タッキーの観てきた!クチコミ一覧

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ソラカメ

王子小劇場(東京都)

2018/01/24 (水) ~ 2018/01/28 (日)公演終了

満足度★★★★

当日パンフに主宰の江田恵女史が「『ここから』というタイトルは皆で決めました。この言葉はいろいろなことを連想させます」と記している。ここから始まる…同趣旨で作・演出の岡本苑夏女史も書いているが、本公演の内容はそれを心の迷い、彷徨するという形で表現している心象劇といったところ。
(上演時間1時間10分)

ネタバレBOX

挟み客席で中央舞台の四方に、脚立・自転車の後輪部分・廃机・ゴザ、そして水道管(流水する)等の雑貨類が雑然と散らばっている。1カ所のみ台座・黒BOXが置かれている。廃墟のような場所を連想させるが、実は森の中だと言う。安心する場所らしいが、子供の時の秘密基地といった存在だろうか。
登場人物は、高校生2人、教師とその連れ、機関銃を持った少女、ギターを持っていた少女の女性6名。

上演前は小鳥の鳴き声など鳥のさえずり穏やかな雰囲気、ところが物語が始まると全員が舞台狭しと走り回わ回る。そして爆撃機であろうか飛行音が不気味に響く。何らかから逃げる、その理由(わけ)が分からない、戸惑いが苛立ちとして疾走する姿に表れる。途中、穴を見つけ入った時、時空間が異なるのかと一瞬思わせるが、現在進行形で爆音は心の内にある不安・焦燥・強迫観念のようなものから逃れるための自己暗示のようだ。ちなみに機関銃は自己防衛、ギターは未来への希望の象徴だろうか?ラストは全員が前進(希望)するという同一ベクトルで収束していく。

心の内の世界(思い)は、一人ひとり違うもので表現し難い。何かを模倣・再現・コピーするのではなく、人々の営みの表徴を体現しているかのような公演である。雑然としたセットは心内の色々な葛藤など未整理状態の表れか?
ラスト、上部の照明を太陽に見立て、それに向かって卒業式で見かける「呼び掛け」を役者の強い口調で叫ぶ。まさしくタイトル「ここから」スタートする、そんな決意が感じられる公演であった。劇団員だけの公演…その表現者(女優陣)の志が伝わる新春に相応しい舞台であった。

次回公演も楽しみにしております。
プレイユニットA→XYZ『200億の客船』/東京カンカンブラザーズ『ラブ・シャーク』

プレイユニットA→XYZ『200億の客船』/東京カンカンブラザーズ『ラブ・シャーク』

東京カンカンブラザーズ

吉祥寺シアター(東京都)

2018/01/17 (水) ~ 2018/01/28 (日)公演終了

満足度★★★★★

「ラブ・シャーク」…外国航路の豪華客船「パシフィック・マリン号」の船内、出航してから1時間の間に起こる乗客・乗組員の色々なトラブルを1コマずつのコメディとして描き、それをサスペンス風にして1つの物語として纏め上げて観(魅)せる。登場人物一人ひとりの立場・性格・思惑が丁寧に描かれ、人間関係もよく分かる。飽きることなく最後まで楽しめる作品である。
(上演時間1時間50分)

ネタバレBOX

舞台は豪華客船内のサロンといった場所。2階部を設け中央に階段があり、正面に縦長楕円形のステンドグラスの窓。そして左右に客室へ通じる通路。1階部は上手側に食堂、テーブル・椅子の1セットが置かれ、下手側に豪華ソファーセット。本当に豪華客船内を連想させる見事な作りである。

梗概…外国航路(102日間)の豪華客船「パシフィック・マリン号」が出航して1時間の間に起こる人間ドラマ。それを爆弾事件を契機に人間の本性が露になるという定番手法で描く。物語は乗組員が本船から乗客を救命ボートへ避難誘導させるシーンから始まる。見知らぬはずの乗客同士がいつの間にか繋がりを持つ。また乗組員と乗客が知り合いだったりする。その間に乗客(家族)の紹介、乗組員の船内での立場や性格をきめ細かに描いていく。乗客は4組(内1名は一人参加)で、女子中学生がいる夫婦、お笑い芸人とその彼女、夫人が妊娠している夫婦、そして訳ありの一人参加の若い女性である。一方、乗組員は初めての客船船長・機関士・料理人・食堂スタッフ・フロアー支配人とそのスタッフ・船医で、それぞれ強烈な個性を放っている。それらの人物像がみな魅力的に描かれる。特に船長・有村二郎(農塚誓志サン)の適当さ、フロアー支配人・鮫井朝美(棚橋幸代サン)の実直さの対比が面白い。さらに近海を漂流していた漁船の乗組員を救助するが、実はその男が原因で救命ボートを一艘失ってしまう。そして突然起こる”爆弾”騒動を通じてのんびりした船旅が一変する。

見慣れたシチュエーションであるが、事件ともなれば犯人が誰で何の目的で実行しているのか…興味関心を惹起する。そもそも本当に爆弾が仕掛けられているのか、乗組員の隠密裏の確認・探索はいとも簡単に乗客に知られるところになる。それまでの個々の繋がりという人間関係が、いつの間にか全員で対処するという纏まりを見せてくる。船内という密室における究極の心理状態…右往左往するが、それほど緊迫感・切迫感は感じられない。

船内という限られた空間と一定の時限を設けた設定だが、一般的な緊急事象に対しても同様の事があると思うのだが…。例えば、災害時の対応などは、建前としての協力・連携の重要性を説くが、一方、個々人の胸の内は自分を優先する本性・エゴが渦巻く。この外面の建前、内面の本音という矛盾した感情の両方を併せ持つ人間の存在こそが滑稽であり魅力的であろう。その様子をサラッとコメディタッチにして観せる物語はとても楽しく面白い。

次回公演も楽しみにしております。
昏闇の色

昏闇の色

BuzzFestTheater

駅前劇場(東京都)

2018/01/17 (水) ~ 2018/01/23 (火)公演終了

満足度★★★★★

自分の立場や都合を優先する、もしくは押し通そうとして人間関係が崩壊していく様を、「子」という存在を通して描いた物語。人間は自分が暮らしやすい環境を求めるが、その当たり前が他者の思惑と相反した時、その人の本性が見えてくる恐ろしさ。その先に決して安穏とした希望は持たせず、楽観視させない。
どこにでもありそうな日常生活に潜む狂気をじっくり観せる力作。
(上演時間1時間55分)

ネタバレBOX

舞台セットは、丁寧に作り込んでおり、物語をしっかり支えている。上手側にベットルーム、クローゼット、部屋出入り口、やや上手側から下手側にかけてメインのスナック内。中央客席寄りにソファー・長テーブル(BOX席イメージ)、下手側はカウンター、スツール、ボトル棚、ドラムが設えてある。

梗概…雇われ店長・高野健一(藤馬ゆうやサン)とその妻、バーテンダーで切り盛りしているスナック(or Bar)が舞台。物語を大別すると3話からなり、それらの話が錯綜しながら進展し収斂されていく。登場人物の立場や思惑等が絡み、それぞれの主張が決して理不尽なことを求めている訳でもないのに人間関係が崩壊していく。その大きな要因が「子」という存在を示しているようだ。
第1は、この健一の妻・愛香(藤澤希未サン)が1年前に流産しその影響で子が産めない身体になった。妻は悲嘆、悲観し、健一に別れてくれと頼む。第2は、この店の常連客・前川直人(満田伸明サン)が高校時代の彼女・佐伯久美子(さとうかよこサン)と結婚するという。しかも妊娠までさせている。久美子は結婚していたが家を飛び出すようにして強引に離婚している。いわば不倫の果ての奪略婚である(前夫・松原哲史(宮地大介サン)と離婚後6カ月経過していないため、正式に婚姻届は提出できない)。さらに久美子には哲史との間に大学生(19歳)の息子・圭司(本田響矢サン)がいる。第3は、健一が結婚する前に付き合っていた彼女に子供が生まれた。健一はミュージシャンになる夢を叶えるため彼女と子・濱本晋平(足立英サン)を捨てた。しかも生まれた子は盲目という障碍があるにも係わらず。

親にしてみれば、子は鎹(かすがい)というが、逆に穏やかならぬ存在にもなる。圭司が、実は精神破綻者で殺人まで犯しており、自室(ベットルーム)で健一の妻の妹・湯川菜々(原田鮎歌サン)を絞殺し、その現場を哲史(実はロリコンで妻、息子から軽蔑)が目撃しているという異常さ。一方、健一が捨てた晋平は育ててもらった祖父母が亡くなり、叔父も地方へ転勤となるため面倒が見られなくなった。そこで実父・健一を頼ることになったのだが…。

奪略婚をした直人は連れ子・圭司が殺人者であることが分かり、その久美子と破談できてホッとしている。一方、健一は自分が息子・晋平の面倒を見ようと妻・愛香に紹介するが、愛香にしてみれば自分が子が産めないのに、なぜ障碍のある他人の子の面倒をみなければならないのか?この2つの結論は別方向になったが、そこにあるのは理屈的には納得できなそうな感情ではあるが、そこに人の本音・エゴが垣間見える。その表現は巧みである。終盤に主筋に絡む健一の息子・晋平の存在をクローズアップさせるあたりは上手い展開である。このスナックの閉店とともに四散する人々はそれまでの人間関係の希薄さの表れか。

ベットルームは殺人息子・圭司の自室であり、健一が上京前に恋人と暮らした部屋でもある。その意味ではスナックとは別の時空間である。その違いはTVの型(液晶・ブラウン管)で表す。親子関係(情)は、必ずしも一緒に暮らした年月の長短だけが重要ではないという。親子の絆、子供という独立した人格、人間関係、それも親子という特別な関係には闇と光がある。健常者にして異常者の殺人鬼(息子)の心の闇、障碍者にして常識人たらんとする希望の光が…。その対比した描き方が見事である。ラストシーン、ソウルミュージックの神様、レイ・チャールズの「目が見えなくても、魂(心)が見える」という言葉が重みを持つ。さらに晋平の言葉「僕は目を瞑ると色が見える、冷たい色。だけど父母は温かい色だから…」。救いのない物語のようだが、タイトル「闇昏の色」には、晋平の言葉通り絶望の淵に射す一筋の光明が…。

次回の公演も楽しみにしております。
十文字鶴子奮戦記 外伝

十文字鶴子奮戦記 外伝

劇団カンタービレ

ウッディシアター中目黒(東京都)

2018/01/17 (水) ~ 2018/01/21 (日)公演終了

満足度★★★★

過去と現在を往還しながらテンポ良く展開する話は、無軌道な青春群像劇といったところ。テンポ良く感じるのは、場面転換の早さだと思うが…。
チラシは公演そのものをイメージさせるもので洒落ている。
(上演時間1時間45分)

ネタバレBOX

セット…ラーメン店内、上手側奥にカウンターと厨房に通じる通路らしきもの。下手側奥はレジ、前面(客席側)にテーブル・椅子が2セット置かれる。過去場面では、喫茶店「ポニー」…上手側にカウンター席、下手側にゲーム機とBOX席で雰囲気は出ている。それ以外に地元の土手等をイメージさせるもので、シーンに応じて暗転・引き幕の間に転換させる。また会場出入り口(下手側)近くに別空間を設けて、メイン舞台の転換時に繋ぎエピソードを挿入するという巧みさ。

梗概…メイン舞台は東京の下町、坂の下商店街にあるラーメン店「シロクマ」。その店主は十文字鶴子で、息子の亀男と一緒に店を営んでいた。そこへ鶴子の学生時代の悪友が訪ねてくるところから物語は始まる。鶴子は「紅天使」という暴走族のリーダで、そのメンバーだった中野麻衣(旧姓:黒崎)やライバル暴走族「クレイージーハート」のリーダー立川瞳(旧姓:出雲崎)等が訪れたが、肝心の鶴子がいない。帰りを待つ間、昔話で盛り上がる。過去と現在を行き来し、良き時代(暴走族)を懐かしむ。

何故、暴走族になろうとしたのか、その背景は曖昧というか省略して描いていない。女子高校生の内面や実態は明らかにされないので、人間的な深堀がなく人物像が魅力的に立ち上がらないのが残念なところ。一方、確かにその時代を生きているという実感が伝わり、”何か”に一生懸命になっているという”充実”した時間を共有している。多くの(女子)高校生が過ごすであろう無難な、敷かれたレールの上ではない、それこそ無軌道な様子は不安定な青春期の合わせ鏡のように描いている。大人になっても子供っぽく振る舞う商店街の人々、その姿を通して高校生と社会人という年齢の違いはあっても、人の心の根底にある”気持”の大切さを教える。彼女たちも子を生み育て、孫までいる「おばちゃん、おばあちゃん」になっているが、それでも高校時代を懐かしむ。それはどんな形であれ、充実した時間を(共有し)過ごしたという友情がしっかり観えてくる。

気になったのは、テンポ良くするため場面転換を頻繁に行っていたが、その間隔が少し短いような…。もう少しワンシーンでの感情や状況の揺れ、変化をじっくり観たいと思った。
次回公演も楽しみにしております。
昭和歌謡コメディ~築地 ソバ屋 笑福寺~Vol.8

昭和歌謡コメディ~築地 ソバ屋 笑福寺~Vol.8

昭和歌謡コメディ事務局

ブディストホール(東京都)

2018/01/06 (土) ~ 2018/01/09 (火)公演終了

満足度★★★★

2018年の観劇始めは昭和歌謡コメディ…年初に笑い始めが出来て至福のひと時を過ごす事が出来た。
公演はほぼ定型化…2部構成で第1部は、喜劇「女相撲がやってきた!」 第2部は「歌とコントのバラエティショー」であり、初日ソワレはほぼ満席でコアなファンに支えられていることが分かる。
(上演時間:第1部55分、第2部50分、途中休憩15分)

ネタバレBOX

舞台は築地の老舗そば屋「ひろや」。公演のパターンは定型化されている。
第1部:「喜劇『女相撲がやってきた!』」
「ひろや」を舞台に築地の老舗ソバ屋“ひろや”(上手側に店内、カウンターやテーブル・椅子、下手側に店出入り口ドア・お品書き)を舞台に賑やかな人情喜劇が展開される。
風来坊の兄ヒロトシ(江藤博利サン)は全く頼りにならず、しっかり者の妹まるみ(白石まるみサン)がひとりで店を切り盛りする。ヒロトシの人物イメージ(衣装も含め)は、映画「男はつらいよ」のフーテンの寅、こと車寅次郎である。登場するシーンの音楽も同名の♪男はつらいよ♪である。新年を迎え、“ひろや”に集う人たちは、隣接する笑福寺で開催される新春恒例・女相撲大会(平成30年1月吉日-店入り口に貼紙)の話で持ちきり。そんな中、放浪中の店主・ヒロトシが、半年ぶりに帰って来る。ここからは昭和チックなドタバタ・コメディで「笑い」と「元気」が…。とても楽しい。
女相撲の横綱には両親の離婚によって幼い頃に離れ離れになった姉がおり、その姉を捜すため女相撲取りとして全国巡業をしてきたが…。

第2部:「歌とコントのバラエティショー」
懐かしの昭和歌謡。キャスト総出演の歌謡バラエティショー。ミニコントやモノマネなど笑いも盛り沢山のステージで、観て・聴いて・爆笑の渦の中へ。ペンライトを振って、紙テープを投げて、青春時代にタイムトリップして行く感覚は、新年に相応しく懐かしくも新鮮であった。

次回公演も楽しみにしております。
スピークイージー

スピークイージー

やみ・あがりシアター

荻窪小劇場(東京都)

2017/12/23 (土) ~ 2017/12/28 (木)公演終了

満足度★★★★

忘年会シーズンに合わせ、禁酒法に纏わる物語。コメディタッチの観せ方だが、その内容は骨太でシュールであった。
(上演時間1時間40分)

ネタバレBOX

舞台は都内の雑居ビルの1階にある、居酒屋「たこはち」。恒例、会社(印刷会社)の忘年会だが、今年は少し事情が違う。セットは、中央に床底を高くした畳座敷、そこに横長テーブルが置かれ社長以下の社員が集う。上手側壁には洋服掛け、下手側壁には木札のお品書き。

物語は、東京オリンピックまでは禁酒にするという東京都条例が施行(11月1日)された状況。時は施行直前日の飲み会と施行後の大晦日の水での忘年会を行き来して展開する。そこには人への気持と社会(仕事を初めとしたモロモロ)への思いを絡め重層的に描く。10月31日に飲んだ後、社員の一人・河島が亡くなった。飲んだら記憶がなくなるという女性社員が当日の様子を聞きだそうとするが…。皆、口を噤み教えてくれない。社長は、忘年会は葬式のようなものだと言う。葬式は故人への悲しい思い流すようなもの。仕事関係では嫌な事を忘れ新年を迎える、という含蓄ある台詞。河島は忘れられない、思い出にすらなっていない。

禁酒に関する功罪が社員同士の会話から見えてくる。印刷会社は制度変更等があると、それを周知するため印刷の需要が増し、この会社でも過去最大の黒字を計上したという。また飲酒後の嘔吐が無くなりトイレがきれい。一方、都内から人口が流出し近県の地価や家賃が値上がりした。また盛り上がりに欠け、コミニュケーション不足になっているような気がする。さて忘年会の最中、度々デモの話が挟みこまれるが、これはラストへの伏線として観せる巧みさ。

改めて酒に力を借りてのコミュニケーションは…。酒席では場が盛り上がるが真剣に話しているか、そして聞いているかという問いを投げかける。水による忘年会だからこそ会話が成り立っているような。この真面目な会話も、社員が半裸になったりするなどの酒癖を取り入れ面白可笑しく見せる。どうしても酒が飲みたい…アメリカの禁酒法時代にもあった秘密・違法な酒場が”スピークイージー”と呼ばれていた。

舞台技術…特にシーンに合わせた音楽の選定が素晴らしい。1960年代~1970年代のポップ、フォークソング曲が多いようだ。例えば、河島が亡くなったという時の「帰って来たヨッパライ」、社長が店主に散会した今の時間を聞いたところ午前3時、夜明けまでは遠いと呟く。その時の音楽が「友よ」(♪夜明けは近い♪という歌詞)を流す。この音楽効果がデモという行動の時代背景を違和感なく支えている。ラスト、禁酒法に反対するデモ隊のシュプレキコールとも合致する。
とても観応えのある公演であった。

次回公演を楽しみにしております。
大人の条件

大人の条件

The Vanity's

ギャラリーLE DECO(東京都)

2017/12/19 (火) ~ 2017/12/24 (日)公演終了

満足度★★★

サスペンス風に仕上げた心象風景劇のようであった。主人公の衣装やセットが白色で透明感がある。
(上演時間1時間30分)

ネタバレBOX

セットは上演前は、立体ボックス型で閉じている。客席からは白い壁のように見える。物語が始まると壁を折り畳み変形させる。そこは邸宅内、上手側にインターホンが置かれた台、中央奥に塑像、手前にキャンバス・デッサンやベンチ(ソファーのイメージ)、下手側には膝高の円柱腰掛がある。柱にはいくつかの肖像画が飾られている。

物語はホスピスに入所している女性が、職員に探偵まがいの人物探しを依頼するところから始まる。場面は転換しマツナガ邸_そこに住んでいる三姉妹、特に盲目の三女・夢実(瑞生桜子サン)の視点で展開していく。人の心にある悪意と善意が混じる。物語性を意識したのか、面白くするためラストの展開を急転させる。それまで登場していない人物が現れ、今までの何故・何なのかという疑問や謎を一気に説明してしまったのが残念だ。

物語は、屋敷の主人コウイチの生前の行いに起因している。有名な画家であったが莫大な借金を残し自殺する。幼い頃、夢実はアトリエに籠もり父のモデルをしていた。10年程前の家族旅行で交通事故に遭い、それが原因で記憶喪失になる。それでも絵が好きで描き続けている。父には数多くの愛人がおり、その中の1人が画廊に勤め、借金返済のために家の美術品をオークションに出すなど協力・援助をしている。その善意とも思えるような行いには隠された陥穽が…。

さて、父が画家としての名声を得ることになったのは、「クローズド・アイ」という3枚シリーズ。ラストにはこの絵に関する秘密が明かされる。父の凡庸、偽善、欺瞞、偽評価が次々と分かる。さて3姉妹の姉2人は、夢実に過保護とも思えるような愛情を注ぎ、自分たちの暮らしは精神的な苦悩に満ちている。冒頭のホスピス職員がその友人である美大生を伴い夢実との交流を始める。この極めて普通な交流こそが喜び。そして画廊の女性職員の悪意ある告白。そこに潜む偏狂的な父への想い。この善悪という対比に人間の本質を観る。
心の光と闇_白いキャンバスに燃えるような赤、その燃えた焦げ後の黒、そのコントラストを思わせるような展開は良かったが…。
劇中挿入歌「星降る夜」も優しくも物悲しい感じが、雰囲気作りにマッチしていた。

次回公演を楽しみにしております。
時代絵巻AsH 其ノ拾壱『朱天〜しゅてん〜』

時代絵巻AsH 其ノ拾壱『朱天〜しゅてん〜』

時代絵巻 AsH

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2017/12/14 (木) ~ 2017/12/19 (火)公演終了

満足度★★★★

物語というよりは寓意あるメッセージ性の強い作品。この劇団の特長である殺陣は観応えがあるが、そのシーンが少ないようで残念だった。
(上演時間2時間)

ネタバレBOX

セットは平安時代の貴族または武家屋敷のような造作。
具体的な史実は解り難いだけに、物語に描かれる内容如何が公演全体の方向性を決める。それゆえ作・演出の灰衣堂愛彩女史は、意識して寓話的な描きにしているのか、結果的にそう観えるようになったのか判然としないが、鬼であっても人であっても”己の存在する意味”を問うているように思う。

梗概…棲家を追われた者たちが切り拓いた「隠人(おに)」の国。都人は彼らを人ならざる者_鬼と呼んでいた。平安時代は関東以北を蝦夷(えみし)と呼んでいたようだが、イメージ的には都(京)以外は辺境の地として異端視・異族視した呼称をし、差別的な扱い。また公演では鬼=身体障碍者を指すようで、差別と蔑みの対象として描いている。主人公・”鬼”王丸(黒崎翔晴サン)は平将門の子孫だが、目が不自由という設定である。一方”人”として描く清和源氏の流れをくむ源頼光(村田祐輔サン)は鬼王丸と友情を育んでいたが、朝廷の命により鬼王丸とその仲間の蝦夷を討伐しなければならず苦悩する。
2人の望まぬ相対する立場と信念は、そのまま現実(侵略)と理想(安寧)の対決を投影している。この思いは通じ合うことなく物語は悲劇に向かう。

人の欲とは…富と権力を握っていても、更なる欲望が生まれる。その根底にはいつも没落という疑心と慄きがある。自分の本当の姿を見失っている人、富や権力の中身が人の価値を決める訳ではないが…。それが大江山で採掘した鉄(鉱山)で富を蓄積し、それを奪うための討伐とも描く。重層的な提起は物語性よりも印象深くなる。不寛容が広がる世界に生きる現代社会への警鐘とも思える。同時に朝廷が蝦夷を討伐するシーンは、世界を覆う排他主義を想起させる。

公演は舞台美術が素晴らしい。セットは殺陣を意識したスペースの確保、それも観客に十分楽しんでもらうための工夫として、客席寄に設けることで身近に迫力を体感できる。照明はハイ・コントラストのモノクロ感、殺陣(鬼気迫る剣筋)はその激しさとストイックな要素が鬩ぎ合い、全体演出が印象と緊張感を倍加させる。ラストはいつもながら余韻に浸れる見事なもの。

次回公演を楽しみにしております。
あたま山心中 散ル散ル、満チル

あたま山心中 散ル散ル、満チル

ハイリンド

小劇場 楽園(東京都)

2017/12/19 (火) ~ 2017/12/24 (日)公演終了

満足度★★★★

さくらんぼの種を食べて頭に桜の木が生えた男を描いた落語「あたま山」と、幸福の青い鳥を探すため旅に出た兄妹の話「青い鳥」を交錯させて描いた2人芝居。奇妙な構成の中にごく普通の人が存在する、そんな独特な感じが面白い。
妄想か幻想か、夢か現か幻か…そんな現実離れしたところの日常が見えてくる。
(上演時間1時間20分)

ネタバレBOX

セットは、中央に木組みや木の椅子が重なり合う。周りには開いた旅行鞄、帽子がある。

2人の関係が短い間隔で夫婦、兄妹、父娘等に変わり、細分化させたシーンを繋ぐ。精神的な繋がりを持って新たな関係を築けず狂気妄想的な衝動や思い込みに世界が変わる。また年齢も子供から大人(中年)という離れた年代を行き来し展開する。その突拍子もなく現実離れしているかと思えば、リアルな情況として浮かび上がるという不思議感覚である。

ベースになる「あたま山」は、ケチな男がさくらんぼの種まで食べたところ頭に桜の木が生えた。人々は珍しがり頭の桜見までする。男は木を抜くが、そこに穴が出来た。そこに雨水がたまり池になる。これにも人々は玩ぶ。我慢を重ねたが煩さが高じ男は頭の池に身を投げてしまう。どちらかと言えば悲劇的だ。
「青い鳥」は 、2人兄妹のチルチルとミチルが、夢の中で過去や未来の国に幸福の 象徴である青い鳥を探しに行くが、結局のそれは自分達に最も手近にある 鳥籠の中にあった、という幸福が見られる。この全然関係のない話を不思議という共通する感覚で結ぶが、本公演の観せ方は一つの物語として紡いだとは思えない。

「あたまと心が、散る、満ちる」という駄洒落のようなチラシのキャッチ。公演全体を貫くイメージは、夢想の旅路の果てに辿り着いたところは二つのベースによって違う。「あなたと呼ばれた時、たまに(自分が)誰だか分からなくなる」という台詞が少し悲しい。心が彷徨し、その先にあるのは病(病院)か死か。そんな情景が現実の問題に近づいたり離れたりする。リアルな問題を柔らかく包み込み不思議感覚で訴える見事な公演。それを体現する2人の役者の演技力も確かだ。

次回公演を楽しみにしております。
SMOKIN'  LOVERS〜紫煙〜【30名様限定公演】

SMOKIN' LOVERS〜紫煙〜【30名様限定公演】

惑星☆クリプトン

Cafe Bar LIVRE(東京都)

2017/12/08 (金) ~ 2017/12/17 (日)公演終了

満足度★★★★

「Cafe Bar LIVRE」という会場で、その場所に相応しい大人の会話劇(オムニバス全11話)。どちらかと言えば真面目な展開で、政治や芸能界で話題になっている不倫に関する話はない。ドロドロとした痴話喧嘩のような話はなく、あくまで正面から捉えた恋愛話は心落ち着いて観られる。
(上演時間2時間)

ネタバレBOX

特にセットは作り込まず、会場の雰囲気を大切にしている。その中で他人の恋愛話を覗き見、聞き耳を立てる感覚である。役者は基本的にはカウンターに座る、またはその内に入っている。男女の心が揺れ動き、人間としての機微が垣間見えてくる。ドキュメンターを観ているような濃密にしてリアルな会話劇。登場人物の視線が交差し、そこに漂う都会の雑踏と孤独が浮き上がり、自分の恋愛経験の一部のように侵食してくるようだ。雰囲気とタバコの活かし方が絶妙だ。

①OP-
「Cafe Bar LIVRE」という大人の社交場でこれから繰り広げられる導入話。
②SEVEN STER-
ロック歌手をインタビューするが、その応答が聞き取り難くバーテンダーに通訳を依頼するが、意訳し過ぎるのか全然関係のないあらぬ方向に話が進む。
③VOGUE-、女同士の深い悲しみが浮き彫りになる。女優で生計を立てているが、芸能界で生きていくことは難しく、AV女優へ転身しようとするが…。
④PIANISSIMO-
父親の会社を継いだ男と先輩らしき男の男同士の会話。先輩の幸せな結婚と妻が新宿のホストクラブにはまり家出された後輩。そこにタバコに関するアンケート。今の心情を傷つけるような内容が…。
⑤PEACE-
4年前に別れた男女(遠距離恋愛)が再会し_男は既に結婚し、女は別れたことへの悔やむ気持を引きずり…。
⑥ECHO-
いい加減なその日暮らしの男、それに対比するようにカウンター内から女が醒めた目で見ている。
⑦LARK-
別れた女がBarを訪れ、近々結婚するという。「好き」という言葉に応答するのが「ありがとう」。その微妙なニュアンスの違いが男女の気持の前に立ちはだかる。
⑧CAMEL-
怖い話。らくだ色の服を着た女が街灯の下で佇み、それを見つけた人は死んでしまう。実は話を聞いている女が怖い。
⑨HOPE-
隣合う男2人の慟哭を誘う会話。男のジッポは親友の形見。親友は交通事故死であるが、その原因を作ったのが自分だと苛む。一方、年配の男には年の離れた弟がいたが交通事故死したと語り出し。2人の会話が交差し…それでもHOPE(希望)を捨てるなと。
⑩MEVIUS-
全体を纏めるようなBarの人間模様。
⑪KENT-
路子とケントが初デート。ケントのスーパーマンの話から人の在り方を巡る話に発展し、正式に付き合うことに。初々しく、清清しい若者の少しくすぐったいような。

演技は「Cafe Bar LIVRE」という会場であることから後姿が多いが、顔や体そのものを横にしたりして表情を観せる工夫をしていた。本当の「Cafe Bar」であるだけに雰囲気は十分。タバコの銘柄に合わせた話も洒落ており味わい深い。話も人生の滋味、残酷な別れ。そして関係も大人から若者まで演じ分ける。

次回公演を楽しみにしております。
袴垂れはどこだ

袴垂れはどこだ

劇団俳小

シアターX(東京都)

2017/12/13 (水) ~ 2017/12/17 (日)公演終了

満足度★★★★

袴垂れ=袴誰はどこだという人物探しを表層的に描いているが、底流には貧富の差の拡大と言われる現代日本への警鐘とも受け取れる。同時に人の心には善悪(清濁)という二面性があるという寓意のようなものが観えてくる。
(上演時間2時間)

ネタバレBOX

セットは、やや上手側に丘もしくは山奥を思わせる階段状の舞台。両側の奥に枯れ草、客席寄には別空間を思わせるスペースがある。

梗概…主人公は地頭や役人たちの専横に苦しむ農民。村で行き倒れになった僧侶から地頭屋敷を襲い、金品を奪っては村人たちに分け与える、「袴垂れの盗賊」の話を聞き、農民たちは「袴垂れ」の到来を待つ。しかし姿を見せない「袴垂れ」を待つだけではなく彼ら自身が「偽・袴垂れ」になって旅立つ。そして真の「袴垂れ」に合流しようと思う。そして7年の時を経て現れた「袴垂れ」は農民たちが思い描いた人物とはかけ離れていた。そこで真の「袴垂れ」を倒し、自分たちが「袴垂れ」になることを決意する。

脚本は1964年に福田善之氏が書いているが、当時の社会情勢と現代では当然違う。当日パンフに、七字英輔氏が60年安保闘争における全学連内部の対立について触れている。その時代背景の違いを人間の本質という普遍的な面に力点を置き、観客の心情と納得度に訴えてくる。

憧れや理想は抽象的で、野望や欲望は具体的と思わせる。良薬は口に苦し…絶望と希望は毒か薬のようで、その受け止め方は人それぞれ。「袴垂れ」の真・偽は人が持つ善悪のように投影される。善悪の主体は、立ち位置によって変わる。聖戦か侵略(奪略)かは、人の意識と状況によって分かれるのではないか。そのことが峻別できれば人間社会は混乱しない。この作品では、二面性を持つ人間の本性(正邪)といつの時代にもある貧富の差をしっかり観せてくれる。その観せ方は全体的にモノクロ感で描き出し、農民たちの理想と挫折、皮肉な幕切れに人生の哀感が漂う。
理想を掲げた農民(民衆)の思いと現代日本が抱える問題に鋭く切り込んでいた。

次回公演を楽しみにしております。
池田屋裏2炎上

池田屋裏2炎上

グワィニャオン

萬劇場(東京都)

2017/12/13 (水) ~ 2017/12/17 (日)公演終了

満足度★★★★★

新選組の名を世間に知らしめた有名事件。多くの公演は池田屋への襲撃を描いているが、本公演はその裏手にある店で新選組と薩摩藩士の人間的な遣り取りを中心に観せる。同時に京都の庶民が武士の騒動に巻き込まれていく慌てふためきをコミカルに描いた秀作。
(上演時間2時間)

ネタバレBOX

この劇団の特長はセットの工夫と活用であろう。それだけ観る者の心をワクワクさせ楽しませると同時驚かされる。上演前は上手側に斜めに配置した座敷、それを物語が始まると奥へ移動させ池田屋の裏にある店に変へる。奥には池田屋の2階部屋があり、繋がっているわけではないが、人が屋根越しに飛び越えてくるという観せ方である。下手側奥には土蔵のような作りがある。

物語は、新選組の池田屋事件に巻き込まれる裏の家の騒動を描いた「番外池田屋・裏」。明治時代になってからであろうか、女性記者が事件当時の状況を取材しているという手法。
池田屋の裏手にある家では何も知らず祭り気分に酔いしれていた。障子向こうの池田屋から聞こえてくる騒々しい物音に、ただならぬ空気を感じ障子を開けると、目の前では池田屋事件の真っ最中であった。突如飛び込んできた壮絶な光景に慌てふためく裏の家の住人達。逃げ惑う志士達は、今度は裏の家へと駆け込んで来た。それを追って新撰組も乱入する。騒然となる住人達の前で、裏の家へと場所を移した両雄の死闘が始まる。そして話は池田屋事件の裏側で遂行しようと別の計画が…それは新選組に捕らわれた同士古高俊太郎の奪還と、新選組屯所焼き討ち計画である。
新選組も薩摩藩士にしても武士として描いているが、その時代に生きているのは武士階級だけではない。無関係と思われる庶民を登場させることによって時代の混乱と人の非情を垣間見せる。

新選組、それも池田屋事件であるから当然殺陣シーンはある。しかし本格的な殺陣とは違い、どちらかと言えばムーブメントのようだ。池田屋は京都特有の寝床座敷であり、切り込みの際、天井が低いから大上段からの斬り込みは難しいという台詞。斬り合い前の睨み合いシーンが多い。殺陣の動きは連写した写真のようで、ワンシーン毎に印象的である。

役者の演技力は確かで、それぞれのキャラクターがしっかり見える。新選組という殺人集団としての雰囲気よりも、人間味に溢れた人物集団像を立ち上げたようだ。近藤勇(主宰・作・演出:西村太佑サン)の少しとぼけた隊長の人柄か、他の役者も人間らしさを醸し出している。また山南敬助(自分が観た回:山口勝平サン)の何とか穏やかに話し合いで解決したい。しかし新選組としての意地、そんな譲れない硬質さも観(魅)せる。
観せ方にも、独特の間とコミカルな動きがあり、心地良いテンポが時間を忘れさせる。

次回公演を楽しみにしております。
ろくでなし八犬伝

ろくでなし八犬伝

男〆天魚

赤坂RED/THEATER(東京都)

2017/12/13 (水) ~ 2017/12/17 (日)公演終了

満足度★★★★

室町時代から続く、里見家にまつわる奇譚「南総里見八犬伝」、 現代に甦った妖魔を討つため、伝説の八犬士が平成の世に集結するが…。この犬士たちは武家の世の中とは違い 、”忠義”などという言葉からは程遠いイメージ。その少し頼りなさを面白可笑しく描いたエンターテイメント。とても楽しめた。
カーテンコールで初日から千穐楽まで一般席(全席指定)は完売している旨、案内があるほど人気公演である。
(上演時間1時間50分)

ネタバレBOX

セットは障子等の衝立、二階を設えただけのシンプルなものであるが、舞台全面のスペースを広く確保しているのはアクションシーンをしっかり観せるため。それを効果的に魅せるための舞台技術…音楽(SE含む)や照明の印象付けが上手い。

舞台背景…「南総里見八犬伝」は、室町時代後期を舞台に、安房・里見家の姫・伏姫と神犬八房の因縁によって結ばれた八人の若者(八犬士)を主人公とする伝奇小説。共通して「犬」の字を含む名字を持つ八犬士は、仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の文字の数珠の玉(仁義八行の玉)を持ち、牡丹の形の痣が身体のどこかにある。各地で生まれた彼らは辛酸を嘗めながら、因縁に導かれて互いを知り、里見家の窮地を救うべく結集する。
里見家は実在の大名であるが、「八犬伝」の伝奇ロマンのイメージが里見家と関連付けられるが、この物語はヒストリーフィクション。

さて、本公演の時代設定は現代…そこでは仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌などと言う高尚さはなく、何となく、だらしがない、自堕落、無関心、いい加減な中年オヤジが500年の時を経て集まる。それでも原作の「犬」の字を含む名字、仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の文字のある玉を持ち、牡丹の形の痣が身体にあるという設定は同じ。

平成の世なれば殺陣というよりはアクションという表現が合う。「オジサンが舞い?オジサンが宙を飛ぶ? ろくでなし達の熱い戦いを見届けろ!」というフレーズ通りの笑劇であり、まさに可笑し味のあるエンターテイメントである。

次回公演を楽しみにしております。
絵葉書の場所

絵葉書の場所

劇団大樹

Route Theater/ルートシアター(東京都)

2017/12/06 (水) ~ 2017/12/10 (日)公演終了

満足度★★★★

本公演は、独特な舞台美術(草月流華道家・横井紅炎女史)とその空間で展開される抒情的な物語(作・み群杏子女史)、その世界観(感)を堪能することが出来た。
(上演時間1時間20分)

ネタバレBOX

舞台はカフェブランシェ、その店内は中央奥に枯れ木、上手側にカウンター・スツール、下手側にテーブル・椅子、中央手前(客席寄り)にテーブル・椅子が置かれ、本当にカフェを出現させているような独特な舞台美術。店内のいたるところに音楽や演劇のチラシが貼られている。床には枯れ葉。色々なジャンルの本が収納された本箱があるが、客が置いて行ったものらしい。中央の枯れ木には絵が掛けられている。絵はその中に描かれた枯れ木を挟んで男女が背中合わせに立っており、男はズボンのポケットに手を入れたままの構図である。

梗概…本筋は中年男・叶光介(川野誠一サン)が営んでいるカフェ、そこに木山夏実(花房りほサン)と名乗る女子大生がアルバイトに応募してくる。光介の妻は15年ほど前に家出したが、その時、1人娘・菜摘も連れて行った。同じ名前が気になっていたが…。このアルバイトに常連客・ワタル(奥山貴章サン)が恋心を抱きストーカー紛いの行為をする。訳ありな夏実の行動がワタルの心を揺さぶるが…。自分(光介)が傷つきたくない、プライド_ズボンのポケットから手を出すまでに15年という歳月がかかった男の心の成長物語のようであった。

この本筋に2つの挿話が織り込まれるが、その関連性が分かり難い。第1に女子高時代の文芸部有志が作った文芸誌(店の本箱から取り出す)、その書かれた言葉・文章が当時の心情を表現する。第2は、既婚の中年男性と若い女性の恋心を交えた会話が、カフェオーナーとアルバイト女子大生の関係を投影しているかのようだが…。

物語は本筋と脇筋で構成させ、それを入れ子構造として展開する。物語も然ることながら、言葉(台詞)の意味合いや韻音の美しさ、間合いあるテンポが心地良く響くという感じである。全体的に抒情的と思えるのは、筋立てと同じように空気感というか雰囲気を大切にしているからだろう。

公演の特長としてギターの生演奏(ゆりえサン)が言葉を優しく包み、時間の流れという間合いを伸縮させる。その目に見えない時間を表現させる効果は見事であった。さて、ブランシェとはフランス語で「白い」ということらしいが、印象は観客によって異なる。自分(心)のキャンバスに彩られたのは微風・心温まるといった心象が残った。

次回公演を楽しみにしております。
ジ・アース

ジ・アース

十七戦地

ギャラリーLE DECO(東京都)

2017/12/13 (水) ~ 2017/12/17 (日)公演終了

満足度★★★★

本公演は、3話オムニバスを入れ子構造にして展開するロード・テアトルといった印象である。劇団十七戦地の1年3カ月振りの公演であり、3話はそれぞれ劇団員が提供し柳井祥緒氏が纏め上げたものであるという。2人(北川義彦・柳澤有毅サン)芝居…ギャラリーLE DECOという小さい舞台空間であるが、物語の世界は観客の想像力によって大きく広がる。
(上演時間1時間30分)

ネタバレBOX

セットは人工芝のようなスペース、その周りに沿ってホワイトドラゴン、ワニ、電車玩具等のオブジェ、またシーン毎に着替えるための衣装が入った旅行鞄が置かれている。天井には地球儀に模したビニールボールが吊るされている。場面によってはピクニック用の折り畳み式のテーブルも使用する。雑然としているが、画一的な状況を作ら(想像させ)ない工夫であろうか。同時に3話の情景に応じた道具を運び込む周到さ。

タイトル「ジ・アース」は3話の接地のようでもあり、地球規模と捉えることが出来る。「アマゾンの魔女」「ロードムービ」「ニューアニマル」は独立した小話であり、表層的には関連付けが難しいが、その曖昧さこそが見所であったと思う。何故(マラソン)走るのか、そんな問いへの回答は個々人で違う。哲学的なことは解らないという返事にこそ画一・具体的にならない曖昧さを強調しているかのようだ。

アマゾン川での釣果の期待感、日本という狭い(少子化)発想から世界を見据えた動画配信というバーチャル感、バクを擬人化させた恋愛の甘美感はいずれも曖昧なもの。現実か空想・妄想なのか判然としない世界観は、観客の想像力によって広がりと奥深さが異なるだろう。
話の繋ぎに暗転は用いず、柳井氏が黒子として小道具を準備・配置し、それによって観客の集中力と物語性を保たせるあたりは上手い。

次回公演を楽しみにしております。
室温 ~夜の音楽~

室温 ~夜の音楽~

天幕旅団

【閉館】SPACE 梟門(東京都)

2017/12/12 (火) ~ 2017/12/17 (日)公演終了

満足度★★★★

サイコサスペンスという謳い文句通り、外面的な愛想の良さと嫌らしさ、内面(心)の暗部が浮き彫りになってくる不気味な崩壊物語。と言っても、役者の演技がコミカルに描かれるシーンもあり、この劇団らしい演出を試みた表現方法とも思える。
(上演時間2時間)

ネタバレBOX

挟み客席、その間に赤い舞台(絨毯イメージのような)スペース。海老沢家の居間といった所で、テーブル・椅子、ソファー、電話置台の調度品がある。また風鈴の短冊には”みちのく”と書かれている。そして殺されたサオリの写真が掛けられている。四方には椅子が置かれ、ラストに明かされる別世界。

梗概…寂れた漁村に建つ古ぼけた洋館。心霊研究家の海老沢(凪沢渋次サン)は娘のキオリ(渡辺実希サン)と2人暮らしをしている。12年前に殺害されたサオリの命日に、刑務所から出所した犯人の1人・間宮(渡辺望サン)が訪問したことから、事件に隠された秘密やそこに居る人々の悪意や思惑が露呈していく。たどり着いた真実は憎悪か愛情か。携帯電話が繋がり難い人里離れた場所、雷雨という天候など、この屋敷は一種の密室状態に置かれている。

何の本だか忘れたが、親を亡くすと過去を、配偶者を亡くすと現在を、そして子を亡くすと未来を失うとあった。主人公は妻が家出しており、時の全てを失ったかのようである。それでも犯人が焼香したいという申し出を受け入れ、常識では考えられない行動をとる。さらに服役したことに対する労をねぎらう言葉をかける。少しずつ物語が歪み始め陥穽を企てる様相が見え始める。ゆるやかに理性がかき乱されていく様、曲者ばかりの登場人物たちの思惑がスリリングに絡み合う心理サスペンス。全編通じて薄暗い照明(停電シーンではロウソクの炎が印象的)、その雰囲気は人心の醜面をイメージさせ嫌らしさが蠢くようだ。誰もが内心ピリピリし他人を受け入れない。そんな強張った空気をドタバタな描きにして緩衝させる。

物語を俯瞰するかのように少年(加藤晃子サン)の心霊が浮遊している。それはサオリであり、別の子でもある。霊魂が漂っていることを表現しているが、悲壮感は感じられない。この子がサブタイトルにある~夜の音楽~を歌い出し、全キャストが唱和する。その雰囲気はあっけらかんとしている。公演全体が陰陽のメリハリを意識したような観せ方で、その印象付けは上手い。

次回公演を楽しみにしております。
騎士ブルース

騎士ブルース

無頼組合

シアターKASSAI【閉館】(東京都)

2017/12/08 (金) ~ 2017/12/11 (月)公演終了

満足度★★★★★

B級活劇ストーリー「騎士」シリーズ最終回、実に感動的でラストは泣けてくる。カーテンコールでシラカワ タカシさんが当初は3作ぐらいのシリーズを予定していたが、人気を博し10作になったと説明していた。物語は、架空の都市(サウスベイシティ)を疾走するような早いテンポで進む。そこには鋭い社会性、それに挑む愛すべきキャラクターが生き活きと活躍し娯楽性に富んでおり、多くのファンを魅了してきたと思う。
(上演時間2時間10分)

ネタバレBOX

この都市、街は殺伐、退廃したイメージを持たせているようだが、一方その佇まいのようなものはスタイリッシュ、洗練されているという感じでもある。そんな混沌とした街で探偵業を営んでいる。

舞台はほぼ素舞台。シーンによって探偵事務所内、BarカウンターやオカマBarのソファなど簡易な調度品が運び込まれる。全体が走り回るようなアクションシーンであることから、ある程度のスペースを確保しておく必要がある。その情景・状況は役者の演技で体現しており、緩急ある動きは思索とアクションというメリハリを表している。

梗概…主人公・風吹淳平(シラカワ タカシサン)は、サウスベイシティで私立探偵を営んでいる。非合法な仕事以外は何でも引き受ける。裏社会のパワーバランスをコントロールするコーディネーターの1人を殺害した容疑で逮捕されるが、緩い取り調べの後に釈放された。一方、‶クリーンな国際都市づくり〟を公約に掲げる市長は、目的のためにコーディネーターと結託し、ギャング組織の解体、都市開発の名目で猥雑で風紀上問題のあるエリアの立ち退きなどを強行的に進める。探偵事務所とニューハーフパブ「バナナの気持ち」が店を構えるダコダハウスにも立ち退き命令が出る。仲間達のために都市開発を阻止しようと奔走するが、権力の前にうまく事は進まない。そんな時、ブラッドシティから懐かしい助っ人がやって来た。俺の昔の女…フリージャーナリストの‶安奈〟だ。彼女はジョージ・オハラがコーディネーターという組織を作ったのかを知っているという。コーディネーターを叩く突破口になるか、熱い最後の戦いが始まるが…。

観(魅)せ方、その展開は次元や時間を越えることなく、”今”という時の中で描かれる。それだけに分かり易いしストーリーに集中できる。ラスト…大切な人と場所を失う悲しさ、それでも鶴田紅は「死にたくなるような孤独を乗り越えて生きていけ!」という淳平から諭されていた。まるで応援歌のようなセリフが心に響く。実に見事なエンターテインメント作品であった。

次回公演(別シリーズ、または本シリーズ番外編)を楽しみにしております。
まるてん

まるてん

劇団龍門

明石スタジオ(東京都)

2017/12/07 (木) ~ 2017/12/10 (日)公演終了

満足度★★★★

終末期ケアを行う施設…ホスピス「ひまわり」における患者とその家族および施設関係者の触れ合いを描いたヒューマンドラマである。
人は誰もがいつかは死ぬ、その時までどう生きるかを考えさせる内容である。
(上演時間2時間)【Bチ-ム】

ネタバレBOX

セット、中央の前後面は階段を設けた二層構造。奥は病室で両壁に手すり。また別スペースもイメージさせる。前面の上手側に診察机・丸椅子とラック、下手側にソファーが置かれている。上部奥の中央は窓ガラスであるが、両脇の壁は白黒の縦模様で鯨幕を思わせる。

物語は、末期癌の宣告を受けた女性・ちぐさ(24歳)が、死を覚悟し最期まで自分らしく生きようとホスピス「ひまわり」に入所する。そこには同じ運命の人々がおり、それぞれに死と向かい合わなければならない。ここでは癌告知を受けた患者たちの闘病、その苦痛と苦悩の日々を彼ら彼女らと接する家族や医療関係者(ボランティア含む)の姿を通し、ターミナルケア(末期医療)の問題を捉えている。同時に個々人の心と施設内の人間関係を通して問題の所在が一様でないことも解からせる。

癌告知を受けるのが自分なのか家族(公演では娘)なのか、それによっても感情の振れ方が違うと思う。ちぐさは、若い自分の余命があとわずかと知らさせ絶望の淵にいる。ホスピスに入所するということは、延命治療を行わないことを意味し”死を覚悟”したに等しい。患者が自分らしく生きられるよう支援すること、その目的を端的に表したのが、医師が”自分は応援団長である”という台詞であろう。

本公演で注目、疑問に思ったのは、次の3点である。
第1(注目)…本公演では、ホスピスの人員構成である。純粋な医療関係者だけではなく、ボランティアの存在も描き、その役割の重要性を示している。専門医療者が患者ケアに注力できるよう、ホスピス全体の下支えをしている。
第2(疑問)…娘・ちぐさの覚悟は伝わったが、母の気持としては治療し一日でも長生きしてほしい。医師からの末期癌宣告の時とソファーで娘との語らいで心情を露わにする。医療以外のことであれば、本人希望を優先するという物分りの良い親になることも出来るが…。ちなみに、家族は母・娘だけなのか?それであれば尚更、延命させたい気持であろう。終末医療の核となると思われるので、もう少し踏み込んでは…。
第3(疑問)…ヤクザ・鬼塚が再入所する際のドタバタとそれ以降の含蓄ある言葉が物語に面白さと深みを吹き込む。末期癌でも進行が少し鈍化し、一時退所したのだろうか。そこらへんの経緯がもう少し分かると納得しやすい。

延命治療ではなく”死ぬまで生き抜く”を温かく見守るドラマ。それをキャストが登場人物のキャラクターを立ち上げ魅力的に演じていた。”死にたくない”を”如何に自分らしく生きるか”に転じ、人の心に聴診器を当て、魂の叫びを聞かせるようなヒューマンドラマは素晴らしかった。最後にタイトル…周り(まる)にいる人を照らす光(てん)ような存在を意味するという。

次回公演も楽しみにしております。
星の記憶

星の記憶

アンティークス

シアター711(東京都)

2017/12/06 (水) ~ 2017/12/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

日常の暮らしの中にある細波と細濁りを交えて描いた物語。家庭・仕事・恋愛など多くの人が経験するような内容をごくありふれた展開として観せる。そこには孤独、絶望と希望という心情が見え、記憶として刻み込まれる。「星の記憶」として俯瞰した観方は観客の心にも刻み込まれる。
(上演時間1時間50分)

ネタバレBOX

物語は家庭内や職場(高校)、恋愛を入れ子構造にしているが、捉え方によってはオムニバスのようにも観える。その話を紡いでいくセットは、上手側手前から下手側奥にかけて斜めに仕切った細い紐状(モール)のようなカーテン。下手側にはテーブルイメージの置き台と椅子。

須田家は夫婦と娘2人、野島家は夫婦と娘1人、それにシェアハウスの人々という3つの話が交錯するように展開するが、その中でも須田家の夫・源(林隆三サン)を中心に据えている。夫婦・親子関係という坦々とした流れや職場の進路指導という重々とした内容を交えることで”情”という味わいが感じられる。父親としては娘の結婚話、職業人(教師)として問題行動を起こす男子生徒の指導など、色々な面で心労が絶えない。一方、野島家の夫婦はそれぞれ相手が不倫していると疑っている、そんな仮面夫婦である。さらにシェアハウスの女性3人がその年頃に相応しい世間話や恋愛話のお喋り。

全てが等身大で、どこにでもありそうなシチュエーションが観客の身近な問題として迫ってくる。一種のドキュメンタリーを観るかのようなリアルさ。登場人物の視線が交錯し、些細な日常に潜む高揚・諦念などを感じさせる。気付けば自らの日常が侵食されていく錯覚に捉われる。

源の過去回想に登場する小学校教諭・綾瀬春世(中沢志保サン)が児童養護施設育ちであることから差別的な扱いをされ、学校を辞めざるを得なくなる。
物語に通低して観えるのは、一段と不透明感が増し不寛容になっていく日本社会が浮き彫りになるようだ。

次回公演を楽しみにしております。
踊る会議室

踊る会議室

ショーGEKI

小劇場B1(東京都)

2017/12/06 (水) ~ 2017/12/10 (日)公演終了

満足度★★★★

「会議は踊る」という映画があったが、ナポレオン失脚後のウィーン会議を背景になかなか進展しない物語。同時に恋愛話も平行して進む。
人間の隠された本性のおぞましさ、正常な人が非日常の世界に突如放り込まれ、正気と狂気の現実を行き来する衝撃にして笑劇的な作品は面白い。
本公演は某会社の忘年会で食する”鍋”に関する物語。チラシ説明の通り、パラレルワールドの世界観を社内組織・個人の立ち位置という両観点から重層的に描いたコメディ。
(上演時間1時間50分)

ネタバレBOX

セットはL字客席で2方向から観劇可。真ん中にテーブルと鍋、それぞれの客席に向かって白板があり、板書した内容が分かる。

物語は、広告代理店・吉広社(渡された名刺の住所は、世田谷区三軒茶屋)の大忘年会…毎年の恒例行事で会社が費用の一部(1人1,000円)を負担し、”鍋”宴会を行う。特に創業50周年。今年は寄せ鍋にしようか等、好みと予算の兼ね合いも含め喧々諤々しながら具材の選定から始まる。そこには総務部を中心に営業部、九州事業部など複数部署共同で検討が進められるが、やはり会社組織という垣根も見えてくる。同時に個人的に鍋に対する思いが巡り話がなかなか纏まらない。

今年の鍋は何にするか、それを同じ時間、同じ人々の2つの世界が全く違う方向で会議が進む。表では年末忘年会で少ない予算を有効に使い豪華な鍋を提供できるか真面目に話し合う。一方、裏では鍋を使って日頃から恨んでいる社長を完全犯罪に見せかけて毒殺するかの計画を企てている。

正気と狂気、善と悪が怒涛のように押し寄せ、いかに会社組織が一皮剝けば一枚岩でないことが分かるシュールなもの。パラレルワールドの区別は社長や秘書の人柄・態度で善・悪シーンを判別させる。同時に社員の対応も豹変し、希望と絶望、薬か毒を瞬時に分からせる。それを役者が、登場する人物の立場やキャラクターを実に見事に体現する。また照明でその区別を明確にするなど演出効果は巧みであった。
会議らしい展開...決まった具材(10品)を白板に記録していくあたりは、観客の記憶に頼らずしっかりとそしてテンポ良く観せる。

次回公演も楽しみにしております。

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