満足度★★★★
しみじみと通う父娘の情愛
2月の紀伊國屋サザンシアターの公演を見逃してしまったので、急遽、川崎で観ることになった。
10年間、上演を続けてきた作品だということも初めて知った。
地味な内容のせいか、客席の観客は圧倒的に中高年や高齢者。
古めかしいホールに、いかにも新劇らしい雰囲気が漂い、タイムスリップした気分。
2月公演の時、松川事件を扱っているだけに重厚な作品かと思ったら、新聞、雑誌などにコメディタッチの明るいホームドラマと紹介されていたので、どんな作品かと期待していた。
しかし、実際に観てみると、最初に想像したイメージに近く、とても明るいホームドラマとは思えなかった。
テーマから「堅い」と敬遠されないために、そういう紹介記事になったのかもしれないが、ちょっと変な気持ちになった。
文学座の「くにこ」のときに文芸作品を期待したら明るいホームドラマ調だったので、紹介記事を読み、この作品もそうなのかと思ってしまったのだ。
三代で作家の広津家を描いているだけに、やはり文芸作品という趣の戯曲である。
小津安二郎監督の「晩春」が広津和郎の原作で、和郎・桃子父子がモデルということを踏まえて観ると、しみじみとした親子の情愛がいっそう鮮やかに迫ってくる思いがした。