リセット 公演情報 文学座「リセット」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    ひと言でいうと、とある危うさをはらんだ家庭を舞台とした「不条理演劇」。

    本作の特徴は、主要な登場人物が「軽い認知症の気がある祖母」「アルコール依存症気味な家父長にして母」
    「正体がつかめない息子と名乗る男」と、全員が信頼性に欠ける“語り手”という点で、誰をどのくらい
    信用するかで受け取り方も結構大きく変わってくるかなと思います。

    ネタバレBOX

    家の屋根も壁も大きく傷み修繕を要するほど古い家屋に老いた母と2人暮らす家父長の女性。

    夫の存在は最初から全く言及されず(リビングには写真すらない)、彼女の頭を占めているのは
    20年前に台風が襲った日から姿をみせなくなった息子で、失踪宣告こそ出たものの、どこかで
    生きていることを信じてやまない。

    そんな女性の元を1人の「息子」と名乗る男が訪ねてくる。祖母は男を孫と認めたものの、肝心の
    女性はどうしても息子と思うことができず、両者の間には消せない亀裂が生じる。

    家の中のことを徐々に我がもので切り回していく男に危機感を覚えつつ、出ていかせることもできない
    女性のもとを、今度は「息子の妻」と名乗る女が訪ねてきて……。

    先にネタバレすると、女性の息子は台風の日に亡くなっており、女性は発見したその遺体を自室の地下深くに
    埋め、息子がどこかで生きているのだという念に至った(地下の遺体はDNA鑑定の結果、息子のものと断定
    されたとのこと)。

    女性が修理工や何かと思っていたのは、精神病院のスタッフで、息子を名乗る男性は実は病院の医師だった。
    そう、女性はいつの時期かは判然としないものの、病棟の患者だったのだ……。

    ……と物語を単線で追っていくとこんな感じなのですが、ネタ明かしされた範囲のことしか分からないため、
    どこまでが女性の妄想で、どこまでが実際にあったことなのか、ほとんどのことが実は闇の中なのだという
    事に気づかされます。

    ただ、これが新しいなあと思ったのは、すでにこの作品と比較されている安部公房「闖入者」だと、平穏な
    日常が闖入者の理不尽な乱入によってかき乱され、最後は破滅を招いていくという結果に至るんですけど、

    この話って闖入者が入り込んでかき乱すところまでは一緒(=不条理演劇のお約束なフォーマットに乗っかって
    いる)なんですけど、女性のいる日常が袋小路でがんじがらめになってにっちもさっちもいかない、一見平穏ながら
    実際は真綿で首を絞められている状況で、闖入者の乱入はある意味「破滅」どころか「救済」を招いていんですよね。

    母親の面倒を十分に見ることができず、支え合うはずの存在である夫は不在(夫が最初からいないのさりげないながら
    大きな意味を持っていると思っています)、親から継いで幼少からの記憶が根付いている家はもはやボロボロで対応を
    求められている。

    いわば古いものを両肩にしょい込んで動けなくなっているのが今で、「息子」の到来は物語を通じて見ていくと荒療治
    ながら状況を動かしたという意味で「救い」にはなっていたのかなと。そういうことって舞台を離れたところでもたくさん
    あるというか、そういうことだらけですよね……。

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    2025/03/21 19:21

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