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ハンダラ(10515)
満足度
★★★★★
決して
元には戻れない。賽は投げられたのだ!
ネタバレBOX
舞台美術は左右シンメトリーなのだが、舞台上の造作物は、奥の広い踊り場から出捌け口が2か所ある背面の壁に連なり、その客席側は、最前部が波を切る船の舳先のように三角形になっている。だが、その天井に当たる部分は、客席方向へ下る傾斜になっていてこの部分は、ブロックを組むように各パーツが取り外し可能になっている。尚、天井に当たる部分の下部には、出捌け口を挟んで壁が設えられていて、赦免の天蓋部には紗のような布が見える。色調は白が基本で、左右の通路の側壁側には上部が階段状になった柱の如き物体がこれもシンメトリカルに突っ立っている。
物語は、中学生時代の同級生が自殺? をしたという所から始まる。彼は結婚しており、近々子供も生まれる予定であった。唯、その子には障害がある可能性があると診断されたという。彼は8つもの保険に入り、障害がある子の為にそれが役立つことを考えていたというのだが、イマイチハッキリしない。医師、警察の所見は自殺ということで一致していた。偶々、自殺した同級生のクラスメイトに弁護士になった男が居て、この弁護士が所属している事務所が、妻の依頼を引き受けることになったのだが、おかしなことが次々と起こり当時のクラスメイトの人生を破綻に導いてゆく。
謎を繙いてゆくと、妻もクラスで一番間の抜けた男も、事件に様々に関与していた人々も総てが、中学時代の苛めに起因していた。手の込んだシナリオを書いたのは、苛められていた子の姉。今ではクラスで最も間の抜けた男の妻となることになった女であり、彼らの置かした犯罪の中でも最も重い殺人を犯したのは彼女の父だと推察される。即ち一連の事件は苛めに対する復讐であったということになる。
観終わって不気味という印象を持った。それは、舞台美術の狙った斜面の不安定感や殊更白を強調して清潔感を表していたこともさることながら、最初、極めて幾何学的、知的に構成されていた舞台上のオブジェが話の進むにつれ、解体され、補修されながら決して元の完成された構築物にはならず、廃墟に残った積み石のような状態を晒し、壊れたもの・ことの不可逆的な意味を示すのみだったからである。それは恰も、我々が失ってしまった人間的価値観の代替として金銭が大手を振り、人々が金銭を神と崇めることによって安心も立命も喪失した現在の日本を映す鏡のようであったからではなかったか? 観終わった後、自分の感じた感慨である。極めて印象的な作品である。
この絶望感は、アホばかりが為政者面をして民主主義など決して担うことのできない国民を誤った方行へ道連れにしてゆくこの「国」の体制のグロテスクそのものであり、彼らの過ちをキチンと追及し責任を負わせることのできない民衆のだらしなさそのものである。苛めとその復讐を描いた作品を観て、粉々に砕け散った人間という概念の廃墟を見た!
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2016/12/03 02:53
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