タッキーの観てきた!クチコミ一覧

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盆がえり

盆がえり

演劇集団よろずや

高田馬場ラビネスト(東京都)

2019/09/14 (土) ~ 2019/09/16 (月)公演終了

満足度★★★★★

2005年と2016年の劇団転換期に上演しており、今回は3都市での公演を実施しているという。再演を繰り返していることから劇団の自信作と思われたが、まさにその通り観応えがあった。舞台は広島県世羅郡であることから、台詞は広島の方言で本当にその場所に居るような感覚になる。第2の故郷が広島県である自分には、懐かしく郷愁を覚えるほど上手な喋りであった。
「盆がえり」…広島公演を皮切りに今の時期(8~9月)に相応しいタイトルと内容は、心に染み入るような物語。3姉妹が抱える問題や確執を、地方(地元)暮らし都会暮らしの悩みに絡め、親戚や幼馴染という身近な人々との関りを交え淡々と描く。同時に祖先の霊を祀るというお盆という風習に絡めたちょっぴり不思議でジ~ンとするような出来事が…。
東京公演が4公演しかないのが残念だ。
(上演時間1時間30分)

ネタバレBOX

舞台は、広島県世羅郡にある築100年の古民家。セットはその離れの和室(今は物置として使用)。要らないものを整理しているらしくダンボールが積まれている。そして盂蘭盆会らしく盆灯篭が天井四方に吊るされている。

梗概は、実家を継いだ三姉妹の次女・美佐(鈴木ありさサン)が、新婚の夫と共に初めて迎える「お盆」。東京でキャリアウーマンとしてバリバリ働いている長女・枝実(竹田朋子サン)、市内の大学で助手として研究者の途を歩み出した三女・希梨(山口晴菜サン)、そして次女の夫・亮治(赤穂神惟サン)は、慣れない土地で何とか溶け込もうと努力している。それぞれがいる場所や立場で一生懸命生きている。この地も決して便利ではなく(「スーパーが8㌔先に出来た」という台詞)、それでも何となくこの地を離れることが出来ない。そして幼馴染の言葉によれば、両親の姿を見ていれば将来の自分の姿が見える、という。先祖の墓守をするというが、逆に諦念とは違う意味で祖霊信仰の影響を思わせる。

再演を繰り返していることから、3姉妹の悩み、確執はこの劇の見所であるため伏しておく。ただ、描かれている悩みや確執は地方のそれも山間部にある古民家という土地柄だけではなく、都鄙関係なく持っている感情ではなかろうか。むしろ土地柄は夫がこの地の方言をはじめ農作業など慣れない暮らしに見えてくる。そして好きなことを諦め家業を継ぐ継がないの話題を幼馴染がさりげなく語る。この人の機微と暮らしの描き方が実に上手い。お盆の風習を通して美佐、亮治の夫婦としての愛情の確認も出来た貴重な経験、ここに肉親ではない人との関わりを観せる。

演出は、衣装の使い分けが好かった。冒頭、美佐がデニム短パンで夏らしい時季感を表し、希梨が農作業のため もんぺ姿、枝実はキャリアウーマンらしいスーツ姿で帰省。それが祭りへ繰り出すために浴衣姿へ。この姿によって抒情感を醸し出し、ラストのこの時期ならではの不思議な出来事...余韻付けが巧い。もちろん蝉、祭囃子のような音響効果、淡い照明色を諧調させ「お盆」という雰囲気を安定的に演出する。そして演技は本当の3姉妹のようで、夫はその姉妹に振り回されつつも、感謝される貴重な存在を上手く演じていた。
劇団の転換期に上演しているとあるが、劇団にとって今がどのような時期か分からないが、ぜひまた観てみたい公演だ。
望むツキに想ひをヒメて

望むツキに想ひをヒメて

メグルキカク

テアトルBONBON(東京都)

2019/09/11 (水) ~ 2019/09/15 (日)公演終了

満足度★★★★

現実とバーチャルゲームの世界を往還しながら、人の生き方に一石を投じるような公演。さてバーチャルゲームで展開する内容は、タイトルから推測できると思うが「竹取物語」である。人はいつかは死ぬ。しかし特別な状況下ではない平時では、いつも死を意識して生きている訳ではないと思う。だからやりたい事もいつかやろう、という優柔不断というか先延ばしにしている。そんな”後悔”を現実と仮想の世界を行き来しながら面白可笑しく描いている。緩い感じもするが、自分は好きである。
ところで、少し意地悪な観方をすれば、生き甲斐というか夢を現実路線に方向転換したことによって物語が動き出したように思うが…。
(上演時間1時間50分)

ネタバレBOX

セットは中央に変形階段、階段上部には上手側は暗幕で満月を投影し、下手側は更に階段が続く。階段下(板上)は、上手側に竹簾の衝立、そして畳敷きの別スペースと天体望遠鏡。下手側はかぐや姫の住まい格子戸。階段続きにし高さを強調しているのは富士山を表わすと同時に、天上界をもイメージさせる。階段にある橋欄干は朱塗りで時代を感じさせる。セットそのものが竹取物語が書かれた平安時代と現代、そしてバーチャルな世界を象徴するような作りである。暗幕を利用した豆電球の点滅は夜空の星々である。

さて現実は決められた、いわば運命のような世界であり、バーチャルゲームは、プログラム・AIによって制御された世界、どちらも抗いきれない事を突きつける。その定められた世界にあっても、自分の思いは生きている。結果・結論は決まっていても、その過程での自分のやりたい事の意思は働く。やりたい事=後悔しないことは、生き甲斐であり、夢であろう。物語は主人公・中丸陽介(竹内尚文サン)が恋人のため又は自身の才能のなさから小説家になることを諦める。そのことが富士山での滑落事故を起こすいう皮肉を込めているように思えるのだが…。

物語の全体構成は面白いが、バーチャルゲームの「竹取物語」が今に伝わる伝承の内容通りで新鮮味がない。登場人物の名前も同じで、死に際の人が、思いの丈を言い残すために単に「竹取物語(一部 ヒーローショーのような)を借用したように思える。
自分は、現代的なバーチャルゲームを創作し、現実世界と往還させることで既視感がなくなり空想の世界観が広がると思うのだが。とは言え、生死の狭間を往還するという見慣れたパターンではなく、現実と仮想の世界を交錯させるところに現代的な感覚を覚える。
次回公演も楽しみにしております。
半ライスのタテマエ

半ライスのタテマエ

Sky Theater PROJECT

「劇」小劇場(東京都)

2019/09/11 (水) ~ 2019/09/17 (火)公演終了

満足度★★★★★

三世代、20年以上に亘る長い時間軸の日常を坦々と描いた物語。幸せは身近な足元にあるが、それをなかなか実感として捉えられない。当たり前のような日常がいつまでも続くと信じているが...。ラストの謎明かしは、家族との関わりをしみじみ思い、考えさせる感動シーンだ。
本公演、半ライスどころか大盛ライス、それもとても美味しく満足できるものであった。
また舞台美術が格子戸、障子桟のみといった枠ものが周囲の壁に掛けられている。しっかり作り込まないことによって、長い時間軸の情景を固定させず、一方、人が持っている変わらぬ優しさのようなものが枠の間から観えるようで実に巧い演出だ。
(上演時間1時間50分)2019.9.13追記

ネタバレBOX

セットは先に記した枠囲いを回りに配置し、中央は木製の大きさが違うテーブルと椅子が2組。その木目が人の温もりを伝えるようだ。もちろん小物も時代間隔を表すため携帯電話からスマホに変わる。セットは時と状況によって宮坂家や梅澤家、そして高校の保健室に変わる。登場人物は1役1人で20年に亘り、年代に応じて心情の変化を演じる。そして基本的には善人ばかりである。

この物語は、2001年に上演した作品に大きく加筆し、元々は4編の短編の登場人物の何人かがまたがって登場する構成のTVドラマに影響を受けたという。そういえば、宮坂家(教員)、井上家(寺院)、梅澤家(蕎麦屋)が中心になり、宮坂家の嫁やその元彼と今の同棲相手が何となく絡んでくる。冒頭は蕎麦屋の常連で近くの公園で運動会を計画し、というエピソードから始まる。地域密着で、そこに暮らす人々の日常をそっと観ているような人情劇。

「死ぬのが嫌」が口癖だった教頭先生・宮坂幸太郎(宮坂家の父親)が余命半年を告げられた時、井上里(寺住職)が残された時間を家族と有意義に過ごすよう話す。それに対し、今更の思い出作りよりは...。その半年の間に行ったことがラストの感動シーン(ハガキの謎解き)に繋がる。今を生きる自分よりは、残された人生を家族、まだ見ぬ家族(孫)への思いを託すようなエンディングノートならぬエンディングレターのようだ。

この公演、自分の近くにも居そうな普通の、いや少しヘンな人たちの坦々とした暮らし。その小さな喜び幸せ、人との繋がりが、日常を忙しく生きる自分にとって演劇という非日常で癒された。
次回公演も楽しみにしております。
人生のおまけ~Collateral Beauty~

人生のおまけ~Collateral Beauty~

演劇企画イロトリドリノハナ

シアターKASSAI【閉館】(東京都)

2019/09/05 (木) ~ 2019/09/09 (月)公演終了

全体的に優しく心温まるような、森下知香女史らしい作品である。
ただ定年退職後のおまけとしては、結構羨ましい第2の人生だと思う。それゆえ、何となく現実味に乏しく”願望”といった印象を受ける。物語は退職後の空虚感、所在無さといった無為徒食の状態を省略し、生き甲斐を見つけ活動し出したところから始まる。それによって家族にざわめきが起きるが…。
(上演時間2時間) 後日、★数と追記

ネタバレBOX

「現代国語」が専攻だったという校長先生の退職年齢は、60歳(公立学校)だろうか。物語では66歳という設定であり、ドロールマスターの「昨年に定年」という台詞からすると定年退職後、再任用・嘱託等で教員を続けたのであろうか。退職直後の心情がほとんど描かれないため、その悲哀らしきものが感じられないのが残念。唯一描いているとすれば、元妻との会話で出てくる年賀状の話(枚数)くらいである。物語は、人生の”おまけ(生き甲斐)”を直ぐ見つけ、それにどう取り組んで行くかという途中省略の完成形のように思える。自分としては、退職を機に本人の第2の人生-生き甲斐を見つける迄の心情変化、家族(娘たち)との関わり方、更に熟年離婚、特に退職を機に離婚した理由など過程形を描いてほしかったが…。
とは言え、
以降は後日追記
昭和歌謡コメディVol.11〜ツキジーヒルズ青春ハクション〜

昭和歌謡コメディVol.11〜ツキジーヒルズ青春ハクション〜

昭和歌謡コメディ事務局

ブディストホール(東京都)

2019/09/05 (木) ~ 2019/09/08 (日)公演終了

満足度★★★★

新シリーズのタイトルは、アメリカのTVドラマ「ビバリーヒルズ青春白書」のパロディだろう。このドラマが放映されていた1990年から2000年頃という時代、日本でも青春歌謡が流行っていた。
第1部は学園シリーズ第1弾ということで、このクラスのメンバー紹介を兼ねた展開。学園ドラマということもあり、新しく4人のキャストが加わり賑やかさを増す。そして新任教師の江藤博利さんが提案するダンス甲子園出場が、第2部へ引き継がれる。新たに1部と2部を連携させる工夫が面白い。
自分が観た回は大盛況で、劇場座席だけでは足りなく後部壁に沿って椅子を置いて増席していた。この第1部ドラマネタと第2部の歌謡曲を知っているか否かで楽しみ度が違うかもしれないが、自分はまさにこの世代であるから十分堪能した。

(上演時間:1部45分、2部1時間、途中休憩15分含め2時間)

ネタバレBOX

第1部「ツキジーヒルズ青春ハクション」
新シリーズは築地の私立高校「築地が丘学園 」を舞台にした学園コメディ。第1弾であることから、各キャラクターの紹介場面が中心。教師になるため苦節30年の熱血教師_江藤博利サン、マドンナ教師_白石まるみサンなど11名を順々に面白可笑しく紹介する。ソバ屋シリーズのお決まり展開が今後学園ドラマではどのように描かれるのか楽しみ。

第2部「歌謡バラエティショー」
今回は学園ソングが多く、軽快な歌謡が楽しめた。また新キャストに元NHK少年ドラマシリーズに出演していた女優、子役デビューし芸歴がながく舞台経験も豊富な女優、長渕剛のモノマネをする芸人、〇〇星から来たアイドルなどが参加しており、今まで以上にパワーアップした歌謡ショーであった。

いつも通りのペンライトを振り、紙テープを投げてその昔の青春時代を謳歌した。今回は学園ソングも多く、会場の観客の多くが口ずさんでいるのが見え聞こえた。
当日パンフの江藤座長の「もっと、もっと、もっと『笑い』『歌』で、元気を届けたい!」の思いは十分伝わる内容であった。
次回公演も楽しみにしております。
中年の歩み『紅白』

中年の歩み『紅白』

第0楽章

SPACE EDGE(東京都)

2019/09/07 (土) ~ 2019/09/08 (日)公演終了

満足度★★★★

物語は、家族の「老い」「介護」への向き合い、そこに地域事情を足枷のように加重させて観客に問う。あなたならどうしますか?その難問度合いは、その人が置かれた状況によって異なるであろうが、事件・事故死等を除けば現実にある問題。公演では直接的な答えはなく、観客に委ねられたままであるが…。
物語は年末から年始にかけての数時間、兄弟姉妹による濃密な会話劇。そこに地域住人が絡むことで第三者の目をもって家族の身勝手、自己都合といった不誠実な姿が浮き彫りになる。
タイトルの『紅白』は年末歌謡番組を示しているようだが、公演の印象は「黒白」といった弔事的なもの。本公演は、観る年代(中年の歩み)によって受け止め方の深刻・切実度が異なるだろう。
(上演時間1時間35分) 2019.9.13追記

ネタバレBOX

セットは少し高くした台座のような所の中央に炬燵、そしてTVが置かれているだけ。もっともこの会場全体の構造を最大限活用し、階段の昇り降りや上手・下手にある扉からの出入り等、会話だけに終始せず動作でも緊迫感を生む。

公演コンセプトは、「中年による中年に向き合う3年間。中年の悲喜を見つめる」というもの。地方都市で営んでいる森餅店を舞台とし、父親の介護と中年になった自分たちの将来を心配し始める。親の介護をする世代、介護される世代にとっては胸が締め付けられる、少なくとも ざわざわする気持になる。公演の面白さは、人物の置かれている状況を鮮明にし、それぞれの関係に十分な軋みを与えている。それによってこの状況下、いわば八方塞がりから逃れることが出来ない。まさに現実問題から目を逸らせられないという緊張感を生む。

長女は40歳過ぎで生保レディに転職せざるを得なくなり、次男は東京でバイトの靴職人、次女は森餅店に居候か、そして三男は引き籠り。さらにこの店は事故物件のようで売りに出すことが出来ない。店は架空の無士山の近く、無士宮市にある無士宮商店街にあるが、今はシャッター通りと化している。全てにおいて閉塞状態、今は意識はあるが寝たきり状態の父親、かつては暴君のような父の面倒を誰も看たがらない。ここに公演の凝縮された現実が提示されている。芝居であるから演劇的な結末の観せ方はするが、公演そのものに答えは用意されている訳ではなく、観客自ら考える。

父親は登場しないが、時々に呼び鈴ならぬブザー音楽が響く。その音楽が微笑ましく、息詰まる場面をホッと和ませる。また年末の紅白歌合戦の中継を見る見ないでTVリモコンを奪い合う姿が滑稽だ。現実問題から何とか逃避したいという心理と行動が実に上手く描かれる。
倉庫のような会場で、照明や音楽効果を十分に発揮することは難しいが、それに頼らず演じている役者の迫真・緊張感ある演技が素晴らしかった。
なおラスト、年末の炬燵はありだが、蝉鳴く時季の炬燵はないと思うが舞台転換が難しいのだろうな~。
次回公演を楽しみにしております。
おへその不在

おへその不在

マチルダアパルトマン

OFF OFFシアター(東京都)

2019/09/04 (水) ~ 2019/09/16 (月)公演終了

満足度★★★★

虚構的な物語だが、どこか現実味を思わせる独特な世界観が魅力な公演。産まれてしまえば、へその存在など大したことではないが、無いと何となく変な感覚に囚われる。物語はこの へその有無を心の在りようの比喩(チャップリン言の悲劇であり喜劇)とし、ミステリアスな展開と軽妙洒脱な描き、その絶妙なバランスが観客を惹きつける。
舞台美術はどこかファンタジーさを思わせ、反面、機能的な面を兼ね備えた見事な作り。それが物語の雰囲気を支えている。
(上演時間1時間30分) 2019.9.13追記

ネタバレBOX

セットは飾り棚を思わせる仕切り壁、中央に応接セットが置かれ、物語の中心となる3姉妹の家であり、この姉妹が住んでいる町にある和菓子屋や煎餅屋を思わせる。飾り棚には何台かの電話が置かれたり、カメラが吊るされている。これって探偵業に必要なもの。そして大型のゴミ箱が下手側に置かれている。

公演はリアル・ファンタジーといった独特の世界観…この不思議な雰囲気をどう表現するか。またマンガキャラが劇中内に入り込み、ある種のパロディを意図しているようだ。物語は、3姉妹それぞれが関わっている人物との相関関係を縦軸にし、探偵の行動から明らかになる出来事を横軸にし、人と出来事が錯綜するような構成である。そこに奇妙、奇抜な仕掛けを用意している。
3姉妹、長女・たまこ は結婚したが夫は生死不明の未亡人状態、次女・のりこ は近所の和菓子屋の店員、三女・まるこは高校生という設定。この3人に対し煎餅屋の猫田家(夫人、息子)が絡んで騒動が…。また和菓子店(実際は牡丹餅メイン)の奇妙な存在、たまこの夫の消息と猫田家の関わり、まるこ と猫田家の息子の絡みなど次々と物語の引き出しが開けられ、物語は断続的に繋がっていく面白さ。

マンガキャラというのは、少なくとも 三女まるこ と親友で和菓子屋の娘・あずみのこと。おっとりとした性格のまるこ、防備的に短剣を取り出す あずみは、それぞれ有名な漫画の主人公を連想させ楽しませる。そして牡丹餅に掛けて、半殺し(粒が残る程度に粗くつぶす)にするという乱暴な台詞。また鎖での拘束シーン、パペットの利用、ゴミ箱への潜入など奇抜な観せ方で観客の興味を惹くという巧みさ。

この公演は、現実にある浮気や不正問題を仮想的世界に落とし込む、もしくは仮想世界に現実のいくつかの出来事を散りばめたような歪で不整合な世界観、理屈で説明しきれないところが魅力的だ。だからこそ、自分の現実として観れば悲劇であり、少し引いた立場の第三者が観れば喜劇(他人事)なのだろうか。
こじつけであるが ”おへその不在”は、自分では気になるが、他人にしてみれば気にもしない卑小なことかもしれない。
次回公演も楽しみにしております。
ツノノコ、ハネノコ、ウロコノコ

ツノノコ、ハネノコ、ウロコノコ

フロアトポロジー

オメガ東京(東京都)

2019/09/04 (水) ~ 2019/09/08 (日)公演終了

満足度★★★★★

物語を観たまま受け入れれば国家陰謀による悲劇、ディストピアの世界そのものである。しかし、ラストシーンがどうも気になるが…。物語は重厚・骨太で、その雰囲気を舞台美術、音響・音楽、照明等の効果で上手く引き出している。もちろん架空・仮想世界の出来事であるが、現実にあり得ると思わせるところが怖い。この公演でのテーマが人の生き方そのものを問うような鋭さ。観応え十分な力作だ。
(上演時間1時間45分)2019.9.10追記

ネタバレBOX

舞台美術が素晴らしく、壁は煉瓦や波トタンで廃墟のような場所を演出する。中央に太い柱、その横を回り込むように階段が見える。上手側は別場所への通路、下手側に窓と通路。冒頭は 頭陀袋のようなものを被った子供たちが無邪気に遊ぶ姿。廃墟のような場所の雰囲気と子供たちの姿に違和感を覚えるほど明暗対比した光景が鮮烈だ。

時も場所も架空の世界を描くが、何となく現実味を帯びているような。物語は正化11年、ある研究者が人間の隷属性を高める働きをする新たな細胞を発見した。細胞の培養に成功した国は軍事目的のため国民に細胞ワクチンの投与実験を始めた。その結果生まれたのが「クラフト症候群」と呼ばれる早老症の子供たち。国家は秘密裏に処理するために「特例区」と呼ばれるこの場所に隔離し虐殺を行う。物語は人体実験=軍事利用を目的とした社会性とその犠牲になった国民(子供)の思い、その深く埋まらない溝を重厚に描いており目を逸らすことが出来ない。警鐘と感動が織り込まれた内容、それは観客(自分)の心に強く響いてくる。

1人の女性記者がその事実を取材しに訪れる。後日、その取材記録を公にしたような描き方のように思えるが…。国家への報復、その報復手段が火炎瓶という何十年も前のもの。その前時代的な方法を以って、いつの時代でも理不尽・非道な施策には立ち向かうという強い意志が込められているようだ。同時に独立記念日、独立広場などの台詞から非道な扱いを受けた国民の抗議行動、束縛(特例区)からの解放の意図が伝わる。

演出は、牢獄を思わせるような格子イメージの照明、場面状況に応じて照明を諧調させたり強調・印象として朱色や暖色など使い分けが巧みだ。音響は「ただいま さよなら」?を歌うなど哀調を帯びた選曲が心にグッとくる。この公演を通して、知らない事、考えない事、見て見ないふりをすることなど、その批判的視点を持たないことの恐ろしさを改めて知らされた。
次回公演も楽しみにしております。
歌姫

歌姫

ことのはbox

中目黒キンケロ・シアター(東京都)

2019/09/05 (木) ~ 2019/09/08 (日)公演終了

満足度★★★★★

土佐の漁師町にある映画館「オリオン座」の閉館日に上映された「歌姫」。この映画が物語の回想シーンそのもの、そして東京から映画を見に来た母と息子に去来する思いが、ラストの台詞に込められている。台詞は土佐の俚言で喋り、はじめのうちは聞き取り難いが、物語が進むにつれて気にならなくなる。逆に自分がその土地にいるような錯覚、雰囲気に包まれる。もちろん、ことのはBox らしい演出…舞台美術、舞台技術の工夫によるもの。そして映画館らしい時代経過の表示、郷愁と追憶をしっかり紡ぎ出した秀作。
(上演時間2時間) 後日追記

革命を起こすんだ

革命を起こすんだ

teamDugØut×マニンゲンプロジェクト

「劇」小劇場(東京都)

2019/09/03 (火) ~ 2019/09/08 (日)公演終了

満足度★★★★

タイトルの「革命」…一般的にイメージする体制権力、組織構造の社会変革といったことを思い描いていると肩透かしだろう。どちらかと言えば、自己変革もしくはそう試みた青春群像劇といった印象である。観終わった後、ある芥川賞受賞小説を連想した(関連は無いのだが何故か…)。

本公演は1980年頃が背景であろうか。そして小説は1964年受賞だから芝居よりも約20年前の時代、まだ学生運動が行われていた頃の作品である。
公演は、何事も真剣に真面目に考え行動しようとした80年代の高校生。もっと青春を謳歌した生き方ができたであろうと思えないこともないが…。「革命」を叫びながら、何かを変革したい、しかし具体的内容を問われると曖昧になる。「漠然とした理想」と「判然とした現実」の気持ちに揺れ動く青春ドラマは少し切ない。

公演では「外の世界に出てみたい」という台詞が何回か聞かれるが、小説にも「人は、自分の世代から抜け出ようと試みることさえできる」という主人公のシニカルな台詞があったと思う。その意味で「革命」=「挑戦」とも思えるような公演は好かった。
(上演時間1時間45分)

ネタバレBOX

セットはレンガの壁、いくつかのキューブが置かれているだけのほぼ素舞台。もちろん「外の世界に出てみたい」、山椒魚の比喩話を意識した舞台美術であろう。またインベーダーゲームに夢中になる場面、30年前の高校時代というさりげない台詞によって1970年代後半~80年代を思わせる。
物語は主人公の現在と高校生時代を往還するように展開する。そして現在は高校教師になっており、不登校生徒への登校を促すために、自分の高校時代の回想話をする。同時に改めて自分の生き方を考え又は問い直す。既視感あるような物語であるが、高校生らしい理想と現実、本音と建て前、協調・迎合、孤立・反目、そして何者でもない自分への苛立ちといった、言葉では言い表せない複雑な感情をいくつかのシーンで浮き彫りにしていく。
さて、小説は「されどわれらが日々ー」(柴田翔)である。自分が高校生だった頃に読み、その後何度か読み返しており、本公演に何か通じるものを感じた。 以降、後日追記
ストアハウスコレクション・フィジカルシアター週間

ストアハウスコレクション・フィジカルシアター週間

ストアハウス

上野ストアハウス(東京都)

2019/08/28 (水) ~ 2019/09/01 (日)公演終了

満足度★★★★

身体表現による語りかけは、国の伝統・文化、国政等の状況によって異なる。当たり前のようだが、台詞のない公演の中で主張したいことをしっかり伝えることは難しい。
日本とタイの舞踊表現は、見た目だけでもその違いは分かる。表層的には、日本の舞踊は躍動的、タイの舞踊は動静的であるが、どちらのダンサーも身体能力は高いと思う。抽象的とも言える身体表現で何を訴えているのか、自分なりの想像を働かせる。そこに舞踊公演の面白さ真骨頂があると思う。
ストアハウスカンパニー1時間、B-Floor1時間10分 途中休憩15分
【ストアハウスカンパニー/B-Floor】

ネタバレBOX

【上演順】
●ストアハウスカンパニー(日本)
舞台所狭しに衣服が散らばっている。演者の女3人・男1人が舞台上を歩き回りながら、来ている服を脱ぎ、散らばっている服を着ては脱ぎの繰り返し。そのうち、散らばっていた衣服が中央に集められ無造作に積み上げられていく。そして再び元のように散らばっていく。演技は膝高く大股で快活に歩く。その姿は躍動感に溢れ力強くもある。ラスト近くには服を持ち、投げるようにして自身も前のめりに倒れる。

舞台技術の音楽は軽快なPOP調、照明は動き回ることから暖色斜光することで役者の姿を捕捉している。一連の動作は、時間の経過と日常における人の喜怒哀楽が感じられる。動き回るのは時の流れであり、生を思わせる。衣服の着脱は情況変化、特に苛立ち。転げ回る姿に微妙な違いがあり、それは嘆き悲しみであり、喜び笑い転げの表現違い。最後の前のめりの動作は未来志向のように思える。

●B-Floor(タイ)
素舞台、演者の男2人・女1人がそれぞれ角材を持ってポーズを作る。動きは静止、活動といった対照的なものであり、それに合わせて照明も違う。静止姿は垂直の白色照射、活動姿は斜光の暖色照射で印象付けをする。音楽は少なく、どちらかと言えばゲップのような擬声音。ラスト近くは立ったまま小刻みに痙攣するかのような動き、そしてクールダウンするようにゆっくりと動き回る。

身近な活動を描いているようだが、時に怖い一面も垣間見える。仰臥している時、横向きになったりするのは自分の意思か、他者の力がはたらいているのか。途中で黄金服を着た者が登場したことから、何となく抑圧されたイメージを持つ。それは偶像、化身もしくは権力的なものを表現しているのだろうか。抑圧・閉塞や自由・解放、それは社会的なことであり自分自身の自己変革を思わせるような不思議な世界観を創出している。

基本的には身体表現のみ(一部 B-Floor公演では字幕や短い台詞あり)で、そこから受け取る思いは、観客1人ひとり違うだろう。作・演出家の伝えたいことが十分理解できなくとも、観た身体表現の素晴らしさは共感できるだろう。この舞踊を自分の想像力を膨らませて自由に解釈できるところに、この公演の魅力があると思う。
次回公演も楽しみにしております。
スケルトン・イン・ザ・クローゼット

スケルトン・イン・ザ・クローゼット

めがね堂

宮益坂十間スタジオ・Aスタジオ(東京都)

2019/08/29 (木) ~ 2019/08/31 (土)公演終了

満足度★★★★

乾いた空間に、夫婦の瑞々しい会話...そのギャップが不穏な雰囲気を漂わしているように思える。この公演の魅力は独特の演劇空間の表出にある。特に舞台美術があるわけではなく、素舞台に役者のパントマイムでその雰囲気を醸し出す巧みさ。乾いた感じがするのは、ストーリーテラーによる淡々とした語り、それが情況説明と同時に人間観察のようでもあり客観性を際立たせる。一方、夫婦の会話は瑞々しいがどこかよそよそしい感じがする。物語はサスペンス仕立てであるが、心象劇のようでもある。その色々な要素が混ざって独特な空間が…。この公演はどちらかと言えば見巧者向けのような気がする。
(上演時間1時間15分)

パラベルプルプリナ

パラベルプルプリナ

PINK DRUNK

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2019/08/29 (木) ~ 2019/09/01 (日)公演終了

満足度★★★★

映画の助監督として慌ただしく働く主人公、「もしも違う人生があったなら…」そんなことを思った時、パラレルワールドへ…。もう1つの人生は、移動遊園地「プルプリナ」の支配人で、こちらの世界でも慌ただしく過ごしていた。
公演の魅力は、華やかで楽しい歌やダンスのパフォーマンスとパラレルワールドによって自分がやりたいことの確認と再出発を決意させるような成長譚。映画助監督時代を第1部とすれば、移動遊園地の支配人のパラレル世界は第2部といったところ。第1部はミュージカル仕立てを強調し、第2部はドラマ展開を意識しているようだ。その魅せて観せる演出の妙が巧い。
(上演時間2時間) 後日追記

ネタバレBOX

前作「ショコラニマジョカ」で「グリーンフェスタ2018_BIG TREE THEATER賞」を受賞した実力派劇団。今回も大いに楽しませてもらった。
舞台美術はファンタジックな張りぼて、周りの柱は映画フィルムのような描き。映画助監督の世界ではスタッフは普段着、キャストは映画衣装で現実感を漂わす。一方パラレル世界では化粧や衣装は絵本に描かれたような奇抜なもの。その世界観の違いが現実と夢想の境界でもある。
夏休みの友たち

夏休みの友たち

ハグハグ共和国

萬劇場(東京都)

2019/08/28 (水) ~ 2019/09/01 (日)公演終了

満足度★★★★★

人生は長いようで短く、短いようで長い。人生における幸せとは、日常の身近なところにあるような。人生は楽しいことばかりではなく、辛く哀しいこともある。その思いを忘れるため、無意識に思い出を閉じ込め記憶から消し去ってしまう。本公演では40年の時を経て、小学6年生当時の自分と邂逅し、忘れてしまった記憶と向き合い、これからの人生を今まで以上に大切に生きて行こうとするヒューマンドラマ。

デジャ-ビュと言いながら山道を登る12歳の小学生と52歳になった中年期のメンバー、過去と現在を往還しながら物語は楽しく展開する。その夏の思い出が、ある出来事(災害)によって記憶を忘却へ。しかしそこから抜け出せない自分、それを夏休みの宿題ノート「夏休みの友」の空白ページを書き、描き埋めることによって今を見つめ直す。ラスト、水月(生粋万鈴サン)が呼びかける…「麓の皆さん見えていますか、こちらからは見えていますよ!」は、生ある人々への見守りのようである。同時に40年前の思い出も大切にしてほしいとの願いであり、まだまだ精一杯生きてほしい、という応援メッセージでもある。舞台となる山小屋「犬井」に咲く露草の話を比喩とするところは上手い。

劇中に頻繁に登場する木霊(葉を付けた衣装)のダンスは、ハグハグ共和国らしい、優しく温かさが溢れており、山霊による見守りをイメージさせる。舞台技術、特に音響(劇中歌も含め)は実に効果的で余韻付けが上手い。自分は、このような芝居が大好きである。
(上演時間1時間40分) 

ネタバレBOX

セットは、上手に山小屋「犬井」の建物と東屋のようなものが建つ。下手が山小屋前のちょっとした広場。その後ろが崖をイメージし上部に展望台がある。上手と下手の間に斜めに山道がある。今回もハグハグ共和国の公演で見られる客席側への張り出しスペース、そして客席通路を使用する登場シーン。

物語は、麓の小学生と山間部の小学生の40年前の交流、その時に起こった災害で止まったままの夏休みの宿題を行う。宿題とは記憶というか心に負った傷を思い起こし、52歳になった今を見つめ、さらにこれからの人生を前向きに生きること。いわば心の再生物語である。12歳と52歳の1役2人の時代間隔、年代の往還を例えば、山道を登るときの地図とスマホの違い、無線機と携帯電話等、アナログとデジタルといった機器で表す。もちろん年代によって役者が違うから一目瞭然であるが、小道具にも拘りが見える。
さて52歳の自分は、公務員であり、専業主婦、パート勤務、酒場での演歌歌手でありそのマネージャー。自嘲気味に自己紹介するシーンと、12歳の時に山間部の子供と交流しているときに漏らす悩みと重ね合わせる巧みな演出。楽しい夏の思い出が一変したのが噴火災害。この事故で山間部の子供たちは亡くなり...。いつしかこの辛い思い出に蓋をし忘却の彼方へ。人の死は、亡くなった人を忘れてしまった時が本当の死だ、と聞いたことがある。その意味で生きている人には辛いことであるが、それでも事実思い出に向き合い、これからを生きる。

東屋での露草の話。露草は二つの苞の間から青色の花が咲くが、早朝に咲き出して、午後にはしぼんでしまう。そして3枚の花びらのうち2枚が大きい。残りの1枚は小さな白い色で見えにくいが咲いている。人の命は長くもあり短くもあるが、死者も生者の思い出の中で生きている。台詞にあったかどうか忘れたが、花言葉は「変わらぬ思い」「懐かしい関係」だそうだ。

舞台技術の音響は情景・場景を浮き上がらせ、劇中音楽は口ずさむことができる懐かしいもの。そう思えるのは自分の年齢ゆえか。同時にオリジナル曲で余韻を残す。演技は素晴らしいの一言。
最後に、山小屋の住人が一夜にして老婆に変貌する場面は、上田秋成の読本「雨月物語」の一遍「浅茅が宿」を連想する。当たり前の日常と無常の対比を思わせる格調の高さ。もちろん読本と状況・情況は異なるが、情念のようなものを感じるのだが…。
次回公演も楽しみにしております。
瀬戸の花嫁 再再演

瀬戸の花嫁 再再演

ものづくり計画

ザ・ポケット(東京都)

2019/08/21 (水) ~ 2019/08/25 (日)公演終了

満足度★★★★★

登場人物はすべて善人で、そこに集った人々の生活環境や状況などを描くことによって都鄙の違いや情景を浮かび上がらせる。島民の減少により活況が乏しくなった状況を説明し、物語の設定へ上手く導く巧みさ。同時に台詞を方言で喋らすことによって、より臨場感が溢れ出し情景の雰囲気を漂わす演出は、観客の感情を揺さぶる。再再演するのも頷ける見事な公演であった。
(上演時間2時間)

ネタバレBOX

舞台セットは瀬戸内海に浮かぶ小島…戸美島の集会所いったイメージ。下手上部に別スペースを作り出す。大漁旗がいかにも海・島を思わせる。

梗概…高齢化、少子化さらに島の若者は島を離れ都会へ。その状況を何とかしようと結婚相談(所)会社を通じて集団見合いを企画する。島の男たちの願いが叶い、都会暮らしの女性4人が応募して来た。その紹介映像を観て、さらに期待膨らむ男と島民。その準備の過程…見合いの時の話題、趣味趣向などをシュミレーションする姿が滑稽に描かれる。そして様々な誤解・勘違いも絡んだドタバタ騒動。そして見せ場である見合い当日を迎える。一方、都会から来た女性たちにも色々な事情があるようで、果たして集団見合いは成功するのか…。

公演は、都会暮らしの女性の悩みや苦労を際立たせることで、島での暮らしの良さを引き出す。例えば過重労働で退社、引き籠りになった。シングルマザーとしての苦労など、都会に限らずありそうな現実を一人ひとりの生活の影として繋げる。そのネガティブ状況と島の温かな雰囲気、ポジティブな対比が巧み。同時に主人公の兄・妹にも変化が…。この悲喜交々が実に生き活きと描かれる。

実際、島という閉鎖的と思われる土地で、行き違いがあれば気まずい思いを引き摺りそうである。しかし、この島の人達はみな優しく温かい。島が一つの家族であり助け助けられという相互扶助が見えてくる。しがらみと閉鎖性というネガティブなことを連想しがちだが、ここでは真逆の「しがらみ」⇔「親和性=家族的」、「閉鎖性」⇔「受容性」としてポジティブに描いている。都会…東京砂漠・隣人何する人などという言葉は無縁である。娯楽施設や大型スーパー等は考え難いが、それでも島の良さが溢れている。そんな島に嫁が…。1人で島民になる不安が集団見合いで解消されるか。そんなところも見所だろう。

次回公演も楽しみにしております。
ナイゲン(2019年版)

ナイゲン(2019年版)

feblaboプロデュース

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2019/08/22 (木) ~ 2019/09/01 (日)公演終了

満足度★★★★

「理屈」と「感情」を較べてみれば、感情が先走ってしまう会議。本公演の議論はあちらこちらに漂流し何処に辿り着くのかわからない面白さ。同時に、当初あまりやる気が感じられなかった議長がその責務を果たそうと…その成長譚が清々しい。文化祭を取り仕切る内容限定会議-ナイゲンは表層の面白さだけではなく、そこに潜む会議体や民主主義の問題を考えさせる秀作。
(上演時間2時間)

ネタバレBOX

セットは当初、授業形式に並んでいるが、会議が始まるとロ字型へ変形させる。会議劇だから当然であろう。また、上演時間とナイゲン討議時間(開演直後、下校2時間前に時刻を合わせる)に重ね合わせて臨場感を持たせる。客席は三方向に設え、観客には会議の立会人のような緊迫感が生まれる。
内容限定会議(通称:ナイゲン)は、高校文化祭”鴻陵祭”における各参加団体の発表内容を審議する場であるという(文化祭規約)。規約が”自主自立”の精神に則っている。すでに参加団体の催し内容も確認したところに、学校側から「節電エコプログラム 高等教育機関向け」の催しを押し付けられるが…。

発表内容に関する指摘、恋愛感情、学年優先や何となくなど、意味不明の理由まで飛び出し議論は漂流し続ける。始めの理論武装された議論から感情優先のドタバタコメディへ…。いつの間にか文化祭全体会議からクラス代表の顔になっている。下校時刻が刻々と迫ってくる。そんな中、演劇の上演許可を得ていないクラスがあった。ナイゲンの議論は、如何にこのクラスが主体的にエコプログラムを受け入れるか、という話へすり替わってくる。自主自律の精神に沿わせようとするもの。
教室から出られないという密室状態、しかも会議時間が限られているという空間と時間の制約に緊張が生まれる。テンポ良く、また疾走するような会話劇は、立会人的な観客も固唾を呑んで見守っている感じ。会話劇だけに登場人物のキャラクターや立場などが観(魅)せられるか。その演技は笑い、罵倒、落胆など様々な感情を実に上手く表現していた。

各クラスの発表内容の審議結果を多数決(民主主義的な)で決める。討議では自分の考えを訴えつつも相手の言い分も聞くという態度が大切。物事を決める熟議のプロセスを重視している。意見の一致も大切だが、一人ひとりが違った見方で世界を見ることで世界はまともな形で存在するかも。芝居ではこの役割を3年3組_どさまわりに負わせている。にも関らず、全体討議終了後の採決は全会一致の承認が必要であると…そうであれば議論の過程の多数決は何の意味があったのだろうか、という疑問が生じる。

日本における日本国憲法の自立とそれ以外に働く力の関係を連想してしまい…表層の面白さに潜む重厚なテーマ、実に観応えがあった。
次回公演を楽しみにしております。
織姫と彦星 ~宇宙の彼方から御用改めでござる!~

織姫と彦星 ~宇宙の彼方から御用改めでござる!~

株式会社TATE (東京本社事務局・第1制作部)

なかのZERO 大ホール(東京都)

2019/08/20 (火) ~ 2019/08/20 (火)公演終了

満足度★★★★

舞踊、剣舞、殺陣といった観せ方が違うパフォーマンスと、幕末の騒乱を描いたストレートプレイが融合したような、いわゆるエンターテイメント公演と言えるだろう。音響や照明効果といった舞台技術にも工夫を凝らしており、観客の気を逸らさないよう努めている。何より、役者が広い舞台を縦横無尽に駆け回り、その躍動感がテンポ良く楽しませてくれる。
(上演時間1部:50分、2部90分、途中休憩10分)

「RE:道先案内人~ハジメマシテ死神デス~」 「終・道先案内人~ゴキゲンヨウお別れデス~」

「RE:道先案内人~ハジメマシテ死神デス~」 「終・道先案内人~ゴキゲンヨウお別れデス~」

幻奏ボレロ

新宿スターフィールド(東京都)

2019/08/16 (金) ~ 2019/08/23 (金)公演終了

満足度★★★

「終・道先案内人~ゴキゲンヨウお別れデス~」観劇。
彼岸と此岸の間...そのどちらでもない世界(あるいは空間)...黄泉や高天原といった幽冥世界を描いているようであり、他方、夢遊中の自我との葛藤のようにも思える。その不可解な世界に転生といった因縁を持ち込み、死後においても今だ死生観を考えさせるような。
「RE:道先案内人~ハジメマシテ死神デス~」を観ていないこともあり、この世界観が理解しにくい点が、物語で何を伝えたいのかを曖昧にしているようだ。それこそ主張が浮遊し取り留めのない心霊劇のように思えたのが残念だ。
(上演時間1時間40分)

カレイドルーム

カレイドルーム

ZERO BEAT.

上野ストアハウス(東京都)

2019/08/14 (水) ~ 2019/08/18 (日)公演終了

満足度★★★

色々とご都合的な内容であるが、とにかく観客を笑わせ楽しませようとするシーンが見受けられる。自分はこのグダグダ繰り返すシーンはあまり好きではないが、結構受けていたようだ。
物語的は既視感があり、意外性は感じられなかった。一方、役者陣はキャラクターを立ち上げ、観せようと努めていたことに好感を持った。
(上演時間1時間40分)

第一部『1961年:夜に昇る太陽』 第二部『1986年:メビウスの輪』 第三部『2011年:語られたがる言葉たち』

第一部『1961年:夜に昇る太陽』 第二部『1986年:メビウスの輪』 第三部『2011年:語られたがる言葉たち』

DULL-COLORED POP

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2019/08/08 (木) ~ 2019/08/28 (水)公演終了

満足度★★★★★

第二部「1986年:メビウスの輪」観劇
まだ日本では大きな原発事故が報道されない時代、ある男の原発に対する考え方や思いが状況や立場によって変節する、そうならざるを得ない怖ろしさと滑稽さが伝わる力作。立場(地位)が人を作るという言葉をしみじみ思う。同時に演劇的手法によって、人間も含め全ての生あるものの思い、原子力発電所建設前後の街の風景、それらを俯瞰するような演出が実に上手い。
(上演時間2時間) 後日追記

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