Takashi Kitamuraの観てきた!クチコミ一覧

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親の顔が見たい

親の顔が見たい

Art-Loving

ラゾーナ川崎プラザソル(神奈川県)

2019/08/22 (木) ~ 2019/08/24 (土)公演終了

満足度★★★★★

よかった。一人の女子中学生が「いじめ」で自殺し、その遺書(手紙)で名指しされた、5人のクラスメートの女子の親(親代わりの祖父母もいる)、8人が学校に集められ、教師たちと、いじめ問題の真偽、そして、親としての責任に向き合っていく。

次第に明らかになるいじめの内容が深刻で、こんなことを子供が起こしたら自分ならどうするのだろうと考えさせられた。深刻な例として、かつての山形マット死事件を思い出した。あれは、裁判では、結局誰がいじめた(マットです巻きにした)かわからなくなってしまったが、いじめを親たちが必死に隠蔽しようとする姿にダブって見えた。

現役の教師が親の役を演じていたが、うまかった。また、役者ずれした者でない、教育現場にいる人ならではのリアリティーがあった。
畑澤聖吾さんの戯曲は各地で上演されている有名なものだそうだが、よかった。

潜狂

潜狂

第27班

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2019/08/23 (金) ~ 2019/09/01 (日)公演終了

満足度★★★★

演劇とジャズをうまーくミックスした作りが良かった。初めて見る作者、劇団だ。ピアノやドラム、ベースのアンプが置かれた舞台で、美術らしい美術はなく、最初は抽象的な話かと思った。しかし、そうではなく、互いにほぼ関係のない5つの話が断片的なシーンをつなげながら同時並行に進んでいく。

暗い過去のあるらしい謎のドラマーと女、借金申し込みをめぐる3人の男女のいざこざ、才能のないピアニストの男と女子高生の危ない関係、病気で余命1年の青年の友情と恋、高飛車男とベーシストの女性の同棲生活。最初は笑いも多かったが、次第に話が深刻になっていき、失意と挫折と孤独に満ちた人生が立ちあがってくる。5つの話を120分あまりで見せるので、一つ一つの話は平均25分程度。コントの積み重ねのようなものだが、5つの話の相互作用で、見ていて痛さがどんどん増していく。8最後のセッションを含めた上演時間は2時間15分、休憩なし)

高飛車男が彼女を罵倒する言葉、女子高生がピアニストをなじる言葉、そうした日常のオブラートをはぎ取った厳しいセリフが、見ていてつきささった。金が絡むことでぎすぎすしてしまう3人の仲もふくめ、「人生あるある」をあちこちに見ることができた。

5つの話はそれぞれ3人の演者で演じ、合計15人。それぞれの話から一人楽器演奏者が出て、最後に5人のセッションで「チュニジアの夜」を演奏した。聞いたことのない曲だが、暗めのブルースの曲想のなかに、時折明るい場面もあり、芝居とかみ合っていた。こういう全体の構成がきれいで、構造的な舞台で感心した。
「ソナタ形式」が典型だが、音楽は構造的なもの。そこにフューチャーした舞台として、パーツを組み上げた構造性が成功していた。

楽器は、ピアノ、ドラム、アルトサックス、トロンボーン、ベース。これだけ楽器も出来て、演じられる人を良くそろえたと思う。
「チュニジアの夜」をまた聞きたい

月ノツカイ

月ノツカイ

劇団だるま座

アトリエだるま座(東京都)

2019/08/21 (水) ~ 2019/08/25 (日)公演終了

満足度★★★★

死が身近だからこそ、生が輝き、人々の喜怒哀楽もストレートに現れる。いい舞台だった。北海道の架空の炭鉱町コトロが舞台。由里子と健司の若い夫婦が住む、炭住の一部屋で、1973年の炭鉱夫たちの汗と涙とホコリが立ち上がる。

そして20年後の同じ部屋に住む由里子と娘。二つの時空が交錯しながら、次第に、73年の出来事、東京の学生運動で起きた事故、さらにさかのぼって、健司と由里子の生い立ちの秘密が明らかになる。

「一山一家」という言葉が出てくるように、危険と隣り合わせの炭鉱夫たちは、情に厚くて皆が助け合って生きている。陰のある由里子役の坂東七笑、炭坑夫のまとめ役の剣持直明、謎の老炭鉱夫のすだあきらがよかった。

ネタバレBOX

突然起きた事故。坑内に遺された13人の生死不明だが、発生から3日もたって、坑内の火災の消火のため、注水するかどうかの選択を問われる。この設定から81年の北炭夕張事故を思い起こした。作・演出の増澤ノゾムさんも、この事故を札幌にいた中学生の時にニュースで見て印象が強いそうだ。そこからモチーフを得たとのこと。

由里子の部屋に、鉱山会社の社員の横塚、学生運動の元の仲間、炭鉱夫たちが、次々出入りしては、ドラマを進める。とくに、横塚が些細な用事のたびに「書類にハンコをもらうのを忘れて」と、由里子目当てで来るのだが、その伏線が、クライマックスの苦渋の選択につながる。

留守電の小道具も生きている。「小道具は3回使え」という津上忠さんの口癖そのままだった。
人形の家 Part2

人形の家 Part2

パルコ・プロデュース

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2019/08/09 (金) ~ 2019/09/01 (日)公演終了

満足度★★★

結婚、あるいはノラの家出をめぐる対話劇。かなり抽象的な議論といってもいい。
山崎一演じる、夫が非常に良かった。

ネタバレBOX

抽象的な対話劇というのは、前半のノラとばあや、ノラと娘の会話はとくにそうで、結婚を否定するノラと、結婚を肯定しノラの夫と子を捨てた行為を非難する側との平行線の議論に終わる。

最後、ノラと夫の対話劇になって、俄然、議論に血が通ってくる。山崎一のくたびれた中年男の風情と、ユーモアを醸す間合いが、得てして言葉だけになりがちな議論に肉体を与えてくれる。
元になったイプセン作との大きな違いは、夫が、変わろうと努力する人間になっていること。
最後にノラは「離婚なんてどうでもいい」と言い出す。これはなぜかがポイントなのだが、はっきりとは示されていない。
ただ「さあ、準備は出来た」と、ノラは扉を開けて出て行き「再出発」する。
19世紀のノラそのままでは、現代には通用しない。ノラが自分のしたこと、他者の思いにも十分心を配った上で、21世紀の現代に女性の自立を求めて出ていく、その準備が出来た再出発なのだと思った。

ノラは流行作家になって経済的心配はない。一緒に見た妻は「いま女性が一人で経済的心配がないなんて、レアケース。非正規の働きでは本当に大変。野良も経済的に困難な状況にあって、もう一回家に来たほうが良かったと思う」と言っていた。ただ、それでは対等な議論ができないのではないか、ノラの「私がこうなったのはあんたたちのせいよ」という恨み節になるのではないかという心配はある。
いのうえ歌舞伎<亞>alternative 『けむりの軍団』

いのうえ歌舞伎<亞>alternative 『けむりの軍団』

劇団☆新感線

赤坂ACTシアター(東京都)

2019/07/15 (月) ~ 2019/08/24 (土)公演終了

満足度★★★★★

「いのうえ歌舞伎」初体験。面白かった。古田新太の醸し出す「笑い」あり、スリルとスピードの殺陣あり、勝気な姫から破戒僧まで粒だったキャラあり、口先八丁で敵も味方も手玉に取る知的で凝った脚本ありで、最高だった。
しかも今回は黒澤明の映画へのオマージュたっぷりが売りの舞台。中学生の時に友達に誘われて「隠し砦の三悪人」を見て以来の大の黒澤ファンである私としては、涙ちょちょ切れるほど嬉しい舞台だった。
360度劇場と違い、回転はしないけれど、映像を巧みに使った舞台は飽きさせず、面白く、転換も無駄がなく、さすがであった。

シカゴ

シカゴ

TBS/キョードー東京

東急シアターオーブ(東京都)

2019/08/07 (水) ~ 2019/08/18 (日)公演終了

満足度★★★★★

説明不要の人気作。米倉涼子がよかった。やはり同じ演目でも、知っているスターがいるのといないのとでは、見る方のテンションが段違いである。そこ行くと、ブロードウエイの米国キャストに混ざって、我らが米倉がいることで、最高の舞台をみることができた。

話としては、性悪の浮気女が、手練手管で愛人殺しの罪を誤魔化し、無罪になる話。欲望と破倫をたたえ、正義をおちょくるものである。
倫理的にはいただけけない話だろう。これがなぜ、大きなバッシングも受けず、大衆に人気があるのか。

考えてみると、第一に、欲望の肯定は人生の肯定であること。あとでも言うが、「自由」を歌い上げていると取ることもできる。

第二に、ふとしたきっかけで罪を犯した人間でも再起のチャンスはあるという、迷える子羊の救済という見方もできる。この点では、主人公は罪人だけど、救われて欲しいという同情を集める存在であることが必要。そこで、「美人は得」という、いたって下世話な経験則にいきつく。劇自体のストーリーもこのセオリーに乗っかっている。「Rocky rocks Chicago」という新聞の大見出しが象徴している。

第三に、堅苦しい正義・秩序の枠にとらわれない、享楽的な自由を描いたから。束縛から逃れ、常識をひっくり返す爽快感がある。そこがこの舞台の最大のカタルシス。しかも「自由」こそアメリカ資本主義の中心理念である。享楽もまた同じ。またこの自由という隠れテーマが、舞台のバカバカしさ、目を見張るようなスタイリッシュな歌とダンスとかみ合って、「日常からの脱出」という芸術・娯楽がもつ普遍的効用を最大限に味わわせてくれる。傑作である所以である。

DNA

DNA

劇団青年座

シアタートラム(東京都)

2019/08/16 (金) ~ 2019/08/25 (日)公演終了

満足度★★★★★

出産か仕事かという女性の生き方の選択と、粉飾決算をめぐって上司に従うか良心に従うかの組織人としての生き方の選択。二つの物語をない合わせて、現実に突き刺さるリアルなドラマで、非常に見応えがあった。現実は変えることが出来るという思いを与えられる、正統派リアリズム演劇に位置づく、心に残る秀作だった。男と女の考えの食い違い、女同士のぶつかり、ヒラメ上司と逆パワハラ的な部下など、身の回りに思い当たることばかりで、いろいろ考えさせられた。

ネタバレBOX

夫の母親ができた人で、つい1年前に伴侶が死んで、専業主婦から社長になった。いわば、子育ても仕事も目一杯やった人生の先輩として、カウンセラーのような役を果たす。おかげで、光の見える結末になった。

登場人物がそれぞれ語る決めゼリフが良かった。
「それがいいか悪いかの基準に、子供に伝えたいかどうかって考えるの」
「会社で生きるとは、死んだふりして戦うってことだ」
「ネガティブなことは自分の台でおしまい。ポジティブなことだけを伝えようとするの」
「会社も家も一緒だ。正論振りかざしても扉はあかない」

ただ、妻が子供を産むことを嫌がる理由として、自分の母親との関係のトラウマがある。その一番大きなハイライトが、幼い弟と二人だけで嵐の日に留守番をさせられて怖かったというもの。その点は、少々たわいもない理由のように思った。
第一部『1961年:夜に昇る太陽』 第二部『1986年:メビウスの輪』 第三部『2011年:語られたがる言葉たち』

第一部『1961年:夜に昇る太陽』 第二部『1986年:メビウスの輪』 第三部『2011年:語られたがる言葉たち』

DULL-COLORED POP

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2019/08/08 (木) ~ 2019/08/28 (水)公演終了

満足度★★★★★

原発事故の被害をめぐる福島県内の苛立ちと、分断の様が大変生々しかった。県内の不安が県外の風評被害、偏見によって一層複雑にねじれる様子もよくわかった。テレビ局の報道部内のやりとりも、メディアの端くれにいるものとして思い当たることばかりだった。(以上、第三部についてです)

第三部は、福島の分断とねじれ、メディアのさもしいあり方が浮き彫りになる舞台だった。「民主主義は、真面目な報道と相性が悪い」と。
それに対して、どう向き合うべきか。方向を示す言葉がきちんとあった。「正しく語ることは、部屋を整理するのに似ている」「寝た子は起こすな、ではなく、寝た子は正しく起こせ」「ペンは世界とたたかえる唯一の武器だ」と。それに実質を与えていく仕事は、常に矛盾の中で挫折に次ぐ挫折だ。それでも、この旗を愚直に掲げたことに意味があったと思う。

お気に召すまま

お気に召すまま

東京芸術劇場

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2019/07/30 (火) ~ 2019/08/18 (日)公演終了

満足度★★★★★

客席も舞台の一部として使って、大劇場なのに、これほど観客と俳優の距離の近い舞台は初めてだった。客席の通路を使うことはよくあるが、今回は、演技スペースとして、5列目くらいのセンターブロックの客席に客をいれずに、開けてある(!)。冒頭のオーランドーの兄を恨むセリフは、この客席の上に仁王立ちになってだから、驚いた。

もともと張り出し舞台を作っているので、客席にせり出している。ほかにも、客のいる客席の間を俳優が無理に通り抜けたり、自由な発想の動きで、そこがまず面白かった。

演出は「お気に召すまま」の隠語や裏の性的意味を表に引きずり出そうというもの。そのために1年前から翻訳者・俳優も含めて勉強会を行い、翻訳も新たに作ったというから、かなり気合を入れた準備である。明るい恋の物語というこの作品の従来のカラーに、今まで以上に猥雑さを与え、エロチックな味にしていた。俳優もその線で、腰をなまめかしく動かしたり、くんずほぐれつ絡んだり、ちょっとやり過ぎという感じもしたが、頑張っていた。

シェイクスピア、とくにこれくらいポピュラーな戯曲になると、新味を出すことが重要だから、その点では満足できる斬新な舞台だった。ただ、子供も楽しめるような原作ののどかさ、おおらかさにも大きな魅力があることを改めて感じたところだった。

俳優陣では、満島ひかりが抜群によかった。彼女は映像でしか見たことがなかったので、驚いた。声もよく通るし、小さい体なのにすごい舞台上で華がある。自然体の伸びやかさがある。続いては満島真之介。食らい、陰気な兄オリバーを演じて、すごみがあり、リチャード3世のようだった。

ブラッケン・ムーア ~荒地の亡霊~

ブラッケン・ムーア ~荒地の亡霊~

東宝

シアタークリエ(東京都)

2019/08/14 (水) ~ 2019/08/27 (火)公演終了

満足度★★★★★

様々な意味で面白かった。何より、後半に明らかになる意外な秘密が、この作品を深いものにしている。息子に男らしさを押し付け、自分の分身を作ろうとした家父長的なハロルド(益岡徹)。不況を乗り切るため、炭鉱主として140人の鉱夫のクビを切って新しい機械を導入しようとしている。合理的だが、それだけに無慈悲な経営者である。それと、対立する炭鉱夫頭のベイリー(立川三貴)、進歩的な青年のケレンス(岡田将生)。イギリスの炭鉱が舞台なので、期待はしていたが、期待以上に労働者と資本家の対立を織り込んでいた。そこに10年前のハロルドの息子の事故死が、人々の生き方のうえで大きな意味を持ってくる。そして、最後には芸術の役割を考えさせる。

舞台は1937年だが、イギリスでの初演は2013年。一見古風だが、それだけではない。現代的かというと、それほどでもない。過去と現在を貫く普遍的な社会問題、芸術論、人間の生き方の問題を描き出していた。セット美術は重厚で、幽霊が出そうなイギリスの古い邸宅をよく再現していた。演出は奇をてらわず、いたって正攻法。俳優七人の少人数ながら、広い舞台を十分に使っていた。俳優は、岡田将生はじめみな好演。ハロルドの妻役の木村多江の、静かな中に大きな動きを秘めた所作も良かった。現代のノラのようであった。照明もメリハリがあって、良かった。

偉大なる生活の冒険

偉大なる生活の冒険

五反田団

アトリエヘリコプター(東京都)

2019/07/27 (土) ~ 2019/08/05 (月)公演終了

満足度★★★★

こんなだらしないのでも生きていていいんだ。こんなダラダラした芝居でもやっていいんだ。そういう生きる意欲というか、勇気が湧いてくる不思議な脱力系の芝居だった。そういうセリフは何もないが、「生まれてすいません」という太宰治的な恥じらいを感じた。前田司郎は小説は何度も読んでおり、舞台は初めてだった。でも、平田オリザチルドレンの一人だということで、雰囲気はわかる。

元カノ(内田慈)の部屋に居候している男(前田司郎)の、寝転がったり、ゲームしたり、後輩とだべったりのだらだらした生活。ただし、そんな状況は説明されず、ただ女が「あんた、いつまでいる気なのよ」と怒ることで示唆するだけ。説明しないで伝えるセンスは大したものだ。

照明もファミコンのテレビの画面だけの照明にしたり、スマホの画面の光だけにしたり、余分なものをそぎ落とすミニマムな演出が、なかなか考えられていて面白い。

つまらない牛の涎劇か、今までにない斬新な口語劇か。10年以上前にこれをやったときは、評価が分かれただろう。今でも、こんなの学芸会以下だという人はいると思う。でも、これまでの演劇とは違う、新しいことをやろうという冒険心(それがタイトルとかみあう)が、舞台を新鮮で若々しいものにしている。


男が、死んだ妹の話をする。そのうち暗転して、妹と男のシーンが出てくる。過去なのか、夢というか想像の中なのかがあいまいなのだが、この2回の妹とのシーンがあることで、だらだら生活に奥行きが出て、がぜん面白くなった。1時間25分とコンパクトなのが、内容とかみ合っていた。

『熱海殺人事件』  vs.  『売春捜査官』

『熱海殺人事件』 vs. 『売春捜査官』

燐光群

ザ・スズナリ(東京都)

2019/07/26 (金) ~ 2019/08/06 (火)公演終了

満足度★★★★

あの娯楽のつかこうへいを、硬派で社会派の坂手洋二がどうしてやるのかと思ったら、舞台中盤で、沖縄の辺野古に話が飛んで納得した。それでテーマが深化するというものでもないのだが、「熱海殺人事件」初期バージョンと、その変奏曲である「売春捜査官」の、猥雑できわどいシーンもたっぷり見ることができ、非常に面白かった。女伝兵衛と、殺されたハナ子を演じた木下智恵の体当たりの演技が圧巻だった。

キャッツ【7月22日~7月30日、12月8日、2月24日昼公演中止】

キャッツ【7月22日~7月30日、12月8日、2月24日昼公演中止】

劇団四季

キャッツ・シアター大井町(東京都)

2018/08/11 (土) ~ 2022/04/17 (日)公演終了

満足度★★★★

昨年8月に続き、二度目のキャッツ。さすがに最初のような新鮮な感動が味わえないのは残念だが、それでも充実した2時間45分だった。前回はゴキブリのタップダンスがやはり良かったが、今回は後半の2幕目の展開にひかれた。

展開といってもストーリーがあるわけではない。音楽とダンスの構成である。劇場猫の海賊が大暴れする劇中劇から、「線路は続くよ」のような明るい曲想の「鉄道猫」(ごみで作る機関車は、もっと見ていたかった)。一転して不気味な悪党猫の、神出鬼没でスリリングなたたかいから、さらわれた長老猫を再び取り戻す「マジック猫」のミストフェリーズの華麗なショーへ。そしてご存じ「メモリー」を歌う娼婦猫グリザベラが、見事天に昇るクライマックスへ。この最後の大仕掛けは忘れていた。

こうして書いてみても、いやあよくできた舞台である。

ネタバレBOX

今回は気張って前方の回転席で見たが、割と横からのせいか、意外と舞台との一体感を得られなかった。ほかの人も書いているが、少し離れてみたほうが、全体を見られてよいのかもしれない。
神の子どもたちはみな踊る after the quake

神の子どもたちはみな踊る after the quake

ホリプロ

よみうり大手町ホール(東京都)

2019/07/31 (水) ~ 2019/08/16 (金)公演終了

満足度★★★★

村上春樹の小説の舞台化は難しい。長編は筋を追うので精一杯だし(何より「海辺のカフカ」はそれで失敗した)、短編はスマートな文章が魅力で、孤独の雰囲気はつくるが核となるドラマ、対立が乏しい。本作も同様の困難を抱えているが、焦点を絞ったことと、短編二つを組み合わせて立体的にしたことで、比較的成功した。連作集『神の子どもたちはみな踊る』から「かえるくん、東京を救う」と「蜂蜜パイ」を原作に舞台化した。

「蜂蜜パイ」パートと「かえるくん」パートが交互に進む。「かえるくん」役の木場勝己が「蜂蜜」パートでは語り手になり、「蜂蜜」の作家である淳平が「かえるくん」の小説を書いているという、相互に浸透しあう構図がうまい。

かえるくんは「カフカ」の猫のように着ぐるみでやるのかと思ったら、カエル頭の帽子をかぶるだけで、キャラ化は抑え気味だった。おかげでベテラン木場の持ち味を生かせたと思う。

ネタバレBOX

何度か読んだことのあるものなので、筋やせりふは小説そのままで、舞台で小説を見る感じであった。かえるくんがミミズとの戦いの後、溶けて崩れて破裂するシーンは、照明を使って感じを出していた。あまり大仕掛けはなく、奇をてらわない正攻法だった。

見ながら感じたのは、「蜂蜜パイ」の話が、男二人の間で、女性を譲ったり、取り戻したりの夏目漱石得意の「ホモソーシャル」な関係を描くものだったということ。淳平が語る二頭の熊のお話は、仲良くなる場面で、淳平はやけに寂しそうで、淳平と高槻のことのように聞こえた。

淳平は高槻に小夜子を譲ったがために、自分の中の何かを決定的に損なってしまったようにみえた。村上春樹が繰り返し描く「喪失」である。淳平は、最後、失われた自己を回復し、小夜子・沙羅の母子を守ろうと男らしく決意する。小説ではそこに熊のトン吉が熊のマサ吉と再び仲直りする話があるが、舞台では省略されていた(と記憶する)。かえるくんの、とりあえずの勝利もあるから、くどくなるのを避けたのだろう。が、非常に大事なラストなので、これを本当に省略したのかどうか、自信がなくなってきた。

来年2月には「ねじまき鳥クロニクル」の舞台もあるそうだ。ホリプロ製作、東京芸術劇場プレイハウス。今度は大長編。作・演出はアミール・クリガーと藤田貴大。これもまた舞台化が成功するとは思えないが、藤田は抽象的な舞台を作る人なので、この大長編のストーリーにあまり付き合わなければ、それがうまくいくかもしれない。
Signs!

Signs!

ミュージカルギルドq.

渋谷区文化総合センター大和田・伝承ホール(東京都)

2019/08/08 (木) ~ 2019/08/12 (月)公演終了

満足度★★★★

すっごく良かった。感動した。予想以上だった。長崎高校生平和大使の誕生や、いろんな困難や、広がりのドラマ。斬新で馴染みやすい音楽に、「ちっぽけだけど、その一歩から始まる。世界を作るのは自分たちだから」という心憎いメッセージをのせていて、心洗われた。

岩田華怜さんはじめ、20代の若手メインの総勢41人の若々しい舞台から、平和の願いがまっすぐ伝わって来る。忘れかけてた初心を思い出させてくれる、久々の熱い純真な劇だった。休憩込み2時間45分の長尺だけど、長く感じなかった。

二度目の夏

二度目の夏

森崎事務所M&Oplays

本多劇場(東京都)

2019/07/20 (土) ~ 2019/08/12 (月)公演終了

満足度★★★★★

前回の「いつも空を見ていた」が期待外れだったので、最初はパスしようかと思っていた。しかし、先に見た観劇仲間がすごくよかったというので、急遽チケットを入手。たしかによかった。夫婦とその友人の三人を中心に、男女の間柄の微妙な揺れを丹念に描いていく。

 何不自由なく育った若社長の田宮慎一郎(東出昌大)が、新婚の妻いずみ(水上京香)と暮らす別荘。スマートで嫌みのない慎一郎なのに、なぜか、いずみには少し距離がある(これが大変微妙な距離で、普通には優しい夫にしか見えない)。いずみの遊び相手に、慎一郎は後輩の北島(仲野太賀)を頼んでいる。先代からの女中の落合(片桐はいり)は、北島といずみの近さに気をもむが、そういう落合を慎一郎は、北島を侮辱するものだと一方的に批判する。

 そこに、エキセントリックな秘書の上野(菅原永二)が、若い女中の早紀子(清水葉月)につきまとう副筋がからみ、落合に付きまとう地元の電気屋の松本(岩松)が端役でコミカルさを付加する。慎一郎のスマートさの裏には経済的裕福さの優越感もあることが、北島や上野との関係からほの見えるのも、深みを増している。

 登場人物は7人。昔、若い平田オリザが岩松了の舞台を見て、自分の「静かな演劇」の道に確信を持ったと書いていた。確かに、何気ない会話を続けながら、秘めた何かを示唆するところは似ている。そして、なにより、人物の出入りによって、北島といずみ、いずみと慎一郎など、舞台上の人物の組み合わせの変化を、劇作上の推進力に使うところが一番似ている。

 片桐はいりの少々オーバーアクション気味の演技が、舞台を活気づけて、笑いを巻き起こしていた。それがくさくなく、自然体に見えるところがさすがである。
 慎一郎と落合の会話から、先代の夫婦が冷え切った関係にあったことがわかり、それが意外な結末につながっていく。はっきりとは描かないが、観客に何かを想像させる絶妙のラストだった。

第一部『1961年:夜に昇る太陽』 第二部『1986年:メビウスの輪』 第三部『2011年:語られたがる言葉たち』

第一部『1961年:夜に昇る太陽』 第二部『1986年:メビウスの輪』 第三部『2011年:語られたがる言葉たち』

DULL-COLORED POP

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2019/08/08 (木) ~ 2019/08/28 (水)公演終了

満足度★★★★★

ひさびさに弾ける社会派喜劇を見た。テーマは福島第1原発事故、第2部は具体的には、原発反対派のリーダーから、賛成派の町長に転身し、原発増設要求までやった実在の双葉町町長をモデルにした悲喜劇である。人間の愚かさ悲しさを、笑いとミュージカルでくるんだ出色の舞台である。

ワイルダー「わが町」からヒントを得て、語り手に飼い犬(冒頭で癌で死ぬので、死者の声でもある)を配して、自体を客観視する視線を確保している。それでも、東大卒の若手エリートの、口先八丁の取り繕いに乗っかって、主人公が原発反対から賛成派へ転じる第1段階、さらにチェルノブイリ事故後、「日本の原発は安全です」と歌い踊る第二段階、見事な皮肉だった。このミュージカルシーンは、笑いを通り越して泣けた。

サルトルやハイデガーを犬が語るのもご愛嬌である。主演の岸田研二の東北っぽい(訛りそのものではない)朴訥な台詞回しが効果的だった。エセ論理で安全神話を捏ね上げるエリート秘書役の古河耕史が、舞台の肝にリアリティを与えていて、大変良かった。

フローズン・ビーチ

フローズン・ビーチ

KERA CROSS

シアタークリエ(東京都)

2019/07/31 (水) ~ 2019/08/11 (日)公演終了

満足度★★★

ナイロン100℃の舞台は見ていないが、今回は戯曲に忠実すぎたせいか、笑いが弾けなかった気がする。客席の反応も今ひとつだった。もう少し演出と演技でメリハリをつけたほうがいいのではないか。やはり犬山イヌ子がやった役を、舞台初経験の人がやるのは苦しい。ブルゾンちえみの突き抜けた芸が見られなかった。SNSの感想を見ると、皆面白かったと書いてあるのだが、本当だろうか。

ネタバレBOX

3幕劇。1幕は1987年、かつてスペイン領の大西洋の島の豪邸に若い女性、千津(鈴木杏)市子(ブルゾンちえみ)二人がやってくる。この豪邸は高校の同級生の愛(花乃まりあ)の父親が事業で成功して買ったもの。愛には双子の姉の萌(同)と、父の後妻の咲恵(シルビア・グラブ)がいる。

愛は高慢な鼻持ちならない娘らしいが、花乃はいやらしさが不足。少し足りない市子が、千津の言葉を真に受けて、愛をベランダから突き落とし、殺してしまう。この殺しも必然性を感じない。

一方、咲恵は萌が心臓麻痺で死んだのを自分が殺したと誤解して警察に電話。この電話が、千津がかけたまま忘れていた日本とのでんわで、千津の子の幼児が出て…。ここも笑えるはずなのに、今ひとつ。

そこに死んだはずの愛が生きていて、萌の死体を見つけ(あまりくどくやるとあざといが、リアクション不足では?)、一計を案じて、萌の振りをして、千津たちに愛を殺した罪悪感を植え付けるが、咲恵は、萌が生き返ったので驚き…。ここまでが1幕。

2幕は1985年。地下鉄サリンの年である。同じ豪邸に、愛がやってくるが、なんとオウムに入信。事件後も尊師を信じている。指名手配の信者をかくまってくれと愛に頼むが、断られる。ところが、お土産の八ツ橋に毒が持ってあり、咲恵は痺れて動けなくなる。もうすぐ死ぬと千津は脅す

愛は、解毒剤を出せと千津に詰め寄り、言うことを聞かない千津をナイフで殺してしまう。そこに市子が起き出してきて、毒はウソだと咲恵に告げる。一時的に痺れるだけだと。それが、8年前に死んだ振りをして私たちを苦しめたのと釣り合う復讐だと。この2幕が一番面白かった。鈴木杏のコチコチのオウム信者ぶりも笑えた。
ただ、市子の超能力で愛が生き返ると言うのもご愛嬌である。

3幕は2003年。初演時は近未来だったので、麻原が釈放されたとか、現実とはずれた話があるが、オカルト的設定の話には、かえって噛み合っていた。
島は地盤沈下で沈みかけており、島民は皆脱出。破産した愛が、ヘリコプターで懐かしい家に戻ってくる。ピストルを持っていて自殺するつもり。そこに、あとの3人もやってきて、となるのだが、後日譚的場面で、大きな事件はなかった。

萌の心臓麻痺は、千津が自分が薬を多くあげすぎたからではないかと悔やんでいると言う話が印象に残った。ここでもオカルトがあらわれ、16年前からずっといる虫が、大きな笑い声でみんなを怖がらせる。最後は、みんなでベランダから海に飛び込んでおしまいであった。

憎めない悪意、あっけない殺し、オカルト、笑い、とケラの持ち味がよくわかる作品。岸田戯曲賞受賞もうなずけた。「黒い三谷幸喜」と言われたのも納得。
マシュー・ボーンの「白鳥の湖~スワン・レイク~」

マシュー・ボーンの「白鳥の湖~スワン・レイク~」

ホリプロ/TBS/BS-TBS

Bunkamuraオーチャードホール(東京都)

2019/07/11 (木) ~ 2019/07/21 (日)公演終了

満足度★★★★★

あの白鳥を、男たちが踊る伝説のバレエを初めてみました。男たちのバレエシーンはさすがに、見ごたえ、聞きごたえ(音楽・チャイコフスキー)たっぷり。バレエは、音楽と踊りと美術・衣装で物語を語る無言劇だなあと認識した。所作以外の、様々な視角要素を動員するところが、パントマイムとは違うし、メインは何といってもダンス。普通のダンスとはちがう、様式化されたダンスが見せ場というところは、日本でいえば歌舞伎とも通じる。

面白かった。主人公の王子の恋人になるアメリカ女性の格式張らない正直さがコミカルに演じられていたのが、非常によかった。舞台を活気づけるユーモアがあり、あれがないと退屈だろう。いまでいえば安倍首相の昭恵夫人のような、危うい天真爛漫さだった。

ネタバレBOX

もとになった「白鳥の湖」のストーリーを基本踏まえているのだが、どこがどう違うかを確認しておきたいと思う。音楽も最初は、アレンジしているのかと思ったが、良く知っている人に聞いたらチャイコフスキーそのままだった。ただし生演奏ではなく、録音。
『その森の奥』『カガクするココロ』『北限の猿』

『その森の奥』『カガクするココロ』『北限の猿』

青年団国際演劇交流プロジェクト

こまばアゴラ劇場(東京都)

2019/07/05 (金) ~ 2019/07/28 (日)公演終了

満足度★★★★

「その森の奥」観劇。マダガスカルにある日韓仏の研究者がいる霊長類研究所の日常会話を描きながら、その話の端々に日韓、フランスとマダガスカルの民族差別・抑圧を垣間見させる。「ソウル市民」以来の、平田オリザの得意の作劇術で安心してみられる舞台だった。

「100年前のパリ万博では人間を展示したんだ」の、人間はアフリカの黒人。それを見た日本人が、日本でも同じことをやり、その時展示したのは沖縄人と韓国人。という話はど切り落とさせられた。人類館事件というそうだ。
観光業者が類人猿を見世物に、観光開発を企画することと、こうした民族差別をダブらせながら、動物虐待(差別?)批判の裏に民族差別批判を忍び込ませる。そういう手の込んだ批判の仕方が、嫌味でなく、物事の複雑さを感じさせた。
休憩なし1時間35分

ネタバレBOX

フランス人の女性新人研究者が、芝居の半ば過ぎに、ここに来た理由は「息子の自閉症治療のヒントを類人猿研究から得るため」「自閉症の猿を、脳手術などでつくりたい」と、「秘密の暴露」を行う。さらに、韓国人男性研究者が、娘をなくしたせいで、妻がチンパンジー研究にストレスを感じるようになって、研究を中断しているという秘密も告白する。この二人の内面の苦しみ、葛藤に深く引き込まれた。この場面が一番よかった。(それぞれフランス語、韓国語のセリフなので、内容は字幕で理解することになる)
こうした深い内面の吐露は、平田オリザには珍しいのではないかと思った。しかし、繰り返すが、ここが一番よかった。

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