満足度★★★★
「ドレッサー」作者による本邦初演作品。戦時下で芸術家の葛藤と顛末を描く良心作。
「ドレッサー」作者による作品で、本邦初演。
カトケンの作品選びの選択眼は、常に鋭くて、
毎回良質の翻訳作品を提供してくれます。
そして、カトケンの芝居は常に安心して観れます。
このことは観客が作品のテーマにより集中できる
ということです。
戦時下における芸術家の苦悩、
すべてを犠牲にしても表現の自由のために戦うのか、
家族を守るために体制に寄りそうのか。
後世において、その時の判断を問い正すことができる者は
いるのだろうか。
導入からは、二人の芸術家の出会いと作品を作り出す
コラボレーションの喜びを生き生きとユーモラスに描き、
中盤からはナチの影との戦いと顛末を描く。
カトケンは音楽家として何とか生き抜こうとする姿を、
福井貴一はその逆に追いつめられ破滅していく姿を
ウェットさはない二人の大人の友情を背景に対照的に
演じている。
加藤忍(カトケンの劇団員ですが娘ではない)は静かに
影となり支える妻を、塩田朋子はより強く支える妻を
地味ではあっても的確に演じてます。
そして、唯一の悪役、ナチ党員を演じた加藤義宗
(こちらはカトケンの息子さん)の登場は、
2シーンのみながら冷静な怖さを感じました。
カーテンコールでは、演出の鵜山仁が歌うシュトラウス
の録音が披露されました。これもなかなか見事でした。
満足度★★★★★
時代に抗いつつ、生きることの苦しさ
それが、静謐に胸に迫る佳作舞台でした。
いつも、感じることですが、鵜山さんの演出は、それがどんな国のどんな時代の、どんな分野の話であろうとも、時代や国籍を超越した、普遍性のある作品に変換させて、観客に提示する力がお見事だと、感心します。
今回のこの舞台もまさにそうでした。
ナチスの圧政や、それに纏わる、人物の動向をあまり知らない人間が観ても、きちんと、この作品のテーマが伝播する舞台構成になっています。
この作品の主人公である、リヒャルト・シュトラウスと、彼のオペラの脚本を手掛けたシュテファン・ツウ゛ァイクの、二人の人物の、時代に翻弄される苦悩は、いつ如何なる時代に生きる人の胸にも、共感を持って、心を揺さぶる舞台力がありました。
加藤さんももちろんですが、ツウ゛ィク役の福井さんが、とても好演されていました。
ナチスの党員役の加藤さんのご子息の義宗さんは、いつの間にか素敵な役者さんに成長されていました。彼の10代の時の初舞台も拝見していますが、年月が経って、口跡も、立ち姿も、役者さんらしくなられて、嬉しく拝見しました。
加藤さんと、紀伊国屋ホール、あー、ずいぶん昔、ここで「熱海殺人事件」を、狭い通路に座って、夢中で観劇したことを、懐かしく思い出しました。
あの頃の、演劇界は、何もかも素敵だったなあと、感慨深い想いがしました。