1
フィクショナル香港IBM
やみ・あがりシアター
頭オカシイとしか思えない(褒めています)傑作。観るべし!観るべし!!観るべし!!!120分。
何を書いてもネタバレになるのだが、「IBMが作ったフィクショナルな香港の話」くらいなら書いてもいいかな、の感じ。とにかくスゴイ。見事。繰り返しや断片的なシーンの連絡が最後にまとまると泣く。
あまりにも面白かったので、2度目の観劇。ストーリーを知っていても面白いし、エンディングの感動もまた…。121分。
繰り返しを多用しつつ、少しずつ違う展開から、最後のまとめで泣く。2度目でも泣く。2つのマグカップにこそ泣く。作・演出の笠浦の頭もスゴイが、タイミング重視の演技を全うする役者陣も見事。
2
青春にはまだはやい
プテラノドン
ユニットとしては初見だが、見慣れた役者陣も多い座組。作・演出の笠浦は頭おかしいんじゃないか(誉めています)、と思わせる傑作。笑わせてくれるが、考えさせてくれる部分もある。とにかく面白い。(3分押し)107分。
とある事情で独りぼっちになったワカナの前に、高校生が次々に現われるが…、の物語。いろいろな年代の役者を集めたことに意味があり、時代背景をしっかりと捉え、その時代ならではの話題を扱い、それらの関わりをも確実に描く、笠浦の筆力が、まず素晴らしい。また、ある意味難しい役割を演じる役者陣も凄くて、豪華で笑って考えて、だった。
今年、笠浦の書いた『フィクショナル香港IBM』『ベラスケスとルーベンス』本作、と観たが、どれも「頭おかしい(誉めています)」としか言いようのない凄い作品群。大当たりだったなぁ、と思う。
3
春鶯囀
Office8次元
Office8次元『春鶯囀』@シアター風姿花伝。
初見のユニット。谷崎の「春琴抄」をベースに堀越涼がかいた脚本を寺十吾が演出した。スケールが大きく緻密に作られた芝居に圧倒された。観るべし!(3分押し)114分。
基本は原作の流れは活かしつつも、鴬と雲雀を飼っていたというエピソードを広げ女優3人で演じさせたところは脚本の妙で、よく知っている展開に加えて、物語がふくらんだ。笑いが起こる芝居ではないが、タイトな演出で緊張感が維持される。美術や照明も見事だが、衣装が丁寧に作られているのが感じられ映えていた。
古い知り合いの勝平とも子・木下祐子が出演しているが、勝平は琴の母を演じて大きな包容力のある役をしっかり演じ、木下は鴬を演じて物語に深みを与えた。2人はもちろんのこと、役者陣の充実も見事。特に、若い頃の琴を演じた米倉ゆいが16歳と知ってビックリしたし、存在感のある語り手役を演じた歩夢が初舞台というのも驚く。
4
群論序説『ALICE IN WONDERLAND-不思議の國のアリス-』
PSYCHOSIS
スタイリッシュなアングラ、スタイリッシュな月蝕歌劇団、と私が勝手に呼んでるユニットだが、スゴイものを見せてもらった。観るべし!(2分押し)106分。
ルイス・キャロルのアリスの世界観と、ガロアの群論が絡む上に、2・26事件の革命的な雰囲気を交えて、壮絶な物語世界が展開される。高取英はハンパじゃなかった、と改めて思わされてしまうが、加えて、それを現代的に翻案しスタイリッシュな芝居にする森永にも脱帽するしかない。冒頭、私の押しである大島朋恵扮するアリスが登場するが、それだけで心を捕まれてしまう上、その後の展開のヴィジュアルがすごくてドキドキする。その後、東北の寒村の少女達が学ぶ姿が描かれ、アリスとよく似た雪絵(大島の2役)が現われ、2人の時代が混在する、…、というような物語。ルイス・キャロルとガロアを想像と勇気として対比する元の構成も見事だが、それを美しく作り切る森永の力量もスゴイと思う。数学の論文(っぽいもの)をクライマックスで使うことにもシビレタ。全編に渡って大島の魅力があふれていて大満足。
5
ケレン・ヘラー
くによし組
笑っていいのか考えてしまう、笑えない、お笑い芸人の物語。深い。(1分押し)105分。
2018年初演作品をリライトした再演で、初演も観てる。ヘレン・ケラーをネタにしたギャグをする女子2人が不謹慎だと活動休止に追い込まれるが…、の物語。不謹慎と笑いの境界がどんどん難しくなっている現在にこそ考えるべき作品だと思う。初演はもっと笑いが多かったように思うが、劇場の規模が大きくなったこともあって、観客が笑う場面が少なくなった気がする。國吉らしい細かいギャグはいっぱいあった。役者陣もみな好演だが、ロボット役を演じた柿原が特に良かった。
2度目の観劇。切なくて、そして考える芝居。107分。
「面白い」とはどういうことか、についての深い芝居。2018年の初演時にはもっと笑いが起こっていたと思うが、時代の変化を考えさせられる。
6
こどもの一生
あるいはエナメルの目をもつ乙女
中島らも1990年作品の世界観を王子小劇場で見事に再現した。面白い。観るべし!観るべし!!観るべし!!!115分。
1990年の初演から、いろいろな所で何回か再演されているが、元々がTOPSで上演された作品。これを王子で上演して、世界観を再現しクウォリティも高い作品にしたキャスト・スタッフがスゴイ。元々の話は笑わせておいてオドロオドロしい展開というG2っぽい流れだが、それとはちょっと違うテイストで笑わせて驚かせてくれる。役者陣が実に見事だが、ムトコウヨウの不気味さは夢に出て来そうな気がする。
7
イノセント・ピープル
CoRich舞台芸術!プロデュース
タイトでチャレンジングな作品だが、役者陣の好演もあり、いい芝居に。観るべし!観るべし!!観るべし!!!138分。
畑澤聖悟が2010年に劇団昴に書き下ろした戯曲を、日澤雄介が演出。サブタイトルにあるように、原爆開発に携わった男たちのその後の65年を描く。元々は、畑澤が観たドキュメンタリーのシーンを見せたいということで書いたそうだが、アメリカから見た原爆、ということで、時代的背景もあり日本人の役者にはツライだろうセリフが多く、役者陣の頑張りも目立つ。そもそも、このCorich舞台芸術のプロデュース公演ということで実現した舞台というのは、何だかいいなと思う。ビッグネームだけでなく、小劇場系で活躍する役者陣やオーディションで選ばれた役者など、演劇の底力みたいなのを観た気がする。畑澤の作品は完全に気に入ることはあまりないのだが、本作は(演出も含めて)感心した。観て欲しい。
8
夜会行
動物自殺倶楽部
鵺的で2021年の9月に上演された作品を、別名義の団体で、演出・役者を変えて上演。初演も観てるが、また違った感触が面白い。観るべし!観るべし!!観るべし!!!82分。
4人のレズビアンと1人のクエスチョニングの緻密な会話劇。どの人物にも同意できる部分と同意できない部分がある会話は、何でもないものから徐々にヒリヒリする展開へと移る。初演に比べると、間を大事にした演出になっているように思うし、飛び道具的に使ったモノは効いてる。初演もいい芝居だと思ったが、再演は少し違った意味でとてもいい芝居。「レズビアン」というのは分かりやすいマイノリティの象徴で、全ての人にとっての意味があるのではないかと思う。
9
桜の園
シス・カンパニー
ケラのチェーホフ作品の第4弾・最終。とても分かりやすいチェーホフで面白い。84分(15分休み)78分。
同戯曲はいろいろと観てるが、本作は非常に分かりやすい。役のキャラクターを際立たせる演出で、それぞれの役の持つ意味が分かりやすく作られる。特にロパーヒンの視点を軸にしている感じがあって、彼だけが現実を見ている印象がある。他の役は、現在の視点から言えば「おバカ」という感じだが、その意味で「喜劇」とチェーホフは呼んだのではないか、と思わせてくれる。役者陣は皆熱演だが、ロパーヒンを演じた荒川良々が特にいい。大転換する舞台美術や、照明も巧みだが、特に第二幕の後半の照明が美しい。
2度目の観劇。やはり、いい芝居だ。84分(15分休み)79分。
ケラ meets チェーホフ・シリーズの最終作。特別な事件はなく淡々と没落に向かう旧貴族を描くが、豪華で達者な役者陣が、笑いと切なさを籠めて演じる。美術や照明も見応え。
10
ゴシック
風雷紡
おどろおどろしい物語だが、興味深く観た。104分。
明治期、長野の山村の旧家での「姥捨て」を描いて、面白い物語になっていた。オープニングから重々しく始まり、若い世代のさまざまを描き、親の世代の葛藤へと展開して、「御山入り」のクライマックス、と、ある意味分かりやすく展開され、非常に面白く観た。鵺的『バロック』へのオマージュと謳っているが、そう思わなくても理解できる。近年は、実際の事件を扱って好評だった同劇団だが、以前はこの種の伝奇的物語もやっていたなぁ、と思い出した。役者陣も好演だが、「妖し」の気分をしっかり背負った祥野が目立つ。前半と後半で違った演技を見せる吉水雪乃も凄くて、長い髪が美しく印象的なシーンがあるので、見逃す勿れ。