地下室 公演情報 サンプル「地下室」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    7年経っても全く古びない傑作
    数年前の作品の再演だというのに、古びるどころか、
    ある部分では、現実が劇の世界にゆっくりと近づいていっている。
    そんな気配すら感じました。広いと思っていたはずの自分の周りの
    世界が、実は閉ざされ切っている、でも、それに気がつかない。
    滑稽なようでいて、誰にでも在り得るその恐ろしさに震えが走りました。

    ネタバレBOX

    サンプル立ち上げ前に、「青年団若手自主企画」として2006年に
    初演された作品、『地下室』の再演。サンプル大好きなので期待
    していました。

    劇団『サンプル』の大まかな特徴は、
    ①閉鎖された狭い空間の中での、不条理で飛躍する物語展開
    ②直接的、かつ極端な性的表現
    ③引きこもり、閉じた、コミュニケーション不全の病んだ登場人物達
    ④ごみ袋をひっくり返したかのように雑然とし、でも大胆な舞台美術

    があると思っていますが、本作は劇団最初期の作品なので、まだまだ
    平田オリザ直系の現代口語演劇、ちゃんとしたプロットのある物語に
    なっています。が、既に、作者である松井周氏の個性は確立されてますね。

    『地下室』は、特殊な製法の水で話題を集めつつある自然食品会社の
    閉鎖的な地下室を舞台に、そこで住み込み制で働く人々の、一種異様な
    集団原理を描いた作品です。

    閉ざされた空間では集団も閉ざされる。コミュニティの中では、「一人は
    集団のもの」という「共有(シェア)」の原理が確立され、守れない者には
    厳しい追及が待ち受けている。

    揚げ足を取られ、激しく消耗し、集団の言葉、規則は絶対であると、
    真っ白になってしまった頭に叩き込まれた後は、店長による、
    「イニシエーション」という名の「交わりの儀式」が行われる…。

    ここまで読んで、「これってカルト教団や過激派のコミュニティで
    起こっていてもおかしくないよね」と思うかもしれません。まさに
    そうで、集団の中でしか通用しない不条理なルール、外部からは
    コミュニケーション不全に見える組織構造、やたら性的に乱れて
    ぐちゃぐちゃになった人間関係など、

    ある種の、人間の集まりの赤裸々な姿をのぞき見たような気分に
    陥りました。

    個人的には、現在の日本社会で一部叫ばれる、「私欲から共有へ」、
    「お金より大切なものはある」という言葉が、本作では、歪み切った
    コミュニティをつなぎ止める一種のマジックワードになっているところが

    あぁ、今の時代の空気感を見事にすくい取っている傑作だな、全然
    古びていないな、と強く思わせる要因になり、非常に楽しめました。

    登場人物の一人が叫んだ、「今、目を開いたって、外の世界は汚い
    ものばかりじゃないか!」、「お前もいい加減目を閉じろ!」という
    台詞、あまりに秀逸過ぎてうまい感想が思い浮かばないほどでした。

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    2013/02/17 12:33

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