ハンダラの観てきた!クチコミ一覧

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時代絵巻AsH 其ノ玖 『草乱〜そうらん〜』

時代絵巻AsH 其ノ玖 『草乱〜そうらん〜』

時代絵巻 AsH

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2016/12/14 (水) ~ 2016/12/19 (月)公演終了

満足度★★★★★

伝説
 三代将軍家光の時代(寛永14年10月25日~翌年4月12日)に起こった島原の乱をベースに登場人物を伝説をベースに可也自由に取捨選択している。無論、伝説とは民草の願望の表現であり、力では無く記憶と願望そして切なる願いが形作る無形の表象である。(追記後送)

ネタバレBOX


 今作では天草 四朗時貞を豊臣秀頼の忘れ形見とし、彼を支える人物に夏の陣後鹿児島に落ち延びたとの伝説のある真田 幸村の孫、源次郎を据えている。のみならず、徳川幕府の各藩への弾圧(断絶、廃藩等々)によって浪人と化した旧豊臣残党を多く描いている。
同時に、敵の総大将である家光をも賢さ、狡さ、冷徹な判断を速やかに下す側面と共に度量の広いひとかどの人物として描いている点で、作家の力量を表してもいよう。このように筆者が判断するのは、敵を高めることによって、味方の人間性そのもののスケールが大きく強くなるからである。
裏の泪と表の雨

裏の泪と表の雨

BuzzFestTheater

ウッディシアター中目黒(東京都)

2016/12/08 (木) ~ 2016/12/18 (日)公演終了

満足度★★★

花三ツ星
 あいりん地区にあるお好み焼き屋が舞台だ。

ネタバレBOX

店主は、同志社を出ている。この地区には珍しい大学出。因みにあいりん地区とは釜ヶ崎を含むエリアであり、日本最大のドヤ街で東京の山谷、横浜の寿町を遥かに凌ぐ人口3万と言われるエリアだが、無論実態は不明である。歌舞伎町より狭いエリアにこれだけの人が暮らすと言われているのだが、基本は日雇い労働者であり、当然原発作業員として動員され、そのまま行方知れずになっている者も多いと考えられるが、戸籍が確定できる者は少ない為、労災や給与保証が為されなくても、最も底辺で泣き寝入りする者が多いのも実情である。だが、今作は、これらの状況をキチンと描いていない。分かる奴には分かるという感じで、釜の労働者には科白が当たられておらず、ただ、そのインセンティブの欠如と誰かに襲われた後の状況などが一コマのシーンとしてライトアップされるだけである。ここに、今作の問題点がある。
描かれているのは、このあいりん地区で育った兄弟が28年ぶりに再会することがメインなのだが、ちょっと家庭が複雑で両親の離婚時、兄は母について地元に、弟は父について長崎に住むことになった。この程度のことは、実際いくらでもある。釜のあるあいりん地区が、汚い小便臭い街という具合に描かれているし、決して清潔で小ジャレタ街で無いことは確かであるにしても、ルンプロとのダイアローグがなく、謂わばあいりん地区のプチブルだけの独白的表現になっている点が残念である。
一方、雨の雫が本当に滴ったり、飲み物を実際に飲んだりするリアリティーは中々のものである。また、ちょっと奇を衒った表現では、開演前、水着姿の女優が5分押しと書かれたプラカードを持って現れたのにはちょっとびっくりしたが、余り奇を衒うより、シナリオで物事の本質を対峙させて欲しかった。
竜宮 RYUGU

竜宮 RYUGU

Dance Entertainment REACH

【閉館】SPACE 雑遊(東京都)

2016/12/13 (火) ~ 2016/12/14 (水)公演終了

満足度★★★★

ダンスはなかなかグー
 殆ど科白のないダンスパフォーマンスだ。

ネタバレBOX

会場入り口に透明なビニールシートを二枚観客の出入りできるほどの幅をとって、天井から平行に垂らし、水中へ入ってゆくような感覚を喚起すべく演出されている他、竜宮では、気泡が上昇してゆくときのような音が効果音として使われている。ダンスのレベルはまずまず。悪くない。ストーリー自体は知っての通り。だが、何故今今作が新宿で上演されなければならないのか? 現代との角遂が全くない。この現象は、日本の多くの「創作」に観られる現象であるが、この視点が無ければこういう題材を今の日本で表現する意味は薄れる。単に踊り易いとか、鯛や平目の舞を再現したいとかだけであれば、志が低い。F1人災によって危機に陥る竜宮の有様と浦島の時代を対比させた上で、玉手箱を開けた太郎が急に年をとる、という具合に少し話をいじっても良いようには思う。
Dressing/Dressing UP【本日いずれも当日券あります!13時U、16時U、19時D

Dressing/Dressing UP【本日いずれも当日券あります!13時U、16時U、19時D

feblaboプロデュース

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2016/12/08 (木) ~ 2016/12/19 (月)公演終了

満足度★★★

Dressing upを拝見
 新宿歌舞伎町のガールズバーで働くママ以下8名のホステスの開店前の一騒動を扱った作品。

ネタバレBOX

 今作の前に「Dressing」という作品があるから、その後日譚ということになるが、前作を観ていない人にも問題はない。
 さて、ママには内緒でJKが一人働いていた。高3、18歳である。ママには二十歳で通していたのだが、ひょんなことでバレてしまった。その彼女は友だちを失いたくない、との思いからチンピラに入れあげている友人を通じてJK専門のそのパシに貢がされていたのである。金を渡さなければ友だちとして付き合わない、と女子校の友人から言われるのが怖くて貢いでいたのである。この件は、ママがチンピラを脅し上げて片が付いた。他にも問題を抱えている子は居る。JDで就活をしているが、一社も内定が貰えない4年生。小劇場演劇で女優をやっているが、ノルマに押しつぶされそうな経済状態の子、潜入取材をしているルポライター、バックれてしまった娘の代役を頼まれた元NO.1 、伝説のスーパーホステスを師と仰ぎその呪縛から逃れられない女、そして現在のNO.1 らが客の前では見せない、女のはみ出した部分を描いたという。
 だが実際にこのような世界で起こっていることは、もっと汚くどす黒く救いが無いように思われて、余り入り込めなかった。
ワンダフルムーン

ワンダフルムーン

トツゲキ倶楽部

d-倉庫(東京都)

2016/12/07 (水) ~ 2016/12/11 (日)公演終了

満足度★★★★★

バランスの良い秀作
 トツゲキ倶楽部19回目の公演にして初のミュージカル。因みにオペラ歌手1名、ミュージカル役者1名、ゴスペル歌手3名が参加していて、自分は殊にオペラ歌手のシャウトする唱法に痺れてしまった。この方、リズム感も抜群で肝心な所で皆をそれとなく引っ張ってゆく。その声の素晴らしさもさることながらパンチの効いた唱法が素晴らしい。

ネタバレBOX


 シナリオもよくできたもので、何より設定が良い。時代設定は1969年。昭和44年だから高度経済成長期、場所は夫婦ともサラリーマンという典型的中流家庭の住む団地、希望ケ丘ニュータウン。朝出勤する時間帯も同じなら、乗る電車も同じ、給料だってどんぐりの背比べ。年齢も近い。子供が通う小中学校も同じである。何のことはない。退屈の典型でもある。そんな団地で死人が出た。発見者は腰を抜かしたが、妻が余り悲しそうなそぶりを見せない為「保険金をたくさん掛けていたの、ひょっとすると!?」だの「1か月ほど前に越してきた橘家も怪しい」等々との噂があっという間に蔓延する。
退屈シノギとはいえ、怖い話である。序の部分で歌と踊りを交えながら以上のような布石が敷かれている点も見逃すことはできない。破ではこの橘家の話が中心になるが、この家の娘は唖者である、が聾者ではない。父は交通事故で亡くなっている。母が医者に娘をみせる中で娘に何が起こったのかが徐々に明らかになるのだが、その過程で団地の様々な噂は、団地で亡くなった人の死因に疑問を持った刑事の聞き込み捜査も絡んで増々信憑性を帯びてくる。一応死因は事故死として片付けられたのだが、死体の傍に犬の足跡のようなものがあったこと。死体の尻に噛まれたような痕があったこと。団地の子供が事故時「何かが現場に居て植え込みの方に逃げた」と話していたと母が井戸端会議の折に話していたことなどが演じられ、観客は物語に嫌も応もなく引きずり込まれる。
さて、急である。噂が嵩じて橘家を追い出せとの話がまとまり団地住人が徒党を組んで橘家を襲うが。最後のドンデン返しは観てのお楽しみ。
演出・構成も上手く、歌を上手に物語に組み込んで実にスムースに流れ乍ら、日本人特有の事大主義と人情の機微も織り交ぜて非常にバランスの良い作品に仕上がっている。無論、演技も面白い。(役者同士が結構競っている様が、実に団地主婦たちの微妙な競争意識を表しているようで興味深いのだ)
舞台美術もちょっとユニークな作りだが、効果的である。無論、音響・照明などの効果もグー。ホントに初のミュージカルとは思えない。通常のミュージカルより芝居の要素が多いとはいえホントに大切なメッセージをキチンと含んだ秀作である。
夢にかける保険はありますか

夢にかける保険はありますか

劇団サラリーマンチュウニ

上野ストアハウス(東京都)

2016/12/08 (木) ~ 2016/12/11 (日)公演終了

満足度★★★★★

総ての夢追い人に
 記念すべき第10回公演。元々、サラリーマン中心の劇団だが、今回は出演者全員がサラリーマンである。皆役者がやりたくて芝居が好きで好きで堪らない人々だ。
 描かれている問題は、当に彼ら自身の鏡。表現する者を目指す者皆が抱えている問題だろう。そんな彼ら、彼女たちだからこそのリアリティーを感じる舞台である。
(リピーター割 1000円。最終日夜公演にはまだ空きがあるそうだ。但し、行く前には劇団HPを確認のこと)

ネタバレBOX


 10年も付き合ってまた役者の夢を追う29歳の純二に愛想を尽かした彼女・さくらは離れて行ってしまった。その代りと言ってはなんだが彼の両親はちょっと変わった保険に入っていた。1年間、夢を追い続ける資金を保険金から出してくれる代わりに夢が実現しなかった場合には、保険会社の指定する企業に就職して貰う、という保険である。違約の場合は違約金を払わねばならない。
 劇団ホイップクリームの相棒優作がバイトに追われるのを尻目に、彼は今まで真に自分の夢実現に取り組んでこなかったことを悟り、保険会社の担当者からのサジェッションもあって様々なオーディションも積極的に受けるようになり、劇団経営のノウハウなどもセミナーで学んで随分成長してゆくのだが、その成果が見えるようになると彼のブログが荒らされたり、誹謗中傷が書き込まれたりするようになった。バイトの先輩・諸星が、犯人を突き止めようと様々な推理をし、遂には罠まで仕掛けておいたが。
 ところで、この保険会社も買収され、大手と組む為の駒に使われようとしていた。その前段階として、この保険会社が実は夢を食い物にして利益を上げる悪徳企業だとのバッシングを受けていた。その責任を取って社長は辞任した。だが、後釜に座った新社長・ジョニーこそ、乗っ取り屋であったことを見抜いた社長は彼に戦いを挑む。旧社長もこの保険会社の大株主であり、株保有率は20%。株主総会で新社長の企みを暴き、自ら取締役に立候補して承認されれば、新規に社を立て直すことも夢ではない。だが、旧社長には弱点があった。想定外の質問をされるとしどろもどろになり、言う事が支離滅裂になってしまうのである。ここで、社長を助けたのが純二であった。彼の特訓の成果が出て旧社長は、乗っ取り屋を失脚させることに成功した。
 一方、さくらは、ジョニーに結婚を申し込まれる迄になっていた。だが彼女は、純二のことを断ち切れていた訳でもなかったので、久しぶりに彼に連絡を取る。彼とじっくり話した上で最終的な態度を決める為である。
 1年が経ち、オーディションの結果が総て出ることになった。舞台関係はダメだったが、日本アカデミー賞に残りそうな作品の主役発表は未だだった。関係者が馴染のスナックに集まりお祝いの用意をしている所に入った電話は? 残念!  この時点で純二は役者を諦める決意を下すのだが、この会場へブログ炎上の犯人が分かったと諸星が駆け込んでくる。何と犯人は、主人公の親友・優作であった。保険会社の有能社員、相馬が人間として最低の行為だと批判を強める中、純二は、優作の傷をねぎらい“自分自身も親友と同じで妬み嫉みを持つ人間だ、お前はもう一人の俺だ”と彼を許す。
ドタバタの中、相馬が純二の違約金を支払い、夢を持つ人を応援する新規のベンチャーを立ち上げると言い出す。ここで社長が、この会社にも新規ベンチャーを支援するセクションがあることを示し、そちらで働くことを薦めてくれた。筆頭株主の会長には社長から話をしてくれるという。会長のOKも出た。元カノとのよりも戻った。皆、夢へ向けて新たな一歩を踏み出すことができて幕。
弟の戦争

弟の戦争

劇団俳小

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2016/12/07 (水) ~ 2016/12/11 (日)公演終了

満足度★★★★

彼我
の差。

ネタバレBOX


 湾岸戦争は、イラクがクゥエートを石油盗掘の件で攻めたことが発端であった。サダム・フセインが指摘した如く、クゥエートはかつてイラクの一部であった。民衆に離反され追い詰められた王族がイギリスに助けを求め、かろうじて現在の地、つまり脱出を図った港周辺を領地として建国したのである。また、問題となった石油盗掘に関してはイラクの油田と繋がっているとの情報もあった。サダムは攻撃前にアメリカに打診していたが、アメリカは否定する素振りを見せなかった為、了解を得たと考えた。そこに罠があったと考えられる。  
 ところでブッシュ一族で最初にスカルアンドボーンズに入会したのは、イラク戦争を引き起こしたジョージの祖父にあたるプレスコットであるが、彼はナチスの軍資金を運用してブッシュ家の資産の基礎を築いたと言われる。また湾岸戦争時の大統領であった彼の父は、余りに疑惑が多いので以下を参照http://tarpley.net/online-books/george-bush-the-unauthorized-biography/いずれにせよ、きれいごとを並べてやることはえげつない。
今作は此処までの事情は描いていないが、優しく他人の痛みを我がことのように感じる人間にとって、「正義」の戦争とよばれるものの実体が如何なるものであるか。その実際を見せつける。戦争現場の一次情報と副次的情報との質的差異を描いた原作を読んでみたくなる作品だ。恐らく原作で余りに残虐だと感じられた点が、脚本では柔らかい表現に置き換えられていようから。

(再)けいこちゃん、ふたたび。

(再)けいこちゃん、ふたたび。

なかないで、毒きのこちゃん

駅前劇場(東京都)

2016/12/05 (月) ~ 2016/12/06 (火)公演終了

満足度★★★★

歌舞く

 8時間企画として発表された今作で、当初考えられていたのは、尺が8時間(当然、休憩も入るだろうが)ということらしい。

ネタバレBOX

然し結果的にそれとは異なった形になったというエクスキューズがつき、公開稽古(アップ、公開稽古、ダメ出し、公開ゲネ)を通じて、約45分の作品をブラッシュアップしてゆくという公演になった。
 自分が極めて面白いと感じたのは、先ず、作家が罹患したという”C型執筆困難症候群”という病が本当にある症候群なのか否かについてである。一応ググってみたが、発見できなかった。極めて特異な症状で未だネットでも網の目に掛からない可能性もあるが、会場で配布されたパンフ自体を含めて歌舞く為の演出ではないか? と考えたのである。本来演劇は、世界を歌舞くものでもある。殊に歌舞伎を国の代表的演劇形式として持つ我々には身近な感覚でもある。今作が、その点を意識していないという保証はないのであるから、このような突っ込みも可能なのであるし、解釈としてもあり得るであろう。
 以上のような演出レベルでの仕掛けが在るにせよ、無いにせよ、普段観客が見ることの無い、稽古を始める前のアップ(稽古前に心身をリラックスさせたり、イマジネーションの自由な飛翔を助けたり、頭を日常の制約から解放して柔軟な思考を取り戻す為に行う。身体を用いたゲーム形式が多いのは、役者として臨機応変に適確な判断力を養う為と言えよう。)
 舞台美術は空間分けを示す為の台が置かれている他、殆ど総ての道具は段ボール製。胎児期或いは乳児期に父を亡くした良子という娘が成長する過程を小3、中3、高3、大学生、OL、新婦の各段階で異なる女優が演じるが、これに母が対応する形である。物語は結婚式前日、母臨終の場面。父を知らない良子は、母の手一つで育てられたが、父兄参観や運動会、作文などで、中流家庭のお母さんたちが綺麗な服を着て参観に来るのに、良子のお母さんだけが給食のおばさんのような恰好で来ることなど社会的弱者であることを理由に様々な辱めを受けていた。例えばラーメン店で働いていることから小ライスと仇名を付けられたことに対する鬱憤、運動会での二人三脚で他の子たちはお父さんと一緒に走るのに良子はお母さんと走ることをクラスメイトから揶揄されたこと、作文でお父さんとの関わりでタイトリングされた為、自分だけが書けなかったこと等々(この件に関してはお父さんが居ないことについて書けばいいだけの話なのだが)を理由に反抗を重ね、結婚式を迎える段になって尚大人になり切れなかった。(結婚式のハイライトは、通常嫁ぐ新婦が読む親への手紙である)その気持ちの底に流れる、素直な気持ちをA35枚にびっしり書き込んだ便りを用意したのに、母の心臓は止まってしまう。
だが、ラスト、回想シーンで、胎児である良子に名を付ける母の姿が描かれ、母の思い一つ一つが呟かれる度に、母のおなかを蹴る胎児の様子が描かれて幕。 
Which is a Liar?

Which is a Liar?

TEAM空想笑年

参宮橋TRANCE MISSION(東京都)

2016/12/03 (土) ~ 2016/12/04 (日)公演終了

満足度★★★★

創作過程も同時に楽しめる
現在のSNS社会で如何に演劇が成立し得るか? をコミカルにシニカルにそしてシリアスに描いた作品。舞台設定を稽古場にすることで、演劇の創作過程を見せつつ同時に演目を上演するという仕掛けが有効である。(追記後送)

日韓演劇週間 Vol.4

日韓演劇週間 Vol.4

ストアハウス

上野ストアハウス(東京都)

2016/11/23 (水) ~ 2016/12/04 (日)公演終了

満足度★★★★★

水無月の云々
 リーフレットによれば、このユニットはトラッシュマスターズの中津留 章仁氏が無名の役者を育てる為に立ち上げたという。2012年初演の今作は、新たなオーディションで選ばれた若手無名俳優による再演である。

ネタバレBOX


 描かれている表層部分では、家族の話だ。それも殺人犯を出してしまった自然食品販売店の家族であり、地域商店街の家族である。犯罪者の家族という痛い差別は、何かことあれば噴出するものの、表立ったレベルでは逆に地域に支えられている。とはいえ商店街の活気は余りなく、成功者はドラッグストアチェーンを20店舗持ち、最近では駅前に大型店舗を構え売れ筋商品であれば何でも買える店を立ち上げた実力者がいるのみで、この店舗の影響で閉店する店も何軒もある。これに地域首長選挙も絡んでくるのだが、自分は、こういった側面はあくまでサブストーリーだと捉えた。この流れをメインストリームと考える人々にとって、今作は一種のサスペンスに近いかも知れぬ。
 自分の捉え方は、この家族を通して日本という「国」の人類学的・社会学的特性を描いて見せた作品だということだ。一応、家族構成と人間関係を説明しておこう。主人公は弟、嫉妬深い彼女がおり、結婚するつもりである。弟を子供のころから好いている従妹。殺された叔父の娘であるが叔父が殺されて行き場が無い為父方のこの家に同居している。母方の家に行かないのは彼女の意志だ。また叔父を殺害した兄の嫁も同居することになった。そして姉、商店街の若者と結婚を控えるが、婚約者がスナックのママとできているのではないか? と嫉妬に駆られている。それ以外の主要な登場人物は、出入りの電気屋の息子、姉の元カレ、スナックママ、弁護士、父親である。
殺人事件については、ボランティア団体を立ち上げ、その資金を横領していた叔父が兄に刺殺されたことが、先ず明らかにされる。兄は現在服役中である。大学生の弟は、再犯犯罪者たちが何故何度も犯罪を繰り返すのかについて、脳機能の僅かな欠損による結果だと最新の医療データに基づく知見を述べ、選挙絡みの相談を持ちかけてきたドラッグストア会長と対立する。
 さらに、姉の婚約者とスナックママの浮気が絡み、弟を愛する従妹に対する弟の彼女の嫉妬が遂に爆発、彼女は従妹をとことんののしる。優しい弟は悲しい宿命を負った従妹を選び、彼女との関係は断たれる。一方、姉の元カレが、姉と共同で貯めていた結婚資金のうち元カレの分、60万を返して欲しいと願ったことに対して、姉とその婚約者は断固拒否。元カレの母親が癌で入院し、その費用の工面を願った彼の望みはあっさり打ち砕かれる。その時、父が放った言葉「興信所にでも勤めたら」がきっかけになり元カレは興信所勤めを始める。そこで入手した情報から兄の殺人事件の真相が明らかになってゆく。一方、しっかり者の兄嫁は電気屋に気があり、遂に深い関係になってしまうが、弟はこれを察知。一部始終を弟に見透かされたと感じた兄嫁は、電気屋との別れ話を持ち出すが、電気屋は兄嫁にぞっこんで別れることなどできないと逆上。台所から持ち出した包丁で弟を刺殺してしまう。これが、この物語の大筋である。無論、救いなど一切ない。
 初演が2012年だということからも、今作が福島人災の翌年、我々が、この「国」の在り様を根底から考えなおしていた時期と重なるだろう。そして民主主義なるものの根底をこの「国」の人間が担えるのか? という根本的な問題についても考えざるを得なかったハズである。
それは自分の頭で考える自由についてであり、その結果理不尽が明らかになった時に、キチンと異議申し立てをしなければならないということについてであるはずだ。一例を上げるなら、東電がゴルフ場に降り注いだ放射性核種の被害について「無主物」で法的責任はない、と言い張った時、我々は何を思っただろうか? そして、今また経産省が核燃サイクルを新たに立ち上げようとしているが、この動機は明らかだろう。日本が大量に保有するプルトニウムを持ち続ける為のエクスキューズである。
 閑話休題。今作はヒトという生き物が作る社会、個々人、それを繋ぐ単位としての家族を通して、我ら日本人の特性を炙りだしている。即ち事大主義とプリンシプルの欠如を。そしてこれら無しには成立し得ない民主主義を恰も真っ当に成立してでもいるかのように振る舞う欺瞞を告発しているのだ。
日韓演劇週間 Vol.4

日韓演劇週間 Vol.4

ストアハウス

上野ストアハウス(東京都)

2016/11/23 (水) ~ 2016/12/04 (日)公演終了

満足度★★★★★

検閲
 韓国で活躍するパク・グニョン氏が演出した「蛙」に端を発した今回の検閲問題は、韓国の演劇人・文化人千人がリストアップされ、日本でも報じられたからご存じのムキもあろう。

ネタバレBOX

この検閲サイドの言語表現を通して、彼らが抑圧しているもの・ことをシニカルにアイロニカルに、極めて当然な人間の権利、自由、そして演劇が本来持っている祭祀的側面と政治的側面を動員し対置して見せた。
真正面から権力に対して異議申し立てをする韓国の演劇人の精神的健康に拍手を送る。シナリオ、構成、演出、演技、音響・照明効果、舞台美術何れも極めて有機的に関連し、テンポも良い。日本人が、権力者の責任を問えないことに常々切歯扼腕することしきりなのであるが、韓国の人々の精神の何と健康であることか! 今回韓国から来日した2劇団。今後も注目し、またぜひ来日して欲しい劇団である。
大悪党

大悪党

モリンチュ

PRiME THEATER(東京都)

2016/11/30 (水) ~ 2016/12/04 (日)公演終了

満足度★★★

色々難点はあるが、旗揚げ公演ということである。おめでとう!
 時は西暦3000年頃の日本。第三次世界大戦も終了しヒューマノイド、アンドロイド、サイボーグ、人間などが覇を競っている。(追記後送)

ネタバレBOX

他地域ではヒューマノイドを奴隷扱いしている地域もあるようだが、日本は比較的進んでいて、ヒューマノイドの権利は政治家になることもできるほど進んでいる。然し、それはまだ人々の心に迄定着しているとは言い難い過渡期でもある。このような状況下、某所に設けられた秘密のスペースでは、ヒューマノイドの政治家、保守系の政治家そして富豪らが会議を開催していた。
この秘密基地には、政治家、資本家など特別な者達以外は入ることを許されていない。当然こんなスペースが在ると言うこと自体、一般には知られていない。都市伝説的な風評はあるが、それも大衆の不安を意味する他大した意味もない。それをいいことに特権階級だけが甘い汁を吸っているのである。
ところでこの世界、一枚岩ではなかった。政治家は保守層と改革派に分かれ互いに牽制しあいつつも利用し合っていた。喫緊のテーマは、近く提出される予定のヒューマノイドの権利を人間と同等ものにする法安である。無論この法には様々な要素が含まれて居る。
償い

償い

teamキーチェーン

d-倉庫(東京都)

2016/12/01 (木) ~ 2016/12/04 (日)公演終了

満足度★★★★★

決して
元には戻れない。賽は投げられたのだ!

ネタバレBOX

 舞台美術は左右シンメトリーなのだが、舞台上の造作物は、奥の広い踊り場から出捌け口が2か所ある背面の壁に連なり、その客席側は、最前部が波を切る船の舳先のように三角形になっている。だが、その天井に当たる部分は、客席方向へ下る傾斜になっていてこの部分は、ブロックを組むように各パーツが取り外し可能になっている。尚、天井に当たる部分の下部には、出捌け口を挟んで壁が設えられていて、赦免の天蓋部には紗のような布が見える。色調は白が基本で、左右の通路の側壁側には上部が階段状になった柱の如き物体がこれもシンメトリカルに突っ立っている。
 物語は、中学生時代の同級生が自殺? をしたという所から始まる。彼は結婚しており、近々子供も生まれる予定であった。唯、その子には障害がある可能性があると診断されたという。彼は8つもの保険に入り、障害がある子の為にそれが役立つことを考えていたというのだが、イマイチハッキリしない。医師、警察の所見は自殺ということで一致していた。偶々、自殺した同級生のクラスメイトに弁護士になった男が居て、この弁護士が所属している事務所が、妻の依頼を引き受けることになったのだが、おかしなことが次々と起こり当時のクラスメイトの人生を破綻に導いてゆく。
 謎を繙いてゆくと、妻もクラスで一番間の抜けた男も、事件に様々に関与していた人々も総てが、中学時代の苛めに起因していた。手の込んだシナリオを書いたのは、苛められていた子の姉。今ではクラスで最も間の抜けた男の妻となることになった女であり、彼らの置かした犯罪の中でも最も重い殺人を犯したのは彼女の父だと推察される。即ち一連の事件は苛めに対する復讐であったということになる。
観終わって不気味という印象を持った。それは、舞台美術の狙った斜面の不安定感や殊更白を強調して清潔感を表していたこともさることながら、最初、極めて幾何学的、知的に構成されていた舞台上のオブジェが話の進むにつれ、解体され、補修されながら決して元の完成された構築物にはならず、廃墟に残った積み石のような状態を晒し、壊れたもの・ことの不可逆的な意味を示すのみだったからである。それは恰も、我々が失ってしまった人間的価値観の代替として金銭が大手を振り、人々が金銭を神と崇めることによって安心も立命も喪失した現在の日本を映す鏡のようであったからではなかったか? 観終わった後、自分の感じた感慨である。極めて印象的な作品である。
この絶望感は、アホばかりが為政者面をして民主主義など決して担うことのできない国民を誤った方行へ道連れにしてゆくこの「国」の体制のグロテスクそのものであり、彼らの過ちをキチンと追及し責任を負わせることのできない民衆のだらしなさそのものである。苛めとその復讐を描いた作品を観て、粉々に砕け散った人間という概念の廃墟を見た!
位置について

位置について

かわいいコンビニ店員 飯田さん

シアターノルン(東京都)

2016/11/30 (水) ~ 2016/12/04 (日)公演終了

満足度★★★★

花四つ星
 私設保育園の現状は、中々に厳しい。安い給料、長い労働時間、他人の乳幼児を預かる責任、先生という職業について回る聖職という縛り、様々な悪条件からくるストレスを子供たちに向ける訳にはゆかないことからくる悩み等々。(追記後送)

ネタバレBOX


 各自が様々な問題を抱えつつ、日々仕事に邁進する姿を描くが、各々の抱える介護、離婚後の親権問題、結婚、離職等々は、誰にもついて回る問題である。業界全体が決して利益率が高くないどころか、そのような話をすることさえはばかられる乳幼児教育というジャンルであり、その労働は、利害や機械的な対応では決して成立しない。何より良い保育士としての仕事をする条件に、自分自身が良い状態にないとできない、という現実がある。そうでなければ子供達の持っている感受性の強さに悪影響を及ぼすのは必定であるから。保育に関わる者皆がそのような思いでこの職に就き、一所懸命に仕事をしているからこそ、真摯な対立も起きる。
メキシカンタコス

メキシカンタコス

劇団 EASTONES

OFF OFFシアター(東京都)

2016/11/30 (水) ~ 2016/12/04 (日)公演終了

満足度★★★★

East onesなのかにゃ
え~、Eastones初の「ミュージカル」である。

ネタバレBOX

場所の設定は房総半島南端の館山。そこに立地するペンションの話である。東京より年平均気温が0.5度高い地域だ。
 タイトル通り、メキシコが絡む話なのでスペイン語が結構出てくるし、スペイン語でプロレスを表すルチャリブレも登場、歌と踊りがかなりふんだんに披露され、楽しい舞台だ。おまけにおっかにゃいマフィアも絡んで、殺陣ならぬアクションシーンも楽しい。(因みにEastonesは、普段時代劇を演じている劇団である)
 無論、開業して10年になるこのペンションの栄枯盛衰が絡んでのマフィア登場であり、借金の返済に絡んで取り立て屋としてマフィアが登場する訳であるが、ヤクザ組織が海外のマフィアとつるみ、ボスが日系メキシカンである点も興味深い。
 当然のこと乍ら、マフィアも取り立てに当たって法を盾に攻撃してくる。従ってペンションサイドでも借りたものは支払わざるを得ないのだが、相手が突き付けてきた条件は一括返済。これを分割にしてもらえないか、というのがペンション側の要望である。事故で夫を8年前に亡くしたペンションオーナーと最も貢献した社員との恋も絡み、嘘に対してトラウマを抱えるマフィアボスに対する嘘がバレル緊張を上手く用いて、最後までだれない。上質なエンターテインメントである。
「ヴルルの島 」

「ヴルルの島 」

おぼんろ

ラゾーナ川崎プラザソル(神奈川県)

2016/11/30 (水) ~ 2016/12/11 (日)公演終了

満足度★★★★★

朧 大人になる
  初日が明けたばかりなので詳細は明かさない。然し、この所、朧の作品は何処を切っても同じ金太郎飴だと評していた向きには、今作の評価は当てはまらない。

ネタバレBOX

ファンタジーはファンタジーである。だが、いつもの形式を用いて中身は大幅に大人の童話になっている。因縁はあるし、宿命の歪を通した屈折もあれば、復讐という昏い情熱もある。最後の最後にどうなるかは観てのお楽しみだが、大人の苦みを持った作品に仕上がっている。物語自体の展開にも無理が無く、語り部たちのスタンスも良い。また、基本的な物語を語る型はいつも通り観客の想像力と一体化する手法を採っている為、大人の苦みが取り込まれても観客が自然に向き合える。
元天才子役【いよいよ千秋楽!当日あります!】

元天才子役【いよいよ千秋楽!当日あります!】

元東京バンビ

スタジオ空洞(東京都)

2016/11/25 (金) ~ 2016/12/05 (月)公演終了

満足度★★★★

花四つ星
 元天才子役(黒木 ミノル)を演じる加藤 美佐江さんの演技が素晴らしい。天才と評されただけの演技をして見せるのである。

ネタバレBOX

自分の友人にも天才子役と持て囃された人間がいるので、顔と経歴を知られ、その後ヒットに恵まれず埋もれた彼・彼女らの惨めとプライドとの相克は解るつもりである。同時に、彼・彼女らのプライドこそが、その先の成長を妨げたのだという残酷な事実も。
 然し、元天才と子供の頃に評された彼・彼女らが、それでも必死に生きる姿を描いて今作は熱い。脇を固める中で社長役のタカハシ カナコさんの演技、谷 ナオミ役の中村 英香さんも良い。売れないミュージッシャンを演じたはやし ぶうたろうさんのぶきっちょだが、一所懸命な姿にも好感を持った。無論、他の脇も頑張っている。
夢幻の血脈

夢幻の血脈

劇団虚幻癖

Geki地下Liberty(東京都)

2016/11/23 (水) ~ 2016/11/27 (日)公演終了

満足度★★★

ちぐはぐの持つ意味
 ゴシックロマンのようなテイストの作品である

ネタバレBOX

が、オープニングで合格点だったのは、母親役とレオン役の2人。(末弟は、この時点では登場していない。)他の役者は科白が棒読み状態で、自ら演じる役のヴィジョンが内側にないのではないか? と思わせた。
物語は、出現したり消失したりを繰り返す屋敷を久しぶりに訪れた兄妹姉妹は、異様に色の白い人々に出会う。食事に供されるパンは何れも黴だらけ。ところが、このシーンは結構滑稽に描かれゴシックロマン的雰囲気とはチグハグだし、召使たちの態度も尊大であるなど、現在巷に蔓延る迎合主義とペダンチックな発想が同居している点でアイデンティティーの崩壊を感じさせる。
 作品の内容自体は、このような己を崩壊する在り様を表象するものに感じられた。何時か、何処かでのアイデンティファイを期待する。
日韓演劇週間 Vol.4

日韓演劇週間 Vol.4

ストアハウス

上野ストアハウス(東京都)

2016/11/23 (水) ~ 2016/12/04 (日)公演終了

満足度★★★★★

更なる進化を期待
 和合氏の詩をベースに構成された作品

ネタバレBOX

詩的言語の持つ宇宙的、極私的また深い思惟性と、核推進派のウンザリするほどの嘘・プロパガンダを役者の身体に落とし込み、具象化し、身体のムーブメントとしてまたフォルムとして上演することを目指した。
 言葉の力を引き出す為に独自に考えられた手法は、遊戯空間の仕事の二つの柱、即ち古典の蘇生と和合氏の詩作(現代語)の舞台化の為の一方の柱である。未だ内向きであるとはいえ、毎回進化し続ける演出の妙を今後とも注目したい。
 何よりF1人災被災者たちの苦悩を群像劇として表現した点が良い。放射性核種による被害は、五感に感知されないままやってくる。即ちその被害は、ある特定のエリアに限定されるものではなく、空気の流れにより、海流により、其処に居る総ての生き物の体内濃縮により、いつでもどこでも、食物までもが汚染されたまま、気付かれずに広がることを表していると言える。(生物による圧縮の結果は食物連鎖の上位にある者ほど影響を受ける)
 和合氏の詩作が、一躍有名になったのは、F1人災以降である。(無論、演出の篠本氏と和合氏の邂逅はこれより遥かに早い)彼の詩には、福島の現実を為政者、それに肩入れする経産省及び文科省官僚と嘘をまき散らすマスゴミ、これらの嘘・プロパガンダを信じ込んで拡散する愚衆。その愚衆のパーセンテージが増すほど視聴率に惑わされてポピュリズム礼賛に流れるTVの俗物報道への表現する者としての向き合い方がある。
 能を長くやってきた篠本氏の表現は“秘すれば花なり云々”の方法論を用いる点があり、やや内向きである。然しながら花伝書の教えは極めて戦闘的な状況における身の処し方を記したものであると考える自分には、西洋流の観た物・事を真正面から扱い対応しようとする姿勢との格闘の中でこそ、この方法を用いて欲しいのである。
僕たちは他人の祈りについてどれだけ誠実でいられるか(仮)

僕たちは他人の祈りについてどれだけ誠実でいられるか(仮)

Ammo

Space早稲田(東京都)

2016/11/23 (水) ~ 2016/11/27 (日)公演終了

満足度★★★★★

「男たちの戦い(編)」
 二作品を上演。何れも極めて興味深い作品である。

ネタバレBOX


 サイイド・クトゥブは、様々な宗教の特徴のうち一神教の中でも欧米の中心的宗教であるキリスト教と自らの奉ずるイスラム教を比較し、宗教的にはイスラムこそが生活全般(生活形(様)式、シャリーア、統治システムから経済まで)を律する具体的倫理を具えた完全なシステムと捉えた。
 というのも元々教育省の官僚兼作家でもあった彼は渡米した経験を持っていた。最初に訪れたNYでは、拝金主義で物質主義的で極めて豊かだが空疎なアメリカ人を見た。その後、コロラド州立大学に留学したのだが、この大学キャンパスが位置する町、グリーリーの表と裏をつぶさに観た結果、人種差別や歓楽と禁欲の使い分けの欺瞞に反吐をもよおす。
 ところで彼の渡米の原因は、エジプト王ファルークが彼を逮捕する書状にサインしたからである。イギリスの傀儡に過ぎなかったファルークは性とギャンブルに溺れ、政治は腐敗の極みにあった。それに異を唱えた敬虔なムスリムの一人であったのが、ヴィクトル・ユゴーを愛し、バイロン、シェリー、ダーウィン、アインシュタインを繙き、クラシックを好む男としての彼であった。
 帰国後、彼はムスリム同胞団に属し、初期イスラームの姿を求めた。ナセルが、クーデタを起こしてファルークを倒したが、ナセルの目指す社会は、クトゥブの目指すものとは異なり、ナセルの軍を用いた力による政治とモスクを中心に広がったイスラム教徒との対立が深まった。ムスリム同胞団による暗殺未遂事件に動じず演説を貫徹したナセルの人気は一挙に高まり、同胞団に対する弾圧を遠慮する理由の無くなったナセルは、実行犯の即刻処刑と同胞団幹部の一斉検挙に踏み切る。クトゥブも収監され、拷問で体を壊して以降は獄中の病院で過ごすことになったが“みちしるべ”というタイトルの本を著すこととなった。この本こそ、ジハードをイスラム教徒が実行すべき最優先課題としてクローズアップした、手紙形式による書物であった。
 然し、彼がジハードを最優先課題とすべきだという結論に達した時、彼の存在は、孤立していた点に注目すべきであろう。通常、ジハードを行うべきか否かに関しては、イスラムの権威や高位聖職者の間で徹底的な討論が行われる。その際、シャリーアによって禁じられている行為は禁止事項として尊重されるのは無論のことなので、よほどのことが無い限り、これが実行されることはない。だが、キリスト教による迫害やキリスト教徒による植民地支配、差別、イスラムフォビア等々の条件が重なった結果、自らのアイデンティティーと誇りを守る為ラディアカルな思想が芽生えるのは必然と言わねばなるまい。
 世界が不公平で不公正である場合、生存の平等を求める声が上がることは当然のことだからである。問題は、告発された側が態度を改めなかったからという側面が強い。一部、ラディカルな思想に傾倒する者があっても、それに呼応する多くの人々が存在しなければ、思想が、時代、地域を超えて生き残ることはないからだ。現にパレスチナ問題を始め、イラク、シリア、アフガニスタン、パキスタン等々の問題を惹起したのは当にキリスト教国なのである。直近ではキリスト教原理主義者が人口の4割を占めるとも言われるアメリカである。イスラム教原理主義云々を言う前に、この事実を先ずは重く受け止めるべきであろう。

「ウサマ・ビンラディン・フットボールクラブ」
 ビンラディンは、サッカーチームを所有していた。サッカーファンには常識だが、サッカーは、極めて知的なスポーツである。瞬時の鋭敏で適確な判断力がなければ優れたプレーヤーになることはできない。また、戦略・戦術を練ることができなければ、試合を優位に組み立てることができない。更に効果的フォーメイションを組む為には、彼我の特徴と差異を冷静に見つめる目を持ち、情報を集めて分析し、効果的に再統合できる知恵と決断力を持たねばならない。当然のことながら、以上のこと総てを自分の頭で考え、決断し実行できなければならない。
 これら、総てのことが、リーダーになる為の資質と重なる。ビンラディンが、サッカーに目をつけたのは、彼自身サッカーが好きだったことと、サッカーという競技が持つこれらの特性にあるように思われる。今作では選手11人のうち、4名のみが描かれるが、この4名こそ、9.11実行部隊の各リーダーであることが示唆されている。
 一方、ビンラディンのここに至る過程とムジャヒディンとして彼自身がアフガニスタンで戦った結果、何も変わらなかったという深い絶望が彼をより過激な方へ誘ったことも示唆されていて興味深い。無論、各リーダーたちが、迷いながらもファナティックになってゆく痛さも描かれている点がグー。






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