白衛軍 The White Guard 公演情報 新国立劇場「白衛軍 The White Guard」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    「戦禍に翻弄された三兄妹」

     ミハイル・ブルガーコフが1924年に発表した同名の自伝的小説を、翌々年に『トゥルビン家の日々』と改題しモスクワ芸術座で初演した作品である。今回はオーストラリアの劇作家アンドリュー・アプトンが誂え直し2010年にイギリスのナショナル・シアターで上演した台本の日本初演である。

    ネタバレBOX

     2度の革命で帝政ロシアが崩壊した翌年の1918年、ウクライナの首都キーウに住む上流階級のロシア系トゥルビン家の三兄妹のアパートには、長兄アレクセイ大佐(大場泰正)が所属する旧ロシア帝国軍である白衛軍の軍人たちが集う。革命後のロシアでは、白衛軍とウクライナ独立を目指すペトリューラ軍、そしてソヴィエト政権樹立を目指すボリシェヴィキ(赤軍)が対立関係にあった。妹のエレーナ(前田亜季)は夫のタリベルク(小林大介)の帰りを待ちながらも、大雪のなか家までたどり着いた大尉ヴィクトル(石橋徹郎)や従兄弟で詩人のラリオン(池岡亮介)らの世話をし、明日からの戦いを前に酒を酌み交わす軍人たちの面倒をみている。末弟で士官候補生のニコライ(村井良大)は戦線への士気が強いが、まだまだ危なかっしいためにアレクセイやエレーナの心配の種だ。白衛軍を支持するゲトマン軍副官のレオニード(上山竜治)はエレーナに思いを寄せていて、ここ最近のタリベルクの行動に不安をいだいているエレーナも悪い気はしてい。ウォッカで乾杯する家の外では時折銃声が鳴り響いている。

     翌日の早朝、ゲトマン軍の宿舎に来たレオニードは、元首のゲトマン(釆澤靖起)が白衛軍に協力していたドイツ軍の斡旋でドイツへ逃亡する現場に立ち会う。戦線が一変し危機的状況に追い詰められる白衛軍たちに、大隊長ボルボトゥン(小林大介)率いるペトリューラの大軍が迫ってくる。はたしてアレクセイやニコライは無事に帰れるのか、そして彼らを待つエレーナにはいかなる運命が待ち受けているのかーー

     ロシアによるウクライナ侵攻を否が応でも想起するこの歴史劇は、いつの時代にも変わらない戦禍に翻弄される人びとを生々しく描き、我々観客の胸を強く打つ。回り舞台と奥行きある舞台機構を存分に使い、冬のキーウのトゥルビン家やゲトマン軍宿舎、ペトリューラ軍の司令室そして凄惨な戦場となる白衛軍の軍事拠点である学校と、場面は目まぐるしく移り変わっていく。トゥルビン家のささやかな歓談やコミカルなやり取りから一転、情け容赦ない戦地の描写は悲惨そのものである。凍傷のため無許可で戦線を離れたコサック兵(前田一世)を無慈悲にも殺害し、ユダヤ人のスパイと疑った靴屋(山森大輔)から靴を強奪するなど、ペトリューラ軍は特に残酷に描かれる。仲間たちや学監のマクシム(大鷹明良)に戦線を離脱するよう説得し、最後まで大佐としての責任を果たそうとしたアレクセイを演じた大場泰正は舞台が大きい。

     戦線で大怪我を負ったニコライは家に帰れたものの、眼の前でアレクセイを殺されたこともあり心に深い傷を負い冒頭の明るい様子は微塵も見せない。芯の強いエレーナが見せる慟哭を、前田亜季が印象深く演じていた。


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    2024/12/26 20:12

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