Takashi Kitamuraの観てきた!クチコミ一覧

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ある八重子物語

ある八重子物語

劇団民藝+こまつ座

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2020/12/18 (金) ~ 2020/12/27 (日)公演終了

満足度★★★★

月乃(吉田陽子)、ゆきゑ(桜井明美)、花代(有森也実)と、三人の芸者それぞれの身の上話が一~三幕の中心になる。やはり二幕の、ゆきゑと、女形を研究する京大生の弟・一夫(塩田泰久)の話が抜群に面白い。これは新派の芝居『滝の白糸』の、白糸と村越欽弥と重なるそうだ(パンフレットの水落潔原稿による)。姉弟の再開・身の上話にはジンときた。珍しく目頭が熱くなった。

さらに二幕には、女装した一夫が、「姉と瓜二つ」と池田徳蔵に求婚される勘違い喜劇もある。徳三は『日本橋』の葛木晋三だそうだ。これを女装した男に男が惚れてしまう「勘違い喜劇」にしたところが、井上ひさしの趣向…だとおもう。まさか新派で、そんな展開はないと思う。
一夫役は新派で初演した時、中村勘九郎が演じ、特に客席をわかせたそうだ(『全芝居』扇田昭彦解説)。今回、全く別の俳優でも、一夫役が一番花があった。第三幕は一夫が出てこないので、少々寂しく感じるほど。華のある役者に当て書きした役は、役自体にその役者のオーラが乗り移るのだろうか?
 
ユーモアと、ドタバタコメディまで盛り込んだ楽しい芝居は、民芸には珍しい。でも自家薬籠中のものとして、楽しく、笑いの多い芝居に仕上げてくれた。ただ、神田川に架かる「柳橋」を、舞台奥の2階に作っていたが、舞台手前の空きスペースを橋に見立てたほうが、見やすかったと思う。

病院従業員の三人の掛け合いは、「闇に咲く花」のお面工場の女性たちのようだ。
また、うっかり入営に遅れて逃げている一夫は「きらめく星座」の脱走兵の長男のよう。これは「人間合格」の地下活動家や、「太鼓たたいて」の農家の男、「私は誰でしょう」の記憶喪失の男にも共通点のある人物。時々現れて舞台のトリックスターになる。
このように井上ひさしの得意技がしっかり盛り込まれていた。

いきなり本読み! in 東京国際フォーラム

いきなり本読み! in 東京国際フォーラム

株式会社WARE

東京国際フォーラム ホールC(東京都)

2020/12/25 (金) ~ 2020/12/25 (金)公演終了

満足度★★★★★

面白かった。何度も思い切り笑わせてもらいました。まず、大倉孝二が女の役を男と間違えてスタートするのがご愛嬌。さらに後藤剛範が演出の岩井から「記憶とかいろいろを失っているように」といわれて、アジア人のカタコト日本語風に。岩井も「なんか根本からなくした感じでいいですね」とうけて、盛り上がった。
同じく「ヤンキーの感じで」とか「低いヤンキーで、岩岡力也のように」などといわれて、後藤ががらっと演技を変えて、笑った。さらに神木隆之介くんはカミだった。人間を超えたクールさを淡々と出して、見本を示したし、歯のない老人役ですぐに「フガフガ」調で読んで、会場、爆笑、爆笑だった。「ポリデントないんですか?」「忘れたってことで」とか、台本外のやりとりも当意即妙だった。
紅一点の松たか子は、特におかしいことをするわけではないが、後藤や神木の演技に素直に笑い転げる性格の良さが、いい感じだった。「安岡力也」風の後藤の演技には、松が笑ってセリフが読めなくなってしまったのもご愛嬌である。

なんの台本を読んだかは、あえて書かないでおく。岩井も最後まで明かさなかったが、私は映画版を見たことがあったので、割と早くに分かった。でも、最後の別れのシーンは、忘れていた。今回、舞台を見ながら、ラストでジーンときた。この台本に、こんないいシーンがあったとは。台本もナイスチョイスである。休憩20分入れて2時間半。
WOWOWで3月に放映する予定とのこと。

チョコレートドーナツ【12月7日~19日公演中止】

チョコレートドーナツ【12月7日~19日公演中止】

パルコ・プロデュース

PARCO劇場(東京都)

2020/12/07 (月) ~ 2020/12/30 (水)公演終了

満足度★★★

ハッピーエンド好きだったマルコの好みとは相反して、アンハッピーな結末に驚いた。ゲイカップルが世間の偏見と闘うという構図に、母からも愛されないダウン症の障害児が受ける不利益が重なる。どうもお定まりの物語からはみ出すものに欠けた。周囲の人物が、もう少し裏表のある人間だったり、善意はあっても、立場から辛くあたらざるを得ないというくじゅうがあるとよかったのではないか。

ただ、東山紀之の歌うボブ・ディランの名曲「I Shall Be Released」(いつか自由に)が、すごい絶唱ですべてを浄化した。 この歌が聴けただけでも、いったかいがあった。

てにあまる

てにあまる

ホリプロ

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2020/12/19 (土) ~ 2021/01/09 (土)公演終了

満足度★★★

藤原竜也の仕事と家族と過去においつめられて、次第に常軌を逸していく演技が圧巻だった。彼の、異常心理で目のすわった役はピカイチ。柄本明は食えないオヤジを飄々とやっていた。このふたりがぶつかるシーソーゲームが軸の芝居だった。さらに佐久間由衣(藤原の妻役)と柄本の対決も見応えあった。佐久間が理性と常識を掲げて「(長男を虐待死させたことに)反省はないんですか?」とつめより、柄本が平然と「ないね」と答える。柄本の「学級会の外にも世界はある」という乾いたニヒリズムが非常に説得力があった。
1時間40分とコンパクトにまとまっている。

ネタバレBOX

藤原が、父に反発、糾弾しつつ、実は自分も父と同じように娘を虐待し、妻をいびっている。この二重高層がだんだん見えてくるのも面白かった。さらに母親が死んだ長男をずっと愛し、次男の藤原を「あんたは父親にそっくりだから」と愛さなかったことも。これは(よくあるトラウマだが)辛いだろうなあと思った。

藤原が凶行に走るのはまったく意外だった。その驚きがショックでいいとも言えるし、唐突で、そこまでの必然性を描けていないとも言える。「朝日」の劇評にもあったが、最後の父・柄本にアプリが不気味に迫るのは、中途半端。全てが息子・藤原の仕掛けた復讐だった、となれば、最後のどんでん返しなのだろうが、そこまでのカタルシスはない。
No.9 ー不滅の旋律ー

No.9 ー不滅の旋律ー

TBS/キョードー東京

赤坂ACTシアター(東京都)

2020/12/13 (日) ~ 2021/01/07 (木)公演終了

満足度★★★★

何が良かったといって、ベートーヴェンのピアノ曲と交響曲の触りを、ベートーヴェンの人生とともにたっぷり堪能できたのが良かった。稲垣吾郎はわがままで起こりっぽいベートーベンを、抑え気味にクールに演じていた。そのクールさはナテッネ(村川絵梨)とマリア(剛力彩芽)の姉妹に求愛するところで強く感じた。意外とそっけないのです。女性に対する不器用さを表現していると思った。女優二人が、華やかさと芯の強さを兼ね備えた演技で素晴らしかった。稲垣吾郎のベートーヴェンとのトライアングルがこの舞台の肝であった。

ベートーヴェンの父親に対する恨み・トラウマが、回想シーンや、現在の幻影として度々出てきて、楽聖の人物に深みを与えていた。また、ウィーンの警官のフリッツ(深水元基)が、ずぼらな遊人から、強権的な秘密警察へと豹変することで、自由が狭められていく時代の動き、革命の理想の幻滅を示していた。

休憩20分込み3時間10分(70分ー20分ー100分)。市松模様の排斥で、間隔をあけていた。既に満席にしている劇場も(新国立や東急、東宝系など)多くなっている中、慎重な劇場の姿勢だった。

ネタバレBOX

舞台の美術で、梁の一部付いた柱が、奥に向かって左右に並んでいる。それが上からの何本ものワイヤーにつながっているのだが、あのワイヤーはなんだろうか。舞台の大も四隅に上からのワイヤーがある。ほかの壁などの装置は、上から釣り下ろしたり、引き上げたししたが、あの柱は動かなかったと思うし、大に至っては絶対動かない。それでもあるワイヤー。多分、天上への、至高の世界へのベートーヴェンの意識を示したのだろう。

最後の「歓喜の歌」は、一緒に行った友人は「鳥肌が立った」と言っていた。しかし、私はスピーカーからのオケと合唱の大音量が録音ぽくて、生の舞台の雰囲気とのズレを感じた。すごいのだけれど、すごすぎるという感じ。第一部の幕切れの「歓喜の歌」の合唱の方が、生っぽくて、素直に気持ちが乗れた。大音量で聴かせるよりも、舞台の生の声を大事にしたほうがよいのではないだろうか。
23階の笑い

23階の笑い

シス・カンパニー

世田谷パブリックシアター(東京都)

2020/12/05 (土) ~ 2020/12/27 (日)公演終了

満足度★★★★★

第2場の最初、最若手で語り手のルーカス(瀬戸康史)が、間違って机でボヤを出し壁を黒焦げにしたら「こいつもイカれてる」と認定されて採用された、と語る。言われてみると、壁には黒々と、天井までの焦げ跡。1場ではなかったのに。私はここで笑いのスイッチが入って、それまでのストッパーが外れた。あとは舞台のコントに素直に笑い続けられて、最高だった。

なにより、みな芸達者。なかでも病気ノイローゼで遅刻常習犯のアイラ役(梶原善)が、本当に、ねじが外れてた。声量も他を圧するボリューム。ブライアン(鈴木浩介)との、コント合戦も笑えた。コメディアンのマックス(小手伸也)も、いかれぶりがハンパなかった。ジュリアス・シーザーのコントの練習が最高潮の一つ。ルーカスがブルータス役なのに、足が震えて、シーザー(マックス)に剣を向けることができず、マックスが「ブルータス、お前もか!」の決め台詞が言えないために、じれまくる場面は爆笑だった。唯一作家ではない秘書のヘレン(青木さやか)の一回だけの幕間のコントも良かったし、またいかれた放送作家たちにはかなわないずっこけぶりも良かった。

テレビの人気バラエティ番組を支えた構想作家たちのドタバタ、おかしな毎日を描く業界裏話なのだが、赤狩りが物語のなかで意外に強調されている。最初にマッカーシーによる英雄将軍も共産党員呼ばわりから始まり、スターリン死去もはさんで、マッカーシーへのけん責決議で終わる。彼らの作る番組がどんどん時代から取り残されていくところに、ただのドタバタではないペーソスが生れる。予算カットで7人の作家のうち、1人を首にするためのくじで「マックス」という名前が出てくるところは、大笑いしながらも、ぞの優しさがジンときた。ただ、マックスの凋落と赤狩りとは直接関係ない。
サイモンにのっとりながらも、今の日本の観客向けに脚色しているところが、成功のもう一つの要因だろう。翻訳臭さがなかった。三谷幸喜にとって「ヒトの本」だけど、三谷カラー全開で、楽しくやれたのではないか。

ネタバレBOX

最後は、部屋を飛び出し、街灯セットのような下での小手伸也のふけないサックスで終わる。カーテンコールのようだ。サイモンの戯曲ではなく、三谷の台本ではないか。
エーリヒ・ケストナー〜消された名前〜

エーリヒ・ケストナー〜消された名前〜

劇団印象-indian elephant-

駅前劇場(東京都)

2020/12/09 (水) ~ 2020/12/13 (日)公演終了

満足度★★★★

感動しました。反ナチのケストナーと、ナチスの女神になったレニ・リーフェンシュタールを鉢合わせにする発想がうまい。共産党員でゲシュタポに殺された俳優ハンスと、ナチにすり寄って映画監督になったヴェルナー。ケストナーと寄宿学校以来の親友だったという二人の変化を絡めた、1923年から1945年までのナチスの台頭と破滅と、ケストナーの執筆禁止の中での、映画脚本という誘いを受けての葛藤。少数の登場人物たちの人間関係の変化と時代の変化を絡めるのは井上ひさし芝居のようでした。

特に前半は、中学生のロッテの怖いもの知らずの一途さといい、レニをめぐるヴェルナーとケストナーの掛け合いと言い、活気がみなぎっていた。

ナチスの弾圧が始まると、それぞれの立場が硬直して、人物が与えられた枠を越えられないところは残念。でも、最後、ドイツ降伏後の場面は、戦争協力を責められて反論するレニのセリフが光っていた。「女には権力に擦り寄るしか映画を撮る道はなかったのよ」なぜ私だけが」「あなたは私を見ると、鏡のように、自分の姿が見えて苦しいのよ!」
「雪山の道なき道を必死で登ってきたのよ。雪が溶けてから、本当の道は違ったと言われても、どうしようもないわ」等々。

戦争協力を、男社会で女性が実力を発揮するためのやむを得ない選択、という見方は、きわめて今日的だと思った。女性活躍が未だにお題目だけの日本の現実に刺さる

ネタバレBOX

「ホラ吹き男爵の冒険」をケストナーが匿名で映画の脚色をしていたのは知らなかった。これをナチスへの屈服、協力ととるか、やむを得なかった偽装ととるか、そもそもただの娯楽映画ととるか。難しいところである。
現代能楽集Ⅹ『幸福論』~能「道成寺」「隅田川」より

現代能楽集Ⅹ『幸福論』~能「道成寺」「隅田川」より

世田谷パブリックシアター

シアタートラム(東京都)

2020/11/29 (日) ~ 2020/12/20 (日)公演終了

満足度★★★★

瀬戸山美咲作「道成寺」の選良意識が鼻につく父、母、医大生の息子。こんな人いないだろうというほど戯画化された描き方だが、自分の奢り(と裏腹のコンプレックス)が彼らの中に仄見える。痛い舞台だった。長田育恵作「隅田川」は、窃盗犯の鑑別所の少女が陥った不幸が、予想外の真相で、言葉を失う。男を責めてはいないように思ったが、後から考えると、「本当の名前を教えて」と頼んだ少女に、男は「あとで」とはぐらかした。ここに男の狡さ、無責任が凝縮されている。女は性暴力の被害者と取ることもできる。男にとっては怖い舞台だった。

どちらも老女役の鷲尾真知子の哀れさと凄みに大きく振れる演技が圧巻だった。「道成寺」の夫婦を演じた高橋和也の可哀想な程の勘違いの道化ぶり、明星真由美の秘めた夫への恨みと子の溺愛が痛々しかった。

アルマゲドンの夢

アルマゲドンの夢

新国立劇場

新国立劇場 オペラ劇場(東京都)

2020/11/15 (日) ~ 2020/11/23 (月)公演終了

満足度★★★

映像を駆使した演出でビジュアル面で健闘していた。電車内のシーンで周囲に車窓風景を流す。クーパーの自室の最初、紛争や貧困の映像を、妻のベラが引く海辺のカーテンで覆い隠すところにも、偽りの平穏への批評が見える。夫婦のベッドシーンも映像も使って少々扇情的に見せて見応えあった。ワーグナーの「タンホイザー」の地下の悦楽の園で、男女の数多の裸体が絡む、刺激的な演出には及ばないけれど。

白い仮面と防弾チョッキとマシンガン持った「スター・ウオーズ」のクローン兵の戯画も頑張っていた。

ただ全体としては中傷的で、感情的には入りにくい。観客の拍手も(さすがにブーイングはなかったが)戸惑い気味で勢いがなかった。最後は拍手も高まったが、この難解な作品を演じ切った労いの拍手のようだった。音楽も現代音楽の難解さを突っ走っていた。全体主義への危機感や、悪夢のような現実への無力感などコロナ禍重なるところもあった。

コロナの中、歌手陣も来日できてよかった。客席も100%販売していた。

ネタバレBOX

夫のクーパーがベッドでも、戦いに赴くかどうかのビーチでも、妻のベラにひっぱられて受動的。ここはテノール役によくある優柔不断なダメ男の系譜を受け継いでいた。だからクーパーを破滅させたのはベラであり、彼女は悪女ということになる。そのせいか、彼女はクーパーに撃たれて死ぬ。ただ、なぜ彼が妻を殺したのか、突然の出来事で、理由がわからなかった。

終幕のボーイソプラノの清浄な神を讃える歌声が美しかった。カーテンコールの拍手も多かった。「アルマゲドンを起こしてくれたことへのかんしゃ」もあった。すると人間の滅亡を讃えたことにならないか。人類が死に絶えた後の平和を讃美するかのようだった。
ハルシオン・デイズ2020

ハルシオン・デイズ2020

サードステージ

紀伊國屋ホール(東京都)

2020/10/31 (土) ~ 2020/11/23 (月)公演終了

満足度★★★

鴻上尚史の舞台はどこか破茶滅茶なものだが、今回は作品内部の矛盾が解決しきらないまま、支離滅裂寸前にまで至った。自殺志望の3人がネットで知り合って集まる。自殺のために。しかし、その一人は、かつて教え子の高校生を自殺させてしまった元スクールカウンセラー(南沢奈央)。彼女にしか見えないその生徒の幻(須藤蓮)が常に傍にいる。彼女は自殺を止めようと来たのだが…これがホップ。

しかし、自殺志願者のリーダー(柿澤勇人)は人格分裂気味。発作が起きて、「自粛警察と戦い隊」を立ち上げ、自殺グループは「戦い隊」に変えられちゃう。その隊が取り組むのは、「泣いた赤鬼」の芝居。これを近くの保育園で慰問公演したら、自粛警察がやってきて公演をぶち壊し、そのことで彼らの横暴ぶりを世にアピールできるというのだが。ナントも回りくどい設定である。舞台でやるのは「泣いた赤鬼」のリハーサル。名作だとは思うが、お遊戯に付き合わされるのはちとしんどい。ここでステップ。

自粛警察のような同調圧力への鬱憤を爆発させようとしたのだが、最後は大江健三郎のような尻すぼみ。正気に戻ったというのでは、一種の夢オチで、カタルシスに至らなかった。演者と客席で「自粛警察と戦い隊」の歌は歌ったけれど、自殺志願隊と戦い隊の分裂が結局最後まで統一できなかった。

舞台美術は通販の箱を積み上げた壁。場が進むにつれ、増殖し、最後は壁面全てをお覆い尽くす。ここにコロナの巣篭もりの暗喩があるが、「だからナンなの?」という気もする。ハルシオンは、睡眠薬の名前らしい。自殺したい不眠症者の象徴である。でもハルシオン・デイズとは、平穏な日々という意味らしい。

ネタバレBOX

しかし、保育園が慰問隊がコロナ感染経験者と聞いて、慰問を断ってくる。マサ(柿澤)は、急遽作戦変更、爆弾を徹夜で作り、稽古中に爆発させて、自粛警察の仕業に見せかけて、彼らを陥れようとする…。でジャンプ

でも爆弾は不発で、マサも正気を取り戻して、自殺志望者に戻る。けど、みんな自殺は取りやめ。もう一人のハンドネーム「ユンセリがライバル」さん(石井一孝)が、饒舌な道化役で、舞台を盛り上げる。サラ金・闇金に追われて死のうとしていた彼も、修羅場を生きようと翻意。南沢も死んだ生徒に心から詫びて、心の支えが取れ、幻は消える。生徒の話す月の地球照話は知らなかった。面白かった。

マサも、コロナ感染して会社から追い出されたのは親友で、抗議して戦う親友を、自分はネットで中傷した「最低なやつです」と告白。3人の事情が最後は明らかになる。

客席は市松模様。慎重な対応で、驚いた。座れない席には紀伊国屋のダンボール箱をおき、「この席の方はとなりへ」という張り紙もちらほら見えた。どういうチケット販売をしたのだろうか。
PANCETTA special performance “un”

PANCETTA special performance “un”

PANCETTA

シアタートラム(東京都)

2020/11/19 (木) ~ 2020/11/22 (日)公演終了

満足度★★★

タイトルは「ウン」と読む。ウン◯の「ウン」。舞台は石組の神殿のようで、奥の石段の上に個室らしき箱がある。ここは大きな建物の最上部、舞台床の穴から、一人、二人と人が登ってくる。若い男、若い姉妹、太った女性…揃うと6人。皆白い上下のつなぎ服を着て、生活感や属性を感じない。何しにきたのか。

互いに警戒し合っているが、次第に状況が見えてくる。あの最上段の箱はトイレで、トイレ目指してきたらしい。でもなんか様子が違う。太った女の持ってきたナンを見て、皆が食べたいけど、この世界ではてべてはいけないと牽制し合う。そう、ここは食事も排泄も無くなった未来社会。食べると禁忌に触れて処罰される。それでも皆、誘惑に負けて食べてしまうが、使っていない胃腸は激しい腹痛を起こす。それでも排泄に挑む男は、最後に何を見るのか。ちょっと奇妙な設定だが、切なくも滑稽な90分だった。

舞台パフォーマンスとして、3回くらい、バックの音楽に合わせて、無言ダンスする。特徴の一つ。また、中盤、チリチリヘアーの男が他を整列させて、「お前ら、食べたいんだろう? いいと思ってるのか!」と責めながら仕切る。しかし男も実は食べたい。皮肉とメリハリのつくところである。

ネタバレBOX

女のナンを食べて排泄の刺激が起きるわけで、ここにきただけでは、その前に何も食べてないので排泄できない。それなのに、皆、(太った女以外)何しにトイレに来たのか。ちょっと辻褄が合わない。

大柄な中年男は医者らしかったが、最後に無線で当局に連絡を取り、スパイだった。
トイレの中のウン◯も実はこの男がやったらしい。ウン◯を見て、みんなのけぞり、「あんな姿にあなたになってほしくない(!)」と、姉は好意を抱いた若い男に排泄を思いとどまらせる。
結局、排泄をやめた方がよかったというけつろんで、食べてウン◯する人間の営みを愛おしむのでなく、疎んじる。醜い自然より、人工の清潔さの不自然に後退する。足を半歩踏み出したところで、その「誤り」に気づき、規律に服従に戻った。以前より自発的に。それなのに、ふもとに降りれば、禁忌を侵したと逮捕されそう。二重の意味でアイロニックな結末である。
五十四の瞳

五十四の瞳

文学座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2020/11/06 (金) ~ 2020/11/15 (日)公演終了

満足度★★★★★

たいへんよかった。瀬戸内海の小さな朝鮮学校の卒業生たちの若い日々と、在日が歩んだ戦後60年代までの歴史が重なる。小さい物語だが、世界の大きな芝居。帰国運動があったことなど忘れていた。女先生役松岡依都美、女生徒役の頼経明子、女優がよかった。そしてなによりたかお鷹。「働いて働いて働いた」の独白場面は、圧巻だった。

ネタバレBOX

日本人の生徒の事故死した後の、最後のシーンは、なぜか目頭が熱くなった。人々がそれぞれの生活へ散っていくのは「屋根の上のヴァイオリン弾き」と同じで、鄭さんの得意のラスト情景。
ビューティフル【11/24昼は舞台機構の不具合のため公演中止】

ビューティフル【11/24昼は舞台機構の不具合のため公演中止】

東宝

帝国劇場(東京都)

2020/11/05 (木) ~ 2020/11/28 (土)公演終了

満足度★★★★

Wキャストのうち平原綾香の回を観劇。平原とソニンの歌が素晴らしい。それを聴くための舞台なので、あとドラマの彫りが浅いなどと、言っても仕方がない。バックのコーラス、歌手役の人たちもうまい。これは意外な発見だった。キャロル・キングの名前は知らないが「ロコモーション」の曲は有名で、聞いたことがある。
座席の一つおきの市松模様はやめ、ほぼ満席だった。

ネタバレBOX

最後は、16歳で結婚したキャロルとジニーの夫婦が、ジニーの浮気が原因でキャロル28歳の時に別れ、長く結婚をためらっていたシンシアとバリーのカップルは、結婚する。互いの夫婦がクロスするような形で、キャロルの離婚の不幸せを、柔らげていた。
女の一生【京都公演中止/東京公演初日延期】

女の一生【京都公演中止/東京公演初日延期】

松竹

新橋演舞場(東京都)

2020/11/02 (月) ~ 2020/11/26 (木)公演終了

満足度★★★★★

古典として残る戯曲は豊かさが違うと痛感した。人物配置の見事さ、二つの三角関係(プラトニックなものです)が一つの家庭の中にあり、対比的な効果を生んだり、秘めた想いを脇役の叔父が持っていたり。布引けいの一生を取り巻くサブストーリーもよくできている。セリフも粒だった言葉、人生の機微に触れる言葉が多くある。いまさら「女の一生」を見てもという思いで、でも大竹しのぶがやるからには何かあるのだろうと、チケットをとったのたが、見事に浅はかな考えを覆された。
しかも大竹しのぶをはじめ俳優も良かった。とくに大竹の柄の大きさが、この一家を背負って自分の願いを断念した女傑を演じて、ぴったりだった。貫禄と存在感がある。同時に、出てきた時のおしゃまな孤児の演技は、「赤毛のアン」を連想した。アンが「鉄の女」に変わってしまうのだから、変貌ぶりにはびっくり。とくに姉娘の見合いの第4場。見惚れてしまった。

旅順陥落から敗戦までの日本の中国進出・侵略の歴史が、中国との貿易を手がける堤家の家の歴史と絡んでいる。ただの家庭史ではない、厚みがある。しかも、けいが本当は愛していた次男の栄二が、共産党員になる。1945年4月の作品としては勇気ある設定だと思う。共産党が、いわば、時代の象徴を担う役割を果たしていた。別に左翼作家でもなんでもない森本薫がこう書いたことに、感慨というか、胸が熱くなるものを感じる。

ただ、初演の作品と戦後長く上演されたものは手直しがある。45年10月の焼け跡の場が最初と最後にあることを見ても明らか。初演版と、現行版の違いは後で確かめたい。

客席は市松模様。この広い劇場でマイクなし(だったと思う)ので、みなさんなかなかの発声である。

プレッシャー

プレッシャー

加藤健一事務所

本多劇場(東京都)

2020/11/11 (水) ~ 2020/11/23 (月)公演終了

満足度★★★★

ノルマンディー上陸作戦は当初6月5日の予定だったが、暴風雨で6日に延期された。その裏にあった気象学者の予報の努力を描いた。スタッグ博士を演じる加藤健一は正義感と頑固さ、期待と反する結果でも、正直に言わなかればならない苦衷を示して説得力があった。

アイゼンハワーを演じた原康義さんが、わたしはひさしびぶりに見て、感慨深かった。地人会の藪原検校で見たのが、30年前。あの体当たりの演技は今も思い浮かぶすごいものだった。あの若い悪党の悲しみを演じた熱血俳優が、老練の連合軍司令官を演じるのを見るとは。歳をとるのもいいことだという気がする。

作戦に向かう兵士たちの犠牲と自分の任務を思って語る台詞は、ただただ拡張高い。感傷でも自己弁護でもない。それまではちょっと軽い人物と見えていたのが、一気に歴史的人物に見えた。
日本軍の将校にこうした哲学のもちぬしをもたないこと。いたとしても知られないこと。知ったとしても侵略戦争と敗戦のゆえに、素直には聞かれないだろうことの不幸を考えた。
その日の自然現象が戦いの帰趨に影響した芝居として、「子午線の祀り」のことを連想した。彼我の共通点はどこにあるか。アイゼンハワーの「神を信じなければ、軍の指揮などできない」という言葉に、全く逆の敗軍の側からだが、敗北を予想しつつ戦い抜いた知盛と重なる。

2時間45分(休憩15分含む)

ネタバレBOX

後半の、予報を巡る全く対立した意見の対立、延期の決断、しかし天候が持ち直しそうな予兆の発見、さらに1日後の決行の決断、結構の深夜の、アイゼンハワー司令官の兵士たちに犠牲に想いを馳せる葛藤はじかんをかんじさせない、迫真のひとときだった。
『迷子の時間』-「語る室」2020-

『迷子の時間』-「語る室」2020-

パルコ・プロデュース

PARCO劇場(東京都)

2020/11/07 (土) ~ 2020/11/29 (日)公演終了

満足度★★★★

よかったです。前川知大ワールドの入門編という感じ。亀梨和也の舞台は初めてでしたが、今回は語り手的存在で、真面目さと冷静さで物語をクールに進めてました。5年前に起きた幼稚園送迎バスの失踪事件の被害者家族の生活が丹念に描かれていく。消えた幼児の母親役の貫地谷しほりさんがうまい。見惚れました。それと、愛車を盗まれたという、東京からきた霊媒師(古屋龍太)が良かった。謎を解く鍵を握るトリックスター的道化ぶりが、浮くことなく決まっていた。

観劇日は生越千晴さんの誕生日だった。28歳。蓬莱竜太の舞台ではよく見ていたが、今回はガラッと変わった世界観で、別人のようだった。大ベテランや人気俳優に囲まれて大変だったかもしれない。でもこれもよし。

ネタバレBOX

後半になって、霊媒師の元に「僕幽霊なんです」というガルシア(松岡広大)が現れる。戸籍のない彼は、なんと2000年に失踪したバス運転手の残した幼児。2022年からタイムスリップしてきたという。ここで、失踪事件がタイムスリップらしいとわかる。

消えた二人(一人は浅利陽介)も生きていたことがわかり、意外な形で登場する。あまり昔に飛んでしまうと出会いようがないが、そこはほどほどの30年ほど。
結局、観客に謎の答はわかるが、登場人物たちは謎を知らないままに終わる。そこが少々おとなしいところ。大きな発見の落差はドラマの中では起きない。
最近の前川ワールドの、展開の飛躍ぶりからすると、入門編と感じた所以です。
フリムンシスターズ【12月1日(火)と12月2日(水)の大阪公演中止】

フリムンシスターズ【12月1日(火)と12月2日(水)の大阪公演中止】

Bunkamura

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2020/10/24 (土) ~ 2020/11/23 (月)公演終了

満足度★★★★★

ギャグと笑いと毒にくるんで、新宿二丁目のゲイ街や沖縄の米軍基地にまつわる差別や悲しみを描いていく。人生で挫折した登場人物たちの、再起の物語。自由への新たな一歩が最後は明るく華やかに歌い上げられる。松尾スズキには珍しい、メッセージがくっきりとした向日的な作品。たいへんおもしろかった。

ミュージカルなので、歌の場面も物語を盛り上げ、大いに感情を高まらせてくれた。猥雑で下ネタ連発の、少々長い前日譚のあれこれの後、冴えないコンビ店員(実は沖縄のユタの=長澤まさみ)と、落ち目の大女優(秋山菜津子)と付き人のゲイ(阿部サダヲ)が出会う。その第一幕の後半、長澤まさみが街中を突っ走っていく「うちはフリムン」から、物語が一気に活気づく。登場人物をリアルに造形し、観客の感情移入で、その世界を共に生きるというリアリズム演劇ではないので(いうまでもありませんが)、壮大なおふざけの中に、笑いと悲しみ、社会と歴史がうむ切ないあつれき、そしてあすを生きる活力がうまれてくる。デフォルメや人物像の単純化も多いので、そこは要注意。しかし、作者の視線は基本的にあたたかい。

「後ろからズドン」で、どんどん人物が死ぬが、死ぬことに悲惨はない。死んだ人は皆、派手な衣装で舞台に現れて、芝居を盛り上げる。ドンパチの見せ場が多く、最後は爆発・火災まであって、観客へのスペクタクルなサービス満点。はやめちゃとも言える様々な伏線をちゃんと最後は回収して、衣装も華やかな大団円だった。

長澤まさみは可愛いだけでなく、大いにはっちゃけていた。秋山菜津子も緩急自在にぶたいを牽引。おねえと江戸っ子をくるくるかわる阿部サダヲのギャグも絶品だった。ゲイの親分・信長とヤクザの親玉・徳川を演じ分けた、存在感たっぷりの皆川猿時の芸達者も素晴らしかった。そして、芸大声楽科で学び元劇団四季の笠松はるの歌が、ずば抜けて良かった。休憩20分含め3時間30分だが、長さを感じなかった。特に第2幕はもっとみていたいほど。

The last night recipe

The last night recipe

iaku

座・高円寺1(東京都)

2020/10/28 (水) ~ 2020/11/01 (日)公演終了

満足度★★★

ある若い夫婦で妻の突然死から始まる。舞台は生前の回想と死後の現在を行き来する。現在と言っても、亡くなったのは2021年3月4日なので実は未来。
ヨリは女性ライターとして、ルポの本を出したくて、父親のラーメン屋で無給で働かされていた良平の「不幸」な生活を取材し始める。ルポがなかなかうまく書けず、「相手の懐に飛び込むため」駆け落ちのように良平と結婚する。が、無口でおとなしく、魅力もない良平との結婚は、非常に無理がある。結婚しなくても、ルームシェアでいいんじゃないかとか。観客も、ヨリの周囲も、全然ついていけない(と思う)。
美人で活発なヨリが、風采の上がらない中卒男にプロポーズとは。
その謎が最後に解かれる。遠くの目標ばかり見つめて、足元の日常を見失っている現代人への、優しいメッセージが胸に残った。

ヨリの死は、ワクチンの接種の夜ということで、薬害が考えられる。先輩ライターのアヤがその疑惑を追おうとするが、あまり話は深入りしない。それよりもヨリと良平の「常軌を逸した」結婚生活、1年と1月を、見つめ直すことに芝居の中心がある。

ミュージカル『ローマの休日』

ミュージカル『ローマの休日』

東宝

帝国劇場(東京都)

2020/10/04 (日) ~ 2020/10/28 (水)公演終了

満足度★★★★★

しばらく席を立てないほど素晴らしかった。タオちゃんの可愛い無邪気な王女様が、1日の自由を満喫した末に、自分の仕事に戻る。この1日は(王女の寝言にもあるように)夢の世界であることが、リアルな映像に縛られないミュージカルだからこそよくわかる。お姫様を助ける騎手(ナイト)の話である。音楽、ダンス、衣装、美術、セット全てを通じて夢を共に体験できた。

そして訪れる別れ、それぞれの責任。王女は声も低くしっかりとなって大人になったことが、くっきりしていた。「ローマの休日」は恋物語だけでなく、王女の成長物語なのだと初めてわかった。大人になるとは夢を断念して責任を引き受けること。ジョーも愛を胸に秘めて自分の生活に戻る。それぞれの立場があるゆえに、思い通りにはいかない大人の恋である。この切なさに、思わず涙がこみ上げた。

ラスト、公開しなかった特種写真がスクリーンに映るところから、目頭がずっと潤んで仕方がなかった。
曲はラストに流れる「ローマの休日」がしみじみといい。もう一つ、ジョーが歌う「変えていくのは自分次第」「笑われても馬鹿にされても夢を持たなきゃ生きていけない、それが人生」と歌う「それが人生」が心に響いた
土屋太鳳、加藤和樹、藤森慎吾の回を観た。

「獣の時間」「少年Bが住む家」

「獣の時間」「少年Bが住む家」

名取事務所

小劇場B1(東京都)

2020/10/23 (金) ~ 2020/11/02 (月)公演終了

満足度★★★★★

「少年Bのいる家」罪を犯した息子を持った母親と父親の、言うに言われぬ感情、迷い、鬱屈、煩悶。それが、俳優たちの所作と表情の端々にかんじられて、人ごとでなく前のめりに見てしまった。セリフが意外と少なく、間の多い芝居だし、小さな声で喋る場面に、結構惹きつけられた。

「どうして」という問いの繰り返しから、これは「不幸が私たちのところに来たんだ」という母親、聖書の「ヤコブの相撲」の話をする保護監察官。そうしたところに、救いの可能性が感じられ、見終わって、気持ちが浄化されたようなじんわりした清々しさがあった。

俳優諸氏も自然かつ抑えた演技で、優れたリアリズム演劇だった。特に、問題を抱えながら、それに触れるのを避けて、家族同士がぎこちない前半がリアルだった

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