タッキーの観てきた!クチコミ一覧

1061-1080件 / 2290件中
丹青の三方一両損

丹青の三方一両損

深川とっくり座

江東区深川江戸資料館小劇場(東京都)

2018/03/30 (金) ~ 2018/04/01 (日)公演終了

満足度★★★★

落語、講談で馴染みの「三方一両損」を江戸っ子気質に自分たちの大事な妹や弟子の色恋を絡め、さらに仲裁役となる大店(大黒屋)の女将さんの不興をかうハラハラ、ドキドキ。そして、大岡(奉行)裁きならぬ決着はどうなるのか。
(上演時間1時間20分)

ネタバレBOX

落語ネタ。元は左官金太郎が3 両拾い、落とし主の大工吉五郎に届けるが、吉五郎は落とした以上、自分のものではないと受け取らない。大岡越前守は自分で1両足して、2両ずつ両人に渡し、三方1 両損にして解決する落語で馴染みの「三方一両損」。

本公演のセットは、根付職人・松吉が住んでいる長屋、松吉の妹が奉公している大黒屋、大黒屋に出入りしている大工・巳之助の親方・八五郎の家、その3場面で構成されている。それぞれ長屋塀・井戸・とっくり稲荷大明神、大黒屋の看板、親方の家内にある箪笥など特徴ある物を張りぼてや置物等で表し、それを絶妙なタイミングで暗転・場面転換させるところは見事。

物語の基本的な流れは落語と同じ。梗概…根付職人・松吉が大黒屋から根付代金6両を貰って長屋まで帰ってきたが、途中で財布を落としたことに気づく。その財布を拾ったのが大工の八五郎、そこで弟子の巳之助を松吉の所へ行かせるが、松吉は落としたからには自分の財布ではない、と受け取らない。一方、八五郎は礼欲しさに届けさせたのではないと言い張り…。

その2人が大事に思っている松吉の妹・おきみ 八五郎の弟子・巳之助の恋が絡み、江戸っ子の”意地”と大事な人を思う”人情”が交錯しハラハラさせる大衆演劇(喜劇)。定番劇の醍醐味をたっぷり味わえた。役者の表情・立ち居振る舞いは、それぞれ江戸庶民の気質と暮らし振りを十分観(魅)せてくれた。

次回公演を楽しみにしております。
生き返るなら早めに言って

生き返るなら早めに言って

劇団鴻陵座

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2018/03/28 (水) ~ 2018/04/01 (日)公演終了

満足度★★★

脚本は精緻さに欠け、演出は魅力不足、演技は荒削りで全体的には難が多いと思ったが、人が持つ曖昧さ、不確実性を如実に示す訴えに不気味な魅力を感じた。
(上演時間1時間20分)

ネタバレBOX

冒頭、登場人物の衣装は黒っぽく、セットでは白boxがいくつかあり鯨幕の様相である。床には切り紙が散乱しており心内荒涼といった演出であろうか。
当日パンプで、脚本の根太一氏が「お話は あだち充原作の漫画『タッチ』の和也が終盤で生き返ったら…という発想から書きはじめました」とあり、冒頭のいくつかの台詞でそれとなく解る。

物語は達樹の死後3年の後、彼の本を出版するため周囲の人たちに取材をするところから始まる。編集者は彼の”印象等が弱い所”を補うため、取材した人たちに美談的なことを無理やり聞きだそうとする。さらに編集者は、霊媒能力を持つという女性まで呼ぶが…。達樹が生き返ったが、本当に本人かという疑問が出てくる。それを試し、彼から当事者しか知らないことまで語られた。そのことから彼が本物であることが確認された。
一方、周囲の人たちの証言は達樹を印象付けるための誇張、虚偽によって編集者が、嘘を真実と思い込み、逆に現れた人物は偽物だと判断する。そして生き返ったとすれば、事故の賠償金を返還する必要があるかもしれない。

作劇は何をどう書くか、定義付けや決まり事という制約はあまりないと思うが、それを観客にどう観せるかということを考えれば、具体性というか納得性が大事ではなかろうか。人物の動き、会話、物事や情景の描写、回想や意識の変化など、それらの具体性の積み上げで何かを伝えることになる。本公演では、その具体性・納得性に欠ける。大きなところでは火葬や埋葬許可証が存在するにも関わらず、本人(身体)が生き返ること。所々の雑な情景描写(説明)が観客に受け入れられていないのでは…。

それでも自分が感じ入るのは、編集者の取材に対し周りの嘘が本物(本人)を否定し、真実が歪められる怖ろしさに注目したからである。フェイクやデマに踊らされて真実を見誤る、もっと言えばインターネットの発達した現代、情報・表現の”多様化”が進んだように見える一方、誤った”情報構造の画一化”に繋がる怖れを思ったからである。そのためには、自分自身、リテラシーを見につける必要がある。本公演について言えば、”劇における茶番、奇跡などは人の勝手な解釈”と思い込む。
それでも展開は、妄想やドッペルゲンガーなのか、それとも現実として描いたのか判然としない。もう少し観せ方(脚本も含め)に工夫が必要であろう。

次回公演を楽しみにしております。
小栗上野介忠順

小栗上野介忠順

劇団め組

劇場MOMO(東京都)

2018/03/28 (水) ~ 2018/04/01 (日)公演終了

満足度★★★★★

め組は、2018年が明治維新150周年ということで春・夏・秋に幕末維新シリーズの公演を予定しているという。本公演はその第一弾「小栗上野介忠順」である。幕末幕臣では勝海舟と共に有名人物であるが、その実績はあまり知られていないかもしれない。
物語は、西南の役の前_ある春の夜に語られる回想形式にして小栗の人物像を描き出していく。
(上演時間1時間40分) 【Bチーム】

ネタバレBOX

セットは、立体的に迫り出した壁に世界地図イメージのオブジエが飾られているだけのシンプルなもの。その中で「 小栗上野介忠順」という人物が生き活きと描かれる。それだけ物語の展開が、人物歴を順々と説明するだけではなく、その人柄なり当時の状況が実に分かり易く描いている。

物語は上州権田村の東善寺(小栗の墓がある場所)に賊が侵入し何やら探している。小栗は徳川の埋蔵金を江戸城から持ち出し隠したという逸話があった。賊はそれを狙っていたが、その日は官軍によって打ち落とされた小栗の首が寺に戻された供養の日であった。その場に現れた勝海舟と元薩摩藩士・柴基次郎から小栗の人物像が語られていく。

アメリカへ修好通商条約交換のため差遣された。その帰路、彼は日本人で初めての世界一周を果たす。さらに横須賀製鉄所(造船所)の建設、陸軍伝習所(洋式軍隊の養成のため)を開くなど幕府だけではなく、後の「日本」の近代化のために数々の偉業を成し遂げたという。幕臣の2傑(小栗上野介忠順と勝海舟)を対比するような描き方で、先に記した業績を踏まえ、主人公の魅力を強調 している。無責任な態度が国を滅ぼす、時の中に命を刻む、自分の未来・人生を生きる等真摯に生きた人物ということが分かる。それは現代にも通じるところであろう。教科書的にならず芝居という生きた役者の中に”小栗上野介忠順”の魂を観た。
また、徳川埋蔵金はアメリカから持ち帰った「ネジ」を示唆するようでウイットに富む。表からは見えないが、それ(ネジ)がなければ全てがバラバラになってしまう大切なもの。足元と未来をしっかり見据えた人物像が立ち上がってくる。

セットは、例えば渡航シーンはサークルを船先のようにしたり、対米交渉はサークル内といったシンプルなもの。一方、音響は汽船・波濤また雄大な音響・音楽効果が印象的であった。
最後に、人物像の中で、将軍・慶喜の覚悟を促すため江戸決戦を主張したとあったが、その結果、江戸城下を戦禍(渦)にし庶民が犠牲になることも…。そこに幕臣という立場が垣間見えたが、その立場こそが人を形成していると言えばそうなのかもしれない(完璧な人間ではない)。

次回公演を楽しみにしております。
荒天~こうてん~

荒天~こうてん~

劇団黒胡椒

上野ストアハウス(東京都)

2018/03/29 (木) ~ 2018/04/01 (日)公演終了

満足度★★★★

2017年、江戸。政府も一切関与する事が出来ない独立国家のような存在…それが”吉原遊郭”という浮世離れした治外法権区域である。物語は2017年という設定であるが、江戸という封建社会の様相を色濃く残している仮想国のようにも思える。そして救いのないような…。
(上演時間2時間20分)

ネタバレBOX

舞台は上手側に生バンド(Sp&Ba、Dr、Gt)、下手側は2段にした芝居スペース。そこは緋毛氈が敷かれ、両端に「大門妓楼」の大提燈が掛けられ雰囲気を醸し出している。

物語は、吉原遊郭という特別な地域、その閉鎖された場所では独自の法体系を有し、そこで生きている者を拘束している。その支配者:弥人が足抜けする者には厳罰を下すが、基本的には安寧に暮らせるよう善政をしている。しかし息子・一弥が父を殺害し自分が支配することで暮らし向きは一変する。一弥は両親の愛情を感じられず育ち、確執があったという設定である。
この地域の自警団のリーダー・真白は、人望もあり皆をまとめていたが、一弥の行いに疑問を抱き、好意を寄せている政府直属部隊の相良純と連絡を取り合うが…。
さらに、この地域の特殊性を取材しようと記者が潜入してくる。為政者によって庶民の暮らし向きが左右されるというのはいつの時代も同じか?

治外法権的な特殊(閉鎖的)社会における弊害、そこで生きる者の保身と郷という感情を縦軸とし、遊郭自警団リーダーと政府直属部隊リーダーの なさぬ恋を横軸に紡いで行く。そこに特ダネを狙う第三者が絡む重層するような展開。

舞台は客席寄りの前、全面を利用し華やかなダンス・パフォーパンスを行うが、横列だけではなく、客席通路を利用するなど縦横に動き回り躍動感を出す工夫が良い。通路を真白が花魁道中として通るなど観客サービスも忘れない。艶やかでスタイリッシュなダンス、そしてラストの一弥対相良純の殺陣シーンは壮絶にして悲愴、その救いのない展開に心が痛む。
少し笑ったのは、支配する法が「労働基準法」という既存の労働法の1つであったこと。仮想の地域ならば、もっと独特の法制を考えてもよかった。もう1つは、音楽(音響)に興味がある者は、生演奏する演者の姿も気になるところ。ダンス等の観(魅)せ場こそ、音楽も同調するので、その場合は目線をどちらに向けるか迷うが…。

次回公演を楽しみにしております。
WHEREABOUTS

WHEREABOUTS

ピウス

萬劇場(東京都)

2018/03/28 (水) ~ 2018/04/01 (日)公演終了

満足度★★★★★

最近、映画では見かけなくなったヤクザの世界…本公演では、ヤクザの世界をフリージャーナリストの目を通して見ているが…。ラストはサスペンス風になり観応え十分であった。この公演では、一時期人気を博した”仁侠(任侠)”映画(特定の映画会社をイメージさせるが)のような”仁侠道”ではなく、「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律 (通称:暴力団対策法)」施行後の”ヤクザ”の閉塞した状況を背景に、”男”の生き様を描いた力作。
(上演時間2時間5分) 2018.4.3追記

ネタバレBOX

セットは、1階が小料理屋、2階が竹本組というヤクザの事務所。1階店内は上手側にカウンター席、奥は厨房への通路(暖簾が掛け)、下手側は出入り口で外に暖簾が見える。店内中央と下手側にテーブル・椅子。2階は中央にソファー、その後ろは窓。桜が咲いていることが分かる。下手側に事務机が置かれている。

梗概…東京でフリーライターをしている木津。彼は十数年ぶりに故郷に帰り、辺り一帯を仕切る指定暴力団の下部組織・竹本組の黒瀬を訪ねる。木津は黒瀬からヤクザの内情聞き出し記事にしようという思惑があった。しかし、黒瀬は暴力団対策法の前に衰退気味のヤクザ世界だが、通すべき義理を感じて惰性で続けている。
一方、竹本組が馴染みの居酒屋の女将は、ヤクザと繋がりがあることを理由に地域の世話役・久保輝義から嫌がらせを受ける。これにキレた黒瀬の舎弟・久保琢磨は暴行事件を起こす。実は世話役と舎弟・琢磨は実の父子で確執があった。その結果、竹本組は警察から目をつけられ、より窮屈な状態に陥る。黒瀬は琢磨を庇うが、次第に組の者との溝が明らかになって…。

暴力団出入りを禁止するステッカーを貼る様、街世話役から要請される。しかし先代の竹本組組長の情婦であった女将・花山灯はそれを拒む。世間の良識や善意に追い詰められていく様が実にリアルに描かれる。ヤクザが生き辛くなっている閉塞状況を縦軸に、ヤクザ(組員)としての矜持、生き甲斐などが見出せない苛立ちのような心情を横軸として紡いでいく。そこに幼馴染のフリーライターが取材という第三者的な視線を交える。ヤクザ世界からのメッセージ性は感じられないが、裏社会で生きていく”男”の世界を観(魅)せる。

緊張感みなぎる演技は、公演全体を通して重厚で深みがあり、その表現力は素晴らしい。特にヤクザの世界に対峙する刑事・中越俊道(和興サン)のふてぶてしい厭らしさに凄みがある。ヤクザ、刑事という立場の違いはあっても、惰性・自堕落な生活がフリーライターの登場によって徐々に不穏な雰囲気へ変わり漂わせる演出は上手い。

次回公演も楽しみにしております。
病気だからね。

病気だからね。

冗談だからね。

OFF OFFシアター(東京都)

2018/03/23 (金) ~ 2018/03/26 (月)公演終了

満足度★★★

物語は何となく分かるが、その観せ方は演劇通、見巧者向けのようで、幅広い演劇ファンに馴染むのだろうか?という疑問が…。自虐的なタイトル「病気だからね。」は、一見「狂気だからね」の間違えでは、という印象を持つ。
表層的には、一幕を多元中継で観るような”芝居”といったところ。
(上演時間1時間30分) 

ネタバレBOX

セットは段差を設けた2つ。奥の数センチ高い所にテーブルと椅子、そこは職員が(高校)演劇を上演させるか否かを議論している。客席寄りはその演劇部が練習している所。こちらも横長テーブルに椅子というシンプルなもの。床には切り刻んだ紙クズのようなものが散乱している。

物語は、演劇部の台本が実名のため上演するのに相応しくない…という教師の会合の見解。唯一、部外者であるが、演劇部のアドバイザー的立場の者が抵抗しており、議論が続く。
一方、生徒(演劇部員)は、教師の思惑など知らず稽古に励んでいる。時々、映画「霧島、部活やめるってよ」などのパロディなども盛り込み、面白く見せようとしている。
さらに姿なき第三者的に父・母が(楽屋で?)稽古風景に突っ込み、ダメ出し等をラジオのDJ風に喋り続ける。プロンプターのようにも思えてしまう。

この3つのシーンが同時進行し、台詞は敢えて被せるかのようにしており、聞き取り難くしている。通常観るようなシンクロ・共鳴するような効果は考慮していない。それを青春期における自由奔放なやり方と捉えるか。ただし物語は何となく分かるが、観る側にとっては優しくないと思う。さらにアンケートの感想をテロップとして後ろの壁に流し続けている。全体的に落ち着きがなく雑然としている印象である。

自分はこの劇団の公演を何回か観ており、観慣らされてしまったかもしれない。一見雑然としているが、逆に伸び伸びと新鮮味を感じるところが魅力…冗談だからね。しかし、この魅力がもう少し上手く観客に伝わることが大切…これ本当だからね。いずれ「狂喜(驚喜)だからね」に変貌することを期待したい。
ラスト、アンケート箱から用紙を取り出し切り刻み、花吹雪のように撒き散らす。どんな悪評も関係ないとの意思表示か?公演全体を通してフェイクのような仕立て方である。

次回公演を楽しみにしております。
Ten Commandments

Ten Commandments

ミナモザ

こまばアゴラ劇場(東京都)

2018/03/21 (水) ~ 2018/03/31 (土)公演終了

満足度★★★★

朗読劇もしくは詩劇といった抒情性が感じられる。舞台セットや演出等はそれを意識して制作しているようだ。そこには社会と個人のあり方と関わりに鋭く問題を投げかけているようだ。その意味で、内容はもちろん観せ方は、脳内への詩劇ならぬ刺激になった。
(上演時間1時間30分)

ネタバレBOX

セットは、水中を思わせるような水色を基調(水底の雰囲気)にしたガラスの上に家庭用の白いテーブル、対面にこちらも白い椅子といったシンプルな配置である。周りは基本暗幕でそこに吊り細工のようなもの。上手側に舞台技術のセット・操作者が剥き出しで居る。また客席側に小テーブルがありコーヒーメーカーとカップが置かれている。全体的に薄暗いが、対照的に役者(操作者の上着も)の衣装は白く、場内(舞台)にコントラストを与える。

物語は、劇作家の心中を吐露するような対話の形式で進めていく。夫婦の会話では大震災後に喋れなくなった妻(劇作家であろうか?)が、原子力(原爆)は人を殺すが、劇作家としての言葉も物理的か精神的な違いはあるが人を殺すことがあると…。

心情は手紙という媒体を利用して展開する。ちなみに現代的に考えればSNS等の利用を思うが、手紙という紙(文字→言葉)媒体が作家らしい。その内容は78年前に遡り、10の自戒または訓を読み聞かせる。登場するのはアインシュタインやレオ・シラードという科(物理)学者の名前である。そして広島・長崎への原爆投下におけるアメリカ側での議論経過が披瀝されていく。熱くなりそうな議論、それを敢えて抑制するよう淡々と進めることによって本質が浮き彫りになる。原爆投下の是非を日本の学生の論議仕立てにしているようだが、アメリカと日本、自国側の立場で物事を考えた時に真実等の見方が異なる。例えば日本の原爆投下に対する思いは理解しやすいが、戦争という状況下にあってアメリカ側の早く戦争を終結させたいという考えもよく聞くところ。「科学には国境はないが、科学者 には祖国がある」といったのは、生化学者であり細菌学者のパスツールだったか。物事を多角・多様性を持って見る大切さが十分伝わる。ラスト、妻が喋れるようになり劇作家に復活(言葉)出来た様な…。これが過去(現在の原発問題「みえない雲」に象徴されるのも含め)を振り返り未来を見つめるという暗示のように思える。

全体の雰囲気はモノトーン、そしてゆったりとしたテンポである。音楽もメロディだけを奏でるといった落ち着いたものと不穏なものをシーンに応じて流す。それが抒情性を感じさせる効果でもあるようだ。

次回公演を楽しみにしております。
Alpha+

Alpha+

gravity

CBGKシブゲキ!!(東京都)

2018/03/24 (土) ~ 2018/03/25 (日)公演終了

満足度★★★★★

タイトル「Alpha+ 女祭り2018」と銘打ち、その文字通りゲストも含め全員が女性(バンドは男性)で、舞台狭しと動き回る姿はパワフルで圧倒される。
歌は聴かせ、ダンスは魅せ、トークは聞かせる、まさしくエンターテイメント公演であり、一足早い春爛漫といった華やかさがあった。
(上演時間2時間50分 途中休憩15分)

ネタバレBOX

舞台は鉄骨櫓のような2階部があり、1階奥にバンド奏者が並ぶ。両側に左右に動く階段を設え、1階と2階を行き来してダイナミックに見せる。また、舞台幕を紗幕にし、海中で歌っているかのように水玉を映し、幻想的な観せ方にするなど工夫している。
衣装は第1部が金ぴか(ラメ)で派手なもの、第2部は逆に黒というシックな色調へ変化させる。どちらの衣装も色(エロ)っぽいもので、妖艶さを前面に出している。
ちなみにメンバーはCOOL:シルビア・グラブサン、SEXY:岡千絵サン、WILD:林希サンという担当を担っているという。そして当日は、林希サンがトークをリードしていたような…。

第1部は替え歌などを盛り込み遊び心が満載、そしてトークもコント(女子会?)のようで楽しく笑いを誘い、観客の気を逸らせないところは実に上手い。第2部はしっかり聴かせるというステージへ変わる。その歌に合わせ第1、2部ともダンスパフォーマンスは力強くキレキレで圧巻の一言。そして女性ならではの”艶やかさ”も衣装と相まって上手く表現していた。振り付けの真骨頂と言ったところであろう。

このユニット(gravity)は、結成して13年という紹介があった。そしてライブは数年振りのような説明があったが、また観たい、聴きたい公演であった。
次回公演を楽しみにしております。
付物~Tsukumo~

付物~Tsukumo~

Team ドラフト4位

シアター・バビロンの流れのほとりにて(東京都)

2018/03/21 (水) ~ 2018/03/25 (日)公演終了

満足度★★★★

物念の世界…物語の展開は分かり易く、伝えたいテーマもよく分かる。また演技、特に殺陣というよりはパフォーマンスという表現が合うかもしれないが、スピードもあり楽しめた。
(上演時間1時間40分)

ネタバレBOX

舞台セットは、少し(数センチ)高くした舞台に乱杭、草花(彼岸花?)が生え、上手側に一段高くしたスペース。後ろは黒い壁を立体的に出し、その壁面にも草模様がある。全体的に怪しげな雰囲気を漂わせようとしている。

物語…主人公つくも(橘奈穂サン)は、7歳になる誕生日に祖母から貰った懐中時計が動かなくなり、それを何とか直したい。7年後のある晩、両親から”あやかし夜市”に誘われ市松人形を買ってもらう。そしてその人形がつくも(14歳)を「物念の世界」へ誘う。そこには物が擬人化した姿の者がいて、カガミ-(鏡)(石上卓也サン)がつくもが持っている時計を奪う。物念の世界にいるカガミ、ミチカゼ(花札)とその持ち札2(鶯・猪と鶴・蝶)、ナナシ(市松人形)は、人間の世界で「物」であった時、無用になったと捨てられたという思いが恨みになっている。
一方、つくもを人間世界へ戻そうと、こちらも物念-クロ(黒猫のぬいぐるみ)、カンザシ(簪)、サイ(サイコロ)、ベコ(赤べこ)が現れる。この物念がつくもと懐中時計を守って人間世界へ戻そうと戦う、という展開である。物を使うのを忘れたことと、捨てるという意識は違う。物への思いが大切という寓話的な描き方。理屈抜きに楽しめる公演である。

物語を分かり易くする演出…戦うシーンの殺陣ならぬアクションは、スピードも迫力もあるが、何より登場人物のキャラを生かした勝負にしている。例えばサイコロ勝負や花札勝負という役柄の特徴を意識した観せ方で面白い。ただ自分の好みとしてはベコ(松下芳和サン)の緩い笑い部分は、テンポが足踏みするようで、もう少し抑えたほうが良かった。

ラスト、亡くなった祖母が現れ、懐中時計が動かなくなった理由やつくもの心情の揺れ方等が明らかになる。祖母(大平栞サン)の演技は迫力の熱演だが、脚本のせいであろうが教訓臭くなったのが残念。

次回公演を楽しみにしております。
ハムレットマシーン

ハムレットマシーン

OM-2

日暮里サニーホール(東京都)

2018/03/22 (木) ~ 2018/03/24 (土)公演終了

満足度★★★★

「難解な公演」という一言。もう少し具体的に記すと、物語(展開)は在るのか無いのか理解するのが難しい。演出の奇抜さ、演技の迫力、舞台美術の大胆さを思わせる。特異な心象表現とある種の幻想表現による独特な美的感覚は自分を圧倒したが…。
当日配布されたプリントにも「『ハムレット』を下敷きにし、従来の対話を主としたドラマ形式を解体し再構築した前衛劇で、内容も難解な」と書かれている。

(上演時間1時間30分、上演前は2時間とアナウンスされたが)

ネタバレBOX

客席は1階と2階部があり、円形舞台の周りを囲うように椅子が置かれ、さらにその外周に鉄骨櫓を組んでいる。舞台真ん中を巨大パネルで仕切り2分割にしている。パネルには冒頭に映像描写が行われる。出入り口から奥の半円に男性、出入り口側の半円に女性がいる。さて半円のどちら側に座るか迷うところであるが、かろうじて両方が観られる半円と半円の境目の席に座り、Scene1と2を観ることができた。このパネルは立場・性別等の違い(差別)を表現していたのだろうか?なお、パネルは少し後に吊り上げられる。

物語は先のプリントによれば、Scene1~5迄ありサブタイトルが付けられている。
Scene1・2は「家族のアルバム」と「女のヨーロッパ」、scene3「スケルツォ」、Scene4「ブタペスト グリーンランドをめぐる闘い」、Scene5「激しく待ち焦がれながら/恐ろしい甲冑を身にまとって/数千年世紀」というサブタイトルらしきものがある。
そして出演者役柄にマシーン1、2がいるらしい。それらの展開はそれぞれ独立した、いわばオムニバスのようであるが、ハムレットが機械になって、その視点から眺めたらどうだろう。原作「ハムレット」は王室という権力側に身を置き民衆とは立場が違う。そして同時に男性社会である。Scene1.2の男と女は、ハムレットだった男1とオフィーリア1が登場することになっているが、王室(権威)対民衆または男性対女性という性差別をも意図しているようだ。本公演をサブタイトに準えて観ると、原作「ハムレット」の世界観が違った観点で浮かんでくるような気も…。

さて、シェイクスピア劇では物事を多角・多様に見ることが描かれている。例えば「オセロー」では自分を正直者に見せかけているが、実は悪党であることを明かす「私は私ではない」と言ったり、「ヴェニスの商人」では主人公が妻を迎えるために「箱選び」という試験を行い、質素な鉛の箱を選ぶ…物事は見方によって違って見える。外見に惑わされて大切な心を見失ってはいけないらしい。

最後に、シェイクスピア劇の底流にある重要なのは”心”、心の目で物事の真価を見定める必要がある。本公演でマシーンになったハムレットは、心の目がどんどん閉じられ、目先の利益といった外見だけに惑わされる人が増えてきた昨今、本当に大切なことを心の目(心眼)で見て問い直すことを伝えたいように思う。
そう考えた時、生身の人間から機械(マシーン)になって物事の見方、正しいと思う観点を変えてみることも重要なのでは…そんなことを示唆しているところがこの脚本の真骨頂かもしれない。

次回公演も楽しみにしております。
Yellow Fever

Yellow Fever

劇団俳小

d-倉庫(東京都)

2018/03/21 (水) ~ 2018/03/25 (日)公演終了

満足度★★★★

本公演、政治的に解決できない結末ではないが、その背景には当時のことばかりではなく、現代においても根深い課題であろう。
物語が感覚的に楽しめるのは、舞台美術の丁寧な造りだからである。
(上演時間1時間45分)

ネタバレBOX

全体的に立体感のある造作で、上手側に飲食店内のカウンターやBoxシート、やや下手側少し高くした探偵事務所内の机・本棚、このメイン舞台を囲むように舞台と客席の間のスペースを街路に見立てる。スラム街を思わせるようなドラム缶、木箱が置かれている。

梗概…時は1973年3月7日から3月15日は場所はカナダ・バンクーバーのダウンタウン。そこで日系二世のサム・シカゼは私立探偵を行っている。ある日、食堂で帽子の中に、何者かによって命を狙うという脅迫文が入れられた。同じく友人の中国系カナダ人弁護士のチャックから日系カナダ人の祭り「桜まつり」で「桜の女王」に選ばれた日系人クドーの娘が誘拐された事を知らされる。サムは脅迫文と誘拐事件の捜査を開始するが、徐々に驚愕の事実が明らかになっていく。その脅迫文…”迷い満月の夜”というシェイクスピアの一節が記されているという謎(怪)文が…。

「Yellow Fever -黄熱病」は、人種差別の象徴として”黄色”人種を指す。移民は第二次世界大戦時は彼の地で辛苦(日系人の退去、強制収容所への収監等)を味わった。それが戦後も続き”欧”熱病という西欧至上主義_西欧文明防衛隊なる組織が絡んでくる。表層的にはハードボイルドサスペンス劇としての娯楽性、一方当時の世相を切り取った社会派劇という深みも観せる。劇中では人種差別がクローズアップされるが、エリート、労働者という階層差別、その他色々なアイデンティティを持った人々を捉えた広がりがある。その多くの人によって街が形成されていることを示唆している。その象徴が食堂_生の象徴である食事処かもしれない。何しろメニューにお茶漬け、月見うどん等が見える。

演出は硬質になったり、コミカルになったり硬軟自在に操り、物語に引き込まれる。先の人種差別の問題は物語の面白さの中に垣間見せるが、その問題を先鋭化して取り上げていない。むしろ直接的な糾弾よりは効果的・印象的な観せ方にしている。
次回公演も楽しみにしております。
ロミオとジュリエット=断罪

ロミオとジュリエット=断罪

クリム=カルム

スタジオ空洞(東京都)

2018/03/20 (火) ~ 2018/03/25 (日)公演終了

満足度★★★

恋愛の代表的な演劇…シェイクスピア「ロミオとジュリエット」はあまりに有名。多くの劇団、劇場で上演され、映画化もされており多くの人が物語の内容を知っている。そんな劇を独特な潤色・演出することは難しいかもしれないが、それでも観点を変え観(魅)せようと試みている。どの公演でもそうだと思うが、本公演でも原作に独自の新解釈を行い演出・表現をしようとしており、逆にそうすることによってどのような多様性にも耐えられるシェイクスピア劇の奥深さを感じさせてくれた。
(上演時間1時間40分)

ネタバレBOX

舞台を挟んだ客席。セットは中央舞台に客席に向かって横4列、縦(奥)3列の電球が上半身に当たる高さまで吊るされている。舞台の周り(客席との間も含め)を赤い厚布地が敷かれており、そのスペースでも役者は演技する。セットはシンプルであるが、内容は「イタリア・ヴェローナの対立する名家の若い男・女が熱き恋に落ちる悲しい物語」として有名であり、素舞台に近い状態であっても、その情景をイメージすることは出来る。本公演は観客のイマジネーションに負うところが大きいと言えよう。

物語は原作を下敷きに、それでもロミオを巡り、親友同士のジュリエットとロザラインが三角関係になる。ロミオは当初ロザラインに恋したが、ロザラインには恋人がいたためロミオは失恋した。その後ロミオがジュリエットと恋仲になり、ロザラインはロミオの本当の人柄を知るに至り恋焦がれるようになる。ロザラインの前恋人がロミオの友人という混線するような人間関係を作り出す。また司祭が女性であることも特別の意味合いを持たせている。

純愛というよりは嫉妬に狂った男と女の愛憎劇。もちろん結末も変えているが、それでも両家の争いに終止符を打つことになり、この公演(脚本・潤色)の巧みさをうかがい知ることができる。

全体的に抒情性が感じられる観せ方、具体的にはライトの点滅による陰影が幻想的な視覚効果を生み、印象付けするところは上手い。一方、演技は役者がその人物像なりに十分成りきれていないのが残念であった。

次回公演を楽しみにしております。
猫の夢をみていた

猫の夢をみていた

演劇ユニットastime

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2018/03/21 (水) ~ 2018/03/25 (日)公演終了

満足度★★★★

死にゆく者の怖れと未練、残された者の悲しみ寂しさを抒情豊かに描く。話は分かり易く観客の気持にスッと入ってきそうな展開である。悲哀は「雨」という涙で濡れていることで表現し、それを不思議な照明効果で観(魅)せていた。
(上演時間2時間)

ネタバレBOX

セットは3層、両側に2層部への階段、2層部は病院の中庭といった感じで、ベンチが置かれている。さらに3層部へは下手側に階段があり、そこは黒紗幕で照明を当てることで病室内であることが分かる。1階部がチラシ説明にある居酒屋イメージで横長テーブル、Box椅子が3つ並んでいる。

物語は3家族の「生」と「死」を見つめたもの。”泣かせる”ことが始めから分かる公演。話の1つ目はチラシにあるOLみなみ(古根村アサミさん:脚本担当)が居酒屋で後輩のタツと飲んでいる時、後輩の前の職場の上司カズ(橘宗佑さん)と出会う。カズは余命わずかなようだ。2つ目はタツの妹が交通事故に遭い脳死状態になっているが、その現実を受け入れられず、頻繁に病院に行く。3つ目は医者トットリ(今氏瑛太さん:演出担当)が死んだ妻を忘れられず、娘から自分を見ていないと心(母への嫉妬)を閉ざされている。これらの話が交錯してセットと同様、重層的に観せようとしている。そしてそれぞれの思(想)いを猫の目を通して見る。

全体的に死への怖れや生への執着が感じられず、いわば美しい絵画的な構成で感情移入が今一つ。淡々とした口調は、既に死を受け入れた諦念を思わせる。物語としては、”アナタを忘れたくない心通う”の謳い文句通り、心に残るしみじみとした内容だけに勿体無い。台詞も「サヨナラは(簡単)に言えない」や「人の(心臓)を貰ってまで生きる価値があるのか」という生へ真摯に向き合うような、そんな心に響くものがあるだけに…。

「雨」の表現は、照明(波紋、流線型)効果で柔らかく優しく描き(「猫」の表現を借りれば”あたたかい雨”)、その余韻・印象付けは見事であった。

次回公演を楽しみにしております。
秘密公表機関

秘密公表機関

劇団あおきりみかん

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2018/03/16 (金) ~ 2018/03/18 (日)公演終了

満足度★★★★★

東京公演の初日観劇。
特殊な秘密を持った者たちが、いい感じに秘密を公表するのを助ける物語。それを緩く笑える観せ方(ネオ・オムニバス)にしているが、底流にある研ぎ澄まされた人間観察は見事である。
誰もが共感出来そうな人間ドラマは、緻密で繊細な脚本、ポップで大胆な演出で紡ぐ秀作。
(上演時間2時間) 終演時、ネタバレには留意してほしいと(後日追記)

ネタバレBOX

セットは、中央に少し高くした平台。そこにテーブル、対面に椅子があり、その奥にスクリーンのようなものがある。チラシにあるような構図である。5話は基本的に同じセットで、特殊秘密公表部(通称:SPS)と特殊能力保持者の対話。各話に応じてセットや小物が運び込まれ分かり易く観せる。この展開がオムニバスのように展開されるが、ラストは全体を繋げるシチュエーションが明かされる。

物語は、特殊能力保持者の能力を聞きながらも、徐々にその能力の持つ潜在的な悩みが打ち明けられる。その光景は精神科医が患者の悩みを聴くようなイメージ。例えば…(後日)
第10回公演『オールド・フランケンシュタイン』

第10回公演『オールド・フランケンシュタイン』

唐沢俊一ユニット

小劇場 楽園(東京都)

2018/03/14 (水) ~ 2018/03/21 (水)公演終了

満足度★★★★

突拍子もなくハチャメチャな物語かと思ったが、しっかり収束させてくるホラーコメディは面白い。冒頭に何気なく流れてくる音声(馴染みの「指令」のテープ音)を聞き逃すと、その面白さは伝わり難いが…。
(上演時間1時間30分)【オールド・フランケンシュタイン】

ネタバレBOX

舞台は基本的に素舞台。板には変形曲線(池のような)縁取りをした部分があるが、それは背景になる地中海にあるフランケンシュタイン島をイメージさせるものであろうか。劇場出入り口の対角上に森林を描いた紗幕がある。

物語は島の領主・フランケンシュタイン男爵が亡くなり、その遺産相続を巡る身内や島民の思惑、同時に男爵が研究していた成果物を奪う、その交錯した展開を面白可笑しく観せる。島での暮らし(経済的)は恵まれているらしいが、島外に出ることが許されず、ある種の閉塞状態を強いられる。唯一、10年前に孫娘が島外へ出たことが例外であるが…。祖父・男爵の葬儀のため帰島してくるが、その容姿は相当変わったらしい。遺産は弁護士事務所で管理しており、遺言書を持って来ると言う。
遺産や研究成果を巡る話に絡んで、島民または孫娘も巻き込んだ恋愛騒動が起きる。島内の人々は少し変わっている、そんな人物紹介の仕方である。例えば、宿屋の女将は盗みの常習、同じ台詞の掛け声を発する男、そして色情狂者。どこか人間的な欠陥があるような、この描きが男爵の研究と繋がってくる展開は巧み。

アドリブなのか演出なのか判然としないが、いたる所で笑いの小ネタを仕込む。例えばストリート・ダンス、ものまね、ショートコントなどである。この小ネタが頻繁に物語の合間に入ってくるが、その挿入意図は分からないが楽しめた。

さて、物語は研究成果を狙って某国が暗躍(冒頭のテープ「スパイ大作戦」が伏線)し、島にスパイを送り込む?。それが以外な人物。スパイの登場に伴って島民全員が男爵の造った人造人間であることが明らかになる。男爵は不完全さを解消する、欠陥を直(治)すための実験を行っていた。公演ではフランケンシュタイン=人造人間=不完全と分かり易く描いているが、そもそも完全な人間などいない、という当たり前で難(かた)い話をコメディとして楽しませる。
孫娘が人造人間であっても成長(容姿の変化)したり、そもそも男爵は独身であったというオチがあることから理屈で観ても…。

次回公演を楽しみにしております。
廃墟

廃墟

ハツビロコウ

シアターシャイン(東京都)

2018/03/13 (火) ~ 2018/03/21 (水)公演終了

満足度★★★★★

一幕の濃密な会話劇。台詞の応酬は迫力があり圧倒される。戦後1年という混乱期であるが、日常の生活は足元にあり、当初交わされる会話は淡々としている。家族が食卓を囲むが、団欒の場でそれぞれの主義・主張、心情が吐露されるにともない、物語は最高潮に達したその先にある出来事は...。
(上演時間2時間)

ネタバレBOX

舞台は中央に木製の横長テーブルと椅子、そして裸電球が吊るされている。上手側に木机、下手側は低位に囲った衝立の奥に、粗末な炊事場のようなもの。上手・中央・下手のセットの下に穴がある。この部屋は遠戚に借りているのか、自宅なのか判然としなかったが、いずれにしても屋根裏という設定である。
防空壕を掘ったのは自分であり、それを埋めるのも自分の責任である。空襲で焼けた家を建てた時の建築費の取立ての場面もあるが、台詞に遠戚から借りているともあった。屋根裏、その「廃墟」のような所が、当時の日本人の心、日本という国そのものを表しているようだ。この場所同様、日本(人)の拠り所は、敗戦という混乱期にある仮の姿(錯乱)なのか、自宅という屋台骨(魂)も燃え尽きたのか。

父、長男、次男とその妹、その4人がそれぞれの立場で主義・主張を言い張る。4者4様の思いは当時の日本人が思っていたことを代表しており、それは現代にも通じるところがある。父は大学の(日本)歴史学者であり、自分も含め戦争回避出来なかったこと、無作為で知らず知らず戦争へ向かわせてしまった自責の念にかられている。そして闇市の食料は食さず栄養失調になっている。長男は脱資本主義(左翼思想)を掲げデモを計画しており、戦時中は反政府活動のため投獄されていた。自分達だけが反戦活動をしていた良識人と思っている。理想を唱えるが、日々の生活費は微々たるものしか入れない。次男は父、兄のように未来展望を描くのではなく、日々の生活の糧を得るため闇市から物資を調達している。粗暴な振る舞いなど刹那的な生き方である。妹は父、兄達の激論に嫌気がさし、家族仲良くという事なかれの哀願をする。相互に批判し合う姿は、日本(人)の混沌とした状況を映し出す。

物語は国家観の違いという骨太な内容、それを緻密なプロットと濃密な会話で描いているが、一方、個人的な恋愛感情を持ち込むことによって社会(国)と人間(個人)という観点の異なる出来事を同一場面で表している。色々な事柄を綯い交ぜにし収拾がつかないことが、当時の混乱を表しているようで観応えがあった。

基本は会話劇であるから動作(演技)が限られるが、穴を利用し出入りさせることで立体感を出し単調にしない、また電球のヒューズ交換という照明効果を入れるなど演出も上手い。そして議論(激高した怒声と観るか、力み過ぎと捉えるか)が高じ、最終的には暴力という人間の本性が露になるような...。

次回公演を楽しみにしております。
闘争・オブ・ザ・リング

闘争・オブ・ザ・リング

カラスカ

上野ストアハウス(東京都)

2018/03/07 (水) ~ 2018/03/12 (月)公演終了

満足度★★★★

タイトルはパロディで、さらにシチューエーションはある漫画を連想させるなど喜劇風。物語の展開は分かり易く、気張らずに観られる公演である。
(上演時間1時間50分)

ネタバレBOX

舞台は島根県の山奥にあるシャインホテル? セットはその館内で中央に赤いカーテン状の布、上手側に暖炉・薪、剣斧の壁飾、下手側奥に絵画、客席寄りの一部はレンガ壁。全体的に瀟洒なイメージに作り込んでいる。冒頭、山ノ内家に代々伝わる指輪...その不思議な「力」の話をする祖父と孫。ちなみに父はその不思議な「力」に屈したという。その指輪を持つと異性を惹きつけるという。 その「力」を利用し3年以内に結婚相手を探すことが跡取りの条件になっている。この結婚話とホテルのイベントを絡めドタバタ騒動が起き、無事意中の人と結婚出来るのか。

物語にそれほど強いメッセージ性は感じられないし、脚本・演出の江戸川崇氏も同様ではないか。観て楽しめる、それを主とした公演であり、自分では十分面白かった。話は不思議な「力」によって異性に好かれるが、自分が真に好きな人の心を繋ぎとめられない。言い寄ってくる女性の異様な目の光、そんな中、普通に接することが特別なことに思える。そこに無理のない自分を見出すことが出来るというオチ。それまでは、選り好みする男の弱さ、狡さが透けて見えている。本命の女性からの一言...積み上げてきた2人の記憶が大切という訴えが決めてとなる情けなさ。これは女との戦いか自分自身への試練か、いずれにしても「闘争」には違いない。

他方、ホテル活性化のため、従業員が勝手にイベントを催してしまう。今流行りのネットゲームのキャラクターのコスプレ。有名なゲームユーザーを招くが、このゲームは動物がアイテムらしい。そのコスプレ衣装と人間の取り合わせが、アニマルヒューマンという台詞として印象付ける。その演技を若いキャストが軽快でテンポ良く体現し、心地良い展開にしている。

最後に、話のシチュエーションは本宮ひろ志氏の「俺の空」を連想する。公演は3年以内に花嫁を探すという条件であるが、その知り合った過程が描かれない。先に記した”2人の記憶”という部分が分からず、台詞だけの説明では説得力に欠けるようで勿体無かった。コスプレ・イベントのシーンをもう少しコンパクトにまとめても十分楽しめるのではないか。

次回公演を楽しみにしております。
ロミミ_The W edition_

ロミミ_The W edition_

はちみつシアター

ザ・ポケット(東京都)

2018/03/07 (水) ~ 2018/03/11 (日)公演終了

満足度★★★★

芝居、歌、ダンスで観(魅)せるエンターテイメント作品。公演は、物語と歌・ダンスという2部構成のように思ったが、パフォーマンスの先に物語の魅力が隠されているような演出は巧み。
出演者が全員女性で華やかであるが、一方、女性の厭らしさ、面倒臭さという台詞に表されるような女性=人間らしい感情を強調させ物語を面白くする。
(上演時間2時間20分)【ステージミラクル】

ネタバレBOX

左右対称の階段状の舞台。その立体化した空間に魔法という非現実的(虚構)の要素を持ち込むが、そこで展開される物語は地に足を着けた現実に生きる人(OL)を鮮やかに描き出す。

梗概…海岸沿いの街にある電機メーカーで働くOL。主人公・アラヤン(小山まりあサン)は営業宣伝部に勤務しているが、不器用で仕事は今ひとつ。そんな中、会社では新製品の宣伝という仕事をアラヤンなどの落ちこぼれ軍「チームメトロ」に任される。
そしてアラヤンがリーダーに指名され、戸惑いながらも一生懸命チームメンバーに働きかける。一方、スーパーエリート軍「チームスカイツリー」は大激怒し協力もしてくれない。そんな時、掃除のパートが”給湯室のポットには、秘密がある”という不思議な話をする。そしてポットに触れた瞬間、その先から魔人、魔人ウーマンが現れ「お前の願い…(3つ)叶えてやる」という。アラヤンが願った3つとは、リーダーシップ、チームが仲良く、そして最後は…。

組織(会社)として新製品の宣伝と個人として同期入社のジャスコ(氏家康介サン)との分かり合える関係を持つこと。この2つを交錯させて物語に厚みを持たせている。新製品の売り出しにイベントを催す、それがダンスという魅力的な観せ方になり劇中劇のような演出にする巧みさ。

ハッピーエンドという予定調和を思わせるが、ラストは大地震が起こり崩壊した職場から同僚を助けたいと、その願いが3つ目になる。しかしアラヤン自身が…。アラヤンは別のところへ行ったが、自然や現実と異なる時空で一緒にイベントに参加している姿を見ると、少しホッとする。
物語同様、衣装なども おちこぼれ「メトロチーム」はスカート、スーパーエリート「チームスカイツリー」はパンツ姿として分かり易く観せる工夫をするなど細かい演出がうれしい。

最後に虚構の世界を描く公演は、夢のようなものだが、人は現実に生きていくことを直視させることによって、生き延びよと言われているようだ。
次回公演を楽しみにしております。
ラストステージ

ラストステージ

A.R.P

小劇場B1(東京都)

2018/03/02 (金) ~ 2018/03/06 (火)公演終了

満足度★★★★

故郷がダムの底に沈むことになり、最後の祭りに地元出身の地下アイドルを招きイベントを…。物語は順々に経過し分かり易い展開である。
当日パンフに脚本・演出のA・ロックマン氏が「おそらく下北沢で一番メッセージ性も訴えたい事もない、ただただ楽しい作品」と書いているが、自分にはメッセージ性云々は別にして楽しめた作品であった。
(上演時間1時間40分)

ネタバレBOX

劇場の特徴として2方向から観る舞台。基本的に物語を紡ぐ時は、故郷の酒場内イメージでテーブルが置かれ、ダンスパフォーマンスの時には素舞台にする。簡単な舞台転換であるが、時間の流れと同様、展開も分かり易い。

居酒屋の2人姉妹、姉の桜(沖なつ芽サン)は地元で結婚し、妹の桃子(針尾ありさサン)はアイドルを目指して上京していた。今、地下アイドルとして活動しているが、人気は今ひとつでアルバイトで生計を立てている。この姉妹はあることが原因で喧嘩をし、何年も会っていない。そんな中、故郷がダムの底に沈むことになり、地元の祭(オオダワ神社?-恋愛成就の神さま)に桃子たち地下アイドルを呼んでイベントを催すことにしたが…。その資金集めにクラウドファンディングを利用することにしたが、そこに絡んだ詐欺まがいの騒動が起きる。

物語は予定調和のハッピーエンドであるが、その観せ方が見事。ダム底に沈む故郷を、祭りを通して確かにそこに住んでいたという思いを胸深く刻み込ませるような描き方である。その喜びをダンスパフォーマンスとして表現しているようだ。
「頭空っぽで見られるノンストップ・フルスイングコメディー」、その謳い文句の通り笑い笑いで楽しめた。

次回公演を楽しみにしております。
スナック玉ちゃん

スナック玉ちゃん

株式会社BATON

中目黒キンケロ・シアター(東京都)

2018/03/01 (木) ~ 2018/03/05 (月)公演終了

満足度★★★★★

泣き笑いの物語、その観せ方は歌・ダンスを取り入れ視聴覚を刺激する典型的な大衆演劇といった感じで、心地良く楽しめる。舞台セットは、雰囲気も含め見事に作り込んでおり、物語は同一セットの中で時間を操り、現在と過去を行き来させ立体化している。演技はスナックという場所柄、そこの常連客などの会話を生き生きと紡いで行く。
(上演時間2時間10分)

ネタバレBOX

スナック「玉ちゃん」の店内、上手側にBoxシート、奥の壁が開き生演奏が聴ける。下手側はカウンター、スツールが置かれボトル棚等も設えてある。店内のカラオケシーンは客席へ向かって歌うが、舞台上は壁であり、なぜ壁に向かって歌うのかという笑いネタを仕込む。演劇でいう”第四の壁”(専門的な意味ではなく)を乗り越えて観客と一体となった楽しめる公演を意識しているようだ。その証に観客も舞台に上がりカラオケを披露する。

この店のママ(川上麻衣子サン)とその娘の15年(娘が10歳-小学校5年生と現在24歳-教師…母親への反面教師というシャレか)に亘る蟠り、それぞれの気持が痛いほど伝わる。夫が早くに亡くなり、女で一つで娘を育てる苦労。娘は母が学校行事にも来られず、学校で苛められる辛い思い。母娘の確執ため何年も会っていない。その娘が結婚することになり、彼氏が母親(スナック・ママ)に興味を示し、交際しているという素性を明かさず店に通う。店の常連客の心温まる会話や歌謡曲(カラオケ)が、仕事の疲れを癒すよう優しく包み込む。その雰囲気がすっかり気に入った彼氏がいつの間にか母と娘を取り持つような…。継母ならぬ「ママ」と「ハハ」という二重の愛情で包まれて育っていることを知る。
女は咲き続けること、単に生(は)えているだけでは生きている証にはならない。一生懸命に生きること、それがこの公演の隠れテーマでもあるようだ。

物語は、スナックで酔い潰れている母に向かって小学生の娘が「お母さんなんて大嫌い!」と叫ぶところから始まる。この小学校時代から15年を経た大人になっても許せない気持ちでいる。「スナック」の扉の向こうには歌が聞こえ、愛があり、お客さんはママが大好きだった。その彼女が結婚することになり…。2人の確執理由は、過去と現在を往還させ丁寧に描き出(心情描写)していく。

スナックのママ、従業員そして常連客も皆カラオケが上手い。さらに独特なパフォーマンス(「自衛隊での匍匐前進のバージョン」や「落語」等)で観客を魅了しつつ、従業員の訳ありトラブルも盛り込みいくつもの見所を作る。その意味ではエンターテイメントと言えるかもしれない。
こんなスナツクが我が家の近くにあれば常連客になるだろうな~、と思わせる温かい公演であった。

次回公演を楽しみにしております。

このページのQRコードです。

拡大