満足度★★★★
Xmas card
各グループ20分程のショートストーリーやパフォーマンスのオムニバス。
ネタバレBOX
“おぼんろ”から、わかばやし めぐみ、今イベント主催の小宮 凛子とで綴る、シャンソン歌手と女店員のショートストーリー。ジョーク仕掛けるなら、徹底せよ、との哲学迄踏み込んだ意欲作。わかばやしさんの歌も聴き所。
映像制作団体イナズマ社による、ムービー。
クリスマス間近、アラサーOLにゴッホでもあるまいに、自ら耳を切ったと思われる変質者がハサミを手に迫る。逃げ回っていた彼女だったが、彼が、他の女とデートしている現場をイブの夜見掛けた。その夜も迫って来た変質者を退治すると、翌朝、枕元にプレゼントが。
TOKOJYO-ZUによる歌と踊りにコントを交えたパフォーマンス。ロジック発、アイドルユニットのふれ込みだ。需要の無いキャラクター3人が活発な活動を展開中というキャッチーなフレーズが笑える。
はちみつシアターによる番外地公演。2014年のはちみつの活動をフィーチャリング。花やしき公演の話題や、映画の話など、またこの劇団の特徴、観客巻き込み術なども披露しつつ、歌と踊り、巧みな進行で元気な姿を見せた。
月刊少年ワンダーによる、ショウ―トストーリー。探偵事務所にサンタクロースを探して欲しい、との依頼が舞い込んだ。自分の子の所にサンタがやって来ないことに悩んだ母親からの依頼である。事務所では経緯を訊くが、この母親、サンタが親だと言うことを知らなかった。そこで、所員の一人が、サンタの起源を話す。それは、離れた実の娘に親が、クリスマスプレゼントを贈る話だった。それで漸く、彼女は納得がいったのだが、捻りが一つあって、所長もサンタが親であることを知らなかったことが、示される。
満足度★★★★★
ヒトというカオスに夢はまだあるのか
多くの男たちにレイプされ水底に沈められた母から生まれた待夢。彼は復讐を誓うが、レイプ犯は全員、既に自殺してしまっていた。
ネタバレBOX
人口を激減させたパンデミックに罹るよりは、死を選ぶ者達の圧倒的多数の中で、彼らの自殺が特段意識されることもなかった。だが、ムッソリーニ政権下での黒シャツ隊、東氏が、今作を書くに当たって触発されたというギュンター・グラスの「ブリキの太鼓」の背景にあったナチズムの影を、矢張り見逃すわけには行くまい。無論、現在、この植民地で行われている宗主国一体化(集団的自衛権行使)なども射程に入っているのは明確であろう。ナチズム勃興当時、ドイツのインテリ層はヒトラーを愚か者と見做し、あんな人間に政権奪取や維持は不可能だと笑っていた。丁度、今、我々が、ホントに無脳(能と書かないのは、間違いではないぞ!)な安倍を無脳だと言っているのと同じことだ。車の両輪のように、情報隠蔽をその本質とする特定秘密保護法も施行されている。この悪法が、戦前の治安維持法より性質が悪いこともまた明白。この先、政権が狙ってくるのは、共謀罪であろう。これらは、情報公開法と公文書管理法に対するあからさまなアンチテーゼであることは言うまでも無い。
今作で問題となるパンデミックをこと政治に掛けて読み込むならば、こんな具合にも読めるのだ。作中、このパンデミックは、ウィルスによるのでもないことが強調される。接触、空気感染等の心配もない。而も、罹ったら最後、あらゆる欲望を喪失する。そして、掛かり易い状態とは、パニックに陥ったような時である。冷静を保つことが唯一罹り難い方法なのだ。だが、病理学的な対処は一切できていないし、既に人口の大部分が失われている。
無論、今作は、そんなに限定的に読み込むだけでは、埒があかないし、待夢が、9歳、24歳、そして初老の形で現れるのも、作品内だけで読み込めないことを前提としている。何故なら、同一人物が、3世代に亘って同時に存在している物理的次元に対する表現が入っていないからである。合理的な考え方として出てくるものは、背景にある創造者の問題である。そして、創造者は、タイムを自由に行き来しているのだ。恰も夢の中の出来事のように、説明し難い、それでいて、酷く懐かしく魅惑的で非合理な当にカオティックな状態を、その子供時代の混沌として表した作品と言えよう。
没入できるかできないかで評価が分かれるとは思うが、いくらでも深読み可能な作品であり、ヒトという生き物が、今後、食物連鎖の最上位として、存在して良いのか否か迄も問う内容であるとも読み込める作品なのである。
満足度★★★★
バックパッカー流、世界の愉しみ方。
といった内容だろうか。アザーンが背景に流れる宿の宿泊者たちに何が起こるかは、観てのお楽しみ。
ネタバレBOX
まあ、国によってガイド本の代表的なものはあるのだが、日本の場合は「地球の歩き方」だろう。日本人と旅先で迄一緒に居たくない人には「ロンリープラネット」などもある。自分が良く旅した頃には、日本語版は無かったが、新聞が読める程度の語学力で読める。今は日本語版もあるらしいが。何れにせよ、旅先では、様々な経験をする。日本に居るだけでは決して味わうことのできないような経験も多い。それを楽しめる者と乗り切ることが出来る者だけが、旅人なのであろう。今作には、そのような旅人と初心者、素人等様々なキャラクターが出てくるのだが、宿泊先の日本人宿で繰り広げられる、様々な事象が、言葉の余り出来ない人々ばかりの集団にどのような影響を与えるかが描かれていて興味深い。同時に、日本の閉鎖性を嫌い、自由に振る舞うことのできない社会を心底嫌って戻らない人々の呟きには、この「国」に対する本質的な忌避感と諦念にも似たアイロニーが含まれていて、自分などは、完全に同意してしまった。旅は死であり、風であるから。そして、その上での遊びであるから。
満足度★★★★
幕引きもあり
2014年度の実演は「三人吉三巴白浪」から「大川端庚申塚の場」である。
「濡れてに泡の 百両云々」という有名な科白のある場面だが、実に面白い。歌舞伎を観るチャンスは滅多にないのだが、緞帳も伝統的な色のものが使われ、拍子木も無論入る。何より、次から次へ件の百両が移ってゆく面白さや、親切を仇で返す悪党ぶりを見せるお嬢吉三に絡むは、お坊吉三。これが、カツアゲ、たかりの風情だが、実は浪人。この辺り取り潰された大名の家臣の問題等、武士の貧窮振りは、社会批判があったのかも知れぬ。閑話休題。その諍いを止めたのが、和尚吉三である。何れも掛け合いが実に面白い。その面白さと同時に、白浪者達の兄妹杯は、血で行われる。その場に酒が無かったからそうなったのか、兄妹杯の習わしとしてそうなのかを自分は知らないが。何れにせよ、互いの腕を切って流した血を瓦筍に注いで、血を飲み干した後の瓦筍は叩きつけて割る。悪党共の所作がカッコいい。学生さん達の学んで来た内実が見えるようであった為か、実に面白く拝見した。
満足度★★★★
未熟の中に眠るもの
少女たちは、自分の居場所と自分自身を探す為に、教育委員長の娘をリーダーに立てて、「革命」を叫ぶが、明確で具体的な目標は見えず、情報収集も不十分な上、ホントに自分というものを理解していなかったリーダーの下、傷つくことしか出来なかった。
ネタバレBOX
このような結果を招く中でリーダーとしての素質を示したのは、最も貧乏で皆から馬鹿にされ、ハブられてきた少女だった。彼女は知っていたのだ。自分達が、対他存在であるということを。そして、自分とは、そのような他者との関係の中で自分が選びとったもの・ことの結果の総体であることを。
未熟な少女たちが、方法論も確立せず、力ある者に向かってゆく気持ちばかりが空転させられる様は、悲痛であるが、そのような経験を通して成長してゆく様が描かれていて好感を持った。
満足度★★★★★
doisuru
一見、おちゃらけているが。実に鋭い。現代の収奪の在り様の本質と、基本的対応を示した知恵のある作品。背景にある醒めた視点と現代社会の分析の鋭さに驚かされた。(追記2014.12.20)
ネタバレBOX
今作の作家と別々のニュースソースから、似た結論に達した。これは、少し考えてみる必要がある。敵は誰か? についてである。ヤバイ話はたくさんある。アメリカがイラクやアフガニスタンを攻撃する際、口実に使ったアル・カイーダ関与説。無論9.11に関してである。然し、同じ9.11は、アメリカによるアジェンデ政権崩落の日でもあるが、どれだけの日本人が、9.11にアジェンデ政権が、アメリカの周到なテロ計画の下で倒されたかを知っていよう。アメリカだけではない。日本人の殆どがまるで知らないイスラエルのテロに就いても、彼らが、アメリカ軍がファルージャ攻撃等で用いた戦法をイスラエルから派遣された軍事オブザーバーによって学んだことも。アメリカ軍の攻撃は、イスラエルが、ジェニンで行ったやり方を基本的に踏襲している。このことを知るべきである。
アメリカの植民地である日本に関しても言っておこうか。ユーラシア大陸の西の外れと東の外れにアメリカは、テロ・プロパガンダの先生とどんな無理も聞く舎弟を持っている。未だ、中国もソ連も、直接アメリカに届くICBMを持っていなかった時代に、アメリカは沖縄に1300発の核弾頭を持ち込み、何時でも、日本の何処へでも持って行ける体制を整えていた。非核三原則など、無論、マヤカシである。憲法9条2項も、沖縄の軍事基地化と抱き合わせで考えられていたことは、アメリカの秘密指定文書が、解除期限を迎えて公開されている以上、外務省、現防衛省が否定しようが、すまいが事実と考えられる。日本の伝統的な為政者の態度が、三匹の猿で象徴されている通りであることは今更言う迄もない。
更に付け加えておくならば、最近、新聞紙上でよく見かける“イスラム国”についても、彼らを生み出したのは、米英を中心としたイラク戦争であったことは、注意しておきたい。以前にも書いたが、イスラム国創設メンバーの中に、旧イラク軍の軍人や、フセイン政権下の官僚などが結構居たのである。だから、国家機能をそのノウハウを用いて立ち上げ、維持する能力を持つのである。現に、日本では殆ど報道されていないが、彼らは支配地域での医療、教育、福祉などでも、その能力を発揮しているのだ。ただ、戦争を仕掛けるだけの米を中心とする国家テロ推進者より、民衆にとってどちらが+と映るか。言う迄もあるまい。
満足度★★★★★
紫の舟歌
“サンカク、まる”は平面分割の最小単位だろう。然し、四角はサンカクを2つ合わせても作ることが出来る。そして、遥かに複雑な要素を内包し得る。今作はシカクを扱っている。幾何学レベルだけでさえ、このように複雑性への萌芽を宿しているのであるから、人間というカオティックな物を対象とした時には、その複雑性は推して知るべきであろう。
シナリオで“恋の話というには重すぎる”云々という曖昧にも取れる言い方をしているのには、訳もあれば、自負もある。曖昧な表象に多くの者が納得できるような内実を伴う説明をすることは、極めて困難なことだからである。作者は説明できると考えているし、実際にそれをやってみせた。見事である。この見事なシナリオに合った緻密で知的な演出と主役四人の卓抜な演技、効果的な照明と音楽これら総てを纏め上げた演出家の知性に拍手を送ろう。そして、舞台上で、これらを形にして見せた役者達の汗と労苦に対して惜しみない拍手を送りたい。見事な出来である。
満足度★★★★★
観客はF1も考えよ
xxxx年1月11日、帝都S区に隕石が落ち、壊滅的なダメージを蒙った。その時、生き残った人間の内、数%には、今迄無かった能力が現れた。
ネタバレBOX
ミュータントが誕生したというわけだ。その能力は各人で異なり、能力差にも個性があった。だが、ミュータントにはならなかった他の人間達は彼らの能力を恐れ、その能力をファクトと名付け、能力を持つ者をファクターと称して差別し、このエリアを閉鎖してファクターを隔離した。差別の根拠として、普通の人間は、ファクターになった者は、心のどこかが欠けているとしていたが、それは、無論、自分達の差別を正当化する為の嘘に過ぎまい。何れにせよ、この被差別エリアをS区と呼ぶ。ファクター達の生き方は3つ。人間達に対し異議申し立てをし、自分達の立場を差別の無いものにするか。終生、囚われたまま、ラボでモルモットとして生きるか。或いは、特殊能力を用いると石化するという性質を亢進させられて石にされるかである。石になった彼らは、無論、死ぬのだが、石に彼らの能力が保たれ、これをコントロールすることによって普通の人間が、石になるリスクなしで同じ能力を用いることが出来るのである。
舞台は、隕石落下17年後のS区の物語である。
現有勢力は、ファクターを狩る為に組織された公安の特殊部隊、ハーベスト。メンバーにはファクターも、人間だが、石化ファクターの操作に優れた者達も、対ファクター用に考案された特殊な武器の使い手もいる。
普通に生きる為に、異議申し立て運動に携わるファクター組織、シード。
そして、ファクターであるが、矯正された経験を持ち、現在は、中立を保って貧乏探偵事務所に屯する面々。
登場人物の各々が宿痾に似た因縁を持ち、それらが、各人の行動決定要因となって宿命のような流れを作り、闘う必然性を納得させる辺り、良く練られたシナリオである。同時に、理想的な人間らしさを追求するキャラクターが、どの組織にも存在することによって、現実の情念が齎すカオスと理想の齎す清澄とが対比されて、物語に深みが増している。
格闘シーンが非常に多いのだが、身体応力の極めて高い役者が多く、アクションシーンも非常に楽しめる。映像とのコラボレーションも上手く機能している。
満足度★★★★
ツチノコ 本物が居たらウレピー
ホビー研究会の部室前廊下で“ツチノコ”発見!! あの幻のツチノコである。発見者は部室に忘れ物を取りに、夜間、戻った部員。彼は捉えたツチノコを翌朝、部室に持っていったが欲の皮の突っ張った部員から、部の規則を盾に難癖をつけられる。(追記後送)
満足度★★★★
資本の行方
上手、下手、奥総てのパネルに出捌け口や窓が設えられ、パネルには、様々な文字が記されている。開演前には、各国語で演説調のスピーチが流され、独特の雰囲気を醸し出している。
ネタバレBOX
物語で目新しいのは、自治体と企業が合体し新たなシステムとして機能している点だ。こういうことは、極度に資本が巨大化し、収奪のシステムが資本主義経済だけでは、不十分であるとされた時、必然的に出てくる新たな収奪システムの具体例として注目に値する。
「古事記」が、換骨奪胎されていたりもするので、天皇とのことにも想像力が及び、色々な意味で面白い。まして、この時期である。
役者陣の縦横の動きと演出、照明などの効果によって、舞台上は常に心地よい緊張があり、好感を持った。物語の内容については、未だ上演中なので詳しく述べないが、想像力の働く人には、かなり読める。
満足度★★★★★
小屋を愛する人々
主演の長井 江里奈さんは、ダンサーである。今作では、脚本、演出も手掛けている。何より、彼女の演劇的なものに関わる態度が良い。小劇場や其処に集まる人々の抱える有象無象が、掬い取れるような視座を持っているからだ。
ネタバレBOX
舞台は、前説の場面から始まるが、客席に前説担当がお尻を向けている。通常とはマ逆であるから、観客は、舞台が開演したのだな、と分かる導入で、ここから、引き込まれてしまった。実際、こういう発想の転換というものは、簡単なようで結構難しい。その証拠に、結構、芝居を拝見している自分も初めて観た始まり方だったのだから。設定はこうである。
32歳で小劇場の受付をやっている女性、ナリコ。独身、彼氏なし。客の入りは良くないのだが、放送禁止用語等を多用して、声援を送ってくれる小屋を愛する常連に対し、支配人は、面白く思っていなかったのに、それは、お客さんが小屋を愛し、出演する芸人や役者を愛しているからだと力説した為、解雇。以降、彼女の流転人生が始まる。
33歳。彼女の“人間的なもの”を守ろうとする拘り、在るがままを自他共に認めあいたいという希求は、美しく在りたい、という女性の外面からのアプローチに結実する。デパートの服飾コーナーでの販売員である。然し、ここでも、彼女の拘りが、マネージャーの逆鱗に触れた。3万円のワンピースを求めた客は、体の2回りも小さなサイズを選び、脱げなくなってこれを買い求めた。着て来ていた服はユニクロのもの。靴も安物で、とても3万の服に吊りあうものではない。おまけに無理に脱ごうとして、自分の力だけではどうにもならず、ナリコが手伝った末、袖が取れてしまった。これで馘首。
34歳。一所懸命、修行を積んだナリコが次になったものは、内面からの美を求めてスピリチュアルな占い師。然し、占いで出た結果は、顧客の利害に反した。というのも、観て貰った女には、結婚を勧めたのだが、その相手が占って貰いに来、彼の相談は、結婚しようと思っている女性との結婚後は? と仕事関係の人間関係はどうなるか? の2点。件の女と結婚することにより、負の方向へ人生が曲がってしまう、と出た。職場の人間関係も悪化するという。だが、それを解決する方法が一つだけある、と出た。その方法とは、ナリコとイケ面の彼が結婚することだった。然し、ここでも馘首。
35歳。終にナリコは、身体に目覚めた。健康食品の販売員である。派遣であるが、適確なリサーチとサジェッションで、自らが他人の役に立ち、喜んで貰えるとあって天職に出会えた、と喜んで仕事に励んでいたが。会社が脱税であげられ倒産。
36歳。イベントなどで歌手を勤めていたが、ひょんなことで、売り込みようの年齢に10歳も年齢を誤魔化していたことが知れ、馘首。サンサーラとは、サンスクリットで輪廻を表す、などと落ち込んでしまう。そんな輪廻の内側で、人々は苦労に押し潰され、疲れ果てて活気を失っている。然し、彼らが苦しい生活の中でも小屋に足を運ぶのは、劇場が肝臓だからだ、とナリコは言う。ストレスや人生の老廃物を濾過して生きてゆく活力を与えるのだ、と。だが、年齢詐称は許されなかった。
さて、年齢不詳。トイレの掃除婦になっている。だが、やればやっただけ成果が出るので、彼女はこの仕事に満足している。こんなことが分かったのは、例の3万円ワンピースの客が、入って来たからだ。Mサイズがピッタリになるほど痩せて見違えるほど綺麗になっていた。ナリコは、底辺で他人の汚物を処理しながら、生きていたが、その彼女は何時しかダンサーになっていた。丁度、醜い蛹から目も綾な蝶が生まれるように。彼女は自問する。「ヒトは何の為に踊るの?」 「そんなの知らない。」「私は私の神の為に踊る。南春夫は言ったわ。“お客様は神様です”って。今宵、私は踊るわ。あなたの為に」というが早いか踊り出す。このダンスは見事。照明も背景を暗くしてスポットだけでダンサーを際立たせている。音楽もマッチしている。初めに出て来た放送禁止用語で舞台や小屋への愛情を示す粋もグーだ。凝りに凝った舞台美術を極めに使う贅沢な演出も大層気に入った。
共演者も役者ではなくピアニストの北園 優氏。彼が生演奏と、様々な相方を演じる。2人ともすばやく着替えなければならないスピーディーな舞台進行なので、大変だろうが、楽しませて頂いた。尚、黒子として、女子大生が活躍したことも付け加えておく。
満足度★★★★
ひゃくは枕だけどにゃ それで終わんにゃい!!
百物語を枕に笑いを鏤めながらも中・終盤に二転・三転の捻りを加え深みを増して好感の持てるシナリオと演出だ。
ネタバレBOX
百物語からの脱線も自然で納得ができる。何故なら、それが、普遍的な、皆が持つ深く懐かしい思い出に連なるからである。
無論、糸し糸しと言う心“恋”の旧字の覚え方)の話も出てくるのだが、それが、中学一年女子の羞恥心で描かれている点が良い。初日を拝見したが、普段は役者として活躍する丸山 正吾氏が、今回演出も手掛けている。空間構成に気を使ったということであった。というのも、このTorqueは、今作がこけら落とし公演になるからである。結論から言えば、未だ、このTorqueの内装自体が完璧でない状態なので、完成形ではない。だが、その代わり、立ち上げてゆく勢いや一体感、そのような共同作業からくる人間関係の温かさというものが、滲みでるような仕上がりになっている。肝心な導線のとり方は、流れを阻害しない自然なものになっていたし、舞台奥に緞帳のように掛かる藍染の布に白抜きで“百(ひゃく)”と思しき何ものかが描かれていたのは、気に入った。初日を終えたばかりなので、余り具体的なネタバレはまだしない。終演後、詳しいことは書くが、百物語を枕にした、定時制高校の文化祭に纏わる怪異譚である、ということだけは明かしておこう。
殊に気に入った役者は二人。演出も手掛け、三上を演じた丸山 正吾氏と高木を演じた的場 司氏。
満足度★★★★★
D-incline projectとは?
Baobabの第二段階とでも位置づけられよう。第一段階で目指された身体のみならず人間を描くというテーゼから、身体性と抽象性に重点を移した創作になっている。
ネタバレBOX
マイムとダンスの差は、マイムの場合、具体的で実際の事象を身体を用いた形態模写で表現するが、ダンスは、より抽象的で、必ずしも具体的な何かを模写しているわけではない。いわば、音楽に似た表現形態を採ると言えよう。従って、今作でも、居住空間に於いて身体を立ち上げるとは如何なることか? が追求されたり、Baobabのダンサーたちが、構築しているのが、生活の再現であるのか? 等々が、良く考えられ工夫された舞台装置やデザイン、色彩とセンスの良い照明、BGMとBGM無しの対比などに適宜用いられる映像表現とのコラボレーション。ダンサーたちのバリエーションに富んだコラボレーションやソロの組み合わせ等々を通じて展開される。
殊に、主催の北尾 亘のダンスは見事である。難易度の高い動きを舞台の縁で演じることによって客席に緊張感を持たせる演技、動から静へ至る時の止めの確かさ、足指の先から手指の先迄エネルギーを集中させ、コントロールした動きは、演技を実に大きく見せる。他のダンサーと至近距離で踊る際の動体視力の良さも抜群である。
傳川 光留のジャンプ力、身体能力の高さも評価したい。役者も兼任しているので、これからは、演技、ダンス双方で活躍して貰いたい。
女性ダンサーでは田中 かおりの切れのあるダンスがグー。何れにせよ、出演者のダンス技術は高い。抽象度は高いものの、時間的経過等を勘案しながら観れば、結構想像は外れない。また、ダンサー全員によるコラボレーション場面の美しさは、其々が、異なる動きをしていることも考えると、稀有な美しさを実現したものとして、高く評価したい。その後に繋がる映像では、生命そのものをミクロで捉えたような抽象映像であることによって観客の想像力を刺激し、更に続く映像では、プリミティブな絵のような表象で走る二人の人物を表したようなイマージュが映し出される。と共にダンスが行われることによって、未来への希望さえ感じさせる。様々なチャレンジのある公演である。
満足度★★★★
太平洋戦争の遠因
時は1905年(明治38年)、日露戦役後の「戦勝国」待遇を巡る国民の鬱憤が高まる中、ポーツマス条約に反対する集会をきっかけに9月5日の日比谷焼き討ち事件が起こった。
今作は、この日比谷焼き討ち事件から2.26事件へ至る歴史的事実を骨として、憲兵対反体制派アナーキストの情宣に関わる活版印刷所及び、その出版に関与した作者、貴族令嬢、財閥令嬢、編集者及び、元夜鷹の従業員、運動リーダー等々を巡る想像的レポートである。(追記後送)
ネタバレBOX
此処に登場するアナーキストは、露西亜の破壊的アナーキストに近い。資本主義陣営で命脈を保つ、プルードン、クロポトキン、ボストン派アナーキストとは、主張が異なるので注意が肝要である。元々、アナーキストに共通の目標を挙げるとすれば、それは“絶対自由”なのでおよそ想像し得る限りの可能性が呈示されなければならないのであるから、この程度の論理差、幅は必然的に生まれてくるのである。
満足度★★★★
結構楽しめた
昔話というより、幼稚園のイベントを巡るモンスターペアレンツと幼稚園園長、先生達との攻防がメインといったスラップスティックという印象を持った。
ネタバレBOX
が、実際問題、コンプライアンス遵守という掛け声に騙されて自己規制を喜んでする奴隷とか畜人がこの植民地にはごまんと存在するから、昔話の内容がネグレクトされたりしているのだ。戦前の治安維持法より性質の悪い秘密保護法の施行下で、この国の気取った馬鹿共が行儀よく自己規制して得意になっている姿が目に浮かぶ。今作でも、出て来たが、モンスターペアレント同士が園内で不倫に走ったり、園児にその事実をいきなり知らせるのは余りに酷な、お母さんと思っている人は実は叔母であるなどが、園児であり当事者である者の目の前で展開されるというグロテスクは、現実に有るかも知れないグロである。
全体として、シナリオは纏まっており、役者の力もある。自分自身は結構楽しめる舞台であった。
満足度★★★
作・演が別なことが裏目に出たケースであるかも知れない。
根本的には時空を扱った作品なのであるが、それにしては物理的詰めが甘い。少なくとも現代物理学で時空を問題化したいなら、観察者が時空とどのような関係を結ぶのかが考慮されなければならない。その点は重要である。何故なら観察者の存在や観察行為が、被観察対象に影響を与えると考えられているからである。どのような場合にどのような影響をどれくらい与えるのかを係数化する程度のことは最低必要である。物理的問題を扱っているにも拘わらず、この点をキチンと作品化していないので、作品としての統一力に欠け、各プロットの提起した矛盾は、行きどころを失って漂っているのであるが、その実相をキチンと表現することもシナリオレベルで為されていない為、総てが中途半端に終わっている。レトリック面では観るべき点もあるのだが、論理が通った上でのレトリックでなければ観客への訴求力は弱いと知るべきである。作家も兼任している役者達は頑張っているのだから、以上の事に留意して、磨きを掛けて欲しい。そして、エクスキューズを程ほどに、状況を創造的に背負うことを考えて欲しい。
満足度★★★★★
没入
いい芝居を観ると、自分は没入してしまうので、観劇後暫くはぼや~~~~んである。今日の「花と魚」もそうであった。観劇後、大好きな銭湯、小杉湯に入りに行ったのだが、下駄箱の札をロッカーに入れたつもりが入っておらず、探し回って大騒ぎ。貧乏人の自分は、一瞬、ヒヤリであった。それだけ、観劇後も茫然自失だったということだ。没入してしまうと暫く戻れない。それは、一所懸命に、作品と格闘しているからである。深い作品ほど、この度合いが強い。再演を1度拝見しているので、2度目なのだが、1度目より、深い所で今作を拝見できたと思う。そうやってみる度に新しい発見のある傑作ということだろう。(追記後送)
満足度★★★★
ホントに起こったら 大~~~変!!(草チーム)
足も体も臭く、社員全員からキモイと思われていた便利グッズ製作会社の社長が亡くなった。
ネタバレBOX
通夜の後、元アルバイトで女優に転身したはるか、社員でゴリラのような体型の山田、何だか落ち着きのない仁科、そして、こき使われていたさつきがスナックに飲みに来た。飲み始めは、他所行きの会話で場を持たせていた皆だが、この店の馴染み客で仁科の友人、AVファンの笠井が、はるかを見てAV女優と気付いてしまった。
一方、親戚が飲む酒やつまみが足りなくなって買い出しに出ていた社長夫人、ようこが買い物に出ていた仁科らをコンビニで見掛け、後を追って飲み会に参加していた為、笠井の指摘は、ようこを巻き込んで、本音トークが始まってしまう。更に、山田がはるかに想いを寄せており、直前、はるかと二人っきりになったタイミングでコクっていたのに、彼女に裏切られたと感じ、自棄を起こして社長とさつきが出来ていたことをばらしてしまう。等々、実際に起こったらトンデモの話満載!!
満足度★★★★
原作をよく読んで解釈
開演前に丸首Tシャツを頭から被り、ウルトラQのジャミラのような具合に装った役者による寸劇あり。ビミョーにグロで笑える。内容については見てのお楽しみだ。
ネタバレBOX
本編は、「不思議の国のアリス」と「鏡の国のアリス」2冊をベースにwonderlandを構築。ワンダーランドの総てを構築・維持する神の如き存在を巡って権謀術数入り乱れる様を描くメインストリームに対し、wonderland外部から兎の代わりのチェシャ猫に連れて来られた人間のカップルが現在のwonderlandの構築・維持者に関与するストリームが、ルイス・キャロルの原作を介在させながら展開するファンタジックな物語。
満足度★★★★★
全体的なバランスの良さ
サラリーマンの置かれている深刻な状況を、上手くコミカルな作品に仕立てあげて楽しめる。
ネタバレBOX
登場人物各々の利害が、M&Aを巡る駆け引きの中で展開する為、緊張感が途切れないのも良い。シナリオ、演出、演技のレベルも高い。
音楽的にも、ギターの生演奏を始め、パーカッションやトライアングル、玩具のピアノが効果的に用いられており、この作品の全体を構成するプロデュース・演出能力の高さにも、役者の演技力が高いことで得られているキャラの立った演技にも惜しみない拍手を送りたい。注目すべき劇団だ。