満足度★★★★
密やかな官能性
女2人と男1人の濃密で曖昧な会話劇で、単純に笑えたり泣けたりする場面は皆無でありながら、冒頭からラストまで求心力を保ち続ける充実した作品でした。
昔の思い出を象徴する様なまだらなモノトーンに塗られた家具や調度品が舞台奥に並べられ、物語は客席に浮く様に張り出した正方形に近い赤いカーペットの敷かれたステージで展開しました。
交される会話は3人それぞれの記憶が異なっていて、何が事実なのかが分からないまま進んで行き、終盤でようやく少し明かになったかと思うと、明確な事実が判明することも無いままに終わってしまい、記憶の曖昧さがそのまま舞台上で表されていたかの様でした。
音楽や効果音はほとんど用いられず、誰も喋らない間も多い、静かな作品でしたが、思わせぶりな視線のやりとりや体への接触がミステリアスかつ官能的で、引き込まれました。舞台の形状や昔話を語る形式が能を思わせました。
室内を舞台にした登場人物3人だけの作品に日生劇場の空間は広すぎるのではと懸念していましたが、客席と舞台との間に空気の壁が感じられことによって、リアリズムの演技で台詞も海外戯曲ならではの違和感も無かったにも関わらず、どことなく現実離れした感じが出ていて良かったです。
最初と最後の演出も大空間ならではの表現となっていて効果的で強く印象に残りました。
終演後にルヴォーさんによる公開ワークショップがあり、柔軟な即興能力とコミュニケーション能力を要求する課題を若手の役者4人がこなす様子が興味深かったですのが、役者達がすぐにふざけた笑いの方向に持って行ってしまうのが残念に感じました。