帰還 公演情報 燐光群「帰還」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    観るべし
     坂手演劇の特徴の一つに、その劇空間を通常あり得ない出会いの場として構築してゆく、ということがあろう。今回もその手法は健在である。メインストリームとしては川辺川ダム建設問題をモデルとし乍ら、GHQによる農地改革と積み残し、六全協以前の日本共産党の活動及び挫折を経た組織の自己批判や路線変更。組織とタイムラグのある、地下に潜った活動家及び家族の実態、支援者と活動家などの諸関係を通じ、組織的論理の援用で民衆を評価した活動家は、支援者に対する倫理的裏切り行為を為したのではないかなど、深く本質的な問題が、鏤められている。と同時に、第二次大戦敗戦以降、完全に実質宗主国となったアメリカと被植民国家、日本の間にある歪んだ関係等々が、緻密で重層化した織物として編まれている。

    ネタバレBOX

     この作品の優れている点は、以上に挙げただけでも非常に本質的で、未解決な問題を提起している点ばかりではない。坂手自身述べているように、これらの事象を歴史上無かった形で再結合し提示して見せている点である。“五木の子守唄”で知られるこの界隈、川辺川ダム建設(これについては多くの報道、書物などがあるのでご存じの方も多かろう)の推進派、反対派の二項対立という単純なレベルに物語を収束させず、農地改革の矛盾や、その本質としての、農地の世襲問題、言い換えれば、長子相続の伝統にあぶれた二男、三男などの農家の子供達と時代の産業との密接な関係を炙り出しているのだ。これと軌を一にして“五木の子守唄”を挿入し、その意味する所を語らせることによって、地主三十三人衆と小作人との関係をさりげなく示してもいる。五木村に関して言えば、鎌倉時代に迄遡ることができるし、江戸時代の無宿人狩りなど時代劇にも良く出てくるテーマは、農家の二男、三男など長子以外のなれの果てであることを思い起こすならば、時代、時代で彼らが社会参加した形まで射程に含めることのできる想像力の核を埋め込んでいる。言う迄もないが、今でもその流れは続いている。サラリーマンにせよ、工場労働者にせよ、或いは他の勤め人にせよ、多くの労働者は、農村からあぶれた者であることは、言うを待たないのだから。
     一方、物語としては、ダム建設に反対の立場を村民に執らせた本人は、「平」とされており、五木村創設の為に鎌倉幕府が送り込んだ三十三人衆の敵、平氏一門の末裔を想像させるであろう。そして、民俗学で言われる稀人との関連も直ぐに見えてくるはずである。その彼が、共産党の地下活動家として描かれている点も、注目して良いかも知れぬ。何となれば、この「国」に於いて真に革命的な者は、土にしかその活動領域を見出せないからである。平は、村に滞在した2年の間に山間の農業を振興させ、農作物を育てる為の水を村民リーダー達と共に確保する。
    (追記後送)

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    2013/06/05 04:57

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