Solace-慰め-
さくリさく企画
APOCシアター(東京都)
2019/08/20 (火) ~ 2019/08/25 (日)公演終了
満足度★★★★
さくリさく企画『Solace ~慰め~』2本立てのうちB面『遥かなる高速の旅路』を観た。
深夜のパーキングエリアで偶然出会った2人の女の交流を、笑い多めで描く道中記。
主人公はマジメで抑圧され気味の教師。同棲中の彼氏との微妙な温度差や職場の人間関係などの鬱屈を抑え込み、自分が頑張ることで乗り越えようとしていたように見えた。
パーキングエリアで高速バスに置いてきぼりを食らったライブ帰りの女に、ほとんど無理やり同乗されることになる。
2人の会話や1人の時の携帯電話などで、主人公の背景や悩みが観客にもわかってくる。と同時に乗せた女の気ままそうなキャラクターからしだいに見えてくるものも。
バスを追って深夜のパーキングエリアをハシゴする2人の奇妙で優しい一夜の旅。出会う人々や事件も少しおかしくて。
タイプの異なるキャラクター同士が次第に理解し合っていく感じや夜明けに向かっていく感じが王道ながら気持ちよかった。
第一部『1961年:夜に昇る太陽』 第二部『1986年:メビウスの輪』 第三部『2011年:語られたがる言葉たち』
DULL-COLORED POP
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2019/08/08 (木) ~ 2019/08/28 (水)公演終了
満足度★★★★★
(わ、観たい!)というより(観ておかなくてはいけないんじゃないか……)という強迫観念めいた何かに背を押されてチケットを確保した。
それぞれ独立した作品として鑑賞することも可能だけれど、この日は通し券のみの販売で、第一部と第二部、第二部と第三部の間は30分ずつしかない、
なので、別々の作品を続けて観るというよりひとつの長い物語として観ることになった。
題材の重さや丁重な取材が注目されていてるし、もちろんそれはこの作品にとって大きなウエイトを占めていると思うけれど、実際に拝見すると演劇としての面白さや完成度の高さもしっかりと備えていた。
キャストはそれぞれに見応えがあって、それだけでも1日座っている甲斐があった。
第一部は、そもそもの始まりについて、故郷を離れようとする若者とその家族を中心に据えて描く。東電、政治家、そしてそこで暮らす人々、それぞれの立場や思惑や夢。町の青年団で活動する次男が、桜を植え続けていつかこの町が桜の名所として賑わう、という夢を語る。見渡す限りの桜並木とそれを見に訪れる人々の姿を思い描き、すぐに実現するはずがないのはわかっている、「50年後でいい」という言葉にその胸が痛む。その50年後は2011年なのだ。
出て行く自分には何も言えない、という長男に向かって「覚えておけ、お前は反対しなかった」という祖父。観る側が50年後に事故が起こることを知っているからこそ響く台詞だろう。町の発展と託した新しい事業の始まりは、希望の中にすでに不穏な空気をはらんでいた。
第二部では、第一部で桜を植えることについて話していた若者が年を経て、町長になりチェルノブイリの事故を受けて日本の原発の安全性を主張するまでの物語だ。
原発反対派だった彼が容認派として町長になり「日本の原発は安全です!」と繰り返すブラックな政治コメディ風の展開を、死んだ飼い犬の優しい目線を通して描くことで主人公の悲しみや葛藤にフォーカスをあてた。一方で、彼を翻弄するメフィストフェレス的な人物の造形が印象的だった。もちろんあの曲も劇中で使われていた。
第三部では、報道の立場から震災と原発事故への向き合い方を問う物語で、大きな災害を一人ひとりの物語として再構築することで、まだ終わってない、という認識を新たにさせられた。
冒頭で震災を表現するシーンにインパクトがあって、そんなはずはないと思いつつ劇場が揺れているように感じられた。
現実とのつながりが、物語で描かれるそれぞれの痛みや希望に切実さを加えた。
三部作を通して、原発事故にまつわる膨大な出来事を、ひとつの家族の50年に集約して1本の物語として立ち上げていた。第三部で登場した一人ひとり誰を中心にしても長い物語が紡げるかもしれない。
多くの方に方々に現在も影響を与え続けている原発事故について、どうやって語るべきか、という問いの答えのひとつがここにあった。
アルプス
PAPALUWA
すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)
2019/08/28 (水) ~ 2019/09/01 (日)公演終了
満足度★★★★
チラシ等から学園スポーツコメディかな、と思って観始めた。高校の野球部が舞台でユニフォームを着たたくさんのプレーヤーが舞台に立っているし。
ところが、始まって少しするとまさかのSFだということがわかってくる。パラレルワールドもので、ある野球部の3年生たちがふとした拍子によく似た別の世界へ飛ばされてしまい、そちらの世界の同じメンバーがこちら(わかりにくいね)に来てしまったらしい。
似たような世界だけれど、異なっているのは一方で弱小な野球部がもう一方では強豪でまもなく甲子園の決勝戦を迎える、というところ。そしてあと一つ、弱小チームのマネージャーと強豪チームのマネージャーが(名前は同じなのに)学年もルックスや性格も異なる別人となっていること。
それぞれが元の世界に戻ろうと悪戦苦闘するあたりはこういう話の定番だけど、同じ顔ぶれながら性格や関係性は異なっていたりする2つの世界を演じ分ける様子なども面白くてハラハラしたりもした。
ちょっと『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の1作目みたいなラストもけっこう好み。
登場人物では、強豪チームのマネージャーが最初は厳しそうなのに面倒見が良くて頼もしい感じが素敵だった。
よく練られた脚本と大人数の出演者の熱演で、気持ちよく笑った約120分。
オペラ『遠野物語』
オペラシアターこんにゃく座
俳優座劇場(東京都)
2019/02/07 (木) ~ 2019/02/17 (日)公演終了
満足度★★★★★
『遠野物語』を記した柳田國男と語り部としての佐々木、そして2人を引き合わせた水野の関係を軸に、佐々木や祖母の眼に映るこの世とあの世が当たり前に重なる景色と、ままならない現実に流される佐々木らの姿を抒情豊かに描く。
遠野を再び訪れた水野と佐々木の会話に滲むそれぞれの孤独が胸に残った。
夜曲
アカズノマ
新宿村LIVE(東京都)
2019/01/31 (木) ~ 2019/02/03 (日)公演終了
満足度★★★★
横内謙介さんが約30年前にお書きになった戯曲を七味まゆ味さんが演出。主人公のツトムを石塚朱莉さんが演じる。
放火魔の少年と奇妙な少女が焼け跡で出逢ったいにしえの物語。ドラマチックな中に痛みもあれば毒もある。観ているうちにツトムも観客も傍観者ではいられなくなる。
アリはフリスクを食べない
やしゃご
こまばアゴラ劇場(東京都)
2019/08/31 (土) ~ 2019/09/10 (火)公演終了
満足度★★★★★
この人の創る舞台は、なぜこんなにも切実なのだろう。「リアル」などという言葉はいまさら使いたくないけれど、でもその言葉がこれほどピッタリくる芝居を私は他に知らない。
知的障害のある兄と、その兄の世話をするために司法試験を諦めた弟の暮らすアパート。
弟の婚約者、兄弟がアルバイトしている工場の社長や同僚。兄弟の幼馴染やその他彼らの周囲の人々。登場人物それぞれの言葉や行動にウソがない。いや、そんな簡単な言葉では伝えきれない不思議な真実味がある。
母を亡くしてグループホームに入っていた兄とともに暮らすため司法試験を目指すことを諦めた弟。しかし、婚約者の両親の反対にあってとうとう兄と離れて暮らすことを決める。その決断に向かうまでの細やかな機微を伝えるいくつもの場面。
一方で、兄の側の想いもなおさら丁重に描かれていく。自分自身に対する歯痒さ、彼自身の恋、苛立ちや不安。
小さなアパートの中で人々は言葉を交わし、迷い、喜びや悲しみ、怒りなどと明確に名付けることのできない曖昧な思いを抱えて繋がっていく。
ままならないこの世界で生きる人々の息づかいが聞こえる。そういう時間だった。
喫茶ティファニー
ホエイ
こまばアゴラ劇場(東京都)
2019/04/11 (木) ~ 2019/04/21 (日)公演終了
満足度★★★★★
懐かしい雰囲気の喫茶店の店内で繰り広げられるささやかな物語は、いくつもの重い課題を我々に突きつける。
マイノリティであること。
知ってるようで全然知らなかった。こんな身近にこんな歴然とした人種問題があるということを。
重い題材と劇中の人々が抱える困難については、観ている最中から自分でも調べてみたいと思わされた。
そして、それじゃあ普通って何?日本人って何?そんなことを当たり前に考えさせる作劇が見事だった。
しかも、劇中の人々の佇まいや感情の動きの自然さ会話の切実さを丁重に描くことで、中心に据えた題材に留まらず、多くの人が共感しうる普遍性を持つ作品となった。
怪人と探偵
PARCO / KAAT神奈川芸術劇場 / アミューズ / WOWOW
KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)
2019/09/14 (土) ~ 2019/09/29 (日)公演終了
満足度★★★★★
子どもの頃夢中で読んだ怪人二十面相シリーズがオトナのエンターテイメントとしては鮮やかに蘇った。予告状・元華族の令嬢と大富豪の婚約者・孤島のアジト・怪人と探偵の対決など、歌やダンスに彩られた懐かしい探偵小説的世界を堪能する約2時間50分。
「紙屋悦子の青春」
劇団東演
東演パラータ(東京都)
2019/09/21 (土) ~ 2019/09/29 (日)公演終了
満足度★★★★
名作戯曲の機微を切なさも笑いも含めて丁重にすくい上げた、胸に迫る1時間40分。直接には描かれない戦争の過酷さや理不尽さ。波の音や桜の花に託す人の想い。誰かを待つ食卓の風景が日々の暮らしの象徴のように描かれて愛おしい。
冒険秘録 菊花大作戦
劇団ヘロヘロQカムパニー
こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)
2019/09/28 (土) ~ 2019/10/06 (日)公演終了
満足度★★★★
横田順彌さん原作!
日本を揺るがす大事件に尽力を請われた快男児たちが巻き起こす波乱万丈の痛快活劇。荒唐無稽ながらキッチリとツボを押さえた、どこか懐かしい王道エンタメ。2時間20分という長めの尺もあっという間だった。
そう思うなら、尚更。
小岩崎小企画
新井薬師 SPECIAL COLORS(東京都)
2019/10/11 (金) ~ 2019/10/14 (月)公演終了
満足度★★★★
共感したり怖かったり愛しくなったり、バラエティに富んだ5つの作品による約100分の短編集。4人のキャストそれぞれの魅力を間近で堪能できる贅沢な時間だった。
終夜
風姿花伝プロデュース
シアター風姿花伝(東京都)
2019/09/29 (日) ~ 2019/10/27 (日)公演終了
満足度★★★★
1日2公演の日がない理由が観てみてわかった気がした。3時間40分の長尺だから、というのももちろんだが、なんていうか感情の振り幅の大きい、エネルギーの必要な芝居だ。4人それぞれの歪みや、やり場のない鬱屈が言葉となって迸る。ガッツリと見応えがあった。
ナイゲン 暴力団版
日本のラジオ
王子小劇場(東京都)
2019/10/23 (水) ~ 2019/10/28 (月)公演終了
満足度★★★★★
開場時間ギリギリに到着し、入場順を決める抽選で07番をゲット。3年生チーム(元のナイゲン的にいえば)の対面の席へ。序盤は予想以上にナイゲン。しだいに日本のラジオ色が強まってラストの落とし方も見事。面白かった!
新版 オグリ
松竹
新橋演舞場(東京都)
2019/10/06 (日) ~ 2019/11/25 (月)公演終了
満足度★★★★★
いろんな意味でボリュームたっぷりのエンターテイメントで、4時間20分という長尺なのに終わるのが寂しく感じられた。扉座勢のご活躍も堪能。杉原さん演出だっけ……とうなずける場面もあり、会場を出てから(そういえば歌舞伎だった)と思い出すなど。
『獅子の見た夢~戦禍に生きた演劇人たち』
劇団東演
東演パラータ(東京都)
2019/11/16 (土) ~ 2019/11/28 (木)公演終了
満足度★★★★★
昭和19年から20年にかけて三好十郎の『獅子』を上演しようとする苦楽座=桜隊の苦闘と悲劇を描く。重い題材を誠実に取り上げ現代への警鐘を鳴らす。個性豊かな登場人物と劇中劇の生かし方が見事。
最後の伝令 菊谷栄物語
劇団扉座
紀伊國屋ホール(東京都)
2019/11/27 (水) ~ 2019/12/01 (日)公演終了
満足度★★★★★
さまざまな場面からしだいに浮き上がってくるのは、人がなぜ舞台を必要とするのか、ということ。過酷な人生を歩んできた少女が、ふと立ち寄った劇場で見つけた何か。誰かの人生に輝くような瞬間を生み出す魔法の時間。そんな、舞台への希望を描く物語でもあったかもしれない。
『傷だらけのカバディ』
楽団鹿殺し
あうるすぽっと(東京都)
2019/11/21 (木) ~ 2019/12/01 (日)公演終了
満足度★★★★
パワフルでエネルギッシュで、馬鹿馬鹿しさと切実さが同居する不思議な舞台。なぜだか中盤から涙が出てしまってしかたなかった。濃過ぎる登場人物たちが愛しくなるような物語。
新浄瑠璃 百鬼丸~手塚治虫『どろろ』より~
劇団扉座
座・高円寺1(東京都)
2019/05/11 (土) ~ 2019/05/19 (日)公演終了
満足度★★★★★
じっとしていられなくてつい劇場に駆けつけてしまうやうな感じを久しぶり味わった。
再々演ながらキャストも大きく変わり、より力強く心を揺さぶる作品となっていた。
月がとっても睨むから
Mrs.fictions
すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)
2019/08/03 (土) ~ 2019/08/12 (月)公演終了
満足度★★★★★
少年に対する性的犯罪というデリケートな題材を、この団体らしい軽やかさと誠実さで描き出し、罪を償うこと、赦すことあるいは赦さないことについての物語に昇華させて魅力的だった。
しだれ咲き サマーストーム
あやめ十八番
吉祥寺シアター(東京都)
2019/07/19 (金) ~ 2019/07/24 (水)公演終了
満足度★★★★★
江戸風俗が現代まで続く架空の日本で、落語家の跡目争いから始まる色と欲との物語。
趣向が盛りだくさんで、舞台の面白さの大盤振る舞い、という印象だった。