Hamlet 公演情報 演劇集団 砂地「Hamlet」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    ラディカルな解釈 花四つ星
     今作の底本はQ1版である。リーフレットの説明によればHamletの底本には3種類があり、通常使用されるQ2,F1はQ1より長く科白も異なるという。またシーンの順序も異なる。構成、台本、演出を担当した船岩氏が敢えてQ1を選んだのは物語の展開が他の2版より分かり易いと感じたからだという。

    ネタバレBOX

    更に登場人物たちの与える印象が、自らが上演し
    たいと思った「ハムレット」という作品イメージに符号していたからだという。無論、Q2,F1からも借用した部分はある。だが、今回の上演台本を創るにあたり根本的に他の2版より短いQ1版では、削るより足す方法が採られている。結果、非常に現代的なハムレットになった。衣装も完全に現代ならば、科白回しも現代語訳である。而も固有名詞が用いられることは殆どない。その代わりに強調されるのが、各人の役割である。現王は現王の、妃は妃の、王子は王子の、その恋人は恋人の、宮廷貴族は宮廷貴族の、墓堀は墓堀の役を恙なくこなしているのである。そういう機能の中で門題化されるのが、制度と人間の関係である。シェイクスピアの生きたエリザベス朝は無論王政であるが、原始共産制以外の社会システムはその基本構造は同じだという事もできる。(学者が聞いたら目を剝いて怒り出しそうだが)即ち収奪する者とされる者である。収奪する側は富、権力、権威、知、軍事力、名声、名誉、社会的地位などの総てを独占し、収奪される者を支配する。
     To be or not to be, that is the question.という有名な科白も今作では“生きるべきか死ぬべきか云々”との訳ではない。一応、先王の亡霊から復讐を委ねられたハムレットが悩む場面で、イマイチ座りが悪いように思われたのは、真に彼が対決すべきであったのは、この制度という怪物であったにも関わらず、彼の生きた時代(と我々の時代も含めて)煩わしい人間関係から目を転じて関係そのものに着目できる知性が余りに少ないことを表している。そしてこのことこそが、ハムレットが真に悩むべき問題であった。ちょっと抽象的になるが、ハムレットの真の悩みは、それにうすうす気づきながら、問題を的確に処理できなかったことにあろう。
    観劇後、何とも言えない蟠りのようなものが心の奥底に残ったのは、今作がこの辺りの事情を提起できた証拠だろう。実験的でラディカルな演出、それに応えた役者陣、殊にハムレット役、オフィーリア役、クローディアス(&先王)役らの演技、そして墓堀(マーセラスも)役は気に入った。

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    2016/05/25 00:50

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