イルクーツク物語 公演情報 劇団俳小「イルクーツク物語」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    草創期の「夢」
     アンガラ川(ロシア、シベリア南東部を流れる全長1779Kmの川)では大掛かりな工事が行われている。発電所を建設しているのだ。完成すればこの川の水はせき止められて大きなダムができる。

    ネタバレBOX

    ここで働くエクスカベーターチーム(パワーシャベル)班長のセルゲイ、親友ヴィクトルそして食品マーケットでレジ打ちの仕事をしている美人のサーニャの3人を中心に、ソ連が未だ夢の国であった当時の人々の生活を描く。大型機械のエクスカベーターは1台で何と14000人分もの仕事をこなし、この機械を動かす当地チームは全国でも模範クラスの優秀なスタッフ揃いだ。ただ一人、怠け者のラプチェンコを除いて。
    ところで美しいサーニャには、安売りサーニャの仇名がつけられ、誰とでも深い関係になる女というイメージが持たれていたが、取り敢えず現在はヴィクトルのステディという具合に観られている為、街に屯する若者からの冷やかしも、彼と一緒なら問題はない。実際、2人は一見上手く行っているように見えていたのだが、結婚などの深刻な話になるとヴィクトルは、彼女の浮いた噂が気になり本気になれない。どうも彼には女性に対する不信感があるようである。それは、生みの母が亡くなった後、父と一緒に暮らす女の所為で父が変わり果ててしまったことと連関しているらしい。いずれにせよ、ヴィクトルが、実質的にセルゲイに彼女を紹介することになったことから、親友同士は恋敵になってしまった。彼女は、自分を本当に愛してくれるのがどちらかを見極めようとする。結果、選ばれたのはセルゲイ。それ以前に彼女のステディとして自他共に認められていたヴィクトルは除け者になってしまった訳だ。だが、彼には当初そのことが意味する所が充分に理解できていなかった。セルゲイは理想家肌の性格の良い男であった為、サーニャも彼を信頼し本当に彼一人を愛するようになってゆく。かつてカルメンような生き方を理想としていたとは思えない変容ぶりであった。結婚後、めでたく子供に恵まれた2人だが、何と男女の双子であった。子供達は順調に育ち、仕事も夫婦仲も上手く行っていたが、セルゲイは、子供達が生まれた産院の前で知り合った子供アントンが手製の筏に乗って釣りをするうち転覆したのを見て助けに行き、子供を救えたものの、本人は帰らぬ人となってしまった。
    一方自分の不手際からサーニャを逃したものの、未だ彼女を諦めきれないヴィクトルは、彼女の住まいの窓明かりを見ながら長い夜を何度も過ごしていた。夫を亡くした彼女の為にインテリのロージクの提案で4人で5人分を働き、給与は5人分出して貰ってそれをセルゲイの給料としてサーニャに渡すという提案に賛成した皆の好意のお蔭で彼女の生活は困らずに済んだのだが、暫く時間が経つとヴィクトルは異論を唱え始めた。彼女が生きる意味を皆の好意が奪っているのではないか? というのである。インセンティブが無くなれば、人間は死んだも同然。この意見には道理もあった。
    人が他人を愛することとはどういうことか? 友人と恋人との間に引き裂かれた恋を人はどう生きるか? その時、本当に愛しているとはどういうことか? 人の幸福とは利他的なものではないのか? などイデオロギーが目指したのとは異なる次元、即ち普遍性のレベルで上演しようという努力の見られる作品。

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    2015/12/12 03:28

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