ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

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二等兵物語

二等兵物語

★☆北区AKT STAGE

北とぴあ つつじホール(東京都)

2021/07/08 (木) ~ 2021/07/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

つかこうへい作品の中で一番好きかも知れない。従軍慰安婦を使ってこんな芝居を書くとは流石である。「表現の不自由展」に今作を出品して欲しい程。操作された政治的解釈で捻じ曲げられてゆく歴史に騙されて欲しくはない。
朝鮮人慰安婦役の鈴木万里絵さんがとにかく素晴らしい。時間が立つ程にその存在は膨らみ続け、終演後は彼女の事で頭が一杯になるであろう。菩薩のように全ての苦しみを受け入れ過ちを許してくれる存在。ぼろぼろと涙が零れ落ちる客席、この内容を若き女性層がきちんと理解して受け止めている様子が美しい。
開幕からいきなりサビにいくような強烈なスピード感。満州の落ちこぼれ部隊を任された小隊長(草野剛〈たけし〉)、純情な東北の百姓二等兵(尾崎大陸〈りく〉)、従軍慰安婦(鈴木万里絵)の三人の物語。綺麗事では終わらせない肉体を伴った人間観。吐き気がする程醜悪で同時に余りにも澄み切った心を併せ持つ日本人、その矛盾すら引っ括めて見事に具現化してみせた。
ちょっと観てみて欲しい。

「スナック満洲」のチーママ、井上怜愛(れいあ)さんが綺麗だった。(23歳であの貫禄)。

ネタバレBOX

二等兵と慰安婦の遣り取りが凄い。「手持ち時間四十分を休憩に充ててくれ」と紳士然とした男。肩を揉んだり故郷の話やロマンティックな話で女の心を解きほぐすも、急に豹変して三回無理矢理伸し掛かる。怒り狂った女が「あんたは本当、日本人そのものね」との名台詞。それでも男は「一緒にここから逃げよう」と口説き始める。狂った展開だが、不思議と凄く納得の行くものに仕上がっている。人間と人間がガチンガチン存在をぶつけ合っている様な感触。脱走を計る二人だが捕らえられ、男だけが銃殺される。

ラストは三十年後の日本、小隊長と所帯を持っている女の下に満州から亡霊となった男が迎えに来る。時空を越えた「雨月物語」。

キャラ設定が秀逸。ああ、成程と伏線に感心するようなシーンが幾つもあった。鈴木万里絵さんの象徴しているものが凄く重い。日本側から描いた慰安婦モノの最高傑作。
花のもとにて春死なん

花のもとにて春死なん

ピープルシアター

シアターX(東京都)

2021/06/30 (水) ~ 2021/07/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『老いと哀しみのボレロ』みたいな感じ。『カッコーの巣の上で』の呆け老人ホーム・バージョンか。お漏らし、異常性欲、記憶障害、フラッシュ・バック・・・、兎に角リアルで気が滅入る。老いの醜さを面前に突き付けられていくような感じ。唐突に挿入される現代舞踊家仲野恵子さんの舞踏は子供が観たらかなりのトラウマになろう。ワンツーワークスの『死に顔ピース』の印象が強いみとべ千希己さん、タンゴ好きの元女優役を好演。セクシー担当の看護婦役、伊集院友美さんの見せ場も多い。二枚目蓉崇氏がひたすらギャグ担当で驚いた。

ネタバレBOX

目茶苦茶期待していただけにどうも違った。自分の感性が腐っているのかも知れないが、全くぴんと来なかった。ラスト、姥捨山法が施行され、80歳以上の老人は各地区の十代の子供達に生殺与奪権を握られることとなる。孫娘達がやって来て拳銃や丸太を使いゲーム感覚で皆を惨殺していく。喜劇にも悲劇にも振り切れていない消化不良のまま終わってしまった。
夜会行

夜会行

鵺的(ぬえてき)

サンモールスタジオ(東京都)

2021/07/01 (木) ~ 2021/07/07 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

本当に才能に溢れた人間はこの世にいるんだなあと思い知らされる舞台。これを観る事が出来ただけで当面自分の幸運に感謝。色んな若手女優に今作を観て貰いたい。アンテナがビリビリする筈。
サンモールスタジオの小さなステージで演ること、立地条件、全てが計算され尽くしている75分。
「神は細部に宿る」と云うが、音に徹底的に拘り抜いている。ベランダの掃き出し窓が開いていて風が静かに吹き込んでくる。レースのカーテンが優しく揺らめき、外の道路から街の音がずっと微かに聴こえている。客席からは見えない洗面所の音、携帯電話の声の音量、絶対にこうでなくてはならないであろう設計。

オープニング、福永マリカさんがベランダ越しに外をぼんやりと眺めている。笠島智さんはキッチンで料理の準備。
福永の誕生会に集まる友人達。コロナ禍のホーム・パーティーと云うことで、全員マスク姿のまま。五人の会話劇を表情はほぼ目だけという荒業で成立。実際にワインやビールを飲み、おつまみを食べ、とにかく部屋の美術から小物からリアリティーを徹底。彼女の部屋、今その場にいる感覚に陥る。

ほぼすっぴんの福永マリカさんの目の表情が猫の目の様にくるくる変わり釘付けになる。笠島智さんの凛とした立ち姿。奥野亮子さんとハマカワフミエさんの口論の見事さ。青山祥子(さちこ)さんの引きがあるキャラ。

複数の女性客の啜り泣く声や堪えきれない嗚咽、客席は段々と作品世界に取り込まれて行く。
ラスト・シーンの切なさ。ウォン・カーウァイの『ブエノスアイレス』を観賞した後の何とも言えない気分を久し振りに思い出した。

ネタバレBOX

社会に生活に自分達のアイデンティティーにさえ打ちのめされていく女性同性愛者達。

皆が帰り、笠島と、その家に同棲している福永だけが残される。「別れないよ」と笠島、黙ったままベランダの側に立つ福永。
少し暗転し、ライトが灯ると福永はいない。彼女が立っていたベランダの窓にクリップで挟まれたクレヨン画の笠島の似顔絵が。緑を背景に可愛らしく笑っている。福永は去っていったのだろうか、それとも今ここにいないだけなのだろうか。部屋に現れた笠島が絵を手に取り、奥の額縁に大切に飾る。愛おしそうに。

世界の果て、地球の反対側の地にて、時すら越えてあの時の気持ちだけが確かにここに存在している。『ブエノスアイレス』はそんな映画だった。
HATTORI半蔵Ⅳ

HATTORI半蔵Ⅳ

SPIRAL CHARIOTS

六行会ホール(東京都)

2021/06/30 (水) ~ 2021/07/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

休憩10分含む2時間40分。この長丁場を全く退屈させない工夫が凄い。素直に面白かった。この手の作品に興味を持てず全く観ない人にこそ試しに一度観て欲しい。観客を楽しませようとする熱意とサービス精神が舞台観劇初心者の心を掴んでいく。その凄さが理解出来ない人達は自然淘汰されていく世の理。
2.5次元っぽい架空疑似日本史チャンバラ活劇。『ボクラ団義』の久保田唱氏の創る世界にも似て。出演者に鵜飼主水(うかいもんど)氏の名があるだけで二段階くらい格が上がる印象。所作と佇まいそして殺陣の鮮やかさが、時代劇になくてはならない俳優としての立ち位置を確立した。

疑似日本“ジパング”、鎖国を続ける幕末時代。新たな時代の扉を開けようと開国を目指す『飛竜革命開国軍』と幕府の存続の為、鎖国を守ろうとする『新選組』の争いが続いていた。だがその実、将軍徳川慶喜は身分制度を撤廃して幕府を解体し、民主主義の新時代への変遷を自らの手で果たそうと胸中に秘していた。
嘗て代々幕府の要職に就きながら、今ではしがない市井の髪結い床(床屋)の服部半蔵親子。『開国軍』の中に雑賀衆(さいかしゅう)の忍術使いがいたことから戦いに巻き込まれていく。

登場する忍術は『傀儡の術』だけで、「印」を唱えると敵の動きを操ることが出来、「解」を唱えると術が解ける。ゲーム感覚で観ていて楽しい。殺陣が集団舞踊のようにリズミカルで色鮮やかに衣装が交錯、テンポよく子気味いい。シュールなギャグ満載で場内笑い声が絶えない。六行会ホールやCBGKシブゲキ!!はハコの大きさがこういう作品を観るのに適している。
両手に鎌を構える半蔵側のくノ一役、窪田美沙さん(元仮面女子)が可愛らしく、『開国軍』のピストル使い栗原みささんも目を惹く。

舶来の御禁制品を扱う庶民の闇市的な存在、“楽市”。南蛮料理やタロット占い、スロットマシーンまである。そこでスロットが揃う毎に従業員全員で踊り出すのだが、何度も繰り返されていく内にかなり痛快で、一番記憶に残るシーンとなった。にこにこ踊る“楽市“の女給役、冨樫結菜さんが最高。
そこに居るインチキっぽい占い師が主人公ハンバと幼馴染の雑賀衆ツタエの運勢を見る。「過酷な将来が待ち構えているから、お守りとしてこれを買え」とガラクタの二振りの刀を高値で売り付けられてしまう。「まあ、いいか」とその玩具を腰に下げる二人だった。

ネタバレBOX

徳川慶喜が将軍職を辞した為、その座を巡って熾烈な権力闘争が巻き起こる。主人公服部半蔵ハンバの叔父に当たる、インソウが非道なる権謀術数を弄してその座に付くのが第一幕のラスト。
ここから従来の日本史とは全く違う展開になっていく。新選組に加入したハンバは私欲の限りを尽くすインソウを討ち果たす。新選組は敵する者を片っ端から殺戮していく。次の当代を狙う新選組局長近藤勇だったが、それすらもハンバは斬り捨てる。いよいよ天下人の座に手が掛からんとする時、彼にはある企みがあった。

ゼロレクイエム、若しくは進撃エンドを狙っていたハンバは『開国軍』のツタエに自らを殺させようとする。全ての悪を自らが背負い込み、敢えて討ち果たされることによって新時代を開く礎になろうと。決着を着けるその時にハンバが抜くのは、あの時の玩具の刀。しかしツタエが抜いたのも同じく玩具の刀。互いに相手に殺されようと望む程、相手を大切に想っていた。

ツタエの医者になりたい気持ちをストーリーの中で上手に盛り込んで欲しかった。ハンバとツタエの関係性を主軸に観客を感情移入させていければもっとラストは行けたのでは。殺陣の能力の個人差が大き過ぎたのも少し残念。
WORLD~Change The Sky~

WORLD~Change The Sky~

舞台「WORLD」製作委員会

なかのZERO(東京都)

2021/06/27 (日) ~ 2021/07/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

廃墟のようなセットにずっと雨が降り続けている。エフェクトで投影しているのだろうが、本物に見える程リアル。韓国犯罪映画の重苦しく暗い雰囲気で、18年前に起こった奥多摩の孤児院での保育士殺人事件と現在進行形の連続殺人事件が描かれる。保育士(鎌田亜由美)を殺した元警官(金山一彦)は18年の刑期を経て仮出所。保育士の妹(佐々木優佳里)、当時の孤児院の児童(校條〈めんじょう〉拳太朗、杉江大志)等は楓先生殺しの真犯人への復讐を企む。

柴小聖(しばこのな)さんを久し振りに観たが相変わらず綺麗。佐々木優佳里さんは手足が長くスタイルが良いので絵になる。
休憩15分含む2時間半。
警察の上層部に“ボス”と呼ばれる男がいて、ヤクザやブローカーを使って金儲けをしているらしいのだがその正体は謎に包まれている。

ネタバレBOX

登場人物の行動原理が無茶苦茶。現場に居た事から恋人の保育士、楓先生殺害の犯人にでっち上げられた金山一彦氏。「俺はもう死にたいからどうでもいい」とそれを黙って受け入れるも、18年後仮出所してから復讐を考える。しかし何をするでもなく、犯人の一味であるブローカーの元に世話になる。訳が分からない。

クライマックスは凄まじい話の納め方。警察も容疑者もヤクザもブローカーも全員18年前に事件のあった奥多摩に大集合。楓先生の命日に「最後に墓参りに行きたい」と、何か企みがありそうだった金山一彦氏が突然拳銃を取り出して見張りのヤクザを撃つ。が、後ろに控えていた奴等に肩を撃たれて蹲る。
かつて自分こそが真犯人であると部下に告白した主任刑事だったが、「楓先生を殺したのは主任ではない」と現場に居た者の指摘。「じゃあ、本当は誰が殺したのか?」との当事者達の問い掛けに、今まで名前だけで姿は見せなかった警視・渡辺裕之氏が突然初登場。「俺が殺した」との告白。何じゃそりゃ・・の唖然とした客席。まあ、権力でこの場を無理矢理収めようとするのだが、突如として下っ端の刑事が「実は俺は潜入捜査官で貴様等の悪事を調査していたのだ」と名乗り出る。「証拠がないじゃないか」と開き直る警視。すると雑誌の記者達が現れて「実はこの会話、全て隠し撮りさせて貰っていましたよ」と。

余りに不条理で現実感がなく、コントなのか?とすら思った。重要な台詞の言い間違いがあったり、終始ぐだぐだ。大した地上げでもない孤児院利権の為、当時副署長だった“ボス”が自ら保育士を滅多刺ししに行くのも理解し難い。仕事を投げている時の三池崇史作品のような雑な終わらせ方。夢オチに近い感覚で呆然としたまま暫く現実感は戻らない。じゃあ、今まで真剣に観ていたこの物語は何だったんだ?
が、シャマラン映画のような妙な爽快感があったのも事実。これはこれでいいんじゃないかと思う。
別役実短篇集  わたしはあなたを待っていました

別役実短篇集 わたしはあなたを待っていました

燐光群

ザ・スズナリ(東京都)

2021/06/25 (金) ~ 2021/07/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

全4作品通し上演
①『いかけしごむ』
②『眠っちゃいけない子守歌』
③『舞え舞えかたつむり』
④『この道はいつか来た道』

午後1時開演午後5時終演。(休憩15分)。
別役実不条理会話劇の4時間コース、①の上演の時は冬の雪山のように、ばたばたと意識を失って眠りに就く観客達で壮観な光景。客の快楽原則に直接的に訴えないと皆只々寝てしまう現実。二人の不条理会話劇だと殆ど笑いにするかホラーにするかの二択になってしまう。難易度の高い縛りである。

①女占い師(?)のリアリズム〈これこそが現実だと信じる根拠〉とゴミ袋をぶら下げるサラリーマンのリアリズムの戦い。たった一つの真実などはなく、あるのは人の数だけの自意識の物語でしかない。
②孤独な老人の話し相手に雇われた福祉の男。筒井康隆的な全く噛み合わない遣り取りが痛快で客席が笑いで高揚。さとうこうじ氏はプロ。観客の沈滞ムードを逆手に取って沸きに沸かせてみせた。甲高い声が良い。対する大西孝洋氏も負けてはいない。見せ場たっぷりの演技対決。二人の空間に詩情の紙吹雪が加わり何とも言えない余韻のラスト。
③これが必見の傑作。雛祭りの雛人形4体が主人公(鴨川てんし氏)の心象風景と一体化して凄まじい効果。警官のバラバラ殺人事件の捜査の顛末なのだが、被害者の妻である鴨川てんし氏(73歳!)がノーマン・ベイツを彷彿とさせるトラウマ芝居。今作だけでも観る価値はあった。風鈴の音、根拠のない憎悪。
④ホームレス老女と老人のささやかなロマンス。記憶が混同して、何度も同じ場面を巡る二人。

ネタバレBOX

③と②はかなりお勧め。①と④はちょっと演出が足りないかも。
マトリョーシカ

マトリョーシカ

Uzume

すみだパークシアター倉(東京都)

2021/06/25 (金) ~ 2021/06/30 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

マトリョーシカ人形とは入れ子構造の民芸品で、人形の中に一回り小さい人形があり、その中に更に一回り小さい人形が、更にその中に・・・、と多重に構成されたもの。
ステージには真っ赤なジャングルジム、複数の紅い縄が天井から括り付けられている。更に赤色の照明が焚かれめらめらと業火に焼かれているようにすら見える。
演出の雰囲気がほっぢポッヂとかでやっていた頃の『た組。』っぽく期待感が高まる。両サイドに椅子を並べ、出番のない役者はそこに座り舞台の進展を見守る。
セーラー服姿の小林亜実さんや岡本尚子さんが可憐で流石の元トップ・アイドル。小沼将太氏や秋沢健太朗氏のイケメン勢も演技派の腕を奮う。特に秋沢氏は助演として作品の本質を理解している内助の功的MVP。
暗くシリアスな物語を今ここで真摯に語ろうとする作者に好感。
amazarashi風味のギター奏者、シノノメ氏が生演奏。かなりカッコイイ。

ネタバレBOX

自習の時間、殆ど話したこともない同級生の美少女(小林亜実)に「屋上に行かない?」と誘われる主人公(小沼将太)。つい何とはなしに了承して付いて行く。その娘に気のあるクラスの男子(秋沢健太朗)も話に加わり一緒に上がる。「生まれ変わりってあると思う?」と質問され「俺は信じない」と答えると、彼女はそのまま飛び降りてしまう。愕然とする二人。彼女の謎の死を受け止め切れず、主人公は苦しみ抜く。
16年後、建設現場でバイトする主人公の前に彼女と瓜二つの少女が現れる。「生まれ変わったのか?」と問い詰める主人公だったが・・・。

テーマは輪廻転生。(リンネテンセイではなく、リンネテンショウ)。
禁断の愛に苛まれた兄と妹が、来世で再び巡り逢おうと自害。何度も生まれ変わり妹は兄を捜し続けたが、到頭巡り逢えた兄は前世の記憶を失くしていた。

三島由紀夫の『豊饒の海』を彷彿とさせる凄く面白いテーマだが、考えの浅さも露呈する。輪廻とは容姿のことなのか?
全てを言葉で説明しようとすればする程、どんどん本質から逸れていく。前世の記憶としか思えない程の衝動、記憶を超えたものを表現して欲しかった。
これで纏めてしまうには勿体無い話。
「TABOO」

「TABOO」

TEAM空想笑年

王子小劇場(東京都)

2021/06/23 (水) ~ 2021/06/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

主演、アクション指導の有賀太朗氏、開演前の前説を独り延々二十分雑談でこなす見事な話芸。誰かに喋りが似てるなあとずっと思っていたのだが、『見取り図』のツッコミの盛山晋太郎氏だった。舞台が開幕すると文句なしの熱演で圧倒的な力を見せつけ観客を捻じ伏せてみせる。ヤクザに無理矢理スカウトされて演出を強要される無名の俳優役。
もう一人の主人公、ヤクザの若頭役庄田侑右(しょうだゆうすけ)氏が超カッコいい。ガチガチのヤクザながら初めて演劇に触れ、こんなゾクゾクする世界があったのかと全存在が震えてしまう。キャラが生きている。
商業演劇の演出家役、身長170cmのモデルもこなす長身女優、真辺彩加さんも美しかった。
最高なのは怪優夢麻呂氏、三役を演じたのだがそのどれもが作品の中枢を担う重要キャラクター。三役共に観客の心に突き刺さる見事な存在として演じ分けてみせた。こういうプロフェッショナルが一人いるだけで、作品の重みが違ってくる。
座組の役者層の厚さでホンが目指したものを見事に表現することに成功。

シマを巡って二つのヤクザ組織が対立。西城組の組長の娘が演劇祭に出演することを切っ掛けに東郷組も参加を決定。演劇による対決にて雌雄を決する事となった。西城組が金に糸目を付けず人気商業演劇の演出家を引っ張ってくれば、東郷組は『宝の原石は小劇場にあり』との信念で名も無き俳優をスカウト。抗争の行方はそれぞれの『ロミオとジュリエット』が握ることとなった。

かなり才能溢れる脚本で、これを雛形に映画化の企画も持ち上がるかも知れない程。演出はまだ伸び代がありそう。面白いのでお勧め。

ネタバレBOX

骨子としては、ジャンプ漫画の『ニセコイ』がモデルか?(対立するヤクザとギャングの息子と娘が婚約させられ、学園祭で『ロミオとジュリエット』を演じる内に心が通い合ってゆく。)

中盤、展開が停滞し無駄に長くなってしまった感もある。主人公を拉致する意味が殆ど無く、展開上の都合感が強い。

演劇への情熱に溢れた東郷組組長が突然の病死。意気消沈した主人公と若頭それぞれに組長からの遺言が伝えられる。
「ロミオは挫けなかった。お前はどうだ?」
ズバリ決まった名台詞に気持ちは昂揚する。
西城組組長は「もう舞台をやる必要はなくなった」と演劇祭への参加を取り止め、東郷組の本番中を狙って襲撃。それを迎え討つ主人公と出番の合間のヤクザ達。クライマックスは『ロミオとジュリエット』と抗争の二場面が同時進行していく。

個人的にはひたすら演劇にのめり込んだヤクザ達の、舞台に懸ける情熱対決の方が面白そうだったが。
山姥の息子

山姥の息子

水中散歩

シアター風姿花伝(東京都)

2021/06/23 (水) ~ 2021/06/27 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

舞台上手で独り生演奏を披露する大平清氏。トルコの弦楽器サズやウード、他にも見たことのない打楽器(カンジーラ?)を駆使して独特な世界を構築。曲調はインド音楽っぽいが、伊福部昭の特撮映画サントラを思わせる雰囲気も有り、あの当時の東宝作品の気分に包まれる。

地元の山にまつわる民俗伝承を百話集める仕事を、父親に仰せ付けられた元詐欺師のニート。うんざりしていたが、偶然出会った自称『山姥の息子』の兄弟に着目。家に居候させて彼等の思い出す山でのエピソードを記録していく。

細田守の『バケモノの子』っぽい世界観、キャラの造型がアニメ的。昔々の山奥で妖怪達が大騒ぎするところの絵心が無邪気。役者が各々仮装して妖怪に扮するのだが、座敷童風味の佐野みかげさんが印象に残る。うちわを自作して応援に来ているファンもおり、微笑ましい。
後半物語のキーを握る丸尾聡氏は独特な声が特徴で何とも言えない存在感。
お婆ちゃん役歌野美奈子さんはユーモラスでもっと出番があっても良かった。

ネタバレBOX

山姥弟は幼い頃、人間の猟師を殺してしまう。記憶に封印した忌まわしき過去であったが、怨霊と化した猟師が復讐に現われ兄弟を苦しめる。苦悩の果てに怨霊と共に三人で暮らしていくと云う選択をするラスト。怨霊の猟師は人間だった頃の写真を見て、人の心を思い出す。そんなに邪悪な怨霊でもないようだ。不思議なテイスト。

現代の話なのだが、舞台を昭和に遡ってもっとおどろおどろしい雰囲気を醸し出したほうが良かった。明治大正戦前戦中戦後の山奥の方がムードが出る。最近の話となると途端に安っぽく嘘っぽくなってしまう。山姥の設定ももっと固めて欲しかった。
話が散漫になりがちなので、猟師をお婆ちゃんの亡き夫にして、息子が詐欺師になったのも祖父の変死のせいとか、関係性をコンパクトに纏めた方がドラマ性が強まるのでは。
宇宙のなかの熊

宇宙のなかの熊

東京演劇アンサンブル

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2021/06/12 (土) ~ 2021/06/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

近未来、温暖化によって住む場所を失った最後のホッキョクグマ、ベニー(雨宮大夢氏)。筏を拵えて独り南下して行く。ポリネシアに辿り着くとそこにはニワトリ(メンドリ)のポリー(永野愛理〈えり〉さん)が。彼女に惚れて求愛するも現実を諭され、恋人募集の新聞広告を勧められる。ベニーの募集に応募の手紙が届けられるが・・・。

マリンバ生演奏の松本律子さんが手に二本ずつのマレットで見事に世界を構築。彼女の演者を不安気に見つめる表情が作品の濃度を更に高める。
全く子供向けではなく、かなりエロスの香り漂う性的な話にも受け取れる。客層は子供が一人だけいたが、果たして楽しめただろうか?
作者はドイツ人女性、動物達は難民のメタファーらしいがまあその辺はどうでもいい。
何となく『泣いた赤鬼』に近い感覚で観ていた。
ポリーこそが主人公でありベニーに想いを寄せつつ、それを圧し殺して彼の幸せを計らう。
対照的に軽度の知障を疑う程脳天気なベニー。
懐かしの映画『恋しくて』みたいになるのかとも想像。
永野愛理さんのニワトリ・スタイルの衣装も素晴らしい。細かい表情の一つ一つが魅力的でウディ・アレン映画のヒロインみたい。要チェック。

ネタバレBOX

キリンやクジラとの顔合わせ、なかなか上手く行かないマッチング。それを少し嬉しそうに見守るポリー。しかし次の応募はハンガリー出身のヒグマで、ベニーは簡単にポリーのことを忘れて彼女に夢中になる。傷心したポリーは独り筏に乗り込み、まだ見ぬ世界へと旅に出るのであった。

北極星(ポールスター)をホッキョクグマの象徴として、『宇宙のなかの熊』としている。

土地規制法案の審議で参議院に招致されたばかりの弁護士、馬奈木厳太郎(まなぎ・いずたろう)氏が、アフタートーク。この強行採決された法案の真意は政府が国民一人一人を自由に調査、監視出来ることの法的正当化であることを力説。沖縄の基地問題の住民運動にも言及。
『木の上の軍隊』の後にやればドンピシャだった。

こういうのを好まない方もいらっしゃるだろうが、自分は大歓迎。宗教でも政治運動でもオカルトでも好きな事伝えたい事を思うが儘にやれるのが舞台の醍醐味(金目当ての詐欺系は勘弁)。それを取捨選択するのは観客の醍醐味。
愛、あるいは哀、それは相。

愛、あるいは哀、それは相。

TOKYOハンバーグ

座・高円寺1(東京都)

2021/06/13 (日) ~ 2021/06/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

4回目の公演となる劇団の看板作。
2011年3月11日の福島県南相馬市の大津波がプロローグ。その年の9月、三重県伊勢市に亡き夫の妹夫婦を頼って疎開してきた母と娘二人。妹夫婦は喫茶店を経営しており、地元の仲間達の溜まり場にもなっているアットホームな店。この喫茶店での何てことはない日常をスケッチしていく。

中津留章仁氏率いるTRASHMASTERSっぽい肌触り。当たり前のように飛び交う方言の遣り取り、軽い日常会話で示す濃密な一人ひとりの関係性、根の張った共同体の“場”を序盤から見事に観客に提示してみせる。
マスター役甲津拓平氏、見た目は強面武闘派の宮迫博之似だがリアクションのリズム感が良く、多数の出演者を円滑に回す潤滑油として見事に機能。観客を退屈させない。
出演者全員ただの賑やかしではなく、各々きっちりとしたドラマを背負っている所が脚本の見事さ。
特筆すべきは無愛想な次女役の吉本穂香さんで、リアルな人物像を見事に造形。後半彼女の笑顔が零れるシーンなどほっとした。

放射能汚染の謎、未だに福島原発周辺はどの程度汚染されているのか?10年経った今でも謎のまま。

ネタバレBOX

大津波の音響はセンサラウンド方式で、客席までビリビリ震える。

大晦日の月夜、母娘三人で羊が牧草を食べている姿をのどかに眺めている。亡き父との家族の思い出話。ウミガメが大好きだったこと。その理由はウミガメが産卵の時、自分の子供達の為にどこまでも献身的に尽くす姿であったこと。
店に店主家族や常連客達が集まり、伊勢の木遣り唄を披露して親子三人を盛大にもてなす。その真っ只中、電話が鳴り長女の行方不明だった恋人の死体が身元確認されたとの知らせ。
仕事を辞め南相馬に独り帰ろうとする長女、それを泣いて止める次女と激昂する母。終わりの無い口論が続く中、ふと窓の外の光景を目にして静かに止む。観客にはそれは提示されない。母がじっと外を眺めながら長女の帰郷を静かに許す。シーン終わりに判るが初雪が空からしんしんと降り始めたのであった(照明エフェクトで表現)。素晴らしい名シーン。

硬派ルポライター(宇鉄菊三氏)と母(清水直子さん)の今後を予感させる演出も上手い。久し振りに店にやって来たルポライターに次女が「お帰りなさい」と自然に口にする。男のはっとする表情。

次女目線で淡々と世界を綴っても良かったのでは。
全体的に凄く品の良いお話過ぎて、ドラマがドラマを突き破る瞬間みたいなものが観たかった。
第70回公演「ベンガルの虎」

第70回公演「ベンガルの虎」

新宿梁山泊

花園神社(東京都)

2021/06/12 (土) ~ 2021/06/23 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

御歳72歳の風間杜夫氏が初のテント芝居。アングラ×風間杜夫は化学反応と知的快楽に満ち溢れている。『スチュワーデス物語』からほぼ同じルックスのまま、一向に老いることを知らない。ド迫力語り草になるラスト・シーンも必見、観るなら今しかない。
3時間三幕(休憩10分×2)。
『ビルマの竪琴』の続編として始まり、現地で遺骨収集を続ける水島と彼から送られてくるバッタンバンの象牙の判子を待つ妻のカンナ。元中学校の家庭科教師で現在は錦糸町でホステスをしている。しかし水島の妻を名乗る別の女が現れ、困惑したカンナは再会したかつての教え子・銀次と逃避行に出る。

役者謝肉祭を観ているような狂熱のステージ。
水島カンナ役の、水嶋カンナさんは終始鬼気迫っている。二人乗り自転車の荷台の上にスックと立つシーンが美しい。(12年前の『ベンガルの虎』公演から役名水島カンナを採って、水嶋カンナに改名。)
元大駱駝艦の奥山ばらば氏は超格好良い。ずっと観ていられる。褌一丁全身白塗り、182cm の体躯を活かし無法松のような下半身の肉体美で神話のように舞い踊る。この奇想天外な異空間に説得力を持たせる絵力。
平山もとかず氏(a.k.a iLHWA〈イルファ〉)はプロレスラーTARUを思わせる強面の風貌で鈴木雅之のような美声を披露。
風俗マネージャーと薔薇族カメラマンの二役、松永健資(けんすけ)氏が凄まじいインパクトで二役とも暴力そのものの強烈さ。
カンナの母親役の渡会(わたらい)久美子さんの苛烈な印象。松田洋治氏もかなりパンチの効いたキャラクター。全てのアングラを優しく見守るお母さん的存在、のぐち和美さんの安心感(客入れも担当していた)。金守珍(キム・スジン)氏のおこそ頭巾の灰撒き婆ァこと、産婆のお市。室田日出男を彷彿とさせる藤田佳昭氏。矢鱈イケメンな二條正士氏。
他国籍ホステスに扮した女優陣によるエロい『うっせぇわ』は新宿ゴールデン街に隣接した花園神社のロケーションにぴったりの選曲。
中嶋海央(みお)氏熱演の流しの銀次、彼の貫き通す純情が魑魅魍魎渦巻くカルマの闇を引き裂く一筋の月光となる。

1列目2列目と花道脇はビニールシートで客自身が自己防衛。水や灰が飛んで来るし車券の雨も振る。季節柄、虫も多いので注意。

ネタバレBOX

ビルマ(現ミャンマー)、ベンガル(今ではインドとバングラデシュに分断された地域)、バッタンバン(カンボジアの州)、羅紗緬〈らしゃめん〉(海外に売られて行った娼婦、今作ではからゆきさんをイメージ)と東南アジアのかなり広い地域を舞台にとっている。 

二幕は競輪場のレースからスタート。皆既日食が起こり、カンナと競輪選手でもある水島の再会。明治に時は飛び、カンナの母親である羅紗緬の物語と出生の秘密。
三幕は入谷の朝顔市。水島がカンナを迎えに来るが、月光仮面と化した銀次がそれを許さない。

唐十郎の作劇は、より詩的な情景、より詩的な台詞を目を瞑って探り当てるかのようにうねうねうねうねと右へ左へ曲がりくねってゆく。物語ではなくたった一行の胸に突き刺さる煌きを求めているかのようだ。劇中何度も繰り返される、羅紗緬(からゆきさん)の叙述が一番胸に残った。

ラストはステージ上のプールが大きく口を開け側面から噴水状に水が吹き出す中、次々に飛び込んで行く役者陣。いよいよ水嶋カンナさんが飛び込むと屋台崩し。ステージ奥から本物のショベルカーが登場しそのバケットに乗り込むびしょ濡れのカンナさん。重機がゴンドラ宜しくゆらゆら揺れ歌い上げて去って行く。圧巻の終幕。
外の道

外の道

イキウメ

シアタートラム(東京都)

2021/05/28 (金) ~ 2021/06/20 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

海鳴りならぬ、空鳴りのする田舎町。UFOが接近したのではないかと思う程の異音、みんな反射的に空を見上げる。何十年振りに偶然再会した男女、安井順平氏と池谷のぶえさん。二人が語る近況と誰にも信じて貰えない本当の話。
本格的SFとして設定が面白い。ただ、後半池谷のぶえさんの話に移行してからが余り盛り上がらない。黒沢清の『回路』のように孤独に世界と戦っている哀川翔みたいな存在が欲しかった。

ネタバレBOX

思いっ切り黒沢清っぽい語り口から始まる。辺鄙な田舎にある小さな喫茶店のマスター(森下創氏)が手品に見せ掛けた超能力ショーを余興として公開しているセンス・オブ・ワンダー。物体の中に傷一つ付けずいとも容易く物体を挿入させてみせる。それを見た主人公(安井順平氏)はかつて遭遇した不思議な事件を思い起こす。与党の大物代議士がパーティーの最中、突然昏倒、脳内出血で亡くなるのだが、脳の中から割れたビール瓶の破片が出てくるのだ。外傷一つ無かった為その事実は伏せられたのだが、主人公はこのマスターの仕業だと確信する。マスターの帰り道を待ち伏せして超能力について問い詰める主人公。マスターは「自然の理に過ぎない」と答える。約束を破り他人にこの秘密を漏らした主人公はマスターによって脳に氷を挿入され、少しずつ見えるものが変わっていく。

マスターがマツモトクラブ的でカッコイイ。『スキャナーズ』っぽい描き方で現実に紛れ込んだ異邦人としての超能力者のリアリティー。彼が主人公で良かったんじゃないか。

池谷のぶえさんの話は、見知らぬ誰かから届いた宅配便の小包、品名には“無”。開けてみると何も無い。悪戯かと放置したが、数日中に漆黒の闇である“無”がどんどん家中を覆い始め遂には池谷のぶえさんも呑み込まれてしまう。日の出によって“無”から解放されたが全裸で遠くのマンションの屋上に立っていた。「こうして日が昇ることの方がよっぽど不思議だ」との名台詞有り。何とか帰宅してみると見たこともない自分の養子(大窪人衛氏)が“無”から創生されていた。

“無”に対抗するのが想像力であることがスティーブン・キングっぽくて良い。話のエッセンスが『ミスト』っぽいかも。

誤配を意図的に繰り返して宅配会社を馘首になる主人公。自然に在ることを肯定し始める(『森田療法』っぽい)。どんどん妻(豊田エリーさん)の顔が整形を疑う程に美しく見えてくる。入院を迫られて逆上し妻の浮気を告発するも、只の思い違いであること(しかも自分は知っていた)に愕然とする。
池谷のぶえさんは家中が真っ暗闇に包まれ、最早生活が出来ない。「何も見えないのではなく、“無”が見えるようになったんだ」との名台詞。突然存在し始めた養子は証明書の類がある為、誰も疑わず周囲に馴染んでいく。池谷のぶえさんは自分に関する証明書類を全て破り棄てる。

二人が真っ暗闇の“無”の中に飛び込んでいくのがラスト。

他にも認知症になり精神が十七歳の頃に逆行した池谷のぶえさんの母(清水緑さん)の姿が、養子の目には十七歳の少女に映るなど至る所に謎は散りばめられている。

が、全ては隠喩でも暗喩でもなくナニカの意思でもなく、解釈されるべき答えもない。ただ呈示しているだけであることが観客を不安と不快に陥れているのであろう。
青森県のせむし男

青森県のせむし男

演劇実験室◎万有引力

ザ・スズナリ(東京都)

2021/06/04 (金) ~ 2021/06/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

二回目。
せむし男のヴィジュアルはhideの『HIDE YOUR FACE』のジャケットを想起。
森ようこさんの台詞は口角の動作がきっちりしていて美しい。
高田恵篤氏は本当は一体何処の誰なのか皆目見当が付かない。彼こそがお化けなのだ。

ネタバレBOX

森ようこさんの台詞。
「美しさも醜さ、醜さも美しさ。」
「美しさの醜さ、醜さの美しさ。」
自身が三十年前手籠めにされた土手の上で、無理矢理息子と思しきせむし男に口淫をするマツ(高田恵篤氏)。その地獄の光景を生い茂る茅の隙間から震え上がって覗き見ている女中(森ようこさん)。
マツは奉公先の息子に無理矢理犯された時、茅の葉で手の平を切り、真っ赤な血の手形が男の法医学書にべったりと付いたと追憶する。
「美しさも醜さ、醜さも美しさ。」
「美しさの醜さ、醜さの美しさ。」
シュベスターの祈り

シュベスターの祈り

ピウス

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2021/05/27 (木) ~ 2021/06/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

公演4日前に急遽主演宮瀬玲奈さんの代役として岸本・ルチア・来夢役での出演を決めた花奈澪さん。流石の女優魂に同業者もファンも大興奮。5公演見事に大役をこなしてみせた。宝塚の地獄を生き延びてきたのは伊達じゃあない(偏見)。これぞ元宝塚と云う肩書の化物たる所以。観てみると判るがこれ、本当に演ったのかと思う程の出番と台詞量、凄すぎ。
今回は当初からの配役、一之宮・ミカエラ・日葵(ひまり)役として出演。生き生きと楽しそうに演じていた。

宮瀬玲奈さんを初めて知ったのだがアニメキャラそのもののルックスとアイドル性抜群のオーラ、人気が出ない訳がない。
豹変する眼鏡っ娘、大滝紗緒里さんは役者バカ系の匂いが。殺陣の上手さも相まって今後活躍の場が増えそう。クールな天才役武藤志織さんは美しく、巨乳コメディリリーフ教官役遠藤三貴さんはプロ、教官役楠世蓮さんは流石のモデル。魅力的なキャストが勢揃い。

設定は『エンダーのゲーム』を魔法美少女学園モノにしたような感じ。
近未来、地球にヒュージと呼ばれる異星生物が侵略を開始。人類の開発した決戦兵器CHARMは十代の少女が一番扱うことに適していた。より優れた戦士(リリィ)を育成する為、世界中で養成機関としての女子校が開設。主人公の姉はエリート戦士であったが戦場にて殉職。主人公は姉の想いを背負って学園の門を潜る。

ネタバレBOX

学園では政府公認の人体実験をしており、優秀な戦士にヒュージのDNAを投与し能力の向上を研究。主人公の姉はその副作用で爆死したことが明かされる。タイトルのシュベスターとは、学園の伝統である上級生と下級生の姉妹の契りのこと。

BIG TREE THEATERは座席の幅が隣の人と肘が密接する程に狭い。思えば池袋の劇場はそんな所が多いような。客層はガチ勢主体の声優のイベントみたいな熱気。終盤結構涙ぐんで観ている人も多く、これだけの人間をガッチリ掴んでいるコンテンツは流石にプロフェッショナルで照明のタイミングも効果もバッチリ。限られた予算内で出来る限りの演出。演っている女優陣が求められているもの以上のなにかを追求し落涙しながらの熱演。客を舐めて適当に演っている感じが全くしない。みんな何かと戦っているようにさえ見えた。
出雲の阿国の時代から、客を呼ぶのは美男美女。観客に何を見せようとするのかがキー。

稽古5時間だけで代役となみおさんがツイート。信じられない。
青森県のせむし男

青森県のせむし男

演劇実験室◎万有引力

ザ・スズナリ(東京都)

2021/06/04 (金) ~ 2021/06/13 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

歌人、シナリオ作家、編集者として若くして大成功を収めてきた寺山修司。1967年に劇団『天井桟敷』を結成、その旗揚げ作品がこの『青森県のせむし男』。
大して観てきた訳ではないけれども今まで観賞した寺山作品の中で一番良かった。
森ようこさんのファンならば今作は必見。かなり出突っ張りでオン・ステージ感もある。
PUNK BANDのデビュー作を聴いている感じで、思うが儘に喚き散らしている。後々になると理性が邪魔をして理論武装の処世術に陥るのは世の常。恥知らずの一発目であるからこその幼稚で稚拙な絶叫が歳を重ねても胸を打つ。今作を寺山初体験で観たかった。

青森の名家で次期当主の息子が醜い女中を手籠めに。彼女が孕んでしまった為、世間体を慮り仕方無く入籍。出産の前に息子はコレラで死亡。周囲の冷酷な視線に耐えかね女中は産んだ我が子を山に捨てた。運か不運か生き延びた赤子は畸形のせむし男。因果の旅の末、生家に盗みに入り捕らえられる。三十年振りの母との再会であった。しかし、この話には嘘があり・・・。

安っぽいPOPな美術が歪な異空間を中和している。映画『エレファント・マン』調に写実的に演ればうんざりする題材だろう。
今回は観ておいた方が良い。

ネタバレBOX

森ようこさんの妖艶なTATTOOまでも曝け出すラストが美しい。照明が素晴らしく、この効果はどうやっているの?と何度も思った。暗転の真暗闇の中での舞台美術の配置や役者の移動も凄いとしか言いようがない。

生まれついてからずっと鬼ごっこの鬼をやらされていると言うせむし男。「一体僕は何を追っ掛けさせられているのだろう?」との自問自答。永遠に何処かの誰かに届いていく台詞である。これがある限りこの作品は永遠だ。

村八分の『あッ!』を思い出す。「助けてくれと言った所で助けてくれるけ?俺の事 もういいさお前等 俺の事振り向くな 俺は盲 盲者 すべての見える盲者 そうさ全て俺のせいさ 解っているよ俺の事 もういいさお前等 俺の事振り向くな 俺は片輪 片輪者 心の醜い片輪者」
ARC 薄明・薄暮

ARC 薄明・薄暮

山海塾

世田谷パブリックシアター(東京都)

2021/06/02 (水) ~ 2021/06/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

トラウマ・アングラの親玉。一度は観てみたいと誰もが思うが結局観ることはない暗黒舞踏。自分的にはPUNK BANDと受け取っていて30年以上前から興味があった。天児牛大(あまがつうしお)氏が1975年に創設。勝手なイメージとしては曲調は平沢進、ヴィジュアルは『ベルセルク』の蝕であった。

いざ始まると久石譲調の美しい旋律に銀河と戯れる一人の人間の姿。宇宙と手探りで対峙する一匹の動物としての人間がそこに。絶妙なバランスで均衡する秤を配置した洒落た舞台美術とヴェーダ哲学を刺激する圧倒的スケール感。次々に曲調が変化すると共に舞踏手も人数も変わってゆき、『ブッダ』の苦行林を思わせる衝動的無意識達の乱舞。演舞の意味を探ると云うより、矢張り重要なのはそこに流れる音楽であろう。メロディーから連想するものが大きすぎる。
舞踏自体はそれ程特別なものに感じないのだが、曲と嵌ると一気に奥行が広がりその先の先の果てまで見えた気がした。

ネタバレBOX

曲の良し悪しが激しく、退屈なものは凄まじく退屈。生演奏で演った方が絵的にも良いのでは?
でも多分また観に行く。
十一夜 あるいは星の輝く夜に

十一夜 あるいは星の輝く夜に

江戸糸あやつり人形 結城座

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2021/06/02 (水) ~ 2021/06/06 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

休憩10分含む2時間35分。物語はシェイクスピアの『十二夜』。
一糸座は何度も観ているが結城座は初めてなことに終わってから気が付いた。(2003年結城座から独立する形で一糸座が結成される。)
人形遣いの湯本アキさんと大浦恵実さんが上品な姉妹のように美しく目を惹く。
唯一、人形ではない、客演の植本純米氏が語り手であり、ほぼ主役。何とか客席を盛り上げようと八面六臂の大活躍に大リスペクト。“阿呆”と呼ばれる道化を演じる。

双子の美形の兄妹の乗る船が嵐の海に呑み込まれ離れ離れに。妹ヴァイオラは男装しシザーリオと名乗り流れ着いた土地の公爵に仕える。公爵は自身の恋する伯爵令嬢の使いにシザーリオを送る。伯爵令嬢は使いのシザーリオに恋してしまう。そのシザーリオ(ヴァイオラ)は実は公爵に恋をしている。まあいつものシェイクスピアのラブコメ節。登場人物が方言丸出し(福島弁?)なのにも実はきちんと理由がある。

ネタバレBOX

最前列でも居眠り、休憩時に退席など、客の反応は厳しいものが。とにかく人形劇にする必然性が殆んど無い話の為、ぼんやりとした印象。
ホンのせいなのか演出のせいなのか、人形を使う利点を活かせずだらだらとした展開。シェイクスピアの悪い点ばかりが目に付く。

ラスト、二組のカップルが祝言を挙げようと大団円。祝いとして“阿呆”に歌を所望。それをやんわり辞退しようとする“阿呆”だったが断り切れず、「いいんですかい?全てが流されちまっても?」と歌い出す。
暗転と暗幕による3.11の表現、大津波の後の福島の海岸にて満天の星空を仰ぐ“阿呆”の独り語りで終わる。周囲には登場人物の人形達が散乱している。冒頭の大嵐の海と3.11を掛けていて(『三.十一夜』)、全てが流れ消え去った後『十二夜』目が始まるのだろうか。まるで先程まで夢を見ていたかのような美しさ。
キャッツ【7月22日~7月30日、12月8日、2月24日昼公演中止】

キャッツ【7月22日~7月30日、12月8日、2月24日昼公演中止】

劇団四季

キャッツ・シアター大井町(東京都)

2018/08/11 (土) ~ 2022/04/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

四季劇場[夏]では『ライオンキング』が6月12日に大井町公演ファイナルを迎え、閉館。
キャッツ・シアターでは『キャッツ』が6月20日に千秋楽を迎え、こちらも同じく閉館。
大井町から劇団四季が消えてしまう。

三回目、チケット表記5列目が最前列。
ジェリクルキャッツ〈誇り高き特殊な猫達〉のリーダー格マンカストラップ(金本泰潤氏)が新生鷹の団にいそうな格好良さ。
おばさん猫ジェニエニドッツ(笠原光希〈みき〉さん)がゴキブリを従えてタップダンスを踊るシーンは矢張り最高。
泥棒猫ランペルティーザ(片岡英子さん)の動きは目を見張る。
ジェリーロラム=グリドルボーン(奥平光紀さん)のコミカルな細かな仕草が印象に残る。
シャム猫軍団が可愛い。(子役だと思っていた。)

ネタバレBOX

グリザベラ (金原美喜さん)の名曲『メモリー』は『愛の讃歌』に構造が似ている。
ライオンキング【東京】【2023年1月22日昼公演中止】

ライオンキング【東京】【2023年1月22日昼公演中止】

劇団四季

四季劇場[夏](東京都)

2017/07/16 (日) ~ 2021/06/30 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

チケット記載4列目が最前列。
ヤングシンバ役の中谷謙介君が生き生きとしていて素晴らしい。子役が輝いている舞台は良いものだ。二度目の観劇だが、劇団四季は席がかなり重要。体験型アトラクション要素が高い為、前の方だと見えるものが違ってくる。只今馬鹿売れ中の『アナと雪の女王』の演出も凄いことになりそう。貴種流離譚の一種なのだが、己が何者なのかを自覚する覚醒の物語、京劇要素満載。
ヒヒのシャーマン、ラフィキ役の福井麻起子さんが裏主人公。客席の子供達も彼女の一挙手一投足に夢中。歌声はゴスペルだ。「お前のなかに生きている (リプライズ)」が胸に来る。
名曲「終わりなき夜」を熱唱するシンバ役永田俊樹氏。ずば抜けた跳躍力による肉体讃歌。「求める時は必ずいると貴方はいつも誓った。僕は一人貴方を求めその言葉を待ち続ける。」

ネタバレBOX

物語は『ジャングル大帝』の『ハムレット』風味。父を殺してハイエナと共に国を乗っ取った叔父を討ち果たすのだが、クライマックスは絵的になかなか盛り上がらない。もうちょっと何か出来たのでは?
チーター役の人の鬘がパンチパーマに剃り込みなのは何か意図があるのだろうか?

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