りいちろの観てきた!クチコミ一覧

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チェーホフのスペックⅡ

チェーホフのスペックⅡ

カトリ企画UR

STスポット(神奈川県)

2012/02/02 (木) ~ 2012/02/05 (日)公演終了

満足度★★★★

鮮やかで繊細
色というか印象の強い舞台でしたが
ちゃんと深くて繊細なものが残る。

とても不思議な感覚を抱きつつ
舞台をがっつりと見続けてしまいました。

ネタバレBOX

チェーホフの作品が元ネタとなった2作。

それぞれに作品の骨までしゃぶりつくような
表現のつきぬけがあって
時間など一切感じずに見入ってしまいました。

・熊
役者の性別が逆転することで
こんなにもいろんなニュアンスが
生まれるのかと驚きました。

男優の演じる女性にlしなやかな濃度があり、
女性のなにか(誤解を恐れずにいえば生臭さのようなもの)が
すっと男性の持つ骨太さに置き換わることで
戯曲に描かれた女性の姿が
さらに鮮やかに見えてくる。

二人の女優がデフォルメいっぱいに
演じあげる一人の男性からも
この手法だからこそ伝わってくる
何かが削ぎ落とされた、
鮮やかなニュアンスが湧き上がってきて。

舞台の絵面がおもしろくて、
でも、刹那にやってくる滑稽さとは異なる
戯曲の紡ぎだす肌触りに
しっかりと取り込まれて・・・。

彩色豊かで、でも決して大味ではない
それどころか、
どこか艶やかな滑らかさに満ちた
舞台のニュアンスに浸され続けました。

・アントンのアングル

恣意的に構成された世界があって、
そこに一人の役者が足を踏み入れる・・・。
そして役者の滴るような技量から
鮮やかにキャラクターが生まれていきます。
映像が
キャラクターの立ち居地や
記憶の去来の肌触りを作り上げる。
ナレーションもまたしかり・・・。
キャラクターのデフォルメがかもし出すリアリティがあって、
それらが映像に閉じ込められた記憶の質感と重なって、
いくつもの次元がひとつの感覚としてみる側に置かれる。

この役者の風貌から、
女性の頑迷さや
生きることの感覚が
とてもしなやかに瑞々しく生まれ伝わってくる驚きと高揚感。

それは、演劇の空間で
観客がなにを観ているかということを
観客自身に思い知らせてもくれて。

二つの作品を通じて
狂言回しというか演劇の枠をささえるような
二人の役者の献身的なお芝居もしっかりと機能して、
実に見ごたえのある舞台でありました。

両作を観終えてしばし愕然。
その観る側の目から鱗が何枚も落ちる面白さに
感服したことでした。
2ndライブ

2ndライブ

38mmなぐりーず

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2012/02/05 (日) ~ 2012/02/05 (日)公演終了

満足度★★★★

楽しいコラボ
観ていて圧倒的に楽しいし、
38mmなぐりーずのひとりずつが本当に魅力的に思える。

さらには、同時上演の2劇団についても
その魅力をしっかりと受け取ることができました。

ネタバレBOX

1stライブの硬さがとれて
いろんな意味でしっかりとこなれた感じがして。
その分メンバーそれぞれの個性というか
魅力がいっそう増したようにも感じられて・・・。

あと、今回同じ舞台に立った
声に出すと気持ちがいいの会や青春事情も
それぞれに魅力的で・・・。
特にコエキモについては、
これまでの公演とは違った魅力を感じて
来月の舞台が楽しみになりました。

まあ、メンバーの皆様も
このユニットを専属でやっているわけではないのでしょうし、
公演頻度を高めるのは難しいのかもしれませんが、
ライブなどでは公演を控えている劇団とのコラボというのも
ひとつのフォーマットなのかも。

それと、
某週刊朝日が小劇場女優を特集する昨今、
どこかのメディアが彼女たちをとりあげたりしませんかねぇ。
歌って踊れてがっつりとお芝居ができるユニット、
見目麗しく
魅力と話題性も十分だと思うのですが・・・。

なにはともあれ、とても楽しい日曜日の夜を
過ごすことができました。
ヌード・マウス

ヌード・マウス

Théâtre des Annales

赤坂RED/THEATER(東京都)

2012/01/24 (火) ~ 2012/01/29 (日)公演終了

満足度★★★★★

芝居自体が生き物
舞台の空気が生きていることを
肌で感じられる舞台でした。

拝見したのは、
プレビューを経ての初日。、
戯曲の枠組みの中に
良い意味での揺らぎのようなものがあって、
この舞台が描き出すものの
更なる深淵を感じることができました。

ネタバレBOX

観る側を構えさせない冒頭、
その語り口のままに物語の骨格が組み上げられていきます。
たとえば「リニアの時間」というせりふひとつで
近未来の時代設定がわかり
書き上がったという紙束から
物語に踏み込んでいく感じ。

その時間を追わせる力、
次第に組み上がっていく構造、
場に広がりが重なり
そして、物語が次第に解けはじめる。

登場人物たちの関係が置かれ、
記憶の断片のようにエピソードが描かれ
それを裏打ちする科学のロジックが
観る側に埋め込まれていきます。
最初は時系列に少し戸惑うけれど、
やがて、時間ではない感覚の視座が生まれて
脳の機能、そして行動の従属・・・。
女性の行動が因果がそれを具現化していく。

ミッシングしたもの、その働き、
ビリヤードの玉がしなやかに機能して、
一部がミッシングした脳の動きを
観る側にみせる。
科学の歩みの中での
脳も含めたフィジカルな代替機能が語られて。
どこかソリッドで厳然とした肌触りを醸しながら
現実や事実が観る側に組み上げられていきます。
「どこに転がるか、わからない。
わからないように見えていて、すべて決まっている。」という枠組みが
ぞくっとくるほどの明解さとともに
言葉ではなく
体感として観る側に組み上がっていく。

でも、そのことに圧倒されるにも関わらず、
観る側の心を奪うのは
個々のキャラクターの内心の風景であり
葛藤であり移ろいであって。
その枠組みを崩すわけでもなく
そこから次第に滲みだしてくるもの。
それはすべて全てさだめられたものだという。
でも、定められていても、
心がキャラクター自身自身にも、
見る側にも、
もしかしたら役者たちの手の内にすら
捕えられているわけではない。
突かれ弾かれたボールの動きのごとく、
予測などできずに、
その刹那の色を編み上げていくのです。

戯曲に語られた感情の科学的な成り立ちが
それでは割り切れない素数のような想いの色、
因果が描かれても、その因果に染められない想い、
その狭間は幾重にも揺らぎ
生きること自体の確かさや危うさの感覚そのものにこそ
観る側を浸していく。

役者たちが編み上げる一つずつの場が
生き物のように揺らぐ。
亀に追いつけないアキレスのように
科学の道程がどこまでも伸び
ひとはそれぞれの意志でそれを追い
さらに伸ばし続けるにもかかわらず
捉えきれないコアが存在し続ける。

観終わってしばらくは、
家族それぞれの愛情の質感が
印象として広がる。
でも、そこに染められることなく
さらに広がる別の感覚があって。
上手く言えないのですが、
ポジティブではない希望と
ネガティブではない絶望の狭間のような肌触りをもったもの。
それが、まるで生き物のように息づき
温度をもって観る側を揺らしていくのです。

公開稽古を拝見させていただき
さらには舞台の空気に取り込まれるなかで、
それぞれのシーンに役者たちが描き上げた
刹那から湧き上がってくるものに目を瞠り、
自分の立ち位置に至るような感覚が
記憶とともに刻まれたことでした。
乱歩の恋文

乱歩の恋文

てがみ座

シアタートラム(東京都)

2012/01/26 (木) ~ 2012/01/29 (日)公演終了

満足度★★★★

尺の長さと舞台の広さを質感に変える手腕
半生を物語るボリュームがしっかりあって、
それを重たく感じさせない
刹那ごとの広がりや奥行きがあって。

広い劇場の舞台が生かされて、
初演の時と比べても物語に錯綜感がなく、
観る側をより圧倒する力が生まれているように思いました。

ネタバレBOX

王子での初演時の印象がしっかり残っている作品で、
物語としての肌触りや求心力は
その時の良さをそのまま残した感じ。

ただ、劇場の広さがしっかりと生かされていて、
しかも、そのことにより舞台上の密度が薄まるのではなく、
さらに奥行きから醸し出されるものが加わり
高まっているような感覚があって。

次第に夢と現の比率が変化していく
その空気のありようや
個々のシーンのニュアンスがまっすぐに伝わってくるような感覚が
さらに観る側を強く物語に引き込む力になっていたように思います。

美術や役者たちのお芝居の伸びやかさを含めて
この劇場との相性の良さを感じたりも。

観終わって、すでに見知った物語であり舞台であるにも関わらず、
記憶と交わることなく
場ごとのニュアンスに新鮮さを感じさせる力もあって。
逆にいえば再演を繰り返すことのできる
劇団としての
レパートリー的な力を持った作品であることも
実感できました。
乱雑天国のA·B·C

乱雑天国のA·B·C

乱雑天国

エビス駅前バー(東京都)

2012/01/20 (金) ~ 2012/01/31 (火)公演終了

満足度★★★★

この距離でこの役者を観ることができる贅沢
シンプルな場を楽しむような2作、
私が見た「C」は、お得な2本立てでした。

作品のシンプルで味わいのある面白さに加えて
ごく近い距離で役者を観ることできる
贅沢さがありました。

ネタバレBOX

両作とも物語はそれほど複雑なものではありません。

でも、観ていて、
役者たちにお芝居をさせる場が
したたかに作られていて。

その、役者たちが、
場所の大きさにとまどったり
手を抜いたりすることなく
持ち前の大きい排気量を
その場所で生かしたお芝居を見せてくれる。

比較的大きな劇場とは異なる
しなやかな肌触りが個々の役者から伝わってくる。

前々から思っていたことですが
この作り手のお芝居には
恣意的な薄さと
その後に残る独特のペーソスがあって。
今回のお芝居では
その味わいが、役者の力で
さらに浸透力を増した感じ。

会社帰りにさっくりと観にいくことができて、
笑って、浸潤されて家路をたどる。

なにか、小さな贅沢をしたような気分になりました。



太陽は僕の敵

太陽は僕の敵

シベリア少女鉄道

座・高円寺1(東京都)

2012/01/25 (水) ~ 2012/01/29 (日)公演終了

満足度★★★★

お芝居を丸ごと一本を使って
組み上げられた表現の仕組みに
がっつりとやられました。

したたかだと思う・・。

開演前に目を通した当日パンフレットに始まり、
前半の語り口にうまく引っ張られ、
トリガーを仕込まれて。
後半から終盤に姿を現すものに
愕然とし、笑い、ぞくっとしました。

ネタバレBOX

そもそも、冒頭からの
秀逸な役者たちの薄っぺらい所作に
こりゃなにかあるなとは思っていたのですが・・・。
とはいっても、
前半の安物のアラビアンナイトみたいな世界でも、
物語自体もそれなりに展開していくし
原発問題のようなニュアンスも差し込まれるので
けっこう飽きたりじれたりすることなく
舞台に引っ張られてしまう。

キャラクターや、
巨大な鳥や魔法、さらには
物語自身や
洞窟の行き止まりの先にあるものが
どのような寓意をもって描かれているのか・・・。
展開の中には
それなりの波乱万丈さや
原発などの問題を感じさせるシーンも織り込まれ、
作り手の真意を追いつつ
なんだかんだと舞台の成行きを追いかけてしまう・・・。

それが、終盤近くに
洞窟の行き止まりが崩れて
舞台のもうひとつ外側が現れると、
作り手の企みが一気にほどけていくのです。

「演劇」の世界の振れや揺らぎ、
メソッドやスタイル、
そしてコンサバティブなものから
ラディカルなものまでの俯瞰
そして対立と融合・・・。

前方と後方のルーズな関係
様々なものが舞台をワラワラと動きまわる明の世界のミザンスや
光が消えたなかで澄まして語られる物語の続きが
舞台全体として
とてつもなく可笑しくて・・・。
そして、やがて、
作り手が見据える「演劇シーン」の
描きだし方の秀逸さに想いが至り愕然となる。
それまで、ストーリーを結構しっかり追っていただけに
終盤の世界が一層斬新で、
クリアで、露骨で、シニカルで、滑稽なものに思えて・・・。
ぐいぐい引き込まれ
さらには腹筋を揺らして笑いながら、
作り手の世界の切り口の鋭さと
ある種の遊び心の広がりの大きさに
ひたすら捉えられてしまうのです。

開演前には何気なく読んでいた当パンの、
「あけましておめでとうございます。
というあいさつに対するアンチテーゼのような公演になりました。・・・」
という文章、
終演後に読み返してみると
「舞台が」の隠し方が本当にしたたかでずるい(超褒め言葉)。
「年が・・・」の意だけではなかったのですね。
同じく、その詞が当パンに掲載され
あからさまに舞台上で歌われた曲も
終演後に思い返し、読み返すと
あからさまに、きちんと、
作品の解説になっていて。

作品のベースは
ある意味ワンアイデアだと思うのですが、
それをここまでがっつり作りこみ、
観る側をがちょーんとひっくりかえし、
さらに演劇自体への冷徹な視線を感じさせる、
作り手のセンスに圧倒されてしまいました。

この劇団、
次も是非に観に行きたく思ったことでした
アドバタイズドタイラント【ご来場ありがとうございました!!】

アドバタイズドタイラント【ご来場ありがとうございました!!】

The end of company ジエン社

d-倉庫(東京都)

2012/01/19 (木) ~ 2012/01/22 (日)公演終了

満足度★★★★

掴めたかも
過去の公演を観て強い魅力を感じつつ、
一方で
理解できた実感のようなものが希薄だった
作り手の作品でしたが・・・。

今回は、それが作り手の意図とは全く違ったものであっても、
明確に作品のイメージを自らに広げることができました。

ネタバレBOX

客席に座ると、
舞台上にはすでにある種の空気が作られていて。
そのまま、どうやらシーンが展開していることに気づく。

舞台上のあちこちで交わされる会話に
いくつかの世界と感覚が浮かんでくる。
謝罪会見をしたがっている男たち。
映像や写真で、
被災地のドキュメンタリーを取ろうとする男や女、
広告の意義、
新しい明日を語る人、
軽質で耳触りのよい音楽
そして、そこには
空間を会議室となし、被災地となす表現の力が編み込まれていて。

この劇団の過去の作品と同様に、
始まってから暫くは
まるでパズルを置かれたように
舞台を眺めていました。
伝わってくる感覚は確かにあるのに、
それらが舞台上の断片的な表現と繋がってこない。

でも、登場人物の耳から外れたイヤホンから
流れ出してくる音楽が聞こえてきて、
それが、再び耳にセットされて途切れた時
ふっとそれまで目の前の動作や言葉ではなく
その向こう側に垣間見えている空気のようなものに
焦点がずれたような感覚がやってきて。

で、その空気のリアリティに気がつく。
そして、その感覚の先に舞台の事象を観ると
繋がらなかったものたちがひとつの世界として
そこにあることが分かる。

なんだろ、目に良いとかいって立体視の訓練をさせるような
本があるじゃないですか。
あれで初めて絵面から奥行きが見えた時の驚きに近いものが
突然に訪れて愕然。

そこには、震災後の、
しっかりと精度をもった空気のスケッチがあって、
それらの変化の記憶と今が
しなやかに可視化されていることに気づく。

一色に塗りこめられることのなかった
この国の空気、
同じベクトルに走ることのなかった危機感、
一方で閉塞感への苛立ちや
理想へ吸い寄せられていったり、あるいは嫌悪される感覚・・・、
そして、
たくさんの失われたものが存在するなかでも
日々の感覚が喪失したわけではない。
この作品には
マスプロダクトなイメージや枠組みにとらわれない、
もっと自由な息遣いと暮らしの俯瞰があって。
広告や表現を作る側の意識や
作品のイメージが導くものと
一人ずつの生きることの間での同化と乖離が
混在した一つの世界の俯瞰のごとく
観る側に広がっていくのです。

それらは、均一に染められたりすることなく
ぞくっとくるほど細緻に表現された
震災から10ヶ月たったこの国の今の肌触り、
そして、明日への展望となって
観る側を浸し込む。

作品を支える
作り手の恐ろしいほどの感性と
デッサン力、さらには空間の構成力を実感。
観る視座が変わって、役者たちの秀逸がわかる。
舞台美術やライティング、
そして、たとえば被災地を取材するものたちが歩くベクトルなどの
演出のうまさに舌を巻く

まあ、受け取ったりひろがったものが
作り手の意図したものと全く違う可能性は十分にあるのですが、
でも、それも含めて演劇なのだろうと思うし、
震災や震災後の描写を含んだ作品を観るときの
ある種の行き詰まりや拘束からの開放感と
誤魔化し得ない実態の質感が
劇場の外で現実に過ごすこの時間への、
新たな視野を運んできてくれたわけで・・・。

作り手が編み上げた作品の見かたを
完全に理解したとはいえないのですが、
少なくとも私には、
これまでに体験したことのないような
新しい感覚で
ひとからげにしない今を感じることができた作品でありました
乳首鎹【ご来場ありがとうございました】

乳首鎹【ご来場ありがとうございました】

桃尻犬

王子小劇場(東京都)

2012/01/19 (木) ~ 2012/01/22 (日)公演終了

満足度★★★★

うわ、おもろ!
素敵にやりたい放題の表現が
これでもかと出てくるのに
屋台が崩れることなく、
最後まで貫かれ、持っていかれてしまいました。

ある意味衝撃的な舞台でした。

ネタバレBOX

なにせ、初見で予備知識な皆無なものだから、
説明を読んで、
どこか耽美な世界を想像して客席についたのですが、
舞台のどこかシュールな見栄えにとまどい、
始まって10分で、
これは思っていた世界と違うと思い
さらに10分で恐ろしい切っ先を持った
コメディであることを確信・・・。

場面ごとに、
想像を超えた展開というか踏み出しがあって、
でも、そこには、
物語との舫があるので
観る側が置いてきぼりにならない。

そもそも、開場時に舞台前方にどんとおかれた
良くできたカブトムシの着ぐるみが置いてあった時点で
常ならぬ舞台であったのですが、
きちんと具象された舞台に
そのカブトムシを取り込んでしまう強さのようなものが
作品全体に貫かれていて・・・。

だから、カブトムシの角で乳首を押されて悶えようが、
国籍のよくわからないカタコトの坊主が現れようが
(彼の過去を歌い上げた替え歌に爆笑)、
エロかろうが、常軌を逸した展開になろうが、
観る側がどっしりと腰を据えてついていけてしまう。
まあ、安全ベルトを締めているような感覚というか、
揺れようが、ぶっ飛ぼうが、
舞台から心が乖離することなく
見続けてしまうのです。

そうなると、作り手のやりたい放題が
いちいちおもしろい。
坊さんの同性愛にしても、
ルーズなお金の管理にしても、
乳首への偏愛にしても
山ほどのカブトムシにしても
白けたり、逆にべたになったりせず
手が届くぎりぎりの逸脱となって
観る側をひっぱりまわしてくれる・・・。
中盤の展開も、
かなり無茶をしているのですが、
観る側の物語を追う気持ちをしたたかに引っ張っていたし
終盤への繋ぎもそれなりにあって。
ラスト近くになると、
さすがに物語としての精度は多少乱れてきますが、
それを凌駕する表現が観る側を掴んで離さない。
あのカントリー・ローズは何だったのだろうと思いつつ
やられた感に浸されるし
露骨に出されたマイクで歌われる「カブトムシ」の
突き抜けたべたさに嵌る。
極めつけはラストに改造乳首からしたたる樹液、
何とも言えない、
不気味さとエロさと滑稽さとSMチックな感情がシェイクされて
観る側をがっつり持っていってしまう・・・。

カーテンコールの力尽き感もご愛敬、
これ、結構すごいかもと思う。

用意された武器自体のクオリティと
それを観る側に突き刺す仕掛けの上手さに
かなり強烈に魅入られて・・・。
これらがさらなる精度を手に入れ
有機的に観る側を揺さぶっていけば、
観る側を巻き込んで狂わせるような
とんでもない作品が生まれるのではとも思うのです。

この劇団、暫くの間
こそっと、見続けたいと
感じたことでした。





ある女

ある女

ハイバイ

こまばアゴラ劇場(東京都)

2012/01/18 (水) ~ 2012/02/01 (水)公演終了

満足度★★★★

映像が作りこまれていると思っていたら
舞台から、
冒頭やシーンごとに差し込まれた
その映像の作りこみではないと支えられないような、
ぞくっとくるようにリアルで濃い感覚が溢れだしてきて。

やられてしまいました。

ネタバレBOX

冒頭、そして要所で差し込まれる映像の作りこみに少々驚いたのですが
それが舞台のコンテンツに馴染むことこのうえない。
舞台にある、恣意的に緻密につくられたチープさと
それらで構成される業のようなものの奥深さ、
さらにはそこはかとなく織り込まれた
そこはかとなく肌に触れる生臭さまで・・・。
この映像だから支えられるのだと思うような世界が
舞台からやってくる。

いろんな刹那がとほほと可笑しいのですが、
それが、どうしようもない(褒め言葉)リアリティに色を変えて
積もる。
削ぎ落されて強調された作りこみの中に、
観る側が薄っぺらく感じえない想いが
緻密かつあからさまに織り込まれていて、
それがこの役者たちだからこそ語れるであろう
キャラクターそれぞれの独特の質感となって
観る側を巻き込んでいくのです。

それぞれの男性の描き方に、
ぶれない雰囲気の貫きがあって、
色の濃さが観る側にとって迷わないわかりやすさを醸し出していく。
さらには女優たちが
持ち前の個性と繊細に紡ぎだされた密度で編み上げる
キャラクターが抱く同性への感覚と
同性の視座から浮かび上がる彼女の姿が
主人公の女性の実存感となっていく。

最初はどこか醒めて舞台を観ていたにもかかわらず、
気が付けばこのフォーマットと精度や密度でなければ表しえない
感覚にがっつりと取り込まれている。
主人公の視座から垣間見える
男女の業のようなものに苦笑しているなかで、
デフォルメされたものの向こう側からやってくる
笑いでは流しきれないなにかが
しっかりと積もっていく。
観ていてがうなずいてしまうような
キャラクターの存在感と醸し出される滑稽さが
刹那の可笑しさで揮発することなく
ボディブローのように効いてくるのです。
しかも、それらは、可笑しさにを踏み超えて
逃げ場のない切なさとして観る側に沁み入る。
気がつけば、その切なさにこそ
しっかりと支配され、
さらには、その切なさを醸し出す
男女の普遍のようなものにまで
心を奪われている。

散々笑っておいて何なのですが
終わってみれば、岩井作劇の魅力に
どっぷりと浸りきっておりました。





『渡り鳥の信号待ち』

『渡り鳥の信号待ち』

世田谷シルク

シアタートラム(東京都)

2012/01/19 (木) ~ 2012/01/22 (日)公演終了

満足度★★★★

描かれるものが解き放たれて
初日を拝見。

初演時にも強く心を捉えられた作品ですが、
今回の劇場には、
そのときの制約から、
さらに作り手を解き放ってくれる力があって。

作り手のイマジネーションが
折りたたまれることなく
翼を広げたように感じました。

初日ということで、
多少ざらついた部分もありましたが、
終わってみれば
作品が表現していくものに
しっかりと浸潤されていました。

ネタバレBOX

正直なところ、
作品としてさらに洗練されていく余白はあると思うのです。
たとえば、
前半部分での椅子の並べ替え(舞台上のレイアウト変更)などが、
舞台上の流れに乗り切れずに
段取りっぽくなって視野に残ってしまったり、
シーンの切り替え時の光がなんとなくばらついたり・・・。
メッセージの文字が見えにくかったり・・・。
初日ということもあったのでしょうが、
さらなる緻密さが求められる部分があるのは事実。

とはいうものの、それを差し引いても、
作品に力を満たすだけの
役者達の動きが舞台上にあって
シーンが栄え、物語を巻き込み、
観る側を引き入れていきます。
この舞台だからこそ映えるウォーキングの美しさ、
伸びやかでしかもエッジを持った動きが表す流れや広がり、
さらには静止から満ちてくるニュアンス。
それぞれのシーンで語られる物語の断片に
動きが重なると、
観る側には時間や記憶の連なりが
しだいに編みあがっていく。

刹那の感覚を表す台詞、
なにかを俯瞰する言葉、
一人の生きる座標から拡張されていく世界観に
目を見開く。
そこには淡々と、
底知れないほどに奥深く、
でも、とてもクリアに
人の生きる感覚が描き出され、
観る側をその肌触りで包み込んでいく・・・。

クールに描かれる普遍に
どこか華やかで薄っぺらく
下世話でそこはかとなく気取ることのない感覚も
折り込まれた
列車の表現の突き抜けに目を瞠る。
瑞々しさと形骸化したものを混在させながら
くみ上げられる時間のイメージに
したたかに捉えられていきます。
役者達にも、冷徹な視座を失うことなく
一方で描かれる概念の中に
生きる質感や温度を差し入れるしなやかな技量があって。
終演後には、
その世界というか宇宙での
生きる質量の実存感とはかなさが
切っ先をもって観る側に満ちる。

終演時の拍手をするなかでも
作り手が役者達の演技とともにしなやかに描きあげたイメージが
霧散せずに残って。
作品の世界から、
しばらく抜け出すことができませんでした。

I

I

劇団appleApple

ギャラリーLE DECO(東京都)

2012/01/11 (水) ~ 2012/01/15 (日)公演終了

満足度★★★★★

半歩先で導びかれ半歩遅れて浸潤される
半歩先で観る側を導きいれるような感覚と、
半歩遅れて肌に沁み入ってくるような密度のなかで
作品の世界にしっかりと閉じ込められてしまいました。

ぞくっとくるような質感に魅入られてしまいました。

ネタバレBOX

可動式のパネルが小気味よくしたたかに動いて場をつくると
そこに切れをもった役者たちの演技が
世界を紡ぎ出していく。
現実感と、どこか現実離れした肌触りが
それぞれに観る側を舞台の世界に導いていきます。

切れがあって、クリアで
にも関わらずどこか不安定であいまいで
視野狭窄的なテイストを持った
物語の展開。
観ていて、知らず知らずのうちに、
前のめりになって舞台に引き込まれている。
前半の個々のシーンは、
刹那に作りこまれるニュアンスの明確さと裏腹に
したたかな薄っぺらさがあって、
半歩先にある物語の実態を
追いかけるような感覚が生まれて、
ついつい身を委ねてしまうのです。

そして、その地域の彼女の部屋に至る中盤以降、
感覚は逆転し、
今度は半歩遅れて沁み入ってくる
その場の密度に捉われてしまう。
舞台上の過去と現在のボーダーが消えて、
キャラクターの記憶があいまいに、
でも、巻き込み沈めるような質量をもって
今に重なりあう。

二人の役者から次第に溢れてくるもの、
そして別の視座を感じさせるような影の存在・・・。
その世界から具象されるものの存在があって
一方でそれらが具体的に物語られることはあまりなく、
だからこそ半歩遅れるようにしてやってくる
感覚の密度が、
実態に吸い取られることなく
その場の空気の色合いの微細さで
観る側を塗りこめていく。

そして、冒頭の世界に戻されて・・・
解き放たれて、
でも半歩前と半歩後ろの世界の感覚は
消えることなく、観る側に遺されて。

観終わった刹那には、
自分自身の中にある記憶と、
それらに対する意識のようなものまでがどこか揺らぎ、
さらには、時間と記憶の強さの
マトリックスの座標軸が撓んだような感じすらして。
やがて会場が終演後のざわめきに包まれるなかで
すっと常なる感覚に戻っていったのですが、
観る側にとって無意識の領域にまで浸潤するような
作品の力にゆっくりと深く驚嘆しました。


役者たちそれぞれにも
安定感と作りこまれた色合いがあって、
作り手の描く世界を観る側に流し込む力になっていて。
ぼぉーとアンケートを書く中で、
目の前の、殺風景な、
ルデコの空間にこれほどの世界を広げた
作品の奥行きに愕然とする。

誰もが好きになるというような作品というではないかも
しれません。
人によって肌に合うとか合わないというようなことが
かなり出る作品かもしれないとは思う。
でも、少なくとも私的には、
この作り手や演じ手の表現に
常ならぬほどに嵌ってしまいました。

初日ということで
上演を重ねるなかで、まだ、
その深淵には先が生まれる予感もありつつ
帰り道、余震のようにやってくる、
作品の感覚と自らの内にある時間が醸成する揺らぎのようなものに
作品の力をさらに実感じたことでした。












一方で密度の肌触りは半歩遅れてやってくる。
討ち上げベイベー

討ち上げベイベー

イッパイアンテナ

王子小劇場(東京都)

2012/01/13 (金) ~ 2012/01/15 (日)公演終了

満足度★★★★

一色ではないセンスを感じる
物語の組み上げについては、
ちょっとわかりにくかったり
追いきれないところもあったのですが、
シーンごとに垣間見えるいろんなセンスに惹かれました。

なにかがもう一段機能すると
したたかに化けるような匂いがして、
東京での公演が継続して行われるのであれば
見続けたい魅力がありました。

ネタバレBOX

いろんな輝きがある舞台で、
冒頭のジャニス・ジョップリンのナンバー(誤意訳的な)なども、
良くこなれ説得力もあったし、
シーンたちには
観る側をすっと引っ張るようなというか
小さな踏み込みをうまく作りこんだ
おもしろさがあちらこちらにちりばめられていて・・・。
うまく言えないのですが、
笑いに一味違った解像度があるというか
単純に観る側に投げこむにとどまらない
表現の繊細さがあって、
この劇団ならではのセンスのようなものを感じる。
本当に巻き込むような笑いに誘われたのは
何か所かだったのですが、
でも、常に、場を観ていたいような
トーンが舞台上にあって。

ただ、それらのシーンが物語として重ねられていく中で
全体の枠組みがうまく捉えられないところがあって。
忠臣蔵とえせAKBの重ね方、
さらには物語のコアと遊び心のエッジのようなものが
同じような足さばきでやってくるので、
木を愛でることができても、森の姿が上手く捉えられないというか・・・。
もわっとは伝わってくるのですが
個々のシーンのクオリティと
組み上げられていく全体感の印象に
かなりのギャップがあってとまどってしまう・・・。

舞台装置などもなにげに洗練されているし、
役者も悪くはないと思う。
いろんな要素が独立して良いのですが、
それらが互いを高めるようなメリハリになれば、
物語にもっと推進力がついて
何倍も面白くなるような気もするのです。

東京初進出とのこと、
その牙を隠したような感じが、今回に限った作風なのか、
あるいは劇団の特徴なのか
計り切れないところがあって。
ただ、
次回を期待させるような魅力は間違いなく内包されているので
是非にがんばって、東京公演を打ち続けて欲しいと思う。
観る側が焦点を合わせるための何かが加われば、
大化けしそうな予感があって、
少し継続してこの劇団の作品を観たく思ったことでした。
軽快にポンポコと君は

軽快にポンポコと君は

ぬいぐるみハンター

OFF OFFシアター(東京都)

2012/01/06 (金) ~ 2012/01/15 (日)公演終了

満足度★★★★

ぎゅっとおもしろい
なにか戯画的な作品にも思えるのですが、
個々の台詞にしても、役者の動きにしても
ダンスにしても・・・、
それぞれの持ち味や勢いを削がない範疇で
絶妙に丁寧に作られている感じがして。

池亀さんのしたたかさに
しっかりとつかまってしまいました。

ネタバレBOX

観終わってすぐは
楽しんだ感でいっぱいだったのですが、
おまけの15mmでの過去公演を見ているうちに、
池亀さんの今回のキャスティングのしたたかさに気がつく。

キャリアのある男優たちの使い方が本当にしたたかで、
彼ら的にステレオタイプな使われ方ではないにもかかわらず、
彼らの味がしっかりと抽出されている。

一方比較的若い役者は舞台に勢いを作りつつ
細微な部分の隠し味もしっかりと仕込んでいく。

臍のボタンのようなあからさまな伏線にしても
展開に踏み出しがあるから
鼻につかず、むしろ腰を据えて得心してしまうし、
まぬけな展開風な味付けであったとしても
その間抜けさを裏打ちするような切れがあるから
ずっと見続けてしまう。

女優陣のお芝居などにも、
一歩観る側を前に引っ張るような力があって
どこか馬鹿なのだけれど、
新鮮でなおかつ熟達したものを感じる。

さすがに、走り抜けるには狭い劇場でしたが、
よしんばそうであっても
別の角度からの勢いを創り出す
作り手の腕に舌を巻いたことでした。

上手く表現できないのが歯がゆいのですが、
とても素敵にベースをもった引き込まれ方をした。
べたな言い方だけど、
ほんと、面白かったです。
ドーナツの穴

ドーナツの穴

アトリエ・センターフォワード

シアター風姿花伝(東京都)

2012/01/07 (土) ~ 2012/01/15 (日)公演終了

満足度★★★★★

今、観るべき舞台かと・・・
お芝居としてのクオリティの高さに惹かれつつ
シーンの重なりから浮かび上がってくる
時代の刹那を生きる感覚と、
その顛末に強く心を捉えられました。

あがきながらも
歩まざるを得ないその道を歩み、
さらに歩みを進めていく主人公たちの姿に
目を奪われる。

そこから浮かんでくる時代の横顔や
揺れながらも踏み出す主人公たちの選択に
生きることへの実直さを感じて。

今、観るべき舞台だと感じました。

ネタバレBOX

日本とは異なった時間が流れる
とある国で活動する女医の今と
彼女の祖母の物語、
手紙から二つの時代が撚り合わされて
舞台上に紡がれていきます。
停電が頻発する、
決して経済的に豊かとはいえない国での
緩やかな時間のなかでの女医の苛立ち。
彼女は次第に祖母からの手紙の世界に取り込まれていく。

テーブルの使い方がぞくっとくるほどに秀逸。
中央のテーブルが崩されると
そこは瓦礫となって廃墟の風景を導き出す。
戦後、子供を授かり娼婦となった若かりし頃の祖母、
その同輩の娼婦とひもたち・・・。、
ひりひりした日々の緊張感と閉塞感の中で
時代は少しずつ歩み始めて・・・。
そのなかで、彼女の広島での体験、
麻薬に依存していく同輩の姿、
さらには時代を掠め取っていく小役人などが
復興の歩みの狭間の空の世界を織りなしていきます。
しかも、そのテーブルは
場のミザンスを作るにとどまらず
女医の心情の具象としてもしたたかな力があって。
崩されてもなんとか積み戻されて
再びテーブルの態に戻されて。
そのテーブルのまわりで、
さらに女医の世界が描かれていく。
文化の違い、彼女の立ち位置
現地人のクレジットカードのこと。
さらには、震災や原発を思う気持ちまでも・・・。

したたかな台本だと思うのです。
役人を巻き込んで何とか生きていこうとする終戦後の男女たち、
その役人の立ち位置や心情・
登場人物達があがき、歩み出し、生きていく姿、
さらにそこから女医の歩むベクトルが生まれていくこと・・・。
よしんばそれが、どこか数奇であったり意外な結末であっても
まやかしを感じることのない必然があって。

そして、その中で、言葉では表現しようのない、
「ドーナツの穴」の姿がしなやかに浮かび上がる。

広島でピカどんにあった娼婦が歩み繋ぎ、
故郷の原発事故のことに想いを馳せる女医が
そのことを知り新たに歩み始める先を選択する姿に
閉塞や行き場のなさに身を置いた時代を生きることへの
愚直で切っ先をもった有り様を感じる。
舞台が
時代が変革していくダイナミズムや、
明確な理想やビジョンや
そこへ向かう意志の輝きに染められるわけではない。
でも、役者たちが密度をもって紡ぎ出す
登場人物の感覚や想いには
にび色の貫きを持ったリアリティがあって。

この舞台、
時代を超えた普遍性を持ってはいるのですが・・・、
でも、震災や原発の衝撃から
この国がよろめきながらも再び歩みを進めようとする、
まさに今こそ観るべき
秀逸な公演だと思うのです
吐くほどに眠る

吐くほどに眠る

ガレキの太鼓

こまばアゴラ劇場(東京都)

2012/01/06 (金) ~ 2012/01/15 (日)公演終了

満足度★★★★★

初演とは違った衝撃
初日を拝見。

初演も観ていて・・・。
比べると、特に前半の混沌がクリアになって
物語に広がりと客観性が生まれた印象。

その分、作品により普遍的なニュアンスが
生まれたように感じました。

ネタバレBOX

初演のときにも感じたけれど、
一人の女性の人生が
光も影も含めて
本当にしなやかに観る側に伝わってくる。

幼いころの記憶、
高校生のころのビビッドさ、
家庭のことや友人のこと、
さらには夫のことも含めて
シーンごとに観る側に手渡されていきます。

興味深いことに
作品からやってくるものが
初演とまったく同じかというと
そういうわけでもなくて・・・。
脚本には若干手が入ったようだけれど
初演と物語の骨格が変わっているわけではない。
でも、語り部的におかれた女性から、
他の役者たちが紡ぐ物語を受け取る感覚が
かなり変わったようにも感じられました。
たぶん、それは、
演じられる場が圧倒的に広くなり
役者それぞれの動きがクリアに見えるようになったことや、
シーンの重なりにノイズが減って
彼女の人生の道程がより整理されて
伝わってくるようになったことなどにもよるのでしょうけれど・・・。
初演時には 役者達が交互に語る記憶が
語り部役の女性の内から湧き上がり、
観る側で形になっていったのに対して
今回は、彼女の表情とともにある、
内心にほどけ浮かぶ記憶が
そのまま流し込まれてくるようなような感覚があって。

功罪ということでもないのですが、
初演のときのほうが
場の質感や表現が混沌としていた分、
うまくいえないけれど
その女性が内心に抱く思いに
よりリアルな温度を感じることができたかも。
一方で、今回のほうが
物語に透明度がある分、
彼女自身の思いからの理を感じることが出来
その分、浮かび流れていく記憶に対する
女性の表情に
よりゆすぶられ、引き込まれたように感じました。
さらにいえば、
人が生きることに流されていく必然のようなものは
今回のほうがよりクリアに伝わって来たように思います。

もちろん、初演にしても今回の公演にしても、
観終わって、彼女が歩んだ半生を
そのまま受け取ったような感覚は観る側に
しなやかに残るわけで。
不安感にも、高揚にも、閉塞感にも、記憶が解ける感覚にも・・・。
作り手のこの表現だから伝わってくるものが
間違いなくあって。
時間を忘れて、舞台に惹かれ、
積み上げられた女性の記憶の広がりに取り込まれて・・・。、
終演後もしばらくその感覚にとらわれ続けた。

もっといえば、初演と今回を見て、
演じる役者達の色や演じ方の個性を
作り手の表現方法が封じ込めるのではなく
むしろ生かしていることにも気がついて。
また、同じ作品を再び演じるということではない
作り手の作劇の引き出しがさらに広がったような感覚もあり、
初演と今回の両バージョンを観ることができて
本当に良かったと思う。

なにはともあれ、作り手のメソッドに
再びがっつりと嵌ってしまったことに間違いはなく・・・。
初日の観劇ということで
作品にもっとグルーブ感が生まれる予感もあり、
思わず再見を予定してしまったことでした。

*** *** ***

楽日にもう一度観ました。

初日のちょっとしたぎこちなさが払拭されて、
刹那がさらに豊かになっていて。

物語を知っていることが
さらなる舞台の新鮮さに繋がっていくことに驚き。

この舞台の奥深さを感じました。
(よって★もひとつ+)
















【ご来場ありがとうございました!】俺という宗教、女神のSEX

【ご来場ありがとうございました!】俺という宗教、女神のSEX

あんかけフラミンゴ

しもきた空間リバティ(東京都)

2012/01/07 (土) ~ 2012/01/09 (月)公演終了

満足度★★★

いろんなものが少しずつ・・・
映像にしても、舞台装置にしても、物語の構成にしても、
つまらなくはないし、
役者達の演技には惹かれる部分もあるのですが、
それらが安定して伝わり広がるための
作り手の踏み込みや作りこみへの力加減や細心さが
少しずつ足りない舞台だったように感じました。

ネタバレBOX

物語の骨格はわかりやすく組まれているし
そこに表裏を作ってニュアンスを醸し広げていこうという意図は
とてもよくわかるのです。

カーテンを使ったシーンの切り方も
ここまで徹底して刻んでくれると
観る側が乗っていける部分もあるし、
黒と白の物語の整合が崩れているわけではない。

ダンスなども切れがあって・・・

だから、及第点といえば及第点の舞台だと思うのです。

ただ、観る側が腰を落ち着けて
それらを受け取り広げていくには
舞台に表現されたものを縫い合わせる仕付けが
欠如している感じがあって。

ひとりずつの役者達が醸す感情は受け取れるのですが
それらはキャラクターの中で完結してしまっていて
そこから舞台全体の世界観のようなものが生まれてこない。

主人公の個々の想いは厚みをもってやってくるのですが
よしんば体を張り肌を晒していても
それが重なりあって
観る側を取り込むようなトーンにいたらないというか。
舞台にそれぞれのキャラクターが
おかれて孤軍奮闘しているような感じが残る。
カーテンでの場面転換から
シーンの展開の小気味よさは感じるのですが、
スピードが導く対象がいまひとつクリアに見えない・・・。
舞台が熱を帯びても
観ていてその因果がわからず、
閉塞や踏み出しを感じる部分はあるのですが、
どのように閉じ込められているのか
なにから踏み出したかが
薄ぼんやりとして伝わってこない。

たとえ二面から事の成り行きを描き出しても
キャラクターたちが立体的に見える感じも薄く
役者達の個人的な色や
演技の切れ味や輝きがその場に単品で
残ってしまうのです。

なんだろ、作り手が描き出したい色が
わからないわけではないのですが
それを舞台上からあふれさせるには
いろんな細微なことが
うまくかみ合っていないのかなぁと思ったり。

旗揚げということでもあり
なにかがうまくかみ合い始めると
ぐいぐいと広がっていく要素のある舞台であり
集団であるとは思うのですが・・・。


猿に恋〜進化ver〜

猿に恋〜進化ver〜

悪い芝居

駅前劇場(東京都)

2012/01/07 (土) ~ 2012/01/09 (月)公演終了

満足度★★★★

身体表現としての秀逸
台詞を封じられた演劇という見方をすると、
いろいろと不自由を感じるし、
まして舞台上の表現を100%理解できたかといわれると
かなり怪しいのですが・・・。
秀逸な役者の動きを観ているうちに
ダンスなどを見る頭に切り替わってしまい、
そうなると、やたらトリガーの多い表現で
めちゃくちゃわかりやすく面白い。

台詞とはなにかとか
難しいことを考える暇もなく、
なにかわくわくと舞台上の表現を楽しんでしまいました。

ネタバレBOX

お芝居だと思ってみると
台詞が伝わってこない分苛立ちもあるのですが、
身体表現として捉えなおした刹那に、
役者達のひとつずつの表現も、
その重なりから浮かび上がってくるものも
ベタで豊かで、しかも絶妙に奇想天外で観ていて飽きない。

役者達に言葉ではなくても
意図を伝えうる身体の使い方があって
制約されるという感じより
言葉の網とは違うもので
掬いあげられてくるニュアンスがあって。

最初はわけもわからず舞台を観続けているだけだったのですが、
次第に役者達の身体の言語になれてくるというか・・・。
混沌ではなく
伝わり広がってくるものがある。
そのフレームで伝わってくるものだと
原始的な感情から物欲や嫉妬といったもの、
さらにはその規律が野球を借景にしたとしても
観ていて受け入れられてしまうのです。
これ、おもしろい。

後半には、
歴史が今に戻る道程で役者達に別のギアがはいったような感覚があって
そこに歴史を下るバワーがかもし出され、
舞台にグルーブ感が生まれる。
言葉が現れ
そのなかに原始のニュアンスのやり取りが
DNAのように受け継がれつつも                            埋もれていく。

時間的にはそれほど長くなかったのですが、
見ごたえは十分。
作り手の志を理解できたかというとまったく自信はないのですが、
小難しいことを考えずに
舞台の世界に閉じ込められて・・・。                          役者達の表現にしっかりと持っていかれてしまいました。                                                                    
全 員 彼 女

全 員 彼 女

TOKYO PLAYERS COLLECTION

王子小劇場(東京都)

2012/01/05 (木) ~ 2012/01/09 (月)公演終了

満足度★★★★

したたかな切り口
プレビューと合わせて2回観ました。

単なるワンアイデアにとどまらない
視座がしっかりと定まったしたたかな作品。

作り手の見せ方に加えて
役者たちが描き出すニュアンスの鮮やかさにも惹かれて。

アフターイベントの二人芝居、
こちらにも圧倒的な役者の力を感じることができました

ネタバレBOX

まだ、明かりがともりきらない中での演技から
すっと舞台に引き込まれて・・・。
やがて現れる女性たちの仕草の意味も最初はわからないのですが・・・。

前半は、ただことの成行きを見ているだけ・・・。
男女の出会いから別れの前までが
淡々と描かれていく。
女性が5人に分かれるところ、
彼女たちが等所とは別の一人の女性に変わるところ
さらには彼女たちの行動なども
ただあるがごとく見つめてしまう。

ところがその時間が巻き戻り、
視座が男性のものから女性のものへと移ると
世界の見え方が大きく変わっていきます。

男性が女性の想いとともに生きていることがわかる。
ステレオタイプな男女の関係ではなく
女性の内心がしたたかに描き出されていく。
女性の想いが一方向ではないこと、
下世話な欲望から興味、さらには男性にたいする関心のようなもの・・・。
役者た紡ぎ出す女性の想いのパーツそれぞれに
明確なニュアンスがあって、
それらが男性の視座と重なって
男女の想いに息を呑むような綾が生まれていく。

心が一つになる刹那や
再び解けてしまう想いに心が痛む。
全体の表層を描き出す役者や、
さらに元カノ役のお芝居にも、ふくよかさや表現の密度があって。

ちなみにこの作品、
繰り返しでみると、冒頭からぞくっとくるほどに
良く作りこまれていることが分かる。

冒頭の顔を出す女性の仕草に
よしんば男であっても胸がときめいたり。

特に2回目など、見ていてシーンごとに前のめりになって引き込まれる。
作り手の作劇の力をがっつりと感じる作品でもありました。

*** *** ***

終演後に岡田あがさ × 斎藤淳子の二人芝居がありました。

二人とも、私が無条件に委ねられる
大好きな役者さんで、
開演前からわくわくしていたのですが、
その期待さらに凌駕する舞台の密度に瞠目。

10分ほどの短編なのですが、
二人の醸し出す場には
ぞくっとくるような密度があって・・・。

ボリューム感と切れとウィットを持った演技に
大満足でありました。
往転―オウテン

往転―オウテン

世田谷パブリックシアター

シアタートラム(東京都)

2011/11/06 (日) ~ 2011/11/20 (日)公演終了

満足度★★★★★

重なりあって行くもの
ばらばらになったベクトルが重なり浮かび上がってくる世界を
引きずり込まれるようにして見続けてしまいました。

傑作だと思います。

ネタバレBOX

キャラクターたちそれぞれの人生が
ステレオタイプにならずに一点に重なっていく、
その俯瞰の感覚に瞠目、

この質感はがっつり記憶に残るように思います。
節電 ボーダー トルネード

節電 ボーダー トルネード

クロムモリブデン

赤坂RED/THEATER(東京都)

2011/12/20 (火) ~ 2011/12/30 (金)公演終了

満足度★★★★★

作り手の内心の鮮やかなスケッチにも思えて
23日と大楽を拝見。

単純にひとつの印象がやってくるのではなく
いくつものニュアンスが鮮やかに組み上がってやってくる、
それは、今を生きる作り手の
心風景のコラージュのようにも思えて・・・。

刹那の寓意が緻密に重なった作品であると同時に
今、現れ来る心情の
秀逸な描写力に圧倒される作品でもありました。

ネタバレBOX

冒頭のシーンからなにかがすれ違った感じがあって、
その感覚が残ったまま、
次のシーンが重ねられていく。

そしてダンス、最初はただその動きに目を奪われているだけ・・・。

一つずつの事象がそのまま物語として膨らんでいくわけではない。
それは、パズルのように思えて・・・。

でも、少しずつ世界が解け
竜巻や刑務所、
それぞれに広がっていくうちに、
観る側も単純に物語を求めるというよりは
それぞれのエピソードが紡がれていくというようり
風景のように伝わってくる。

冒頭の無関心さも
その裏に現れてくるものも
ダンスの軽さやポップさも
竜巻も牢獄も病院も、
そして創作という薬も・・・、
ダンスにニュアンスが取り込まれ
それらが感覚に置き換わって
作り手の心風景のように観る側に広がっていくのです。
物語の進展の中で
心の移ろいの一つずつの感覚の表現へと変わっていく
それらは、時に高揚し、あるいは抑制され
制御をハズレ、時には暴れ出し・・・
やがては心の風景から
現実の時間へと至る・・・。

役者たちの演技が圧倒的に磨きあげられていて
その刹那の表現のテンションを支え
観る側に伝わってくるものに曇りがない。
笑いをとる部分にもぞくっとするような切れがあるし
いくつものシーンに目を見開くようなミザンスが立ちあがって
観る側を圧倒する。

後半から終盤にかけて、
妄想の縛めから解放されて日々の現実に逃げ込んでいく表現には
強いグルーブ感がありました。
妄想の世界から
よく現実まで世界をつなげ流しきったと思う・・・

そして最後のシーンで繰り返されるあのダンス・・・
膝の揺らぎが生まれ、
観る側が前のめりになる刹那光が落ちる。
その瞬間、ダンスのニュアンスと
舞台の妄想と現実の色がすっと重なって・・・、

23日も観終わった時には
その雰囲気に完全に捉われていたのですが
大楽の役者たちの演技はその時と比べてもさらに
さらに熱伝導率がよくなっているような印象があって
その分観ていて高揚感も強かった。
初日はB列だったので
役者の表情に圧倒されたのですが
大楽はH列で舞台全体の俯瞰のような印象で観ることができて
それが重なりあってさらに惹きこまれ感が強くなったようにも思えて。

多分作り手にしてみれば、
心風景の緻密なスケッチだったのと思うのです。
それらを色鮮やかに観る側に流し込む
役者たちの技量、さらには照明や音響、舞台美術の秀逸もあって。
舞台の力は、観る側にやってくると
更なるふくらみへと変わっていく。
観る側がコントロールしえないような踏み込み感が
やってくる。

終わってみれば単に軽重や色合いだけではない
軽躁から軽鬱のあいだを行き来する中庸な想いの風景のスケッチを
ぞくっとくるような解像度と
POPさ、
さらには洒脱さが生み出す更なる高揚とともに
受け取ることができました。

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