りいちろの観てきた!クチコミ一覧

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アマゾネス

アマゾネス

劇団上田

シアター711(東京都)

2011/02/16 (水) ~ 2011/02/20 (日)公演終了

満足度★★★★

独特の間に惹かれる
劇団初見。初日を観劇。

べたなようで、しっかりと切れがある・・・。

独特のな惹きこまれ方で、あれよあれよという間に
観終わってしまいました。

ネタバレBOX

なんだろ、
観る側をそらさない
ちょっと不思議なテイストの舞台でした。

先端を行くとかとんがった印象はないし、
逆にじっくりと語り聞かせてくれるようなお芝居でもないのですが、
中途半端な感じはしない。
薄っぺらったりゆるかったりするかといえば
決してそんなことはなく、
どこかにゆったり感やルーズな感じはあるのですが
舞台上で一番惹かれているのは
あからさまでないけれど、
ボディを持った切れであったりもする。

装置だって、別に立てこんでいるわけではなく
むしろ安っぽい感じなのに
きちんと機能をしてるし
時間をどんどんとさかのぼっていくタイムトラベルの話にしても
外枠のビデオを探す話のゆるさがしっかりと効いて
ちゃんと舞台上に居場所をあたえられていたり。
客電まで灯す
brief intermission的な恐ろしい間が
物語の中にすっと納められたり。

役者たちのお芝居にも手練があって、
重くはないけれど
ここ一番の濃さがあるので
観ていてちゃんと印象に留まってくれる。
それぞれの個性が丸められることなく
観る側を捉えてくれるのです。
よしんば、
素で聴けば引くほどにべたな言葉遊び的ギャグであっても
腰の据わった精度のある重なりから
グルーブ感がうまれて、
それが役者たちの魅力を引き立てくれたり。
いろんなシーンで
なにげに役者たちが生かされている舞台だとも思う。

ゆったりと見続けてしまうのは
劇場のゆったりとした椅子のせいではない。
踏み込むところは
恐れずにしたたかに踏み込んでいるし
密度が減じられないように
要所がちゃんと押さえられているからかと。

正直なところ、感動したとか胸がいっぱいになったとか
そういう満たされ方ではないのですが、
終わってみると、舞台の時間を楽しんでいたことは
間違いなくて。

個人的にはありそうで、でも滅多に巡り合えないタイプの
豊かさに出会った感じ。
どこか癖になるような感覚に満たされてしまいました。
バレンタインサミット

バレンタインサミット

乱雑天国

エビス駅前バー(東京都)

2011/02/11 (金) ~ 2011/02/15 (火)公演終了

満足度★★★★

恐るべきコストパフォーマンス
ちょっとイベント的にコントでもやるのかなくらいの気持ちでお伺いしたのですが・・・。実はがっつり充実の短編集でした。

ネタバレBOX

8編の短編やダンスパフォーマンスからなる舞台。

冒頭は、予想通りのイベントっぽい態だったのですが、
作品に入ると目を見張るようなクオリティがありました。

それぞれの作品に、
作り手の醸す堂々としたベタさのようなものがあって、
でもそれらがベタの中で折れない・・・。
作り手の腰が据わっているというか
ひとつずつの作品が
異なったベクトルの世界を醸しては
観る側を素敵に裏切ってぐいぐいと昇華していく。

コンテンツには遊び心いっぱいなのですが、
役者たちのお芝居には
観る側を凌駕するしっかりとした踏み込みがあって・・・。
たとえば平手打ちのシーンなどでも、
場内がどよめくような迫力なのですが、
そこには
これなら相手の役者が報われるだろうなと思うほどの
クオリティが裏打ちされている。
あるいは、シュールな作品であっても
役者に突き抜けるに十分な手腕があって
ある種のグルーブ感すら醸し出して
ぶれずにまっすぐにやってくるのです。
よしんばデフォルメされたニュアンスでも
キャラクターたちの想いの機微が
舞台を満たし、しっかりと伝わってくることにも瞠目。

役者たちの力量がくぐもらず、
演目間のつなぎのゆるさが
作品をさらに際立たせて・・・。

ゲストダンスのパフォーマンスにも舌を巻きました。
間違いなくダンスパフォーマンスには制約となるべき
非常に狭い舞台を逆に味方につけて、
空間を圧倒的に満たしていく。
メインとなるシークエンスには
観る側をしっかりと引き込む創意があって、
動きのしなやかさが
観客を一瞬たりともそらさない。
いろんな広さを持ったスペースでも
観たくなるユニットでした。

終わってみれば、
木戸銭と冒頭の雰囲気からは
とても想像できないような
高いクオリティの作品群に愕然。

最後の演目で冒頭につなげて
すっと舞台を納める感じも
力まず気取らずとても良い。

乱雑天国、おそるべしです。

ご覧になるなら、荷物少なめで早めにいって
比較的前方の○椅子席がおすすめかも。



サイキックバレンタイン

サイキックバレンタイン

たすいち

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2011/02/11 (金) ~ 2011/02/13 (日)公演終了

満足度★★★★

しなやかな勢い
冒頭から勢いがある舞台で、観る側にそのまま委ねさせるようなちからがありました。

ネタバレBOX

冒頭からしっかりとしたテンションが舞台上にあって、
観る側がそのまま物語に入って行ける。

よしんば当日パンフレットに
キャラクター設定がかかれていたとしても、
舞台に展開されるニュアンスには当然別の深さがあって、
物語の全容を追い求めるような感じで、
舞台にどんどんと取り込まれていきます。

キャラクター間の利害がどんどんと変化していくので、
目が離せない。
個々の役者の演技がしっかりと色を作っているので、
次第に開示されていくものがしっかりと見えて、
それゆえ観る側の好奇心が休まないのです。

しっかりと理詰めで組み上げる部分と
ラフに遊び心で描いていく部分のバランスも
とても良い。

終盤超能力どおしが対決するあたりから
物語自体が若干複雑になって、
その分、ラストが多少突き抜けきれなかった感じはしあるものの、
観ていての充実感はしっかりと残って。

女優陣それぞれの描く個性にも惹かれ、
終わってみれば、
幾重にも面白かったです。

12ヶ月連続公演とのことで、来月もできる限り拝見したいと思ったり。


グレート、ワンダフル、ファンタスティック

グレート、ワンダフル、ファンタスティック

ロロ

こまばアゴラ劇場(東京都)

2011/02/09 (水) ~ 2011/02/13 (日)公演終了

満足度★★★★

様々な広がりを収めたひととき
作り手が舞台に重ねていくものを
知らず知らずのうちに追いかけて、
やがては圧倒されていくような感触があって。

なんだろ、
たとえばシャガールの絵の前で
想いを馳せるような時間がやってきました。

ネタバレBOX

劇場の長辺に舞台が切られていて。
入場するとすでに、役者がひとり舞台にたたずんでいる。

舞台が始まると
冒頭のシーンでケーキが女性の顔面にぶつけられて・・・。
そこから舞台上に様々な感覚や思索が描かれる。

登校の道端にある様々なもの。
それらが次第に舞台を占める要素となって立ちあがっていきます。

六角形のプレートが随所に
プラットフォームのように並べられて。
様々なものがのせられて
舞台に描かれるもののベースというか形へと組み合わされていく。

そこには様々に心に浮かぶ態で
繋がっていく世界があって。
最初は浮かぶものの変遷をただ追いかけていくのですが、
やがて、その流れに取り込まれていくのです。

巡るように繋がるエピソード。
時に広がったり戻ったり、
あるいは示唆に富んだ表現が差し込まれたり。
ステレオタイプに描けば
切り落とされてしまうような感覚が
想いが展開していく道程で
あるがごとくに拾われていく。

アニメを連想されるもの
お伽噺からの借景、
役名からべたに伝わってくるキャラクターのコンセプトなどや、
センチメンタルに沈む想い、
ちょっとしたプライド、
焦燥と高揚・・・。
いろんな色、
どこか独りよがりだったり
子供っぽさも
そのままに・・・。

「秋冬モデル」や「合成獣 せつなさ」といった
名付けや動きにしてもそうなのですが、
それぞれのキャラクター設定に根があって、
だからこそ、
あるがままに移ろい変わっていくエピソードたちを
追いかけてしまうのです。

たとえば「せつなさ」の改造・・・。
付けられた尻尾。
さらにその尻尾は切れたりもして。

記憶を「臭い」と感じる。
匂いを追い求めつづける気持ち。
せつなさにつけられた「鼻」。
沈みたたずむ風情や
海苔を飛ばそうという想いの高まり・・・・。
様々や揺らぎや変化の中で
浮かび上がる端境の今。

飛ぶことやとべないことへの気持ちなども、
どこかあからさまで、
でも、そのそこからの高揚が質感を伴ってやってくる。

シーンが積み重なっていく中で
物語を追うよりも
むしろ一枚の絵を眺めるような感触で
どこかあやふやで、
揺らいで、
かっこよくなくて、
なにか掴みきれないけれど
でも前に進んでいる主人公の今が
あるがままに伝わってくるのです。

それらが冒頭のシーンのリプライズで
誕生日のひと時の刹那に落とし込まれて・・・。
闇のなかで台詞を聴くながで
良い絵が観る者をその前に立ち止まらせるごとくに
舞台上の空気に心を捉われてしまいました。

役者たちには
自らのキャラクターを貫くにとどまらず
舞台全体にテンションを満たすための
献身的な演技があって。
その密度だから、
散らばったり埋もれたりしないニュアンスが
しなやかにやってくる。

これまでの作品に比べて
この舞台は、
若干具象のフラグが若干少なめかなとは思うのです。
でも、だからこそ、
観る側に伝わる肌触りがあるようにも感じて。

終演、
作り手の表現ならではの
思考をすっと乗り越えて
ダイレクトにつたわってくるものにも満たされて・・・。
カーテンコールが終わっても
暫く舞台を見つめておりました。
さめるお湯

さめるお湯

あひるなんちゃら

OFF OFFシアター(東京都)

2011/02/09 (水) ~ 2011/02/14 (月)公演終了

満足度★★★★

いちいち面白い
シーンというよりも
ひとつずつの台詞ごとにおもしろくて・・・。

緻密につくられたゆるさに
たっぷりの弾力を持った味わいが生まれて、
いつもにも増しての
あひるワールドに魅了されてしまいました。

ネタバレBOX

冒頭から、
ベクトルの異なるキャラクターが重なり合って
いきなり可笑しく
するっと引き込まれる。

そこから、
存在感のあるキャラクターたちの、
さりげなく、
どこか奇想天外で、
でも、観る側が妙に納得してしまう
個性や相互の関係が描かれていきます。

個々の雰囲気のシンプルなおかしさに加えて
キャラクターどおしの行き違いに
いろんなひねりや外し、
浅いものや深いもの、
曲がり方や貫き方等々
型にはまらない様々なバリエーションが
それこそ
台詞の一行ごとに織り込まれていて。

べたなボケや一発芸でとるような
色が濃かったりインパクトの強い笑いはあまりないのですが、
ずるずると物語が流れる中、
それぞれのキャラクターのベクトルの方向差や
不思議な理をもったモラルハザードや
つっこむ角度のずれが
幾重にも重なって
べたついたり残ったりしない
洗練された笑いへと広がっていきます。

みかんねたに始まって
昼食のサッカーボールの見せ方や
舞台で演じられることのない母屋の状況の、
どこか薄っぺらいのに
半歩はみ出したような滑稽さに
囚われてしまう。
三ツ目のことや同窓会の話にしても
絶妙な違和感で観る側を
繋ぎとめる。

それらを演じる役者達にも
しなやかで腰の据わった安定感があって、
観る側をそらさない。
台詞が交わされ、間が作られ、
キャラクターたちの感情がすっと浮かび
観る側の予想を裏切るように場が転んでいく。、
その一歩ずつがいちいち可笑しくて。

暗転を使わず、
シーンや時間の経過を音楽でつなぐやりかたも、
旨いと思う。、
場面転換が時間の流れを洒脱に含みこんで、
ひとつの場の風味が滅失しないで
次のシーンに受け継がれていきます。
そのなかでいろんな滑稽さが、
ゆっくりと絡まって
一層の舞台の空気へと育まれていく。
突き抜けた流れの中での、
不思議にあざとさのない相乗効果から
その場にさらなる積み上がりが生まれて。
その空気が観る側を取り込んでいるから、
舞台のふくらみが思わずはみ出して
台本世界の外側に勇み足をしたり、
劇場外からかすかに聞こえる電車の音が
小田急として素のままドラマに混ざってしまっても、
それらが姑息さにならず
舞台の広がりの豊かさとして
さらに、もっと、観る側を巻き込んでいくのです。

なんだろ、終わってみれば今回の作品、
テイストはいつもの「あひるなんちゃら」なのに
いつもの「あひるなんちゃら」を凌駕した
暖まり感やおかしさのボリューム感があって。
緻密にコントロールされた舞台からかもし出されたものが
いつもの「あひるなんちゃら」より
がっつり増量で、
より満たされ感がありました。

これまでのあひるなんちゃらの作品たちを見ていて
完成された世界での作劇だと思っていたのに、
もうワンステップ歩みを進めた
さらなる境地を見せられて。

すでに、毎回観たい劇団であるのに
もっと次の公演も観たい思いにとらわれたことでした。

ほんと、いつもにも増して、
たっぷりと楽しませていただきました。
ひとんちで騒ぐな

ひとんちで騒ぐな

万能グローブ ガラパゴスダイナモス

こまばアゴラ劇場(東京都)

2011/02/03 (木) ~ 2011/02/06 (日)公演終了

満足度★★★★

貫き方ががっつりとしていて
どちらかというとコンサバティブな感じがする
シチュエーションコメディではあるのですが
その中に輝きを作ることができるいくつもの力があって。

かなりおもしろかったです。

ネタバレBOX

このお芝居には
常ならぬ魅力がいくつかあって・・・。

ひとつは女優陣がとてもしっかり。
多田香織が演じるキャラクターの
淡々と大胆に切れる風情が抜群に可笑しい。
こういう踏み込みは作れそうでなかなか作れないかと。
その切れ方の繰り返しが、
終盤、熱湯をぶちまける部分でがっつりと生きる。
観る側の心情をその過激さできっちり拾ってくれて。
横山祐香里の演じる二股ぶりもしっかりと笑えた。
ぎりぎりの雰囲気をしっかりと仕切って見せて。、
舞台にテンションを醸し出していく。
女優がへたれないコメディって
それだけで観る側を惹きつけるのです。

それといろんな設定のバランスが
とてもしなやかで、あざとさを感じさせないのもよい。
テレビ撮影、選挙、劇団や幼いころの人間関係・・・。
ありえるけれどもなかなか常にはない設定が
舞台の無茶をきっちりと通してしまう。
挙句の果てには自分の家じゃないというのもかなりすごい。
天丼もがっつりと機能していました。
麦茶ねたなどにしても、
とことんまでの貫いてそれが舞台の骨にまでなっていて。
後半など、麦茶がふたつ並んでいるだけで
可笑しさが醸し出されていて・・。
こういう繰り返しが舞台にしっかりと根を作るのだと思う。
主人公が家を取り違えるという部分の
開示のしかたも上手いなあと感心。
じわじわとした伏線の張り方がしたたかでした。

この手の喜劇って
ご都合主義というか無茶を貫くことが
どうしても必要な場面がでてくる。
観客がそれを白々しく感じるか
面白いと思うかが勝負の分かれ目みたいなところがあって。
そういう意味では、
舞台に細かく築かれた厚みが
物語を構成するいくつもの力技をしなやかにしていく感じがあって
それが観る側を引きつける力になっていたように思います。

まあ、本当に細かい部分のタイミングなどは
もっと詰められるかなとはおもったりもしたのですが・・・。
柱の陰に隠れる動きが一瞬遅れたように感じたり
押入れを締める間もちょいともったりしていたり。
ラストのポン酢ネタはもう0.5秒暗転が遅ければ
さらなるインパクトがあったに違いない・・・。
もちろん、絶妙なタイミングで決まっていく部分もたくさんあるだけに
そういう小さな部分が凄くもったいなく感じる。

とはいうものの、
だれる時間のない舞台はとても楽しく、
終演後もなにかほくほくとしておりました。

ぶっちゃけ、かなり面白かったです。、
また、東京に来演の際には
是非に観に行きたい劇団となりました。


ここは世界の果てっぽい。【ご来場ありがとうございました!!】

ここは世界の果てっぽい。【ご来場ありがとうございました!!】

バジリコFバジオ

OFF OFFシアター(東京都)

2011/02/02 (水) ~ 2011/02/07 (月)公演終了

満足度★★★★

人形が広げるもの
ここ一番の踏み込みを
人形にゆだねる感じで
強い色の物語をすいっと受け入れることができました。

必ずしも毎回拝見できているわけではないのですが、
観るたびに個性を感じます。

ネタバレBOX

観終わって、
ある種の色の強さが残りました。

なんだろ、もし、普通に演じられていれば
観る側として薄っぺらさを感じるような
物語構成なのですが
人形やサイボーグが出てきた時点で
それが成り立ってしまうのです。

ある種の戯画化した世界が
観る側にフレームを作ってくれるから
個々のキャラクターたちの踏み外したような感覚や
個性にちゃんと居場所が生まれる。

役者たちには
その絵面に細線をしっかりと描き切る力があって。
一方で笑いをとる場面など、
落とさずに押し続ける場面がいくつもあって
それが舞台の太さにつながっていく。

なにもなければ
観る方にもとてもしんどいお芝居になる感じなのですが、
冒頭からの人形たちの存在で
すっとあくが抜けたように
その世界観への踏み込めなさが消えてしまう・・・。

そこにはデフォルメされた
個々のキャラクターたちの色に
舞台上の居場所が生まれていて、
違和感がない。

何度観ても
独特なメソッドであるという印象は残るのですが
この方法だからこそ表現できるものが
間違いなくあるのだと再認識したことでした。






ロクな死にかた

ロクな死にかた

アマヤドリ

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2011/02/03 (木) ~ 2011/02/13 (日)公演終了

満足度★★★★

両方から広がる
死について逝くものと残されたもの双方の感覚が
クリアに溢れるように満ちていく。

その表現の洗練をたっぷりと味わうことができました。

ネタバレBOX

開演前、
舞台上に登場人物が現れ
やがてダンスに至り
日常の時間がぞくっとくるほど鮮やかに
切り取られていきます。

その中で多重構造で語られていく
死の姿。
一人の男の死について
観る側にとっての客観性が維持されながら
語られていく。

物語の構造が
舞台の出来事と観る側にある種の距離をつくってくれるので
逝くものと残されるもののそれぞれの想いが
混じり合うことなく舞台上に重なっていく。
死という事実に双方の想いが
それぞれに満ちて
ゆっくりと受け入れられて、
次第に引いていく・・・。

冒頭の日常が
再び終盤に現れて、
深く、満ちた、死への想いも
日常の時間に埋もれていくのです。

観終わって、
何かが失われることへの
不思議な透明さを持った感覚が残る。

公演期間の前半ではありましたが
高い完成度を持った作品で、
しかもさらに想いの奥行きが
生まれていくであろう感じもあって。

ダンスなどに圧倒されながらも
観終わって、
しばらくそのまま浸っていたくなるような
秀逸さを持った作品でありました。




コドモもももも、森んなか

コドモもももも、森んなか

マームとジプシー

STスポット(神奈川県)

2011/02/01 (火) ~ 2011/02/07 (月)公演終了

満足度★★★★★

行き場のない感覚に心捉われて
初日を拝見。

濃密とか深いといった言葉では表現し得ない、
生々しさと
どこかが滅失したような空気感に引き込まれて、
瞬きをする暇も惜しんで舞台を見つめてしまいました。

ネタバレBOX

場内に入ると
三人の女の子がごろごろとしている。
柱時計、おもちゃのかご、キルトっぽい床・・・。

舞台が始まると
彼女たちのシーンの時間が切り取られ
幾重にも演じられていきます。

ランダムに浮かび上がる場面には
曜日や時間のタグがつけられて
その、一週間のフレームに納められていく。

3人姉妹、母親の帰ってこない夜、
遊びにやってくる友人、
学校の風景やクラスメイトのこと
近所の人のこと、
転校生のこと。

曜日が語られ順序が組みあがっても、
時間が流れるわけではない。
シーンに縫いこまれた感覚が
舞台に重なっていく感じ。
何度も繰り返される刹那に、
繋がるいくつかのシーンがにび色のメリハリを持ち始める。
角度を変えて繰り返される場面が
執拗に置かれて記憶のコアを作り、
すっと一度きりとおりすぎるシーンが
その世界に広がりを与える。

そして、それらを忘却の混沌だけに閉じ込めない
感覚の外枠のようなものがあって。
うまく言えないのですが
抗うことなく、なされるままに受け入れざるをえないものが
その時間たちに差し込まれて
空気感をつなぎとめる。

川を流れていく子猫たち、
家が燃えているのをただ観ているしかないこと、
初潮の訪れも同じような感覚なのかもしれないし
病院で過ごす転校生の時間も、
そして、なによりも
その日曜日を最後に見ることがなかった妹のことも・・・。
あるいは、母親のことも。

舞台上にその一週間の記憶が満ちたとき
柱時計がずらされて、時が進みます。
時を刻む音が聞こえ始めて、
この舞台の今が生まれ、
見る側の視座が定まる。

姉の喪失感が描かれ
そこには消えることのない
感覚がしっかりと残る。

さらには、モノトーンの制服や
私服の赤の使い方が機能して、
時はさらに刻まれる。
川が流れる先の海のこと、
町から外につながる橋のこと・・・。
そして、
タイトルのとおりその時代や妹のことが
ひとつのこととして
あたかも、記憶の、森の中へと残されていく。

留められた時間、
そして刻まれていく時間のなかで
キャラクターからそのままに溢れだす
心風景の肌触りに息を呑み、
さらにはコドモの視線で
その空間の先に見える
母親や大人たちの姿にまで心を捉えらて。

上演時間は2時間ほど、
観ていて、良い意味での消耗感があって。
その尺だからこそ、
その時間に観る側をとりこむからこそ、
描けるものがあるように感じました。

忘れるということではなく、
色褪せるということともどこか違う。
滅失したような、
でもきっと消えることがないその時間が
終演後もずっと留まっておりました
雨と猫といくつかの嘘.

雨と猫といくつかの嘘.

青☆組

アトリエ春風舎(東京都)

2011/01/30 (日) ~ 2011/02/08 (火)公演終了

満足度★★★★★

精緻な心風景のスケッチ
そこには高い解像度で描かれた
記憶と現実それぞれの風景がありました。

観る側を浸潤するほどに
切なく、
すきとおって、
でも豊かさにも満ちた感触にとらわれて
ずっと舞台を見つめ続けてしまいました。

ネタバレBOX

中央に畳のスペースと座卓、
後方に雨をイメージするオブジェが飾られて・・・。
側面に役者が控える椅子が置かれる・・・。

開演前から役者が脇に控えて・・・。
少しずつ会場の時間が舞台にとりこまれていきます。

始まりはちょっとわびしい風景、
カップ麺をすする年老いた男・・・。
がらんと寒々しい雰囲気漂うその部屋に
傘をさした女性が訪れる。

部屋の扉を叩くその仕草や音が凛としていて
観る側の心にまで響くような力があって・・・。
逡巡ののち男が扉を開けると
雨の薫りが部屋に流れ込むような感じがして・・・。
なにかにすっととりこまれるように
世界が記憶の領域への踏み出していきます。

母の記憶に始まって
やがて幼い頃の思い出へと舞台が広がっていく。
どこか削ぎ落とされたような質感のなかに
いくつものエピソードの断片が高い解像度で浮かび上がって。
母親の若い女性としての質感や
父親の男としての横顔が
ぶち猫が家に来るくだりから溢れ出す。

時間は巡り、
自らが築いた家庭の風景や
さらには息子や娘とのエピソードへと
シーンたちが広げられていきます。
おかきや塩せんべい、
その時々の猫たち、
そして包みこむような雨の音が
それぞれのシーンの
どこか削ぎ落ちた感覚と息を呑むような生々しさを
主人公の半生に縫い付けていく。

夫婦の生活や父親との同居の風景に織り込まれた
猫が姿を消すシーンのリプライズも秀逸。
有り体な時間の描写に
主人公のウィットが織り込まれ、
猫との離別の刹那が
染め替えられて広がる。

それは主人公が訪れた
息子の同棲の風景にしても
同じこと・・・。
抱えきれないことは
どこかで嘘にすり替えられて
ためらいや気まずさや惜別の思いや寂しさも、
主人公自らの世界に押し込まれて。

終盤、いくつも開いた
透き通った記憶の傘たちのなかを
ひとり還暦の赤い傘をさして歩んでいく
主人公の姿に息を呑みました。
部屋でカップ麺を食べる中で、
切なさと高揚のどちらにも沈み込まず
坦懐にその道程をさらに生きる姿に隠された
心風景のリアリティに深く心を奪われてしまう。

役者達のお芝居が
舞台全体としてのメリハリを醸すに留まらず
小さな仕草やニュアンスまでを
丁寧に作り上げているのもすごくよい。
舞台に満ちる感情の細かな織り目までがくっきりと浮かんで。

痛みとか寂寥もそこにはあるのですが、
それに留まらない
主人公の半生に緩やかに満ちたものと
満たされないものや失われたものを覆う嘘たちのテイストから
生きてきた道程の重さと軽さをそれぞれに湛えた
人生の質感がしなやかに伝わってきて。

この作品、できればもう一度観にいきたいとおもう。
終わってみれば、そんなふうにとても深く、
舞台に浸されてしまっておりました。











ソムリエ

ソムリエ

靖二(せいじ)

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2011/01/28 (金) ~ 2011/02/01 (火)公演終了

満足度★★★★

実直であたたかい
ボリューム感が重さではなく
心地よさに変わって・・・。

派手さはないのですが、心とらわれることが
たくさんあるお芝居でした。

ネタバレBOX

本屋を舞台にした3人兄妹の物語。

物語の伝わり方が性急になることなく
エピソードが一つずつ着実に伝わってきます。
シーンの間には日記の朗読があって、
少しずつ亡くなった父親の時代と
3人の今が重なりあっていく。

前半部分は物語がひたすら積まれていく感じ。
そのなかでのそれぞれの距離感の背景が
後半に解けるように明らかになっていく。
シーン間をつなぐナレーションが
物語の枠組みを強固なものにしていきます。

本屋の存続や登場人物たちの想いの行方など
観ていて飽きずに物語に入り込んでいくことができる。
キャラクターそれぞれに
芯があって、
それゆえに観ていて飽きることがない。

若干前半が冗長で
後半のコンテンツがいっぱいな感じはあったものの、
兄妹それぞれのキャラクターがしっかりと作りこまれているから
物語が揺らいだり
隙間ができたりすることもなく
相応の密度がしっかりと舞台上にあって。

最後に種明かし的な感じがあるのですが、
ちょっと禁じ手かなと思った部分も
物語の中に上手く納められて・・・。

重さでのボリューム感ではなく
膨らみのボリューム感をしっかりと醸し出した
役者たちのできも非常によかったし。

観終わってなにかとても柔らかな気持になることができました




水底の静観者

水底の静観者

猫の会

「劇」小劇場(東京都)

2011/01/26 (水) ~ 2011/01/31 (月)公演終了

満足度★★★★★

台詞を超えて現わされるものの秀逸
とても丁寧に作られた舞台。

次第に組み上げられていく
主人公の姿に引き込まれ
その内心に浮かぶものに息を呑みました

ネタバレBOX

畳の部屋なのに
どこか洒脱な空間・・・。
そのなかで物語が少しずつ醸し出されていきます。

小説家の血を受け継ぐ主人公と
姉弟たち、
ビジネスの世界で着実に歩みを進める弟。
その場所を守る姉・・・、
また、すでに文壇にデビューして成功を納めている兄がいるらしい。

さらには、弟の妻や
主人公の恋人、
小説家の全集を出そうという編集者、
さらには近所の幼馴染の夫婦や
主人公が関わる同人誌の後輩などもやってきて
物語を膨らませていきます。

とても緻密で丁寧な語り口、
どこか酒におぼれていく主人公の姿が
彼自身の描写にとどまらず
周囲の醸し出す雰囲気からもしなやかに伝わってくる。

兄の存在との確執や
元旅館だったというその場所に関わる諸問題、
変わっていく周囲と自らの歩みへの焦燥、
そして行き場のなさ・・・。

主人公には大仰な心情の吐露などなく、
ただ、酒を飲んでいるだけ・・
でも、その居住まいや、酒に手をつける仕草に
しっかりとしたニュアンスがあって。、
役者たちの実直な演技の中で交わされる会話たちにも
主人公の存在が浮かずにしっかりと置かれて・・・。

中でも、編集者の存在がとても効果的。
何度も液体を浴びせられる彼に見えるものが
物語の大外の枠組みを観る側に築き上げていきます。、
たとえば、後輩の作品に目をとめる姿や
その場所の都市計画による取り壊し反対のビラの客観的評価など、
登場人物たちの心情に流されない貫きがそこにはあって
だから彼の評する
主人公の内面も
観る側にとって信じえる伏線として生きる。

兄が事故にあったあとの
彼と恋人のシーンに目を見張る。
交わされるのは、
決して長い台詞ではないのですが、
そこまでに役者が演じてきた主人公の雰囲気や
立ち居振る舞いがすっと裏返って
彼が見つめる水底の風景が浮かぶ。
さらには恋人の想い、
役者が細微に作り上げてきた距離感の秀逸が
その場をさらにクリアに染め上げて・・・。
決して凡庸ではない彼だからこそ現れる
煩悩の奥にある
行き場をみつけることもできずに、
ただ見つめるだけの孤独の質感に息を呑む。

舞台上に兄の姿はない。
登場する小説たちが一行たりとも読み上げられることはない。
その孤独に関する台詞すらもない。
でも、演劇だからこそ
もっといえばこの舞台だからこそ、
それらをすべて包括して伝わってくるものが
この刹那にはあるのです。

終盤、編集者が主人公に投げかける
「ゆっくりいきましょう」という台詞に
広がったものが再び彼の中にまとめられて・・・。
その孤独に向き合っていこうとする
彼の姿にも心を揺らされて・・・。

冷徹さに裏打ちされた
作り手のあたたかさもそのなかに込められて・・・。

終演時には
作り手の創意と
それらを具現化する役者や演出等、
それぞれの表現の秀逸に
ひたすら心を奪われておりました
くちびるぱんつ

くちびるぱんつ

ぬいぐるみハンター

王子小劇場(東京都)

2011/01/27 (木) ~ 2011/01/31 (月)公演終了

満足度★★★★

広がり収まる中で・・・
不思議な広さと
身近な感覚が、
宇宙のごとく広く使われた劇場を満たして。

あれよあれよという間にとりこまれてしまいました

ネタバレBOX

劇場の奥に客席を組んで
ロビーまでを舞台にして・・・。

1000年の物語をご都合主義でお送りしますという宣言は
おっしゃる通りで、
下世話な話と時間の広がりがごった煮のように展開していきます。

個々のエピソードのルーズさが
なにげに楽しい。
パンツのやり取りから
乾燥機やトイレの修理までが
巡り合わせという感覚、
いい加減がふいごのように働いて
物語に勢いが生まれ展開していく。

しかも、そのご都合主義が観る側に馴染むのですよ。
銀河鉄道の切り取り方や
「イメージが違う!」というお約束のつっこみも
地球防衛軍のゆるさやいい加減さも
なにかとても観る側に
馴染んで当たり前のごとく惹かれる。

シーンそれぞれの空気が
ちゃんとふくらんでいるのがよい。
役者たちの台詞のタイミングや動きにリズムがあって
ちょっとしたぼけ・つっこみなどが
使い捨てられずに舞台の温度につながっていく。
それらの重なりもしたたかで
観る側がゆだねられるような安心感があって。
その安心感があるから
繰り返される舞台上の疾走が
ガタつかずたまらなく心地よいのです。

でも、それだけではないこの舞台・・・。
終盤、エピソードたちが一つによりあわされて。
記憶や刹那の感覚の
その場所にすっと納められていく姿に
心を奪われてしまう。
ジャングルジムのひと時が
時間の流れに置かれるなかでの
切なさにすっと染められる。

走り続ける姿や、過ごす時間が
観る側の日常の立ち位置と重なって、
その感触から見える
観る側自身が抱えたもの過ごした時間を
やわらかく揺らしてくれるのです。

整然としていないいろんなことや
想いの中でのふくらみが
ジャングルジムに納められて
リフトオフしていく感触に
わくわくと心を満たされて。

終演時には
役者たちのフィジカルながんばりや
ラフにも思える設定の中での
とても滑らかな高揚のなか
1000年にまで伸びる時間軸のなかにおかれた
一抹の孤独に染められている。

なんというか、
癖になるような時間、
終わってみればかなりすごい。

前回公演同様に
次も観たい感いっぱいで
劇場を後にしたことでした
最低の本音

最低の本音

月刊「根本宗子」

ギャラリーLE DECO(東京都)

2011/01/26 (水) ~ 2011/01/30 (日)公演終了

満足度★★★★

クリアに語る力
コアの現れ方とでもいうのでしょうか、
伝わってくるものが
すらっとまっすくやってくる。

それも一点突破ではなく
いくつものアスペクトが組みあがって
すっと渡される。

その豊かで鮮やかな感触に愕然としてしまいました。

ネタバレBOX

作り手が伝えたいものがとても
明確なのだろうなと思う。

だから、
物語の内と外を巧みに切り分けて
観る側の視座を動かすやり方にも
迷いがない。
物語をつなぐ文字情報や、
すいっとキャラクターの内心を切り出しての独白が
観る側を立ち止まらせることなく
作り手が現わすものへと
惹きこんでいく。

キャラクターたちの立ち位置の明瞭さが
そのまま表現の意図につながっていく感じ。
そのコアの部分にしっかりとした太さと明瞭さがあって・・・。

物語の織り上げ方も
シンプルでしたたかで豊か。
登場人物たちのいくつものアスペクトが
一つずつではなく
関係性や対比や出し入れで
組み上げられてそのまま観る側に渡されていく。

死んだものの概念、
「・・・」に込められたものや
とどめられたものたちの質感が
躊躇なく観る側に流し込まれて・・・。

物語の重なりが混沌にならず
むしろ冷徹で客観性をもった作り手が描こうとする
コアを鮮やかに剥ぎ出していくことに呆然。

その明確さと表現するものの確かさに息を呑んだことでした。

作り手の次の作品がとても楽しみになりました。

『Prism』

『Prism』

*rism

ギャラリーLE DECO(東京都)

2011/01/25 (火) ~ 2011/01/30 (日)公演終了

満足度★★★★

早めに訪れて・・・
場内の写真を観たり、
舞台上を眺めるのもすごくお勧めです。

表層的なだけではない
女性のかわいさの本質が
しっかりと伝わってくる作品でした

ネタバレBOX

入るとそこは、
女性というか女の子の雰囲気がただよう
どこかぬくもりをもった空間。
展示されている写真にも心を動かされて・・・。

席につくと開演前から居続けの役者たちの
とても女性的な会話が
会場の空気にゆっくりと拡散していく。

やがて開演時間がやってきて・・・。
物語に観る側を導くやり方が秀逸・・・。
少女が、「もう知ってもよいころ」と手渡された本を読む態で語られるのは
4人の作家による4つの童話を下敷きにした物語たち・・。

吉田小夏脚本には
物語に、実直に積み上がっていく
表現の力がありました。
主軸になるふたりの役者が物語のボディを作っていて。
そこが揺らがないので
エピソードの重なりにクリアなふくらみが生まれていく。
高揚につながる無垢の質感を
まっすぐに受け取る感じ。
いたずらにシニカルになることなく
でも暖かさにぼかされることなく
物語のコアがしっかりと伝わってきて
やわらかくしっかりと浸潤されました。

谷賢一脚本には
観る側を前のめりにさせる設定の秀逸がありました。
ガラスの靴で有名な物語の外伝のようなお話なのですが、
本編との表裏の作り方がとてもしたたか・・・。
ある種のウィットとリアリティが織り込まれて
この物語の主人公が浸された生活の質感に
表の物語がしっかりと裏打ちされていきます。
幼い女の子たちをときめかせる物語の筋立てを
纏うだけの密度が2人の役者にあって
母子の台詞、さらには
終盤、一生一度の思いから溢れ出す女性の業のダークな鮮やかさに
息を呑みました。

成島秀和脚本には
インパクトの秀逸と
それだけに終わらせない物語の深さがありました。
骨組みを青い鳥を探す話に委ねた上で
道具立てをしっかりと並べていきます。
役者達がくっきりとコンパクトに描く登場人物たちの想い・・、
その運び方がしたたかに分かりやすくて、
突然牙を剥くようなカタストロフにも
因果がしっかりと見えるのです。
ポテトチップスの道具立てがしっかりと効いて・・
姉が弟に語るお話を塗りこめた
嘘の色合いのさりげなさと深さに、
大人の女性のしたたかさが織り込まれて
その姿に目を見開きました。、


小栗剛脚本にはスケール感がありました。
神と悪魔の確執の姿に
種を背負うような普遍性が織り込まれて・・・。
その成り行きは
やがて、山羊と狼の物語を超えて
世界の物語となり
その先に人間が置かれて・・・。
物語を追っていくうちに、
人の成り立ちが寓意とともにやってきて
さらにその先に少女が置かれる。
彼女の目は悪魔が与えた山羊の目だといいます。
かわいさの内側に置かれた
悪魔やけだものの姿がすうっと垣間見えたような気がして。
その結末の含蓄の深さに圧倒されました。

終わってみれば個々の物語の秀逸に加えて
物語をつなぐ仕掛けのしたたかさに舌を巻く。
本を読み進めるに従って
大人の女性の内心に宿るものが
次第に垣間見えてくるような感覚がやってきて・・・。
そこには、かわいさや美しさの表層にとどまらない
「女性」の奥行きがしっかりと照らし出されていて・・・。

それは、場内に飾られていた写真たちからやってくる
常ならぬ感覚にも重なっていて・・・。
表層のどこかPopでくっきりとした感じに
不思議な奥行きがあって心を捉われる感じ・・・。

作り手たちの才気にがっつりと捉えられたことでした。

拝見したのが初日ということで
役者たちのお芝居にやや硬さはみられたのですが、
役者たちそれぞれに力をまっすぐに発揮できる場面があって
強く惹かれる。
6人の女優たちそれぞれの魅力が豊かに感られる舞台でもあって。
回を重ねるごとにさらなる膨らみも期待できるかと思います。
エモーショナルレイバー【ご来場ありがとうございました!】

エモーショナルレイバー【ご来場ありがとうございました!】

ミナモザ

シアタートラム(東京都)

2011/01/20 (木) ~ 2011/01/23 (日)公演終了

満足度★★★★

構造を描ききる力のさらに先
客観的に描かれていく男達の秀逸さがありながら、
さらに女性を描く中での匂い立つような筆力に瞠目。

犯罪の姿を求心力にして
その先に浮かび上がる男と女それぞれの姿に
心を掴まれました。

ネタバレBOX

物語はマンションの一室、
場内に入って、舞台のなんとも言えない閉塞感にびっくり。
美術が生きていて・・・。

女性のモノローグ調の会話から始まる物語・・・。
その場所は振りこめ詐欺の組織の事務所。
まるで販売会社の営業所のような雰囲気で
詐欺が行われていきます。

売上といった用語から
システム化された彼らの世界が浮かび上がる。
役割分担、ノルマ、さらにはロールプレイングの手法から
極めて組織化された振りこめ詐欺の構造が描かれていく。

その中での仲間どおしの距離感、
リーダーの組織のコントロールの仕方や
モチベーションの上げ方。
さらに、出し子と呼ばれる組織のリーダーの視点が加わって
物語にふくらみと実存感を作り上げていく。

その描写の力には
舞台上の非合法の世界を、
どこかありふれた光景のごとく感じさせる力があって。
不思議な当り前さが
すっと観る側にまで入り込んできます。

日常の感覚と
犯罪にかかわる彼らが構造的に持つ不安定さの狭間に
冒頭の、内側にある唯一の女性と
出し子が連れてきたエンジェルという
その場所にありながらその世界と乖離した女性が置かれて・・。
二人の女性や出し子の男性などがさらなるに奥行きを作る中
それぞれの武器をかざして
個々撃破のように戦い続ける男たちの姿が
浮かび上がってくるのです。

彼ら自身がそこを居場所にする背景や
犯罪に対して無感覚になっていく構造までが
ひとつひとつ、
観る側に精緻に届けられていく。

でも、
それだけでもしっかりと見応えがあるのですが、
この物語にはさらなる踏み込みがあるのです。

終盤、そこまでに描かれた男たちの質感を背景に
二人の女性たちの抱くものが鮮やかに浮かび上がる。
男たちの絵面におかれていたた女性たちの立ち位置が逆転すると
男たちの姿との対比のように
彼女たちが顕すものが目をむくほどに鮮やかに観る側に伝わってきます。

化粧っけのない容姿で
男たちの組織に入り込んでいた女性からこぼれる母性と
満艦飾で、個々の男性と関係しながらも
組織のロジックに巻き込まれることのなかった女性の「女らしさ」。
ふっと物語の外側に歩み出た二人のシーンに目を見張る。
両極に描かれた二人の女性が
終盤に交わす会話から
まるで二つに割られて中味を示されたように
男にはわかりえないような
女性の内心がさらけ出されて。

それは、演劇としてとても良い意味で、生臭くさえ思える。
男たちの世界がしっかりと描かれているから
その対比として表現される
女性が本質的に内包するものたちの普遍性、
さらには、
女らしさの産物が母性に受け渡されていく感覚までも
エッジを丸められることなく
くっきりと伝わってくる。

冒頭の女性の台詞が回収され、
物語が一つにつながって・・・。
劇場を出ても、焼きつけられるようにやってきた
「女性」の質感が消えない・・・。
社会的な事象を切るとる秀逸にとどまらず、
その手腕をさらなる武器として
ジェンダーを鮮やかに表現していく作り手の力量に愕然。

役者たちや美術の秀逸と合わせて
ただただ、瞠目したことでした。

水飲み鳥+溺愛

水飲み鳥+溺愛

ユニークポイント

「劇」小劇場(東京都)

2011/01/18 (火) ~ 2011/01/23 (日)公演終了

満足度★★★★

変化していくことを現わす統一感
しなやかなデフォルメに事実を託した「溺愛」、その場の肌合いを舞台に表した「水飲み鳥」、全く異なるテイストの作品でありながら、そこに横たわる時間の経過と感覚の変化のようなものが、ともに舞台上からまっすぐに伝わってきました。

ネタバレBOX

「溺愛」は主犯の女性によって、
共犯者たちのモラルが剥がされていく感覚が
エッセンスを舞台上に抽出するような感じで
描かれていきます。

劇場の日常の説明をしているキャラクターが
すっと物語側の世界に引き込まれる冒頭が秀逸。

そのループに取り込まれて
キャラクター達が次第に何かを失い
染まっていく過程が
とても丁寧に描かれていて。
観る側の知っている事実(福岡の事件)との
リンクが明らかになるに従って
舞台上は抽象的な表現にも関わらず
次第に絡めとられていく看護師たちの
感覚のリアリティに観る側までもが染められていく。

解放を求める気持ちが失せて
不自由の「楽」さに籠ってしまう感覚に至るころには
観る側までもが浸されてしまう。

現実の判決が文字によって表されるのも
上手いなぁと感じました。

一方「水飲み鳥」は
とても実直にその部屋の時間を切り取る感じ。
人物たちが醸し出すそれぞれの今が
とてもしっかりと観る側にやってきて。

同じサークルの仲間の
時間をまきもどしたような距離感が凄くわかる。
次第にお酒に酔って騒ぐ姿の表現がとても秀逸。

でも、高揚の潮を引いた後
観る側に残るのは
友人たちが再び集った刹那の高揚より
むしろそこから浮かび上がってくる
互いがそれぞれに過ごした時間の滓のようなもの。

それぞれのビターな生きざまに
質感が降りてきて・・。
ラストのモラルハザードの浅ましさも
すっとその色に取り込まれていく。

まったく風合いの異なる2作品だったのですが
今の視点から俯瞰した
キャラクターたちの経年変化の様には
どこか共通する色合いがあって。
不思議なくらいに違和感なく
両作品を楽しむことができました。

ともに解像度をしっかりと持った佳品だったと思います。
アレルギー【公演終了!!!ご来場誠にありがとうございました!!!!】

アレルギー【公演終了!!!ご来場誠にありがとうございました!!!!】

ギグル

王子小劇場(東京都)

2011/01/19 (水) ~ 2011/01/23 (日)公演終了

満足度★★★★

精緻なベタさ
内容的にはけっこうべたなのに
全くもたれることがない。

観て、笑って、ぞくっときて・・・。
あざとくても粋で面白い。

この食感、なかなか得られるものではありません。

ネタバレBOX

そもそも開演15分くらい前からの前説(観覧推奨)が
偽悪的にラフな感じで・・・。
でも、それが、作品のテイストにしっかりと繋がっていきます。

比較的シンプルな舞台デザインがきっちり機能して
いろんなテイストが舞台上を通り過ぎていきます。
個々のシーンの恣意的な薄さやべたつかないベタさが
淡雪のように心地よく観る側で溶けていく。
それらが、ゆる~く重なって
ひとつの世界としても
観る側を取り込んでいく。

どのシーンもクリアで密度さを持って軽い。、
その軽さが
舞台に隙間をつくることなく、
ぞくっとくるほどのセンスに裏打ちされて
抜けなく緻密に張り巡らされて
やってくる。
いろんなずれやはみ出し感が、
実に巧妙。
さらには役者達個人の力技にも引き込まれる。

空気の作り方も旨いとおもうのですよ。
また、合唱などのやや大きめに作りこまれた表現なども、
しなやかに、巧妙に、作られていて。
さりげないペーソスまでが隠し味になって
なんというか一ランク物が上の笑いに触れた感じ。

そうして、笑いのポイントの
関西風味がすごく効いている。
それも、ベタな部分ではなく洗練されたところ。
それは言葉の問題だけではなく
タイミングとか踏み出し感とか
価値観のすりかわっていくところとか・・・。

ゆるい物語をくっきりと回収して
一旦お辞儀して綺麗に終わる態にしておきながら
さらにその先を作って
見る側にさらなる充足感を与えるあたりも良い。
なにかひとつぶで2度美味しいお得感があって。
終盤の歌など、
最初はなんちゅう歌詞なんやと思うのですが、
それが舞台の温度を上げて
一気に高揚を作り出していく鮮やかさに
息を呑む。

全方向にすきっと笑って
満たされて・・・。

ほんと、楽しむことができました。


終わりなき将来を思い、18歳の剛は空に向かってむせび泣いた。オンオンと。

終わりなき将来を思い、18歳の剛は空に向かってむせび泣いた。オンオンと。

青年団若手自主企画 だて企画(限定30席!)

アトリエ春風舎(東京都)

2011/01/14 (金) ~ 2011/01/25 (火)公演終了

満足度★★★★★

演劇としての秀逸と、ここだから伝わってくる感覚
「参加型」としての楽しさや
面白さにどっぷり浸ってしまったのですが、
振り返ってみると
それだけにとどまらない演劇的な力が
この舞台(?)には内包されておりました。

ネタバレBOX

プレビューやその前の稽古公開にも参加させていただいていたのですが、
映像や照明が入った本番では
さらに入り込むことができる仕組みが作られていて。

入場時からスイッチがちょっとずつ切り替わる。
開演前の「教室」の雰囲気に観に来たという感覚が崩されて。
なにかタメ口で話しかけられているうちに
少しずつ自分のロールが定まって、
さらには冒頭の映像が
ガイダンスの役目を果たして、
周りと一緒に机を叩いているうちに
その机がちゃんと自分の居場所になっておりました。

授業が始まるとクラスがひとつになったり
先生がいなくなると教室の雰囲気がバラけたり・・・。
気が付けば、そのなかで、出来事を共有し
その時間を共有している。

考えてみれば学校のクラスって不思議なもので
同じクラスということだけで
なにか繋がる気持ちがあった気がするのです。
ただ友人だったとか
仲がよいとか悪いとかではなく
それとは違う帰属意識のようなものがあって、
そのなかでのいろんな感情や想いの中で過ごしていた。
毎日同じ時間だったかというとそんなことはなくて
実はそれなりに変化に富んでいたように思う。
この教室には
「学生のころ」というひとくくりがはずれて
毎日の感覚にすっと戻されるひと時があって。

もちろん、客席と舞台という枠組みのなかで
舞台側にその感覚をかもし出すことも
出来るとは思うのです。
でも、受け取る側にとっては
伝わってくるものの質や量が圧倒的に違う。
教室の中に居場所があると
舞台上に現れたものを取り込むという演劇的な作業をパスして
感じられることがいっぱいあって。
自らのなかで意味を翻訳されて受け取るのではなく
ダイレクトに感じられるものを空気のように吸い込んでいる感じ。
常日頃お芝居を観るときに無意識にしてしまっている
理屈を組み立ててとか経験に照らし合わせてとか
そういうものを蹴飛ばしてやってくる感覚が
とても楽しい。

作り手に表現したいものがあって
それが台本で組み上げられ
役者達によって形になり、
さらに空間に醸成されて
伝えられる。
よしんば参加型ということで
劇場でのものとは形が違っていても、
ここにあるのはまごうことなき演劇で・・。
でも、その演劇は
常なるもののように舞台に置かれ、
観客に解釈されて取り込まれるのではなく、
物理的にフィルターを外されたままの状態で
そのまま観客に伝わってくるのです。

この形式でなければ受け取れない感覚が
間違いなくある・・。

作り手の伝えようとするあくなき志、
形にするための
既存の演劇の枠から溢れだすような創意と力量、
具現化する役者たちやスタッフ達の秀逸さ・・・。
後付けで瞠目することは山ほどあるのです。
でも、稽古参加やプレビューにも参加させていただき
何回か体験しても
教室で自分の居場所に落ち着くと
そんなことはどこかへ吹き飛んでしまって。

受け取った感覚を
すっと観る側の記憶に束ねていくような
終盤の映像もとても効果的。
終わって、なんとなく「教室」を立ち去りがたかった。
常なる世界の常ならぬ感覚にすっかり浸されておりました。
ヒールのブーツ

ヒールのブーツ

オーストラ・マコンドー

JORDI TOKYO(東京都)

2011/01/14 (金) ~ 2011/01/19 (水)公演終了

満足度★★★★

その場所を描く、表現の卓越
キャラクターたちの演技の強さには
したたかに作りこまれデザインされたであろうバラツキがあって、
それが外の景色をも取り込んだ空間にしっかりと生きる。

時間が織り込まれたその場の質感が
しなやかに伝わってきました。

ネタバレBOX

ソワレを拝見。

客入れ時からすでに、その場というかお店のスタイリッシュな雰囲気が醸し出されていて。
狂言回しの言葉で時間が動き
そこに関わるキャラクターたちの
様々なシーンが重ねられていきます。

実は個々のキャラクターが後ろに抱えているものは
ほとんど語られることはない。
オーナーの過去も、訪れる客たちの出身や家族構成も
恋人の姿さえそこにはない。
その場にあることだけが
伝えられていく。

そうであっても
個々のシーンを構成する役者たちのお芝居が
その時間にしなやかな実存感を与えていくのです。

客席と役者の立ち位置の距離だけで観ると、
クオリティは十分なのですが
それぞれの強さや色の濃淡にはばらつきがあって、
役者の間に必ずしも調和があるわけではない。

でも、窓の外の演技や景色に目が行き
その場所を感じた瞬間に
役者たちがいる空気の実存感に
がっつりと包み込まれる。
点描画を見るような感じ。
役者間のお芝居の色調への違和感がすっと霧散し
その場所と時間の
色彩の豊かさとして観る側を惹きこんでいく・・・。

その場所が感じられると
今度はその場の質感で
キャラクターたちのその場所での心情が
さらなる立体感をもって浮かび上がってくるのです。

ライトを消して作られる
外からの光だけの一瞬もとても効果的。
その場に日々が流れ
舞台にもうひとつの軸が生まれる。
いくつかの時間が行き来をする中で
積もる時間が、それぞれに、しなやかに
その場所のエピソードとしてはめ込まれる。

終盤、
狂言回しとしてエピソードを語り続けた女性の
生きていく想いのリアリティに心を捉えられる。
店の閉店の日に重ねられたキャラクターたちの手、
どこか締まりのない結末に
かえって失われるであろうその場所の存在が
より深い記憶にすりかわって・・。

自らのベクトルを貫き
その場を作り上げた役者の秀逸に心を満たされて。
そして、会場のみならず
外の景色までをとりこんで
その場所の物語を描き上げた
作り手たちの手腕に
改めて感心したことでした。

ちなみに、この作品、
お昼に観るとさらに鮮やかな印象がやってくる気がします。
時間がなくてマチネが観れないことが
とても残念に感じられたことでした。


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