの力
シーンの一つずつがとても丁寧で、
それぞれに色を持っていて・・・。
語られる物語に込められた思い・・。
その質感に強く引き込まれました
ネタバレBOX
冒頭の「アカシアの雨がやむ時」というのは、
その時代を象徴する歌といわれていたそうです。
高度成長期に、義理の娘に初老の男が語りかける
終戦時のエピソードという体で
紡がれる物語・・・。
息子のエピソードなどもイントロにしながら、
終戦後の
とある島からの帰国の物語が綴られはじめます。
ひとつずつのシーンがすごく丁寧に作られていて、
そこに風景の色や、その場の空気などもしっかりと描き出される。
それぞれのシーンに
空気だけではなく、
温度や光までもが写り込んでいるように感じる。
義父から娘に語られるという物語の枠があるから、
物語の展開から浮かんでくる、
個々のシーンの色の変化が
拡散していかない。
教師や日本人会会長、さらに山師たちの行動などにも
実存感があって、
その場をお茶をのむ舅と嫁の世界から
物語ひといろに染め変えていく。
雲を眺める二人の女性の会話に、
ゆったりとした時間を感じて・・・。
英字新聞から自らのふるさとの惨状を知る場面に、
心の揺らぎが伝わってきて・・・。
そして、噺を聴いていた嫁が
物語にとり込まれていくことにも
違和感がないのです。
膨らんでいく物語の内側に入り込んだ
戦時の狂気が降りてくる感じにも説得力があって。
特攻や花と散るといった感覚の
とりつかれたような狂気の質感が
見事に形成されていく。
どこか短絡的な部分と
感情にとりつかれていく姿が
舞台上を占有する・・・。
その感覚の温度と薄っぺらさが観る側をも押し込んでいるから、
舞台が物語を抜けて、
舅と嫁の会話に戻った時、
日本人たちが抱いた感覚に思い当たる・・。
多分、文字でも絵でも表現しえないような、
「アカシアの雨・・・」の時代、
さらにはその時代にはまだ残っていたであろう
今では想像すらしにくいような
終戦前後の時代の残滓に浸されて。
黒澤演出とそのトーンを作りきった役者たちの力に、
ゆるやかにやってきて深くとどまる感覚を
味わうことがきました。
満足度★★★★
空気に浸る
この空気、
いつものことながらはまります。
ちょっと癖になるシュールさに
今回も引き込まれてしまいました。
ネタバレBOX
ほんわかした雰囲気に
観る側の心を揺らす
トリガーがいくつも埋め込まれていて・・・。
なにかが凛とそぎ落とされていて、
だからこそ、不毛にも思える会話が
凄く瑞々しく感じる。
ブドウという表現、なにかわかる。
そのなにかのふくらみが、
心に満ちて終演後も
不思議に残っておりました。
満足度★★★★★
役者の力、映像の力
初日と10日、2度にわたって拝見しました。
役者の動きから湧き立つイメージが
映像にすっと取り込まれて・・。
その空間に広がる作り手の感覚が、
皮膚から心の中にまで
しみこんでくるような気がしました。
ネタバレBOX
入場時から街の風景や、
その中で倒れ、起き上がる人の姿と
散らばり、時に文章として集合するアルファベットの動きが
重なって壁面に映し出されています。
役者が舞台に現れ、カットインするように物語が始まる。
そして、役者たちの駆け足に度肝を抜かれる。
その運動量に圧倒されて・・・。
現れてくるものは
物語というよりは、いくつものシーンの断片。
記憶と想像が混在して納められた部屋の
いくつものイメージが照らし出されていく感じ。
それらが重なり合っていくうちに、
なにかがゆっくりと溢れ出してくる。
あいまいさと生々しさが、
映像が示す内心の質感とからまりあって
空間に広がっていくのです。
役者の圧倒的な動きや台詞の切れが、
映像による内心の具象化と重なるたびに、
観る側に作り手の感覚がなだれ込んでくる。
その映像は時に抽象的で、あるいは具体的で・・・。
世界をしっかりと演じきっていく役者たちの
演技の鋭利さが、
感覚に深さを作り出していく。
孤独、理性、新しい感覚の違和感、コントロールできない心情、
閉塞感・・・。
積もる言葉、閉じ込められた感覚、それらからやってくる痛み、行き場のなさ・・・。流れだしてくるもの、溢れくる想い・・・。
次第に明瞭なカオスが満ちてきて、
その中に観る側が
なすすべもなく取り込まれていく感じ。
圧迫感を感じる舞台から
目が離せない。
その世界を潜り抜けて、
再度現出した駆け足のシーンからやってくる世界は
冒頭とまったく違っていました。
画像の文字が滲んで広がり、
昇華するように輝きに変わっていく感覚が
震えが来るほどにわかる。
さらには街を走るスピードを伴った広がりが
視覚から皮膚を貫いて内心を満たしていく。
ラストシーンを観終わって
観る側に置かれた
作者の内心の残存感・・・、
しなやかさや解像度に気づき
ふたたび息を呑む。
席を立つときには作者の創意と、
それを支えた役者たちの力に
がっつり淘汰されておりました。
ちなみに初日と比べると
10日の公演では
カオスの部分がさらなる解像度を持ってすっきりとしていて、
ちょっと感触の違った作品になっていました。
公演を重ねるにしたがって
さらに育っていく要素を持った作品でもあったのだと
思います。
満足度★★★★
戯曲の豊かさを作り手が受け止める
戯曲がとてもよくて、演出家や役者もその良さに甘えることなく自分の色を出していました。
多少荒削りな部分がなかったわけではないのですが、実直な質感をもった創意が舞台にあって楽しむことができました。
ネタバレBOX
30分の短篇と60分の中編二本立て。同じ作家の作品を劇団員二人がそれぞれに演出するという趣向。
・欲の整理術
始まってからしばらくは、物語の枠が伝わってこないいらだちがあったのですが、
上演中に当日パンフレットで役者の名前をちらっと確認した際に、
作品のタイトルも目に入って、すっと舞台が腑に落ちました。
そうなると、舞台の一つずつの要素がおもしろかったです。
タイトルも認識しないで、芝居を観る私も、
まったくの不心得者で恥じ入るしかないのですが
前説時に、作品のタイトルをさりげなくしつこく観客に刷り込んでくれると
理解の立ち上がりがもっと早かったかもw。
作者の煩悩やいらだちへの葛藤というか、心情の様が枠として定まると、
事象の一つずつがとてもしっくりと理解できる。
バリケードに始まって、要求書、電話から火炎瓶まで、紙に書かれた薄っぺらい質感だからこそくっきり具現化されるものがある・・・。
とても間口の広い戯曲だと思うのです。
演出家や役者が自らの感覚をすっと載せていくことができる作品だと思う。
だから、もっとかぶいてもよかったのかも知れません。
演じ手がもっとロックであっても、もっと凡庸であっても、沈んでも
しっかり支えられる戯曲なのだと思います。
おもしろかったのですが、その欲の暴れ方がちょっと中庸で
おとなしい感じもしたことでした。
・ガハハで顎を痛めた日
翌日初めて教師として赴任する5人が、
授業のシミュレーションをするというお話。
戯曲の構成がほんとうにしたたかで、
授業のシミュレーションという切り口から、彼らの理想がまずこぼれ出て、
そのベクトルから、彼ら自身の価値観、不安などが溢れてくる。
自己の価値観を誇示するあたりでは、
もう完全に物語りに取り込まれていました。
先生候補それぞれの、表層と内心それぞれに、
とても生々しい実存感があって、
個々のキャラクターの距離感の取り方も絶妙。
しかもこの舞台はそこにもう一つの枠が織り込まれていて・・。
現実の女学生の会話を先生たちの周りにちりばめるやり方も、
息をのむほどにしたたか・・・。
役者たちはロールとして女学生を演じるというよりは、
生活の感覚ごと女学生を切り取っていく感じで、
建前や理想や自分が抱えたもので語る教師の卵たちと
質感の異なる想いを醸し出していく。
その女学生たちが、
教師のことをすらっと語る部分に、
教師の視野と生徒側の視野が一瞬重なって、
学校の内側の互いにコントロールしえない、
でも絶望的というわけでもない、
バランス感のようなものが見えてくるのです。
このふくらみこそ、舘戯曲の真骨頂かと・・・。
演出側の工夫、
シミュレーションの椅子の位置での状況の示唆や、
舞台の空気の作り方なども見事に機能して。
しっかりとした印象の作品を拝見することができました。
☆☆☆★○
満足度★★★★
強い色と剥ぐ力
設定に観る側までも押し込んでいく力が宿り、
剥ぎだすように人間の本質にあるものが伝わってきます、
強い色に押し込まれて
溢れ出してくる
人間のコアにあるものに
凌駕されました。
ネタバレBOX
駄目な人は駄目なのかもしれません。
R15的な内容も含まれていたりもします。
でも、舞台に観る側の目を向けさせる匂いが満ち溢れ、
そこに人間の本質があからさまに晒されていて。
気が付けば時間を忘れて見入ってしまいました。
冒頭の設定など、女性たちにとって
理不尽この上ない話なのですが、
それが表層的な嫌悪にならず、
観客を支配していけるのは
舞台全体に
人間の本質を剥ぎだすような力が存在するから。
少子化対策という法律のお題目を見事に形骸化させた
前半の舞台を支配する秩序に目を奪われる。
障害者を守るという良識を、
制度としての保護に置き換えた歪みが
舞台の内圧をさらに高めて・・・。
その閉塞感が変容して、
物語の屋台骨を崩していく後半に息を呑む。
前半に統制されていた、人の立場、モラル、欲望、弱さなどが
あからさまな色で流れ出す。
物語がゆすぶられ、モラルハザードが生まれ
人間の奥に包み隠されるべき本質が、
観る側の下世話な興味や恣意的な思いすら踏み越えて
あからさまに晒されて行くのです。
牛乳や木の実などでの表現もしたたか。
作・演出の表現する世界観に
ためらいがないのも良い。
公開オークションのようなどこか猥雑な雰囲気も、
障害者を最高ランクとするその業者の慇懃無礼さも、
印象としてはとても強く、
建前の裏側に張り付いた人間の背徳や腐敗の匂いを
これでもかと醸していくのですが、
役者達の演技には
その色の強さの中でもうずもれたり
滲まないだけの描写が貫かれていて。
3人の奴隷にしても、
一つの概念として描かれるのではなく、
女優たちが個々にキャラクターをがっつりと背負っていく。
監禁された当初から、個々が変化していく姿が
緻密に描かれていくのです。
それは管理者側も、障害者にしても同じ。
よしんば、ロールがスクランブルしたとしても、
個々のキャラクターが埋没せずに舞台に生きているから、
浮かび上がってくる人間のコアの部分の
表現があやふやになったり陳腐化することがない。
観客からみても
役者たちにはストレスがかかる舞台なのだろうと思います。
でも、そのストレスの代償が、
舞台上でしっかりと実を結んだ舞台でもありました。
☆☆★★●●
満足度★★★★
すっきりと入り込んでくる樋口一葉
戯曲で語られる世界がすっきりと入ってきた感じ・・。
終わって、拍手をするなかで
戯曲がそこまでに
磨かれて演じられていたことに
ハタときがつきました。
ネタバレBOX
ずっとむかしにこまつ座で拝見したことのある戯曲なのですが
記憶がかなり薄れていることもあるのでしょうか、
だいぶ異なるイメージでした。
井上戯曲につきものの
歌や遊びの挿入については
こまつ座の方が洗練されていたかも・・・。
でも、よしんばそうであったとしても
舞台からやってくるものの切っ先は
今回の方が強い印象がありました。
物語の展開のスムーズに観る側が乗せられて・・・、
シニカルな物語の成り行きも、
幽霊の入り込み方も
どこか今様で。
ただ風合いが失われたわけではなく
しっくりと今を生きる人間の肌にも
馴染んでくる感じ。
年代をしっかりと示されているにも関わらず、
こう、時代に関係のない風合いから
見ているうちにだんだんおかしみがわいてくる。
歳がばれるけれど、ショーマとか自転車キンクリートとかで拝見した
女優さんを久しぶりに観て、
そのお芝居のクオリティにも
なにかうれしくなりました。
良質なお芝居というのは
こういう作品をいうのだろうと改めて思った。
楽しませていただきました。
☆☆★★
満足度★★★★
イヨネスコは知らないけれど
不条理と言われれば、
確かにその通りだとは思います。
でも、観ている側に伝わる質感には
不思議な具体性があって・・・。
背景も貫かれた物語もわからぬままに
上演時間があっというまに流れて・・・。
あとにはペーソスが
確かな味わいとして残っておりました。
ネタバレBOX
夫婦の感触にしても
戦争のことにしても、
この戯曲の背景とは全く関係なく
なにか東ヨーロッパの匂いを感じる。
それが、観る側を異国の話として遠ざけるのではなく、
むしろ、じわじわと引き寄せてくれるのです。
どんなてぐすに引き寄せられているのかもわからず、
失った感覚や結婚、生活への想い、
体験したこともない戦争への不安感が
しっかりと観ている内側に入り込んできて。
見終わって、初めて
自分がその世界に取り込まれていたことに
気づいたことでした
満足度★★★★★
一つずつのシーンが積もる
初日を拝見。
一つずつのシーンが
とても丁寧に仕上げられていて、
すっと入ってきて積もる・・・。
それぞれのエピソードに見入り
終わって客電がつくころには
舞台上の時間をともに歩いたような感覚に
浸潤されていました。
ネタバレBOX
冒頭のシーンで
すっとその世界に置かれ、
さかのぼって、物語が積み重なっていきます。
衣裳や光の変化で刻まれていく時間の枠、
織り込まれたエピソードたちに
そのまま取り込まれる・・・。
観る側が
あるがままにシーンを追っていける感じ。
重ねられていくエピソードに置かれたキャラクターたちが
その時間枠のなかで、
しなやかに生きている。
役者たちからやってくる
ひとりずつの人物の奥行きに
あざとさのない実存感があって・・・。
主人公が暮らす親戚の家のおばやいとこ、
転校してきた学校の彼女の友人たち、
さらには時が進んで彼女の教え子たち・・・。
物語に塗りこめられることのない、
むしろ物語を編み上げていく
ひとつずつのキャラクターたちから、
それぞれの時間の質感が紡ぎだされて・・・。
物語に仕込まれた時の流れが縦糸に張られ、
その刹那に撚り合わせられた
キャラクターたちの想いが横糸の色を醸し、
織りあげられていく。
役者たちそれぞれに、
自分のキャラクターをまとうだけではなく、
その奥にある個々の世界を垣間見せる力があって、
だから、過ぎてゆく時間のテンポに
個々の物語が散らない・・。
よしんばキャラクター間での確執に重さがあっても、
それが丸められたり澱んだりしない・・。
端々に差し込まれる上質なウィットも
役者の切れに支えられて秀逸。
さらなる肌触りを舞台に作りだしていく。
ラストのシーンで、
二人の女性が海を眺めながら
出会ってから、その立ち位置までの
歩んできた時間の感覚をふっと口にする・・。
それは、織り上げられた世界を
すっと抱えたような感じ。
彼女たちが共に吹かれる潮風を感じるように、
畳まれた二人の時間の感触がやってきて
とても自然に
さらに織り上げられていくであろう二人の時間を思う・・・。
溶暗していく舞台を眺めながら
たおやかに深く浸潤されたことでした。
まあ、初日ということでしょうか、
若干だけ硬さを感じた部分もあったのですが
でも、公演期間中に、
さらに満ちて育っていくであろう力がそれらを凌駕して・・。
ほんと、お勧めの公演でありました。
☆☆☆★★★○
満足度★★★
くっきりと可笑しい
突飛でけれん味のある笑いなのですが
それが崩れずにつきぬかれているのが良くて・・・。
粗さも残っていましたが
それでも飽きることなく
観てしまいました。
ネタバレBOX
後に何か残るかといえば
多分ほとんど残らない気がする・・。
どちらかといえばインパクトで勝負する部分が多かったり・・・。
でも、そのインパクトが
ところどころドキッとするくらい洗練されているのです。
面白さにさらに重ねるもう一歩があったり、
タップダンスなども、
よしんばそれが基礎的なパフォーマンスであったとしても
鮮やかにがっつりと機能したり。
グタグタ感がないわけではないし、
薄っぺらなチープ感も存在するのですが、
それが満ちることなく
なにか癖になるような匂いを醸し出したりしていて・・・。
そのまま楽しんで終演まで観切ってしまいました。