1
夜会行
鵺的(ぬえてき)
スゴイものを観た気がする。観るべし(前売券完売だが当日券で是非)!
レズビアンの新田(笠島智)が恋人の笑里(福永マリカ)と住む部屋が舞台。笑里の誕生日を祝うためレズビアン仲間が集まる。遼子(奥野亮子)と廣川(ハマカワフミエ)が来るが、話題の中心は廣川の新しい恋人の理子(青山祥子)。集まった5人は取り留めのない話を続けるが、30分ほど経って新参者の理子の問題が話題になると…、という展開。スケールの大きな作劇が続いた鵺的だが、今回は小劇場ならではの会話劇を展開し、70分強の舞台は基本的にリアルタイムで進む。5人のキャラクターが際立っているし、力量ある魅力的な女優陣が演じることでそれはよりハッキリする。誰が言うことももっともで、誰が正しいと言うわけでもなく、それぞれを生き方は認められるべきだと思える。レズビアンの話と思っていると、もっと普遍的な人間の生き方の話になっているあたりが見事である。珠玉の台詞が並ぶ。
こういう芝居が観たい。☆15くらい付けたい気になる。
2
ベンジャミンの教室
電動夏子安置システム
余りに面白かったので、勢い余って千秋楽で再度観た。初演も同じことしたんだよなぁ、って思い出した。
今回はテキストにこだわって観てみたけど、とにかく丁寧に構成されたセリフ群の見事さに改めて感心させられた。最後のセリフもいい。それと、役者陣の演技力にも改めて脱帽。
3
アンジェリーナ3:49
MCR
ちょっとダークだけど笑えて、最後は微笑ましく終わる。面白い芝居だった。
悪いことでも平然とやってのけるトモ(櫻井智也)が「もうすぐ死ぬ」と言って、コーヒーショップでバイトするサエ(長谷川晴)に会いに来るが、話はどんどん大事になり…、という物語。巻き込まれる人々が、逆に人を巻き込む様子が面白い、と言うか、笑いを呼ぶ、櫻井節とでも言うべき展開で、セリフの切れ味も鋭い。櫻井言うところの「振り切れた」芝居を楽しむ90分。三澤さきの最初のセリフは特に笑えた。切ない感触を残すセリフもありながら、最後は明るく終わるのもいい。
4
堕ち潮
TRASHMASTERS
主宰で作・演出の中津留が、自身の「家族」を題材にした骨太の劇作をしている。観るべし!
大分の旧家である西島家・岡本家は祖父母の代が兄妹で、その息子・娘の家族、その子ども、と3世代が同居する。その岡本家の3室が座・高円寺の舞台いっぱいに作り込まれたセットが、まず目をひく。そこで展開される総勢15人(17役)の群像劇で、最初は細かいエピソードの展開で始まるが、岡本家の10歳の優人が、小学校で南京大虐殺の授業を受けたことから物語が大きく動く。以前何かのアフタートークで、中津留の祖父が南京で従軍していたことを小学校の授業で紹介された、という話を聞いていたので、これは中津留の家族の物語なのだということが分かり、興味を持って観ていた。
80年代初頭、その2年後、の1幕(50分/45分)、休憩15分を挟んで、さらに10年後、またそのさらに10年後を描く(50分/40分)、壮大なドラマである。休憩込み3時間20分が長く感じない(体は確かにキツイが…)。設定は一応は実在の家族を模しているように思われるものの、出来事のどこまで実話ベースなのかはさすがに分からないが、いかにも地方の都市でありそうな現実と理想の対立やら何やらが描かれる。何かを訴える、というのではなく、自身の家族を舞台に壮大な物語を展開されることに腐心したように思われる。
特には、岡本家の事実上の当主である祖母世代の千恵子を演じた、みやなおこ、の存在感と、その嫁で姑に使われる佳那子を演じた川崎初夏の演技が興味深いが、何と言っても注目したのは、2012年以来の出演となった劇団員の、ひわだこういち、である。ひわだは以前の作品では劇中のキモとなるセリフを語る重要な役割を演じることが多かったのだが、8年半ぶりの出演でも数々の重要なセリフで見事な存在感を示してくれた。古いファンとしては、うれしい限りだ。
5
テンダーシング-ロミオとジュリエットより-
幻都
土居裕子と大森博史による2人芝居。いいモノを観せてもらった。観るべし!
『ロミオとジュリエット』のセリフを解体・再構成して別のラブ・ストーリーを作り上げるというベン・パワーの作品を、松岡和子により改変・調整し、若手演出家の荒井遼の演出で日本での初演。熟年の夫婦、「ロミオ」と「ジュリエット」の日常やら回想やらを、原作のセリフで構成する80分。ロミジュリのセリフを全て覚えているわけではないが、おそらく変えていないんだろうな、と思わせる古い言い回しが、改めて「夫婦の愛情」を際立たせる。若い観客も少なくないが、ロミジュリを何回か観たことがある方が楽しめる気がする。「A Tender Thing」というタイトルもいい。印象的なダンスシーンが挟まれるが、あえて巧く踊り過ぎないという演出が、そして役者がいい。大森の生ギター伴奏による土居の歌という「プレゼント」もある。エンディングのダンスシーンは本当に美しい。
アフタートークで、大森がまず名乗りを上げ、後から土居が入ったと知る。昨年9月に上演する予定がコロナで延びたそうだが、そのことで「熟成」されたような気がした。
2004年の『タン・ビエットの唄』で凄い女優だと思った土居だが、アフタートークの風情がとにかく可愛くて、惚れ直してしまった(^_^;)。
6
てくてくと【4月28日~4月30日公演中止】
やしゃご
難しい問題を淡々と展開する芝居。とても良い舞台だった。
発達障害者を雇用するコグマ製菓を舞台に、発達障害を抱えた人と、それを取り巻く人々の物語。易しい正解がない問題をただ淡々と描き、押しつけることもなく、笑いも交え、じんわり終わる。とにかく素晴らしい。
7
意味なしサチコ、三度目の朝
かるがも団地
初見のユニット。いやー、いい芝居でした。素晴らしい。
秋田県能代市出身のヤスヨは、2014年の3月に高校を卒業すると同時に、東京に出てくる。5年後に能代に戻って、旧友達と会って、小学生時代からをいろいろと思い出すが…、みたいな話。笑いのオブラートに覆われていても内実は切ないストーリーと、過去の話と戻ってきたときの話が巧く切り分けて演じられるなどの「巧みさ」が見事で、実話ベースではないかと思ってしまった。ただ、エンディングは物足りない気がする。ほぼ出突っ張りの波多野伶奈は大変だなぁ(^_^;)。
8
スペキュレイティブ・フィクション!
NICE STALKER
「理系に強い」同ユニットらしい、SF愛に溢れた面白い作品だった。観るべし!120分。
とある高校のSF部の1年男子が同部の2年女子を好きになって、毎日SF話をするのだが、妹や友人や先輩や先生を巻き込んで…、な展開。SFはサイエンス・フィクション、の時代のチョイSFファンとしては、時折混ざるSF話に反応してしまうし、全体がSF調で展開されるのも面白い。役者陣が高校生を演じてフツーなのはよくあるのだが、妹の中学生役を演じた藤本海咲の佇まいが何とも言えず良い。とにかく、いい気分で120分を過ごして、いい気分で帰れる舞台だった。
9
hedge 1-2-3
serial number(風琴工房改め)
B「trust」を観た。詩森の金融三部作の完結編で書き下ろしだが、金融でない要素も加わり面白かった。
第2作のinsiderで創立メンバーがインサイダー取り引きを行なったバイアウト・ファンドが、信用を回復するために努力する姿を、PHS会社の苦悩や、フェアトレード・コーヒーで起業しようとする女性達と絡めて描く。フェアであることの難しさやジェンダーの問題も加わり、金融だけでない要素を含めているが、エンターテインメントを忘れない姿勢で、楽しく見せてもらった。場面転換もエンタメにするのは見事。今回登場した女優陣も自然に溶け込んでいたと思う。
10
フタマツヅキ
iaku
iakuらしい、しみじみとした「いい話」だった。115分。空席があるのが勿体ない。観るべし!
iakuの芝居には、基本的に「悪い人」が出てこないのに、さまざまな行き違いでトラブルが起こるという物語が多い。本作もその流れで、休業中の売れない落語家とその妻を軸に、さまざまな人々のアレコレを描く。それぞれが相手を思いやっているのだが、それがストレートに出せなかったり、反発という形で表されていたりするあたりも、あーそーゆーことってあるよなぁ、と思って、横山拓也の作劇の妙が光る。3組のカップルが出てくるのだが、その収束の仕方が巧い。個人的にはザンヨウコの思いが切ない。
美術は4畳半二間続きの部屋を回転させて使うのだが、まっすぐにせず微妙な角度で見せるあたりも巧い。もちろん照明も見事。