BOX IN THE WORLD
T1project
新宿シアタートップス(東京都)
2024/07/03 (水) ~ 2024/07/10 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
本日はsideAを拝見。面白い。ベシミル! (追記7.8 9時44分)
ネタバレBOX
さて、今作のテーマはidentityである。ではアイデンティティーとは何か? 即答できる人はそう多くあるまいから、一応自分が考えるその定義らしきものを記しておく。アイデンティティーとは即ち、或る個人が己の内的世界に於ける存在の意義を自己矛盾無く措定し得る状態である。と同時にニンゲンという存在は漢字で書くと人 間。これはヒトという生き物が他者との関り無しに生きて行けない生き物であり、生きてこれなかった生き物であるという人間個々の他者との関係を必須とした存在形態を現していると解釈することが出来る。換言すれば、先に述べた通り己自身の内部での矛盾無き統一が、その個人と関係する社会と矢張り矛盾なく統合され遅滞矛盾なく機能し合うことである。これが為される状態がアイデンティファイされた状態だと考える。従ってアイデンティティーという言葉が日本で用いられる場合、人間存在に不可分の社会的関係を含む二層構造の矛盾無き統合を含む概念と捉えるということだ。
板上レイアウトはsideBとほぼ同様、無論話の内容は異なる。時期設定は近未来。社会はエリート層と下層民社会に完全に分断され下層民は差別され権利もへったくれも無い有様。大学を出ていようが様々な資格試験に通っていようがそれが既に時代遅れの技術であれば雇用サイドから顧慮されることは一切ない。当然仕事にも就けない。正社員になれる訳もなく派遣等でも職にありつけば良い方である。そんな時代、大学を出て正社員として就職、懸命に働いたものの首を切られたまゆみが、この得体の知れないエリアに吸い寄せられるようにやって来た。電話機の取り外された電話ボックスから何者かが話し掛けてくる。それは彼女の痛い処を突く言葉の群れであった。それは彼女の仕事に対する上司即ち社会の評価であった訳だ。当然、彼女は面白くない。オープニングで凡そこれだけの情報が与えられる。そして次々に他の人々が寄ってくる。その各々がこの場所に吸い寄せられたかのようにも、惑星直列が在る確率で必ず起こるように何か或いは誰かに吸い寄せられるかのようでもある。集まった者達は三種類の存在だ。一つ目はエリート層、二つ目は下層民、そして三つ目はバグともいえるゾミア的存在。
因みに此処に関わる登場者はエリートとしてのAI(はぐれ者を含む)、普通の人間、そしてデータの無いコンピュータ上ではバグとして認知されるであろう、非存在的存在。これら三つの要素が矛盾なく同時に同空間に存在する必然性を探り回答を得ることが今作で為されていることである。既に惑星直列の件である確率でそれが必然であることは説いた。その謎が明かされてゆくのである。近未来、人間の開発したAIが人間の能力を凌駕しヒトをその支配下に置くという懸念はITを用いていることが当たり前となった昨今誰もが抱えている漠然たる不安である。今作で登場するAIたちもヒトとそっくりの姿形はしているが情報に基づいて作成されたイマージュに過ぎない。(そのイマージュを演劇だから本物の人間が演じているだけである)その実際にはイマージュに過ぎないが世界を統御するエリートとして機能している「存在」と実際の人間即ち下層民、そして不確定要素を表すゾミア的人間(データ無し)が一堂に会する必然性とそのことをエリート層が気にかけて介在してくる理由とは何か? が今作の面白さである。答えは分岐点だ。その分岐点で最上の登場者の誰かが最上機種AIであることが判明するが、全能のそのAIがニンゲンに対しどのように振舞うか? がこの全能の絶対者の判断に委ねられる。してその判断の結果は? 愚かな欲望の為に愚行を繰り返してき、人類などと呼称するには大きな矛盾を感じざるを得ない人類にどのように振舞うのか? 滅亡? 或いは? その結論を出すに至った全能の存在の内実は? 今作では敢えてその解答を表現していないが、観た者には明白であるように思われた。
デカローグ7~10
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2024/06/22 (土) ~ 2024/07/15 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
D(7・8)を観た。非常に面白い。56分(20分休み)64分。
7「ある告白に関する物語」女子大生マイカは母エヴァと父と同居しているが、高校時代に産んだ娘アニャをエヴァの娘として育てることにしたが、エヴァに邪険にされ、アニャとともに家を出ることにして…、の物語。悲劇的な結末に向かってしまいそうな展開が、ある意味で落ち着いた結末に向かうが、その過程を興味深く観た。
8「ある過去に関する物語」倫理学を教える教授ゾフィア(高田聖子)を、その著作の英訳者であるエルジュビェタ(岡本玲)が訪ねて来て、ゾフィアのゼミを見学するが、そこで議論の題材としてエルジュビェタが提示した話題は、…の物語。2人が対立するのかと思ったが、穏やかな展開と意外な展開を交えた作品で、デカローグ10作の中で最も面白いと思った。高田と岡本の組合せが見事だ。岡本は新国立の作品では常に光る。
10作を全て観たが、一種平凡で事件が起こらないものから、いきなり事件に展開するものまで幅がある。ポーランドという国の事情もキリスト教という文化的背景も違う私には、10作観てどう、とは言えないなぁと思う。
駈込み訴え
中瀬古健
MUSIC BAR道(東京都)
2024/07/05 (金) ~ 2024/07/07 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
太宰治作です 1人芝居 一瞬も目が離せない 全身全霊で惹きつけます
狐晴明九尾狩
創像工房 in front of.
慶應義塾大学日吉キャンパス塾生会館(神奈川県)
2024/07/03 (水) ~ 2024/07/07 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
舞台美術もしっかり作られ
衣装も らしさが良く出てて
なかなか熱い作品だったが
モーちょい全体の声量抑えた方がー
と強く思えた
だって出演者皆さん
声枯れまくってるんだもの......
話も分かりやすく
視覚的にも良く出来ていた
約二時間の作品
紙アンケートとボールペンあり
ネタバレBOX
開演前の座の温めは
あったほうが良いかな~って
割と頻繁に開演遅れってあるから
作品背景とか作品にかける
熱き思いとか先に
天の声で流したりと
してみた方が 盛り上がるかしら
とか思えました
てのひらのさかな
関西大学演劇研究部 学窓座
関西大学・千里山キャンパス内 凜風館 4階小ホール(大阪府)
2024/07/05 (金) ~ 2024/07/07 (日)公演終了
満足度★★★
大阪を代表する空の駅舎の作品を、学窓座が取り組む
幼稚園と保育園は管轄省庁が違うんだ〰️や、幼稚園の先生方の悩みは新鮮ではあったが、子供と手を繋いだり、子供に向けて拍手をすることが大切なんだ〰️→子供とのスキンシップや直接的な感情表現が本当に必要なことですよ🎵(カメラや動画に収めることや、一緒に傍にいているだけでなく)→子供との接し方の時代の変化を表現していたのかな〰️+親の大変さというか、子育ての大変さも…
【延期公演開催】エアスイミング
演劇企画イロトリドリノハナ
小劇場B1(東京都)
2024/07/04 (木) ~ 2024/07/07 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
いろいろと手を加えてサーヴィスしている。戯曲の判り辛い点にメスを入れて。森下知香さんの幼い笑みなんかにゾクッときた。背景の壁に埋め込まれたBOXが色とりどりに光ってそこからアイテムが現れるアイディアは面白い。現実の二人と虚構化した二人を背景含め世界丸ごと変えた方が良かったかも。ただのカツラの遣り取りになってしまった。
ネタバレBOX
演出とテキレジが的外れ。何か違和感が最後まで拭えなかった。この戯曲自体、自分は好きじゃないんだろう。ZASSOBUの公演で驚いたのは好きではない戯曲をここまで肉迫して伝える技術、その熟考された方法論。圧倒されてひれ伏した。枝葉末節ではなく幹がぶれていない。
今回は全てが茫洋として核を掴めなかった。演出を第三者に託した方が良かったと思う。この戯曲は役者と演出家の狙いがかけ離れている方が成功する。役者の思惑とは別な部分に見所が発生するたぐい。
居眠り客が多かったのは事実。何故か?それはよく解らなくてつまらないから。これは戯曲の問題で仕方のないことだが、そこと向き合う必要があった。演り手としての面白さと観客としての面白さの接点の工夫。
ただこれは勿論自分個人の感想であって他の方々の意見を読むと全く違う評価になっている。自分はこの戯曲三度目ということもあり、斜めに観た部分もあるだろう。初見として観たならば全く違う感想になった可能性もある。判り易くしようと工夫している点は高評価。ただ実際の水を使わないのはかなり残念なポイント。『エアスイミング』と対になっているのに。
駈込み訴え
中瀬古健
MUSIC BAR道(東京都)
2024/07/05 (金) ~ 2024/07/07 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
太宰の世界にどっぷり浸かりました、熱演にエネルギーもらいました
【延期公演開催】エアスイミング
演劇企画イロトリドリノハナ
小劇場B1(東京都)
2024/07/04 (木) ~ 2024/07/07 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
1920年代 イギリス。女性が貞淑で従順であらねばならなかった時代。性規範や倫理を逸脱したとして精神異常の烙印を押され、収容施設に収監された女性の物語。
この演目 最近よく上演されているようで、自分が知っているだけでも昨年秋から4公演目。本公演も含め そのうち3公演が下北沢で上演されており、たまたま5月の公演に出演していた女優も観に来ていた。途中休憩時に雑談したが、懐かしい と感慨深げのよう。
原作がシャーロット・ジョーンズ、翻訳が小川公代女史、すべて同じであるから演出・演技等にその特徴が表れる。
(上演時間2時間15分 途中休憩含む)
ネタバレBOX
舞台美術は中央にバスタブ、周りは上下で色が異なるタイル。水道蛇口・シンク、その傍らに箒やブラシ等の清掃道具が置かれている。客席の一部を この収容施設の階段に見立てている。蛇口やバケツ等が真新しくて照明が当たると輝いて見え ちょっと違和感。小綺麗でスタイリッシュといった感じ、先入観・偏見かもしれないが、もっと薄汚れ陰湿といった印象を持っていた。
物語は1924年から約半世紀、精神異常者として「触法精神病院施設」に収監された女性2人 ベルセポネー(森下知香サン)とドーラ(室田百恵サン)の不撓不屈の精神が描かれている。上流階級育ちのペルセポネーは、妻帯者の男性と恋に落ち 妊娠して婚外子を産み、父親に施設に入れられてしまう。そして社会の性規範に囚われず、葉巻を吸い過度に男性(軍人)的にふるまったことを理由に2年前に収容されたドーラに出会う。この2人が 空想・想像力を交え、励まし合い、笑わせ合いながら 権力の象徴とも言える精神病院内で紡ぐ会話劇。
精神異常者として身体の管理と拘束をする、その理不尽な対象を女性に絞って描いている。それは外国(イギリス)の しかも過去のことではなく、現代日本に通じる問題・課題でもあろう。当時における触法精神障碍者の実話を基に、現代を生きる女性の「痛み」「苦しみ」「患う」の声をすくい上げる。それゆえ 理不尽・不平等が生じている状況を打開、端的に言えば ジェンダー格差による不利益の克服といった意も込められている。
2人の女性が励まし助け合いながら<生きようとする>その姿に心魂が揺さぶられる。孤独と絶望に押しつぶされそうになるが、わずか1日のうちのたったの1時間の清掃業務で…。「狂気」と隣り合わせ、現実逃避と自己肯定を行ったり来たり。そして女優のドリス・デイを引き合いに出しながら、夢と希望を語り<生きよう>とする姿は、どんな状況においても諦めないことを訴える。これは女性だけではなく、男性や最近ではLGBTQにおいても生きづらい世を少しずつでも変える運動へ、を連想させる。
公演で興味を惹いたのは、社会的な観点と人間的な観点とでも言うのだろうか。ペルセポネーは妻帯者の男性と恋に落ち婚外子を産んだ。今でも不倫などのスキャンダルは世間から非難を浴びるし、興味本位で騒ぎ立てられる。社会的な観点からみれば精神病院へ収監するという問題、一方 不倫された妻の人としての感情(憤り)はどうか。端的な構図はペルセポネーの行為は同性への裏切りのようで…。この公演は、あくまで社会体制(規範)からの自由 解放という<声>のようだ。
もう1つ。女性が貞操であらねばならない時代。今でも女らしさ男らしさ、そして<あらねばならない>という曖昧な固定観念に囚われる。しかし現代においても その不自由な観念を払拭したと言い切れるだろうか。ラスト、2人が踊るー演劇的に見れば、奈落の底から抜け出すように泳ぐーまさに自由に空を羽搏くエアスイミングだ。
途中休憩を挟んで前半と後半とすれば、前半は少しテンポが緩く(ウィッグを付け、帽子を被り別人を演じるなど工夫をしているが)足踏みしているよう。毎日同じことの繰り返し、その淡々とした閉塞感が感じられるとよかった。前半 最後のバスタブを動かし夢見る場面は印象的。一転 後半はテンポが良くなり夫々が抱えた苦悩と人格崩壊が顕著になり情景・状況描写に迫力が増す。
格子状の照明は施設の格子であり台詞にある風呂(タイル)磨き、また水滴の音?と水玉模様の回転照明によって孤絶やスイミングを夫々 連想させる。そして 地味な色彩の衣裳を着て、髪や身体的な老いを見せるが、ラストには希望が…。
次回公演も楽しみにしております。
【延期公演開催】エアスイミング
演劇企画イロトリドリノハナ
小劇場B1(東京都)
2024/07/04 (木) ~ 2024/07/07 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
演出をも担当の森下さん、共演の室田さんお二人が一所懸命に作品と格闘して練り上げた秀作、ベシミル! (追記7.7 17時11分)
ネタバレBOX
舞台美術は極めて洗練されたお洒落なもの。板が客席に”」“状に囲まれていることは周知の通りだが‟」”の対面の出捌けのある辺をAとし時計回りにB,C,DとするとA辺の手前に流し、流しの下にバケツ、その手前に塵箱、壁に沿って右側にはタオル、バスタオル、場面によって毛布等布製品が置かれた三段の棚、更に右側の壁手前には、デッキブラシ、箒、はたき、モップ等の清掃道具がキチンと収納され立て掛けてある。B辺の手前、C辺寄りの壁には茶系の色をしたベンチ(上蓋が開閉式になっており、場面によって小道具を出し入れできるようになっている)。板中央には船型の浴槽、当然その脇には蛇口が設けられており、湯水ケアの為のマットが敷かれている。また。C/D辺のコーナー。D/A辺のコーナーには丸い天板の木製椅子が一脚ずつ置かれている他、D辺の端客席の段には手摺の付いた階段があり、二人の収容者が一日のうち最も自由に行動できる掃除時間に掃除をする対象になっているエリアがある。因みに壁面の模様は下部に蒼穹を思わせるブルー、上部はタイル張りを模し空に浮かぶ自由自在に姿を変える雲を想起させる白。而も各升目は小道具の出し入れができるように開閉式になっており、出し入れの際には暖色系の色が付く。ここから取り出される小道具にはウィッグ、水泳に用いるゴーグルや帽子、シャボン玉を作る為の液体の入ったコップにストロー、ペルセポネーがドーラに贈ったプレゼントの撹拌機等の小道具が取り出され収納される。因みに下段の壁からも泳ぎの補助浮き輪に見立てたフラフープが出し入れできる細工が施されている念の入れようで、極めてセンスの良い、而も繊細で1924年当時の英国で実際にあった触法的精神病患者として収容された良家の子女であった被収容者の、現在の常識では考えられない半世紀に跨る理不尽極まる拘束という有様を可視化した。{実際の収容所は昏く陰湿であったであろうと想像される現実とは裏腹に異常とされた収容原因ペルセポネー(ポルフ)及びドーラ(ドルフ)のケースが描かれる。}ペルセポネーは妻帯者と恋に落ちて子を産み社会的不適合者としてこの収容施設に送り込まれた。ドーラは葉巻を嗜み、過度に男性的態度を取ったことが触法とされ今作の物語が始まる2年前の1922年から収容されている。因みにペルセポネーはドリス・デイの大ファン、ドーラは読書好きであり軍隊についても詳しい為、ペルセポネーの入所以来、先に入隊し階級も上の古参兵が後身に指導するという形で人間関係を形成してゆくが、触法精神病患者として収容される人々には女性が多かった。理由の一つに女性でありながら賢明であることなどが理由になった。このような歴史的背景を鑑み白いタイルの一部に触法的精神異常とされた人々の守護聖女・ディエンプナの肖像が飾られている。(今作で物語られた内容では、彼女は父にレイプされた結果子を孕み而も出産した子を実父に殺され自殺した女性であるとのこと。自分の記憶に間違いが無ければ10世紀頃に実在した人物であるという)
ところで、自分はあらゆる芸術作品は解釈によってしか延命し得ないと考えている。今作の舞台美術も演出をも担当した森下 知香さんと共演の室田 百恵さんお二人の作品に係る長く真摯な討論を踏まえて“実際に精神を病んでいた訳でも無い二人の女性が上流社会で社会的恥と見做されていた価値観に抵触したというだけの理由で体面を守るという利害関係のみから娘を精神異常者と見做し収容施設に強制的に送り込んだ親や親族たちの「狂気」をこそ断罪した作品である”と人間として考え、作品の深い社会的闇(ジェンダー、宗教、習慣、世間体、常識及び精神異常というレッテル貼りによる強制排除の実態と被収容者達の拘禁故の様々な症状発生等々の被害者独自の精神的変異や、その時々での彼女らの内面を表象する重要アイテムの一つとして、このように実にキチンと整理整頓され、而も子供たちがウキウキして外で遊びだしたくなるような晴天と紺碧の海そこに浮かぶ白い雲をベースにしたような壁面の色彩。水辺に出、それこそ宇宙遊泳にも似た水泳感覚を、より宇宙遊泳に近いであろうエアスイミングで実現させていた、ペルセポネー、ドーラ二人に代表させた触法的精神異常者とされた多くの人々を文化的にもサポートする為に敢えてこのように明るく繊細で気持ちの晴れる美術にしたと解釈できるとする次第だ。
脚本と一所懸命に格闘したればこその、この爽やかさが選ばれていようが、この爽やかさを壊さぬように而も社会そのものの異常性即ち「狂気」を炙り出すことに成功した二人の女優(演出も担当した森下 知香さんと室田 百恵さんお二人の演技も称えたい)も今作の魅力である。
デカローグ7~10
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2024/06/22 (土) ~ 2024/07/15 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
E ⑩⑨ 演出:小川絵梨子
⑩「ある希望に関する物語」
⑧に出て来た切手コレクターの男が亡くなっている。彼の子供である兄(石母田史朗氏)とパンク・バンド(?)のヴォーカルをやっている弟(竪山隼太氏)が遺品を整理する。
弟は何故かGuns N' Rosesの1991年発売『Use Your Illusion』Tシャツ。歌の内容はデス・メタルっぽい。彼の音楽性に疑問符。
父親のコレクションの価値など全く判らなかったが、実は国内有数のマニアで世界的にも知られた存在。とんでもない莫大な資産であることを知って二人の目の色が変わる。
MVPはドーベルマンのセシルちゃん(湘南動物プロダクション)。可愛い。動物と子供を出しておけば皆優しい気持ちになれる。
凄くポップな話で観客受けが良い作品。
⑨「ある孤独に関する物語」
性的不能の為、性行為はもう一生出来ないと診断された外科医(伊達暁氏)。それを妻(万里紗さん)に告げると「離婚はしない。SEXなしでも夫婦として暮らしていきましょう。」との温かい言葉。だがその裏で若い大学生(宮崎秋人〈しゅうと〉氏)と不倫を重ねていることを外科医は知ってしまう。
伊達暁氏天性の喜劇調の明るさ。堺正章や柴田恭平に通ずるこのキャラがコメディーリリーフとして機能し、陰陰滅滅たる物語を軽やかに奏でてくれる。自転車のシーンが爽快。
心臓の手術を受ける声楽家志望の少女(笠井日向さん)のエピソードが印象的。
面白かった。
是非観に行って頂きたい。
ネタバレBOX
亀田佳明氏演ずる“天使”は原作とは別な役回りを与えた方が良かったかも知れない。パンドラの匣から最後に出て来たエルピスのように。自分がこの人間世界で何を為すべきか模索しているような。
⑩全部コレクションを盗まれて途方に暮れる二人。互いを疑って仲違い。兄が腎臓と引き換えに手に入れた「赤のメルクリウス」の3枚セットだけ残る。だが二人は何故か切手蒐集の魅力に取り憑かれてしまったようだ。これから価値の出そうなシリーズ切手を郵便局で買う。久し振りに再会して見せ合うと兄弟とも買った物は同じ奴。二人で大笑い。
※仮眠室に誘った看護婦も実はグルだったようだ。
希望はいつも空っぽの自分の胸の底に転がっている。自分を許し、他人を許せ。
⑨万里紗さんのキャラクターが謎。不能な夫と離婚はしたくないが若い男とのSEXは望む。全部バレても、ある種平然として自分を肯定している。養子を貰ってやり直そうと言う。この矛盾した人間像がリアル。ずっと他人を使って自分の心の中を探っているような生き方。
伊達暁氏は妻を愛しているのか別れたいのかもう判らない。自殺を選ぶが結局は死に切れない。一本の電話線で遠く離れた二人の心がか細く繋がるラスト。
人は皆孤独で誰もが生きる意味など見出せない。世間にはやってはならないこと(『十戒』)ばかりが掲げられて罪と罰とが溢れている。まるで我慢比べのような人生。誰が一番我慢強いのか競い合う耐久レース。勝者を誰が判定するのか?そこには誰もいないだろう。そして人間は“愛”を発明した。“愛”とは大事に思う気持ち。それがあれば他人と繋がれるかも知れない。他人に触れられるかも知れない。受話器越しに互いの存在を確認し合えるかも知れない。誰かを大事に思う気持ちがまだあればもう少し生きていける。
SION『街は今日も雨さ』
久し振りにお袋に電話を掛ける
雨降る街の赤茶けた公衆電話から
お袋は静かな声でたった一言
「生きてなさい」そう言った
水彩画
劇団普通
すみだパークギャラリーささや(東京都)
2024/06/17 (月) ~ 2024/06/23 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
茨城県内のカフェでの二組の客(親子二代の夫婦ともう一組の夫婦)6人による会話劇。
一方の会話が途切れた時にもう一方の会話が始まるように上手く組まれているが「会話の中の沈黙」もテーマということで大いに納得。
そして近しい間柄ゆえの妙な気遣いや無遠慮さから生じる気まずい沈黙などリアリティがあって身につまされる……ってか身に覚えアリ。
で、互いにもう一組の会話も聞こえてしまっていそうなのが気になったりも。(笑)
Rhapsody in G
DANCETERIA-ANNEX
大倉山記念館ホール(神奈川県)
2024/06/24 (月) ~ 2024/06/27 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
友人の出演している作品で見に行きました。
良い作品でした。以前見た作品とは違い、スラップスティックな作風で分かりやすい作品でした。しかし深みがあり1度だけの鑑賞だと気が付かないかもしれない要素があり、見れば見るほど面白い作品だと思いました(お金がなかったので1度きりでした)
煙だらけ
大駱駝艦
座・高円寺1(東京都)
2024/06/27 (木) ~ 2024/06/30 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
昨年の阿修羅に続き2回目の大駱駝艦鑑賞です
2つを比べると初めて見た方が強烈なインパクトだと思ってしまうのは仕方ないとして
今回も皆さん素晴らしい身体表現を披露してくださったと思います
男性がよくハイヒールを履き熟しておられたと思います
あと台詞が無いと思っていたので驚きましたw
【延期公演開催】エアスイミング
演劇企画イロトリドリノハナ
小劇場B1(東京都)
2024/07/04 (木) ~ 2024/07/07 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2024/07/04 (木) 14:00
座席1階
精神障害者を隔離・幽閉しておくという時代の物語。実話を基に創作されたというが、現在も精神病院に閉じ込めておくという実態を見逃している医療・福祉行政の日本では、ある意味でリアリティあふれる戯曲だ。
妻子ある男性と恋をして子どもを産んだ女性が、「社会的に不適合である」との理由で「触法精神病施設」に送り込まれる。ここで、軍人となって祖国のために戦いたいという願望を持って男として振る舞う女性と出会う。2人はバスルームの掃除を毎日1時間こなすのだが、監獄のような施設の中で一緒に作業し続けることによって、お互いを支え合うようになる。
出演者はこの2人だけ。休憩を挟んで2時間を大きく超える長さで、これだけの台本を身に着けるのは至難の業だったと思われる。イロドリノハナ主宰の森下知香、演劇集団円の研究所にいたという室田百恵。ラストシーンに近いところで森下が思わず重要な言葉を言い間違えたが、そんなアクシデント補って余りある熱演だった。この2人の演技を見るだけでも、下北沢に行く価値はある。
何十年も閉じ込められ、老いていく2人。こうした時間的な経緯をあらわす表現・演技も見事だった。2人の「妄想」は、死刑を言い渡されて長期間収容され釈放された袴田巌さんの拘禁症状を彷彿とさせる。終幕近くで明らかになる時間的経緯は、こうした人権侵害がつい最近まで英国で行われていたことを示唆する。「狂っている」「不道徳だ」と決め付けられ人生を奪われた2人が、いかようにして生き抜いてきたか。森下は「初めて読んだ時に強い感銘を受け、やってみたい、とひたすらこの戯曲と格闘してきた」とパンフレットで書いている。客席にいるわれわれも、そうした思いに共感して舞台を見つめることになる。秀作だ。
燐華-rinka-
劇団SUNNY
北池袋 新生館シアター(東京都)
2024/07/04 (木) ~ 2024/07/06 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
短編5作品で約70分の朗読劇でした。
ストーリーは様々な方向性で、飽きさせない内容でしたが、ちょっと既視感がありました。
役者さん達の熱演は、声も表情も良かったです。
面白かったです。
土曜の夜に出す手紙
GORE GORE GIRLS
OFF OFFシアター(東京都)
2024/07/03 (水) ~ 2024/07/07 (日)公演終了
魁☆パラダイムシフト
UDA☆MAP
萬劇場(東京都)
2024/07/03 (水) ~ 2024/07/07 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
劇団6番シードの宇田川美樹さん
プロデュースシリーズの最新作。
脚本·演出はやはり劇団6番シードの松本さん。
女性キャスト様のみ。
「悪の概念が無い」未来社会での
正義と悪の戦いは…
懐かしい昭和アニメの
ガチャガチャしたノリと
トホホな笑いに
個性濃いキャラクター皆様。
歌謡パートでは
客席からもサイリウム煌めく
アイドル的ステージが斬新✨
実はメッセージ性も
何となくありつつ
夏祭りみたいな楽しい舞台でありました。
BOX IN THE WORLD
T1project
新宿シアタートップス(東京都)
2024/07/03 (水) ~ 2024/07/10 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
sideB-existence-を拝見。T1projectらしい心に響く作品。ネタバレは全開にはしていない。観劇の興が醒めかねないからである。終演後に追記する。
ネタバレBOX
板中央よりやや下手に電話ボックスらしき物があるが、電話機は見えない。このオブジェ奥に大きな衝立。衝立の端迄が袖となり、出捌けはこの1か所衝立の手前にはビールラックのような物が3個(うち2個は重ねてあり、その横にもう1個が置かれている)、下手側壁奥にはエアコンの室外機の機能部分を取り外した物が2段重ねにしたビールラックを挟むように置かれている。上手ホリゾントの手前にも矢張り下手の物と同様にエアコン室外機の樹脂製枠が置かれ地面に接する辺りには申し訳程度の緑が見える。上手側壁近くには四角いオブジェからにゅっと棒が斜めに突き出したような物がある。また上手客席の縁には土嚢のような物が置かれている。
開演前には、都会の喧騒音が流れている。オープニングと同時に電車の通過音、続いて激しい衝撃音が木霊する。
と男が独り現れ、意味不明な独り言を呟きだす。何故か混乱し、苛立っている模様。男には何かが聞こえているらしいが、幻聴であるのかも知れない。かなり長い独り言の内容からは、男が婚約者に訳も説明されぬまま絶縁を迫られたらしいことが分かる、男には婚約者が総てであった。そこへ別の男が現れる。新たに現れた男は、極めて理屈っぽく独り言を呟いていた男が幻聴を聴き、妄想に混乱しているのではないか? との疑義を提示した為追っ払われてしまった。その後、この場所には次々に様々な人物が流れ込んでくる。奇妙なことに後で流れ込んで来た人物たちからは、同じ地下鉄に乗っていた人だという既視感が告げられる。何故、人々は此処へ来たのか? ここは何処でどんな場所なのか? 等は当初一切分からない。そのうち最初の男が聴いていたのは明らかに幻聴ではなく、電話機の取り外された電話ボックスから着信音が聴こえ、実際に対話者が居るらしいことが、徐々に分かってくる。何となれば後でやって来た人々、一人、一人に対しても電話が掛かってきたからである。個々の発信者は各々の最も大切な人であった。
地の塩、海の根
燐光群
ザ・スズナリ(東京都)
2024/06/21 (金) ~ 2024/07/07 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
公演序盤のステージを観たが書き忘れていた。正直「当たり率」の低迷が個人的には続いた時期があったがこの所、往年の燐光群舞台、坂手洋二氏の筆致が蘇る感覚がある。本作はウクライナに照準した。二年前に関西で行なわれた反戦イベント(渋さ知ラズの名も出ていた)の会場に立って当時を振り返り、この場所で今リーディングを行なうとしているのだと男が語ると、俳優らがわらわらと登場。取り上げるのは、ウクライナ出身作家「地の塩」である。
場面変ってウクライナのとある地方都市の郊外、ロシア語で書かれたこの小説をウクライナ語に訳す使命(ウクライナ人アイデンティティの模索)を自らに課す男と、彼の良き対話相手の妻が登場し、当地で開かれた演劇祭に参加したOFFにそこを訪れた日本人の男女と、草原を見渡すそこで出会う。演劇舞台の話題も少々。
その夫妻の息子が今、自らの意思でロシア(クリミア)に滞在していると言う。やがて息子は帰郷した折、「ロシア人であること/ウクライナ人であること」の意味を探る旅の中で彼が得た必ずしも父母と考えを一にしない考えを告げる。
ある場面ではロシア・プーチン大統領の演説が、説得力を持って演じられる。プーチン大統領の資質についても語られる。が、彼を礼賛するネットの記事や書き込みの中には不正確で盛った事実も随分あると、日本人のリーディング話者らの会話により紹介される。引いては日本のリベラル派識者の中に「さえ」ロシアを擁護する人間がいる事を嘆く台詞も。
ウ露関係を前世紀から歴史的にひもとき、現在の状況の本質を作者なりに捉えた現在地は、横暴なロシア・プーチンの所業はどこまでも看過すべきものでない、というものだった、と思う。そこに結論の押しつけ感はなく、ウクライナにも様々な声がある事、我々は事態を「よく見て行く」責務がある事、この結語へと芝居は収斂する。
ウクライナの場面では、「地の塩」翻訳の志が事態の緊迫により頓挫した、とあったがそこから時を経て(確かそこがエピローグ)、翻訳作業は妻が引き継ぎ、ほぼ彼女の手で完成を見た事、夫は「地の塩」の続きを「海の根」と題して書こうとしている事、その未来への眼差しで芝居は幕を下ろす。
今回の舞台装置は十年近く前観た舞台(不正確だが「ゴンドララドンゴ」あたり)で使われた、前方客席をえぐり取って残った最前列前に壁を据えて、死角部分が「袖」代りという設え。奥側へ傾斜した舞台を見下ろし、手前の壁上のエリアでの演技を超至近距離に見る。これの視覚的な塩梅も面白かった。
ANGERSWING
劇団Q+
駅前劇場(東京都)
2024/07/03 (水) ~ 2024/07/07 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
WINGチーム
オープニングは柳本璃音さんが袖に立ち、ギター片手に一曲。家族の紹介から入る。幕に映像を投影して映画+演劇の趣き。その幕が開くと広がるのは本気の舞台美術。アメリカかイギリスか、外国の屋敷の居間と庭が眼前に見事に広がる。
屋敷の主人が亡くなった。家を出たアレルギー過敏症の長男(中西良介氏)は会社を経営していて忙しい。実家に暮らす長女(はらみかさん)は出版会社に勤めている。家を出た次男(林新太氏)は船乗りになって遠くへ。連絡を絶っている末っ子の次女(柳本璃音さん)は高校を中退してシンガー・ソングライターとして奮闘中。知らせを受けた家族が久し振りに集う。そこに数十年振りに姿を現したのは家族を捨てて家を出た大女優の母親(佐乃美千子さん)だった。
大女優役の佐乃美千子さんが美しい。岸恵子と阿川佐和子を足したような美人。この役は井上薫さんにもやってみて貰いたい。世間知らずの常識のない女を装いながら、実は誰にも言えない苦しみを抱えてきた。
そして葬儀屋の今井勝法氏。作品を喰ってしまう強さ。『ヨコハマ・ヤタロウ』シリーズで圧倒的な主演振りを見せつけた化物。コメディーリリーフじゃ勿体無い。こっちのストーリーもSWINGさせるべき。
くしゃみばかりの中西良介氏の奥さんに佳乃香澄さん。おっとりとした天然。
はらみかさんの旦那に布施勇弥氏。堺雅人っぽい。
林新太氏の恋人に北澤小夜子さん。ネイティヴ・アメリカン衣装。
亡くなった主人役の益田恭平氏は星野源っぽい。
物語のキーとなる森本遼氏は朝倉海っぽい。
オーディションで選んだだけあって、配役が見事。女優陣に華がある。演出家は役者一人ひとりのキャラを見事に引き出している。
タイトルの意味は『怒りの揺れ』、もしくは『怒りの翼』。母親に黙って棄てられた怨みと価値観の違いからどうしても判り合えない兄妹の怒りと苛立ち。
是非観に行って頂きたい。
ネタバレBOX
亡くなった主人(益田恭平氏)と演劇仲間だった森本遼氏の関係性が肝。二人は胸に秘めた同性愛者でずっと互いに惹かれ合っていた。益田恭平氏が佐乃美千子さんと結婚したことで姿を消した森本遼氏、偶然数十年振りに再会する。二人は堪え切れぬ欲望に呑まれ本能の赴くまま貪り合う。その光景を目の当たりにした佐乃美千子さんはショックで家族を捨てて遠くへ逃げた。自分の為したことに責任を感じた森本遼氏は自殺。子供達と家に残された益田恭平氏は世捨て人のように生きた。
二場の大学時代の『ロミオとジュリエット』のシーンが退屈。情報量が多い割に内容がない。佐乃さんは益田氏と森本氏の仲を裂こうとするべき。詩は結婚を知った森本氏が別れの時に残すべき。隠れてその詩をずっと大事に読み続けていた益田氏が再会と共に告白するべき。はらみかさんの借用書(詩の出版)のくだりはいらない。益田氏から別れを打ち明けられて、傷ついた佐乃さんは去っていく。(子供達を捨てて自分から去っていくのはおかしい)。森本さんは耐え切れなくなって自殺、の流れか。
同性愛の描写が下手。ただの性欲の発散になっている。
両親の青春時代は韓国映画っぽいセピア色。現在は皆スマホなのにインターネットが普及した世界に見えずあやふやな時代感覚。