殊類と成る
劇団肋骨蜜柑同好会
Geki地下Liberty(東京都)
2019/12/05 (木) ~ 2019/12/10 (火)公演終了
満足度★★★★
面白かった。いや面白いというか、だいぶ迷子になりつつ観ていた。エピソードと寓意の森林を歩きながら自分がいま(物語の中の)どこにいるのか見失い、進むうちに来た道と行く道が見えてきた気がした。帰りの電車の中で登場人物一覧を眺め、なるほど、と思ったり。
最後まで観て登場人物の人となりや関係がわかった上で、もう一度観てみたかった。もろもろの都合でリピートできないのが残念。でも、その代わりというわけではないけどとりあえず台本を予約した。
少女都市からの呼び声
流山児★事務所
Space早稲田(東京都)
2019/12/06 (金) ~ 2019/12/18 (水)公演終了
満足度★★★★
アングラ感満載の、奇妙で猥雑で詩的で切ない物語。
手術中の男の腹から見つかったのは、生まれなかった少女の黒髪。眠りの中で男は少女の生きる街へと旅立つ……。
田口を演じた井村さんの透明感のある雰囲気が虚構と現実を行き来する役柄によく似合った。雪子役の山丸さんはあどけなさの中に奔放さと脆さを感じさせる。フランケ役の伊藤さんの存在感、有沢役の山下さんの誠実な印象、他のキャストもそれぞれに個性的で魅力的だった。
義経千本桜
花組芝居
あうるすぽっと(東京都)
2019/12/13 (金) ~ 2019/12/22 (日)公演終了
満足度★★★★★
花組芝居『義経千本桜』全段通し。場面ごとエピソードごとのメリハリとテンポの良さで長いはずの物語がいつのまにか終わっていた。
役者陣の所作の美しさ台詞の確かさにいまさらながら目を引かれる。特に源九郎狐を演じた谷山さんの凛々しさとユーモアのバランスが絶妙だった。
彗星はいつも一人
ことのはbox
武蔵野芸能劇場 小劇場(東京都)
2019/12/12 (木) ~ 2019/12/15 (日)公演終了
満足度★★★★
テンポの良い進行や少し不思議な設定で描かれるのは長い年月ある人を思い続けた1人の女性の物語だった。
笑い多めに進む前半から、様々なパーツがピタリとハマって積み上げてきた想いが明かされる後半へとストーリーに引き込まれ、観終わった後も温かい余韻が続く。
キレイ -神様と待ち合わせした女-
Bunkamura
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2019/12/04 (水) ~ 2019/12/29 (日)公演終了
満足度★★★★★
めっちゃ面白かった。
いや、考えてみれば描かれているのはけっこう無惨なことなのだ、と思ったりもするけれど、作品そのものは音楽や笑いもたっぷりの、華やかな見せ場も多い楽しい舞台だ。
寓意や象徴めいたアイコンがたくさん登場して、リピートしてみてみたい作品だった。
『僕と死神くん』『KNOCK KNOCK KNOCK 或いは別れた記憶たち』
ポップンマッシュルームチキン野郎
シアターサンモール(東京都)
2019/12/18 (水) ~ 2019/12/22 (日)公演終了
満足度★★★★★
僕と死神くん:シリアスな導入部からいきなりの死神くん&死神ガールズ乱入に度肝を抜かれ、すっかり物語のペースに巻き込まれてしまった。この劇団らしい突拍子もない登場人物やちょっと下世話な笑いも盛り込みつつ、家族の物語として収束させていく手際が見事。
『KNOCK KNOCK KNOCK 或いは別れた記憶たち』:人の記憶や思考を覗き見る技術で仕事を請け負う幹雄と一平が、老小説家の脳内で未発表のアイディアを探す……という枠組で描かれる、多彩な短編たち。そして幹雄自身の隠された過去。短編はさまざまなテイストながらそれぞれにクオリティが高く、軸となる幹雄の物語では、主演の野口オリジナルさんがとにかくカッコよくて、一平役のNPO法人さんとのバディ感や、弱さと強さの間を揺れ動く場面なども印象的。各短編と全体の物語それぞれの魅力があいまって、いろんな意味で面白かった。
貧乏が顔に出る。
MCR
OFF OFFシアター(東京都)
2019/12/26 (木) ~ 2019/12/30 (月)公演終了
満足度★★★★★
MCRの作品はどうしてこんなに刺さるんだろう。
ロクでもない奴らばかり出てくるのに他人事とは思えなくて、自分の弱いところにヤスリでもかけられたようにヒリヒリする。そのくせそいつらが馬鹿みたいに愛おしい。
特にあの役を書いて自分で演じる櫻井さんなんて、ズルいにもほどがある。
うるう
中京テレビ放送
東京グローブ座(東京都)
2019/12/28 (土) ~ 2019/12/30 (月)公演終了
満足度★★★★
ひとり芝居だということを忘れるほど多彩な表現と優しくてせつない世界観をチェロの響きが彩って、吸い込まれるような約2時間。
観ることができて本当によかった。
コンドーム0.01
serial number(風琴工房改め)
ザ・スズナリ(東京都)
2019/10/25 (金) ~ 2019/10/31 (木)公演終了
満足度★★★★★
面白かった。めっちゃ面白かった。
コンドーム新製品開発に取り組む開発部を中心に企画・広報・営業、それぞれの立場と個人としての想いを、序盤は笑い多めに、そしてしだいに切実に描いていく。
男性側から見た性の話だけれど、女性作家ならではの目線が感じられて心地よかった。
伯爵のおるすばん
Mrs.fictions
吉祥寺シアター(東京都)
2019/03/20 (水) ~ 2019/03/25 (月)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2019/03/23 (土) 14:00
大切に思っていた物語が、スペース的にも時間的にも豊かに綴り直されて新しい作品として立ち上がっていた。
今回加わった場面や台詞は直接ストーリーを進めるものではないはずなのに冗長な印象にならないのはそれらがどれもしっかり面白かったからだろう。
キャストも皆さん素敵で、それぞれに美しかったり面白かったり哀しかったりして魅力的だった。 伯爵やそれぞれの時代の想いびとはもちろん、右足と左足のキャラが一目瞭然に違う感じとか、ひよ子の先輩たちのその後(!?)とか、未来ヤクザのとぼけ具合とか、各時代で振られる方々のチャーミングさとか、それぞれのキャラクターにそれぞれの人生があって、愛しい。
俺の骨をあげる(8/17(金)19:00開演 当日券ございます!)
劇団鹿殺し
サンシャイン劇場(東京都)
2018/08/15 (水) ~ 2018/08/19 (日)公演終了
満足度★★★★
チョビさんの歌声が、彼女の骨であった男たちと鳴り響く楽器たちに支えられて劇場を満たしていく。
舞台上を走り抜ける19人のテンション。パワフルな少女がひとつの時代を走り抜けていく。歌、卓球、プロレス。彼女の「願い」の向かう先は変わっても、「願い」の強さは変わらない。
意志のかたまりのような彼女の走り続ける生きざまを、小柄なチョビさんが文字通り体当たりで演じていく姿。
そして彼女を支えた男たちのそれぞれの強さと哀しみ。
ヒロインの「最初の骨」であった父を演じた高嶋政宏さんの熱い存在感が重低音のように物語を支えていた。
serialnumberのserialnumber
serial number(風琴工房改め)
The Fleming House(東京都)
2018/06/21 (木) ~ 2018/07/16 (月)公演終了
満足度★★★★★
serial numberとしての最初の公演は、密度の濃い二人芝居の三連発。
それぞれの世界観がきっちりと立ち上がって、このユニットのこれからが楽しみになった。
『next move』
同じ歳の2人の若者の成長を追いながら、それぞれの人生や将棋への想いが1つの勝負に集約されていく。2人の個性の違いと互いに向けた複雑な感情が鮮やかに描かれ、過ごしてきた日々の確かさが、最後の瞬間の切実さを際立たせた。
『nursery』
翻訳物のような雰囲気をまといながら謎と愛憎の森深く分け入るように進んでいく。
ミステリーめいて真実へとたどる道筋の面白さと、2人の登場人物の関係が揺れ動く様子が魅力的だった。
『ROBOTA』
ロボット技術者である兄と弟の会話を通して、 痛ましい出来事とそれに対してそれぞれが抱く想いが描かれていく。無惨な出来事を振り返りつつ諦めずに説得を続ける弟の言葉によって、兄の消えない痛みが希望へと昇華される瞬間が胸に沁みた。
イヌの仇討あるいは吉良の決断
オペラシアターこんにゃく座
吉祥寺シアター(東京都)
2018/09/14 (金) ~ 2018/09/23 (日)公演終了
満足度★★★★
井上ひさし氏らしい反骨心と批評性に満ちた忠臣蔵を、上村聡史氏の演出が骨太かつスタイリッシュに立ち上げた。
緊迫した状況にユーモアを交えつつ、前半で提示した疑問を後半で収束する展開に引き込まれて、3時間近い上演時間ながら長さを感じさせない作品となった。
冒頭で「板の間に座ると尻が痛くなる」と愚痴をこぼす老人として描かれていた上野介が、気迫に満ちた武士の顔を見せるラストシーンが圧巻であった。
「天守物語」〜夜叉ケ池編2018〜
椿組
花園神社(東京都)
2018/07/11 (水) ~ 2018/07/22 (日)公演終了
満足度★★★★★
野外でテントで当然冷房などなく、しかも補助席詰め詰めの大入り満員だったが、暑さよりも人々の熱気に巻き込まれてあっという間の約2時間。
母を亡くした少年を軸に、天守物語と夜叉ヶ池を重ねていく耽美で幻想的な時間。その美しさの中にユーモアと熱量を感じさせる演出が、野外の雰囲気によく似合った。
終わって夜風に吹かれながら駅へ向かうのも心地よかった。
勧進帳
木ノ下歌舞伎
KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)
2018/03/01 (木) ~ 2018/03/04 (日)公演終了
【東京公演】劇団壱劇屋「独鬼〜hitorioni〜」
壱劇屋
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2018/07/12 (木) ~ 2018/07/17 (火)公演終了
満足度★★★★
台詞なしの殺陣芝居ということでアクションの見せ場はもちろんたっぷりだったけれど、それ以上に孤独な鬼と女の物語が切なくて胸に響いた。
死なない鬼の手に託された赤ん坊が少女から大人へと成長していく姿を、4人の女性が演じ分ける。
人間の時間にしたら、長い長い物語のはずだ。その時間を、寓話……というよりやはり御伽話めいた、あるいはむかし読んだ絵本のような、シンプルな表現と迫力あるアクションで綴っていく。
鬼が幼子と歩む場面や握り飯をほおばる様子など共に過ごした時間が細やかに描かれることで、それぞれの想いに説得力が生じた。
鬼を演じた竹村晋太朗さんが、脚本と演出と殺陣を担当されているのだという。あの素朴な笑顔を浮かべた孤独な鬼の姿を思うと、この人の他の作品も観てみたい気がした。
蛸入道 忘却ノ儀
庭劇団ペニノ
森下スタジオ(東京都)
2018/06/28 (木) ~ 2018/07/01 (日)公演終了
満足度★★★★
そういえば、この前もその前も庭劇団ペニノの美術は圧巻だった。そして今回は圧巻以上だ。
寺、である。八角系の堂内の中心に炉を置いて、それを取り囲むように儀式の場があり、それをまた鳴り物を手にした観客が取り囲む。
堂内に通される前に、リング状に切り抜かれた紙に名前と願い事を書いて壺に入れてきたが、それらの紙が堂内に張り巡らせられている。
例えば誰かに誘われて知らずにその場にきたとしたら、怪しげな信仰宗教の集まりに連れてこられてしまったと信じることだろう。
「蛸」という生き物の奇妙さを、主宰のタニノクロウ氏が語る導入。心臓が3つ、脳が9つあるというその奇妙な生き物が、もし崇拝の対象だったとしたら……。
なるほど、ここに祀られているのは「蛸」なのだ。
現れたキャストが積み上げられた赤い服を(男物も女物も季節感も関係なく)重ねて身につけていく。卒塔婆に似た板が観客の手を渡って堂内の壁にかけられていく。
人々が般若心経に似た経文を唱える。観客にはあらかじめテキストが渡され、頭上のモニターにも経文や教義の進み具合が示される。
炉は熱を発し、音楽と熱気と薬物めいた煙などが五感を刺激しつつ儀式が進む。
儀式の進行と足並みを揃えるように室温は上がり続ける。途中で観客には冷えた水のボトルが配られる。
熱とドラッグに浮かされたように、置いてある水盤の水を胸元にかける女優の熱に浮かされた表情。
水盤は、時に意志あるもののように鳴り響く音に合わせてひとりでに水を跳ね散らす。
美術も光や音も細かい進行も歌や音楽も、それを体現して見せるキャスト陣も、瑕瑾なくその世界を背負って我々を引き込む。
観客の側も進んでその世界に浸るように、入り口で渡された鳴り物を経文に合わせて響かせる。
精密に再現された宗教的なトランス状態。なるほど、奇妙な体験をしてきたなぁ、という実感がある。それでも、これも確かに演劇ではあるのだろう。
面白いものを目撃できた、と思う。
ゲイシャパラソル
あやめ十八番
座・高円寺1(東京都)
2018/06/09 (土) ~ 2018/06/17 (日)公演終了
満足度★★★★★
鑑賞日2018/06/10 (日) 19:30
紅組は初演に近いキャストとなっている。
初演に近いキャストと言いつつ主要な役のひとつである国原大吾役が変更になっていて、初演キャストへの当て書きであろうと思われた勢いのあるキャラクターを花組芝居の美斉津恵友さんが端正さを残しつつ生き生きと演じて魅力的だった。
大森さんの仇吉と美斉津さんの大吾の組み合わせは初演に劣らぬ似合いの組み合わせで、2人のやり取りが切ない愛おしく胸に迫った。
一方墨組は、紅組と同じ脚本なのになるほどこうなるのか、とワクワクしながら拝見した。
仇吉はあやめ十八番の金子さんで、中盤までは紅組と比べて抑え気味の印象だったが、大吾の傘を手にしたとき、花が開くように表情がほころぶ様子が美しかった。
墨組の国原大吾は村上誠基さんで、明るさや勢いに加えて包み込むような大きさがあり、薄幸な少女に読み書きと数を教え、名前と愛情を与える慈しみに満ちた表情と凛と伸ばした背筋に惚れ惚れした。
旧友でありライバルでもある日色大輔と羅 義天(ルオ イーティェン)を、花組芝居の小林大介さんと吉川純広さんが演じた。
紅組の大輔とルオが印象的だっただけに、どうなるのかと思っていたが、やや貫禄ある色悪めいた小林さんとほっそりと美しい吉川さんの組み合わせは紅組とはまた異なる魅力があって目を奪われた。ルオの配下にミヤタユーヤさんを配し、エレガントで麗しい中国人主従となっていた。
ストーリーの面白さとスタイリッシュな演出に加えて、キャストがそれぞれ美しく役にハマって魅力的だった。
それぞれのキャスト、ひとつ1つのセリフや場面に見どころがあり、繰り返し観ても飽きることはない気がした。
ただいま、あきちゃん。
おかわり
ギャラリーしあん(東京都)
2018/06/16 (土) ~ 2018/06/17 (日)公演終了
満足度★★★★
鑑賞日2018/06/16 (土) 13:30
里帰りした女の子と従姉妹であろうもう1人の女の子との会話劇は、どこか噛み合わないいら立ちを含んだまま、どこへ向かうのか先が見えない道を進んでいく。
部屋中に広げられたいかにも女の子っぽい衣類や小物や手芸用品。奇妙な手紙と誰かの携帯。
お祖母さんの不在。お母さんが到着するまでに、まだ時間がかかりそうだ。居心地の悪さは、それぞれ隠していることがあるから、かもしれない。
炭酸飲料を振ってから渡すようなささいなイジワルと片方なくした大事なイヤリングをペンダントに直して渡す優しさと。
懐かしさというより微妙な違和感や居心地悪さ、それぞれの見栄やかすかな嫉妬、徐々によみがえってくる思い出などの繊細な感情が、じわじわと伝わってきて面白かった。
古い民家は、久しぶりに訪れたお祖母さんの家にぴったりで、そので交わされる会話を覗き見ているような感覚も面白かった。
ツヤマジケン
日本のラジオ
こまばアゴラ劇場(東京都)
2018/06/05 (火) ~ 2018/06/10 (日)公演終了
満足度★★★★
この劇団らしい仕掛けや企み。ゾワゾワするような独特の緊張感。そして何より登場人物の造形と関係性が物語を牽引し、観る者を引き込む。
予想通り文字で読むよりも容易に登場人物たちの個性や関係性が把握できて、物語の面白味が際立った。
同じ制服を着た同性の集団だからこそ、それぞれに向けた好悪や感情の細やかな動きが伝わってくる。閉塞感と苛立ちの中で煮詰まっていく、女の子たちの愛情とも友情ともつかない曖昧で鮮烈な愛憎が仄暗い空間を満たしていく。
男性陣はそれぞれの役割に徹しつつ、一筋縄ではいかない演技を見せる。いい加減なのにどこか色気のある演劇部顧問。一見平凡だけれど秘密のあるらしい施設職員。
それらすべてを片隅で見守る過去の連続殺人犯。
濃密でシンドい(←褒めてます)約90分だった。
観てきて何日か過ぎたあとも、この舞台のあれこれが折にふれ思い出されてしまったのは、身につまされる部分があったからだろう。
私も、あの子のように空回りしてなおさら人を遠ざけたり、一方的な思い込みで誰かを傷つけたりしているかもしれない。
討つべきモノでなく討ってはいけない何かを討っているかもしれない。
今度は強い強い人に生まれてこよう。できれば美しい人、愛される人に生まれてこよう。
……そんなことを思った。