満足度★★★
演技&演出
シナリオは、ワイルドの原作をかなり忠実に訳す、という形をとっているので、多少エキセントリックな世界を描いている以上余り問題はないと思うが、男性に女性の役を演じさせたり、逆に女性に男性の役を演じさせたりした割には、演出家のそのように表現したかった必然性が表せるレベルの演技ではなかった。唯、男が、女を演じ、女が男を演じるに過ぎなかったからである。ワイルドの生きた時代に、性的マイノリティーであるということは、リンチを喰らって死ぬことすら覚悟せねばならないほどのことであったはずだし、現在もその問題を引き摺っているのであれば、男性は己の内にある男を殺す、女性もまた己の内にある女性を殺すことで滲む己の内側にある異性を表現して初めて、この物語の原点に立つことになるだろう。このような仕掛けを創った以上、それは目指されるべきであった。
演者の多くが若いせいもあろうが、演技に溜めが無い。一所懸命になる余りに、劇場のサイズも考えずに声を張り上げるのも頂けない。役者たちも己自身の特性を良く知るべきである。これは、年齢には関係ない。生きる時に、何に注意をして生きているかである。電車の中で、メダカのように群れてばかりいては決して見えてこないものを知るべきである。表現する者として生きてゆくのであれば、生涯、孤独に探求を続ける覚悟はしなければならない。表現する者には、それしか生き残るすべは無いからだ。例え、恋人と一緒に時を過ごしていようとも、それは、同じことだ。我々にとって実存が本質的に孤独なものであるなら、恋人とともにいることは、孤独が一つから二つになったに過ぎまい。
と、この程度のことは、自分自身で突き詰めて臨むべき舞台であろう。言っておくが、この程度のことは二十歳前後になれば、誰もが通過していて当然のレベルである。もし、本当にマイノリティーであるならば。
これらの前提が全然、見えなかった。一所懸命なだけではいけない。