ハンダラの観てきた!クチコミ一覧

2801-2820件 / 3249件中
殺意が死んだ夜

殺意が死んだ夜

ビビプロ

小劇場 楽園(東京都)

2013/05/29 (水) ~ 2013/06/23 (日)公演終了

満足度★★★★

単なるサスペンスでない
 最後のドンデンで一挙に深みを増した。人間一皮剥けば何を考えているか分からないという不気味さを最後に出したのは流石。 出だし役者の登場シーンが中々効果的だ。狭い出吐け口から出て来た役者達は、衣装掛けに引っ掛かった衣装を1つづつ取ってテーブルの周囲を回る。その時、衣装を互いに投げ合ったりもするのだが、スモークが焚かれる中、テンションの高い歩きぶりだけで緊張感を維持しているのは、役者達の力量の高さからだろうか。

ネタバレBOX

 一瞬の暗転後、舞台は、一組の男女に変わる。ここは、弁護士事務所だ。カップルは二男夫婦である。其々が、持って来た荷物を下ろすが、女の荷物は非常に多い。それを荷物の少ない夫が、助けてやっていないのも、若干、不自然な感じを抱かせる。妻は、夫の泊ったホテルに同宿していなかったということを示してもいるのだろう。何れにせよ、敢えて夫婦に距離を感じさせる出だしである。
兄弟5人は、亡くなった父の遺産相続に関する協議の為に、こうして弁護士 立会いの下、事務所で話し合いをする為に集まった。然し、問題は、少し複雑である。父の死亡原因が、事故、他殺の両面から洗われている点、また、遺産については、死後遺書が発見された点、その額などについてである。
 三々五々集まって来た兄弟は、それぞれ、独自の生活パターンを持ち、今では兄弟であるということ以外、共通点は殆ど無い。二男の妻が、三男の元恋女であったと言う点が、奇妙な関係ではある、が。
 協議開始に際し、五男だけが、大幅に遅刻して、欠席のまま、議事が進行してゆくが、遺産総額は、50億円。その総てを二男が相続することになっていた。
 サスペンスであるから、無論、情報は小出しである。従って、観客は、新たな情報が出てくる度に前提条件の変更乃至は判断の変更を迫られるので、観飽きることが無い。ちゃんと組み立てられたサスペンスの醍醐味である。
 最後の最後にどんでん返しが設えられているが、最後のドンデンで舞台がぐっと締まるようなドンデンだ。サスペンスファンには、既に既知のパターンかも知れないが、期待して良かろう。何れにせよ、作家は、最後のドンデンで、この作品を単なるサスペンスで終わらないものにしている。サスペンスの涯に見えてきたものは? 舞台を観て確かめて欲しい。
サロメ

サロメ

虹創旅団

阿佐ヶ谷アルシェ(東京都)

2013/06/20 (木) ~ 2013/06/23 (日)公演終了

満足度★★★

演技&演出
 シナリオは、ワイルドの原作をかなり忠実に訳す、という形をとっているので、多少エキセントリックな世界を描いている以上余り問題はないと思うが、男性に女性の役を演じさせたり、逆に女性に男性の役を演じさせたりした割には、演出家のそのように表現したかった必然性が表せるレベルの演技ではなかった。唯、男が、女を演じ、女が男を演じるに過ぎなかったからである。ワイルドの生きた時代に、性的マイノリティーであるということは、リンチを喰らって死ぬことすら覚悟せねばならないほどのことであったはずだし、現在もその問題を引き摺っているのであれば、男性は己の内にある男を殺す、女性もまた己の内にある女性を殺すことで滲む己の内側にある異性を表現して初めて、この物語の原点に立つことになるだろう。このような仕掛けを創った以上、それは目指されるべきであった。
 演者の多くが若いせいもあろうが、演技に溜めが無い。一所懸命になる余りに、劇場のサイズも考えずに声を張り上げるのも頂けない。役者たちも己自身の特性を良く知るべきである。これは、年齢には関係ない。生きる時に、何に注意をして生きているかである。電車の中で、メダカのように群れてばかりいては決して見えてこないものを知るべきである。表現する者として生きてゆくのであれば、生涯、孤独に探求を続ける覚悟はしなければならない。表現する者には、それしか生き残るすべは無いからだ。例え、恋人と一緒に時を過ごしていようとも、それは、同じことだ。我々にとって実存が本質的に孤独なものであるなら、恋人とともにいることは、孤独が一つから二つになったに過ぎまい。
 と、この程度のことは、自分自身で突き詰めて臨むべき舞台であろう。言っておくが、この程度のことは二十歳前後になれば、誰もが通過していて当然のレベルである。もし、本当にマイノリティーであるならば。
 これらの前提が全然、見えなかった。一所懸命なだけではいけない。

テレビが一番つまらなくなる日(2013年版)

テレビが一番つまらなくなる日(2013年版)

劇団 東京フェスティバル

駅前劇場(東京都)

2013/06/19 (水) ~ 2013/06/24 (月)公演終了

満足度★★★★★

ネット選挙解禁
 参院選が近い。ここ暫く地方(敢えて痴呆と書きたくなる)議会の立候補演説をしている候補を見る度、吐き気を覚える日々だったが、今回の舞台を観て選挙に行く気になった。シナリオの面白さもさることながら、役者陣のキャラも立ち、とても客演ばかりとは思えない。劇団員全員が濃密な空気を漂わせるような雰囲気こそないものの、各々の出演者が、役どころをキッチリ演じていて楽しめる。

ネタバレBOX

 TV局の選挙特番の舞台裏が、物語の展開する場所である。選挙当日、昼の出口調査では、当選枠5名のうち現職が3位までを占め、残る2議席は激戦となっている。この選挙区に大日本放送の元人気アナ、松尾が首相の肝入りで立候補した。彼女は、脳天気にトップ当選を自負していたが、「東スポしか読んだことが無い」と豪語する彼女に正確な票読みなどできる訳も無い。ところで、彼女の属していたTV局では、局の面子も掛かり、プロデューサー、ディレクターは躍起になって松尾の当選を目指す。当然のことながら、視聴率アップの至上命題にも応えなければならない。元人気アナの当選を独占配信すべく準備は万端であった。
 然し、本番迄2時間半の17時半、出口調査でトンデモナイ情報が飛び込んで来た。誰にもマークされていなかったダークホースがいきなり5位に踊り出たのである。4位は既にほぼ確定、議員歴40年のベテランで、松尾が5位との予測が完全に裏切られることになった。このダークホース、資料も殆ど無い、ネットカフェ難民出身ということは分かっているのだが。思い掛けない泡沫候補の躍進にTV局は上を下への大騒ぎ。顛末は舞台を観てのお愉しみだ。

そして、明日-いつわり-は箱の外へ

そして、明日-いつわり-は箱の外へ

劇団 暴君ハヤブサ’69

サブテレニアン(東京都)

2013/06/13 (木) ~ 2013/06/16 (日)公演終了

満足度★★★★

丁寧な作り
 Team真を拝見。全体としてとても丁寧に作っていることに好感を持った。物語は、死刑執行1時間前の死刑台へ通じる部屋。教戒師と死刑囚が、執行前の最後のひと時を過ごしている。だが、この死刑囚は、ちょっと変わっていた。

ネタバレBOX

 自分に関わりのあること、名前や生年月日、自らの人間関係などに関する記憶を失くしていたのである。無論、自分の罪についても知らなかった。在る朝、そのことに気が付いた彼は監守に、この事を訴え、精神科医の診断を受けることになる。何人かの医師が、彼の症状を診断するが、一人を除いて記憶喪失だという診断は下さなかった。その結果、最高裁の判断は死刑を執行で確定した。
 研修医が診てさえ明らかな記憶喪失を殆どの医師が、否定したのは面倒なことに関わりたくない一心からであった。詰り、放っておけば、死刑になる。死人に口無しで誰からも咎められる気遣いはない。一方、もし、自分より業界上位の人物と異なる判断を出して誤診ということにでもなったら。多寡が死刑囚の為にリスクは負いたくない、という保身である。だが、それは正しいのか? と一人正しい判断をした医師は問うのだ。そもそも、医師の仕事とは、人の命を救うこと、はっきり記憶喪失の症状が出ているのにそれを指摘しないことは、医師として、人間としての人倫に悖る。彼は、精神科医師として、若干の躊躇はあったものの、普遍的解を選ぶ。それは、彼の亡くなった彼女が夢に立ち、「自らの信ずる所に従え、私がついている」と応援してくれたからであった。医師の迷いの原因とは、記憶喪失の患者、殺人犯は、この医師の彼女を殺していたことにあった。
 物語は、このように密接に絡みあいながら、徐々に犯人の記憶を呼び覚まして行き、終に完全にその覆いを解く。最後に犯人は己の罪を自覚し、心から犠牲者に詫びて罪を背負って死刑台へ進む。
 この間、教戒師は、登場時の蓮っ葉な様子から、死刑囚との心理的対決を含む支えになるなかで真に真面目に人として死刑囚に向き合う。殺人犯を演じた松田 勇也のどこかおどおどしつつ緊張したような、死刑囚の不安の表現と共に、教戒師のドラスティックな変化を演じた小綿 久美子の演技、その演出も気に入った。同時に、一人、自分より権威のある医者達に逆らい、また、彼女を殺された痛みに耐えて前に進んだ医師を演じた牛居 朋広の若きヒポクラテスぶりも良い。更に、彼女役を演じた那智月 まやが、普通の女の子らしさを自然に出して、この特異な情況に安定感を齎している。出演した役者其々が、ちゃんとキャラを立て、己の仕事を果たしたバランスの良い舞台であった。演出のバランス感覚を褒めておきたい。
パラノイアショー op.136

パラノイアショー op.136

hi-pine company

吉祥寺シアター(東京都)

2013/06/14 (金) ~ 2013/06/16 (日)公演終了

満足度★★★

これでパラノイア? 
 おこがましい。陳腐で徹底するならそれはそれで、面白いのだが、勉強していないことが明かな独りよがりで、大仰な観念を並べられてもシラケルばかりだ。面白く感じた所は、意識的に創られた部分ではなく単にハプニングが、偶然に齎した結果であろう。
 太い幹での作業が全然、行われていないことが明らかで、それを小手先で誤魔化している。それが、見抜けない観客ばかりだと思っているとしたら、哀れである。

消失

消失

もじゃもじゃ頭とへらへら眼鏡

相鉄本多劇場(神奈川県)

2013/06/13 (木) ~ 2013/06/16 (日)公演終了

満足度★★★★

愚かな我々に贈られたエチュード
 我々、科学技術の恩恵を受けながら、日々、愚行を繰り返すヒトという生き物の漠然と感じている終末的不安を顕した作品。

ネタバレBOX

  舞台は、最終戦争勃発後、かつて未来を夢見たヒトが移住用に打ち上げた人工の月が空に掛かる世界。第一陣の移住者たちは、既に移住を終えていたが、その後の状況の激変で、彼らへの支援や、後発移住者の入植も行われず、今では、死に絶えていると思われる月だ。
 そんな2つの月を眺めながら、中年の兄弟が暮らしている。二人とも未婚だが、弟は、結構もてて、兄が、大好きである。ところで、最近、弟は、スワンレイクという3つ年下の元教師にぞっこんである。初めは、相手にしなかった彼女だったが、訪れた兄弟の物置きに、彼女へのプレゼントの証を見付け、心を動かされる。話をしてみると話題も合い、二人は急速に近付いて行くが、弟は時々、頭痛を訴え、調子を崩す。すると、兄の友人、ドーネンがやってきて治療をしてくれるのだった。但し、ドーネンも、最近、物忘れが酷くとんでもないミスをやらかす。
 他方、兄弟の家の2階に間借りをしたい、という女性、エミリアが現れた。彼女の夫は、第一次移住者、彼女も追って行くはずであったが、最終戦の結果、シャトルが飛ぶことは無かったのである。結果、夫は、亡くなっていると考えられるが、その具体的手続きはできないまま、宙吊りである。
 ところで、この家の電気やガス、水道などは、何が狂ったか頓珍漢な状態である。水は時に苦く、時に濁る。水道から歯が流れ出たことさえあった。ガスのスイッチを捻ると水道が出る。といった具合なのだ。そこで、ガス屋に修理を頼むが、出張して来た人物は、実は、探偵だとエミリアに明かし、彼女に協力を求める。
 探偵がやってくるのは、弟のつきあって来た女性の失踪に絡んでの事だと思われた。謎を明かしてゆくのは、実は、知り合いであったエミリアとスワンレイクである。エミリアの夫は、スワンレイクの同級生で、彼女に目を潰されていた。エミリアは、結婚後、夫からスワンレイクを紹介されていたのである。そのスワンレイクは、弟からアルバムを見せて貰うが、そのアルバムの1枚1枚の写真について細かい説明をしてくれる弟の写真は1枚も無いのであった。他方、彼女は、失踪している、前の弟の彼女に家を訪ね、母と会い、前の彼女と弟が一緒に映っている多くの写真を見ていた。彼女は、この事実のギャップに不信感を抱く。
 その後の情景では、買い物に出掛けた女性達の留守中に弟のケアをしている、兄とドーネンの姿が描かれる。
 最終に至るシーンで、兄と弟、ドーネンの関係、失踪事件の顛末、スワンレイクと弟、探偵、実は、管理局員、等々の実相が明かされてゆく。が、上演中なので、ここは明かさない。ちょっと面白い仕掛けがある。
リスボン@ペソア

リスボン@ペソア

重力/Note

BankART Studio NYK(神奈川県)

2013/06/13 (木) ~ 2013/06/16 (日)公演終了

満足度★★★★

特異性を良く表現
 序盤で、種子島への鉄砲伝来以来、日本人には余り馴染みの無いポルトガルについての説明が為されるが、この辺りは親切な導入と言えよう。

ネタバレBOX

 日本では、Pessoa自身を知る人も多くあるまい。かく言う自分も初めて知った。存在の中枢を降りてゆくことによって、彼は、その中心に空虚のあることを悟ったのではないか、と感じる。その意味でハイデガーに近いのではないか、と。生没年を調べてみると、ぺソアの方が、1年早く生まれている。但し、没年は、ハイデガーの1976年に対して、ペソアは1935年である。
 一方、ハイデガーの生まれたドイツは第一次世界大戦に敗れ1918年には、大変な精神的危機に陥っていた。その深刻さは1945年を凌ぐと言われる。
 他方、ペソアの生まれたポルトガルは、大航海時代の先鞭をつけておきながら、対スペイン戦争で敗れて以来、その栄華は、地に落ち、リスボンでの大地震の影響もあって、国力の衰えは、誰の目にも明らかであった、と同時に栄華を極めるスペインに対する劣等感は、並大抵のものではない。それが、現在迄続いているのが、ポルトガルという国である。
 これらの社会的条件が、ペソア及びハイデガーの持つ精神的傾向に類似を齎していると感じられるのかも知れぬ。何れにせよ、存在をひっかきながら滑り落ちてゆくような、体験を二人とも持っていたような気がしてならないのだ。哲学者、ハイデガーが現象学的実存主義に立ったのに対し、ペソアが、多重人格とも言えそうな<異名>を多数持ったということが、逆に存在の中心への地獄下り決行の例証になるのではないか、と思われる。少なくとも、存在論の中心に居座るのは、紛れもない影、乃至は、空虚であろう。何故なら、問いを発する主体は、点に過ぎず、問われる主体は、せいぜいが関係に過ぎないからである。存在の実体は其処に無いことを存在論という言語的営為が証明してしまうのだ。一方、存在とは、ア・プリオリな実体そのものであろう。その意味ではヘーゲルの認識の方が、正しい。取りとめのないことを書いてしまった。然し、このような存在論的アプローチをしてみたくなるような、妙に懐かしい、そして地獄下りの陰影を帯びた、冥界の風景とでも言えるような不思議な世界であり、その寂しさである。
 その雰囲気を、ポリフォニックな発声や、意図的な吃音、シュールレアリスティックな感興で演じてみせた。また、工場などで用いられる運搬用パレットを壁面、天井などに張り付け、丸く作られた演技空間の音の響きなども実に面白い工夫で、ペソアの特異性を表現するのに役立っていた。演出、演技、特徴的な衣装なども面白い。また、床に所狭しと撒き散らされた紙が、ペソアの創造した<異名>そのものででもあるかのような効果を齎してもいる。
劇作家女子会!

劇作家女子会!

劇作家女子会×時間堂presents

王子小劇場(東京都)

2013/06/13 (木) ~ 2013/06/16 (日)公演終了

満足度★★★★

作家たち
 女子会ということで、矢張り恋に絡む作品のオンパレードになったが、構成は休憩を挟まぬ2部構成で、比較的長い作品になった「彼女たち」の後半を2部に振り、他の作品をサンドイッチ形式に挟むオムニバスである。作家は4人、無論、総て女史である。個々の作品については観る者の好みもあろうし一概にあれこれいうことはできないのだが、作家各々の観点、立ち位置、採用している手法によって作品のテイストには大きな違いが出ている。其々の作家の持ち味を見比べてみるにも良い企画である。フォワイエ部分に当たるのだろうか? では、日替わりのオリジナルドリンクを用意したカフェが開かれたり、観客席上部には、シャンデリアが下がっていたりで、渋谷辺りのおしゃれカフェをイメージした作りになっているのだそうだ。

ネタバレBOX

 自分は大人たちの顰蹙を買いながら渋カジの源流を作った世代の一人だと自負しているが、今の渋谷は好みでは無い。だが、ミーハーは本来、非常に知的好奇心に溢れ、否定的言辞の下に見られるべきではないと思っている。但し、現在、電車内で聞くティーンの会話の余りに幼いことには、危機感を覚えるのも事実である。話題が、狭いのだ。そして自分達に本当に関わりのある大切な問題については語られていない。そんな世の中、そんな世の中の計り方が、常態である。そして、電車内話者達の常識なのであろう。
 だが、4人の作家に共通していることは、これらの時流に対する違和感なのではないだろうか? それ故にこそ、彼女達は、表現する者なのだと思うのだ。創造は、苦しい、孤独な作業である。だが、「常識」とのギャップを得心できる迄突き詰める為に、自らの存在を納得する縁に書き、こうして、表舞台に迄立ったのだ。そんな、彼女達にエールを送りたい。
みよかなPOISON

みよかなPOISON

lovepunk

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2013/06/12 (水) ~ 2013/06/16 (日)公演終了

満足度★★★★

視座
 悪、犯罪と言われるものが、単に己を裸にした者達の欲求の発露に過ぎないという側面を描いた所が、面白い。

ネタバレBOX

 知的職業の代表として、女流作家を中心に据え、取材先を犯罪者ばかりを雇っているスナックを場の中心に据えたシナリオも成功している。また、女性達が、犯罪を犯すに至った経緯が開演直後に示され、そのどれもが、情状酌量の余地のあるものであるばかりか、力社会に置かれた体力的に劣る者の状態を顕して巧みである。
 一方、店に入ったはずの者が、頻繁に行方不明になっていること、その一例がアケミであること、そしてアケミはママに嫌われたらしいことが匂わされる。その後の遺体処理についても。
 力即ち正義であるような社会が変えられないと悟った時、精神的に一段駒を進めたヒトが選択する究極の形とは、邪魔者は躊躇せず殺すことである。他に選択肢は無い。くどいようだが、彼(女)らは、既に力即ち正義と見定めた者達である。そうである以上、敵対し得る者は消す。これが、唯一の正解である。寧ろ、犯罪なのは、遺体を始末することである。力即ち正義であることを世界が認めている以上、殺人は犯罪ではあるまい。勝った方が、正義なのだから。問題は、その正義を押し通さないことにあるのだ。だが、この論理は、劇中彼女らが、国家権力という強者の権威機構である司法故に犯罪を成立させられるに至った、また犯罪者とされた論理をも正当化してしまう。その限りに於いて、彼女らが、この論理の最上位に居ないことの矛盾を内包している。今更、毛沢東やスターリン、ヒトラー、チャウシェスク、テロ国家アメリカの歴代大統領及びイスラエルの歴代首相らの名を挙げるまでもあるまい。彼らは、最上位に居る間、その罪を誰からも正式には訴追されないし、されなかった。
 彼女たちの矛盾をアウフヘーベンする可能性を秘めた者が、最後に血祭りにあげられる。科白上は、自由はシンドイというような意味だったと思うが、実際には、現実に足をつけたままでのらりくらりと身をかわす方法を選んだに過ぎないという立ち位置を否定される恐れがあったからである。
 一方、奴隷的屈辱に甘んじながらも、その内側で身を処す手段として、霊視・まじないがヨミの技術であり、その技を行う際には、必ず大地と一体化する為に裸足になっているなど、細かい所まで配慮した作りになっていることにも注意しておきたい。このような視点があって初めて、この作品は、陰惨そのものではない所に留まっているのだ。

 (追記6月18日)
 
65歳からの風営法

65歳からの風営法

笑の内閣

星陵会館 ホール(東京都)

2013/06/12 (水) ~ 2013/06/12 (水)公演終了

満足度★★★★

シナリオや良し
 論理に笑いをまぶして鋭さを露骨に出さないシナリオの書き方が賢い。また、ギャグのセンスが基本的に関西のそれを踏襲しながらもちょっと突き抜けているのが、この劇団の面白さだ。とはいえ、今後、演劇で身を立ててゆくのであれば、宿題もたくさんある。
 第1に科白を身体化し切れていない役者が多い、と言うことである。同じシナリオを、別キャストで演らせてみれば、良く分かろう。例えば、亡くなった益田 喜頓さんのような方を店長に持ってくるとか、あぐり役に大竹 しのぶさんか秋吉 久美子さんタイプを配するとか。今更、言う迄もないことなのだが、演劇は総合芸術である。とても微妙なものなのだ。シナリオ、キャスティング、役者の演技、音響、舞台美術、照明、小道具、演出等々の関係に、観客の反応が加わる。そういう総合芸術なのである。だから、主宰者は、トークゲストにも、演劇関係者を含めることが望ましい。既に19次ということで、一定のファンを獲得し、評価もされているわけではあるし、まあ、本当に演劇で身を立ててゆくつもりであればのことだが。
 公演形態を詳しく調べていないので、詳細は、分からないが、今回のリーフレットを見る限り、客演も多かったようだ。そして、今回、自分が気に入った役者は、あぐり役の小林 まゆみ、宗国役の髭だるマン、弁護士役の廣瀬 愛子。警部補役の由良 真介は、客演の役者達に、華を持たせた、という所か。あぐりのお兄ちゃん役、田中 浩之は、一番難しい役どころだが、喜劇なので、もう少し、オーバーな表現を混ぜたり、間の取り方で笑わせる、ということを磨けば、更に良くなるように思う。マスクも良いし、2枚目もこなせよう。

IRIS・・・黎明の鳥

IRIS・・・黎明の鳥

DANCETERIA-ANNEX

あかいくつ劇場(神奈川県)

2013/06/11 (火) ~ 2013/06/12 (水)公演終了

満足度★★★★

歌とシナリオは良い
 主役の歌は上手いし、シナリオも勘所を押さえた詩的且つ悲劇的で感動を誘うものであったが、観客のマナーが悪すぎる。携帯だのアイフォンだののデジタル機器で半分以上の観客がのべつまくなしに盗撮、盗聴をしていて、折角の舞台が興ざめであった。舞台人が気の毒でならない。生のピアノの腕も良かっただけに、非常に残念! 慙愧に堪えない。 観客のマナーが悪過ぎて興ざめしたので、評価は舞台上の評価をワンランク下げざるを得なかった。

くりそつ人間論

くりそつ人間論

どらまちっくシティプロジェクト

こった創作空間(東京都)

2013/06/07 (金) ~ 2013/06/09 (日)公演終了

満足度★★★★★

クローン
 時代のテーマを重過ぎない形で提示していると同時に、内容について良く勉強している。シナリオで展開される論理も中々のもの。演出面でも役者のキャラクターをエッジの立ったものにしたことで、劇的効果を高めている。役者陣の演技も各々を仕事をきちんと果たして良いレベルだ。

ネタバレBOX

 先進国の間でクローン技術開発競争が熾烈を極める中、我が国に於いてもヒトクローンの技術開発は秘密裏に行われていたが、出来上がったクローンの中には脱走するものも現れた。某年某月3度目の脱走に成功したクローンは、その規模に於いても、また、♂型、♀型というタイプ別に於いても最大規模のものであった。またインターネットの普及率が高まったせいで、情報は簡単に共有されるようになり、情報リンク、また関係部署への責任追及についても、そのような機関へのアクセス容易性についても格段の進歩を遂げていた。そのような状況下にあってのマスコミリークが発端となって、3度目のクローン脱走については、隠蔽体質の政府も流石に隠蔽し切れなくなった。因みに、1度目のクローン脱走は5年前、♂型クローン「1人」は、未だ潜伏中である。2度目の脱出でも♀型クローン1体が、未確認である。
 物語は政府から委託されて、クローン技術を研究するラボで進展するが、表向きは美容や健康に寄与する為にクローン技術を研究することになっている。然し、実態は、無論、軍事を含めた、人の嫌がる仕事への代替が基本である。その結果、差別は必然となった。
 ところで、クローンが脱走したことが、何でそんなに重大問題なのか、ということだが、遺伝子の転写の際、どうやら攻撃衝動を抑える機能が働かなくなっているようなのである。それで、かっとすると、躊躇なく相手を殺してしまうのだ。研究所の専任スタッフは、無論、このことを知っている。
 3回目の脱走騒ぎの折も折、自分はクローンだと名乗る♂から電話が入った。ラボサイドでは、当初パラノイアからの電話だろう、と高を括っていたのだが、電話口で語られる内容は、素人の域を超えていると同時に整合的でもある。結果、合理的に相手の要求を断ることはできないと判断したラボサイドでは、できの良い秘書に対応を任せた。秘書は、来初した♂に会って一通り話を終えた。その結果、例え客がパラノイアであるにしても、相手の話は、とても高度で、実際に起きた逃走事件とも符合していることから、客が人間なのか、クローンなのか確証を得たいと考える。だが、客もDNAを採取されることを恐れ、手袋をしたまま決して取ろうとしない。而も、勧められた茶も警戒して飲まない。最初、お茶を出したのは、臨時雇いの元倶楽部ホステスなのだが、彼女の色気攻撃にも客はひるまず、茶を飲むことは無かった。元ホステスも依怙地になって何とかじゃんけん勝負に持ち込み、漸く1勝を挙げて、頬にキスをさせ、そのままラボに戻ってくるが、DNAを取り出すには至らなかった。
 そこへ、掃除の臨時雇いが入って行く。客が茶を飲んで居ないのを見て、「折角、人が茶を淹れてくれたのに飲まないのは、相手の心を無視することだ」と諭し、冷たい茶を飲ませることに成功した。試料は直ぐに国立研究所で解析されることになった。だが、結果が出るまでには時間が掛かる。客は居座っている。而も客が、クローンである場合、攻撃本能が抑制されないので、躊躇なく破戒行動を実行してしまう。
 彼の要求は「所長に会わせろ」である。いつまでも会わせなければ、本当に客がクローンの場合には、リスクを覚悟しなければならない。彼の妻が、連絡をよこしていたのだが、到着までには、20分ばかりある。終に所長は腹を決めて客に会うことにしたが、客は「クローン産生を中止せよ」と要求する。所長が、あれやこれや、話をずらして逃れようとするが、客の論法鋭く、変形ロシアンルーレットをやる羽目になってしまう。最後の2回になった時、銃弾を発射したのは、秘書であった。客は、倒れる。然し、傷はかすり傷で済み命に別条はない。サイレンが聞こえる。秘書が自殺した。彼女が、このラボに来たのが、3年前であった。彼女はクローンであったのだ。而も、凶暴性を抑えることのできる。
駄菓子屋ケンちゃん

駄菓子屋ケンちゃん

もざいく人間

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2013/06/05 (水) ~ 2013/06/09 (日)公演終了

満足度★★★★

信じられそう
 駄洒落やベタなギャグで始まった作品、中ごろまで、こんな展開で、観に来て失敗だtったかな、と思い始めた頃、地域アイドルだった美咲のAV女優への転向顛末とシリアスな部分が入ってきてグッと締め、地域英雄だったケンちゃんの偶像破壊で、バランスを取る、と同時に、有為転変の人生の実相を介入させて、物語に苦さを加える辺り、中々どうして手練れの手腕と言わなければなるまい。脚本作家の温かさもさることながら、同一人物が演出をして、このように構成している演出も褒められてしかるべきだろう。温かい作品である。役者陣の演技にも好感を持った。

すだま

すだま

エムズクルー

「劇」小劇場(東京都)

2013/06/05 (水) ~ 2013/06/09 (日)公演終了

満足度★★★★

男のけじめ 女のけじめ
 3.11、3.12を背景にした、そういう話である。

ネタバレBOX

 3.11、3.12以降、TV画面を食い入るように見つめていた彼は、突然消えた。書き置きがあった。“ありがとう”“ごめん”と書かれていた。一緒に暮らしていたのに28歳になる彼女は派遣の仕事を掛け持ちしつつ、彼の故郷、家族構成などについては何一つ知らないのであった。ただ、“置いてけぼり”にされたことで、心に空いた穴と不如意とを消すことができず、日毎、その傷を新たにしてゆく。
 つくづく男と女はけじめのつけ方が異なると感じる。女は、具体的に相手の心に自分が住んでいない、とか、空白を感じ続けると、その深く狭い愛の形を維持できなくなって別れの方向へ向かうようだ。
 男は、なんとか事態を立て直そうとあがく。そして、その為に情況に飛び込んでゆくが、言い訳は無論言わない。だってどうなるか分からないのに責任を負ってやれないではないか? と考えるのである。女は、それを曲解する。殊に情況が情況である。3.11については、それだけなら甚大な被害もなんとか修復できるが、(亡くなった方々は無論戻らないが、時がそれでも少しずつは、傷を癒してくれよう)3.12という人災については、馬鹿どもと嘘つきは相変わらず強大な権力を握って更に悪辣で恥知らずな行為を実践しているし、放射性核種の被害は、未来永劫と言っていいほど続くのであるから、救いようのあるはずはないのである。この状況で、互いに寄り添うべき時に、男と女の多くが、却って離れてゆくのであろう。その、事実をある意味淡々と描いている所にこの作品の重さがあろう。(追記6.25)
アルテノのパン

アルテノのパン

ジェットラグ

赤坂RED/THEATER(東京都)

2013/06/05 (水) ~ 2013/06/10 (月)公演終了

満足度★★★

凡庸
 絵画オークションを巡る、バイヤーの利潤率アップ作戦顛末。主張としては、アーティストの精神論を資本の論理にぶつけた作品。そこに恋愛、後継者問題などを絡めた。
 然し、大仰な演技をする役者が何人も居て、わざとらしさが鼻につく。中で気に入ったのは、トト役の抑えた演技、女優ではオーロラ役が、育ちの良いお譲さんを自然に演じた。
 舞台美術はまずまず上手なでき、シナリオには工夫が無い。19世紀的なアーティストVS資本という対立をそのまま持ってきているのは芸が無い。演出も、もう少しキチンとダメダシをすべきだろう。

どらっぐ・ど・東京

どらっぐ・ど・東京

82-party

シアターKASSAI【閉館】(東京都)

2013/06/06 (木) ~ 2013/06/09 (日)公演終了

満足度★★★★

痛み
 薬をやった状態で愛される、或いは、人に好かれることとビジネスで成功して、傲慢になり誰からも愛されないことと、そのどちらをも己一人で体験した男の話。斉藤役を演じた役者の演技が光る。

ネタバレBOX

 斉藤の地所と持ちビルには、行き場の無いアーティスト、娼婦らが屯して暮らしてきたが、近隣の再開発計画でひと儲けを企む斉藤と不動産ディベロッパーらは、屯する連中の切り崩し、追いだしにあの手この手を使うが、行き所の無い現住者達は、中々出て行こうとしない。一方、斉藤に研究費援助を頼みに来た薬学研究者は、精神や肉体にダメージを与えず、快感だけを齎すドラッグを開発していた。一応の完成はみたものの、臨床が済んでいない。そこで、研究室を訪れた斉藤の珈琲に完成したばかりのドラッグを混入して臨床試験を始める。珈琲を飲み終えた斉藤は、やがて体温の急激な上昇と喉の渇き、悪寒を訴える。肉体的苦痛も伴ったもので、首には大きな瘤ができ、足も片足は萎えたようになってしまう。動作、反応の鈍化も認められる。斉藤は、そんな状態で街に出るが、偶々、馴染みの娼婦と会っていたディベロッパーに水をせがんだ為、暴行を受けてしまう。それを止めたのが、立ちのきを迫られていた住民であった。中でも、斉藤の手首の痣にハンカチを巻いてくれたとも子の優しさに、生まれて初めて斉藤は、人の心の温かさを見る。
 薬の効果が切れた後、斉藤は元の姿に戻ったが、とも子のことが忘れられず、終に、愛を告げる。然し、やり方が、傲慢でとも子からは相手にもされないどころか、完全に肘鉄を食わされてしまう。思い余った斉藤は、再度、研究者から薬を入手、服用して、とも子に会いに行くが、会って間もなく、薬剤による発作を起こし、事務所に逃げかえってしまう。だが、どうしてもとも子の温かさが忘れられず、使いをやって、最後に残っていた薬を入手、一度に総てを飲んで、とも子に会いに行くが、オーバードーズで死を迎える。
キャンベラに哭く

キャンベラに哭く

桃尻犬

王子小劇場(東京都)

2013/06/05 (水) ~ 2013/06/09 (日)公演終了

満足度★★★

シナリオ
 芝居には様々な要素があるが、最も大切な物に脚本があるのは今更言うまでも無い。今作の脚本の弱さは、小さな地方集落の濃密な空気や厭らしい人間関係の煩わしさが、伝わってこず、本来、その空気と対比されるハズだった諸外国の本質も伝わってこない点にある。人気TV番組の真似が何度も出てくるのだが、舞台関係者がTVを真似てどうするつもりだろう? ギャグセンスもこのレベルでは、地方の持つ閉塞感も描けない。結果、苛めの果ての殺人事件や、その後、閉鎖的社会内部での精神的葛藤や鳥への憧れに、リアリティーや裏打ちする強度が無いのだ。せめて演出が作家と別であったら、こういった不備を指摘出来たのかも知れないが。更に、異文化の捉え方も、通り一遍の机上の論理を述べるに留まり、異質な物との葛藤やその先の深い理解が無い為に、身体化されておらず、単に知のツールに堕している。
 以上のようなことが重なった結果、役者が役作りをするに当たっても苦労しただろうと考える。

うさぎストライプも演劇展 『おやすみおかえり』

うさぎストライプも演劇展 『おやすみおかえり』

うさぎストライプ

こまばアゴラ劇場(東京都)

2013/06/05 (水) ~ 2013/06/11 (火)公演終了

満足度★★★★

うろ覚え ?
 3.12人災を普通の人々が、懸命に受け止めてゆく姿を淡々と描く。女子の感性の透明度を上げたような作りになっているので、詩的な味わいの舞台だ。”桜の園”は言うまでも無く、ブルジョワ勃興期の没落階級の話だから経済が背景だが、この作品の背景は制御できない科学技術による人災が背景なので、わざと”うろ覚え”としているのだろうが、内容は、深刻である。そして、各家族に起こっている不幸の原因に影を落としているのが、3.12人災かやその複合的結果であることすら、感じさせるのだ。ラストシーンも見逃せない。

ビョードロ 終演いたしました!総動員2097人!どうもありがとうございました!

ビョードロ 終演いたしました!総動員2097人!どうもありがとうございました!

おぼんろ

d-倉庫(東京都)

2013/05/29 (水) ~ 2013/06/16 (日)公演終了

満足度★★★★

分かり易過ぎる
 物語がどのように展開するか、その粗筋などは、既に書かれているから、基本的には、言及しない。唯、細菌兵器そのものである、クグルが、上機嫌と名付けられていることに関して、誰もアイロニーを指摘していないようなので、この点は注意を喚起しておく。
 作家、関係者の何人かには、口頭で既に伝えてあるし、創作の秘密に関わることでもあるので、ネット上で、創作テクニックを今、明らかにしようとは思わないが、もう一段のランクアップを、次回に望む。
 で、今回のシナリオを活かしつつ、劇的効果を更に高める為には、矢張り曖昧化が必要だろう。余り、理屈でも感覚でも先読みできてしまうものには、ヒトは深みを感じないものだ。具体的方法は、先にも書いた通り関係者には話してある。職業上の秘密として後は、今後の彼らの作品を観て感じ、考えて欲しい。

 (追記6.19)
 

帰還

帰還

燐光群

ザ・スズナリ(東京都)

2013/05/31 (金) ~ 2013/06/09 (日)公演終了

満足度★★★★★

観るべし
 坂手演劇の特徴の一つに、その劇空間を通常あり得ない出会いの場として構築してゆく、ということがあろう。今回もその手法は健在である。メインストリームとしては川辺川ダム建設問題をモデルとし乍ら、GHQによる農地改革と積み残し、六全協以前の日本共産党の活動及び挫折を経た組織の自己批判や路線変更。組織とタイムラグのある、地下に潜った活動家及び家族の実態、支援者と活動家などの諸関係を通じ、組織的論理の援用で民衆を評価した活動家は、支援者に対する倫理的裏切り行為を為したのではないかなど、深く本質的な問題が、鏤められている。と同時に、第二次大戦敗戦以降、完全に実質宗主国となったアメリカと被植民国家、日本の間にある歪んだ関係等々が、緻密で重層化した織物として編まれている。

ネタバレBOX

 この作品の優れている点は、以上に挙げただけでも非常に本質的で、未解決な問題を提起している点ばかりではない。坂手自身述べているように、これらの事象を歴史上無かった形で再結合し提示して見せている点である。“五木の子守唄”で知られるこの界隈、川辺川ダム建設(これについては多くの報道、書物などがあるのでご存じの方も多かろう)の推進派、反対派の二項対立という単純なレベルに物語を収束させず、農地改革の矛盾や、その本質としての、農地の世襲問題、言い換えれば、長子相続の伝統にあぶれた二男、三男などの農家の子供達と時代の産業との密接な関係を炙り出しているのだ。これと軌を一にして“五木の子守唄”を挿入し、その意味する所を語らせることによって、地主三十三人衆と小作人との関係をさりげなく示してもいる。五木村に関して言えば、鎌倉時代に迄遡ることができるし、江戸時代の無宿人狩りなど時代劇にも良く出てくるテーマは、農家の二男、三男など長子以外のなれの果てであることを思い起こすならば、時代、時代で彼らが社会参加した形まで射程に含めることのできる想像力の核を埋め込んでいる。言う迄もないが、今でもその流れは続いている。サラリーマンにせよ、工場労働者にせよ、或いは他の勤め人にせよ、多くの労働者は、農村からあぶれた者であることは、言うを待たないのだから。
 一方、物語としては、ダム建設に反対の立場を村民に執らせた本人は、「平」とされており、五木村創設の為に鎌倉幕府が送り込んだ三十三人衆の敵、平氏一門の末裔を想像させるであろう。そして、民俗学で言われる稀人との関連も直ぐに見えてくるはずである。その彼が、共産党の地下活動家として描かれている点も、注目して良いかも知れぬ。何となれば、この「国」に於いて真に革命的な者は、土にしかその活動領域を見出せないからである。平は、村に滞在した2年の間に山間の農業を振興させ、農作物を育てる為の水を村民リーダー達と共に確保する。
(追記後送)

このページのQRコードです。

拡大