中年の歩み『紅白』 公演情報 第0楽章「中年の歩み『紅白』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    物語は、家族の「老い」「介護」への向き合い、そこに地域事情を足枷のように加重させて観客に問う。あなたならどうしますか?その難問度合いは、その人が置かれた状況によって異なるであろうが、事件・事故死等を除けば現実にある問題。公演では直接的な答えはなく、観客に委ねられたままであるが…。
    物語は年末から年始にかけての数時間、兄弟姉妹による濃密な会話劇。そこに地域住人が絡むことで第三者の目をもって家族の身勝手、自己都合といった不誠実な姿が浮き彫りになる。
    タイトルの『紅白』は年末歌謡番組を示しているようだが、公演の印象は「黒白」といった弔事的なもの。本公演は、観る年代(中年の歩み)によって受け止め方の深刻・切実度が異なるだろう。
    (上演時間1時間35分) 2019.9.13追記

    ネタバレBOX

    セットは少し高くした台座のような所の中央に炬燵、そしてTVが置かれているだけ。もっともこの会場全体の構造を最大限活用し、階段の昇り降りや上手・下手にある扉からの出入り等、会話だけに終始せず動作でも緊迫感を生む。

    公演コンセプトは、「中年による中年に向き合う3年間。中年の悲喜を見つめる」というもの。地方都市で営んでいる森餅店を舞台とし、父親の介護と中年になった自分たちの将来を心配し始める。親の介護をする世代、介護される世代にとっては胸が締め付けられる、少なくとも ざわざわする気持になる。公演の面白さは、人物の置かれている状況を鮮明にし、それぞれの関係に十分な軋みを与えている。それによってこの状況下、いわば八方塞がりから逃れることが出来ない。まさに現実問題から目を逸らせられないという緊張感を生む。

    長女は40歳過ぎで生保レディに転職せざるを得なくなり、次男は東京でバイトの靴職人、次女は森餅店に居候か、そして三男は引き籠り。さらにこの店は事故物件のようで売りに出すことが出来ない。店は架空の無士山の近く、無士宮市にある無士宮商店街にあるが、今はシャッター通りと化している。全てにおいて閉塞状態、今は意識はあるが寝たきり状態の父親、かつては暴君のような父の面倒を誰も看たがらない。ここに公演の凝縮された現実が提示されている。芝居であるから演劇的な結末の観せ方はするが、公演そのものに答えは用意されている訳ではなく、観客自ら考える。

    父親は登場しないが、時々に呼び鈴ならぬブザー音楽が響く。その音楽が微笑ましく、息詰まる場面をホッと和ませる。また年末の紅白歌合戦の中継を見る見ないでTVリモコンを奪い合う姿が滑稽だ。現実問題から何とか逃避したいという心理と行動が実に上手く描かれる。
    倉庫のような会場で、照明や音楽効果を十分に発揮することは難しいが、それに頼らず演じている役者の迫真・緊張感ある演技が素晴らしかった。
    なおラスト、年末の炬燵はありだが、蝉鳴く時季の炬燵はないと思うが舞台転換が難しいのだろうな~。
    次回公演を楽しみにしております。

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    2019/09/08 02:11

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