言葉の美しさに魅了されました
物語のしたたかさに加えて
台詞たちの美しさに魅了されました。
その言葉に引きずられることなく
きちんと武器にして物語を重ねていく
役者たちの力にも瞠目しました。
ネタバレBOX
「覆われているもので現されないものはなく、
隠されているもので知られずに済むものはない」という聖書の言葉に
「隠されているものは、手から離さない限り絶対に見えない」というマリー。
その見えない部分で貧民窟の人々を毒を試すための道具と扱い
自らの肉親を葬りさっていく。
神の言葉に抗うマリーの傲慢は
高貴な嘘にくるまれているのに、
その一方で昨今新聞を賑わせた
身近にあるモラルハザードたちと
同じ色にも思えたりして。
敬虔なシスターと貧民窟から取り立てられた少女が交換する
パンと葡萄酒が
マリーの行いから芽生えた疑心に行き場を失う結末も
実にしたたかだと思います。
キリストの血と肉の象徴ともされるそれらが床に落ちる姿に、
マリーが欺いた神がバベルの塔のごとく人を罰する姿までが浮かんで、
そこに、戯曲が内包する
人の行いの因果についての普遍性を感じたり・・・。
2時間30分、役者たちの力に圧倒されつつ、こ
の戯曲の秀逸さと作者の才の深さに
ただただ瞠目したことでした。
満足度★★★★
すなおに今という時代から失われてはいけないものを感じる
物語の展開に少し必然が欠けた感じがしましたが
舞台になった時代は
まっとうな必然なんてゆがんでしまうような時代だったのかもしれません。
いろいろな工夫で
その時代の狂気が浮き上がっていました。
素直に、今という時代から失われてはいけないものを
感じ取ることができました。
ネタバレBOX
冒頭のダンスがとても効果的。
舞台となる旅館にも
そんな平和な時代があったのです。
ちょっとモダンなダンスで表現されるぞうきんがけには
笑顔と日々のときめきを感じて・・・。
戦争末期の日本の雰囲気を表す時に
そのシーンの明るさがとても効いていました。
朝鮮人と日本人の距離感も旨く表現されていました。
韓国語と日本語の使い方にも
作劇の工夫があって
それぞれに伝わるもの、隠すもの、
交わるものがしたたかに表現できていたと思います。
武骨で不器用な心のかよいかたにも思えましたが
異なる価値観が妥協していくのには
そんな過程が必要なのかもしれません。
物語としては
宿屋を続けることと朝鮮人をかくまうことのつながりが弱く
妹の殺人にも、もっと強い説得力が欲しいかなとも
感じたのですが
逆に、そのつながりのなさが
戦時中の狂気への表現になっているような気もして・・・。
人々の国家主義への傾倒の
人による温度差の表現もしたたかで、
教条的な反戦ではなく
ただ、大切なものを愚かに失いたくないという想いでの
反戦を考えたことでした。
男女の重なる部分、重ならない部分それぞれに
なんというか・・・・
わかりやすい身体表現でした。
あからさまな表現にも思えるのですが
異なるジェンダーの
永遠に超えられない感覚の相違に対する
ある種の敬意のようにも感じました。
ネタバレBOX
男女のリヒドーや
肉体の重なりが
時にはリアルに、時には戯画化されて
描かれていきます。
お互いを求めるニュアンスや
私と同じジェンダーの感覚があからさまに伝わってくる
その一方私と異なるジェンダーの動作は
なにかぴんと来ない部分があって。
でもそれは、ダンサーが自らの表現するジェンターに対して
それだけ緻密な表現をしていることの何よりの証しなのかも。
女性の目で見ると男性の表現にピンと来ないのかもしれません。
女性はその時、足の裏で相手を識別していくのかなぁとか思ったりしたのですが、それは女性にはどのように感じられるのだろうか・・・。
この公演、肉体関係のある男女の割引があるのですが、
その意味がなんとなくわかった気がしました。
満足度★★★★
物語の骨格がしっかりしているから
物語の骨格が明確でしっかりしているので
ちょっとチープな関西テイストや
ピュアな主人公の想いに
あざとさを感じず
気持ちよく乗っていくことができました。
一時期の公演で感じられた、
役者たちのお芝居の窮屈さのようなものが霧散して、
演じる意欲や技がのびのびと観る者に伝わってくる。
ウィットとペーソスのバランスがとてもよくて、
わくわくさせられて、心に残るものがあって・・・。
ほんと、楽しませていただきました。
劇団がさらに昇華してく余白を感じたので、良い意味で満足度はー1☆してありますが、これまでに観た鹿殺しのなかでも一番の出来だと思います。
ネタバレBOX
冒頭に主人公に内包されている骨たちの話があり
さらに「赤とうがらし帝国」に願い続ければ想いはかなう」という物語を貫くエピソードが示されて・・・。
そこから骨の一つずつのエピソードを綴る形で物語が進んでいきます。
物語はそれなりに奇想天外なのですが、物語の中心線がしっかりしているので、チープとさえ思えるエピソードたちも物語とのかかわりの中で違和感なく受け入れられてしまう。素芝居だけではなく、歌仕立てがふんだんにあったりアクションやギャグを巧みに織り込んだりで、わくわく感を与えながら、観客を取り込んでいく感じ・・・。
その歌が良いのですよ・・・。菜月チョビのボーカルは聴く者の心を浸潤するに十分すぎるほど。役者たちのダンスやアクションもしっかりと鍛えられていて、力感と緻密さに心地よく圧倒される。
一時期、不安定で窮屈な部分があった役者たちの演技や「芸」が今回の公演ではきちっと安定して、観る者をぶれなく引っ張っていってくれるのです。
音や光も贅沢にがっつりと役者たちをひきたてていく。
超ベタなギャクもそれなりにあるのですが、役者に迷いがなく絶妙に演じ上げてくれるので舞台のテンションが切れることなく温度がちゃんと上がっていくのです。
その一方で骨の中味がひとつずつ浮かぶうちに、主人公が生きることへのペーソスがそこはかとなく舞台の奥行きを広げていきます
自らが骨となろうと思っていた存在が、逆に自らの最後の骨になっていく結末に心を奪われて・・・。
終わってみれば、奇想天外がどこかに消えて、主人公の人生の力強さに心を満たされて・・・。そこにある一人の女性の生きざまを不思議なリアリティとともに実感したことでした。
満足度★★★★
原作のうまみがしっかり残って
劇団銀石初見。
比較的長めの上演時間でしたが、
「リチャード三世」の物語のうまみというか面白さが
うまく抽出されていて、
時間を忘れて観ることができました。
物語の咀嚼の仕方に、
センスを感じさせてくれる舞台でもありました
ネタバレBOX
戯曲に忠実にということではなく、
戯曲をうまく解きほどいて
舞台に載せていくやり方が、
とてもうまく機能していたと思います。
コンサバティブな舞台がもつほどの
深い愛憎までは表現できていなかったかもしれません。
それでも、普遍的な人間の業のようなものは
感じることができましたし、
軽薄・陳腐な印象を受けることもありませんでした。
それどころか
リチャード3世を二面的に分離する手法もしっかりと機能していたし、
未来からの推理小説家と編集者を巧みに時代に閉じ込めて
戯曲のコンテンツを整理し、物語のスピード感をつけていくので
観ていて不要な重さや大仰さを感じないですんだようにも思います。
戯画化されたような脇役たちの味付けも
善良さや愚かさのデフォルメとして
うまく観客を取り込んでいたとおもいます。
歴史からの戯曲の歪曲を
「なまり」にのせて表現していくやり方にも
感心しました。
初日ということもあってか
終盤、王の座をその手におさめてからの没落の部分が、
バランスとして
すこし淡白すぎるような印象はありましたが、
そのあたりは公演が重なるうちにうまく落ち着くような感じもして。
役者にもハリがあって
物語の不要な重さを消して
今のテイストに仕立て上げるやり方に
安っぽさが付きまとわないのがすごくよい。
舞台装置や衣装も役者たちをしっかり生かしていたし、
なによりも
遊び心がここそこにうまく織り込まれていて
観ていて、理屈をこえておもしろいのです。
満足度★★★★★
消耗するほどに惹きこまれました
CASTAYA作品初見。
10日・11日と観劇。
両日とも、
終わって初めて自らの消耗に気がつくほどに
惹きこまれました。
提示されるものに
表現の意図ががっつりと練りこまれ、
観る者の感性に挑むような力までが
内包されていて・・・。
でも、がむしゃらではなく、そこに洗練とウィットがあるのです。
後半の公演も是非に観に行きたいと思いました。
ネタバレBOX
作品自体の秀逸さに加えて、
それを包む仕掛けが、
わたし好み。
大上段に振りかぶることなく
一方でぞくっとくるようなクオリティをもったコンテンツには
観る側の感性が広がる余地がすごくおおきいのです。
ひとひらの孤独への収束を感じた
ソワレを拝見しました。
冒頭からの美しいシーンに導かれて、
会話から溢れだす違和感も、
視点が頻繁に移り変わることへの戸惑いも、
いつしか
ひとひらの孤独に収束されていくよう。
不思議な感覚に浸されました
ネタバレBOX
美しい月が
案外しっかりと効いていて・・・。
一見理不尽に思える舞台が
次第に心にフィットしていくのです
自らと面識がないものが
自分に共存している感覚。
登場人物の内なる葛藤が
次第に普遍的な色に落ち着いていく一方で
内に秘めた心の揺らぎが
実存感をもって感じられて・・・。
脚本が導く、誰にでもあるかもしれない
自らへの違和感が
凄く生々しい。
バンバイアじゃないけれど
月の光はひとの内なる姿を
暴き出してしまうものなのかも・・・。
脚本のもつ普遍性を
舞台美術や演出ががっつりと具現化して。
個人的には、
自らのうちなるあやふやさへの苛立ちが
ひとひらの孤独に収束していくような感覚に捉われて。
役者が日替わりに変わっていく意図も
わかるような気がしました。
他の日をたぶん観ることができないのが
凄く残念に思えましjた。
繰り返しで満ちる空気が揺らいで
団地の空気の表現が
すごくしなやかで秀逸。
新しい住人たちからやってくることでのゆらぎが、
ゆるやかに沁み入るように団地のなかに伝わっていくなかで、
変わらずに流れる時間が浮き彫りになっていきます。
新しい住人たちの感覚がみずみずしく伝わってきて、
舞台上の非日常や
そこから垣間見える日常の世界にまで浸りこんでしまいました。
ひとつずつのシーンが豊か
冒頭のシーンから
舞台の空気にとりこまれました。
その時代や場所の空気が
すっとやってきて
本当に違和感がない。
昭和21年に生きる人々には
物資はすくなく
背負っているものはたくさんあったけれど
でも、だから全員不幸せというわけでもなかったような・・・。
時代の明と暗のなかに
なにか生きるということの素敵さが
垣間見えたようで
煙のような幸せのおすそ分けをもらった
気分になりました。
ネタバレBOX
対面客席の中央にスクエアな舞台が切られています。
で、舞台が始まるまでは
もっと息苦しい世界が浮かびあがってくることを想像していたのですが、
冒頭の蝉の声にまずやられた。
舞台内の父子三人の気づまり感が
舞台外側の役者たちからの蝉の声で
たちまちすてきに
コミカルで豊潤な世界に塗り替えられていくのです。
戯画化された軍隊や満洲の引き上げの姿、
パンパンと呼ばれた女性たちの
今の女性たちとは異なる魅力。
将来日本を改造するような宰相となる人の
人物描写などもあって
クスッと笑ったり・・・。
東京の復興時の勢いが肌に伝わってきたり・・・。
歌のシーンも秀逸、
大谷亮介の説教を観ているだけでも
楽しい・・・・。
冒頭で失笑にちかい笑いを取った登場人物の年齢設定が
終盤にはきちんと観客の中で折り合いがついていることに
気がついて驚愕。
一つずつのシーンにあふれる
創意と役者たちの表現する力から
ちょっとコミカルな台本に
見事なふくらみが作られていく
よしんば終戦直後の荒廃した日本にも
ふつうに生活があったり夢があるという
当たり前のことが
意外な感触で伝わってきて・・・。
なにか昭和21年から豊かで貧しい「今」へのエールのようなものが
感じられたことでした。
太く繊細に描かれる心の闇に息をのむ
内に芽生えたそれぞれの修羅が
ドミノ倒しのように
物語を広げていくのが圧巻。
よしんば常軌を逸した表現であっても
突き抜けなければ見えない本質があって・・・・。
今回の本谷さんは
遠慮なく、でも繊細に箍を外して
女性たちの心を暴き出しておりました。
ネタバレBOX
その家は母が父に逃げられて
そこからドミノのように家族が重荷を背負っていく・・・。
しかし、結婚一か月で同じように逃げ出した二男の嫁は
兄嫁と
求めるものがちょっと違っていて・・・。
登場人物それぞれが抱える物語に根付いた想いの
さらに一段深い部分が剥ぎだされていく様に
息をのみました。
また、突き抜けるお芝居の凄さに加えて
登場人物の淡々と仕草に隠された
狂気にも心を奪われて。
人間の本質にある依存心や孤独ががっつりと伝わってきます。
でもきちんと突き抜けているところに
本谷戯曲のしたたかさが生きているようにも思えて。
りょうさんは初見ですが、
その淡々とした演技から浮かび上がってくるブラックホールの
実存感にぞくっときました。
松永玲子さんの力を解き放ったようなお芝居も見ごたえがあって・・・。
2時間たっぷりとエゴンシーレのようjな質感の本谷ワールドに浸りこんでしまいました。
奇想天外な前提がナチュラルにやってくる
物語の前提はかなり奇想天外、
でも、そこから見えてくるものは、ナチュラルで
ちょっと切なくて・・・。
役者たちのお芝居にjもしっかりとしたテンションがあって
取り込まれるように見入ってしまいました
ネタバレBOX
結婚も近いというような同棲中の男女、
朝目覚めてみると、男性が女性になってしまっていたという
奇想天外な物語。
脚本がすごくしっかりとしていて、男性の意識と現実の乖離に始まり男性が現実を受け入れていく姿や、女性の心情が違和感から女性同士の感情の共有へと変わっていく姿、そしてその先にある二人の関係までが見事に描かれていきます。
役者の二人が実に秀逸。
そのシチュエーションをしたたかに具現化してしまうのです。
そして、男女の関係のコアにあるものが
物語からすっと浮かんでくる。
切ないけれど、納得させられる
エンディング・・・。
ちょっと
男女の関係の本質を考えさせられる
お芝居でもありました。
満足度★★★★
抜けがよい笑いがいっぱい
ひさびさに
センスの良い笑いがもりだくさんの
お芝居をみることができました。
物語の伏線もしっかりと生きて
観ていて飽きませんでした。
こういうコメディ、すごく好きです。
ネタバレBOX
冒頭の人を喰ったような郷土博物館の展示シーンから
いろいろと心地よくくすぐられて・・・。
それが、うまく幕末のお芝居につながれて、
あれよあれよという間に
幕末の世界にとりこまれてしまいます。
笑いの質がすごくよいのです。
キレがよいというか
きゅっとツボにはいりこんでくる・・・。
物理的なというか下世話なネタから
時代の垣根をはずしたり
おおきく雰囲気で笑わせるものまで
いろいろに織り込まれているのですが、
それらのいずれもが
バランスをとりながら、下卑にならずに
センスよく笑わせてくれる。
劇中でぼそっとつぶやく
「大政奉還」にはやられました。
伏線の張り方もすごく巧み。
しっかりと作りこまれているお芝居だと思います。
昔の東京サンシャインボーイズのテイストにも
どこか似ていて・・・。
中盤にごくわずか中だるみを感じたのも事実なのですが
これも、公演期間の後半には解消されていくような感じがします。
ねずみの掛り方も鮮やかに
ラストがしっかりと物語を貫いて
こういうコメディは観ていて気持ちがよいですね。
役者にも凛としたハリと切れがあり
女優陣の所作がきれい。
好感が持てました。
刹那のシーンが醸成する全体像
前半のランダムにも思えるシーンたちが
お互いの色を深めあいながら
これだけ大きな社会感や家族感へ導かれることに
瞠目しました。
重なり合う刹那から様々な現代のアスペクトが
しなやかに浮かび上がってくる・・・。
深く淡々としたラストシーンには
切なくともしっかりとした広がりが生まれていたと思います。
ネタバレBOX
前半のシーンはまるで重ねられた写真をめくっていくよう・・・。
いくつかのエピソードのかけらがランダムとすら思える順番で提示されていきます。
客観的に眺めるいくつもの場面は
シーンとしての時系列をそれぞれにもって
次の場面へとつながっていく
さまざまな様相が生まれ、
いつしかシーン間が
次第に絡まり合いながら
物語の因果となって浮かんできます。
シーンのつなぎや衣装の工夫が
物語全体をしなやかに広げていく。
その中で「格差」、「DV」、「心の病」などの
概念の裏側に毛細血管のように入り込んだ
登場人物たちの想いの流れや必然が
生々しく伝わってきます。
照明の美しさや、シーンの洗練のなかで
個々のキャラクターを描く切っ先は
あからさまに人々の心の内にあるものを
観客にさらしていきます。
良いとか悪いとかを言い立てるのではなく
事実をしなやかに提示していく感じ。
ステレオタイプには表現しえない
生々しいいくつもの愛情の顛末が
時には豊かに、あるいは痛々しいほどに伝わってきて。
報われる愛もあれば
満たされない想いを兄にぶつける妹や
なにかがあふれるように
妹に花瓶を振りかざす兄もいる。
終盤で4人家族が同床異夢のなかでの食事をするシーンには
ぞくっとするような冷徹さがあって・・・。
観客側でかなり好き嫌いは生まれるかもしれませんが、
私には、いろんなことを考えさせる深さをもった作品でありました。
満足度★★★★★
子供のしっぽと大人の萌芽
あちらこちらの評判をうかがって
楽前日に拝見。
物語の仕組みが見えるに従って
ぎゅうぎゅうの場内が気にならないほどに
惹きこまれました。
登場人物たちが見つめる現実や未来に潜む鋭角なエッジ、
でも切り落とされたものに子供のしっぽが残っているのが
すごくヴィヴィッド。
ネタバレBOX
ロロは前回の15MINUTES MADEで観て
既存の感性をすっとのりこえたところに
惹かれた劇団。
女の子が提示する
小芝居の不思議な理不尽さや
ギターを抱えた少年の歌が変わっていくあたりに
子供からしだい脱皮していく姿が
すごく瑞々しくつたわってきました。
大人になるといろいろと美化してしまうような記憶なのですが
そのヴェールをさらっとはぎとってくれるような力が
舞台からやってきて・・・。
風変りな転校生に見えるものが
次第に少年に共有されていく姿がすごくよいのです。
知らず知らずのうちに
変わっていく少年や
同級生たちの温度差になにかすごい実存感があって息をのむ。
クラスの内側と外側がライティングで
切り分けられているところも
物語の枠をしっかり作っていて物語をぎゅっと締めていたようにおもいます。
役者の切れもすごくよくて・・・。
しっかりと歌える役者のいる座組のメリットも十分に生かされていました。終幕ちかく、「卒業写真」とプチパンクな歌が重なりながら場内を満たしていくのが圧巻。ベタな盛り上がりではなく、そこに先生や生徒たち個々の姿が切り取られているところにこの劇団の力量を感じたことでした。
彼らの作り出すものをもっともっと見たくなりました。
気持ちよく惹き込まれました
2作とも、語り口によどみがなくすごくしっかりしていて
コンテンツがまっすぐに伝わってくる。
聴いているうちに
舞台(高座?)に醸し出される
心地よい高揚に引き込まれていました。
これまでにないテイストのパフォーマンスかも・・・。
元の噺にしろ小説にしろ
作品の薫りが失われずに、
むしろ世界が広がる感じがあるのもよい。
お世辞抜きでとても楽しむことができました。
ネタバレBOX
ソワレを観ました。
内容的には落語を一席と、太宰治作の小説のリーディング(パフォーマンス)でしたが、どちらの作品にもじわじわと観客を引き込んでいくような力があって・・・。
村井美樹ならではの世界を楽しむことができました。
・金明竹
たっぷりの拍手に押されるように出囃子に乗って登場。枕も無難な感じ。今回監修役の春風亭百栄師匠にとんでもない名前をつけられたというくだりから、すっと噺に入ります。
前半のバカ小僧とのやりとりは、女性が演じるということで、旦那の役回りがおかみさんに振りかえられているのですが、このおかみさんがすごくよい。いやみのない色香に加えて、ちょっとした感情の動きや、後半に垣間見せる小狡さにまでも不思議な実存感があるのです。女優としての力量が生きているというか、むっとしたときの表情などに感情がしっかりと折り込まれていて。
一方の小僧も今様に仕立てられていて、それが加賀屋からのお使いの言い立てと不思議にマッチする・・。
その言い立ての部分が、大向こうを唸らせるほどに見事でした。くっきりした発声にあざとさを感じさせないイントネーションで流れるように語っていく・・・。3度の言い立ての早さなども絶妙にコントローされていて。グルーブ感すら感じるほど・・・。これで客席が一気に暖まりました。そこからの旦那とおかみさんの珍妙な会話は彼女の手の内という感じ。ふくらみが高座にうまれて、落ちもすっと決まったことでした。
・燈籠
太宰治の作品。冒頭のどこか投げやりな感情表現がさらっと観客を物語の世界に引き入れます。淡々とした前半の語りに主人公の日々の鬱屈がに折り込まれていて・・・。それが盗みから交番での開き直りの部分での主人公の箍の外れたような高揚を一層鮮やかに照らし出していきます。
主人公が持ち合わせている性格のようなものが、語られる言葉を凌駕した空気として観客に伝わっていくのです。
だから、鬱屈した雰囲気を覆すような電球の光のエピソードにも沁み入るような力があるし、スノッブな手紙を投げ捨て窓を開け放って叫ぶシーンが鮮烈であっても唐突には感じない・・・。
役者の力量からすると、さらにもう少しひろがる余白はあるとおもうのですが、でも、作品に内包されている主人公のヴィヴィッドな感情は十分な密度で表現されていたように思います。
この企画、Vol.1とのことですが、継続されれば、村井美樹の資質からさらに興味深いものが生み出されていくような気がするのですが・・・。
世界観には息を呑むけれど
高揚と停滞のバックグラウンドにあるものを見つめる視点には
優れたものを感じました。
しかし、単発的な躍動感を感じるシーンや
惹き込まれる想いはあっても
それらのつながり具合が鈍いというか
エンジンが掛かりきれないような感じがあって。
美しい場面や秀逸な演技もけっこうあるのですが
その世界観に耐え得る表現という観点からすると
さらに緻密なお芝居が求められているようにも感じました
ネタバレBOX
地上からある高さだけに伝わっている音楽とか
シャッフルとか
想いの継承のような概念には
それぞれに説得力があるし
ダンスにも観客を呑みこむような力はあるのです。
しかし、舞台の個々のパーツが
今ひとつダイナミックにつながっていかない感じがして・・・。
「もっと全体が開けるように伝わってくるものが
あるはずなのに・・・」という思いが残ったのも事実。
なんというか、観ているうちに不要な重さが
積もっていくような感覚がありました。
推理ドラマテイストのその奥に・・・
推理ドラマ風のテイストがしっかりと作られていて
もろに惹きこまれてしまいましたが、
終演後に心に残っていたのは
謎解きの達成感をはるかに凌駕した
登場人物個々の感情や想いが発する熱のようなものでした。
それぞれのシーンから舞台装置まで
ぞくっとするほどに作りこまれていて・・・。
この劇団の力量、
今更ながらに再認識したことでした。
ネタバレBOX
物語は昭和30年代後半、
幼児誘拐事件の顛末を描いていきます。
舞台上には二つの時間軸がながれます。
事件後の捜査の進展と、
事件に至る3か月前からの出来事と・・・。
スクリーンが巧みに二つの時間を切り分けていく。
家庭の事情、中小企業の現実、さらには警察内の事情が絡み合い
その内側で翻弄される人々の姿が
じわじわと観客に伝わってくる。
シーンごとの密度や切り方のセンスがすごくよいのですよ。
観客が物語を見失うことなく
客観的な事実を積み重ねながら
一方で役者たちの醸し出す心の動きを
がっつりと感じることができるのです。
それぞれの物語の交差のなかで
生きていく人間に多かれ少なかれ生まれる
光と闇のそれぞれが浮かびあがってきて。
役者たちもキャラクターを演じきっていました。
この作品、まさにJACROWの真骨頂かと・・・。
見ごたえたっぷりでありました。
しなやかに浮かび上がる不自由さ
4人の役者達、
それぞれにひとつの仮定に入り込む軽さがすごくよくて・・・。
舞台上のコミュニケーションのスムーズさから浮かんでくる
「不器用さ」に心を捉えられました。
ネタバレBOX
役者の観客に対する素の挨拶から、
シームレスに仮定の世界に入り込んでいく感じに
無抵抗で引き込まれてしまいました。
女性同士のテレパシーでの会話、
最初の困惑からやがてスムーズに心が広げられていく様が
すごくヴィヴィド。
また、男性どうしのやわらかな拒絶と依存が同居するような部分も
なにかすごくわかる・・・。
だからこそ、夫婦と姉弟が
電話で、あるいは直接話すシーンでの
そこはかとない不器用さや不自由さが
すごく自然に伝わってくるのです。
toiを観たときにも感じたのですが、
柴氏がリアリティにちょっと加えた補助線のような設定や仮定には、
現実をさらにクリアに見せる魔法のような力があって。
具現化する役者たちの芝居にもけれんや澱みがなく
観る方も肩の力がすっと抜けた状態で観ていたはずなのに
素舞台に醸成された密度や質感が
たっぷり心に残っていたことでした。
コメディのティストを持った人間劇
初演未見で予備知識もなかった作品。
べたな言い方ですが
とても面白く観てしまいました。
で、観終わった後、
一人ずつの登場人物のことがきちんと残っていて
この物語が巧みに表現している
個々の人物が抱えるものの根源が
じわっと降りてきました。
目を惹く部分もたくさんあって
あとからしなやかに効いてくるようなシーンもあって。
作品も、演出も、役者も
それぞれに深さと旨さがあって
芯からきっちり味のついた
良質な舞台を見せていただいたと感じました
ネタバレBOX
このお芝居の肝のひとつは
ノーマルな人間から見て同一の性癖を持つというだけの
男性たちの個性や内心が
どれだけ明確に出せるかなのだとおもいます。
男優達のお芝居に十分な深さがあって
一人ずつが授かったものや感覚が
単なる台詞や言葉だけでなく
もっと深い部分の共鳴や拒絶としてきちんと伝わってきたことで
物語に表層的な滑稽さだけではなく
(たとえば男性が女装をすることにたいする違和感から発するような笑い)、
もっと深いところにある感覚の温度差や人の気持ちの不器用さからくる
滲み出るようなおかしさが生まれたようにおもいます。
そこに食い込むような二人の女優の出来も抜群で・・・。
それぞれに男性の想いとは異なる色で一番内心に眠っていたピュアな思いが瑞々しく表現されていて、瞠目。
女性を愛した男性と、男性に初めて(?)愛された女性が二人だけで夕暮れから夜までを過ごすシーンや、終幕近くの愛の告白シーンからがっつりとやってくるものがあって・・・。
良質な作品に触れたときに感じる、観終わった後の膨らみ感が
ゆっくりとやってきたことでした。
耽美ではあるけれど
開演前の雰囲気作りから
物語に至るまで
独特の雰囲気に惹きこまれたのは事実
ただ、どこか古風な感覚から抜けきれませんでした。
人間の本質に潜む「何か」の表現が
追い越してしまった時代への「追憶」の範囲を
凌駕できていなかったように思います
ネタバレBOX
このような作品が
前衛的な色として捉えられた時代がきっとあるのだとは思います。
でも、その世界から浮かび上がる感覚が
珍しいものではなくなってしまった昨今では
舞台上の美もかすかに陳腐化してしまったようにも思えて。
美しさは感じるけれど
何かを凌駕して存在しうるほどに
耽美ではなかったかも・・・
よしんばそれが、第二次世界大戦前の話であっても
通常に表現しえない心の闇の普遍性までが
どこか古びてみえてしまうのはちょいとつらい気がするのです。
娼館の掟が縛るものと
縛ることによって解放されるなにかというプロットは
すっと観る者に入ってくるし
表現に破綻があったわけではないのですが
この舞台の存在価値ともなりうる
時代を超えた鮮烈さというか深淵のようなものが
今ひとつ感じられないようにも思いました。
娼婦たちが一同に会する迫力に目を奪われ、
息をのむようなシーンもたくさんあったのですが
それらのエピソードが重なっていく時に
のりしろが十分に合わさっていないような感じもして・・・。
役者達の芝居にもメリハリがあり
見応え十分ではあるのですが・・・
この作品に関しては
個々のシーンが語る事象だけでなく、
そこから醸し出される空気に
さらなる精緻が求められるような気がするのです。
まあ、それだけハードルの高い作品が
演じられているということなのでしょうけれど・・・。