開演早々、怒声が響く中、この布を掻い潜って弟、幸太役が舞台全面に立ち上がって観客席の方に顔を向けるが、頗る寂しそうな目をしている。ポケットから鋏を取り出すと、キリトリセンに沿って布を切ってゆくが、現れた光景は男女の諍いの場面だ。 By the way,子供時代の記憶は曖昧だという話を良く聞く。然し、それは本当ではない。インパクトのある記憶は子供心に鮮烈に焼き付き、その魂を焼き、深い傷を負わせ、いつまでもじくじくと膿み爛れたまま癒されることなどないからだ。 今作は、こんな子供時代を経験した姉弟を中心にその父、母との絆を取り戻してゆく物語である。 状況設定が面白い。親の子に対する虐待の増加、逆に子が親に対して揮う暴力や親族殺人、強盗など凶悪犯の増加に手を焼いた行政は、新法:“親権免許”を立法化しようと計画、その為児童養護施設を用いてデータ収集などを開始した。児童虐待などで子供から引き離された親は、再度子供と家庭を構築し得るか? という非常に難しい問題を扱って説得的である。多くの破綻家庭で見受けることは、破綻家庭を為した一家の親家庭、そのまた親家庭もまた破綻家庭であることが多いということも、実際問題では見受けられることであり、問題は、今作で描かれたより更に深刻であるとの見解もあろう。然し、ハテの無い論議で終わらせることなく、この難題を今作は多くの人々が寄り添える形で提起しており、愛情という感情の広がりと深さと捉え難さに対して、規制が掛けられるのかという法的・倫理的問題、その際、愛する自由と規制の間で生じる様々な軋みをどう解消するのか、否できるのか? という大問題も含めて実に多様な問題提起をしている。 シナリオ、演出、演技も丁寧に作られているし、照明・音響等の使い方も効果的である。オープニングでは、ショパンの革命がアレンジされていて、幸太の寂しげな目と共に、一挙に作品に引き込まれてしまった。