BIGBABYが投票した舞台芸術アワード!

2019年度 1-9位と総評
桜の森の満開のあとで

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桜の森の満開のあとで

feblaboプロデュース

現在の我が国の問題を浮き彫りにする、強いメッセージ性を持った舞台でした。
最初は単位取得や“A”を取る目的で学生達が参加したはずのモックカンファレンスでしたが、国家の目論見迄が露見したことによる後半の展開は圧巻です。
当初は単なる田舎町の姥捨山条例の制定の可否を問う、といった一見他愛のない話に見えました。が、実は国策を進める為に日本の過去の黒歴史を知っている者を排除していく。という国家の陰謀が学生達を洗脳し、巻き込みを謀る驚きの話でした。
議論終盤の武川教員からの一言により、なぜ教員が市長として学生達のディベートに参加していたのか、賛成派の「議会」と「総電」が学生の言動を超えた動きだったのか、という冒頭の疑問が全て払拭されるのですが、同時に新たな恐怖心が芽生えてくるんですね。
原発についていうと、舞台上の時間設定は今から2年後、即ち東日本大震災から10年後ということになります。福島第一原発は震災後40年で廃炉にするということでしたが、燃料デブリの取り出しが出来ず、ロボットで中を覗いているだけで手が付けられないんですね。除染土や放射能を帯びた冷却水の処理も目途が立っていない状況です。これらがどんどん増え続けて事態はより深刻になってるんですね。
また自衛隊の話でいうと、自衛隊は“後方支援”のみであり、戦闘は決して行わないはず、というのが全国民の認識だと思っていたのですが、何故か米海兵隊との軍事訓練を行っているんですね。仮想敵国に日米で交互に実弾で攻撃を加える練習なんですが、これを戦争といわずに何というのでしょうか。観劇前はあまり現実味を感じていなかったこの舞台でしたが、学生の自衛隊員の兄の戦死や原発の地域との親密化、といった話があり、現実味があり過ぎて驚きでした。
舞台評価になりますが、今回の役者の皆さまの熱演は本当に素晴らしく、中でも国家に贖えない苦しみを演じた池田智哉氏、冷静沈着にディベートをまとめ上げたニュームラマツ氏、この二人の迫真の演技は高く評価させていただきたいと思います。
演出面に於いては賛成派と反対派が文具とネームプレートを持って座席移動させたことによる対峙感効果はとても素晴らしかったです。
密室劇に於けるfeblaboさんの空間醸成の上手さには大いに敬服いたしました。

カチナシ!

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カチナシ!

ラビット番長

上・中・下三段の舞台作りは視覚的にとても見易く効果的、“黄昏のビギン”やダンスの絡ませ方がうまいと思いました。
あと、三兎さんの関西弁ってあのシーンで使われると本当に涙が止まらなくなるんですよね。
登場人物について、奨励会と編入試験の二度の失敗を乗り越え、介護の仕事から41歳でプロ棋士になった今泉四段をモチーフとした作品と思われます。
最強の若手棋士藤井七段や米長・中原両先生や林葉さんをイメージするような人物設定がとても面白かったです。
オープニングで大原が北島との対局中に倒れ「大原の次の“幻の一手”は何だったのか」が劇中一貫してるんですね。ラストで米山が入居中の大原を引きずり出し、全く同じ局面に持ち込み“幻の一手”を知る、という設定、正に人生を賭けた対局に気迫すら感じました。
もし藤井氏の番を亡き米長先生が引き継いで中原先生と対決したら・・・、という往年の将棋ファンにとってはたまらないストーリーでしたね。
大盤解説では入玉をはかろうとする北山とそれを阻止しようとする大原の局面でしたが、これは正に去年のNHK杯の今泉-藤井戦の攻防ポイントでしたね。
この局面の緊迫感を終始観客に伝え続けたことが気迫溢れる素晴らしい舞台を生み出した、と感じました。

幕末純情伝

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幕末純情伝

★☆北区AKT STAGE

奇想天外なストーリー。幕末を生き抜いた若者達の熱い想いをしっかりと伝えてくれました。
まずは照明とスモークを巧みに組み合わせた舞台がとても良かったですね。無理に江戸のしつらえにしなかったことで役者さんの演技に集中できたと思います。
また1960年から70年代の選曲が素晴らしく、特にたチューリップの「サボテンの花」は、夢を描きながらも自己の生死・未来が見えない浪士達が語らうシーンでとても美しく流れ、ジーンと来てしまいました。しかも和製ビートルズといわれたチューリップ、開演前かけ続けたビートルズがそこで蘇る、とビートルマニアだった私的には本当にきましたね。
役者さんの中では、日本の明日を夢見ながらも敵対する新撰組の沖田総司を愛しそしてその愛を貫き通した竜馬を演じた大江さんの熱演は光っていました。実は2016年8月に新宿のSPACE雑遊で「ロマンス」を拝見し、同年に「北区ACT STAGE」に入られたばかりの大江さんを拝見しましたが、本当に素晴らしい役者さんになられたと思います。
つかさんの人気作品を素晴らしい舞台に仕上げられた「北区ACT STAGE」の皆さま、素敵な2時間をありがとうございました。もうお目にかかることが出来ないつかさんの素晴らしさを伝えていただけるのは感謝しかありません。

サンカイ

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サンカイ

やみ・あがりシアター

多人数の出演でしたが、スッキリとまとめられ素晴らしい舞台に仕上がっていました。
7階建のマンションの上下に住む住人達の“別れ”をテーマにしたストーリー。破談や家族崩壊、LGBTQ、DV等笑えない話が出てくるのですが、軽妙な笑いをうまく散りばめており、重く成り過ぎない仕上がりになっているのが好印象でした。
そして六つの部屋を媒介するのが蛇。それぞれの部屋でいろいろなドラマが起きのですが、蛇が現れるとどんな状況であれ、皆恐怖心で全てを忘れてしまうんですね。人間の持つ悩みや苦しみが蛇一匹に勝てないことが笑えます。蛇役の川人さん、迫力があって良かったです。

じゅうごの春

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じゅうごの春

やみ・あがりシアター

十歳刻みの時間軸、それぞれのドラマの絡み方・観せ方、素晴らしかったです。
観劇前は平仮名の“じゅうご”については主人公の名前と十五歳の掛詞だろう、くらいの認識でした。よもや先の大戦を彷彿とさせる“銃後”はありえないだろうと。
しかし妙な予感は的中するもので本当に“銃”が登場、なおかつ今回のキーアイテムだったんですね。
そして進行するにつれ存在を増してくる“自由”という同じ韻を踏む言葉。この“自由”という言葉が繰り返されることによって、その明るく楽しいイメージがそれを真摯に求めることにより、苦しみに繋がることに気づかされるんですね。それは、先生曰く自由とは「自分の思ったとおりやってみる」ですが、思ったとおり生きることの難しさを示しつつ、逆に違う生き方をする一美が父から結婚について改めて問いただされた時に見せた表情だけで説明されるんですね。このシーンの演出と演技力、本当に素晴らしかったです。
 最後にその一美を演じた加藤さん、全体を通しても大胆かつ細やかな演技は流石でした。また主宰の笠浦さん、素晴らしい脚本と演出を観せてくれながら、空調の心配からブランケットの手配までの細やかな心配り、本当に痛み入りました。

ナイゲン(2019年版)

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ナイゲン(2019年版)

feblaboプロデュース

本当に熱かったナイゲンの夏、しっかり満喫させて頂きました。
出演者が多いに関わらず、十三人全ての役者さんの持ち味がしっかりと活かされていたと思います。まさに全員が主役になれた舞台だと思いました。これこそfeblaboさんのプロデュース・演出力なのでしょう。客席の前の二個の椅子の使い方も観客と役者さん達を一体化させた、と感服しました。
役者さん達も本当に熱演でした。特に最後迄孤軍奮闘したどさまわりの池田雄也さん、心情変化の表現力が抜群でした。
“他人事か、我が身に降り懸かるか”に直面した学生達を見て、改めて考え方と行動の一致の難しさを感じさせられました。

R.U.R.

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R.U.R.

ハツビロコウ

途切れることの無い緊張感の連続、素晴らしいです。
人類が自ら生み出したロボットの手によって滅亡させられる、という悲劇。何よりも100年も昔に現代を見事に予想的中させるような脚本、すごいの一言です。ノアの方舟を彷彿とさせる島からの脱出、男女ロボットのアダムとイブは未来と旧約聖書という隔世物が併存、まさに興亡の輪廻ですね。
今回の公演は演出の松本さんが現代にも通じるように書き直して舞台にしたとのこと。
とてもわかり易い作品に仕上がっており、緊迫感がラストまで続く演出と役者さん達の熱演はお見事でした。
作品を拝見して感じたのはひょっとしてカレル・チャペックは映画「ターミネーター」や「シンギュラリティ」まで読み切っていたのでは、と思えたことです。しかも現在、テクノロジーの発達がもたらしている諸問題までも。
スリーマイル島やチェルノブイリの悲劇がありながら起こした福島原発事故、既に我々は増え続ける核の廃棄物や汚染水に追い詰められていますよね。でも原発はやめようとしません。
ボーイング737の墜落原因のMCASもしかりです。どうもMCASがパイロットの指示を無視するようで、意思を持ったかの如くです。そんな時に都心のど真ん中に航路を変更しようとする我が国。
終演後もずっと考えさせられた作品でした。初めて海外作品に取り組まれたハツイビロコウさんが今こそやるべき、と公演を決められたこと。よく理解できました。

TOCTOC あなたと少しだけ違う癖

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TOCTOC あなたと少しだけ違う癖

株式会社NLT

“癖”がスゴい!一度観ると癖になる舞台です。

恐るべし“癖”のリピート攻撃。2時間笑いっ放しでした。またルー大柴さんの醸し出す柔らかな空気感、とてもいいですね。
役者の方々のコミカルな名演技も充分楽しめましたが、待合室上部の文、
OK C'est parti=(さあ行くぞ、ですがこれが2回書かれているってもしかして違う意味?)
Fils de pute=(この野郎)
と結構荒療治的な言い回しでした。
あと十字架を挟んで右側の6.55957は無きフランスフランの対ユーロ交換レートで記念コインにも刻まれた数字・・・。ん?この数字に反応した私も、もしかして・・・汗。

 「舞い上がれ、レジャーシート」「ばいびー、23区の恋人」

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「舞い上がれ、レジャーシート」「ばいびー、23区の恋人」

マチルダアパルトマン

「ばいびー、23区の恋人」を拝見しました。当代男女気質をコミカルに描いた傑作です。
ビッチというにはユル過ぎの町子と23区それぞれに一人づついる彼氏達。これらの家(=区)を回るお別れの旅をする、という奇想天外な設定。しかも彼氏の呼び方が区名とは、脚本面白過ぎです。
テンポの。刻み方が絶妙で、急にまくり出したたかと思うと元に戻したりと、この緩急実に良かったですね。彼氏の着替えが遅れがちになったりするんですが、最後にはぴったり合い、
これが舞台に面白い味付けとなっており、演出のうまさを感じました。
また3人だけでこれだけの世界が作れることにとても感心しました。特に窓の使い方ひとつで場所が変わったかのように見せる手法。素晴らしかったですね。
開演前に受付のPCで流れていた動画を何気無く見ていたら、面白さが格段にアップしました。未見の方は是非事前にご覧ください。

総評

本年は東日本大震災から8年経過し、応急仮設住宅の供与期間終了年度でしたが、放射能の問題もあり、自宅に帰れない方々が大勢のため延長期間が設けられるという問題が起こっているんです。
一方で汚染水処理問題があと3年のタイムリミットを迎えるという待ったなしの状況。
本当に日本はどうなってしまうのか、というのにインバウンド強化の為に東京上空300~1000mを2分に1回航空機が飛ぶ、という恐怖、或いは住みたい街No.1に輝いた横浜みなとみいにブラックマネーが働きIRが上陸というように、我々の周りに日々不幸が上積みされているんですね。
そういった社会問題を始め自己が感じた様々な問題に対し意思表示を明確に打ち出し、舞台を通してメッセージを発信している劇団に一票を投じさせて頂きました。

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