満足度★★★
チェーホフと狂言の親和性
チェーホフの短編を狂言の様式に翻案した新作と定番を茂山家の若手役者が演じ、敷居の高さを感じさせない親しみやすい雰囲気の公演でした。
『熊』(原作:チェーホフ)
登場人物の名前と文体が狂言の様式になってはいますが、台詞は概ね原作通りでした。意外と違和感がなく自然な話の流れになっていたと思います。特に貸した金を取り立てに来た男が水や酒を家の従僕(太郎冠者)に要求する下りは、狂言作品によく見られる同じ行動の繰り返しで笑わせる手法に重ね合わされていて、興味深かったです。
終盤でのピストルでの決闘シーンは武器を刀や弓に置き換えるのかと思いきや「ピストル」という単語をそのまま使い、出てきたのは昔ながらの竹製の水鉄砲、しかもそれを見た男が「スミス・ウェッソン製の立派なものですな」と原作通りの固有名詞が含まれた台詞で畳み掛けて、とても笑えました。
原作にはない、従僕の後口上りで締めたのも程良く様式感が演出されていて洒落ていました。
太郎冠者を演じた茂山宗彦さんの台詞を本当に忘れたのか演技なのか分からないようなスリリングな老人っぷりが楽しかったです。
『附子』
有名すぎて逆にあまり観る機会がなく、久々に観た演目ですが、前半の何度も繰り返される動作と、後半のとんち話的な展開がやはり小気味良かったです。
次郎冠者を演じた逸平さんのとても小心そうな振る舞いがチャーミングでした。太郎冠者・次郎冠者ともにこやかな表情で演じていたのが印象的でしたが、個人的にはもっと真面目な表情で馬鹿馬鹿しいことをしているタイプの演技の方が面白くなりそうだと思いました。