舞台芸術まつり!2023春

afterimage

afterimage(愛知県)

作品タイトル「松竹亭一門会Ⅱ 春の祭典スペシャル

平均合計点:20.6
丘田ミイ子
關智子
園田喬し
深沢祐一
松岡大貴

丘田ミイ子

満足度★★★★

 ダンス×落語。一見交わることのなさそうなこの二つの芸を融合させた本公演には、観る前からすごくワクワクさせられました。長く活動しているダンスカンパニーが新たなジャンルや体感を掘り起こそうとする、そのチャレンジングな姿勢にも感銘を受けました。ダンサーが高座に上がるという異例の公演ですが、どの方からも落語への愛や敬意をひしひしと伝わり、同時にそれぞれが個人の強みや個性を最大に活かした演出でここでしかできない「オリジナル」を届けようとする気概にも胸を打たれました。

ネタバレBOX

 個人的に引き込まれたのは、松竹亭撃鉄こと堀江善弘さんの「映画」を題材にした落語「まんじゅうこわいfrom Hollywood」。「まんじゅうこわい」という超定番的噺をPOPかつユニークにコーティングした切り口は、落語を知らない若い世代や観客にもその可能性や面白さを手渡せるような展開で、身体を駆使したエンドロールの演出に至るまでとことんエンタメ性に富んでいて、一発目の演目としてしっかりと心を掴まれました。

 ゲストである登龍亭福三さんによる高座は、さすがプロの芸といった見応えがあり、名古屋という街の成り立ちを抑揚あるリズム感で伝える力量にその土地で今しか観られないステージを観ているという贅沢感がありました。落語へのチャレンジに関しては、楽しみ、楽しませるということに全力で舵を切っている点が清々しく、その人間力が時にクオリティ云々を凌駕していくような面もあり、「祭典」と銘打つに相応しいステージの数々であったと思います。

 落語へのアグレッシブな挑戦心の一方で、やはり老舗のダンスカンパニーによるダンスとの融合やダンスカンパニーとしての強みをもっと見たかったという体感も残りました。「オープニング」や「ダンスで分かる三方一両損」などの演目でその片鱗は感じられたのですが、期待値から鑑みると少し物足りなさを感じてしまう点が否めず、もっとこの人たちの真骨頂を見たいという思いに駆られてしまいました。ただ、身体芸である「ダンス」と話芸である「落語」の融合の配分やプランニングには相当な難しさがあること、同時に場数を踏む毎に新たに拓ける可能性も伺えたので、今後もこの「祭典」シリーズが都度アップデートされながら続けられていくことに期待を寄せています。近年ないほどに、手放しで楽しめる瞬間が多かったので、「面白さそうな舞台があるよ」と友人や知人を誘っていくにはぴったりの公演だと思いました。

 エンディングで椎名林檎×トータス松本の「目抜き通り」で皆さんが踊られている時、その歌詞がみなさんの表情とあまりにぴったりで気を許すと落涙もやむをえないほどに感激してしまいました。あれは、みなさんの身体から漲るエネルギーそのものが私の身体に心に伝播して起こった反応だと思います。考えるのではなく、感じること。ダンスがまさにそうであるように、言葉よりも先に身体が動き出すときの生命の力と輝き、理屈ではないものをしっかりとこの手に握らされたような気がしています。

關智子

満足度★★★

 観客を惹きつける公演だった。まず出演者が楽しんでいることが伝わり、加えて観客もそれに巻き込まれていたことが大きい。上演を通じて劇場が温まっており、afterimageの常連と思われる観客たちに愛されていることがよくわかる。私は不勉強ながら落語に明るくないが、それでも落語の噺家たちに必要なことの一つにはまず観客に愛されることだというのはわかる。その点で、本公演はある意味成功していたとも言えるだろう。どのダンサー/噺家も魅力的だった。

ネタバレBOX

 ただ、ダンスと落語を融合させるという点においてはやはり難しかったのだろう。ダンスの身体性と落語のそれを、ないし落語における話法技術とダンスにおけるそれを、並置させてはいたかもしれないが融合させることはできていなかったのではないだろうか。これならばダンスだけを見るか、落語だけを見るかのいずれかの方がもっと楽しめたのではと思わざるを得ない。ダンスだけのafterimageも見なければと思わされたという意味では、次回公演に期待させられた。

園田喬し

満足度★★★

 「ダンスカンパニーによる落語会」。この発想そのものにチャレンジャースピリットを感じますし、実際の上演からも、その気概を感じ取ることができました。落語へのリスペクト、上演する上での創意工夫、演者それぞれの独自性を加える心意気、等々も理解できます。ただし、個人的にはもっともっとダンス側からのアプローチが見たかった。せっかくのチャレンジですし、より混在となった「ダンスカンパニーによる落語」に期待していました。その意味で、僕が好きだったのはズブロッカさんの『蒟蒻問答』。冒頭でコンテンポラリーダンスの用語解説をした後、本編の『蒟蒻問答』に入り、最後はしっかりダンスで締める。オチもスッとキレイにまとめられ、「振付家による一席」という印象でした。逆に、僕の中で少々ガッカリしたのは、ごみ箱さんが「すし組/そば組」の双方で同じ噺をかけられていたこと。これは、正直あまり嬉しくない。気合の込められた熱演でしたし、この噺でトリを務めようとする責任感がひしひしと感じられるからこそ、同じ噺をかけたことにやや違和感が残りました。

深沢祐一

満足度★★★

 色物としてのコンテンポラリーダンスの可能性

 「異常事態です」

 松竹亭白米の引き合いで口上を述べる松竹亭ごみ箱が開口一番会場の笑いを誘う。それもそうだ、コンテンポラリーダンスのカンパニーが落語会を催すとはいかなるものか、すんなり想像できる観客はそう多くはなかっただろう。私は3月27日に「すし組」「そば組」両プログラムを鑑賞した。

ネタバレBOX

 オープニングでは、カンパニー5名が口上の並びのまま上下に首や手先を傾けた落語の所作や扇子を口に含む動作を振付にした工夫と形の綺麗さがまず印象に残る。各自そのまま立ち上がり股を広げ脚を開いてと群舞が始まるが、足袋姿のまま固い床を踏み、裾に絡まりそうになるくらい高く脚を上げる動作にハラハラした。

 すし組のトップバッターは松竹亭撃鉄。映画のサウンドトラックのレコード盤を見せながら、自身の映画愛やランキングをマクラに、ランボーやインディ・ジョーンズ、ジェームズ・ボンドの吹替声真似で、「まんじゅうこわいfrom Hollywood」を披露してくれた。映画のエンドロールに見立てた巻物の小道具も気が利いている。

 すし組二人目の松竹亭青七は古典落語「今戸の狐」である。自身のばくち好きのエピソードをマクラに噺にはいったが、好みを爆発させていた撃鉄を聞いた後なだけパンチに欠けていたように思う。生来生真面目な性格なのだろう、註釈を多めに噺を進めてくれたが、あまり内容に入っていけなかったのは残念である。

 対してそば組一人目は白米。素朴な植木屋が裕福な隠居を真似ようとして起こす滑稽噺「青菜」を、柳かけのくだりでワンカップ大関を出し、鯉の洗いのくだりで缶からシーチキンを出して食べるなど大胆な変化球を入れつつ、ごくごく素直に披露してくれた。

 そば組の二人目、afterimage主宰の松竹亭ズブロッカは、なめらかな口調で「蒟蒻問答」を披露してくれた。六兵衛と僧侶の問答が白熱すると、なぜか舞台上から人形が降りてきて踊りだすという展開に客席は大いに湧いた。ただこの場面は人形ではなくぜひ人間で見たかったと思う。

 仲入り前最後のゲストは両組共通、名古屋で落語会を主宰している登龍亭福三である。名古屋弁の話題から竹川工務店が名古屋城を作ったというオチにつながる「名古屋城築城物語」(すし組)、四つ葉のクローバーを差し出す霊がチャーミングな「善霊」(そば組)、ふたつの新作で力量を示してくれた。

 仲入り後に始まる「ダンスで分かる三方一両損」は本公演のハイライトである。金太郎(撃鉄)が拾った三両を持ち主である吉五郎(ズブロッカ)に返そうとするも、一度落とした金だからと受け取らず、喧嘩するこの二人を大岡越前(白米)が機転を利かせて和解させるという有名な筋を、ナレーションに合わせたダンスでこなしていて度肝を抜かれた。大岡越前の衣装がロボットアニメの敵キャラのように戯画化されていておかしい。

 両組共通でトリはごみ箱の「居残り佐平次」。さすがにほかのダンサーと比べて表情が豊かで間もよく、一番の見応えがした。特に佐平治が身の上話をする瞬間の空間の切り替え方、鮮やかさが印象に残っている。

 椎名林檎とトータス松本の「目抜き通り」をバックにエンディングはゲストを除く5人の群舞である。オープニング同様にハラハラしたが、好き放題やったあとの多幸感とでもいう明るさがあってさわやかな見ごたえがした。

 本公演はダンサーたちが意外なほど愚直に落語に取り組んでいる落語会である。本職と比べ見劣りするのは是非もないが、合間に挟まるダンスプログラムが彩りを添えていた。私はかつて立川談志の独演会で、前座が日本舞踊を踊っていたことを思い出した。最近は寄席や落語会で舞踊を見る機会はあまりないが、噺の合間に漫才や紙切り、モノマネなどと同様にダンスが入れば、演芸の裾野がより広がるようにも思える。そうした意味で私にとっては発見がある興行であった。

 ただ劇場の使い方はいかにも殺風景で物足りない。例えば入り口に演者の名前を染め抜いた昇りを出したり、劇場内の黒壁に寄席に見立て木目調の壁紙を貼るなどの工夫があってよかったのではないだろうか。

松岡大貴

満足度★★★

 ダンスカンパニーによる異色の落語会。

ネタバレBOX

 自分が鑑賞したのは《そば組》の公演で、それぞれ松竹亭白米(おにぎりばくばく丸/上田勇介)が『青菜』、松竹亭ズブロッカ(服部哲郎)が『蒟蒻問答』、松竹亭ごみ箱が『居残り佐平次』、仲入り後には『ダンスで分かる三方一両損』なる演目が行われ、最後にフィナーレのダンスで幕切れとなる。

 面白かったです。あの、それは落語の出来を楽しみたかったら寄席に行った方が良いのですが、そこは工夫をしていらして、『青菜』では本当にお酒を飲んだり、『蒟蒻問答』では問答の場面でダンスが挿入されたりと、ダンスカンパニーが落語会をする、といった標題通りになっていたかと思います。いわゆる天狗連とは一味違いました。

 一つアイデアがあるとすると、もっとイベントとして、お祭りとしてやっても良いのではないかなと思います。例えば出店を募ってお客さんが買えるようにしたり、地域の他のアーティストにも声をかけて出し物をやってもらったり、もっと言うと一つの公演ではなく“afterimageフェス”みたいにして、そのうちの演目の一つとしてやってみたらより広がりがあるのではないかと思いました。そうすればこういう色物に加えて、本気のダンス演目も加えて締めたりと、客層も広がるのかなと考えたりしていました。制作大変そうですが、出来なくもない気がします。

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