満足度★★★★
紛争地 花四つ星
の住民の生活を覗き見、難民キャンプも可也見て回っている自分にとっては、戦闘シーンや残虐な描写が随分抑えられ、リアリティーには欠けたが、それでも日本の一般の人々にとってはかなりショックを受けた人々も居るハズ。
ネタバレBOX
一般日本人向けの良く出来た教科書という感じであった。無論、主人公、ベフルーズが、飛翔するミサイルに似た大きな音、空爆の破壊音に怯えたり、被ばく者の写真を見て気持ちが悪くなってしまうなどのトラウマを紛争地の多くの子供が抱え、悪夢、夜尿症、不眠、神経症、時に失語、精神分裂などの症状を呈するのは事実であり、ケアを受ける過程で将来なりたいものを訊かれると医者、ジャーナリスト、教師などの答えが多いのも事実である。如何に彼らが、自分達の置かれた状況に真剣に向き合っているかは、彼らに遇ってみれば直ぐに分かることだ。(こういった事例については、自分も難民の子供達に直接向き合って数百人の子供たちの反応を直接見聞きしている。)中学生くらいの子が、アラビア語以外に英語やフランス語を話したり、パレスチナに於いては必要からヘブライ語をこなす者も居る。知的にも精神的にも日本の同世代の子供より遥かに大人である。日本は、日本会議の下司共がいくら美しい日本などと美辞麗句を並べた所で、QSの2016大学世界ランキングでも去年から5つ上昇した東大の34位1つ上昇した京大の37位、と日本を代表する大学でこの程度の評価。アジアではシンガポールのシンガポール国立大12位、13位で同じシンガポールの南洋理工大にも遠く及ばない。日本の頭の悪い為政者共もソクラテスの弁証法に敗れ、詭弁の代名詞となったソフィストの真似など好い加減に止めるが良い。受験時のペーパーテストの結果が良いだけでは、ヒトのその後の成長は計れない。人は他者に揉まれて成長するのである。その事実をこの物語は良く示している。ベフルーズという名はペルシア語で”良き日”を意味するという。彼は様々な武田レオからの嫌がらせにも基本的に暴力で対応しない。虐殺された母の形見のスカーフを何度も踏みにじられた時でさえ、堪えに堪えた後、体当たりして取り返しただけである。その伏線は、作中至る所に鏤められていた。ファーストシーンにアザーンが流れ、武装集団に属することになった兄と共に組織メンバーの前に連れ出された彼と兄の様子で、無論、それは察せられる。その後もアラブの代表的な弦楽器ウードの、人の心情を切々と訴えるような音色に、爆弾を仕込んだベストを脱ぎ、逃げれば兄が死ぬことになると恫喝されたにも関わらず、人ごみの方には投げず逃げろ! と声を挙げながら他人の居ない方向へ投げたこと。その時破片で自ら傷を負ったことなど。他人に殺される怖さも、他人を殺す恐怖も味わった彼の、だからこそ、明日は昨日と同じであってはいけないという強い思いが、医者になって故郷に戻り、傷ついた人々を一人でも多く助けたいという彼の希望を支えている点にも注目したいのだ。
唯、ちょっと気になった単語がある。自爆テロという単語だ。通常海外メディアはsuicide attackとか suicide bombingという表現が多く用いられているように思う。ISが、劣勢になってからは殊にこの方法を活用するようになったのは事実である。然し、ISを産んだのはアメリカの戦争犯罪とイラク破壊による世界武器市場への宣伝(アメリカの軍産複合体による)と戦中、戦闘終了宣言後イラク国内の混乱を利用しての、治安維持名目や国家軍事予算の名目移転という誤魔化しにより、民間移転した軍兵(特殊部隊兵士を多く含む。ブラックウォーターなど)による民衆虐殺、レイプ、イラク国宝の略奪(これはイラク戦争中にも米兵によって行われていたし多くは未だに返還されていない)、使われたDU弾による極めて凄まじい核汚染(α線による被害が多い為、内部被ばくになることが多い。(それが、ICRPをはじめ、IAEAに逆らえないWHOなどが、内部被ばくを一切問題にしない原因であろう。無論、このDU被害に関してはDU弾が使われた総ての地域の医師、看護師などの医療研究・従事者、そして良心的な科学者が問題を提起し続けている。その地域とは、ヨーロッパではコソボ、中東では湾岸戦争時に汚染されたイラク南部(バスラを含む)、アフガニスタンなどであり、使用した米軍兵士もDU汚染で後遺症を患い、子供に障害児を抱
える退役軍人が居る。)イラク戦争では更に大量のDU弾が首都バクダッドでも用いられたが、その後の混乱で医学的データを収集整理するまでには至っていないようである。)
イラク関係では、まだまだ言わなければならないことがあるのだが、アメリカのイラク占領で最も大きな失敗は、それまでイラクを支配してきたスンニ派を総て公職追放したことだろう。確かにフセインは、シーア派を弾圧したり、クルドを弾圧したりはした。秘密警察が、国民を監視していたのも事実である。然し、民衆レベルではシーア派もスンニ派もお隣同士で仲良くしていたし、殺す、殺されるなどということは考えさえ及ばなかったのも事実である。それが、アメリカの占領政策の失敗により、傀儡マリキ政権の下、クルドのペシュメルガ、シーア派民兵が、スンニ派住民を拉致しては凄まじい拷問に掛けて惨殺してきた。そこでスンニ派も自衛の為に軍事組織化していったという経緯は無視できない。それらが離合集散してとどの詰まりISに結集していったのだ。無論、ISの中には旧アルカイーダの人々も紛れ込むことになった。
ところで、日本でベルフーズを受け入れる地域となったのが広島であることは意義深い。いじられキャラのヤスミの兄がISに参加しようと企てるのは、TVでアラブ関連のドキュメンタリーを多数見、就職試験に落ちまくっていることから簡単に見通せるが、その兄のエクスキューズについては、実際、日本社会の事大主義と事大主義をベースにした一面的なレッテル貼りのマイナス面を良く表していて興味深い。同時に、日本人の甘さ、甘え、弱者に対する想像力の欠如も良く表していて面白い。その点では、ベルフーズのクラスメイトであるレオのスタンドプレーと狭い了見に根差したプライドの嗤うべき浅さも通底していよう。
満足度★★★
Aチームを拝見
舞台美術はしっかり作り込んであってグー。
ネタバレBOX
然し噛むシーンがちょっと多かったのは残念であり、シナリオに徹底性がないのが、作品の弱点になっている。余り芝居を観なれない人々にとっては、結構楽しい作品なのだろう。だが、シナリオに徹底性が無いということはドラマツルギーの強度が低いことと同義であり、実際、何をテーマとしたいのかがよく分からない。殆ど総てが中途半端なまま終わってしまう。それが狙いで過程こそ大切だということを主張したいのであれば、そのことを痛烈に批判する結果主義と対置させるなり作中どこかで鋭い批評性を持つ科白を入れなければならない。他にも方法は無論ある。結果主義の総てが空しいことを徹底的に観客に分からせれば良いのだから。何れにせよ、こういった演劇的深みは弱いと感じた。今作中のプロットで唯一完結したと取れるのは、結婚詐偽師と彼女の息子の霊が去って行く件だけである。子役にいい役を振るのは良いが、子供の可愛らしさに大人が頼ってしまうのはズルかろう。そんなことすら感じさせる舞台であった。
満足度★★★★
花四つ星
地震でデータが消失した。
ネタバレBOX
大森式地震計で有名な東京帝国大学教授、大森の下にはすぐれた研究者が居た。名を今村 明恒という。日本の家屋特性や地震時の状況を的確に判断し、関東大震災の起こる前から大地震の可能性と予想される被害状況を説いたが、新聞の不正確で扇情的な記事から社会的誤解を受け、ほら吹きと評されるようになる。無論、彼の子供も学校でこのことを根拠に苛めを受けたりからかわれたりするのだが、日本の大衆の事大主義と軽率が、彼を追い詰めて行った。然し、物事をまっすぐに見つめることのできる彼には、自分の地震学が、主任教授の大森のものより正しく思えた。その為、以前よりメディアに注意するようになってはいたものの理論的に正しいと信じることに対しては発表していた。この姿勢が、彼への風当たりを増々強いものにしていった。無論、彼もこの件では悩む。偶々、義太夫の呂昇という人物に出会い、人生のいろはについても深い思索を身に着けるようになった今村だったが、彼の呂昇に対する批評が鋭く呂昇自身が感心するほどであったこと、また義太夫の上達が早かったことを見ても、彼がバイアスなしに物事を正確に見る目を持っていたことの証拠となるであろう。それに引き替え、学問的正しさより政治や評判を気にするタイプとして描かれている大森が、学会の大会でオーストラリアへ出掛けている間に明恒の予想通りの大震災が関東を襲い、死者105000人という大惨事となった。大衆は、明恒を地震の神様と呼びならわすように豹変したが、見苦しい限りである。昨日までほら吹きとさんざ馬鹿にしていた舌の根も乾かぬうちに態度を一変させる。この見苦しさと見識の無さは、自分が日本人を嫌う最も大きな理由である。
それでも、大森は帰国直後、衰えた体をおして、地震研究所を訊ね、自らの瑕疵を認めると共に侘びを入れ、後任を明恒に託す。大森も流石に一流の学者であったのだ。腐り切っていない。間違いを間違いと認め、けじめをつけることは誰にでもできることではない。裕仁の戦争責任は明らかであるのに、彼はけじめをつけなかった。その故にこそ、戦後日本は此処まで腐り切ってしまったのだ。明仁天皇は皇太子時代から、父の尻拭いをしてきた。その上での生前退位の要望だろう。良く贖罪をなさった。ご希望を叶えて差し上げれば良い、と自分は思う。
今作にも出てくる、関東大震災時の朝鮮人虐殺事件は日本人の恥として、先ずは侘び、亡くなられた方々の冥福を祈るべきであろう。
そして、このような惨劇を二度と繰り返すことの無いよう、日本人は、事大主義を改め、キチンと自分の目で見、自分の頭で考え、他人の話をまんべんなく聞いて自らの選択をしてゆきたいものである。
万遍なく聞くということは日本会議メンバーのような下司の吐く嘘迄聞けということでは断じてないことは無論である。
役者達の演技に関しては、背凭れの高い椅子に座りながら、列車の揺れまで表現していたことに感心。舞台美術、場転も話の展開の腰を折らないスムースなものであった。この辺りの演出もグー。
満足度★★★★
自己増殖
第3研究所では、残業、休日出勤は当たり前のハードスケジュールで、新たな研究を完成させようと励んでいた。
ネタバレBOX
研究対象は「queen」と名付けられたコンピュータ。人の脳に直接アクセスすることのできるコンピュータである。チームの中心は、若干変わってはいるものの天才の誉れ高い田中 士郎。彼に対する室長の期待値は高く、彼が思う女に心を奪われてチェックが疎かになって起きた重大事故についても殊更彼を庇い責任追及はしなかった。だが、彼は内心自分の罪だと深く悩むことになる。その為、元々非外交的であった彼は自らの魂の中に避難してしまう。脳に異常は認められない。その為、彼の昏睡から彼を覚醒させるためあるミッションが企てられた。彼の脳内にミッションで派遣される者の意識を送り込み彼を覚醒させようというのである。無論、実態を送り込んでオペをするという訳ではないから、サイコダイバーが負うようなリスクをミッション担当者は負うことになる。人選はあっさり決まった。志願者が居たからである。志願者の名は杏梨。彼を慕う乙女であるが研究職ではない。だが彼女の熱意は専門職ではない困難を乗り越えた。そこで派遣された彼女の意識の見たものは? といった展開で話としては中々面白く、恋に夢中になる女性本能を骨太に描いてもいるのだが、演じ手が劇場サイズを勘案していない。のべつ幕なしに大声のキンキン声で発声するものだから音に敏感な人間は辟易してしまう。後半話が佳境に入り他との相乗効果で余り気にならなくなるものの、この辺り演出家はもっと気を使うべきだろう。
満足度★★★
初日観劇 約2時間
満を持しての公演という意気込みは買うが
ネタバレBOX
、殺陣は、腰が入っておらず散漫だし、蜻蛉を切ったり側転・側バクなど、アクロバティックな要素も入らないので動きが通り一遍のものになってしまっている。主題歌は可也いい線をいっていると思うが、シナリオも溜めのない通り一遍のもので、ストーリーを線で描いたような単調さが目立った。終盤の種明かし部分に至って漸く、この活劇に相応しい大胆で興味深い内容がでてくるのだが、子供が居ないという伏線以外に伏線らしい伏線もないようだし、様々な矛盾、不自然さをマイアのメンテナンス技術者から少しずつ示すなり何なりして大団円に至るなり、小ネタを上手く利用するなりして物語の有機的必然性を醸し出して欲しかった。主張が極めて単純な分、観客に直ぐ見抜かれてしまうから。この主張をそのまま通すのであれば、見抜かれても観客が納得できるような、物語としての必然性を書き込んで欲しいのだ。それができなければ、シナリオは外部に任せた方が良かろう。自分で書くというなら、良いシナリオというものがどういうものか更に勉強して欲しい。
満足度★★★★★
ワンツーワークス前回公演
初演は十数年前。
ネタバレBOX
だが、今作ちっとも古くなっていない。それどころか、普遍性を感じさせるのだ。それは登場人物個々の遭遇すべき現実が、個々人にとって最も痛い所で現実に演じられるからであろう。どういうことかというと、例えばいきなり夫と妻の科白が入れ替わる。夫は妻の科白を、妻は夫の科白を喋るという演出が為されるのだ。これこそ、想像力の用い方そのものである。何故なら想像するという行為は、相手の立場に立つことだからである。このような演出は、無論観客の度肝を抜く。その上で納得させるのである。
今作で描かれる家族の形は、日本の伝統的なそれとは全く異なる。いわば、一つ屋根の下に住みながら、家族のメンバー個々人が能う限り自由を実践しているのであるから。娘(菜摘)は、彼氏(明良)を自室に連れてきて同棲している。息子(春人)は勝手に大学を止めて、パソコンで何かをやっているが引き籠り状態。家族会議があっても携帯電話で参加するほどだ。妻(和絵)は妻でなんやかんやの不平を梃に自己の取り分を拡張してゆく。夫(耕平)は調整型だが、楽しみは帰宅後、社畜から解放されて飲むビールとガンダムのプラモ制作。隣の住人(佐渡)が年中出入りしているのだが、サプライお宅である。おまけに母(=妻)の母という言い方を強制する祖母(さち)、はアキレス腱を切って不自由という理由で強引に狭い一家に転がり込んでくる。更に、耕平の父(孝典)は壁と対話する孤独に耐えかね、持ち家を売却後、矢張り転がり込んできた。既に家族会議で決まっていたことも状況の変化に応じて変えなければならない現実の前で、それぞれの思惑、利害が交錯して人倫と自由、既得権などの権利を巡る議論が展開される中で、上で述べたような互いの科白の入れ替え、立ち場の逆転などの演出が加えられるので、決してセンチにならず、緊張感を持続した舞台展開が可能となっている。
シナリオ自体非常に優れたものだが、演出、演技、舞台美術の特異な形態、照明や音響の効果が相俟って普遍性を持ちつつ衝撃的な作品になっている。
満足度★★★★
花四つ星
10月8日から3日で3公演というかなり贅沢な公演。
ネタバレBOX
5月にもこの「66」の公演があったそうだが、そちらは拝見していない。今回は、メンバーが少し入れ替わっているという。
何れにせよ高校時代の仲間が6人集まって兎に角、他人を楽しく、自分たちも楽しくと大きな夢を抱いて途中、女や進路の違いで1人はアメリカンドリームを実現すると仲間を割って出た。10年後、残る5ンインはチームを組んで人も羨む立地に事務所を開設することができた。ところでリーダーの平野は、フェイスブックでアメリカに渡った仲間に顔を見せにくるよう連絡を取っていたのだった。彼はアメリカ到着後すぐにカツアゲにあって全財産をすってしまい。何と日雇いの労働で帰りの金を稼ぐと直ぐに日本に戻って来ていたのだが、皆と別れるときに約束したアメリカンドリームを掴んでいない以上、恥ずかしくて皆の前に顔を出せなかった。この辺りの男の子の意地が、彼に嘘を吐かせた。矜りの為に素直に事実を言い出せず、昔の仲間から、借金でもしに来たのかと勘繰られながらも、徐々に内実が明らかになってゆく。つまり高校生の時から抱えていた無邪気な夢と気負いを捨てずに来た5人と、形は違えど幸せを実現したアメリカンドリーム「失敗」者が、その純で一途な姿勢を変えなかった仲間であったことを再確認し、また6人の仲間に戻ってゆく過程は男の子にしかできぬ、熱いロマンを感じさせる。
一般のビル内の会議にでも使えそうなビジネスライクな空間を使って、役者達のアドリブや、その場、その瞬間の判断による空間の身体化によって、瞬時に桁を外す技術を持った役者ばかりが集まって濃く、熱い時間を手渡してくれた。いい年をして、胸に迫る熱い念を感じた。
満足度★★★★
言葉以外による
言語表現の試み。
ネタバレBOX
Scene1:Opening「ム、と、シ」
Scene2:Act 「サイトウさんとサイトウさん」
Scene3:Dance 「赤ずきんとその後」
Scene4:Tap 「14歳の娘と私」
Scene5:Act 「問題と答え」
Scene6:Act 「セミとキリギリス」
Scene7:Dance 「記録と記憶」
Scene8:Tap 「15歳の娘と私」
Scene9:Show 「カミとタブレット」
Scene10:Act 「ロミオとジュリエット」
Scene11:Ending「50とひとつ」
11の演目をこなし上演時間は役1時間50分。言葉を巡る考察が、今回のレビューテーマということになろうか。言葉に頼らぬ身体や、音、動作と間によって、言葉以上に想像力に直接訴える試みや情報伝達媒体としての書籍VSタブレット端末の攻防戦、言葉を印刷物にする際に用いる紙を空中に舞わせて蝶のようなイマージュを喚起すると同時にその複雑な舞い方の美しさを舞台上に上げる試みなど、イマジネーションに訴え掛けるショートレビューの合間にはタップダンスやそれと共に演じられる手品等が、他のレビューと緩やかに関連していたり、童話の古層と子供向けバージョンとの比較によって見えてくる認識レベルの差異、またシェイクスピアのシナリオの筋書を変えてみる試みなど実験的・挑戦的な要素が取り入れられ、楽しめる。無論、これらの他に美しさに対する配慮も付加され、イマージュの断絶を防いでいることも良いし、また音響効果もグー。
満足度★★★★★
ポテンシャルの高さに星5つ
先ず扱っている素材が石であることに注目したい。(追記後送)
ネタバレBOX
一応パワーストーンというコンセプトで括っているが、本質が石であることに変わりは無い。石に注目できるのは詩人の感性である。何故なら石こそ生きた歴史、宇宙の無限の歴史の一端をその体内に留め置くことのできる、見る目の無い者には決して注目されることが無いほどありふれ何処にでもあると錯覚させる歴史の証言者だからである。無論、その歴史は、何年、何十年、何千年などという短いタームではない。何億年、何十億年にもまたがり得る歴史である。総ての恒星が、核反応炉であるのは、今や常識であるが、宇宙のガスが蝟集し、塵がコアを形成し強い重力を持つようになって更なる塵を集め巨大化してゆくとき、その内部は猛烈な圧力と熱によって様々な反応を生み出す。褐色矮星で中心温度が250万Kを超えると核融合が起こり、更に、1千万度を超えると恒星となる。星の命がその質量に応じた最後を迎える段階で白色矮星、超新星などの形態を取り、超新星爆発などを経て、更なる物質を作り出す。そのうちの一部が核分裂を起こすウラン235などである。太陽などの恒星では、水爆に近い原理が働いて核融合が起こっているが、猛烈な圧は高温を生じ、物質はどろどろ状態である。さらに猛烈な圧と高温は、臨界を引き起こすには充分な条件を具えていると考えることはできる。そして一度核融合を起こせばそれを簡単に止められないのは、たかが人間の発明した核分裂利用の原子炉を見ても明らかである。恒星の質量が齎す結果は、人間などの作り出すエネルギーとは桁がまるで違うことは、どんなに科学的知識の無い現代人にも明らかであろう。まあ、今作を観るには、この程度の科学的知識と物理学に対する興味はあった方が良い。無論、詩人的な感性も同時にである。開演前には宇宙に関する様々な情報が音声で流されている。相対性理論の時間概念だとか宇宙飛行士に纏わる話題、宇宙船乗組員と地球のスタッフとの交信などだ。
こんな話をするのは、今作の展開する場所は火星だからだ。パワーストーン販売を手掛ける企業が、火星にたくさんあると見込まれるオパールを梃に、更に貴重な原石の発見を目指してプロジェクト開発チームを送り込んだのである。だが、宇宙開発の進んだこの時代、宇宙空間で暮らす人間の性欲の問題が大変重要なものとしてクローズアップされていた。狭い宇宙船で長旅をすれば毎日顔を合わせる男女の間に恋が生まれるのは必然と言ってよく、結果、子供ができる。然しオゾン層などに守られていない宇宙空間での妊娠、出産、育児などには地球上では考えられない程の放射線の影響がある。放射性核種の影響に関しては年のいかない程感受性が高いという問題があり、乳幼児に各核種の与える遺伝的影響は計り知れない。また、恋愛関係に無い者が、レイプ被害を受けるというような問題も多発していた。そこで取られた対策が、性に対する関心が一切ない特殊な人を宇宙船に乗せるということであった。今作で描かれる乗組員5人は総てこの問題にクリアした研究者、医者等である。無論、各研究者、技術者らは一人で己の任された任務を十全にこなすことのできる有能な者たちばかりである。
だが、地球上に存在するのと組成も全く同じオパールの採掘では採算が取れそうもない。少なくとも不安である。そこでこの件についての会議が開かれ明日に迫った出発日を延ばしてこのレアな鉱石を採取することになった。
満足度★★★★
休憩時間25分
1部は喜劇、2部は和物レビューの2部構成。
ネタバレBOX
喜劇の中に都都逸や新内流しを入れるなど、江戸の芸事が取り入れられて粋な作りになっており、落語的な要素も入って楽しめる。応挙の書いた掛け軸に描かれた幽霊役を男が演じ、目利き役を女が演じるという趣向だが、日本舞踊の手の使い方のような優雅な所作がグー。着物の選び方などにも日本的な美学を感じる。
レビューは、矢張り扇や団扇の用い方で和物の伝統芸を見せると共に、矢張り衣装にも随分工夫を凝らして、ここでも日本美学の一端を見るような気がしたが、グレーを余り用いていなかったのは舞台映えがし難いのだろうか? 江戸の装いの最たるものはグレーの多様性にあったと聞くが。
満足度★★★★
おもろい
父は警部補、「バカモノ」が口癖の雷オヤジ
ネタバレBOX
という設定だが、娘二人は恋する乙女たちであり、長女は才能の無いミュージシャンと同棲しており、ミュージシャンは、浮気がち、おまけに姉妹丼までかましている。妹は姉の彼にバージンを捧げたのである。
ところで、その妹にも初のステディーができた。父母が旅行で家を空けるのを幸い、妹は、彼氏を自宅に招くが。同棲中の姉がミュージシャンの浮気に気付き喧嘩して帰宅。父母も父の撮影機材を忘れたと言って戻ってくる始末。姉は彼の浮気に報復する為、出張マッサージ師を呼んだが、それと知らず雷オヤジは、妻が自分とのセックスレスに不満を感じて浮気相手として出張マッサージ師を呼ぶ人が多いとの噂のようなことをしているのだと勘違い、自分のインポテンツも他人と妻が交わっている所をみれば治るかも知れぬと考え、更に行為をビデオカメラで撮影しようとする。だが、実際に来た出張マッサージ師ではなく妹の彼氏をマッサージ師だと思い込んで秘密協定を結んだりしたものだから、話がすっかりこんがらがってしまった。妻は、娘たちの恋にもかなり理解があって彼女らを庇おうとするものだから、多くの嘘、隠し事が重なり余計喜劇的になってしまったのである。
芝居自体はコミカルで笑える。演出、演技も悪くない。然し、生演奏はもう少し本腰を入れて練習した方が良かろう。
満足度★★
エパーブの甘え
家庭は経済的にも恵まれ、主人公である姉は容姿端麗、学業優秀、無論、クラスの憧れの的。だが、その「幸福」が彼女には退屈。
ネタバレBOX
おまけに自分の本性を曝け出して逆らうこともできない。生きているのか死んでいるのか分からないが、空虚の中で足掻いたつもりにもなれない。受け身に唯、偶発的な爆発を待つのみ。ひねくれた“かまってちゃん”の甘えを描いた作品と言えるだろう。
唯、作家は設定に失敗している。新たなことにチャレンジしてみたかったようだ。が、それにしても演劇でそれをやるのだから、話がスムースで自然に運ぶようなシチュエイションと場を設定すべきであった。船でいえばビルジキールに当たる部分くらいはキチンとした設計がなければいいシナリオにはならない。
テーマが一本調子で反作用が無いのも欠点である。これではドラマツルギーが成立しないからだ。結果、話は単調なものになり、陳腐なものになってしまった。
捻りといえば言えるかも知れないのが舞踏家の起用とその役割の変化であるが、シナリオ自体の構造が弱いので、この工夫も十全に生きているとは言い難い。
満足度★★★★
不言実行 有限不実行 花4つ星
有言不実行を絵に描いたような主人公、俊博は現在31歳(物語開始時は、明日31歳の誕生日を迎える設定)、
ネタバレBOX
チェーンの中華料理店副店長で、誕生日前日、回りが羨む可愛い彼女との4年に及ぶ同棲生活に幕を下ろした、月130時間以上の残業をこなす社員である。因みに店の従業員の中で社員は店長と俊博だけ。仕事が終わった後、休憩時間中は寝て体を休めなければどうにもならない状況である。最近では時々耳が聞こえないといった症状も出ている。自分の出世だけを追い求めるマネージャーはシンドイことは一切せず、偉そうに命ずるだけ、現場に立つなどということは殆ど皆無である。無論、有給休暇など貰えるハズもない。然し、俊博は、他の業界の経験もなく転職するにも自らのつてもなければノウハウもない。忙しすぎて新たなことにチャレンジする道も探せずにきた。
一方、彼女は幸せを求めた。そして変われない俊博に愛想を尽かし出て行った。だが、それはまだしもましだった。誕生日当日彼はトンデモナイ事件に巻き込まれることになった。
初日なので、ネタバレは此処まで。苦労人の書いたシナリオで、キラキラした部分が削がれている点が素晴らしい。観客の反発を買わないからである。観客も皆例外なく際の人々であるから、キラキラしている人々には嫉妬を禁じ得ない。その反発を抑え込んでいるのだ。だが、侃々諤々の議論、毀誉褒貶を引き受ける覚悟がなければ更に高い評価を望むことは難しかろう。そして、このような評価を得る為には、キラキラしたシーン(本物の才能の輝きだとか、天才の閃きなど)も取り込んだ方が良いようには思う。ただ、以上の意見は更にメジャーを目指す場合のリスクも伴う意見であって今作を否定的に見ている訳ではない。地味だが、心に残る作品であることは間違いないからである。
満足度★★★★★
「捨て子」
の哀しさは、体験した者にしか分かるまい。
ネタバレBOX
今作に登場するななしは、無論、この捨て子である。バーチャル世界に顕れるさくらが彼の否定的言辞の真のきっかけではない。母に捨てられたことが、彼が総てを否定する根拠なのだ。だって母は、子の故郷。母の胎内で個々の受精卵は系統発生を体験した。即ち母とは地球上に生命が誕生して以来の歴史を子に伝える存在なのである。子にとっては地球そのもののように懐かしい命の揺り籠だ。その母に見捨てられるということが、如何に子供を傷つけるか!? 大人たちは真剣に考えたことがあるのだろうか? そんなことまで問いたくなるような問い掛けが、今作にはある。
無論、作家の鹿目 由紀さんの優れた感性と女性らしいが、非常に上手な論理構成が、今作を此処までの作品にしていることは疑いようもないが、改めて彼女の出会っている難題の深刻さ、それに出会わざるを得ぬ才能故の淋しさにも深い共感を覚える。
同時にななしにとっての聖杯が、元カノのくれたマグカップであること、彼女も彼と別れたことがトラウマとなって過食嘔吐を繰り返している。そんな優しい彼女が、ななしの居るべき場所だというのは、とても素敵!
満足度★★★★★
星5つ進呈
舞台客席側に天井から床まで届く幅2.5mほどの白布が下がっており、下から三分の一ほどの高さの所に黄色で点線が引かれているが、真ん中にはキリトリセンと記されている。
ネタバレBOX
開演早々、怒声が響く中、この布を掻い潜って弟、幸太役が舞台全面に立ち上がって観客席の方に顔を向けるが、頗る寂しそうな目をしている。ポケットから鋏を取り出すと、キリトリセンに沿って布を切ってゆくが、現れた光景は男女の諍いの場面だ。
By the way,子供時代の記憶は曖昧だという話を良く聞く。然し、それは本当ではない。インパクトのある記憶は子供心に鮮烈に焼き付き、その魂を焼き、深い傷を負わせ、いつまでもじくじくと膿み爛れたまま癒されることなどないからだ。
今作は、こんな子供時代を経験した姉弟を中心にその父、母との絆を取り戻してゆく物語である。
状況設定が面白い。親の子に対する虐待の増加、逆に子が親に対して揮う暴力や親族殺人、強盗など凶悪犯の増加に手を焼いた行政は、新法:“親権免許”を立法化しようと計画、その為児童養護施設を用いてデータ収集などを開始した。児童虐待などで子供から引き離された親は、再度子供と家庭を構築し得るか? という非常に難しい問題を扱って説得的である。多くの破綻家庭で見受けることは、破綻家庭を為した一家の親家庭、そのまた親家庭もまた破綻家庭であることが多いということも、実際問題では見受けられることであり、問題は、今作で描かれたより更に深刻であるとの見解もあろう。然し、ハテの無い論議で終わらせることなく、この難題を今作は多くの人々が寄り添える形で提起しており、愛情という感情の広がりと深さと捉え難さに対して、規制が掛けられるのかという法的・倫理的問題、その際、愛する自由と規制の間で生じる様々な軋みをどう解消するのか、否できるのか? という大問題も含めて実に多様な問題提起をしている。
シナリオ、演出、演技も丁寧に作られているし、照明・音響等の使い方も効果的である。オープニングでは、ショパンの革命がアレンジされていて、幸太の寂しげな目と共に、一挙に作品に引き込まれてしまった。
満足度★★★★
今後にも期待
能は、長い修練を必要とする芸能であるが、それは溜めを持続しつつ、クライマックスではそれを瞬時に解放するという離れ業に難易度の非常に高いものがあるからであろう。
ネタバレBOX
法政1劇の取り組み方は、丁度ヨーロッパの映画作りにあるように、やりたい作品が決まったら、その作品に関わりたい人間が集まって協議しつつ作品を作り上げてゆくというスタイルだと聞き及んでいる。従って毎回テイストのことなる作品が出来上がってゆくのだが、今作では能にチャレンジしている。舞台の大きさなどの関係から橋掛かりこそないものの、また、プロが演ずる能舞台よりは広めに演劇空間を取っているものの、松の絵は、自分達で描き、奥・側壁、床に白木を用いて舞台を作り上げ、能の雰囲気を良く出している。当然、舞いの所作も能のそれである。
シナリオもしっかりしており、ストーリー自体も面白い。時折、ハッとさせるようなシーンが鏤められていることにもポテンシャルの高さを感じさせる。更なる研鑽を望む。
満足度★★
原作を殺してしまった
岸田 理生原作の今作、
ネタバレBOX
当然数々のアイロニーが鏤められているのだが、その濃度を演出が薄めてしまった。描かれているのは、敗戦後のどさくさの中での人の業である。事大主義の大好きな日本人がその付けを払わされた時期だが、そういった時期であれば猶更、人間のエゴ、カルマといったものが、執拗に個々の人生を彩る。その、どろどろの地獄模様を群衆のコロスで重層的に表現していたのが岸田の原作であるとしたら、今回はこのことで生きていた演劇としての命を解体する方向で演出が作用した結果、作品が死んでしまった。作品を殺すなら、その背景にある原因、即ちこの「国」の鵺社会を浮かび上がらせねばならなかった。その視座が無いと、ドラマとして成立し得まい。
満足度★★★★
必滅の技術 花四つ星
今作最終章に相応しいイメージは日本の多くの人々にとって何処まで行っても砂漠というのに近いのではあるまいか? だが世界最大の砂漠、サハラ砂漠で本当の砂漠は2~3%に過ぎないのは実際のサハラを知る者には常識である。残りは礫漠、岩石漠、土漠等で構成されている。
ネタバレBOX
自分自身、西アフリカに住んでいた時期には、セネガルの首都ダカールに邸があったから、サハラ砂漠の辺縁にも出掛けた経験がある。サハラ砂漠の全体像を把握することは、ミッションの要請する所でもあり当然前提知識でもあるから、その拡大に対する緊急課題と共に認識すべき最もベーシックな情報であったことは当然である。
この観点からすると、国内しか知らない人々に対する公演とはいえ、余りにおちゃらけているという感じは持つ。現在、日本の多くの人々は余りに世界情勢に疎い。それは北朝鮮報道、南シナ海に関する中華人民共和国報道にも見られる。少なくとも北朝鮮に関してはちょっと長めのスタンスで観れば自壊する確率が高いのであって、その間、翻弄すればよいではないか? その程度の国際競争力が未だ我が故郷にはあるであろう。こう考えるのは、既に手前味噌に過ぎないかも知れない。何故なら、近年この植民地の総てに観られる、質の劣化には凄まじいものがあるからである。
今作のタイトル、Unbreakableにした所で「国(主として自民党政権)」も人災を起こした当の東電も五重の安全対策に守られているのだから、過酷な事故が起きることなどあり得ないとして、対策を怠ってきた。その嘘が事実の前に脆くも崩れるや否や、想定外とのたまわったことは記憶に新しい。こういった無責任そのものに対する痛烈なアイロニーが、今作のタイトルには込められていよう。勝俣以下、東電幹部は未だに誰一人責任を負わないどころか、逃げ回っているではないか! 彼らの無責任の為にどれだけ多くの人々が非業の死を遂げたことか!? そして今後半永久的に地球環境そのものにダメージを加え続けることか。良心的な研究者が書いている核物理を少し勉強すれば、誰にも明らかなことなのである。
無論、この事実の意味する所は頗る重い。その余りに桁外れな人災の齎すものに押しつぶされそうになる。だって未来が無いことは、確実だからである。この余りに重い現実をアピールする為、糖衣錠のように今作はギャグやおちゃらけでこの本質をくるんである。作家のせめてもの優しさと捉えたい。然し今現在ですら、ヒトという生き物が生み出してしまった己には制御することのできない技術が、人類のみならずこの星に生きる生き物総てを絶滅の淵に追いやっている事実に変わりは無い。自分たちが生み出してしまった必滅の状況を加速する為だけに核を推進しようとすることは、狂気の沙汰。先ずは今作に込められたこのメッセージを正確に受け取りたい。
満足度★★★★★
戦争の齎す日常
を描くことで、その悲惨を炙り出した秀作。、
ネタバレBOX
時は1950年、地方の商店街にある写真屋の中庭で繰り広げられる物語だが、不死身のお兄さんにはモデルがある。ところで、恐らく常識とは反対に戦後の混乱期が庶民にとって最も辛い時期であったということは忘れられがちである。寧ろ、戦中の方が飢えは軽かった。無論、贅沢はできない。然し配給制度はかなり機能していたし、低いレベルで平等であったから飢え死になどは寧ろ少なかったのである。然し戦後のどさくさでは力が露骨な正義であり、力も知恵も行動力も無い者は飢える外無かった。実際、法を守ってその範囲で食糧を調達した裁判官は飢え死にしている。その頃より多少ましになったとはいえ、まだまだ庶民生活は貧しかったのである。
ところがこの年6月25日に38度線で南北は、全面衝突。北は、38度線を越えて南進し28日にはソウルを占領した。国連軍が組織され本格的戦闘が始まるのは9月15日の仁川上陸以降になるから特需景気で日本が潤う少し前と考えられよう。
然し皮肉なものである。戦争によって廃墟と化した日本は、元日本の植民地の同一民族同士の戦争で経済を回復してゆくのである。何れにせよ、今作の時代背景には以上のようなことがあり、兄戦死の報が届いたのは、戦死情報さえ正確に捉えることが出来ない程、戦闘が惨憺たるものであった為であり、(実際南方戦線で死亡した日本軍兵士たちの死亡原因の多くは飢えとマラリアなど疫病によるものであった。戦死の場合でも砲弾、銃弾総てが尽き、万歳攻撃を行うことも多かったのである。その為、米兵は日本兵をナメキッテいた。)家族への兄戦死の報は南方戦線での戦死を伝えていたのだが、実際には頑健な兄には特別任務が与えられて満州へ向かっており、ただ特殊任務が実行される前に敗戦が決まったのであった。いずれにせよ、最も過酷な状況にいつも送り込まれていたという。結果、敗戦後5年も経ってから兄が帰還するのはシベリアで抑留されていたからである。ソ連が抑留者を如何に遇したかについては、食糧の乏しさ、労働の過酷、避寒の不徹底などハーグ陸戦条約に違反するものが多く、多くの被抑留者がこの悪条件の中で命を落とした。被抑留者の証言では、「良い奴ほど早く亡くなっていった」という。実際、今作の中で抑留されていた兄は、抑留の為あれだけ頑健であった体が衰弱して亡くなった、と同じ曹長であった戦友の証言にもある。彼は兄の遺品を届けてくれたわけだが、それは兄が彼に看取られて亡くなったからである。
而も、亡くなったハズの兄は、早くに親を亡くし、伯父叔母の下で育った妹を気に掛けて実体化して現れているのである。この者が、幽霊であるか否かは不明であるが、以前心肺停止で3日後に蘇生したこともある兄であってみれば、本当に生き返った兄である可能性も否定できない。妹の結婚話も絡めて、相手の男に、妹が娼婦をしているというデマを信じて結婚を躊躇ったのに、そうではないと分かって再度愛の告白をする態度を詰るのも、本当に愛するということは娼婦であろうが堅気であろうが関係ない、という強い愛の形を知り実践してきた者にしか言えぬ言葉である。妹が、一言も兄の悪口を言っていないことも兄の真の優しさを知っていたからであろう。
嫌われ者、乱暴者、厄介者という評価とは逆に、兄の真の優しさと大切な人を思う妹の気持ちを中心に、戦争という逃れ難い狂気の無惨が炙りだされてくる秀作である。
役者陣では、兄を演じた田口 大朔、妹役北 ひとみ、鍋島役 浅野 泰徳、伯父役 出村 貴そしてハッピー圏外の名物役者 後藤田 文蔵のインパクトと間の、妙味のある演技が気に入った。テンションを上げたり、日常的な空間に戻したりでは三角商店の平敷 慶吾、叔母役の谷村 実紀も良い脇を務めている。ラスト、兄評価の転換点となるまで秘密を明かさないシナリオ・演出もグー。
満足度★★★
更に磨きをかけて
最近、中心メンバーが来ないというシチュエイションの作品が多いような気がする。プリンシパルを持たず、目指す生き方も無く、中心性という概念そのものが既に崩壊してしまったという事実を象徴しているのかも知れない。
まあ、今作では其処までの深読みは必要ないかもしれないが、女の子の演ずべき建前を演じ続けている子、割合、素で居る子、建前にはちょっと距離を置いているが、かなり現実にはコミットしている子、アイドル経由で女優を目指す、やや優柔不断な子などが、各々本音では結構真面目に人生と向き合っている点に好感が持てる。