満足度★★★★
ソビエト崩壊後のロシアで、祖国を追われた詩人と父に捨てられたと思い込んだ娘の葛藤を軸にした物語。事前に「翻訳劇っぽい」という感想を複数見かけたため、(翻訳劇が苦手なので)ちょっと覚悟して観劇に望んだが杞憂にすぎなかった。モデルとなった社会的背景等は断片的な知識しか持ち合わせていないため、わたし自身が長田さんのメッセージをきちんと受け取れているとは思えないけれど、確実に心に響いたものがあり涙が溢れたのだと思う。今回、個人的には親子関係の葛藤が一番感じるものがあった。忘れてしまったほうが楽になれるのに、それでも苦しみながら考え続けてしまうのは諦めていないという事で・・・。娘が父の言葉と向かい合い続けるのはきっと理解する事を諦めていないからだと思う。
タイトルの「対岸」とは求めても手が届かないものの象徴のように感じた。 物質的に豊かになりすぎた世界は、自由を欲する気持ちを失わせるのだろうか。「アメリカに彼の詩を本当に必要としている人はいなかった」という意味の台詞が印象的だった。最低限の言葉で表現され、受け手によって容易に形が変わるという点で詩と戯曲は似ているのではないかと感じた。このお芝居、もっと違う切り口でも考えられたらいいのに思う。民族とか性的マイノリティとか国家の矛盾とか。そういう意味でもせめてもう一回観たかった。俳優陣は相変わらず達者な方ばかり。今泉さんのバレエがお見事。箱田さんのファーストシーンに驚き。