りいちろの観てきた!クチコミ一覧

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覗絡繰

覗絡繰

声を出すと気持ちいいの会

演劇スタジオB(明治大学駿河台校舎14号館プレハブ棟) (東京都)

2010/11/25 (木) ~ 2010/11/29 (月)公演終了

満足度★★★★

語る力
物語や階層を渡る語り口に手練があって
立ち止まることなく物語に惹かれることができました。

ちょっと驚くほどに
刹那の密度を作る力を感じました。

ネタバレBOX

2つの物語を3つの階層で語っていく体なのですが
奥に入り込めば入り込むほど
しっかりと空気感が作られていて・・・。

単純に場面が並べられているというのとは違った
観る側を世界の深さに落とし込んでいくような力が
舞台にありました。

なんだろ、
物語の刹那にすっと観る側の息をとどめるような力があって・・・。
語られる時間が漫然と流れるのではなく
要所要所に絵面が作られている感じ・・。

物語に閉じ込められる閉塞感が
観る側に押し付けられるのではなく
なにか物語の流れに逆らわずに
そこまでついて来てしまったような感覚があって。

特に覗絡繰の終盤の絵面には
綺麗と言うのとは少し違う
引き込まれるような魅力があって
その色に柔らかい恐ろしさを感じるほど。

それぞれのシーンにステレオタイプではない
このお芝居だから感じられるような
色があることに瞠目しました。

強いていえば、一番外側の世界の描き方が
物語たちを支えるにはすこし脆弱な感じがして・・。
そこが作りこまれれば
冒頭と最後の語り口も
もっと際立って見えるのではなどと・・・。
そこがちょっと惜しい気もしたことでした。

☆☆★◎△△○○
冷蔵庫にはっておこう

冷蔵庫にはっておこう

chon-muop

cafe&gallery niwa-coya(東京都)

2010/12/04 (土) ~ 2010/12/05 (日)公演終了

満足度★★★★

同じだけれど違う
経堂芝生版と仙川niwakoya版、
二週にわたって両方観劇。
同じ物語なのに質感が絶妙に違う・・・。

その差異が際立たせた
異なる時間の肌触りを
しっかりと感じることができました。

ネタバレBOX

物語の流れは同じ、
なのに肌触りは絶妙に違う・・・。

経堂バージョンの
どこかドライで深さを秘めた質感が
仙川バージョンの同じ時間には
やわらかく、ぬくもりを持って感じられる

お店が始まったころを表現するユーモラスな仕掛けや語り口は
どちらのバージョンでも一緒なのですけれどねぇ・・・。
やがて、時間が置かれて
店の広さや空気の密度がかもし出されると
それぞれの場所にだけ過ぎていった
時間の個性のようなものまで
くっきりと感じられて。

役者のお芝居に留まらず、
その場に置かれたものや
部屋の温度
観客の雰囲気にも揺らぐような
その場所を過ぎていった時間たちの
どこか長さが忘れ去られたような質感が
それぞれの色に染められて伝わってくる・・・。

マスターの賄いを作って食べ始める姿に
時間が今へと塗り替えられて、
その場所は普段の顔を取り戻すのですが、
もはや観客は
黎明期から重ねられたこのお店の空気に
しっかりと取り込まれていて。

もちろん、単一で観ても
その空気感で観る側を染め上げるような
力をもった小品なのですが、
二つのバージョンを観ると演じられるお芝居の
唯一無二な時間が一層しっかりと伝わってくる。

貼り付けられた手紙やレシートに刻まれた言葉たちが
その場の時間に編みこまれていて
ちょっとぼーっとしたくなってしまうような・・・。

このお芝居、
ちょいと常連のお客さんになって、
いろんな場所、、
いろんな時間やいろんな季節で見たいと思う。

きっとその場所ごとや流れる時間ごとに、
いつもと違うテイストで味わうことが、
できるように思えるのです。

☆☆☆○○◎△□□
噂のラブパワースポットのラブチャペルで、クリスマスイブにラブソングを歌って、永遠のラブを手に入れよう。二泊三日那須塩原高原教会の旅

噂のラブパワースポットのラブチャペルで、クリスマスイブにラブソングを歌って、永遠のラブを手に入れよう。二泊三日那須塩原高原教会の旅

ナルペクト

銀座みゆき館劇場(東京都)

2010/12/01 (水) ~ 2010/12/05 (日)公演終了

満足度★★★★

心地よく膨らむ
冒頭はちょっと薄っぺらい質感がありましたが、
物語が進むうちに
びっくりするくらいに膨らむ・・・。

終わってみれば
やられたなと思うくらいに
面白かったです。

ネタバレBOX

シンプルな舞台の作り、
物語の設定にも
あからさまに物語を展開させる余白が織り込まれていて。
これはありがちにベタなコメディなのかなと思ったのです。

でも、とんでもない。

別に奇をてらった物語の進め方が
あるわけではない。
でも、個々のシーンからやってくる
半歩ずつの意外な展開が
ボディーブローのように
観る側に効いてくる。

舞台上の人の距離や配置、
フォーカスの作り方、
ストーリの進め方・・・。
この手の物語にありがちなもたつきがまったくない。
キャラクター達にしてもそう、
表層と内側にあるものが
エッジを持ってしっかりと演じられていく。

だから、笑いもゆるくならず
笑えるところでしっかりと笑えるし
物語も無駄に絡まらず
サクサク感と意外性とふくらみが
しなやかに共存していく。

役者もキャラクターをしっかり立てて好演だったのですが
それを見せる舞台の仕組みというか演出が
実はしたたかになされていると思うのです。

伏線の張り方も実はがっつり凝っているのですが
それらがしっかり生きるのも
舞台の目鼻立ちがすっきりしているから。
こういうネタで、
シニカルな感触やべたつかない暖かさが醸成されているのは
ちょっとすごい。

冒頭の雰囲気では予想もしえなかった
終演時の満足感に、
なにかものすごいお得感を感じてしまいました。

☆☆☆○◎○□



甘神

甘神

ムシラセ

サンモールスタジオ(東京都)

2010/12/01 (水) ~ 2010/12/05 (日)公演終了

満足度★★★★

くっきりと貫かれた視座
物語を貫く視座がしっかりとしていて、
しかも見せ方に
迷いがなく洗練があって。

その展開が明確に伝わってきました。

ネタバレBOX

会場に入ると
いつもとは違う雰囲気のサンモールスタジオ。
舞台美術の美しさにまず目が行く。

開演するとブランクの舞台、
そこに二人の女性が偲びこんでくるところから
物語が始まります。

そのうちの一人が連絡の取れない彼氏を追いかける。
そして彼を見つけたところはマルチ商法の世界。

流れの中に折り込まれた
女性の心情にぶれがないので
観る側が物語の展開に戸惑うことがない。
女性が事実を知るに従って
すりガラスのような質感を持った舞台が
次第に透明度を持ち、
彼氏に引き込まれる態でその世界に入り込んでいく
女性から見えるものが明確に観る側に伝わっていきます。

光を持った舞台の絵面が本当にきれい。
衣裳の美しさにもストレートに惹かれる。
ファッションショーのように展開していく
役者たちの動きが
観る側の目をすっとさらっていく。
その輝きは砂糖のマルチ商法が放つ蠱惑的な光の
具象化のようにも思えて。

その中で、
マルチ商法に取り込まれていく側の人間の姿が
スタイリッシュさに塗り込められることなく
とても丁寧に重ねられていきます。
舞台上の透き通った感触はさらに研がれ
マルチ商法の光の先にある
影の部分までもさらけ出していく。
舞台の美しさ故に
冒頭の女性の視点から見える
マルチのメンバーたちの姿に
それぞれが抱える
自我やブランクの部分の
あからさまな陰影が浮かび上がっていきます。

終盤、
角砂糖が崩れるようにマルチ商法が終焉を迎える中
女性の視野が彼女自身にフォーカスされて
女性自身の虚を埋めていたマルチ商法の砂糖が流れ出す。
舞台上に貫かれた彼女の内心に
観る側もしっかり巻き込まれているから
砂糖が流れたあとの彼女の虚、
あるいは孤独、
立ちすくむような何もなさが
ファッションショーのまばゆい魅力と同じ力で
歪みなくそのままに伝わってくる。

女性を演じきった役者のぶれのないお芝居に瞠目。
さらには女性の目に映るキャラクターを組み上げた共演者たちにも
リアリティにとどまらず女性が観た色を作り上げる力量を感じて。

終盤のあたりでは、
作り手が舞台の美学を貫きすぎて
わずかに淡々とした質感が強くなりすぎているかなという
印象はありました。
でも、観る側が意識はしないけれど
その質感だから伝わってきたことも
たくさんあるようにも思えて。

ビターな物語ではあるし、
素になって考えれば、
女性もけっこう面倒くさいタイプだったりするのですが、
女性の感覚を無駄なノイズにしない舞台の洗練に
キャラクターが抱える
絶妙な明暗のバランス感が醸し出されて・・・。

時間を忘れて見入ってしまいました。

☆☆☆◎○○▲△











野球なんて大嫌い

野球なんて大嫌い

はらぺこペンギン!

「劇」小劇場(東京都)

2010/12/01 (水) ~ 2010/12/06 (月)公演終了

満足度★★★★

強いる笑いではなく引き出す笑い
キャラクター達がくっきりと描かれていて
それが笑いにしっかりとした腰を作り、
物語のメリハリを生み出していました。

ベタかと思いきや
しなやかなふくらみを持った良質なコメディ、
たっぷりと引き込まれてしまいました。

ネタバレBOX

開演までの客入れの音楽にしても
冒頭の部分にしても
特に洗練された感じはしない。

「タッチ」の世界を重ね合わせることにしても
バッティングセンターの雰囲気にしても、
さらにいえば登場人物たちそれぞれの今にしても
そこはかとなく熱の引いたような
寂れ感がかもし出されて・・・。

でも、その場所に織り込まれた笑いが
雰囲気に沈まないのです。
笑いに様々なベクトルと
観る側を一歩越える踏み出しのようなものがあって、
なんというか、笑いが場の色に強いられるのではなく
観る側から自然に引き出されるよう。
こういう笑いは抜けが良くて
湿ったり乾貴すぎたりしない。
心地よく笑える・・・。

組み上げられた物語に
登場人物たちのそれぞれが
塗りつぶされることなく、
緩やかに浮かび上がってくるような感じも良い。
別にシーン全体に息を詰めるような
繊細な質感などないにもかかわらず、
それぞれのシーンでの個々の想いが
しっかりとフォーカスを絞って伝わってきます。

個々の場を作る役者達が
それぞれのキャラクターの色をしっかりと作りつつ
一方で気負うことなく
全体としての場の空気を作り上げていきます。
ザックリと細やかのバランス感が抜群で
いくつもの想いが撚り合わされて・・・。
ふくらみが舞台に生まれ
その中で
抜けの良さと留まる想いが
さらに舞台に見る側を取り込んでいく。

テレビに向っての野球応援のシーン、
単純に熱するのではなく、
どこかばらついた雰囲気が
ぐんぐんと一つになっていく姿に
ぞくっとくるような高揚があって。
しだいに空気が一つに変わっていく過程が
結構すごい。

プロポーズのシーンも強く印象に残りました。
オカマが面倒くさい部分をガサガサと省いていくのが絶妙に可笑しくて
でも、そこから広がる想いの織り上がりに
観る側までがキュンとなる。

観終わって、
高揚のあとの充足感のようなものが
ぬくもりを持った心地よい感触でやってきました。

単に面白かったという言葉だけでは語りつくせないものが
この舞台にはたくさんあって。
観終わって
なにかほっこりとなりました。

気楽に観ることができて
重くなく、でも満たされる
良質のコメディだと思います。
ハロースクール、バイバイ

ハロースクール、バイバイ

マームとジプシー

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2010/11/24 (水) ~ 2010/11/28 (日)公演終了

満足度★★★★★

しなやかに広がる記憶の質感
そのひとときに蘇るもの、その時間から広がっていくもの。

一行の台詞をフレームにして、
閉じ込められたその時間の質感を、
美化されることなく、
でもとても瑞々しいものとして
感じることができました。

ネタバレBOX

客入れ時にすでに舞台上では
ユニフォームを来た選手が数人、ストレッチをしている。
ステージ上で表現のシステムが動き出す前に
すでにかもし出された空気があって・・・。

だから、物語の始まりのシーンたちがスムーズに展開していきます。

中学校の女子バレー部、先輩が抜けた後の部活の様子などが
ランダムと思えるような切り取り方で
舞台上に次々と現れていく。

やがて、
いくつかのシーンが残像を重ねるように繰り返され
一つになっていきます。
しかも、同じシーンについて観る側の視座を変化させることで
その時間に立体的な厚みがうまれていく。

シーンの時系列も、
最初は記憶の曖昧さを模したように
順番が伝わってこない。
でもシーンのつながりがいくつも浮かび上がり
ゆっくりと流れというかシーン間の因果が生まれて、
その場の空気が
時間をたどるようにして膨らんでいくのです。

たとえばカツサンドの匂い(悪臭)や
ひとりでのマックのこと。
体育館の倉庫の感触や
サッカー部の級友のリフティングにまつわるエピソード。
断片がはめこまれて時間が満ちていく感じ。
バレーボールの練習や合宿、
試合の高揚が
舞台全体をみたす。
一方で
それらの記憶から派生するがごとく
解けるように蘇る場面もあって。

言葉では語ることができないような
さまざまな記憶の密度が醸成されていきます。
重ねられていくシーン達の組み上げは
その場の空気に観る側を包み込むだけではなく
記憶の濃淡までを織り上げていくのです。

ひとつの刹那を醸し上げるために繰り返される
シーン達の精度の作りこみが、実は凄いのだと思う。
シーンのつながりに違和感を感じさせない
役者達の場面を繋ぐ切れに目を瞠る・・。

そうして構築された空気の厚みは
よしんばどこかデフォルメされたような
歌詞の校歌であっても、
浮くことなく、むしろ彩りとして
その場にすいっと引き入れてしまう。

何度か、きっと一行分ほどの長さの、
それが春の終わりの出来事だったことをつぶやく台詞が語られて、
とても効果的だと思いました。
バレーボールの試合の記憶も
取り壊されていく級友の家である銭湯も
その台詞の内側に置かれて・・・。
よしんばしっかりと膨らんでいても
時間がばらけることがない。
台詞が重ねられるとき、
体感的にどこか物憂く、
ちょっと汗臭く、きれいなばかりではない、
でもビターで、少しだけいとおしいその時間が
拡散することなく
すっと記憶の色へと変化して
観る側に置かれていくのです。

終演、そして客電がついても、
舞台上の空気に浸されたまま、
少しの間立ち上がることができませんでした。
べたな言い方ですが、
しっかりと舞台に取り込まれてしまっておりました。

この作り手が
今後どのような空気を舞台に醸していくのか
ほんと、楽しみになりました。

☆☆☆□□☆◎○○



古いクーラー

古いクーラー

岡崎藝術座

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2010/11/19 (金) ~ 2010/11/28 (日)公演終了

満足度★★★★

なんか封じ込められた
ちょっとした工夫に封じ込められて、
そのまま、あれよあれよと観てしまいました。

ネタバレBOX

なにか場末の映画館の開映時のようなブザーがなって、
そのままに舞台に閉じ込められてしまう感じ。

基本的には古いクーラーがお題になって
つかず離れずで人物が順番に語っていくという感じなのですが
冒頭のブザー音が絶妙に効いていて
その場のいろんなテンションの作り方やデフォルメが
パッケージの内側のように感じられる。

すると、個々の「クーラー」の個性のようなものが
絶妙に面白いのです。
どこかポップで、
ちょっとこじつけられて
無駄に思えるほどハイテンションに披露されていく話たち。
クーラーの枠からはみ出し、
ロールからはみ出し、
物語とまではいかなくても場の色や空気が生まれ、
流れていく。
なにかずるずると続いていく感じがちょっと冗長にも思えるのですが
その冗長さがあるからこそ、
役者たちがテンションの強弱で作る場の空気が
すごくのびのびと生かされている感じがして。
それらのニュアンスが
始まりと終わりのブザーで
映画の一本の質量にすっと収まる感じが
何か不思議だし、
見てきたものが観客側に焼き付けられ
すとんと落ちる感じもして。

私自身が考えすぎているのかもしれないし、
もっとしっかりと見るべき表現なのかもしれませんが
ちょっとこれまでにない感覚があとに残って、
それが妙に面白く気になる作品でありました。





~あの素晴らしい闘争(まつり)をもう一度~≪★バナナ全学連☆≫【劇場版:バナナ学園の闘争】

~あの素晴らしい闘争(まつり)をもう一度~≪★バナナ全学連☆≫【劇場版:バナナ学園の闘争】

バナナ学園純情乙女組

王子小劇場(東京都)

2010/11/22 (月) ~ 2010/11/22 (月)公演終了

満足度★★★★

進化している!
以前拝見した時よりも、早稲田の学園祭で拝見した時よりも、さらに進化していました。

理屈とか関係なく、坩堝に取り込まれてしまいました。

ネタバレBOX

ダンスなどにしてもどんどんとクオリティが上がっている感じがします。まだ粗削りですが、それでもここまでのクオリティをつくるのは大変だと思う。

万人向けではないのかもしれませんが、個人的には大好き。合う合わないは一度観てから決めればいいことかなぁと思ったり。

りんごりらっぱんつ

りんごりらっぱんつ

劇団競泳水着

サンモールスタジオ(東京都)

2010/11/12 (金) ~ 2010/11/23 (火)公演終了

満足度★★★★★

丸められずに重なる時間たち
一つずつのシーンに
キャラクターたちのとても実直な時間の肌触りがあって。
それゆえに重なっていく日々に圧縮感のない
肌触りとふくらみが生まれて。

リアリティを持った時間の密度に深く浸潤されました。

ネタバレBOX

冒頭の母娘のシーンに
そのまま取り込まれる。
そこには娘たちの個性と
娘たちから見た母親の姿が
観客に吸い込まれていくための
絶妙な密度で描き出されていて・・・。

その密度の作られ方は
重ね合われていく時間の中に共通していて
まるで魔法のように
それぞれのシーンでの
登場人物たちの感覚が
入り込んでくる。

いろんな工夫が織り込まれているとは思うのです。
時間の経過のなかに
キャラクターたちの想いの根がしなやかに仕込まれていたり、
単純に演じられる個性とは別に
物語のふくらみから滲みだすようなキャラクター達の色や抱えるものが
仕込まれていたり・・・。
個々のシーンでのいろんな距離感の作り方にも
観る側がすいっと呑みこむことができる
ピンポイントに近い絶妙さがあって・・・。
でも、それらは観終わって
彼らの時間を俯瞰する位置にまで連れて行ってもらって
はじめて気づくこと。
この舞台には
押すだけの力技とは違った
シーンごとに物語を客観視させない空気感があって、
個々の歩む時間も
適度に前後しながら
観る側に積みあがっていきます。

その積み上がり方が凄く良い。
なんだろ、シーンごとに
釘を打ちつけられたり鎹をはめられたりして
固定されるのではない、
ひとりの時間の枘(ほぞ)がすっと他の時間にはまって
組み合わされていくような感覚が幾重にもあって・・・。
それらは、重さで作られた
押し込まれるような密度ではなく
あるがままの空気の軽さからやってくる
浸潤力をもった密度を醸し出していきます。

だから
終盤の様々なシーンが
物語られたものを受け取るというより
もっと感覚に近いものとして
観る側に広がっていく。

結婚式でのパティシエのあいさつや想いの吐露に
語る側と語られるそれぞれの時間を染める深さが生まれる。
レストランで何度も繰り返される
その日のメニューを確認する時間を愛でる
ウェイトレスの感覚がとてもビビットに伝わってくる。
そして、さらに伏線を一つ解くような、
中央線がらみのシーンのどこかありふれた光景から
要のようにして広がっていく時間の質感が
観る側にしっかりと膨らんでいきます。

今を受け入れて生きるキャラクター達の姿に
息を詰めるのではなく自然に膨らんでいくような、
少しビターだけれど
でもしっかりとした愛おしさを感じて・・・。

役者たちの力量にしっかりと運ばれつつ
この作り手でなければ
描きえない時間やつながりの質感があることを再認識。

上手く言えないのですが
その語り口からは思いもよらないほど
留まるものをたくさん持った
しっかり心に残る作品でありました。

この作品、是非に
公演期間中もう一度観たいと思います。

◎☆☆○□◎□□

青年団若手自主企画vol.44「僕らのアルゴリズム」

青年団若手自主企画vol.44「僕らのアルゴリズム」

青年団

アトリエ春風舎(東京都)

2010/11/11 (木) ~ 2010/11/14 (日)公演終了

満足度★★★★

くっきりとした掴みどころのなさ
なにかふわっと掴みどころのない肌触りの内側に
恐ろしくビビッドな感覚があって。

じわじわと伝わってくるものに次第に捉えられていきました。

ネタバレBOX

開演してしばらくは
観る側としてもやってくるものをそのままに受け止める。
終末観の根拠にしても
街のさびれ感にしても
ほわっとそこにあ。

しかし、そのほわっとした感じを裏打ちする
なにかへの従属やつながりなど
言葉のすこし外側にあるような概念が次第に現れてきて・・。
すると
舞台上のその時間を生きる肌触りが
常識的な表現を超える感覚で溢れてくるのです。

なんだろ、
表現する座標が違うことで
隙間にある感覚が伝わってくるというか・・。
現実と内心の間の部屋で
やや内心に向いて過ぎゆく景色を眺めているような感じ・・。

後半からはシーンのコンテンツや
色合い、さらには高まりや沈み方が
一つずつ響いてきて・・・。

深いというわけではなく
ビビットな刹那の感覚の積み重ねだとは思うのです。
でも、舞台には醸し出される色をその場にとどめず、
色を舞台に残して更なる醸し出すような
表現の豊かさがあって。

かなり評価が分かれる作品なのかもしれませんし
そもそも、作り手の意図をしっかりと理解出来た自信もないのですが
すくなくとも、
どこかパーツをミッシングしたような感覚の奥に垣間見える
特別ではない感覚の表現の
ぞくっとくるようなナチュラルさに
心を捉えられたことでした。

なにか、劇症的ではなく
ゆるやかに効いてくるような作り手の鋭さを
強く感じたことでした。
乱歩の恋文

乱歩の恋文

てがみ座

王子小劇場(東京都)

2010/11/03 (水) ~ 2010/11/10 (水)公演終了

満足度★★★★★

主観と客観の織り上げ方
浅草の世界と現実。そこには渾然としていながら明確な主観と客観の視座があって・・・。

二人の生きざまの綾織りに広く深く取り込まれてしまいました

ネタバレBOX

創作に行き詰った作家が逃亡をする冒頭のシーンは
どこかコミカルですらあり、
ほんの少し冗長な感じもしました。

しかし、そこから傀儡師の世界が現れ
人形芝居の客観で
記憶が演じられると
舞台に深い奥行きが生まれ
やがて息が詰まるほどに取り込まれてしまいました。

江戸川乱歩夫婦の慣れ染めから
極貧の時代、
夫婦喧嘩から垣間見えるそれぞれの想い、
互いの距離感のようなもの・・・。

人形芝居という建前で
再現されるそれぞれのシーンに
観客的な立ち位置を持った妻の想いが編み込まれていく。
単に夫婦の歴史が語られるのではなく
刹那の心情を回顧する
舞台上の今というか別の視座が
縫い込まれていくのです。

個々のシーンが本当に瑞々しい。
夫婦の会話から溢れる
絶妙なウィット。
塗り込められたトーンのさらに奥を照らし出す
いくつもの台詞たち。

夫の才能が開花する時の
原稿を読者にばらまく表現には
グルーブ感に包まれた高揚があり、
一方で創作が生き詰まる閉塞感の先にある
「グロ」感覚の気配も質量をもって伝わってくる。

奥行きをもった舞台装置が
そのまま、夫婦の時間の広がりに重なっています。
人形芝居に接した妻が
まるでその芝居を観るさらに外側の観客のごとく
取り込まれていく。
虚としての実が現れ、
実が見えるから浮かび上がる虚があって・・・。
単に夫婦ふたりの世界にせず
兄弟たちの描写や
横溝正史をなどをからめた出版社の風景を組み込むことで
時間に実存感が生まれ
人形芝居の客観が
妻の主観によどまない。

おじさんの踊りや
出版社の女子社員のおしゃべりなどが形作る
伏線というか物語に埋め込まれた梁の貫き方にも
物語を盲目的な閉塞に崩さない手練があって・・・。

人形たちの糸が断ち切れ
現の世界に戻る
あばら家の質感は
観る側の目まで醒ましてくれるよう・・・。

そして、タイトルの乱歩の恋文が伝わってくるとき、
夫婦の生きてきた感覚が
機微とともに観る側に染み入ってくるのです。

舞台美術も秀逸、
役者たちには個々のシーンを踏み込んで演じるような技量を感じて。

海辺の町での出会いから
編み込まれて行った時間たちの
個々の重さと編み上がったものの不思議な軽さを同時に抱いて、
気持ちをいっぱいにしながらの
家路となりました。

☆☆◎☆☆☆◎○●


俺の屍を越えていけ【無事に終了しました】

俺の屍を越えていけ【無事に終了しました】

七里ガ浜オールスターズ

【閉館】SPACE 雑遊(東京都)

2010/11/01 (月) ~ 2010/11/07 (日)公演終了

満足度★★★★

キャラを楽しみ物語に惹かれる
キャラクター達から醸し出される雰囲気がキュッと実存感を持って魅力的。ボディをしっかりと持っていながら、一方で会社帰りや休日にサクっと観に行きたくなるような良作でした。

ネタバレBOX

戯曲自体は
何度かあちこちで上演されていたとのことでしたが
私は初見。

開演前のちょっとした小芝居が意外と効いていて
開演するとたちまちその場の雰囲気にとりこまれます。

その会社の空気が、
すごくナチュラルな肌触りで伝わってきます。
単に職種にとどまらず、
日々の仕事のスタンスやそれぞれのスキル、
さらにはキャラクターの個性や
それぞれの距離感までが
まるで観る側にとって周知のごとくやってくる。

だから、
”社長から下された密命に従い「リストラする上司を一人選出すること」”
という設定に場が浮かない。
場の空気のままに
設定が吸い込まれ広がっていくのです。
伏線たちの張り方や回収の仕方が
くっきりとしていているのにあざとくない。
ウィットの強弱にもドラマを生かす手練があって
観る側も気負うことなく時間に取り込まれ
その顛末に前のめりになっていく。

役者たちのお芝居も、
なんか心地よく演じている感触があって
観る側を引きこんでくれます。
一方で密度はしっかりと作られていて・・。
立ち位置、表情、間の取り方など、
いずれにも創意や洗練がある。
ちゃんとキャラクターの仕事を緻密に纏いながら
その個性が奥深く醸し出されていきます。
ひとりずつのお芝居の豊かさが全く休むことなく
のびのびとした感触で伝わってくる。

身内会議に定番の飲み物やちょっと口にするものが
個々の心情を伝えるツールとして驚くほどに生きる。
シーン達を支える「社内感」や
キャラクターたちの想いの
ウェルメイドではない組みあがり方にも瞠目。

おかしさとビターな感覚とリアリティのブレンドが
ほんと絶妙。
瀧川演出の冴えもがっつりと感じることができました。

これだけのクオリティが内包されたお芝居を
会社帰り(平日20時始まり、尺もそれほど長くない)や
休日(3回まわしで都合がつけやすい)にサクッと観にいけるのは
とても素敵なことだと思う。

大上段に振りかざしたような凄みや重さはなくても
さりげなく深い趣きやウィットを内包したとても良いお芝居・・・。
上質なお芝居に出会った時の
やわらかい高揚をもって
家路をたどることができました。

☆☆☆◎★★◎△△








転転転校(千秋楽・当日券ございます)

転転転校(千秋楽・当日券ございます)

水素74%

アトリエ春風舎(東京都)

2010/10/26 (火) ~ 2010/10/31 (日)公演終了

満足度★★★★

転校の感覚がしっかり
説明などに記載されているのとはちょっと違った感じでしたが、とてもビビッドな感覚が伝わってきました。

ネタバレBOX

そりゃ、子供にとって
転校ってストレスだし、新しい環境になじむのも
大人より大変なのだと思う。

でも、同時に、
子供なりに何とかしようと思ったり、
さらには
転校先の学校に馴染んでいく感覚もあって・・・。

作品として、
構成が若干ランダムすぎる印象はあるのです。
コラージュされていく個々のシーンに
重なりのムラやつながりのなさを感じる刹那もある。

でも、ひとつずつのシーンがとても豊かでビビッド。
親が前面に出て子供を導く感覚がまず強烈だし、
動作を追いあい、
戸惑いながらも次第に攻守を変えて追いかけていく表現に
すっと心が通い合う感覚が生まれ、
生活のルーティンを表現する時の座る方向に
集団と個の感覚が鮮やかに浮かび上がる。

ダイアログに縫い込められた
いじめの肌触り、
エチュード風の場面のそれぞれの表現が
そのまま、まとまりと個性が混在する
クラスの雰囲気を醸し出して・・・。

笛の会話のどこかコミカルな感じもよい。
おんぶから次第に連なっていくニュアンスも
しっかりと伝わってくる・・・。

それぞれのシーンの完成度が
やがて、転校先の日々に溶け込んで・・・。
だから、再びの転校に
「慣れた」という言葉が
すっと実感として観る側にも置かれるのです。

身体表現がきちんとできる役者や
演技に創意と精度をもって広がりを生み出す役者・・・、
いろんな役者の個性が頑張っている感じも
作品の品質をしっかりと支えて。

挑むように観る作品ではないのに
終わってみると、なにか残る。

シャンル分けするのは難しいし
好き嫌いは分かれるのでしょうけれど、
個人的にはとても面白く感じたし
作品に向かい合う側の想像力をかきたてるというか
観る側でも膨らむものをがっつり持った
表現たちであったと思います。

☆☆□★★★◎







起て、飢えたる者よ

起て、飢えたる者よ

劇団チョコレートケーキ

ギャラリーLE DECO(東京都)

2010/10/27 (水) ~ 2010/10/31 (日)公演終了

満足度★★★★

史実を見つめ、史実を超えて
ル・デコのスペースをしっかりと作り変えて
その空間だから作りうる
空気の緩急を創出して・・・。

ある種の緊張感に縛られたまま
物語に取り込まれてしまいました。

ネタバレBOX

インターナショナル」が歌われて
開場前の空気がすうっと染められて・・・。

その空気のまま、
山荘のシーンにすぅっと包まれる。
恣意的に作られた
どこかぼやけた空気のなかに
5人の男たちが入り込み
空気がさらに塗り替わる。
その、ストイックな雰囲気の中で
物語が広がり始めます。

教条的な考え方には
ある種の力が裏打ちされていて、
よしんばそれが歪んだものであったとしても
彼らの貫く不器用さには説得力がある。

設定も冒頭からフィクションなのですが、
そこには史実の色が深く漂っていて、
その事件をリアルタイムで知っている世代だと
その結末を想起しながら物語に取り込まれていく感じ。
だから、その管理人の女性が
捕捉された組織のリーダーに憑依していく後半の展開は意外で
そのなかでの個々のキャラクターの姿に
ますます取り込まれてしまう。

5人の男たちそれぞれの
純粋さと思惑に
管理人のかつてのリーダーが憑依した剃刀のような理論が
ぞくっとくるような感覚で重ねられて。

理想を求める強さ、
それが現実と乖離し挫折していく感覚、
さらには教条の行きつく先がもたらす崩壊が
皮膚感覚で伝わってくる。
その圧倒的な説得力と
受け取る側の脆さに息を呑む・・・。

そこには殉じる美学があって
でも、殉じる美学によって
歪められ隠されるものもたくさんあって・・・。
ラディカルな革命思想に込められた
戦時中の標語のようなストイックさと
そのなかでの、個々の想いの生身の部分に
観る側までが削られるように圧倒されてしまうのです。

思想の肌触りがとても緻密に描かれたことと
その中で個性や想いを現わしえる
役者たちの想いが至近距離でひりひりと伝わってくる。

管理人の女性の描き方も実に秀逸。
思想が入り込んでくる部分にこそ
もう少し描き込んでほしい感じはあるものの
イノセントな冒頭の部分の物憂い感じと
理論武装してからの力強さの落差には
ひたすら瞠目。

史実を見据え、縛られることなく
その惨劇に潜む構造をしっかりと組み上げた舞台。
作り手の慧眼に息を呑み
舞台美術やライティングの力
さらには
構造を肌合いにまで昇華させた
役者たちの底力に圧倒されたことでした。

☆◎☆★★◎△△○
どうじょう

どうじょう

コマツ企画

OFF OFFシアター(東京都)

2010/10/23 (土) ~ 2010/10/31 (日)公演終了

満足度★★★★★

くっきりと深く
男も女も
その内に抱えたものが
くっきりと伝わってきます。

作り手の、一気に表皮を剥いでみせるような
人間描写に瞠目、
そこからのさらなる広がりにも
稀にみるおもしろさがありました。

ネタバレBOX

先月に続いての2カ月連続公演、
今回の作品にも懐深い人間描写がありました。
前回とは異なる切り口から
人間のコアにある想いが鮮やかに浮かび上がっていく。

特に今回の作品には
まるでCTスキャンのごとく皮膚の内側をみせるような、
人間の本音を描き出す仕掛けがあって・・・。
男女紹介業の建前のなかで
そこを訪れる男女の
あからさまな本音がもろに引き出されていきます。

まずは
そこにたむろする常連男性たちそれぞれの
本音の隠し方というか
建前の取り繕い方が
ある種の哀愁を感じるほどに
おかしい。
昔々、下世話なキャバレーに、
「紳士の社交場」なんていうフレーズがついていたことがありましたが、
それに近い感覚があって
それぞれの薄っぺらな表皮の纏い方が
かえって、個々が持つ男たちがもつ本音の匂いを
おもいきり醸し出していく。

その本音の漏れだし方も
一層ではなく
本人たちが隠し持っている劣情にくわえて
さらにその奥にある
キャラクター自身が気づいていないような
深層心理までも浮かび上がらせていくのです。

女性たちの描写には
男性とは違う肌触りがあって
内面の伝わり方も男性ほどあからさまではない。
その男女の温度差が
しなやかにほの悲しく、
でもどうしようもなく可笑しい。
その一方、やがて剥ぎ出されていく
女性たちの纏うものと本音、
さらにその奥に抱えたものには
男性とは異なる屈折や凌駕するような深さがあって、
目を奪われる。
紹介所だけではく、
上手におかれた外のスペース設定での
さまざまな雰囲気や
取り繕いきれないキャラクターたちの想いが
観る側を深く取り込んでいきます。

紹介所のスタッフたちも絶品の出来で、
しっかりとした個性を持って
舞台全体に冷徹な視座を作り
訪れる人々の個性を強調していく。
そこまでに作りこまれているから、
客席から登場する最後の女性(主宰)がやがて導く
うそっぽいというか確信犯的な高揚にも
グルーブ感すら生まれ
がっつりと掴まれてしまう。
舞台の範囲というか演劇の枠を
崩壊させて溢れ出してくるものに
あけすけさや可笑しさの重なりを踏み越えた
さらなる質感があって、
息を呑む。

正直なところ
崇高でも高尚でも全くないのですが、
この舞台だからこそ感じられる
昇華してしまったような、抜きようのない
人間臭さがあって。
それが臭覚だけではなく
個々のシーンの温度として
しっかりと伝わってくる感じ。

この感じ、かなりすごい。

しかも、そこまでの突抜けがありながら
遊び心が随所に光る。
たとえば、
イルカを食べる話の不思議な説得力。
あるいは、
場ごとにあらわれる
気の弱そうなやくざさんなども、
絶品。
贅沢な役者の使い方なのですが、
そのキャラクターだけでも十二分に可笑しい上に
物語のコアに入って行けないキャラクターだからこその、
男女の劣情のエッジを際立たせる力もあって。

正直なところ観終わってしばし呆然。
作り手の
幾重にも重なった表現力に舌を巻きました。
掛け値なしにおもしろかったです。

☆☆☆◎◎★△△





神様さん

神様さん

MCR

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2010/10/22 (金) ~ 2010/10/31 (日)公演終了

満足度★★★★

構造の明確さを支える力
セットといい、キャラクターの設定といい
あからさまなほどに明確。

わかりやすいのに、
残る想いに掴みきれないほどの広がりがあって・・。

その世界観にどっぷりと浸りこんでしまいました。

ネタバレBOX

場内に入ってびっくり。
客席が地についていないし
舞台も立体化されたような3層構造。
なんというか「百聞は一見にしかず」的な
セットが組み上げられている。
横にはDJブースが設えられて
開演前から放送的な<パフォーマンスがあって
場内の時間に実存感がうまれていきます。

最上階の女王たちの世界の
ちょっとシニカルなデフォルメ、
嘘っぽさのなかで不思議にとても瑞々しくて・・・。
その世界の説得力が
物語全体を生き生きと動かし始める。

落書きのような絵を描く中間層の画家や
メディアの世界にしても
芋煮会をする下層の世界にしても
観る側を得心させるだけの
ニュアンスが込められていて。
作り手が綴り上げる寓意たちの洗練に舌を巻く。

世界がためらいながらも交わる中で
それぞれから滲みだす
ペーソスにじんわりと浸されていきます。
舞台上の噛み合わない想いの重なりと距離感に
おかしさを纏ったとてもピュアな感覚が
姿をあらわして・・。
キャラクターたちに浮かび上がる心情に
柔らかく掴まれる。

成り行きから女王様に謁見した男の
ファン心理に近いような想いや、
その想いに恋してしまう女王の純真さは、
それぞれに巧妙に薄っぺらいのですが
それらは、キャラクターたちの不思議な実存感と
想いの普遍性に裏打ちされていて
すっと観る側に入り込んでくるのです。

終盤、女王様の、
けれんにも思える、
チョロQを彷彿とさせる戻り方があざとくならないのは
構造が舞台装の外連に頼るだけではなく
個々の立ち位置や抱えるものが
密度を持ってしっかりと描かれているから。
演説での女王様の突き抜け方にしても
絶妙にご都合主義でウェルメイドな物語の納め方にしても
そこまでの
登場人物のキャラクターについてのこまかい描き方があるから
出来ること。

よしんばチープでラフな童話のような質感であっても、
恣意的にはみ出し感を持った
デフォルメがほどこされていても、
個々のシーンでの登場人物たちの心情の解像度に
観る側を浸潤するがっつりとした力があって。
舞台に設えられた3段のステージを
キャラクターたちが行き交うとき、
踏み越えることの高揚と、
踏み越え得ないものからやってくるペーソスが
そのまま観る側に流れ込んでくるのです。

貫き通されたデフォルメのなかで
切れ味と豊かなニュアンスを同居させる
役者達のお芝居に
ぐいぐいと引き込まれてしまう。
それぞれにキャラクターの色を
もう一歩踏み込んで押し込んでくるような力があって、
気が付けば、ふっと今を俯瞰するような感覚が
観る側に置かれている。

MCRワールドの魔法に
大きく立体に組まれた舞台がさらなる力を与えて・・・。
あっという間に時間が流れ
終ってみれば、
その世界に深く取りこまれておりました。

観るたびにある種の嵌り感に囚われる・・・、
MCRの魅力を
今回もしっかりと感じたことでした。

☆☆○★★★◎◎△
いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三小学校

いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三小学校

ロロ

新宿眼科画廊(東京都)

2010/10/17 (日) ~ 2010/10/24 (日)公演終了

満足度★★★★★

初演とは違った良さもあって
初演時とはすこしだけ肌触りが違って感じられましたが、
鮮烈な印象は曇ることがありませんでした。

ネタバレBOX

カオスが初演に比べて薄くなって
その分、よりくっきりと
小学生たちの感覚が伝わってきました。

幼さというか薄っぺらさと
膨らみの余白が観る側の何かを超えて
ダイレクトに伝わってくる。
デフォルメの仕方がしなやかで
単純になにかを抽出するのではなく
そこからもう一歩踏み込んで描き出す力を感じる。

ベタなウィットが
小学生的な感覚のリアリティを醸し出しているというか・・・。
どこか不器用な包み方の想いから
ピュアな気持があからさまに溢れだしてくるというか・・・。

そう、いくつもの
心惹かれるシーンがあって。
先生の演技の切れや
生徒たちの感覚の不思議な正直さが醸し出される刹那の
ひとつずつがとてもよい。

柔らかく繊細なニュアンスを
貫き通すだけの踏み込みの強さを
役者それぞれがしっかりと持っていて。
だから、キャラクターの想いが
崩れたり埋もれることなく
卒業の時間にしっかりと息づいていく。

再演で
初演とは若干肌触りも違ったのですが、
(個々の想いのモアレのような部分がそぎ落とされた感じ)、
初演と変わらぬ鮮烈さがそのまま残り
揮発しない感覚がずっとそこにありました。

新宿眼科画廊のあのスペースで
これを見るのはほんとうに贅沢。

ほんと良いものを拝見したと思います。


☆☆◎★★★△
性的敗北

性的敗北

シンクロ少女

王子小劇場(東京都)

2010/10/15 (金) ~ 2010/10/17 (日)公演終了

満足度★★★★

ぼかさず生々しく
冒頭のシーンが
ぞくっとくるような説得力をもって
終盤に回収されて。

不思議な、あるがままさに
囚われてしまいました。

ネタバレBOX

冒頭の落涙シーンが
いきなりとても印象に残る。
その空気が観る側をしっかりと引っ張っていきます。

ゆっくりと表される
カップルたちの形態・・・。
重なるようにすっと舞台におかれる感触は、
最初どこか表層的なのですが
最初のシーンの印象にも押されて
そのままに見続けてしまう・・・。

で、気がつけば
同じ言葉に宿るずれが
少しずつ観る側に沁み込んでいて。
絆がほどけて崩れるような感覚が
次第に観る側を満たしていくのです。

それだけでも、
息を呑むのに、
作り手は、さらにそこからの物語をぼかさず、
あからさまに
生々しく描き上げていく。

それが冒頭の涙に繋がるとき、
思う気持ちのどうしようもなさと行き場のない孤独までが
包み込むようにやってきて。

早くて癖になるような料理が暗示する感覚が
とてもしたたか。
シンプルな舞台装置だからこそ
浮かび上がるものもあったように思います。

役者たちがまっすぐに作り上げる
キャラクターたちの心の色に浸潤されて。
観終わって、
なにか不思議な満たされ方がずっと抜けませんでした。

☆☆◎★★★△△○
女ともだちのそうしき

女ともだちのそうしき

RONNIE ROCKET

大吉カフェ(東京都)

2010/10/15 (金) ~ 2010/10/18 (月)公演終了

満足度★★★★

初演と今回の色の違いも秀逸
男性版(初演)とは異なる
女性的な密度の作り方に
緻密なリアリティがあって
引き込まれました。

枠の部分とバージョンの個性が
したたかに
その場の色を作り上げて・・・。

とても面白かったです。

ネタバレBOX

この作品、初演を見ていて
その時に女性版の話をお伺いして
楽しみにしておりました。

物語の枠は同じなのですが
冒頭の知らないどおしの距離の取り方が
男性と女性ではかなり違って
初演版とはことなった感触に
いきなり取り込まれる。

男とは明らかに異なる質感で
すっと距離が縮まる感じ。
男性版ではステップを踏んで
次第に醸し出されていく空気が
女性だと一気にやってきて、
でも、そこからがけっこうめんどうくさいのも
上手いなぁと思う。
その距離が交わるまでに
男性にはないようなステップが感じられたりもするのです。

いろんなディテールの作り方が
実はとても細かくて、
でもそれだけの空気にしない
女優二人の滑らかなお芝居が
舞台の解像度をしっかりと維持していきます。

それぞれのバックグラウンドの解け方が
一律ではなく、呼吸のような間から
崩れるように浮かび上がってくるのがよい。

女優二人から滲み出てくる
役者としてのの魅力が
すっとキャラクターの日々に
ふくらみを与えて・・・。

葬式の話に不謹慎なのですがw、
その空気感を
たっぷりと楽しむことができました。
グロリア

グロリア

ハイリンド×サスペンデッズ

「劇」小劇場(東京都)

2010/10/14 (木) ~ 2010/10/24 (日)公演終了

満足度★★★★

緻密なラフさが吸い上げるもの
いたずらに密度を前面に押し出さず
恣意的にラフな部分を作り上げている感じ。

そのテイストがとてもうまく機能して
よりたくさんのことが物語に吸い上げられていく。

含蓄のある豊かな舞台でありました。

ネタバレBOX

終戦後のアメリカから現代の日本、
そして過去の日本へと物語が綴られて
ふたたび戻っていきます。

それらをつなぐ糸にあたるものが
とてもしたたか。
役者のキャラクターを重ね
亡霊を使い、映像を使って
観る側を不要にタイトにせず
でも、物語の時間と日米にまたがる広さを
そのまま観る側に置いていきます。
役者の使い方にも工夫があって
手記を読むという入口から
奥にずずっと取り込まれていく。

人間描写の織り込み方が
観る側にとって広がりがあって。
重さはないにも関わらず
くっきりと観る側にやってくる。

いくつものシーンで
どこかウィットを感じさせる日々の暮らしが
密度と軽さを共存させながら
しなやかにスライスされて・・・。

主人公の性格や訪れる閉塞感、
そのなかで生きていこうとすること。
そして離婚した妻の想い。
それらが、
アメリカの牧師夫婦や
戦中の祖母の描写とも繋がりあって
幾重にも伝わってくる。

3つの物語、
現代では夫婦を演じたふたりに
共通したものをふって
観る側を世界に閉じ込めてしまうやり方が
しっかりと機能して。
気がつけば、キャラクターたちが
生きていくことの肌合いに
心を奪われている。

終演後もゆっくりと深まっていく
感覚があって、
単に舞台上だけではなく
その記憶の余熱からも
このお芝居に込められたものを
悟ったことでした。

物語の構成も、役者たちにも
安定感があって。
その一方で
観る側がゆだねることができるチャレンジが感じられる、
とても魅力的な舞台だったと思います。

☆☆○★★★△△◎

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