ハンダラの観てきた!クチコミ一覧

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おとしモノ

おとしモノ

CAT-A-TAC

神楽坂セッションハウス(東京都)

2014/09/27 (土) ~ 2014/09/28 (日)公演終了

満足度★★★★

想像力の鍛え方
 
 本来、身体的パフォーマンスとイマジネーションの間には、何ら必然的な関係は無い。にも拘わらず我々は、ある動き、それも休止を挟みながら連続した動きを見せられた時に、その連関を意味付けようとする。それは、狩りや採集によって食糧を得ていた時代からの動物的本能によるものであろう。これ迄指摘して来た点は、逆に身体による形態模写や身ぶりによって、それを見る者に無限のイマジネーションの湧きあがり得ることを示唆する。
(追記2014.9.30)

ネタバレBOX

 
 今作のテーマは“おとしモノ”であるが、観客層が大人から子供迄と多岐に亘った為、中心テーマを赤ん坊にしたのは、無難な選択と言えよう。だが、2人だけのユニットであれば、もっと表現としてとんがったものを追求しても良いのではあるまいか? 殊に、藤田 善宏氏の身体は、かなり身軽で身体能力の高さを追求できるであろう。静止場面で、今回のように床がコンクリで怪我の心配が在る場合、オリンピックの体操競技のようにキチっと最後の動作を静止で纏めることが困難な場合は、回転を入れるなりなんなり、シナリオと演出の工夫で、どうにでもなろう。道化のようにコミカルにそれを演じても良いのであるから。
 また、形態模写をする場合、それを最初から創作としてイメージして作っていっては弱すぎる。矢張り、実際に起こった事件なり、事実なりのごつごつした感触をイメージした上で、それに対置して、エネルギーポテンシャルで負けないような表象を作って貰いたい。その上で日本人の身体特性について、或いは、自分自身の身体的個性について、それが最大限活かせるパフォーマンスを作って欲しいのである。
 テーマに関しては、今作の赤ん坊に絡めて一つだけ挙げておこう。弱い者にとって生き易い社会は強い者にとってもより良い社会である。
Le jasmin de nuit, et la nuit de saphir (夜のジャスミンと、サファイアの夜)

Le jasmin de nuit, et la nuit de saphir (夜のジャスミンと、サファイアの夜)

DANCETERIA-ANNEX

神楽坂The Glee(東京都)

2014/09/27 (土) ~ 2014/09/27 (土)公演終了

満足度★★★★

う~ん、若手が1部でカミカミだったのが残念
 休憩を挟んでの2部構成。第1部では、先日亡くなった山口 淑子さんに敬意を表し、Goh Iris WATANABEが、夜来香、蘇州夜曲の2曲を歌った。

ネタバレBOX

 1曲目のNight Jasmineでは、ギターも奏でたのだが、Gohが、入ると全体が締まる。ピアノの加藤氏の腕はいつも揺るぎないが、パーカッションを含め、他の若手メンバーは、Gohを中心に纏まる感じだからだ。各々の高い技術が集約する点を見出すのである。
 Gohは作曲もするし作詩や音楽監督等も兼任する。勿論、ボーカルも担う。彼の歌声は、背筋を時折、電流が駆け抜けるような微妙な震え感じさせ、時に天空を感じさせるような高音の美声に変わる。元々、備わった資質を鍛え上げてゆく、ストイックな姿勢を内包できるようになって、更に深みが増した。自分の思う道を選んで行けば大丈夫だろう。老婆心から一言付け加えておくなら、若いうちに、世界の多くの古典に触れておいてほしい。
 以下に、本日、1、2部のラインナップを記しておく。因みに本日のライブ会場は神楽坂のThe Gree 山下 洋輔などの超一流ミュージッシャンもライブを行う店だ。
第Ⅰ部
1.Night Jasmine  2.Little Boy from Little Bay 3.Prelude 4.Stand by Me 5.452  6.夜来香 7.蘇州夜曲 8.僕だけのwhite lily 9.虹の彼方に
第Ⅱ部
1.Newyork States of Mind 2.Some.one to watch over Me 3.But Not for Me 4.What a Wonderful World 5.Muguet 6.Phoibos 7.夢の宴8.Fallen Angel 9.Music of the Night 10.Caro mio Ben 11.聴かせてよ愛の言葉を12.水晶の虹
これらの曲のうち第Ⅰ部1~3、5、8と第Ⅱ部5~8、12がオリジナルだ。
Goh氏、ピアノの加藤氏らは、★5つ。若手カミカミで全体評価★4つ。
なめくじ劇場LIVE2

なめくじ劇場LIVE2

なめくじ劇場

新宿ゴールデン街劇場(東京都)

2014/09/26 (金) ~ 2014/09/28 (日)公演終了

満足度★★★★

なめくじ舞う
 平均年齢38歳のアラフォー集団である。信長の時代であれば、余生10年余だ。そんな世代の人達が、人々を笑わせたくて作ったコントである。ご笑覧頂きたい。

ネタバレBOX


 今回は、役者が演じたものを一旦映像化して編集を施した作品も随所に鏤められている。シチュエーションが劇場では再現できなかったり(短いもので5分強、長いものでも10分前後の作品のオムニバスなので、セットなどを組む時間も予算も無いのである)、難しかったりという作品群だ。Live2では、これらの映像作品3本を含めた9本のラインナップ。上演中なのでネタバレは避けておくが、揶揄あり、パロディーあり、下ネタすれすれあり、意外性あり、ブラックユーモアありと笑いの内容も豊富である。自分が一番気に入ったのは8番目に演じられた「救急病院」であった。無論、役者も出演しているのであるが、作品自体が映像とのコラボで、結末が見えて仕舞うと大抵喜劇はそこから先を笑えないというか白けながら観てしまうものだけれど、この終わり方の結末は予想した通りだったのに、優れてブラックなユーモアを感じさせる所が気に入ったのである。
 一応、以下にラインナップだけを挙げておく。なお、順番はネタ順である。
1.ゴルゴ2.桃色ミルフィーユ(映像)3.ストッパー伊藤4.ティコ亀岡5.相手を傷つけず、なおかつ自分の気持ちにも嘘を付かずに場を盛り上げる方法(映像)6.いちゃ7.クレイマー・クライシス8.救急病院(映像)9.仁義なきファミリー
Catastrophe

Catastrophe

劇団虚幻癖

北池袋 新生館シアター(東京都)

2014/09/24 (水) ~ 2014/09/28 (日)公演終了

満足度★★★★★

近未来
 滅亡への序曲或いは招待と名付けたい内容で、自分は好みの作品だ。

ネタバレBOX

3.12以降、原発・核関連に絡めて書くことが多いのだが、もう一つの根本的な問題は、無論、人口問題である。この問題について、自分は40年程前から指摘しているが、まあ、食物連鎖の最上位に位置する者が無制限に増えたら、無論、破綻しかないのはマルサスを出す迄もあるまい。必要な食糧の量が、地球の生産性を上回ってしまうからである。実に単純なことだ。単純だから、多くの者が気付かない。そして、結果は、極めて深刻である。
 設定は、今から22年後の2036年。世界は2分され、戦争をしている。日本を除くAA諸国VS欧米+日本である。戦闘員の人数は、AA諸国は欧米日の5倍以上。このままでは、欧米日軍が負けるは必定。戦争の原因は、無論、理論の示す通り。現実の食糧不足とそのの生産地獲得、生産に必要となる様々なエネルギー等の獲得競争である。
 当然のことながら、食糧などは、既にAA諸国のどのエリアでも配給制となっており、多くの者は、従軍しなければ、配給対象から、自分や家族が外されてしまう為、兵士となって従軍していた。西側は、元々の豊かさから、配給制とはなっていても、戦闘員になることとセットになっていなかったり、社会保障制度との兼ね合いで、極端な政策を政治が打ち出しにくかったことから、この点で対応が遅れていたのだが、既に、中国では、特攻攻撃が路線として採択されており、仮に大々的にこの作戦が実行されれば、彼我の戦闘員数の圧倒的差は、西側必敗を意味した。元々、この兵力差は、AA諸国の方が、より早くこの兵士とその家族のみ優遇する非常態勢を法文化したことにあったから、西側諸国もこれに倣ったというわけだ。無論、元々の人口差もあるのだが、それだけでここまで兵力に差が出たのは、以上説明した理由による。
その為、この兵力差では、圧倒的に不利な、西側も今迄、戦闘に参加していなかったインテリ層に属する人々を兵士にすべく法改正を行いつつあった。
 このような状況下にあって、家族を守る為、配給の食糧を確保する為、出征して行った元ジャーナリスト達の、その後を描いた作品。上演中なのでネタバレはここ迄、中後半も切迫した展開を見せて最後迄緊迫感を保った舞台である。作家は、30代前半の方と伺ったが、可也しっかり時代の本質を見つめ、冷徹と言って良い観察眼を武器に、勇気のある作品発表を行っている。上演に際して、細かい点で、更に工夫が欲しかったり、役者の演技力・間のとり方などに注文をつけることも可能だろうが、この作品を発表した勇気と、作家の自立志向、本質を見る目に期待して★は5つ。
アリはフリスクを食べない

アリはフリスクを食べない

青年団若手自主企画 伊藤企画

アトリエ春風舎(東京都)

2014/09/26 (金) ~ 2014/10/05 (日)公演終了

満足度★★★★

フリスクは誰? 
 誰の身近にも在り得る、状況を、その条件を呈示して探った作品。

ネタバレBOX

 

 癲癇の発作を伴い、知的障害を負ったトモユキは、婚約者、舞子を持つ弟、アユムを持ち、桜田の経営する工場で月、水、金の3日就労。箱詰め作業の手伝いや掃除等の軽作業を担当している。好きな事はゲームをすることとドラエモンを見ること、好きなグループの音楽を聴くことだ。一応、トモちゃんと呼んでくれる女性もいて、大体、波風の立たない生活をして来た。然し、アユムが婚約者の舞子と、愈々、結婚の具体化の段階になって、兄をどうするか? という問題で舞子の両親、舞子、アユムの関係はぎくしゃくし始めた。
結局、兄を施設に入れよう、との方向で固まったのだが、それは舞子の妊娠との関係もあって喫緊の課題になったわけだ。その背景にある、障害者や社会的弱者排除の倫理的問題を、兄弟の子供時代の思い出(兄が自分にどんどん話しかけてくるのに、同級生と一緒の時だとシカトしまくった等)や、これから生まれてくる自分達の子供に障害が無いか、と心配するアユムの姿等を描いて、家族内に社会的弱者が、存在することの意味するものを描いて見せた。
 BGMと役者の科白がかぶって聞き取れないシーンなどがあったのが残念。トモユキ役の石松 太一の演技が特に気に入った。

鈴木家の幸福

鈴木家の幸福

ワイアールジャパン

劇場HOPE(東京都)

2014/09/23 (火) ~ 2014/09/28 (日)公演終了

満足度★★★★

Aチームを拝見
 鈴木家の家族構成は以下の通り。祖父、父、母、息子2人娘1人である。祖父は呆け、長男は、かなりニートに近いフリーター、二男はしっかり者。長女は高校の演劇部では一番可愛い。が、無論井の中の蛙である。
 こんな何処にでもありそうで無いかも知れぬ一家に、トンデモナイことが降ってきた! 

ネタバレBOX

 食後、新聞で父親が何事か一所懸命に確認していたのだが、何度も、見直した後、当たった! と言ったのだ。何が当たったかって? 宝籤だ。宝籤が当たった。いくら? って聞くのか? 30万円。家族達の反応も読者の反応に似ていた。だが、その直後、もう1枚確認していなかった宝籤があって確認してみると、父は、何度も確認し直して声も出ない。ま・さ・か!!! その“まさか!”が現実のものとなった。
 上演中だから、あとは観てのお楽しみ。何れにせよ、豊かさとは何か? 幸せは豊さだけに比例するか? 嘘をつくと? 等々の解に単純だが、深く心に沁みる科白が鏤められているので注目。
恋夢

恋夢

少年ギ曲団

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2014/09/25 (木) ~ 2014/09/28 (日)公演終了

満足度★★★★

メッセージ
 ドリームパークは、人型ロボットが、アトラクションに参加したり、案内、迷子案内、売店の売り子、清掃までこなしていることを売りにしたテーマパークだ。形が、ロボットロボットしていないだけでなく、個々のロボット達は、妙に人間の心の襞に溶け込む。その感覚は、最早、不気味の谷を越え、違和感のなさを越えて、既にロボットの個性とさえいえるものだった。これらのロボットの開発・保守・点検を行っているのが、博士以下3人のスタッフだ。ところで、ここのロボットは何故、こんなに違和感がないのか? 

ネタバレBOX


 それは、ロボットに亡くなった者の魂を組み込んであるからであった。その結果、ロボットも恋をするに至ったのだ。その結果は? 観てのお楽しみでありますぞ! 
 博士役を演じる橋谷 知宏のコミカルな演技が気に入った。
上演中故、これ以上は書かないが、近い将来、ロボットなどの人工知能と我々、ヒトとの関係が更に濃くなると予想される以上、未来からのメッセージの一形態と考えるのも面白いかも知れない。実際、人形フェチなんかも居る訳だし。
ゲキ★BAR

ゲキ★BAR

世の中と演劇するオフィスプロジェクトM

タイニイアリス(東京都)

2014/09/18 (木) ~ 2014/09/24 (水)公演終了

満足度★★★★

桶屋のはらぺこソングが抜群
先ずは「ふ抜けの投影」(20分)、「桶屋はどうなる」(50分)を拝見。前回も紹介したようにBARが設置されている。今回はウェイターも居た。

腑抜けが、見えない物を通してイリュージョンを立ち上げるという演劇手法であるならば、桶屋は、時代の現実に棹さしつつ庶民の的確な判断を勘違いも甚だしい阿保な為政者に突きつけるメスの役割を担ったもう一つの演劇の形であると言えよう。こちらは、原因こそ目に見えない放射線であるが、その結果は、医療機器の進歩で資格化できるようになったものが、増えた。桶屋だけなら、★5つの所だ。

ネタバレBOX


「ふ抜けの投影」
 男(兄)はキャンバスに向かって見えない絵を描いている。女が現れる。二人は同じ夢を見ているとか。で、男が何度も名を呼ぶので、女はやってきたわけだ。男は相変わらず、キャンバスに向かって描き続ける。男の描いているのは、彼を振って出て行ってしまったさよこの肖像だ。然し、女に絵は見えない。女は、自分を見て、と言う。男は女を見る。然し、女は自分を見ていないと言う。男は、胸に手を入れ取り出すと、女に手渡す仕草をする。愛情を手渡したのだと言う。女は、何も無いと応える。男は上着や、ズボンのポケットをまさぐろうとするが、女に言われる。ポケットは無いよ、と。女は男の帽子を指さす。男は帽子を脱いでその中からまた何かを取り出す仕草をする。そして女に手渡す。女は応える。空っぽ、と。そして、あたしは“さよこ”じゃない、と応じた。
妹が出てくる。妹も何度もさよこに間違えられた、と言う。彼女はまだ恋に恋している段階なのだが、先に進みたい。実際に男友達を呼び出して告白しようとするが、上手くゆかない。
33歳のOLが、登場し、彼女が、新宿西口のLOVEモニュメント交差点に突っ立っている理由“結婚して下さい”と年齢とが書かれた段ボールを首からぶら下げて盛んにアピールしている。偶然が重なって、どうにか、カフェのウェイターと話をすることはできたのだが。
メインストリームは、絵を描いているハズの男と現在の彼女の話である。だから、最後は、其処に戻って行く。で、最初の会話と同じ科白が演じられた後、女が言う。男が愛情だと寄こしたものに空っぽだと応えてから、私はさよこじゃない、と。
「桶屋はどうなる」
 風が吹くと桶屋が儲かる。という例の話なのだが、じゃあ、それは実際何がどうなると最終的に桶屋が儲かるのか? と問われて即答できる人は、そんなにいまい。落語通なら居るかも知れないが。
 で、実際に語られるのは、ゴキブリ姉妹の話である。妹には名が在って、チャバネ、姉には名が無くお姉ちゃんで通される。
 ゴキブリはシーラカンス同様、3億年前から存在し、地球上、生物の居る所なら殆ど総ての場所に生息し、主たる食物は塵である。その生命力と繁殖力の逞しさは並大抵ではない。ところで、チャバネは腹ペコである。お腹と背中がくっついちゃいそうな程だ。でもくっつかないけどね。何故かというと、お姉ちゃんが隣の庭に住んでいる鈴虫に恋をして、ストックしてあった胡瓜を毎日持ちだしてしまったからだ。毎日、お姉ちゃんは胡瓜を鈴虫の所へ持って行く。そして、お腹が減って鈴虫の目の前で全部食べてしまう。それで、鈴虫に「2度と顔も見たくない」と振られてしまった。声フェチのお姉ちゃんの恋はこうしてお姉ちゃんの喰い意地のせいでおジャンになった。でも、お腹はすく。喧嘩なんかしないで、仲良くしてたってお腹はすく。特に、チャバネはペコペコで腹が減り過ぎて腹痛を起こしているほどだ。そんな彼女らの所へ、妙な野菜が歩いてきた。色も変なら、形もおかしい。野菜なのに、手足がある。足は根っこが変形したと本人は言っていたが、ミュータントなのだという。要は、突然変異である。姉妹は、この野菜にベジ子という名をつけた。ベジ子は、自分の体になっている幾つもの異なる野菜から、1つづつもぎ取ると姉妹に与えた。姉ちゃんは、可也、警戒している。というのも、突然変異を起こした原因は、自分の子供達に悪影響を及ぼさないか、と心配しているからである。だって、食べたものが、体を作るわけだから、食べ物こそ、自分の生命である。従って、その声明の素に悪い物質が入っていたr、あ自分の体が悪くなり、母体から栄養を摂取するしかない子供たちも母を通して同じ悪影響を蒙るハズだ、と彼女は言うのである。姉妹はベジ子に訊ねる。何故、突然変異を起こしたのか? 何があってそうなったのかを。ベジ子は答えた。風が吹いた、と。風邪が吹くと雲が出来る。雲が出来ると、雨を降らす。雨は、汚ない物を溶かし込んで、地面に沁み込む。土は、汚染されてしまった。そして、ベジ子は汚染された土の畑で育った。そして体がこうなった。収穫の時期に人間に見付かると処分されてしまう。折角、食べられる為に、おいしく育ってきたのに、処分されてしまうのでは、自分の生きて来た、否、生きている意味が全否定されてしまう。だから、彼女は畑から逃げ出してきたのだ。この風が吹いて云々から、奇形迄のプロセスが、桶屋のそれと照応するのである。そのことで、人間が自然界に齎した災厄と生命に対する罪を告発しているのだ。
 説明はこれくらいにしておく。兎に角、姉妹はベジ子がちぎってくれた野菜を食べた。ホントにおいしかった。こんなにおいしいのに、それを食べた者にも、その子孫にも異常が出る可能性があるというのだ。ベジ子自身もレゾンデ―トルを失い、アンチノミーに引き裂かれている。この残酷な状況に除々に気付いていった姉妹は、初め50度cのお湯を掛けて、ベジ子の汚染を取り去ろうとするが、そんなことで内部被曝の悪影響は拭えない。次に体内の悪い因子を排出する為のエクササイズに挑むが。野菜の鮮度は直ぐ落ちる。そうこうしているうちに、ベジ子は、腐り始める。そして、彼女は、1人去ろうとする。処分される為に。だが、心を通わせたチャバネにそれは耐えられない。まして、ベジ子の何も理解せず、というより意図的に隠蔽し矮小化して何も問題は無いとするような者の手で処分させてはならない、とチャバネ自らがベジ子を処分することに決めた。先ず、種を取り出して、劣性遺伝子の拡散を防ぎ、彼女の体を見仁に刻んで、深い土中に埋める。そう決めたチャバネにベジ子は訊ねる。「私を処分した後、あなたはどうする」と。チャバネは答える。「あんた達の末裔を食べられるまで生き抜く」と。
 ベジ子の解体しつつある体からはDNAの螺旋が出て来た。二人は、その端を互いに持って3億年前の世界を垣間見た。その美しかったこと! その驚くべき世界を見た2人は未来を思い描く。3億年後、生物は進化を遂げて人間になった。

国境23号線

国境23号線

各駅停車

小劇場 楽園(東京都)

2014/09/19 (金) ~ 2014/09/23 (火)公演終了

満足度★★★★

武器を持たない中立は可能か
 軍を持たず中立を守り、尚且つ、独立心を保とうとすることは、軍事力を持つ者に攻められたときにどうなるかなどの問題を分かり易くシナリオ化しており、音響効果も大変上手い。場面設定もピッタリである。

ネタバレBOX


 武器・軍隊を持たず、中立を貫く都市国家は、この都市国家を挟んで国境を接する仲の悪い両国と交易を通して利潤を得て来たが、この所、隣国同士の関係はおもわしくない。戦争が始まるのではないかと誰もが懸念している。ところで、この工場の製品は好評で、唯でさえ忙しくて残業をしているのに、工場の電気が消えた。周囲を見回しても、矢張り真っ暗だ。街灯も消えているのだ。停電である。
 長い停電があってから間もなく、都市国家は、一方の国に占領されてしまった。とはいえ、業績は右肩上がりで生産がおっつかない。占領されはしたが、軍の需要が多く、キチンと支払いもしてくれるので、儲けは増えているのだ。然し、問題は、相手の言う通りの物を作らなければならないこと。マニュファクチュアの特性を活かし、技術的に難しい、既製品にはない良さを売りに成長して来た企業だけに人気もあるのだが、作り手として従業員のプライドが高いのである。だが、贅沢は言っていられない。工場を閉鎖させられたり、インフラを落とされて廃業に追い込まれた所が数多くあって、失業者が町中に溢れだしているというのに、この工場ばかりは優遇されているのだから。との言い分が大部分を占めるが、一人だけ、それでいいのか? と疑問を持ち、ストライキ等で対抗しようという女子社員がいる。また、最終工程を担っている南の夫は、矢張り革命家と共闘していた。現況を嘆いていたのだが、酒を飲んで鬱憤を社長にぶつけ殴ってしまって首になったばかりだ。それで、金の事を言われると妻に言い返せない。だが、表を見れば人々の鬱屈はつのるばかりだ。デモが弾圧されると暴動が散発し始めた。おまけに、人々は、この工場に占領国側の監視役が入り、儲けを出したことを知っており、更に逆恨み募っているのである。そのうち工場入口に脅迫状迄届く始末だ。それでも、工場内の人々は一人を除いて、仕様が無い、と生活者の論理で動いていた。ある日、この工場に駒形と名乗る女が来た。社員、毅の彼女だと言う。而も、彼女こそ、これ迄、デモや暴動を仕掛けて来た革命家であった。彼女と南の夫は、工場が危険だから、早く逃げるようにと忠告しに来ていたのである。社長は、暫く前から徴用されて占領国の職人達に技術指導をさせられているので不在である。そうこうするうちに投石で硝子が割れる音が響いてきた。此処に至って漸く、社員達は、慌てだしバリケードを築き始めるが。群衆の様子を確かめに行った南の夫が頭に投石を受けて戻ってくるのと入れ替えに、暴徒と化した群衆を宥めようと駒形は部屋を出る。その際「もしなにかあったら、自分達で身を守るように」と言いながら、拳銃を置いていった。だが、群衆はなだれ込んで来て工場はめちゃめちゃにされ、従業員の殆どは怪我をした。
 暫くして、社長が戻された。残った社員2人と工場を見に来たが、余りのことに、落胆して帰宅してしまった。残った社員二人がぼちぼち片付けを始めるが、明日は見えない。淹れて貰った珈琲に濃い目と注文はつけたものの、濃い珈琲の好きな石塚もその苦さに驚く所で幕。

ゲキ★BAR

ゲキ★BAR

世の中と演劇するオフィスプロジェクトM

タイニイアリス(東京都)

2014/09/18 (木) ~ 2014/09/24 (水)公演終了

満足度★★★★

短編だから簡単というわけではないよ、逆。
「Kaigi」「お見舞い」「立ち入り禁止区域の恋愛」の3本を拝見。1番目から25分、55分、20分の作品である。上手観客席寄りにバーカウンターが設けられていて、座ると、女性がオーダーを取りに来てくれる。ドリンク、つまみ等は料金が別途になるので注意。

ネタバレBOX


「お見舞い」
 昆明は雲南省の省都であり、数多くのマイノリティーが住む雲南省の全マイノリティーの半分以上が、この地に住む。人口400万人。独立意識は無論高いのは、中国の各時代に於いて東南アジアへの玄関口であり、元によって中国領とされる迄は、四囲を山に囲まれたこの地に住む各民族毎に自治を保っていたようである。現在26民族が住むという。年間平均気温14.5度、1月でも8.1度、7月が19.9度と中国国内で最も過ごしやすい気候の土地で、海抜1891m。古くから栄えた土地なので、中国有数の古都市としての魅力も具える。
 ここを故郷とする仁は、日本人と結婚したので、現在の本拠地は日本だ。然し、近年、騒がれるヘイトスピーチによって、唯でさえデペイズマンのある身にとって、居心地は決して良くない。神経を病むようなことさえ懸念される程だ。アイデンティティー崩壊の危機に立たされ続けるのである。それは、故郷へ戻って来ても変わらない。既に国籍は日本であり、夫、娘も日本人だ。E.サイード流に言えばOut of placeという状態である。
今作では、取り敢えず、親友の光蓮の所へ寄ってから、二人の恩師が入院している病院へ見舞いに来たという設定だ。物語は二人の雑談で進んで行く。アクセントとして、地方から、昆明に働きに来ている少女が出て来て、現代中国の状態を表しており、この辺も頗る上手いシナリオである。雑談の中で、革命以降の中国現代史も語られる。例えば、仁の父の話から分かるように、文革・紅衛兵(紅小兵)時代の中国の様子等も推して観るべきだろう。でなければ、恩師の怒りっぽさや、古代中国詩を教えられている側には気付かれない位に気をつけつつ、本質を伝えた意味が、こちらに伝わって来ないし、そもそも、何故、怒りっぽい、と見える先生を中年になった嘗ての女性徒が訪ねるのか、また、佐藤春夫が訳した、中国の古詩が、ダブルミーニングで言及されるのか意味が分からなくなる。 
今作が、今日、拝見した三作の中で本当は最も格調の高い作品である。上品で華麗、而も、その作品の底には、中国現代史の闇がキチンと畳みこまれている。にも拘らず、現在の自分にとって、ディレッタントを自称する自分にとってさえ、今作を2位につけざるを得ないのは、2011年3月12日以降の大問題があるからである。亡くなった方々、親族・捲族を失くされた方々には申し訳ないが、今迄も、これからも、地震と津波だけなら、どれだけの被害を蒙ろうとも、哀しみを糧として復興を目指すことができた。然し、核被害は根本が異なる。未来など、何処にもないのだ。従って、本来、国家の為すべきことはこの残酷な事実をありのまま、被災者に告げ、生き残った被災者に対する根本的な代替策を練ることであった。つまり離散宣言を被災者に通知徹底することであったのだ。にも拘わらず、為政者達は、根本問題をネグレクトし、忘れさせようとした。強大な力の前で、この国の武器を持たぬ民衆は、キチンと自分達の権利を主張する手段も持たないまま、歪に自らを変質・変形させていった。その結果が現在、既に至る所に現れている。この全く明日の無い状況が、ディレッタントをして、芸術的に最も優れた作品を推すことを許さない。
「立ち入り禁止区域の恋愛」
 本来の評価は2位である今作が、今、自分が推す今日拝見した作品1位だ。無論、扱っている問題が、プルトニウムなど、現在、日本政府が発表している核種の中で、半減期の長いものを扱ったからである。それも、小松左京原作の日本沈没と掛けた形で。こうすれば、原子力については分からない、と逃げている日和見な人々にも届く可能性が広がる。放射性核種で汚染された立ち入り禁止区域にも、研究者や作業員は居る。研究者は、核の汚染による生物への影響を研究する為、残留放射能の多い立ち入り禁止区域に残った若い女性だ。作業員も若い男性である。若い男女が、シンドイ状況に四六時中置かれていれば、恋に逃れるしかないのは必然である。結果、妊娠した。当然、両親共に、汚染されている。子供は欲しい。然し、生まれてくる子供に障害がないという保証もなければ、様々な劣勢がないという保証もない。、まともな研究者であれば、ICRPやWHO、エートス、国家、IAEAや核大国が出鱈目を流し続け、研究者としての態度を完全に放棄していること位、重々承知している。産むのか、産まないのか? そもそも、産めるのか? 大きなリスクを背負って!
「Kaigi」
 カフカの作品を劣化させたような作品。論理そのものに必然性がなく、従って弱い。詭弁と上げ足とりのレトリックで構成された皮相な作品だから、その皮相を強調すれば、面白い作品になったかも知れない。
人間機械より夜空へ

人間機械より夜空へ

劇団晴天

Route Theater/ルートシアター(東京都)

2014/09/20 (土) ~ 2014/09/23 (火)公演終了

満足度★★★★

ハラドキ
序盤、ハラハラドキドキであった。内容がいいからではない。悪過ぎたからである。非礼を覚悟でとも考えそうになった。幸い、それは杞憂に終わったが。これは、キャスティングと演出、そして、月子を演じた女優の演技が、この中では光っていたから持ちこたえ得た、ということである。

ネタバレBOX

 
 中盤以降は、ギターの練習も碌にしていないことがミエミエの生演奏が無くなったり、表現が徐々に上達してゆくシナリオの内容と演技がマッチした演出・演技になった為、全体としてのバランスが取れてきた。中盤から舞台が締まった原因としては、オーでぅションに合格した太陽が、撮影に入る場面等が演じられ、このシーンで、現場の雰囲気や役者が担わされる過酷な状況が描かれたり、演技力dえは明らかに上の月子では無く、太陽が、ヒロインに選ばれるシーンが挿入されることで、チャンスは結構、非合理的なのだという現実の在り様が表現されるので、ある程度リアリティーが確保される。その後の展開でも寂しさから浮気に走った月子が人間では無くロボットであり、彼女が主張していたのとは逆に、太陽はロボットでは無く人間であり、それが事実であると確認してしまった月子が、その事実を意識することによって自壊を望むに至ったアンチノミーを理解しなければならない。即ち、お姉ちゃんとして生きて来た月子が自らをロボットと認識すれば、人間の姉として自らに課して来た総てのデューティーは雲散霧消して意味がないどころか、強烈なアイロニーとして彼女の思考回路を攻撃せざるを得ず、その事実に反する人間として自らを措定するならば、ロボットの必要とする充電はできない。こうして月子はアンチノミーの縊路に囚われた。当然のことながら、彼女は死ななければならない。この悲劇的展開が終盤を一気に引き締め、ポテンシャルを高めた。
 まあ、作りとしてはこのようになっているのだが、役者が、ホントに力があって意識的に上記の作業をこなしているわけではないと観た。ただ、様々な要素が偶然に作用して結果的にこうなったと観たわけである。若い役者ばかりの劇団のようだ。今後ともしっかり鍛錬を積んで欲しい。
ガダラの来訪者

ガダラの来訪者

首塚のリンゴ

pit北/区域(東京都)

2014/09/19 (金) ~ 2014/09/21 (日)公演終了

満足度★★★★

旗揚げ公演
旗揚げ公演の割に役者が上手いと思ったら、それもそのはず。円、俳優座、銅鑼などの役者が客演で出ている。だが、シナリオのメインプロットに大きな矛盾や問題点はないものの、サブプロットとの関連では若干齟齬の生じている部分があった。(追記後送)

ネタバレBOX

 都市部からのアクセスは余り良くないが、レトロな町並みや、夏涼しい気候、掛け流しで美肌効果のある秘湯にも恵まれた平家の落人部落に、避暑地誘致の話が持ち上がっている。現在は人より豚が多いような養豚の町だが、四囲を森に囲まれ、高台の向こうには清流が流れる。地元の実力者は二人、畜産業を営むゴンゾウと旅館を営むミミオである。ゴンゾウは平家落ち武者、蛇目氏に連なる身で、先祖の蛇目は弓の名手であった。隠れたこの地が、地味悪い荒れ地同然の土地だったので、彼は山に入っては弓で獲物を狩り、持ち帰って皆を養った。或る時、旅の僧が、通り掛かりこの地に投宿したが、一宿一飯の恩義とでも考えたか、彼は、穀物の栽培法を教え、狩りにゆくなら、猪を生きたまま連れ帰り、此処で飼って増やせば良い、と提案。日本で初めての養豚業はこうして生まれた、との話だ。他にも、僧は治水や灌漑、薬草の知識など多くの事を村人に教え、だんだんと村に溶け込んでいった。然し、村人の根本的な猜疑心迄は解けなかったようだ。僧の余りの優秀さに恐れを為した住民は、僧を鬼の類と位置付け、謀って井戸に突き落とし生き埋めにした。それでも暫くは、僧の伝えた技術によって集落は潤い、かつてない繁栄を見せた。が、暫くすると、彼の教えによって始まった養豚業で三つ目の子が生まれる。大抵は死んでしまうのだが、生き残った三つ目の子が、僧が生き埋めにされた井戸のあった場所にへたり込んで、押せども引けどもびくともしない。その上、地下から、唸り声が聞こえる。その後、空が焼け爛れたように真っ赤に染まったかと思えば天変地異に襲われ、集落は壊滅的打撃を蒙った。
相対的浮世絵

相対的浮世絵

劇団花鈴

パフォーミングギャラリー&カフェ『絵空箱』(東京都)

2014/09/19 (金) ~ 2014/09/21 (日)公演終了

満足度★★★★★

今作も芝居の醍醐味を味あわせてくれた
芝居には、無論、色々な形がある。出演者が多く、舞台装置も華やかで、歌や踊り、様々なパフォーマンスが入るものから、素舞台で舞台装置はなく、俳優1人で演じる物まで。 
 劇空間のサイズや、稠密度とシナリオの出来、演出と演技の質の高さが上手くバランスされている舞台は、矢張り、どんなタイプの舞台も良いものだが、余り大きな劇場になるとオペラグラスを用いなければ、俳優の細かい表情が見えなかったり、様々な障害の為、見切れない場面や部分が出てきたりするし、どうしても、大掛かりなスぺクタクルを用いることになる。自分の経済的理由もあるが、自分の好みは、数人の出演者が、じっくり作品を消化しているものなのではないか、と感じている。(追記後送)

ネタバレBOX

  というのも、今作「相対的浮世絵」や先日拝見した2人芝居「かごの鳥」のような、抜群のシナリオに、熟練した演技と卓越した演出があれば、本当に芝居の醍醐味を味わえるものなのだと身に沁みるからである。
 今作、出演者は、5人。総て男性である。舞台セットは台形の底辺を外したように並べられた中央のベンチと左右の直方体だけだ。シナリオは、土田 英生氏 キャストは岬 智郎役に村瀬 智之、関 守役に今井 英喜、岬 達郎役に菊池 真志 遠山 大介役に伊藤 文介そして野村 淳役に熊谷 圭祐である。1幕4場。晩夏、墓場の中に設えられた休憩所。
 墓場の休憩所に据えられたベンチに中年の男が来て一人座っている。午後9時頃だ。男の名は、岬 智郎、社員10人程の小さな会社に勤めるサラリーマン。ちょっと手持ち無沙汰な感じである。突然、ベンチの後ろからぬっと人が飛び出した。関 守だ。高校教師で卓球部顧問、女性に対しては女子高生にしか興味が持てない。暫く、他に来る予定のメンバーを待ちながら、雑談しているが、待っていた二人がやって来た。智郎の弟、達郎と、同級生の遠山である。四人は全員が卓球部出身。達郎は3カ月ほどやっただけ、遠山は3年でレギュラーになった。一番上手かったのは智郎である。現在、卓球部顧問の関は、補欠だった。
Libido

Libido

創作集団Alea

シアターKASSAI【閉館】(東京都)

2014/09/18 (木) ~ 2014/09/21 (日)公演終了

満足度★★★

Libidoとは、本能に基ずく欲望と精神的エネルギー?
大学居時代、仲良くなった7人組を中心に、楽しかったモラトリアム期である学生時代と社会へ出てからの脱落者人生を中心に描いた作品

ネタバレBOX


 役者ばかりでなく、恐らく作家や演出家も若いのであろう。舞台美術など、非常に面白い作りになっているのに、(最も客席に近い側は、額縁が、中ほどで切断され、それが、上下にずれた状態で、斜めに設えられ、更に奥の舞台を絵画の中を見るように工夫されていたり、奥で実際に役者が動き回る舞台の床は、手前が高く、奥が低い坂状になっていたり)この舞台美術の完成度と話の内容が、チグハグなのである。そのことで不安定感を表現したいなら、役者は役作りに当たってもっと具体的に何を演じるのかをヴィジョンとして明確化して欲しい。それが、し難いのであれば、シナリオの詰めが甘いのである。実際、ダラダラした生活(学生時代も社会人になってからも)しか描かれておらず、劇中、物語全体を条件づける決定的な要素としての価値観または、価値の崩壊が表されていない。従って演劇というよりは、日常でしかないのである。
 メンタルなレベルで出口無しということを感じていてもそれだけでは足りない。少なくともそれが、一体何を意味するのかしないのかを哲学的に考えてみる程度の作業は必要であった。そうすれば、体制のマヤカシを透視する視座が、少なくともその断片は見えてきたであろう。
 まあ、日本はアメリカの実質植民地なのに、それを政府・官僚・メディア・「カルチャー」等々は、意図的に誤魔化してきた訳だから、薄められ平準化され商品化された「カルチャー」を消費して捨てることで、時間つぶしをして来たに過ぎない人々には、既に脳内に内実のあるものはなく、ただのスッカラカン、スカスカであることは、理解できるのだが、だからこそ、アナログが基本の演劇は、棹さして欲しいのだ。

SPIRAL Cage

SPIRAL Cage

teamキーチェーン

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2014/09/18 (木) ~ 2014/09/21 (日)公演終了

満足度★★★★

大人への不信感
アホ極まる植民地政府が、宗主国の言いなりになって、自国民から搾取するのみならず、核被害犠牲者をモルモット化してデータを集め、宗主国の利害、宗主国の仲間の利害の為に注進し、自国民にバレルと流石にまずいので、嘘と情報操作、隠蔽、嫌がらせ、恐喝、殺人(どんなに軽くしても幇助)等々、ありとあらゆる方法で事実を潰しにかかるこのエリアに住む、精神的に健康な若者が持つ当然の心情を描いた作品と言えよう。
 舞台美術に使われている柱の意味を見出した時には、慄然とした。

ネタバレBOX


 さて、ストーリーを若干、紹介しておこう。池袋にある高級ホテルには妙な噂が流れていた。ネット上では、このホテルの何処かの階には、怪しいものが現れるという嘘とも真とも知れぬ書き込みが絶えなかったし、都市伝説とも、悪い冗談ともとれる噂がひきも切らず載っていた。
 一方、TVのバラエティー番組制作を任されているプロダクションでは、視聴率の低迷にプロデューサーがカンカンである。プロデューサー自身が出した企画なのだが、失敗すると下に責任だけ押し付けてストレスや不満のはけ口にする、例のヤツである。それでも現場は、プロデューサーの言うことに従わなければ、仕事が回ってこないから、しぶしぶ仕事をこなしていたが。プロデューサーのストレスもマックスに達したと見えて、最終通告が出された。現場リーダーは、企画はあるととっさに嘘をつき、その場は逃れた。企画会議と言う程大げさではないが、スタッフが集まって相談をしていると、セコンドが、あるにはある、と言い出した話が、件のホテル怪奇譚であった。セカンドにノウハウを教えて貰っている作家志望の女子が、持ってきた話だったが、バラエティー系ではなく、単なる噂話かも知れないが兎に角、取材してみよう、と動き出すと、このホテルのできる前に、おかしなことが幾つもある。それは、国家の絡んだ大きな秘密プロジェクトだった。
I SHALL BE RELEASED

I SHALL BE RELEASED

ピストンズ

RAFT(東京都)

2014/09/17 (水) ~ 2014/09/21 (日)公演終了

満足度★★★★

不如意
 描こうとしたものが、不如意だから、こうなるのだろう。黒布を動かして場面変化をつける演出は面白いのだが、悲劇は、普通の才能の持ち主なら誰でも書ける。喜劇は数段難しい。そして、不如意は恐らく喜劇より難しい。もう少し、演出に知恵を絞る必要がありそうだ。(追記後送)

ネタバレBOX

ケンスケは26歳にもなって何だか居場所が無い。彼女のナルミからの借金も嵩んでいる。オジから「お前にも事情はあるだろうが」と母危篤の電話が入った。ナルミと会う約束をしていたが、急遽、実家のある長野へ向かうことにした。病院に到着した時、ベッドに固定され、たくさんのチューブやパイプに繋がれた母には、まだ意識があった。母が、必死に何かをもぐもぐ言っていた。母の口元に耳を寄せると、自分宛てだけのメッセージではなかった。失踪している兄と俺へのメッセージだったのだ。だが、兄は、母を殴って失踪した父の後を追って家を出て以来、10年連絡が途絶えたままだ。而も、母は、そんな兄のことも心配しながら、言葉を発していた。この言葉が、最後だった。
おとなげない遺伝子

おとなげない遺伝子

スマッシュルームズ

シアター711(東京都)

2014/09/17 (水) ~ 2014/09/21 (日)公演終了

満足度★★★★

因果と主体
DNAは,リン酸,ペントース(デオキシリボース),および塩基からなる。塩基成分にはアデニン(A) , チミン(T),グアニン(G) ,シトシン(C)の4種類があるのは、今時、誰でも知っている基礎知識だ。だから、舞台上に置かれている4つの立方体は、其々、黄、赤、緑、青と塗り分けられてその一つ一つが各塩基に対応している訳だ。そして、因果律のように四六時中ついて回るのである。先ず、この構造に気付かなければなるまい。(追記後送)

ギンノキヲク FINAL

ギンノキヲク FINAL

ラビット番長

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2014/09/19 (金) ~ 2014/09/23 (火)公演終了

満足度★★★★

身につまされる
 ラビット番長の人気シリーズも、今回で一応、ファイナルだ。流石に安定した作りである。が、自分は、其処に不満を感じた部分がある。今作で気に入った役者は3人、作・演出も手掛ける井保 三兎さん、福田役の福田 貴之さん、そして、ヘルパー役の西川 智宏さんだ。作・演出を手掛ける井保 三兎さんが、実際に介護の仕事に就いていたからこそ、書ける作品ではあろう。
劇作家になっても、人の心を思い遣る気持ちや、その想像力の質が、相手の立場に立って考えるという点は、介護職の時も、今も、余り変わらないのではないか。そう感じさせる想像力の劇である。と同時に、描かれている方々には、実際のモデルがあるとか。

ネタバレBOX


認知症や不随・麻痺などの不自由さと本人の意識の差や、植物状態になっても生きることが、果たして、本人にとっても良いことなのか? 等々、安楽死問題にも繋がる重い問いは、我々の日常と切っても切れない状態にある。観客の中にも、そのような家族を抱える方は多かろう。人口構成が、底辺の広い三角形ではないのだから、高齢者を抱える家族が多い。今作についての詳細は、他のコリッチメンバーが語ってくれよう。自分は初日に拝見したし、余り、露骨なネタバレは好みではないので、此処から先は、ちょっと、触発された話で行く。
年をとれば、色々な所にガタも来る。機械だって、材料にだって経年劣化はあるのだ。人間の体だけが、何時までも健康を保てるわけが無い。IPS細胞のような技術が発達してきた昨今、将来的に自らの身体から取り出した組織で拒絶反応を起こさないあらゆる臓器ができたとしても、それが、どれくらい持つか等は、多くの臨床を経なければならないわけだし、研究は、まだ、始まったばかりだ。リスクも考えなければならないし、そのリスクの内には、人間だけが増え続ければ、地球全体の生態系がどうなるかも、当然のことながら含めなければならない。生態系の最上位に生きる地球の生き物として、生まれ、生き、死ぬ。それも当分の間は、この地球上で。全地球上の生物悉くを殺しかねない核及びその廃棄物と共に。人間が核で滅ぶのは、自業自得であるが、他の生物に迄迷惑を及ぼすのは、矢張り犯罪である。進化論が正しいならば、人間など滅んだ所で大したことではない。だが、ゲノム・DNAに甚大な損傷を齎す核技術を持った、食物連鎖最上位の生き物が好き勝手をやって良い、ということではない。そんなことまで、生き死にという問題は考えさせてくれるのだ。
二本の二人芝居

二本の二人芝居

unks

新宿ゴールデン街劇場(東京都)

2014/09/19 (金) ~ 2014/09/23 (火)公演終了

満足度★★★★★

演劇の醍醐味を楽しめる!
二人芝居を二本演る企画なのだが、「かごの鳥」を拝見した。作に別所 文+竹内 銃一郎となっていて、どこからどこまでが、各々の作者の文なのかは、確認していないのだが、この脚本が素晴らしい。言葉の持つ喚起力をこれ程、見事に紡ぎ出した脚本は滅多にない。こんなに、日本語というものは美しかったのか! とハッとさせられる出来である。その見事な言語表現に応えて、余計な物は一切省いた演出も良い。

ネタバレBOX

必要な小道具は、紙にその都度描いて使う。だから、マジックのような太字のペンとA4の紙と後はステージ等を組む時に使う木箱が8つあるだけだ。登場人物は、二人、今は飯倉の金持ちに嫁いで2年目の若奥様のペン。そう呼ばれているのは、本名が筆子だからである。もう一方が、はっぱ。兄が、魚の研究者で、一応、少女趣味は軽蔑したフリをしているが、内心は無論憧れており、ペンが兄を慕っていることにヤキモチを妬いている。本名は葉子。大の仲良しなのだが、時々絶交しては仲直りする。
二人は、ある場所に閉じ込められてしまう。研究者の兄に助けを求め、ペンの亡くなった母の生まれ代わりだというカナリヤに救助要請の手紙をつけて飛び立たせるが、確実に届く保証も無いのに、閉じ込められた部屋の前に流れる川は大雨の為に増水し、自分達も呑みこまれてしまいそうな状況で、雨漏りも酷い。
それでもはっぱのお祖母さんに教わったという編み方で撚った紐を使って、泳げないペン共々、川を渡ろうと考えたり、綺麗な瓶に救助要請の手紙を入れて川にながして見たりしたが、紐は、はっぱが、自暴自棄になって首を吊ろうとしたら切れてしまったし、瓶は、勢いを増した川の流れにあっという間に持っていかれ、岩か何かに当たって砕け散った。
二人は、ペンがはっぱの兄とデートの約束をしていた8年前、雨に濡れた為倒れ、デートに行けずに結核のサナトリウムに長期療養に行ったまま戻れなかった話をしたり、ペンが兄宛に出した手紙をはっぱが、嫉妬して焼いてしまった話等をしていたが、自分達を攫い、此処に閉じ込めたのが、誰かを推理する。
未だ上演中だから、答えは明かさないが、はっぱを演じた増岡 裕子、ペンを演じた上田 桃子が素晴らしいし、ナレーションの今井 朋彦の声も良い。出演者数こそ少ない二人芝居だが、演劇の醍醐味を味わえる。
一場と二場で若干、シナリオの優劣を感じた。役者の疲れもあるかも知れないので、ハッキリこうだとは言えないのだが、二場の方が劣っている。理に走り過ぎ、イマージュの本質に迫っていた一場より、イマージュの喚起力から離れていたのだ。ナレーションを的確だと言ったのは、ナレーションが、このギャップを素人の目からは隠しおおせたであろうからである。それだけ優れたナレーションであった。この劣化が役者の疲れに起因するのであれば、一場と二場の間に10分程度の休憩を取るのも手だろう。二人だけでこれだけの内容の作品を演じるのだ。考慮する価値はあるのではなかろうか。
今はただ遠くからありふれた歌を-

今はただ遠くからありふれた歌を-

演劇企画ハッピー圏外

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2014/09/12 (金) ~ 2014/09/16 (火)公演終了

満足度★★★★

ベタだが、心温まる作品
 操縦シーンに好感を持った。

ネタバレBOX

 難病の為、冷凍されていた純ちゃん(11歳)は、孤児。施設で育った。大の仲良しが篤っちゃんと敏ちゃんだ。50年後、漸く安定して来た解凍技術のお陰で蘇生した純。出迎えてくれたのは、もう、初老に達した篤ちゃんと敏ちゃんだった。彼らは、川崎の多摩区で板金工場を経営していて、ロボット製作なども手掛け、その道では世界トップクラスの技術者になっていた。そして、彼女が冷凍される前にした約束を果たす為に、今では、法で禁じられた二足歩行ロボットを秘密裏に開発していた。然し、彼らの技術力の高さを誰も放っておいてくれない。何故なら、家事用実用ロボット、7c型マルチパーパスコンテナを初めて作ったのは彼らだったし、そのオリジナルは、現在も、家族の一員として、この家内工場で活発に動き回っていた。純ちゃん達の食事も彼が作ってくれる。
 だが、流石に50年の時は世相を大きく変えていた。あの時まで、IT技術の進歩によって社会インフラの管理は、総てコンピュータ制御になり、ネットで繋がった社会は効率的で、合理的であるかに見えた。
然し、ある時期を境に、コンピュータの中に自ら意志を持ち、人間に対して悪意ある攻撃を仕掛けて来る者が現れた。その為世界中が大混乱を起こし、殆ど、国が崩壊する所迄行ったケースが何件もあった。その為、人間は、総てのネットに機器を繋げることを禁止せざるを得なかった。何故なら、意志ある電脳体が人間を殺してやろうと思えば、電源を落としてやるだけで、ネットワークに繋がる電源総てが落ち、病院や社会的インフラは忽ち機能停止する。患者のケアをしていた機器類は一斉にストップする。人間はこの事態に恐怖した。同時に暴走の原因を、暴力的なコンテンツやそのプログラムが人工知能に悪影響を与えた為と考え、メディアから、一切の攻撃的・暴力的表現を排除した。無論、暴走を始めた人工知能の支配するエリアにアクセスすることはタブーとなりインターネットへの接続もできなくなったのみならず、何時頃からかギリシャの都市国家のように、都道府県単位で独立国家化したエリアは、互いの利権を争って戦争を始めていた。同盟相手は政治や状況によって変わる。各々の地域内部では、その地域の法があり、他のエリアと個別法が異なるのは当然のことであった。
 ところで、篤っちゃん達の仲間には、NASAから受注を受けている耐熱・耐衝撃パネルを制作できる瓦屋、山下も居た。つまりこのエリアは、世界トップレベルの中小企業が集まる一大集積地でもあったのである。
 そんなこんなで、この工場には、様々なスパイが潜り込んでいた。ある者は事務員として、ある者は、実際に工場内に忍び込む形で、そして、各地域の政府・軍関係者は地元警察と手を組む、というようにして。
 偶々、このエリアの地元の優秀な警察関係者長尾の娘、美樹が難病に掛かり、敵対する東京では認可されている薬が、このエリアで認可される迄にはまだ5年の歳月が必要とされていた。然し、娘の体はそれ迄持たない。冷凍されて、薬の認可を待てばよいのだが、彼女の母が冷凍された時に技術が追いつかず酷い後遺症を患ってしまった為、娘は冷凍に対する恐怖感を克服できずにいた。彼女の掛かっている担当医は純ちゃんと同じであったことから、美樹と純は仲良くなる。一方、長尾は、横浜の軍関係者から、東京の医者に掛かり、件の薬を調達することと引き換えに、篤っちゃん達の工場で開発されていると噂される二足歩行ロボットの件を確認し、あれば確保するよう求められる。横浜サイドは約束通り、娘の新しい病院への転院手続き書を用意した。ロボットを発見しながら、純ちゃんと娘の関係や、三人組の事情を慮って知らぬふりを決め込んだ長尾だったが、横浜から攻められて、工場へ向かう。が、皆の機転で、警察には手に負えないと報告してメンタルな繋がりの出来た者同士の激突は避けることができた。だが、千葉のスパイだった事務員の麻木が、純ちゃんと美樹を拉致、麻木は、何かに彼女らを載せて強い雨で増水した多摩川に流してしまった。和恵と彼女の部下が車で純達を追うが、多摩川を挟んで、横浜軍、千葉軍が対峙し、戦車からの砲弾や戦闘機による空爆で純達が載せられた筏のようなものに近付くこともできない。おまけに、純ちゃんは頭痛がし出した。未だ、冷凍技術の未熟な時代に冷凍された純の脳は、ダメージを受けており、頭痛がし出したら6時間以内にオペを受けなければ重大な結果を生ずる。
 救出手段は一つ。一つあるだけだ。無論、ロボットの起動である。純達の位置確認等、データ収集は、パーパスコンテナが自らが電脳世界に取り込まれることを覚悟した上でインターネットにアクセスし集める他に無い。起動及び操縦は、スパイとして潜り込んでいた源次郎が行う。
無論、巨大な二足歩行ロボットを作る程、劇団に資金は無いから、知恵を使っている。コクピットだけを舞台中央に作ってあったのだ。観客側が開いた箱の中に椅子を据えて操縦席とし、箱の上手・下手に両端を繋いだロープのような物を数本ずつつけ、足元には、パーカッションのスネアドラム用足踏みのような器具を作って、役者があっちこっちと懸命に動かすのである。これは、若い男の役者しか出来ないほどハードな動きだが、演じた中川 敏伸を褒めるべきだろう。
篤っちゃん、敏ちゃんは、捕まってしまった。行方は分からぬものの、純は信じている。二人が元気でいることを。だって、三人には、未だ他の約束も残っているから。幸い、純の手術は間に合ったばかりか難手術も成功し、術後の経過も良い。今度は、純が待つ番になった。行方が分からなくなってしまった二人を。残りの約束を果たす為に。








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