満足度★★★
野宿者支援という場所
バブル崩壊後の90年代末頃から、都市部の駅周辺で「ダンボールハウス」が目立つようになった。その頃にあった同テーマを扱った芝居を思い出す(野宿者支援に関わる事になった診療所が舞台。行き別れた父娘の再会という設定は今作に似ている)。そちらは笑い所・泣き所のある舞台だったが、銅鑼の今作はもっとリアル寄りの舞台ながら、和む雰囲気を醸していて、こういう支援の現場が「笑い」を武器に継続している事情と、相似していると思った。
展開に難を感じる箇所は幾つかあり、役者の動きでも損をしている所が散見されたが、作り込んだ家屋のリアルさと照明が効奏して鮮明に記憶に残るシーンがある。キャベツを切るシーンと、炊き出しの準備を全員で行なうシーン。ここ、商店街の中にあるという広めの住居を供出した「かけはし」という名の支援拠点は、学生で団体代表でもある女の子が思わず吐露するように、そこに関わる人の「居場所」。息の通う生活の場の息づかいが舞台上に見えたのがそのシーンだった。光景が写真を焚いたように焼き付けられる事はそうない。どこか大仰(コミカル)だったり淡白だったりする他の演者の中で、主役の弓田英明のみリアルな陰影があり、これも記憶にとどめる効果を持っていた(もっとも他が薄くて良いのかというモンダイは残るが‥)。
満足度★★★★
観客の心は劇団銅鑼さんの掌の上です。天晴でした!
恥ずかしながら本音で書くと、前半は
病気だからと許される攻撃性、引きこもって自分を守ろうとする狡さ、弱さ、短落さ、図々しさ、他者への依存…みたなものに嫌悪がありました。
しかし後半には黒がグラデーションでグレーに、白に変わっていくように、
登場人物への嫌悪が消えて行きました。逆に、そういう目で見て相手を排除しようとする自分の弱さに気付きました。
結局“知る”ことに尽きるのだなぁ。価値観を変える必要なんてない。
知れば自然と変わっていくから。
満足度★★★★★
今日的なテーマ!
泣かせようとの意図から涙を誘われるというのとは違う、もっと人間の本質というか心の奥底にある何かに触れられ思わずホロッと泣ける作品。今日的なテーマは、なにが大事でどういう方向を向いて生きていくのが人の幸せか、ということをしみじみ考えさせてくれる。お互いの違いを認め合って生きていくこと、そうすることの困難さ、例えどんなに困難であってもそうしようとしていくその先にしかコミュニティの幸せはないのではないか、といったことを共感しやすい形で見せてくれるあたり素晴らしかったです。こういう普遍的なテーマを今の時代にあった形で観せるって本当スゴイなあ。
満足度★★★★★
高く評価されるべき作品
ボランティアのスープキッチンに自宅を供出する男とその娘を軸に地域と各個人事情とセーフティネットの三すくみの対立…と文字にすると地味だがとても面白かった。
泣かす本ではないのにベテラン勢のいぶし銀芝居が泣ける。その辺りのエンタメ方面への配慮を含めた仕事振りにも隙はなし。
一方で、気がつけばとっくに多層階級化して階級間闘争も日常化してる現代社会を静かに提示する。
「あなたが多様化した社会で生きることに同意するならばあなたは現実にはこういうことを受け入れていかなければならない」という確固たる主題をしかし押し付けてくることなく語る。大人の観賞に耐える良い作品。