ハンダラの観てきた!クチコミ一覧

1721-1740件 / 3248件中
夢去りて、僕らはハーメルンの白夜に踊る

夢去りて、僕らはハーメルンの白夜に踊る

天幕旅団

【閉館】SPACE 雑遊(東京都)

2015/12/18 (金) ~ 2015/12/21 (月)公演終了

満足度★★★★

笛吹き男当たり年?
 今年は、ハーメルンの笛吹き男に纏わる芝居を3本拝見した。

ネタバレBOX

ショウダウンの「ハイドパイパー」、ハッピー圏外の「笛を吹け吹け双子のフロイライン」そして今作である。それぞれパイパーをどのように捉えるかも異なれば、鼠退治に対す関わり方も異なり実に興味深い。今作では、パイパーは、小兵の大道芸人という立場を採っており、前2者のような本当に特殊な能力を持った人間とは捉えていな点でも、この劇団の個性が出ていると観ることができよう。その分、パイパーの最後も人間的に哀れであり、友を裏切り、パイパーの逃走経路を教え、結果的には彼を殺すことになった少女の悩みもリアリティーのあるものになっている。
 舞台中央に工事現場の作業足場を立体交差状に組んだ舞台装置も単純な構造ながら効果的に使われていたし、音響、照明のコレスポンダンスも良い。
つま先から、残像

つま先から、残像

ヘアピン倶楽部

小劇場B1(東京都)

2015/12/22 (火) ~ 2015/12/23 (水)公演終了

満足度★★★

植民地では
必然的に。

ネタバレBOX

 別れを前提の男女カップル。男はロマンティスト、女はリアリスト。最初のカップルほどではないが、矢張り男は女に比べて幼稚なカップル。コンビニ男性店長と男性従業員。といった人々が織りなす21世紀初頭の米国植民地、鵺日本に住むペアのディストピア。
 ♀が何れのカップルでもリアリストであるということは重要である。少なくとも彼女らは存在そのものの基盤迄は失っていない。一方、総ての♂は鉄砲玉に過ぎないから(頭の悪い♂には、ここで言っていることの意味は分かるまいが)生物として存在論的に♀に勝てる訳が無いのだ。逆に存在することで総て、この世で起こることの後始末をしなければならないのが、♀であるなら彼女「らがリアリストでなくなることは、即ち世界が滅亡することであろうから、ただ♀に甘えていれば良い♂と植民地住民としてアメリカのケツも迄させられて、我らの足元を浸すはディストピアの波、どういう訳だかこの波に洗われたらは半透明になり、ある者は判断の論拠を喪い、ある者は命を、そしてある者は信頼するという健全な実存の前提を失っている。存在を持たない彼らにとって、総ては最早蜃気楼の如き不如意。♀はますますリアルになってゆき相対する性の溝は、最早修復不可能なまでに深く広く開いてしまった。おめでとう!
あまやどり

あまやどり

劇団 C.falcata

プロト・シアター(東京都)

2015/12/22 (火) ~ 2015/12/23 (水)公演終了

満足度★★★★

花四つ星
 劇団名は、Cephalanthera Falcataの省略形だという。キンランの学名だそうだ。ということはラテン語である。オリジナルミュージカル上演を主目的とし、今回が0公演。今年から学生劇団として本格的活動を始めたばかりだ。

ネタバレBOX


 シナリオは骨太でしっかりした構成力を持ち、序破急の運びも巧みで良い出来である。また、上演中リプライズを含めると14回歌が入るのだが、曲に移る時のタイミングが良く、ストーリーと見事なコレスポンダンスを為しており心地が良い。今回の出演者で特に音楽的な訓練を受けていないメンバーが一人いるのだが、音感が良く、声の質、音程も良く正確に歌えるので、ミュージカルを演じるメンバーとして全然問題は感じなかった。(初舞台という緊張から若干硬くなることはあったが、これも心配には及ばない。)今作は男性が客演での出演だが、出演者4人の息は合っていた。
 少しファンタスティックな象形も含む作りだが、変な甘ったるさがなく爽やかで、実際にも起こる不幸な出来事を題材に採っていることもあり、深みもペーソスや純粋性も兼ね備えた作品である。あらすじに関しては、近い内にアップしよう。
冬の日光と、ヨーグルトの断面

冬の日光と、ヨーグルトの断面

//APPEND

東京都港区新橋6-20-8 愛宕ビル地下1階(東京都)

2015/12/18 (金) ~ 2015/12/21 (月)公演終了

満足度★★★★

論理構築力欠落という能力
 通常演劇シナリオを書くことは、論理構築力を意味する。

ネタバレBOX

だが、今日観た作品の作家は、盲人が手で触れたり、物音を聞いて様々な判断を下すように感覚を用い手探りで彼の感覚がこれだ、と教えたものをそのまま描こうとし、役者の自由に振る舞まわせるという方法を採っているようである。従って歯車が噛み合わなかったり、ディスコミュニケーションが起こったりということが自然な日常風景として提起されてゆく。そこにあるのは、嵌ると作家が感じた状況であり、ドラマが必然的に成立する為に取捨選択され論理的に再構成された舞台空間であるよりは、作家の感性レベルで感覚的に統一されたよう思われている光と音の共鳴感覚、タイトルに見られるように、ある季節、瞬間的にみられるような光と半固形体とのコレスポンダンスであったりするのだが、面白いのは、それらを観客に提示して起こる反応の総てを作家が負おうとしていることであり、負えると考えているらしいことである。旗揚げ公演ということもあり、このような発想ができるのであろうが、通常の演劇感からは懸け離れた発想ではあり、大化けする可能性が無いとは言えない。暫くはこれからどう変化してゆくのか楽しみにしていよう。
太宰治特集

太宰治特集

J-Theater

小劇場 楽園(東京都)

2015/12/21 (月) ~ 2015/12/23 (水)公演終了

満足度★★★★★

衣装にも注目
 J-Theaterの“日本人作家シリーズ”では、2015年特別企画として5人の演出家が平田オリザ、三島由紀夫、岸田國士、吉村ゆう、森達也らを取り上げ、下北で10月末~11月初旬まで公演を打ってきたが、12月は太宰 治。初日公演は19時半から「失敗園」「尼(陰火)より」「貨幣」の三作を上演した。最終日の23日のみ「貨幣」は上演せず「清貧譚」の上演になるので注意。他の2作は全日程で上演される。
 ところで、今作では太宰に縁のある衣装が何点か使われている。原さんが、ご遺族から譲り受けた本物である。例を挙げておけば、銀座、ルパンの初代オーナー高崎さんの着物、太宰が通った三鷹のウナギ屋台若松屋の女将、小川さんの羽織などである。太宰自身、目にしていたかもしれない貴重な衣装に注目するのもグー。
 また、演出では、太宰の幼少時に彼の面倒を見たタケが冒頭、最後に登場するが、この意味を考えてみるのも面白かろう。

ネタバレBOX

 先ず、驚くのが、作品セレクトの凄さである。太宰作品の中で、今回上演される作品を読んでいる人は少なかろう。だが、各作品の成立年代をみると、何れも時代の転換を意味するようなメルクマール的作品となっており、而も人口に膾炙していない作品である。だが、各々の作品の主人公たちは、人間以外のものであることによって、却って太宰の素の姿を浮かび上がらせ、その人柄を際立たせているように思われるのだ。その余りにも優しく繊細な神経故に無頼派の代表作家となり、精神を病み、薬と酒に溺れざるを得なかった、彼の苦悩を、今またアホな為政者のミスリードによって、地獄の淵に立っている我々は再確認したいのである。
 「失敗園」では、突き抜けた演出が功を奏し、「尼」では、貧乏な男の下に突然現れた尼やその言葉通り、如来が現れること、だが、如来は既に愚か極まりない人々の救済故に疲れ切って瀕死の状態であり、乗った白象は既にとんでもない死臭を発する迄になっている。即ち末法を象徴しているのだ。また、紙幣が主人公の作品タイトルは「貨幣」になっているが、これは、マルクスを読んでいた太宰が、マルクスの資本論に描かれた概念を念頭にタイトルをつけているからであろう。即ち物神性としての貨幣を価値として位置づける資本主義そのものと考えてよい。それは現在、この植民地に蔓延る金銭至上主義と本質的に同質のものである。これら、太宰の主張の根底にある哲学を炙りだした演出にも拍手を送りたい。
ほたえな 胸中が猿

ほたえな 胸中が猿

グワィニャオン

萬劇場(東京都)

2015/12/16 (水) ~ 2015/12/20 (日)公演終了

満足度★★★★★

当に猿
 龍馬・慎太郎殺害の下手人については諸説あって何れが真実或いは事実であるか見極めるのは極めて難しい。無論当時の日本の国力で頭角を現したと雖も脱藩下級氏族の龍馬が、あの若さで如何に活動資金を得ていたか、という点で武器商人、グラバーなどを絡ませることも可能ではあったろうが、それでは演劇的に話が大きくなり過ぎ、一定の尺には収まらない。(追記2015.12.23)

ネタバレBOX

 そこで暗殺犯として、新撰組、見回り組、薩摩藩関与説、慎太郎による自作自演説などまで取り入れて諸説あることを紹介することで、世相の複雑さを炙りだすような仕掛けが施されている。自分の感性が感じるのは、見回り組の怪しさである。手練ればかりのハズが、襲撃時に声を挙げたとすれば、それは強烈なパトスを内包していたからである。そして、そのようなパトスは現在でもこの国の公安に引き継がれているパトスと同質のものだ。因に戦国以降に生き残ったこの国の忍法集団の代表は、伊賀と甲賀であるが、何故彼らはその技術を生かしながら生き残れたのか? 支配層である武士は彼らの技術を利用もしたが、恐れてもいたのに。答えは、幕藩体制の中に彼らの組織を取り入れたからである。伊賀はお庭番として、 甲賀は同心として。現在でも犯人逮捕の際に用いられる捕縛術は、元来甲賀の手法であるのはその為だ。そして被差別者であった彼らのメンタリティーは、かなり大きな歪を持っているのも事実だろう。とすれば、差別の酷かった土佐藩の下級士族でしかなかった龍馬に西洋の最新式ピストルで仲間を撃たれた見回り組の怒りは(そのパセティックなメンタリティーを鎮める為には)ファナティックにそのメンタリティーを移行した上での殺害しかないではないか? 未来への展望など彼らには及びもつかない。その意味で今作で指摘される通り、猿レベルなのである。実際、日本の公安警察の頭の悪さと内部犯罪の隠蔽体質は官僚共のそれと同質であり、唾棄すべきものであるのは言うを俟たない。こんな連中と下司政治屋、政商、金融、司法、メディア、ゼネコン、軍需産業などの企業、御用学者にヤクザまでが徒党を組んでこの「国」、人民を宗主国に捧げているのだ! この国の腐敗は千年以上揺るぎのないものなのである。そこん所、腹括って考えねえとにゃ。
昭和歌謡コメディ~築地 ソバ屋 笑福寺~VOL.4

昭和歌謡コメディ~築地 ソバ屋 笑福寺~VOL.4

昭和歌謡コメディ事務局

ブディストホール(東京都)

2015/12/17 (木) ~ 2015/12/20 (日)公演終了

満足度★★

出演者の志
 が低い。観客もいい年をしたおっさんが、鉢巻をし、笛を吹くわ、鬼の金棒のように大きなライト振るわで呆れてしまった。父が有名なコメディアンで二代目という触れ込みで出ていたコメディアン、父の持ちネタを披露するシーンが多く、後半流石にひねりを加えたものの、意識が低い。もっとラディカルに芸事に向き合わなければ到底おやじを超えることはできまい。

ものがたり降る夜

ものがたり降る夜

ことのはbox

上野ストアハウス(東京都)

2015/12/16 (水) ~ 2015/12/21 (月)公演終了

満足度★★★★

仕掛けの面白さと深読み
 男と女を語るのに猿と人の混血を登場させている所が今作の仕掛けとしては基本だろう。この混血、人間のように嘘はつかない。(追記2015.12.23)

ネタバレBOX

考えていることは、セックスをすることばかりなのだが、人間のような卑猥さが無いのだ。彼らは楽しく和合している。かつて日本の庶民が持っていた風習としての夜這いなども例示されるのだが、実際、第一回東京オリンピック開催辺りまで地方によってこの風習は残っていたようである。
 基本的に言い寄った相手のOKがなければ夜這いは不成立。一方、合意の上であればOKということだ。このような発想は宗教的に厳格な絶対神を持ち、神が定めたとされる婚姻制度があれば、出てこない。このような大らかな性意識は、律令制を正当化し一種のクーデタをおこした藤原 不比等らが中心となって編纂した日本書記では、当然のことながら否定的見られているが、古事記ではずっと大らかであるのを観ることによって、或いは神道以前にこの倭国にあった鬼道に於いては、普遍的な性のありようであった。
 以上に挙げた事情を鑑みれば、今作の目指したものは、アニミズムが体現していた世界観再考の便ともなろう。即ち、尊い存在とは、命を喰らうことによってしか、己をも己の仲間の命脈をも保つことができないことを知る者であり、それを知ることによって生命全体が生きる環境をも射程に入れるような考え方をする者であると考えるのである。そして、であるならば、現在、世界の利口ぶった国の多くが実践しているような右肩上がりの経済発展や軍事競争が如何に愚かで無益なものであるかに対する痛烈な批判になっているという深読みすらできよう。
わからなければモモエさんに聞け

わからなければモモエさんに聞け

劇団青い鳥

小劇場B1(東京都)

2015/12/15 (火) ~ 2015/12/20 (日)公演終了

満足度★★★★

日本橋高島屋本店のエレベーターを思い出してしまった
 初老の女性が、名門デパートのエレベーターガール募集のチラシを見つける。ちょっと気に掛かる。

ネタバレBOX

それがきっかけで、余り脈絡のない旅をする。旅と言っても実際の旅ではなく、精神的な放浪に近い。行く先は、占い師、心療内科病院、アメリカ帰りの女性が講師を務める演劇的要素を取り入れたカルチャスクール、そして遂に名門デパートの面接会場。登場人物たちは皆奇妙で、どこか箍の外れたような人々なのだが、特異な才能や、心理的瑕疵乃至は、状況に翻弄された異常な疲れを纏っており、現実的状況ともずれているのだが、そのずれの中では頗る個性的で面白いキャラクターである。半睡状態で見る夢のような不可思議な作りなのだ。それを支えるのは、主演女優の所作と見事な照明、効果的な音響、ぴたりと嵌る科白だ。この絶妙感が堪らない。
ビーイング・アライブ

ビーイング・アライブ

ワンツーワークス

赤坂RED/THEATER(東京都)

2015/12/11 (金) ~ 2015/12/20 (日)公演終了

満足度★★★★★

孤独死の時代
 自分は足早に歩く方なので、携帯に操られているトロイ若者や、歩みの遅い老人はよけて歩く。その際、本当に老人が増えたなと実感する。

ネタバレBOX

外に出るようになった老人が増えたのかも知れないが、データを見るまでもない。ひたひたと音もなく着実に超高齢化社会は、我らを呑み込みつつある。その経済的負担や社会制度へのおざなりの懸念が指摘されてはいるが、福祉には疎いこの植民地の政治屋や官僚が、天下りや手前の利害の為以外に一所懸命に取り組むハズもない。
 一方、身の回りにも散見されるようになった孤独死も最早他人事ではなくなった。そして、独居老人の抱える本質的孤独の深さ深刻さは、老人問題の中核に据えられるべき大切な問題であることは言うを俟たない。政治などに何の期待も抱けないこの植民地で、我々は、老人を抱える家族として、人として、また老いを生きる個々人として如何にこの孤独と向き合ってゆくのか? その孤独感の実質とは如何様なものなのか? を丁寧に掬い上げようとする意欲作。舞台の大部分に傾斜をつけて役者の身体に負荷を掛け、老人の身体特性を舞台構造そのもので実現させようしている舞台美術も素晴らしい。舞台ならではの演出上の工夫、役者陣の優れた演技と共に、古城氏の問題意識と社会性を持った視点に裏打ちされたシナリオが光る。

MID騎士(KNIGHT)ミラージュ

MID騎士(KNIGHT)ミラージュ

無頼組合

シアターKASSAI【閉館】(東京都)

2015/12/11 (金) ~ 2015/12/14 (月)公演終了

満足度★★★★★

泥臭いダンディー
というのが、このシリーズの本音という気がする。ハードボイルドというより、泥臭ダンディーという方がしっくりくるように思う。その視点で見ると、実にかっこいいのだ。そもそも、泥臭いのにダンディーというのは、語義矛盾である。然し、ここには、それが、絶妙なバランスで成立しているのだと言いたい。
 感心するのは、このテイストでシリアスな内容をよくぞ、ここまで表現したという点である。殊に、遠いところで単に事件として起こったことが、その地域で苦労している人と友人になることで、自分の問題として捉えられるようになるということや、だからこそ、自分で調べ、自分の頭で考えて、自らの行動を自ら選択してゆくという、社会人としての基本を、普通の人間の内側から描いている点に、作家の極めて真っ直ぐな視座を観る。実は、この視点こそ、表現する者にとって最も大切なことなのである。
 背景に描かれた、都会の寂しさを象徴するような美術のセンスも、また、照明によって効果を変える手法も素晴らしい。(追記後送)

ねじられた周波数

ねじられた周波数

創像工房 in front of.

ザムザ阿佐谷(東京都)

2015/12/10 (木) ~ 2015/12/13 (日)公演終了

満足度★★★

実存的他者と出会うべし
 2人兄弟の弟の方が、多重人格障害を負っている兄弟の話なのだが、何だか腑に落ちないと観劇中に感じて居た原因が、分かった。

ネタバレBOX

今作では、生まれることができなかった三男が、二男の別人格して登場するのであるが、通常心理学的には、多重人格障害を持つに至った患者の多くが、小さな頃に虐待受けていたり、戦争による深いトラウマを抱えていたりすることが、発症の原因である。
 然し、今作では、この世に存在したことがない三男が、存在したかったというパトスだけで、キチンと産んでくれなかった母を殺したり、二男が現れていない時に三男が現れてそういう行為に至ったことを隠す為に、長男が事件現場に火を放ったりと、主体の置き方が誤っていることによって生じた論理破綻を、恰も自同律の永劫回帰のように見せ掛けている。
 自分にもなるほどと思えるケースは、二男が何らかの理由で深い魂の傷を負い、その為に他の人格を作りだしてゆくという形にすると、その悲劇性を際立たせることができると考える。出てこない父が、二男の目の前で特高の凄惨な拷問によって殺された等でもよかろう。戦争プロパガンダの話も出てくるのだし、日本の特高の拷問は凄まじいものであったのは事実であるから。まして、安倍のような阿呆が、戦前・戦中の治安維持法より悪い法を成立させているし、更に悪化させようしている最中でもあるのだから。
【『比丘尼』全公演終了しました。御来場、誠にありがとうございました!】

【『比丘尼』全公演終了しました。御来場、誠にありがとうございました!】

殺陣集団 伽羅牡丹

調布市せんがわ劇場(東京都)

2015/12/11 (金) ~ 2015/12/13 (日)公演終了

満足度★★★

形而上学不在
 殺陣のグループということもあって、シナリオは表層的で、比丘尼の生き続けなければならぬという宿命の呪わしさは全然出てこない。

ネタバレBOX

一応、八百比丘尼らしき謎の尼は出てくるが、それが確実にそうと分かる仕掛けにはなっておらず、彼女は、その宿命を嘆くという訳でもない。寧ろ、ヒロイン、椿の生涯を淡々と語る、語り部的存在である。
 まあ、重点を置いている所が違うから仕方がないと言えばそれまでだが、もう少し形而上学的な視点も入れる方が物語としては面白くなろう。構造的にはメタに持ってゆけるのに、そうなっていないのは作・演出が複眼的思考をしていないからであろう。視座が単一だからメタ化できないのだ。これでは、芝居を観なれた観客には退屈である。
 殺陣のグループということで、身体性の高さと殺陣は一定評価できる。
【入場無料・カンパ制】アトリエ公演「桜歌」「RS」「忘却者来訪」

【入場無料・カンパ制】アトリエ公演「桜歌」「RS」「忘却者来訪」

ラビット番長

演劇制作体V-NETアトリエ「柴崎道場」(東京都)

2015/11/28 (土) ~ 2015/12/13 (日)公演終了

満足度★★★★★

2年目の演者たち
 一応白に属する作品と考えてよかろう。3作品すべてを拝見したが、若い役者陣、これからが楽しみである。自らの充実に投資して更に伸びてほしい。
(追記2016.1.8)

ネタバレBOX

 母を早く亡くし、父も最近癌で亡くした民宿の娘、たまちゃんは、祖父と民宿切り盛しているが、夏休みで東京から帰省していた高校の同級生ちゅん、もじゃが交通量調査のアルバイトをしている現場で偶然の再開を果たした。たまちゃんを高校時代から好きだったちゅんともじゃは、民宿の手伝いにかこつけては彼女の所を訪れる。
 ところで、交通量調査をした翌日。二人は、民宿に呼び出された。バイトの際に知り合った鉄道写真愛好家を人定してくれとの依頼が入ったのだ。というのも彼が昨日出掛けた吊り橋から落ちたというのだ。相当の高さがあるのに、外傷もなく、何より生きていたのだが、事情は分からないか? との質問であった。彼らは彼が吊り橋に出掛けたこと。徒歩で出掛けたこと。道は間違えるハズのないことなどを証言したが、問題は、彼の身元を確かめるものが何もないことであった。おまけに怪我などは無かったものの、彼の記憶は、恐らくショックが原因で無くなっていた。この診断は、この辺鄙な場所に赴任してきてくれている医師によるものであった。他に泊まれる所も無いので彼は、民宿で預かることになった。だが、たまちゃんの祖父以外、彼女を守ってやれる人が居ないこの民宿で若い男が宿泊することは、彼女を恋する男にとっては心配の種である。他の宿泊客は馴染の昆虫学者。彼女を同道している。スタッフは祖父、コックなどだが、このコック実は前科があった。現在、地元の警察官の妻になっている女に懸想しストーカーをしたり、件で逮捕歴があった。だが本当は、レイプに及んでいたのである。祖父や父が寛容な人だったのでこの民宿で働くことになったのだが、警官も重点的に彼のチェックをしてきた。
 だが、鉄道写真愛好家の“名無しさん”は、実は宇宙人に乗っ取られており、彼は、他の人の体に触れることでその記憶を無くしたりして精神を乗っ取ることができたのである。そして既に何人もの人に触れて、人間の欲望と我執がこの星を滅ぼすとの認識を得ていた。JRの大赤字を作った大本の原因である新幹線の話もさらりと入れてあるので、この辺りの生臭さが(つまり赤字になることが分かり切っているのに、巨大な建設には、大手ゼネコンが濡れ手に泡の大儲けが画策されており、その金は政治資金に化けて自民党に流れる仕組みなどである)物語にリアルな深さを与えている点も注目したい。地球は異星人の植民地になる危険があった。然し、これを救ったのは、たまちゃんであった。彼女は、宇宙人に人間の愚かさと同時に哀しさをも教えたのである。宇宙人は知的生命体としてのレベルが高いから、彼女の訴えを正確に聞き取った。そして侵略を放棄した、そのように取れるラストである。
灯屋・うまの骨

灯屋・うまの骨

劇団大樹

Route Theater/ルートシアター(東京都)

2015/12/10 (木) ~ 2015/12/13 (日)公演終了

満足度★★★★★

舞台美術もグー
 通常、年2回の本公演が多いのだが、この劇団、本公演の数がかなり少ないようだ。だが、内容的には、心に沁みる舞台であった。

ネタバレBOX

舞台になっているのは古道具屋と奥の座敷なのだが、この店に並べてあるものが、まんだらけ辺りで人気になりそうな物だったり、面白いのは1個500円のペーパーウェイトで、これは河原辺りで拾ってきた石に店主が馬の絵を描いたものなのだが、結構、人気商品だったりする。実際、我々なんぞより、これらの石っころの方が遥かに長い歴史をその体に刻んでいるのだ。変わるのであれば、星の歴史と共に変わる位のスタンスで変わりたいものである。こんな何気ないものに対する深い科白も存在する。それに、この店の主人、透馬と育ての母、灯の明るくて温かで偉丈夫な性格がとても上手に描かれている。下宿している住人達も面白いキャラである。1人はストリッパー、1人は元デザイナーのマッサージ師、1人は借金塗れの父を持ちバイトに明け暮れる女学生。出入りしているキャラクターも面白い。亭主と一緒に始めた喫茶店だったが、亭主はこの1年間戻らず、店は人手に渡して、自分は従業員として働いている元ママ。灯が未だ20代の頃、小学校の高学年で引っ越しをする直前、灯に結婚を申し込んだ小金持ち等々。登場人物の一人一人がキチンと自分の人生に気付いてからの話なので、キャラも自ずから立ち、透馬が偶々拾った若者に昔話をするという設定で劇が進行してゆくのでメタ構造が自然に観客に受け入れられる仕組みだ。味のあるいい芝居である。役者たちの演技も良い。
イルクーツク物語

イルクーツク物語

劇団俳小

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2015/12/09 (水) ~ 2015/12/13 (日)公演終了

満足度★★★★

草創期の「夢」
 アンガラ川(ロシア、シベリア南東部を流れる全長1779Kmの川)では大掛かりな工事が行われている。発電所を建設しているのだ。完成すればこの川の水はせき止められて大きなダムができる。

ネタバレBOX

ここで働くエクスカベーターチーム(パワーシャベル)班長のセルゲイ、親友ヴィクトルそして食品マーケットでレジ打ちの仕事をしている美人のサーニャの3人を中心に、ソ連が未だ夢の国であった当時の人々の生活を描く。大型機械のエクスカベーターは1台で何と14000人分もの仕事をこなし、この機械を動かす当地チームは全国でも模範クラスの優秀なスタッフ揃いだ。ただ一人、怠け者のラプチェンコを除いて。
ところで美しいサーニャには、安売りサーニャの仇名がつけられ、誰とでも深い関係になる女というイメージが持たれていたが、取り敢えず現在はヴィクトルのステディという具合に観られている為、街に屯する若者からの冷やかしも、彼と一緒なら問題はない。実際、2人は一見上手く行っているように見えていたのだが、結婚などの深刻な話になるとヴィクトルは、彼女の浮いた噂が気になり本気になれない。どうも彼には女性に対する不信感があるようである。それは、生みの母が亡くなった後、父と一緒に暮らす女の所為で父が変わり果ててしまったことと連関しているらしい。いずれにせよ、ヴィクトルが、実質的にセルゲイに彼女を紹介することになったことから、親友同士は恋敵になってしまった。彼女は、自分を本当に愛してくれるのがどちらかを見極めようとする。結果、選ばれたのはセルゲイ。それ以前に彼女のステディとして自他共に認められていたヴィクトルは除け者になってしまった訳だ。だが、彼には当初そのことが意味する所が充分に理解できていなかった。セルゲイは理想家肌の性格の良い男であった為、サーニャも彼を信頼し本当に彼一人を愛するようになってゆく。かつてカルメンような生き方を理想としていたとは思えない変容ぶりであった。結婚後、めでたく子供に恵まれた2人だが、何と男女の双子であった。子供達は順調に育ち、仕事も夫婦仲も上手く行っていたが、セルゲイは、子供達が生まれた産院の前で知り合った子供アントンが手製の筏に乗って釣りをするうち転覆したのを見て助けに行き、子供を救えたものの、本人は帰らぬ人となってしまった。
一方自分の不手際からサーニャを逃したものの、未だ彼女を諦めきれないヴィクトルは、彼女の住まいの窓明かりを見ながら長い夜を何度も過ごしていた。夫を亡くした彼女の為にインテリのロージクの提案で4人で5人分を働き、給与は5人分出して貰ってそれをセルゲイの給料としてサーニャに渡すという提案に賛成した皆の好意のお蔭で彼女の生活は困らずに済んだのだが、暫く時間が経つとヴィクトルは異論を唱え始めた。彼女が生きる意味を皆の好意が奪っているのではないか? というのである。インセンティブが無くなれば、人間は死んだも同然。この意見には道理もあった。
人が他人を愛することとはどういうことか? 友人と恋人との間に引き裂かれた恋を人はどう生きるか? その時、本当に愛しているとはどういうことか? 人の幸福とは利他的なものではないのか? などイデオロギーが目指したのとは異なる次元、即ち普遍性のレベルで上演しようという努力の見られる作品。
不在の豊饒。

不在の豊饒。

中野坂上デーモンズ

荻窪小劇場(東京都)

2015/12/10 (木) ~ 2015/12/13 (日)公演終了

満足度★★★★

アナーキー
 初見の劇団だが、ちょっとピャーに似ていると思ったら、客演女優にピャーの女優さんが出ていた。どんな所がピャーに似ているかというと、存在の原点を描こうとする所である。 

ネタバレBOX


 今作では、死即ち非在に対し、死へのなんだかんだや、誰もその世界を客観的には証言できないことから来る昏い想像と矢張り昏く大きな想像力の翼が、肉や血、性器や狂気を供物として要求し、生きている側は、それらを虚への供物として奉っているということである。だから、作品はカーニバルのような様相を呈しているのだ。
また、ピャーと異なる点は、ピャーは物語を何とか作りつつ、その間欠泉のような形でその狂気部分を対比するのだが、この劇団は物語性よりは、その乱雑、アナーキーな部分だけを独立した挿話のオムニバス形式で描いているよ
Manhattan96 Revue vol.2~窓枠のパレード・パレード~

Manhattan96 Revue vol.2~窓枠のパレード・パレード~

Manhattan96

【閉館】SPACE 梟門(東京都)

2015/12/09 (水) ~ 2015/12/15 (火)公演終了

満足度★★★

全体としては星3つScene5は星5つ
 丁度1ダースのSceneで構成された芝居ありダンスあり、マジックあり、ショウありの舞台。自分が気に入ったのは、Scene5のAct「開けてはいけない」であった。マジックも見事である。(追記後送)

ネタバレBOX


 「開けてはいけない」:総てがIDナンバーで管理されており、爆発音のような物音が間断なく続く。グレイの部屋に迷い込んで来たのは、上流階級のIDナンバーを持つ男。窓を開けた友人も妻も消えてしまった。どうやら、その謎を解くため、彼らが垣間見たハズの外の世界はどうなっているのかを調べたくて脱出してきたらしい。
時代絵巻AsH 其ノ七 『朱炎〜あけぼの〜』

時代絵巻AsH 其ノ七 『朱炎〜あけぼの〜』

時代絵巻 AsH

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2015/12/10 (木) ~ 2015/12/13 (日)公演終了

満足度★★★★

花4つ星
 上杉 謙信亡き後、上杉家ではお家騒動があった。“御館の乱”である。この戦は養子であった景勝、景虎の争う戦乱であった。時は戦国、昨日の敵は今日の友。逆に言えば、今日の友は明日の敵という時代に、義を報じる上杉家の、義理ではあったが仲の良かった兄弟同士が争ったのである。この戦は謎が多いとされるが、その謎は何故、謎となったのか? 多くの資料をもとに、AsHの作家、灰衣堂 愛彩が、史実を基本に描いた叙事詩の一幕。

ネタバレBOX


 景勝は、長尾 政景と仙洞院(謙信の姉)の息子で謙信の甥に当たる。一方、景虎は相模国主北条 氏康の子息で幼少の頃より寺に預けられたり、他大名の人質としてあちこちの大名家を盥回しにされて育って来たため、人の情に敏く武芸に余り勤しんではこなかった模様である。上杉家へ来てからは、謙信の旧名を与えられ、姪を正室に娶る。正室との間に子を設けたが、本作に登場するのは道満丸という長男。景虎の賢さ、人としての器量・度量は、武芸に秀でると同時に矢張り度量・器量に富んだ景勝と共に相並ぶ者がない。いわば上杉家のいずれ劣らぬ双璧である。
 謙信が遺言を残さず亡くなった為、誰が上杉を継ぐかは、単に継承資格の有る者のみならず、家臣一同にとっても大問題であった。偶々、近親の女性たちと共に枕元で謙信の面倒を見ていた樋口 与七が、病の合間に相槌のような仕草をすると漏らしたことを聞き咎めた上杉 政繁に、そのタイミングを見計らって景勝が継承したということにせよ、との命を受け実行。このことが、この争いの原因となった。然し、景勝、景虎共に戦国武将の子。家来どももどちらに付くかで割れ、今更収集がつかなくなっていることは百も承知。かくなる上は、雌雄を決して勝った者が、越後を豊かで平和な地域として発展させようということになった。なるべく犠牲を出さずに収めるつもりではあったが、景虎の配下、柿崎 晴家が北条家に援軍を要請した為、景勝サイドは武田に援軍を要請。戦が大きくなってしまった。暫く膠着状態が続いたが、終に決戦の時がくる。景虎の正室は自害、景虎は道満丸だけは逃がそうと上杉家重臣の直江 信綱の忍び、殆ど口をきかない又六を伴に付け、景勝との間に戦闘中も密使として手紙を届けていた又六を案内につけ城を脱出させた。又六が常には口のきけない障碍者のふりをしているのは、拷問されても絶対に口を割らぬ、という剛の者であったに違いない。それだけに景虎の信頼も厚かったのだ。だが、彼らが脱出に成功しない内に、景勝に味方する軍が、勝手に動き、道満丸らに襲い掛かり、又六は討ち死にしてしまう。追い詰められた道満丸の運命や如何に? これは、観て確かめて頂きたい。
その王国の夜は明けない

その王国の夜は明けない

シアターノーチラス

シアター711(東京都)

2015/12/09 (水) ~ 2015/12/13 (日)公演終了

満足度★★★★

拝金主義の行き着く場所の先の微光
 企業や学校等、人が集まる立地条件の良い場所にあるカフェ。珈琲は不味くて有名。(追記2015.12.11:01:28)

ネタバレBOX

従業員の殆どが、金の為にのみ働き拝金主義の悪しき例に漏れず、表層的であるから、アイデンティファイすることができない。エパーヴのような存在であることだけは感じているから、自らに自信を持つことができず、他人の揚げ足取りや根拠の曖昧な噂話などをして、自らの虚ろを観ようとしない。オブローモフとまではゆかなくとも、何やら気怠い雰囲気の中を海月よろしく漂っている。面白いのは、誰も彼も、決定的に自己と対峙していないことである。従業員は、総て自己の総てを対象化する位置に立つことを選んでいない。即ち悩みも所詮他人事なのである。回りの人間から嫌われるとか排除されることが恐ろしくて、自らが宇宙的な孤独と向き合うことを1度たりともしていない。無論、チャンスは総ての個々人にあった。だが、敢えてそこに踏み込まない所が日本人的特質なのだと言えよう。その為、不良債権処理がいつまで経っても片付かず、原発問題がとんでもなく誤った方向を向いても正道につかせることができない。作中、1週間後には締めると決まったこの店に大量のコーヒー豆が配達され置き場に困ったスタッフが殆ど全員で、それをあちこち移動するシーンが長く続くが、このシーンを観ていてカミユの「シーシュポスの神話」に出てくるシーシュポスを思い出してしまった。シーシュポスは神の怒りに触れて大岩を山上に上げては落とされ、また上げるという作業を永久に続けねばならないという罰を課されたのだが、あのシーシュポスである。この従業員たちのしている他のことも総て基本的に反復。いつ終わるとも知れぬ反復で、偶々、1週間後に店を畳むと店長が発表したものの、それで最後に有終の美を飾ろうなどというインセンティブは微塵もない。それどころか、賃金が本当に貰えるのか?  
働く場所が無くなって生活はどうなるのかと切羽詰った金銭問題ばかりに縛り付けられ、縛り付けられていることが何を阻害しているかについての思考も働かない。遂に、彼らは、店長を王になぞらえ、このカフェを王国になぞらえて反乱を起こす。気勢が一旦収まるのを待って店長が、彼らのアイデンティティーを問うと誰一人答えられる者が無い。そこで店長が話し始めたのは彼がここにこの店を開いた当時の抱負であった。立地は良い。そこで、サラリーマンや学生たちが、ふっと立ち寄りいつものコーヒーを飲んで、命を新たにするように外へ飛び出してゆく。そんな願いを込めて開店した当初の自分の気持ちを。店長は、喫茶店の話を通して人として生きる方向性を示した。唯一、リーダーとして為すべき方向性を示したのである。今作は、このラストで、何の希望も生きる目的も無くなったように見える現在の我々に生に微光を灯してみせる。

このページのQRコードです。

拡大