満足度★★★★
メリハリの秀逸
個々のシーンに加えて上演時間をいっぱいに使ったメリハリがしっかりと効いて、ぐいぐいと引き込まれました。
秀逸なエンタティメントをがっつり味わうことができました。
ネタバレBOX
震災の日に予約をしていて(その時も初日だった)、
公演中止になった作品。
会場に足を運ぶまでは、いろんな感慨にひたったりもしたのですが、
舞台が始まるとそんなことは吹っ飛んでしまいました。
冒頭のバイオリンが開演前の客席の雰囲気を落ち着かせ、
観客を舞台に引きいれる。
で、前半そこで展開されるのは、
恣意的な薄っぺらさとともに組み上げられていく
ウェルメイドコメディのテイスト。
肌が粟立つほどにきっちり組み上げられているわけではないのですが、
綱渡りのなかで物語を破綻させない絶妙な粘り腰があって、
脚本で組み上げたものに、演出が醸すぶれのないテイストや
時には役者たちの力技も絡めて
兎にも角にも、その顛末を見せ切ってしまう。
そして、後半になると
まったく異なる質感がすっと立ち上がり
作品のメインディッシュである前半部分の
バックヤードの顛末が供されていきます。
場にはクライムの中にあるテンションが保たれ
その空気に置かれ、
前半を操ったものの姿や
別の視座から眺める
前半のシーンたちの組み上がりに心を奪われているうちに、
見え隠れする5年前の出来ごとや
しっくりと交わらないキャラクターたちから
垣間見えるものがしなやかに観る側に置かれていく。
事の成り行きや回収される伏線の一つずつが
観る側に新たな視野を作り、
何度も場のシチュエーションを染め変え
キャラクター達の素顔と距離を浮かび上がらせていきます。
その一つずつに刹那を力技に頼らない、
仕組みや役者たちのお芝居の秀逸があって。
物語が解け新しい視野が生まれるたびに
目を見開き、得心して、更に目を奪われる・・・。
観る側が、十分に揺さぶられ満ちた後の
ドラマのラストシーンは
突き抜けて美しくパワーがあって。
冒頭と結んでその舞台を閉じるヴァイオリンの音色が、
とても深く豊かに感じられ、
舞台に仕込まれたものの秀逸がすっと心に落ちていきました。
なんだろ、観終わって、もたれることのない、
とてもふくよかな満腹感があって。
まあ、初日ということで、
前半部分にちょっとワタワタした感じや
ほんの少しだけ丸まり重なってしまって
観る側に解けきれなかったしまったロジックの組み上げも
なかったわけではないのですが、
これは、きっと、
ステージを重ねるうちに消滅していくものだと思います。
役者たちの醸し出す密度には、
場に対して平板にならない色があって
ロールの個性もしなやかに残り、
物語にさらなる膨らみを与えていて。
様々に仕組まれたメリハリにしなやかに導かれ、
幾重にも踵を返す終盤の物語の姿にグルーブ感すら生まれて。
舞台自体の展開の面白さに加えて
作家と演出家、そして役者たちそれぞれの力量を
しっかりと感じることが出来た舞台でもありました。
満足度★★★★
魔法のように立ち上がる時間
この劇団、本当に久しぶりに観ましたが、
あらためてその芝居力に驚嘆。
シンプルな舞台に
立ち上がるイメージが深く透明感があって豊か。
重ねられるエピソードが、
様々な色や濃淡、そして物語に変化していくのが
わくわくするほどに面白くて。
同質の手触りとともに演じられた2作品それぞれに
シーンの重なりから現れるイメージや物語の解像度の高さがあり
ベテラン役者たちの描きだすものの瑞々しさや
カジュアルで上質な時間に捉えられ
強く心を惹かれ続けました
ネタバレBOX
・宇宙みそ汁
言葉に力があって、
紡ぎだされるもの、自体の内包する意味と
重なって現れる色や形、
台詞として語られるなかで幾重にも生まれる質感、
それらが場ごとに役者の演技に織り上げられ、
刹那の重なり、風景が生まれ、
古いアパートの風情や街の景色を観る側にひろげ、
語り部達の過ごす時間と想いの色へと編みあがっていく。
役者達に表現を立ち上げさせる言葉の地の強さがあって、
それを組み入れ自らのロールの豊かな感覚として場に重ねていく
役者たちの表現の秀逸が
言葉のひとつずつにさらなる色や深さや輝きを与えていく。
ワンフレーズの密度や、濃淡や、
時に無邪気さや、にび色をした思いや、
透明感をもった行き場のなさが
ビターで、静謐で、腹立たしいほどこっけいで、瑞々しく、
時に鉛のように重く沈み込んだ、
女性の日々の俯瞰へと編みあがって。
冒頭の宇宙から舞い降りて、
みそ汁鍋へと下る発想から生まれた戯画的な飛翔感が
終盤に再び繰り返される中で、日々を生きる実感に感じられて。
言葉の全てを受け取った後の、不思議な透明感の向こうに
その日々を生きることの息遣いが伝わってきて心に残りました。
・無秩序な小さな水のコメディ
3つの小作品、それぞれに
役者達がゆっくりと積み上げる物語のなかに、
剥ぎだされていく今の肌触りがあって。
舞台自体の空気は洒脱で、どこか端正で
感情表現なども物語の枠のうちにとどめられて。
透明感と、
シーンの積み上がりをそのままに受け止めさせる
洗練があって・・・。
でも、そうして、観る側が受け取ったものは、
・・・残る。
残って、さらに膨らむ。
なんだろ、舞台で語られることは
どこか軽質で、コミカルでもあり
すっと入り込んでくるのですが、
観る側に入り込んできたその成り行きは
霧散することなく、むしろさらに内に膨らむのです。
汚された水が導く未来の姿にしても
鯨や地雷のことにしても、
観る側がすっと入り込むことが出来る表層と
行き場のない恐れや怒りが染み入ってくる内側が
すっとひとつの世界にまとめられていて、
観る側に抵抗のなく物語の顛末を追わせるような
口当たりをもった食感ととも供されて。
見終わって、舞台からやってきたものは
さらに解けて。
その質量の大きさを感じつつ、
作品に内包されたしたたかな企みと、
そして、その企みをばらけさせることなく
観る側においていく役者達の豊かな表現の力に
目を瞠ったことでした。
満足度★★★★★
台本と役者たちの纏う齢の絶妙なマッチング
28期を拝見。
初演の良さを引き継ぎつつ、
ベテランの域に入りつつある
まさに脂の乗った役者のお芝居を
ガッツリ楽しみました。
ネタバレBOX
初演も観ていて、
その時の骨組みも十分に記憶していて。
でも、その中に、今回の出演者のテイストが
しなやかに織り込まれていて、
その記憶に作品が内包するさらなる奥行きを感じる。
役者たちのキャリアが
そのまま舞台の設定や織り上がる色を
しなやかに映えさせていきます。
脚本の力というか設定が、
其々の秀逸な演技力での
キャラクターたちのさりげないデフォルメに映え
さらなるもう一歩の味わいを導き出していく。
シーンごとにひとりずつの背負うものが解け
温度が生まれて、
さらにその温度の重なりが観る側に残りつつ、
他の物語が重ねられて・・・。
呪われたように繰り返される
葬式ごとに舞台に垣間見えるものから
個々の過ごした時間や想いにとどまらない
同じ時間の流れに幾度も重なった
同級生たちならではの愛憎や連帯感が生まれ
観る側をも巻き込んでいく。
いい年した大人たちの容貌に、
彼らの学生時代の雰囲気や
クラスの男子・女子みたいな空気の肌触りが
絶妙に醸し出されて・・・。
また、バーのタイトな空間が
その肌触りを霧散させることなく、
しっかりと観る側を浸し込む。
そして、そのベースをもった視座だからこそ
浮かび上がるキャラクターの色合いや
俯瞰しうる彼らの齢の肌触りがあって。
彼らが作り上げた時間の
ちょっとビターで、どこか懐かしく、
そこにまた帰ってきたいような居心地をもった舞台の余韻が
終演後もしばらく抜けませんでした。
満足度★★★★
シーンごとの様々な密度と息遣い
シーンごとのニュアンスがキャッチィで
時間を感じることなくその重なりを楽しむことができました。
戯曲も強かだと思うのですが、
それを空気として舞台に編み上げ積んでいく
作り手や役者達にもシーンを見続けさせる魅力がありました。
ネタバレBOX
いくつかのシーンがルーズに撚り合わさっていくのですが
それぞれの断片の歩みが
恣意的に貫きを減じたような部分があって。
シーンの色も統一感があるわけではなく、
時にクリアで、あるときには汗臭く、
ドキドキさせたり、まったりしたり、
やわらかくときめいたり、鈍く深くビターだったり。
それらがシーンが重なる中で
毎日を生きる肌合いのなかに束ねられていく。
場の揺らぎが
空気のボディと透明感の比率で
絶妙にコントロールされていて、
シーンの切り取り方や
ちょっとした感覚へのデフォルメも
場ごとの感覚に肌合いを作り出して。
ルーズであいまいな変化が
役者の息遣いや心のほどけ方に染められて
映える。
次第に
舫を解かれたような昂揚や寂寥が
シーンのつながりからかもし出されて。
さらにはそのどの感覚にも染められない
空白が浮かび上がって。
戯曲の仕組みによって
組み上げられた時間ではあると思うのです。
でも、台詞や物語のデザインから
さらに立ち上がる役者達の醸しだす刹那ごとの感性が
尖ったり急いだりことなくシーンに満ちていて
ふっと観る側が内側に引き入れられるような感じがあって。
初日の時点では、シーンの重なりに
すこしだけ互いの色が映えない部分や
逆に不要なメリハリが生まれていましたが
公演を重ねていけば、
役者達がそれぞれのシーンに編み上げるものが
さらなる肌触りを生み出す予感もあって。
公演の後半に
作品の質感がどこにまでに至るのか
確かめたい誘惑に駆られてしまいました。
満足度★★★★
役者が真直ぐに脚本に乗って
役者達の個々に力を感じつつ、
個人技ではなく、あくまで脚本の力で
物語に観る側を引き込み、
笑いもとって・・・。
その舞台力にしっかりと引き込まれました。
ネタバレBOX
この作品、初演も観ていて、
中盤からのぶれのようなものに
息を呑んだ記憶があって・・・。
今回、その感覚が、
劇場の大きさ分凄くなった感じ。
で、その歪み方が、あざとさを模さず
不思議なくらいナチュラルに。
キャラクターの色をきっちりと舞台に乗せていく
舞台の流れがあって、
その流れが役者達もしっかりと舞台の流れにのって
物語を紡ぎこんでいく。
個々の役者の個性はたっぷりと感じるのですが、
それが個人的な踏出しなどではなく、
舞台の空気の流れにのって
やってくる感じ。
毒カレー(ハヤシ)事件や裁判員裁判のほかにも、
さまざまな要素がごった煮のように盛り込まれ、
だんだんシュールに舞台上の価値観が揺らいでいくのですが、
それらのことが、団子になったり交じり合ったりすることなく
ちゃんと観る側に収まっていく。
一人ずつの役者が演じるものの色や質感もきっちり残るし
舞台上の色の変化もくっきりと感じられて。
でも、すこしももたれることなく、
要所がすごくシュールでこっけいで可笑しくて。
終わってみれば、大好きな役者達の豊かなお芝居を楽しみつつ
物語に浸り、笑い、その先に浮かび上がってくる感覚に
しっかりと取り込まれて。。。、
時間があっという間でした。
満足度★★★
突き抜けるパワーが生まれれば
公開リハを拝見しました。
随所に役者の勢いを感じる舞台でしたが、
台本の想定した役者の突き抜けには
もう一汗という感じもしました。
ネタバレBOX
役者それぞれに2役が課せられていて、(親子・姉妹)
それぞれの色がしっかりと作られないと
舞台がうまく回らない舞台。
また、同時に、
よきにつけ悪しきにつけ、ラフさをたっぷり内包していて、
演じる側には
それを凌駕するつきぬけを求められる台本。
演じる側の力量が問われる舞台だなぁと思う。
私が見た回は公開リハということで、
まだ、力の入り方にまだらな部分も感じましたが、
いくつかのシーンには
台本の自由さを足がかりに
笑いを膨らませるような演技のつきぬけを感じました。
ただ、2つのキャラクターを行き来するうちに
演技の切り替えがルーズになるような場面があったり、
本来、さらに観る側を巻き込んでいくべき終盤に
ちょっとバテてしまった感じもあって、
さらに改善し伸ばす余白も多い舞台かなぁとも思う。
さまざまなものが、それぞれにもう半歩伸びると
観る側をぐいぐい引っ張り込むような力をもった
舞台が現出するような気もするのですが、
公開リハの段階では、
まだ兆しにとどまる部分も多かったような気がしました。
そうそう、役者それぞれの個性には
いろんな魅力を感じることができました。
「ガソリンで・・・」みたいな台詞からかもし出される役者の表情には
見る側をがっつりとりこむ説得力のようなものがあって
ちょいと見入ってしまいました。
満足度★★★★
外連が圧倒的
初日を拝見。
冒頭こそ、ばらついた感じがありましたが、
中盤以降はぐいぐいとおもしろく・・・。
とても楽しませて頂きました。
ネタバレBOX
正直なところ、
最初は舞台上にいまいち噛み合っていない部分があって、
なんだろ、役者たちが、それぞれに探り合っているような感じもあって。
それでも、少しずつペースを掴んで
次第に物語の輪郭が見えてきた矢先の
ザンヨウコのものすごいインパクトを持った登場で
一気に舞台がまとまって。
舞台というよりも劇場の空気が変わった気がした。
そうなると、舞台上の様々なことが
いちいち面白くて・・・。
伏線のはり方なども、したたかなものからあからさまなものまで
バリエーションが様々にあって、
それが、一つずつ回収されていく。
終盤の養護教師の場を一気に変える
「音痴」の演技など実に秀逸、
あれはもう、至芸の域というか・・・。
気が付けば、展開に翻弄され
あざとさを感じることなく
ラフでなにか、良さげな終わり方を
あたたかい気持ちになって受け入れている。
後には、不可思議だけれど
心地よい充実感というか、
劇団10年のおすそわけのような充足感が
残って。
役者たちの、豊かなかぶきや
伸びやかで安定した突き抜けを楽しみつつ、
ほくほくと家路をたどることができました。
満足度★★★★★
とにかくおもしろい
一週間がかりでサポートアクトを含めた全演目を拝見。
豊かなバリエーションを感じる一方で、この劇団ならではの描き方のクリアさや半歩踏み出した遊び心、そして肌に伝わってくるようなビビッドさを感じ続けて。
どの作品も漏れなく堪能いたしました。
しかも、そこに完成形を観るのではなく、
さらなる伸びシロへの期待が生まれてくるのが凄いなぁと舌を巻きました。
ネタバレBOX
*プログラム[A]
「スピードの中味」
ダブルキャストのA1/A2バージョンがあって、A1は7日19時30分、A2は15日15時の回を観劇。
A1を観た時には、特に前半、
物語を追いかけてひたすら見入る。
会社などの会議風に味付けされた場面ごとの言葉や小道具、
さらには含蓄のある台詞に惹きつけられて
舞台が現わそうとするもの自然に追いかけて。
で、終盤に組み上がったものが
人が生きることの感覚に繋がり視野がすっと開けると
振り返って描かれていたことの一つずつに
しっかりと意味が生まれ面白い。
観終わって、べたな言い方ですが、
もう少し、舞台に織り込まれたものに
早く気付けばとちょっと自分に対して残念だったりも。
A2は内容を知ってみているので、
それぞれのシーンに込められたニュアンスを
一歩踏み込んで受け取ることができたように思います。
そうすると、作品への視座が少し変わって、
物語の仕組みの面白さにとどまらない
登場人物それぞれの個性のようなものが
奥行きをもって伝わってきて。
A1の時に終盤振り返って気がついたおもしろさが
さらなる新鮮な踏み込みをもってやってくる。
ダブルキャストの部分の役者さんの個性も
かなり違って見えて面白かった。
A1ではクッキリとエッジを作って演じられたものが
A2では表層のフォーカスを柔らかくして演じられて。
刹那の印象はA1の方が強いのですが、
A2には観る側に戯曲の仕組みに紐づいた
ロールの深さのようなものも生まれていて。
それは、役者さんの演じ方に加えて、
観る側の物語への理解度が影響している部分も
あるように思うのですが、
どちらが良いということではなく、
それぞれの色から舞台に
別の質感がやってくることにも惹かれてしまいました。
この作品、いつかもう一度観れば、
さらに異なる見え方がやってくるのではともおもったり・・・。
*プログラム[B]
17日16時の回を観劇
「マキシマム・オーバードライブ」
タイトルコールなどもあからさまで小洒落ていて、
その冒頭のくすぐりから
笑いがわかりやすいというか、
ベタでまっすぐな仕掛けが笑いを導いていく。
でも、役者たちがひとつずつの台詞から間までを
クリアにくっきりと編み上げているから
それぞれの場がべたついたり
あいまいでもわっとした膨らみにならず、
きちんとエッジをもった物語として組みあがってくるのです。
今様なアレンジや差込みも作品を研ぐ
秀逸なスパイスとなって
とてもシンプルに物語の骨格が観る側をまっすぐに楽しませる、
落ちも鮮やか・・・。
終わってみれば、理屈抜きに
わかりやすくて面白かったです。
よく作り込まれたものを
とてもシンプルに堪能することができました。
「サマーキャンプ」
こちらの作品も、「マキシマム・・」とは別のニュアンスで
トーンがよくコントロールされていて。
舞台に物語る実直なテンションがあるから、
観る側はそのままにことの成り行きを追ってしまう。
物語の展開を予想させる伏線の張り方も良い具合で、
厚みはないのですが、
でも場の積み重なりに観る側を繋ぐニュアンスは
しっかりと埋め込まれていて・・・。
だから、山小屋での夢のなかで、
妹の薬を何とかするためにツアーに参加した
男が病に倒れる展開も違和感なく受け取れたし、
何の衒いもなく
夢と同じ展開が現出しても、作品が描くものを
濃く上書きしているくらいのイメージしかなかった。
そこまで着々と観る側を、
恣意的に作られた作品の平板さに閉じ込めておいて
返す踵の鮮やかなこと。
周りの付和雷同ぶりもおかしくて、
でもその先に、兄妹の関係をはじめとする
さまざまな価値観がおりなす人生の綾や
生きるということの価値の質感が浮かんできて、
じわっと深く捉えられたことでした。
*プログラム[C]
11日19時30分の回を観劇
「ズー・ヴァリエーション」
印象として、派手さなどはないのだけれど
お洒落なのですよ。
フランスの軽くて、
でも発酵バターがベースでしっかりと聞いている
特に高級菓子というわけでもない
ラング・ド・シャの食感を楽しむような・・・。
リーディングの態で
戯曲の仕組みから物語の骨組みが真直ぐに抽出されていて、
その仕掛けの面白さに惹かれるのですが、
でも、観ていて、より心を持っていかれるのは
その骨組に肉付けされた
キャラクターたちそれぞれの雰囲気だったりする。
じゃあ、骨組みが登場人物の色に隠れてしまうかといえば、
そんなことはなくて、
さらに面白いと思うのは
やっぱりキャラクターたちの雰囲気の先にある
物語だったりするのです。
それはとても不思議な感覚で、
舞台に置かれた面白さの
二つの要素が互いに互いを映えさせて、
その両方の重なりを楽しんでしまいました。
「きいてごらんよ、雲雀の声を」
場の空気に一様でないテンションが作られ
役者達それぞれからやってくる雰囲気が
少しずつ変化してゆっくりとあせることなく織り上げられて。
必ずしも会話の内容を味わう劇というわけでもなく、
むしろ会話に至るまでの空気にこそ強く捉われて。
そして、そこがしっかりと満ちているから
シーンごとにトーンを変化させ、
異なる風貌を作り上げていく役者達の力量が、
あからさまに、かつしなやかに伝わってくる。
単に物語全体の中での変化にとどまらない
シーンの内側の刹那ごとに解像度を育むような
それぞれの台詞の質感の作り方の秀逸目を瞠る。
特に妻を演じた女優が紡ぎだす空気には
まわりにかもし出されたテンションや色に染っても塗りこめられない、
さらなる内側の密度が作られていて。
個々の役者のかもし出す場を
彼女自体の揺らぎから浮かび上がるものを埋もれさせることなく、
纏っていく。
なんだろ、単純に物語を追うにとどまらない、
舞台全体に強い吸引力をうむ
さまざまなテイストの重なりに圧倒されて。
その刹那ごとに惹きこまれ
気が付けば舞台の空気に深く囚われてしまっておりました。
・おまけ「マクベスのあらすじ」
さらっと始まる。
気がつけば魔女がいるし、
夫人の殺意も恐ろしいくらいにカジュアルに表現されて。
ことのなり行きの軽いのなんの・・・。
でもそこに、あのマクベスの骨格が
結構しっかりと現れてくる。
「なんだこれ」とか思いつつ、
その物語の顛末に、嘘のようにわくわくしてしまう。
結局、マクベクという戯曲のスピリットの抽出とその具象化に対する
作り手の圧倒的な精度の高さがあるから成り立つ作品なのだろうし、
これができるからこそ、
今回の演劇展の他の作品も、不要な澱みや重さを持たず
常にクリアさをもってやってくるのだと思う。
わずか10分の掌編でありながら、
作り手の研がれた刃先をしっかりと感じ
ぞくっとしてしまいました。
*** ***
ちなみにA1/A2にはサポートアクトがありました。
主宰が教鞭をとる短大の生徒や卒業生の作品とのしたが、
それぞれに
表現に対する自由さや丁寧さ、
さらにそれらを裏打ちする真摯さを感じることができました。
・coucou(クク) 「こないだのレシート」
レシートから引き出される時間や生活の質感がやってくる。
表現に観る側が委ねうる安定感があって、
舞台に置かれていく感覚や揺らぎもビビッドに伝わってくる。
ただ、表現の綺麗さに流れてしまうというか
そのうちに丸められてしまったようなものがあるようにも思えて、
もう少しラフで危なっかしさがあってもよいから
そこからさらに解けるものを観たいようにも感じました。
・カシマシ 「タイトル未定」
バレエのメソッドでの表現がしっかりと安定していて、
だからこそ二人の身体から溢れだしてくるものを
そのままに受け取ることができて。
さらに、随所に、躍動感も感じる。
表現に澱みがなく、
心の刹那の表情にも思える表現が、
様々に気持ち良く伝わってくる。
描かれた時間に作品が閉じこもってループするのではなく、
さらに外側への広がりもあって、
目を惹かれました。
満足度★★★★
恣意的なラフさからの本音の抽出
個々のキャラクターの心情など
かなり細かく作り込まれて居る感じがあって。
そこに、恣意的にラフな展開をかぶせて
しだいに抽出していくようなタッチを生みだし
観る側を飽きさせず、
物語やそれぞれの内心を追わせていく。
作り手は男女の機微を、したたかに掌に載せている感があって。
おもしろく、まるっと観てしまい、
男女の関係の綾のようなものまで
受け取り、
得心してしまいました。
ネタバレBOX
冒頭にモノクロっぽく差し込まれたシーンも
後半にしっかり生きて、
どこか突飛な物語構成であっても
観る側を次第に招き入れるような説得力があって。
わちゃわちゃした部分も、
いろんな過去の時間とのしがらみも、
全体でみるとどこかうそっぽい男女の関係も、
一つずつのエピソードとしてシーンの重なりをみると
きちんと作り込まれていて
観ていて不思議にそのうそっぽさが感じられなくなってしまう。
キャラクターたちの描き方もうまいのですよ。
隣の住人の嫉妬深さと料理のうまさにしても、
そのヒモの話にしても、
先生に惚れる女子中学生にしても、
ダメな部分はベタに薄っぺらく、
まっとうな部分は一歩踏み込んで現れるように
表裏が作られていて、
それが、物語が進むにつれて、
男女の機微の奥行きとして機能していく。
主役には、それらを束ねていく存在感があって、
押えて耐えて最後に包丁を持ち出すまでの積み重ねが
しっかりと貫かれていて、
心が揺らいでもぶれない芯を描きだす力があるから、
観る側も舞台のカオスに巻き込まれることなく、
その先にあるものを垣間見ることができるのです。
ちょっと言葉をためらう出会い方をした
主人公たち、
育ちも価値観も違うふたりが心を通わせるためには
包丁の一本も出てこなければいけないのかなぁなどと
妙に納得したり・・・。
すっと浮かぶ嫉妬心や横恋慕の質感の作り方も
とてもナチュラルで・・・。
観終わって
その近さとめんどうくささをしっかりと残す
作り手の男女の描き方に感心したことでした。
満足度★★★★
ナチュラルさとデフォルメの相乗効果
主人公3人の鬱屈した気持ちを舞台に映えさせる
周りのキャラクターたちのデフォルメが実にしたたか。
彼女たちの想いに
じわっと染められてしまいました。
ネタバレBOX
主人公の3人の女性たちは
控えめであっても貫くキャラクターがあって。
平凡だし、弱さがあるとはいっても
生身の女性の感情がしっかりと透けて見える演技に
支えられて、観る側に印象をしっかりと築きあげる。
さらに、それぞれを取り囲むキャラクターたちに
際立ったデフォルメがあって、
彼女たちの想いや感情を浮かび上がらせていく。
それがあざとくなく、でも際立った部分が作り込まれていて
しかもワンポイントではなく
家やバイト先の居酒屋や制作会社(?)の
世界を背負って描かれていて。
派手な印象は特にないのに、
でも主人公たちと支えるお芝居が
実にしたたかに重ね合わされて、
醸される感情がぼやけずクリアに
観る側に伝わってきます。
だからこそ、そこからさらに先に進む彼女たちの姿の高揚感も
観る側が流すことなく
そのままに受け取ることができて。
主人公たちと周りのキャラクターを背負う
役者たちのお芝居がブレなく貫かれているからこそ
成り立つ感覚ではあると思うのですが、
一方で、それらをしっかりと機能させた作り手の
手腕の確かさを感じたりも。
前回公演から続いての観る側が委ねうる舞台に
この作り手の作品をさらに観たくなりまし
満足度★★★★
姦しさの楽しさ
物語を楽しむというよりは、
シチュエーションの中での
役者の魅力を楽しむ感じ。
物語の風情に緩やかに染まりながら、
時にはタイトに作りこみ
あるいはルーズに解け、
さらには艶にも捕らえられ
役者達のかもし出す空気を
たっぷり楽しむことができました。
ネタバレBOX
とも冒頭から場にしっかりとした吸引力が生まれて・・・。
すっと場の空気が立ち上がる。
勢いを作って場を広げたり、
密度を上げて想いのトーンを際立たせたり・・・。
ツケの音色とともにエッジを作り、
場の切り替えや
キャラクターの心情が淀むことなく舞台に重ねられていく。
伸びやかな姦しさや、
ひとり、ふたり、さんにんと
それぞれのシチュエーションごとに、
場を背負う役者の力量やかもし出される色に
いちいち目が釘付けになって。
正直言って物語の顛末に強く惹かれたりというのは
あまりなかったのですが、
でも、物語に織り込まれた時代の風情は
しっかりとつくりこまれていて。
また、劇場の使い方にしても、
ゲストの取り込み方にしても、
遊び心がてんこもりなのですが、
それが場をばらけさせないように、
物語につなぎとめられているような部分もあって、
だからこそ引き出される役者の魅力に舞台がドンドン満ちてくる。
ポップな感覚と、シーンに織り込まれる
作りこまれたキャラクターたちの想いが
絶妙に互いを映えさせて。
厚みのあるドラマだとは思わなかったけれど、
終演後には、たっぷりと満たされていて。
ほんと、女優たちの
場ごとの演技の
脂の乗り方にがっつりやられたことでした。
満足度★★★★
前回とは異なる魅力を持ちながら
前回公演とは、質感の異なる肌触りでしたが、
ひとつの時間や場に観る側を惹きつけ取り込む力に
この劇団のベースにある安定した作劇力を感じて。
作り手たちにはさらにる引き出しがあるようにも思えて
次回公演も楽しみになりました。
ネタバレBOX
前回公演では、
ある意味恣意的なラフさから生まれたテイストが
舞台の勢いを作っていたような部分があったのですが、
今回は逆に舞台上のバリのようなものを排して
刹那そのものやその繋がりをしっかりと研いだ感じがあって。
物語のプロット自体が極めて斬新という感じはしないのですが、
エピソードたちの組み上げ方に、
投げっぱにされない丁寧さと、
そこから醸し出される広がりがあり、
舞台のテンションもぶれることなく育まれ
観る側に次を追わせ、
一歩ずつ着実に舞台に惹きこんでいく。
キャラクターたちにも、
表見に薄っぺらく見える部分を作りながら、
次第に現れる奥行きが仕込まれていて・・・。
コミカルな部分にしても、伝わってくる感情にしても、
前回公演とは別のベクトルでの
観る側を引き入れるもう半歩があって。
終盤には
ビターでくっきりとエッジをもった感覚に
しっかりと捉えられ、
観終わって、
作り手たちの底力のようなものを感じたことでした。
この劇団は2度目の観劇だったのですが、
異なる質感の作品であっても
観て面白いと言葉にできるものとは異なる、
無意識の領域を刺激するような
共通した不思議な魅力があって。
次もみたいなぁと素直に思ったり。
満足度★★★★
起伏に富んだ日々と人生のボリューム感
出生の秘密からして破天荒な物語でありながら、
それがそのなかに生きるキャラクターの
人生の起伏としてしなやかに積もっていく。
長めの尺も、生きるボリューム感として
作品を豊かに膨らませて観る側を満たす。
作り手流に描きだした女の一生が
とても瑞々しく感じられました
ネタバレBOX
終わってみればまごうことなき
女性の一代記。
個々のエピソードはかなりユニークでぶっ飛んでいたりもするのですが、
でも、それが単純な滑稽さに終わるのではなく
それぞれの場面を生きていく主人公の
日々を過ごすひたむきさと良い意味での軽質さを
しなやかに浮かび上がらせていく。
シーンが一つずつ重ねられるたびに
主人公の人生に訪れる大きな節目のさりげない質感も印象的。
時に必死に、あるいは淡々と
過ごしていく時間に起伏がうまれ積もって。
塊として観てしまえば、
あざといほどに波乱万丈な人生なのですが、
それぞれの時間を生きる瑞々しさがしっかりと作り込まれているので
観る側は飽くことなく、
主人公の時間を追いかけてしまうのです。
外枠として差し込まれる、
彼女の終焉の日々の風景が
主人公の人生をいたずらに霧散させることなく一つに束ね、
その広がりのありようを観る側にしなやかに渡して。
奇想天外な物語でありながら、
ラストシーンを本当に美しいと思った。
単に場面ごとに物語るものとは異なる
作り手の描きだす世界があって、
シーンごとを楽しむのとはことなる
心の捉えられ方があって。
主人公の人生を繋いだ二人の役者や、
そこに重なるキャラクターを演じきった役者たちにも、
ふくよかさと初日を感じさせない安定がありつつ、
さらに満ちていく予感も感じて。
心地よい見応えと
キャラクターの生きる質感に
すっかりと浸されてしまいました。
満足度★★★★★
むかしむかしの立ち位置から見えるもの
物語のフォーマットであるネオ昔話のようなものに
すっと心を開いてしまい、
だからこそ受け取ることができた
その世界に漉きこまれたものが
深くこころを染めていきました。
作り手が、作品の織り上げ方に
さらなる手法を手にいれたようにも感じました。
ネタバレBOX
語る態での導入がとても効果的で、
観る側を一旦現実からすっと切り離してくれる。
そこから次第に紡ぎあげる物語も
密度が拡散せずに
物語としての前提や骨格と
しっかりとした空気が
まっすぐに観る側に伝わってきます。
むかしばなし的なシンプルさと、
奇異なことをもそのままに観る側に受け入れさせてしまう包容力と
どこか滑稽な感じも、ちょっと哀れな風情も、
恐ろしげな場面も、
むかしばなしの枠組みの中に収まると、
そのまま観る側が受け取ってしまう。
しかも、役者たちそれぞれに、
むかしばなしを纏いつつ、
一方で舞台を平板にすることなく、
それぞれのロールの色をビビッドに作りだす力があって。
物語は単に筋書きをたどるにとどまらず、
その筋書きに繋がれた思いの重なりとして
観る側に組み上げていくのです。
まるで、子供のごとく、
ノーガードで物語をそのままに追わせ、
浸り込ませる力が
舞台にはあって・・・。
そこまでに観る側を捉えておいた上で
作り手は、物語に漉きこんだ観る側の今を
少しずつ露わにしていきます。
むかしばなしでは割に定番の
立ち入ってはいけない場所のタブー。
その中にフォーカスを緩めて包み込むからこそ
あからさまに浮かび上がり俯瞰されるものがある。
その場所の大昔にすっと観る側の今を重ね合わせて、
物語と観る側の過ごす今の間に
時間軸を描きだして。
物語の事象に観る側の今日との因果が現れて
むかしばなしの枠組への視野が
目を閉じることも、心を閉ざすこともできずに、
観る側の時間から眺める未来へと置き換わる。
キツネたちが絡み、人が人でありつづげることなく
やがて滅失していくような感覚、
それは、むかしばなしの態だからこその
やわらかで懐かしい肌触りとともに
観る側に深く沁み込んで。
やがて、今を生きることの
どこか底知れないおどろおどろしさを秘めた
リアリティが
物語に埋め込まれた、
その中でも変わることのない
人を想う気持ち、さらにはキツネたちに抱く
様々な普遍的な心の肌触りと共に降りてきて息を呑む。
美術もその場所の内の世界の密度と
外の広がりを、
むかしばなしのファンタジーの色と共に
観る側に届けてくれていて、
実に秀逸。
作り手は、これまでに持っていた引き出しのいくつかから
さらなる新しい引き出しを創り出したように思えて。
従前のリーディング公演などで見せた
イメージや表現の間口や独特のテイストが
さらなる引き出しを創り出していくような感じもあって
今後の作品の広がりが本当に楽しみになりました。
満足度★★★★
いろんなバージョンを観る楽しさも
女性2人バージョンの内ふた組を拝見。
それぞれの世界の完成度に加えて
バージョン感のテイストの異なりも面白くて。
作品の懐の深さを実感
ネタバレBOX
この作品は演劇形式でもリーディングでも何度も見て
内容もよく知っている作品なのですが
にもかかわらず、それぞれの役者たちが織りなす時間に、
観る側が既知の作品であることを忘れさせる
豊かなテイストがあって、
しっかりとその流れを追わせてくれる。
17時の回は冒頭からキャラクターがしっかりと作りこまれていて
観る側をあっという間に二人の時間に引き入れる力があって・・・。
二人がそれぞれに戯曲を読み込んでいて、
お互いの手の内に作品の流れが明確にあって
だからこそのしっかり見切った距離感や
阿吽の呼吸が生まれていて。
でも、そこに収まるという感じが役者に観られないのが凄く良い。
醸し出された膨らみから、
互いに踏み出し
さらに生みだされたビビッドな奥行きには
戯曲の行間をさらに超えた
ふたりの空間を感じて。
両方とも関西出身の役者さんなので、
個人的にそのキャラクターの染め方や
間のとり方にも、抜群の安定感があって、
しかも、空気が貫かれていても、
佇んだり澱んだり硬直することなく
しなやかに膨らんでいく。
ほんと、満ちたパフォーマンスでした。
20時の回、前回の公演と同じ役者での公演予定が
そのうちの一人が急病とのことで
急遽代役を立てての公演。
稽古も通常よりはるかに少ない状態での
本番だったそう。
でも、二人の役者たちは
焦ることなく、たがいに空気を探りながら
ゆっくりと自らのペースを撚り込んで
その場の物語を組み上げ、広げていく。
冒頭の数分には、
観る側にも息をつめて、
二人に現れるテイストを探る感じがあったのですが、
それが、戯曲に重なり始めると
これまでのどのバージョンにもなかった
初対面の場のリアリティに変わって・・・。
一旦物語が解け始めると
それぞれの役者たちが
自らの紡ぎあげる色を楽しむような風情が生まれ始める。
刹那にそれぞれが自らの世界を組み込み、
すると、それを受け取り自らにとり込んでの
色のふくらみが生まれていく。
そのシーンごとの空気が、
観る側を強く惹きつけてくれる。
本当に一瞬の空気の澱みや
投げっぱになった印象がなかったわけではないのですが、
それも含めて、場に現れてくるものに、
これまでのバージョンとは異なる
様々なフォーカスのビビッドなおもしろさがあって
気が付けば二人が互いに醸し出す世界に
すっかりと身を委ねてしまっていて。
前回観た、予定されていた役者の方でのバージョンも
非常に高い完成度があって
囚われてしまったのですが、
今回のバージョンには、
それと全く異なるベクトルの吸引力が生まれていて。
このフォーマットの懐に深さに舌を巻き、
さらにいろんな役者さんが、
そのパフォーマンスで生みだす世界を
観たいと強く思いました。
満足度★★★★
心風景の組み上がりに驚く
その世界を追わせる前半と、
内側の構成から次第に組み上がる
とてもナチュラルな心風景・・・、
作劇の仕組みとそこから浮かび上がる質感に
すっかりとりこまれてしまいました。
ネタバレBOX
冒頭からさまざまに切り取られる時間、
それは記録のように思えたり、
記憶の質感であったり・・・。
その両方であったり。
その場に集う人々も
断片的な印象としてみる側に置かれて。
でも、舞台空間が具象するものが見えるまで、
エピソードのイメージがルーズにならず
リズムや切っ先をもって演じられて、
観る側に、少女っぽい装飾のその場の位置づけを
きっちりと追わせてくれて。
そのなかで、舞台上の時間軸にも
その場にも、さらにはその中に置かれたキャラクターたちにも
具象するものが生まれ、
シチュエーションが露わになり、
役者達がルーズにくみ上げていた空気が
意図をもって絡まり始める・・・。
いままで、どこか薄っぺらくさえ思えていた
脳内のキャラクターたちが、
その薄っぺらさだからこその、
質量をなくしたような軽質な肌触りを
紡ぎだしていくのです。
気がつけば、
空間は内心の有様に姿を変えて、
去来し漂う意識と無意識の端境のような想いが
その場を満たしていく。
渋谷の風景、マグドナルド、通りの景色・・・。
浮かび上がる記憶、
そして、意外な形で湧き上がる死の衝動の質感があって、
そこに理ではなく、むしろ本能的に生き続けようという想いが交差して。
キャラクターたちの姿が
その重なりの先に別な色を紡ぎ
内心のざわめきのような想いへと変貌し、
観る側をその成り行きの先へとのめりこませていく。
終盤に、その場の狂言回しが明らかになって、
ちょっと考えおちのように座標軸の0の姿が暗示され、
さらもうひとつ、
恣意的に、別腹のように
命の醒めた質感までが導き出されて・・。
冒頭とは様変わりの
透き通ったひとときの揺らぎに
強く心を奪われて。
観終わって、物語を受け取ったというよりは、
少女の、無意識のなかに去来するような
細微な心風景の移いの肌触りが残る。
役者達のお芝居も、
単なる調和に陥らないしっかりとした色の貫きがあって、
いくつもの刹那のイメージを、
沈殿させることなく、ざらつきや濃淡をそのままに、
ひとつの空間の質感に撚りあげて。
作り手の、想いの切り取り方と
デッサン力に舌を巻き、
残った感触のリアリティに
さらに心を惹かれたことでした。
満足度★★★★★
いつのまに、演じる筋肉がムキムキに・・
3つの短編でしたが、
いずれの作品にも、
脚本を生かすための役者達の演じる筋肉のようなものを感じて。
揺らぎや迷いのない演技からくみ上げられる世界に、
しっかりと嵌ってしまいました。
ネタバレBOX
味わい堂々を最初に見たのは、
数年前のアトリエセンティオでの「味見」公演だったと記憶しているのですが、
そのときには、ちょっとグタグタな部分も味のうちという感じで、
作品に含まれていた煌きのようなものを
拾いつつ味わっていた覚えがあって。
しかし、今回は、
作品を維持し、戯曲の味わいを支える
役者達の筋肉がまるで違っていて・・・。
3つの作品、それぞれに、
舞台上に置くには異なるタフさがあり、
もし、数年前の役者たちだったら、
その味わいを引き出す前に腰が砕けてしまったかもしれない。
でも、今の彼女たちには
その骨組みや一筋縄では表しえないものを
むしろ自らの武器の強度や切っ先として
世界を編み上げていく力があって。
役者達の演じあげていくロールに
互いに交じり合わない、
キャラクターの色が立ち上がり
その物理的・空気感の位置取り、
距離感や重なりのバリエーションが
戯曲を芯において、場の空気をしなやかに編み上げていく。
作品ごと、さらには刹那ごとに
観る側がゆだねうるボディがあって、
ぶれや逡巡に陥らない、
しっかりと戯曲のニュアンスを紡ぎだし、遊び、編み上げる
表現の力が備わっているから、
体長うん百メートルの都知事が見えるし、
コンビニの常ならぬ平凡な時間に絡めとられるし、
わけのわからない血のつながりにも実存間が生まれる。
劇間のぐたぐたなつなぎも、
その部分の洗練で勝負しなくても、
見せるものを持った彼女たちの余裕の表れのように思えたり。
事実、変にこじゃれたつなぎをされるより、
場の印象がリセットされることで
ひとつずつの作品をより深く味わうことができたりもして。
客演の役者も、
彼女たちの演技にひきづられることなく、
自らのトーンで作品にさらなる奥行きを与えて、
そこにさらなる作品の奥行きが生まれて。
その筋肉だからこそ扱える
表現の剣の扱い方や切れ味を目の当たりにして。
彼女たちのこの筋肉は
それぞれが自らの公演にとどまらず、
あちらこちらの劇団に客演し、
武者修行をした成果なのかなとも思いつつ・・・。、
終演時にはしっかりと満たされたその先に
彼女たちの作劇の新しい広がりへの期待が
ふつふつと沸き起こってきたことでした。。
満足度★★★★
土曜日の午後一番を観劇
ここ何回かの公演では
もたつきからやってくるカオスがだいぶ薄れ、
同じ混沌のなかに
作り手の作為が見えてきたように思います。
今回はその歩みがさらに新しい境地に踏み出した印象がありました。
ネタバレBOX
うまく言えないのですが、
役者達も、自分が何を表現しているのかということを
観客にしっかりと伝え始めた印象があって。
作り手も表現の切っ先を意図を持ってコントロールできるようになっていて
役者達もひたすら与えられた役割をこなすというような感じから
おはぎライブというフォーマットのなかでの
表現の一端を担う感じに換わって見えました。
これまでも観るごとに変化や進化を感じたバナナですが、
今後、
さらなる洗練が生まれるような
予感もありました。
満足度★★★★
万博をトリガーにして
EXPOというタイトルの如く、
作品ごとの表現にそれぞれの時代の異なる味わいがあって、
しかもそれぞれが時代の風情を背負って
しっかりと編み上げていて。
作品ごとの切り口や
映像などの使い方にも作り手の表現のセンスと
創意が満ちていて・・・。
個々の作品の肌合いに惹かれているうちに
作品自体に仕込まれた
不思議な時代感覚に染められてしまいました。
ネタバレBOX
万国博を織り込んで、
戦後の高度経済成長期の終わりから
バブル崩壊のどん底までの時代を
5つの短編でつづっていく。
EXPOを入口との作品が
個々のの味わいをもって、
高い完成度とともに観る側に供されていきます。
’70、
冒頭の作品は
時代の俯瞰を役者がしっかり背負って。
レゴで形作られたイメージなども編み込んで
作り手が観たことのないという世界を描き出していきます。
映像などの記録と想像絡めて組み上げられていく感触jに
通り過ぎた者の滅失した記憶のなかにあるものが
きっちりと重なって。
演じ手の描きだす力とともに膨らんだ、
感覚に込められたその時代の解像度の粗さと
打からこそ感じていた勢いのようなものが
強く印象にのこりました。
’75
夫婦の距離感というか、
意地の張り方にこめられた感触には、
その時代の風情のモダンさやシニカルな冷感があって、
どこかに垢ぬけない意固地さものこった
時代の風景が浮かんでくる。
自由な関係のなかに
馴染みきれない不器用さのようなものも伝わってきて
その時代の空気の醒め方と、
洗練されきらない時代の質感が染み入るようにやってくるのです。
その時代としての表層的な尖り方を
役者たちが絶妙な力加減で紡いでいく。
舞台の男女たちの関係性が
崩れ去るのではなく揺らぎとして描きだされる中に
その時代にまだ残るコンサバティブな男女の想いが
すっと浮かび上がってきて。
作品の味わいというか、
その時代の「モダンさ」を取り込んだ上質なウィットに
不思議に浸潤されてしまいました。
’85
バブル前夜の設定である一方、
まだ男女の関係に懐かしいモラルの匂いが残っていて。
中学生とその兄とさらには兄の家庭教師の若い女性。
なんだろ、今ほど醒めていないせめぎ合いが
織り込まれていて、
劣情や緊張感やモラルの崩れのなかでも
その時代をとてもビビッドであからさまに
照らし出していて。
万博のシンボルキャラの誕生の態に込められたウィットが
やがてやってくる時代の「ノリ」の気配の
したたかな描写になっているようにも思えて。
その時代の、渾然となって膨らんでいく
どこか成熟しないスノッブでチープな高揚感のようなものが
したたかに伝えられていたように思う。
’88
バブルの世相をそのままに。
いかにもという男女と
当時の会社の雰囲気を剽窃しあるいは背負うコンパニオンたちの姿。
作り手はその時代の根なし草のような高揚と
人も社会も踊る姿をラフで細緻な空気のなかに
浮かび上がらせていきます。
熱に浮かされ箍が外れ矜持など溶けてしまったような
その雰囲気のひと時の滑稽さを剥ぎ出す舞台上にも目を瞠るのですが、
そこには現代の影が鮮やかに重ね合わされて・・・。
ひと時の宴のような時代の滑稽さが、
鉛のような重さをもったブラックユーモアに置き換えられて
観る側にしっかりと残りました。
’96
今につながる
バブル後のどん底の時期の雰囲気が、
物語から滲んでくる。
でも、暗いという雰囲気でもなく、
派手さはなどはないけれども、
バブルの雰囲気の浮き足立った感じからは解き放たれ、
サブカル的な雰囲気のとほほ感も
ちょっと無骨な男女の出会いにも
脆さだけではない、
ある種の根づいた感じが生まれていて。
ひとつの新しい時代の冒頭を感じたり。
これまでの作り手の作品から導かれていた
拒絶を踏み越えて深く惹かれてしまうようなテイストの
作品ではなかったのですが
でも作風が変わったという印象はあまりなく
作り手の引き出しが豊かに増えた感じがして。
で、役者達にも、バリエーション豊かな世界を背負うに十分な力量があって。
作品ごとの異なる語り口から、
時代自体やその変化の肌触りがしなやかに編みだされ
そのなかに置かれ、移ろい、染まる人々の
軽質さや、幼さや、おろかさや、図太さや、したたかさが、
霧散することなくしっかりと観る側に伝わってくる。
描かれる時代たちの実際の雰囲気を知っている世代なので
短編ごとの空気からやってくる肌触りの
リアリティにも驚かされるのですが、
作品からやってくるものはそこにとどまらない。、
そのなかに囚われていく人々の姿から垣間見える
時代への従属感のようなものに、
作品を超えた普遍があって
作り手の醸しだす人間のコアの匂いのようなものに
掴まれてしまいました。
満足度★★★★
秀逸なデフォルメを隠し味に
シーンの繋ぎ方や時間の重ね方から
剥ぎ出される登場人物それぞれの姿に
深く捉われてしまいました。
作り手の作品の質感に
さらなる境地が生まれた印象を持ちました。
ネタバレBOX
初日を拝見。
冒頭の線香花火のシーンからしなやかに掴まれる。
すっと視線がその光にさらわれて。
その光景を原点にして物語が組み上げられていきます。
舞台装置がしっかりと作りこまれていて
その雰囲気から、地方の空気感が醸し出されていて。
冒頭からのちょっと尾籠な会話なども含めた空気が
なんともいえないぎこちなさのなかに
場の実存感を観る側に刻み込んでいく。
シーンの繋ぎ方にも工夫があって
観る側に理性でリズムを作らせず、
体感的な記憶の展開を引き出し
舞台に繋ぎとめていきます。
なんだろ、観る側が想像で補正するのを拒むような
それぞれの自らの処し方や
キャラクター間の距離の取り方(あるいは取れなさ)の
無骨さがそのままに重なっていく。
道具立ても上手いのですよ。
やたら出てくるティッシュの使い方にしても
距離感の盲目さを刷り込んでいくような
カミニソやイカスミの異様な量にしても、
観る側の世界を観るなかでの平衡感覚ををじわじわと失わせて。
また、タバコの扱いなどで示唆される
物語の外枠というか
時間もしくは次元の違和感(近未来もしくはパラレルワールドみたいな)が
観る側のバランスの根本を揺さぶりつつ、
でも、そのことが観る側に物語を手放させるのではなく
シーンの重ね方にもすがらせて
物語の世界をたたらを踏むような感じで
追わせていくのです。
気が付けばどこかデフォルメを感じながらも
その世界にそのままに踏み込んでしまっていて。
そして、内側の世界からの視座だからこそ見える
個性と狂気のボーダーラインに置かれたような
キャラクターたちのベクトルの色や重ならなさ、
さらには舞台には恣意的に置かれない
貫かれた先の風景までが浮かび上がって。
いろんなコミカルさがあって、
場に置き切れないような密度の狭間があって、
でも、それらがいつしか翻り
観る側への鋭い切っ先へと変わっていく。
気が付けば奇異に感じた感覚の理に
実感を伴って浸されていて、
シーンごとの時間の前後が、
物語を記憶の肌触りと共に
観る側に組み上げていく。
初日ということで、
いくつかの部分にぎこちなさを感じたのも事実なのですが、
それを些細と思わせるほどに、
ぐぐっと育つような作品の懐の深さも感じて。
すでに、隠し味のように感じていた、
舞台に惹かれるのではなく、
舞台の世界に取り込まれ蹂躙されるような感覚が
公演を重ねる中でさらに膨らんでいく予感がありました。