1
グランパと赤い塔
青☆組
優しい気持ちになれました。
昭和44年7月、目標が定まらない受験生の女子高生が、新盆のためかつて一緒に住んでいてもうすぐ取り壊される祖父母の家を訪れた際に、東京タワーが立った頃の大所帯の様子を回想し、英語が好きで国際ジャーナリストになりたかった夢を思い出し、前向きになる話。
明治の人だからというわけでもないでしょうが、経営者とその妻には覚悟がありました。昭和33年頃は陰に陽に原爆の影響が色濃く残っていました。戦時中急いで見合い結婚した夫婦に愛情があったのか無かったのか、あって良かったです。歳を取ると親に似るって本当ですね。上手い演出でした。そして何より、女子高生と小学生を演じた今泉さん、可愛くて素敵でした。
特段事件が起こるわけでもなく、日常を描いて優しい気持ちにさせてくれる素晴らしい作品でした。
天体望遠鏡を見るととある作品を思い出しますが、それはさておき、時空が広がる素敵な小道具です。
2
ライセンス
タッタタ探検組合
今年一番面白かったお芝居でした!!
自動運転が当たり前になり、誰でも免許なしで自動運転車を乗りこなせる時代に、敢えて免許を取ろうとする人たちと極力諦めさせようとする自動車講習所の教官たちの話。
死亡事故を起こすのは免許を持つ人だけという時代背景を思いつく発想力が素晴らしいです。
そして、狂気を帯びた所長、結婚相手を探す目的で来た色狂いの女性、美人のようで良く見るとそうでもない女性等々それぞれが個性豊かでした。
今年一番面白かったです。しいて言えば、年配の人がちょっと素人っぽかったのが難点でした。
3
60'sエレジー
劇団チョコレートケーキ
1960年代のエレジーだったのですね。本当に素晴らしかったです。
1960年代の町工場。高度経済成長に乗っかり、現在不況に苦しむ中小企業の話かとつい勘違いしていました。蚊帳を製造する町工場。時代の流れに乗れず、没落していく産業に従事していた人々の話でした。
昭和40年頃が私の蚊帳体験の最後のような気がします。東京で言えばアパートに網戸ということでしたが、電子ベープも出回り始めましたね。
地主の立場からすると、蚊帳工場、アパート、そして今度はマンションという流れになります。親の心子知らず、かつての金の卵の少年が安藤さんのアパートに住んでいたことで、工場のおかみさんはずっと見守っていたいたというラストシーンは感動物でした。空襲の影響も描くところなど、作品作りの素晴らしさが光りました。
土地を地主に返すに当たり、借地権割合のことが全く話題になっていなかったことは見落としだったのではないかと思いました。
4
ぼうぼう
なかないで、毒きのこちゃん
忘忘か、妄妄か、亡亡か。希望の望望でもありたいですね。
高校の卒業式の後でミニライブを開こうと、卒業式前日から小さな会場を押さえて練習しようと計画したばかりに津波で仲間を失うことになったももちゃんの、6年経った今でも後悔にさいなまれ、当時を忘れられずに妄想する日々を描いた話。
ときめきパイナップルズというグループの、そのアイドルグループっぽい楽曲と振り付けがとても素敵で、みんな楽しそうで、ハッピーな時間を共有しただけに、その後の衝撃があまりにも大きく心が痛かったです。何とも悲しい話でした。
若い人が亡くなるのはいつもとても悲しいことです。
5
遠き山に陽は墜ちて
劇団肋骨蜜柑同好会
今期最高!!!
バラとの関係で悩んで星を出た王子様が、太陽活動の活発化による太陽風の影響で地球に不時着し、地球人と接し地球のバラを知るうちに心の悩みが少し解消できたのか、次の太陽活動が活発化したときを狙って地球では生きづらい青年を伴って帰還する話。
謎の赤い謎の女性がバラ、人間なのかそうでないのかと思われた生き物が星の王子様と分かった時点で全てが了解できました。
大人のための銀河鉄道の夜と謳ったばかりにそこに拘泥されてしまう人も多かろうと可能性を狭めた前日に観た『思い出せない夢のいくつか』に比べ、何の前提もなく観て本家を知る楽しさを味わえたこちらの方が本物だと思いました。
赤いオーロラ風景は宇宙の神秘を見せてくれる素晴らしいシーンでした。
開場の時点から役者が舞台に立ち続け、倒れ続け、座り続けるなどの演出は可哀そうだと思います。
6
ダークマスター東京公演
庭劇団ペニノ
本格的で素晴らしい。いい匂いがして腹が減りました。
自分探しの旅をしている若者を、人間を超えた存在が料理人の技を付けさせることで一人前にする話。
二時間半、ずっと引き込まれっぱなしでした。
本格的に火を使った料理芝居でした。ふわふわオムライス、ステーキ、ナポリタンなどは本格的に作りました。コロッケや野菜炒めは途中からでした。若者がマスターの作ったオムライスを食べたとき、手前に何か物が置かれていて手元が見えなかったのは残念でした。中国人に出したときのステーキは、フライパンから出した後の塩コショウがなくて詰めが甘い感じがしました。
最初に若者が水を飲んだとき一杯だけでした。喉が渇いていてしかも飯は食わせてもらえない状況なのですから二杯以上がぶがぶ飲むのが普通だと思いました。ラストに、別の自分探しの若者が二杯飲みましたが、それなら逆でも良かったのではないかと思いました。
男として自信が付くことは良いことですが、不遜な態度を取りがちになるのが人間の常なのか、二階に消えたマスターや新しい若者の出現などで、杜子春の夢のようにも感じました。
米粒大のイヤホンを付けたもう一人の人はマスターのことなのか、それとも近隣に別の人がいたのか気になりました。
7
少年期の脳みそ
玉田企画
初演も観ましたが、やっぱり面白いですね!
卓球が今程人気がなかった時代の、夏合宿で来た高校卓球部の宿の様子にめんどくさいを振り掛けたような話。
鮎川桃果さんの微妙な表情の変化が素敵でした。相楽さんが超メジャーになった今、次は鮎川さんの番です。頑張ってほしいと思います。
8
「電車は血で走る」「無休電車」(本日6/24 14時電車・19時無休電車 当日券ございます)
劇団鹿殺し
『無休電車』観劇
『電車は血で走る』から5年後、上京する劇団員たちの話。
2008年に初めて『電車は血で走る』を観たときに、演劇を続けたいという気持ちがビンビン伝わり感激しましたが、その後30前後の役者によるその種のお芝居を数多く観るにつけ、その年頃の役者が必ず通る通過儀礼だと理解し食傷気味になっていました。
そして、途中までやはりそのような思いが強かったのですが、鉄子が100%孫を応援するお祖母さんだと分かり、ウルっと来ました。『電車は血で走る』よりもむしろこちらの方が良いのではないかと思いました。
お芝居にあったようなゲリラパフォーマンスとは異なると思いますが、2009年7月に新宿駅南東口広場で偶然見掛けたミニライブでチョビさんに、『電車は血で走る』が私の2008年最優秀作品賞だったことを告げたことを懐かしく思いました。
『無休電車』は2013年の再演でしたが、東京に移転した時点が2017年4月頃であるとのセリフがありました。とすると、冒頭の多くのサラリーマンが駅のホームで新聞を広げているシーンが古臭い、今時あり得ないシーンのように思えてきました。たった数年でホームの風景は一変しているのだと思います。
9
親愛ならざる人へ
劇団鹿殺し
奥菜恵さん、最高でした。文句なく面白かったです。
結婚式前夜、結婚式で読むお父さん、お母さんへの手紙を書こうとしたところ、愛情が感じられる思い出が浮かんで来ず、徹夜で四苦八苦する新婦でしたが、本番では両親や新郎までもが手紙を披露し、銘々の本音がぶつかり合うことで修羅場となりました。しかし、その本音の中に普通の家庭ならではの愛情や絆が確認でき、新婚夫婦も新しい家庭を作ることへの確信が持てたというようなことを描いたドタバタコメディ。
愛情を斜めから眺めたところが素晴らしかったです。
皆さん個性的でしたが、特にちょっと汚い言葉を使う奥菜恵さんのはっちゃけ振りは凄まじく新鮮で素敵でした。倍くらいの歳ですが、元気いっぱいさは広瀬すずさんのような雰囲気で、以前からこんな感じで使われていたらもっと人気が出ていたかもしれません。本当にはまり役でした。
誰にも主人公になるほどの際立ったエピソードがあるわけでもありませんが、どこの家庭にも愛情があるというメッセージ性も控えめで素敵でした。
娘の頭の中に急に呼び出されたのでこんな格好で、と言って出てきた母親の登場の仕方も面白かったです。ただ、結婚式コーディネーターが案内役となって進行する手法は予定調和的というか、これから始まる騒動はコーディネーターが今現在も現職でいられる程度のことですからと暗示しており、観る側の期待値が下がってしまいます。
10
柳生企画『ひたむきな星屑』
青年団若手自主企画 柳生企画
だるい感じがいいのかも
最近できた高速道路のサービスエリアだけが産業の何もない町で、手抜き工事から高速道路が崩壊し、サービスエリアの飲食店、ひいては町自体が崩壊していく様と、その飲食店で働いていたさせ子と元させ子の交わりを描いたような話。
イライラさせる女性や金を持って逃げた過去のあるダメな女性、適当な男たちに、非日常的な日常が絡む、全くひたむきでないクズな話でした。