うさぎライターの観てきた!クチコミ一覧

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オマエの時間くれよ

オマエの時間くれよ

劇団フルタ丸

シアター711(東京都)

2012/05/11 (金) ~ 2012/05/15 (火)公演終了

満足度★★★★

公開ゲネを観た
時間を売買出来る法律が出来て10年、今度は政府がそれを禁止した。
時間を買うとどうなるのか、時間を売ったらどうなるのか。
未来の話はいつの間にか、現代の私たちの話になっていた・・・。

ネタバレBOX

公園の遊具を作る小さな会社に市役所の担当を名乗る女性が現れる。
謎の物体をとにかく作って欲しいと、パーツの描かれた絵の一部を持ちこむ。
少しずつ作られるパーツを最後に組み立てると・・・。

時間を買った女は21歳、時間を売った女は48歳。
二人は同級生だ。
そこへ昔の男が現れる・・・。

本来誰もが平等に持っているはずの時間を売買するとどうなるのか。
それをリアルに見せてくれるのが面白い。

自分の時間を売ったマリエには、ある理由があったのだが
この時マリエを演じる政木ゆかさんの目に涙が光って一気に惹き込まれた。
こういう中年女の事情を丁寧に見せると、荒唐無稽な設定が説得力を持つ。
時間は「若さ」であり、「寿命」であり、台詞にもあったように「金」でもある。
それを売り買いして得たもので、人は幸せになれるのかと問いかけてくる。

舞台は複数のエピソードが平行して語られ、その都度暗転して場面が変わるのだが
オムニバスみたいにひとつずつまとめて、最後に全てがつながる
という展開でも良かったかもしれない。
それぞれのエピソードが内容的に充実しているので。

どのエピソードにもきらりと光る台詞があって心に残る。
遊具の会社の女性が、自分がここで働く理由を語るところ。
昔の男が自分の時間を1秒だけ残してくれたら、後は全て売ってもいい
と言うところ。
そしてダンサーの女性が時間を買うか買わないかを決心するところ。

いい言葉だなあ、と思う台詞がいくつもあって
フルタさんの気持ちが伝わってくる。
私にこんな時間をくれて、こちらこそありがとう。
東京バンビ『他人の確率』御来場ありがとうございました!次回は10月!お待ちしております!

東京バンビ『他人の確率』御来場ありがとうございました!次回は10月!お待ちしております!

元東京バンビ

OFF OFFシアター(東京都)

2012/05/04 (金) ~ 2012/05/15 (火)公演終了

満足度★★★★

家族の定義
ふざけてはしゃいで、でも結構深いことを突き付けて来る東京バンビ。
台詞でもう一歩踏み込んで欲しかった気もするが
血のつながりに頼らない家族を作ろうとする人々が温かい。

ネタバレBOX

家族って何だろう。
血のつながりか、同居する人か、一緒にいたい人か。
ゲイという、社会においてマイナーな存在の人々が
普通とは違うやり方で家族を作ろうとする姿が優しい。

登場する“変な人”へのなりきりぶりが徹底していて面白い。
悪気はないが挙動不審な人々がお節介で人と関わりたがる。
人間関係に疲れたり上手く行かなかったりしたはずなのに
それでも誰かと関わらずには暮らせないゲストハウスにやって来るという設定が生きる。

父にも、父を取り巻く人々にも嫌悪感を抱いていた息子が
次第に自分の本当の気持ちに気付き、わからないなりに認めていく過程がいい。

息子役のアダチヒロキさん、振れ幅の大きい人々の中で
普通の人の戸惑いが自然に出ていて、両者の違いが鮮やかになった。

バイトの青年を演じた佐野バビ市さん、
ミルクホールではいつもファンサービスに徹して女装することが多いが
今回は化粧も美脚も封印して男役(?)、安定感があってとても良かった。
身体は華奢だけど男っぽい人なのだろう、台詞や表情にメリハリがあって
男100%の役も上手いなあと改めて感じた。

思い切った設定とバラエティに富んだキャラがとても面白いのだが
個人的にはもう少し踏み込んだ台詞が欲しい気がした。
肝心な議論を「もういい!」で片付けずにリアルでは言えないことを
言わせて欲しかったと思う。
亡くなったオーナーの「家族になろう」という言葉はとても素敵だし
それを信じてつながった人々の気持ちも暮らしも前向きだ。
そのことを息子に伝えるために、もっと言葉を尽くしても良かったのではないか。

「自分ではない誰かと一緒にいることを他人の確率100%とするか否か」
作・演出の稲葉信隆さんが言うとおり、それを選択するのは私たち自身だ。
一緒にいる確率の高い他人──それも大切な家族と言えるかもしれない。





翔べ!原子力ロボむつ

翔べ!原子力ロボむつ

渡辺源四郎商店

ザ・スズナリ(東京都)

2012/05/03 (木) ~ 2012/05/06 (日)公演終了

満足度★★★★★

演劇の力
大好きななべげんの舞台、それもこのタイトル。
興味津々で出かけるとスズナリはぎっしり、
次々と補助席が設けられる盛況ぶりで年代層も幅広い。
設定の妙と完成度の高い役者陣の演技に
面白うてやがて哀しき日本の行く末を深く考えさせる素晴らしい舞台だった。

ネタバレBOX

原発を想像させるシンプルなセット、ジャージかスポーツウェアの衣装。
衣装らしい衣装はロボット1号2号の二人だけだ。

高レベル放射性廃棄物の最終処分場を町に誘致する、と決めた36歳の若き町長。
物語は、100年後の状態を見届けるために自ら冷凍睡眠を申し出た町長エイスケが、
ついに解凍され、予定より長い1000年の眠りから目覚めたところから始まる。

畑澤さんが提示するのはひとつの「日本の未来像」だ。
荒唐無稽な話がリアリティを持って迫ってくるのは
“ありそうなこと”だからに他ならない。
政治家や企業が言いそうな、やらかしそうなことが起こり、
マジでこれに近いことが起きるんじゃないかと思わせる世界観がある。

畑澤組の出演者はいつも完成度が高いけれど、
今回の台詞の間といいタイミングといい抜群の冴え。
中でもロボット1号2号のコンビは素晴らしい存在感を見せた。
その完璧な台詞のハモリは、始め音声をデジタル処理しているのかと思ったほどだ。

タイトルにある「原子力ロボむつ」の哀しみは、人類の失敗を象徴している。
宮崎駿のアニメに出てくる「巨神兵」のようなイメージを想像したが
この「むつ」とロボット1号2号が、皮肉なことに
エイスケを最後まで支え、人類の失敗と闘う原動力となる。

設定が可笑しくて、登場人物が名乗りを上げる度に客席から笑いが起こる。
それに津軽弁。
この温かくユーモラスな響きが、時に問題を地方に丸投げしている東京に鋭い疑問を突き付ける。
方言の使い方が上手いなあと思う。
全体をほんわり見せて、こちらが油断したところを棘でちくっと刺してくる感じ。

ロボット1号2号の機械的な台詞に感情が乗って来るあたりが巧みで
この二人、若いのに凄い役者さんだと思う。
1号2号が狂言回し的な役割を担ったのも功を奏している。

私は”ぷよぷよ”の北魚昭次郎さんが(特にその声と腹が)好きだが、
善人も癖のある人もまるで地であるかのように深く演じるところが魅力的だ。

エイスケ役の山田百次さん、素朴だが使命感溢れる男の
孤独と情熱を力まずに演じていて素晴らしい。
ロボむつとエイスケは表裏一体なのではないかと言う気がする。

畑澤さん、あなたが青森から発信し、東京で訴えかけるこの芝居に
小難しい理屈や声高な主義主張はない。
でもたくさん笑ったあとでこんなに泣けるのはなぜなんだろう?
孤独なエイスケの最後の記憶が幸せなものであったことが唯一の救いだ。
これでいいのか?
いいわけないだろ?
その率直な問いかけに、観る者は立ち止まって考えざるを得ない。
演劇の力とはこういうものなのだと、改めて強く意識した舞台だった。
FIRELIGHT

FIRELIGHT

たすいち

吉祥寺シアター(東京都)

2012/04/27 (金) ~ 2012/04/30 (月)公演終了

満足度★★★★

幻覚の美しさが光る
主催の目崎剛が「娯楽、エンターテイメントを提供したい」と言う通り
舞台から飛んでくる直球が心地よく、演出のセンスの良さもあって楽しかった。
キャラの立った出演者の熱演と設定のアイデアが光る舞台だった。

ネタバレBOX

3年前の大火事で家族を失った人々が肩を寄せ合うように暮らしているスラム街。
このスラム街に、「マッチ売りの少女」が出没する。
彼女が売っているのはマッチタイプのクスリ「FIRE LIGHT」だ。
見たいものが幻覚となって現われるという心の麻薬で、連日大勢の客が来る。

火事の原因は放火だったのか、犯人は誰か?
一体誰が「FIRE LIGHT」を作ったのか?
記憶喪失の少女は何を知っているのか、何を見たのか?
家族や恋人を喪った人々と、真相を追う警察がスラム街をぐるぐるめぐる。

空間を活かしたセットがストーリーを立体的に見せる。
アンサンブルも含めると総勢30人近くが舞台を出入りするのだが
上手下手の他、二階建セットに合計6か所くらいの出入口があって
場面の切り替えもスピーディーに行われる。

スラム街の人々のキャラクターが所謂典型的なタイプではあるが
それが気持ちよくはまっていて安定感がある。
それに対して警察メンバーの行動にイマイチ納得できないところもあった。
犯人を撃った男は逮捕されたのか?
警官としての職務はあれでいいのか? 等々も・・・。

ラスト、一気に謎が解ける場面でちょっと緊張感が途切れた。
火サスの崖のシーンじゃないけど引っ張り過ぎると終わりが締まらない。
それより、犯人の動機をもう少し丁寧に描いた方が納得できたと思う。
スラムの人々が魅力的なだけにそれを破壊するだけの理由づけがないと腑に落ちない。
ファンタジーの中で真実=人の心のありようを描くなら
真実がリアルな方がどちらも際立つのではないかという気がする。

しかしそういう「?」を蹴散らすだけのアイデアが随所にあった。
見たいものを幻覚として見せるクスリ「FIRE LIGHT」という発想が光る。
幻覚の場面の演出も秀逸、シンプルながら儚くて哀しくてとても良かった。
効果音や劇中の音楽もセンスの良さを感じさせる。

あの客入れの時の歌、すごくいいですね。
あれは誰が歌っているのか知りたいと思った。
淋しいマグネット

淋しいマグネット

ワタナベエンターテインメント

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2012/04/08 (日) ~ 2012/04/28 (土)公演終了

満足度★★★

White
「淋しいマグネット」Whiteを観た。
美しいセットの中で4人の少年の成長と残酷な言葉、
そしてそれがもたらす悲劇・・・。
結果を受け止めるには余りに辛すぎるのか、若すぎるのか・・・。

ネタバレBOX

海を見下ろす崖。
切り抜いたような青空が見える。
荒い波の音が聞こえる。
このセットが美しい。

ここで出合った4人の少年が共に成長し、バンド仲間となる。
その中の1人がこの崖から身を躍らせて消える、という事件が起こる・・・。
その原因の一端は自分にあると3人の誰もが思いながら大人になっていく。

舞台は、9歳で出会った4人の少年たちの無邪気な時代と
19歳で、少年の独占欲や孤立、残酷な言葉によって1人が欠けた時の衝撃、
そして29歳になった彼らがあの事件をどう受け止めているかが描かれる。
3つの時代が交差する合間に、消えた少年リューベンが遺した
ファンタジーと呼ぶにはあまりに痛切な叫びを持った物語が繰り広げられる。

リューベンの物語は苦しい本心であり、切ない願いでもある。
”愛し合っているのにNとSが反発し合って一緒にいられない
”磁石=マグネットは、自分で自分を壊せば一緒にいられると考える・・・。
誰かと一緒にいるためには自分自身を壊すしかない、という
このマグネットが最後に下した決断を、リューベン自らも辿ることになる。

屈託のない9歳の少年を演じる時の方が不思議と無理が無いように見えた。
友人の死を引きずって生きるという“負の青春”を言葉にのせ切れなかったのか
再会した3人はずっと同じトーン、同じパターンで会話している。
最後にシオンが作った機械が動き出したとき
多分3人の心が堰を切ったように溢れ出すはずなのだろうけれど
「あれ?おしまい?」と唐突に終わってしまった感があるのは
そこへ辿り着くまでの葛藤が聴こえてこないから。

一番呑気に見えたシオンが、実は誰よりも壊れているのではないか、
トオルも自分を壊したくて、敢えてシオンを裏切り続けているのではないか、
ゴンゾだけが、後悔の気持ちに押しつぶされ、それをみっともなく晒しながら生きている、
誰よりもリューベンの近くにいようとして・・・。
それら全てが吹き出すように伝わってくるのを期待したのだがちょっと残念だった。

スコットランドの作家による原作は、乱暴な若さ故の悲劇を等身大で見せる
とても良い脚本だと思うが、消化しきれていない感じがした。
劇中のダンスが素晴らしく、マグネットをはじめとする「モノたち」の
失敗と哀しみが伝わってきた。

スコットランドの洗練されない町の泥臭さが似あわないほど
イケメンBOYSたちはスマートですっきりした若者であった。
演じる彼らが、ラストで一気に解放されて花びらの中で号泣するような
そんな芝居を見せてくれる日を心待ちにしている。



















俺以上の無駄はない

俺以上の無駄はない

MCR

駅前劇場(東京都)

2012/04/12 (木) ~ 2012/04/17 (火)公演終了

満足度★★★★★

クズ野郎、好き
このタイトルで、自称「クズ野郎」の芝居とくればこれは観たい。
そう思った時点でもうやられてる・・・。
台詞が時代の空気を感じさせるから、軽い笑いでいなすのかと思いきや
役者陣の充実ぶりと、実は鋭い痛みを伴う展開に
最後はなんだか泣けてしまった。

ネタバレBOX

長椅子のほかに2、3個の椅子が置かれた部屋。
色とりどりの立体的な窓枠が壁一面に取り付けられている。
この部屋が、主人公櫻井と姉の住む部屋になったり
倒れた姉のかかりつけの病院になったり、
「不幸の泉に顔をつける会」というよくわからない会の集会場所になったりする。
短い暗転と小さな照明の変化でテンポ良く場面が切り替わる。

姉弟のバトルがマジで激しいので、この二人が抱える問題の深刻さが浮き彫りになる。
まるで共依存のように、互いを必要とし思いやり、そして面倒くさがっている。
櫻井智也さんの巻き舌罵倒は定番(?)として
巨漢の姉の石澤美和さんもすごい存在感でスキのないキレっぷり。
これがのちに脳腫瘍のために現われたもう一人の“人格の良い美和”に入れ替わるとき
絶大な効果を生んで素晴らしく可笑しいのだ。

力業のような展開を見事なまでにリアルに見せるのは役者陣のなりきりぶりの凄さだ。
2つの人格が激しく入れ替わる姉や、大好きな親友の為に自分を投げ出す男、
あからさまに姉に下りる金目当てにやってくるへらへらした元夫、
みんな振れ幅の大きい役なのに、必然的にそうせざるを得ない人間として
説得力のある存在に見せる。
怒号飛び交う中でただひとり、怒鳴りもせず笑いながら当然のように
金目当てでやって来る元夫を演じた小西耕一さん、
クズ野郎とはこの男のことだろうという役を
「こうなって当然」と思わせるほど憎たらしく演じて秀逸。

「不幸の泉に顔をつける会」や、姉の人格が割れるアイデアに
櫻井智也の素晴らしさを感じる。
人の心臓をつかみ出して見せるような、深層心理を容赦なく晒すところ。
どうして彼はいつも疲れているのかと聞かれた“良い人格の姉”は答える。
「智也は人よりちゃんとしなくちゃ、と思い過ぎるから疲れるのよ」
こういう台詞がいいんだよなあ。
私たちが理由もなく言いようのない疲れを感じることをちゃんと分析している。

巻き舌で罵倒しながら、疲れた櫻井はいつも「どうでもいいよ」とつぶやいていた。
しかし最後に決断を下す時には「どうでもいいことなんて無いんだよ!」と叫んだ。
そう、どうでもいいことなんてひとつもない。
全てのものは、決断し選択されることを待っている。
私たちは疲れたと言わず、嬉々として選択しよう。
今日のように熱い舞台を選択すれば、終わって暗転した途端
「ちきしょう、めちゃくちゃ面白いじゃないか!」と泣けるのだから。
FOXTROT

FOXTROT

Project ONE&ONLY

小劇場 楽園(東京都)

2012/04/11 (水) ~ 2012/04/15 (日)公演終了

満足度★★★

魅力的なキーワードと小道具
“fox-trot”には3つの意味があるという。
①八重咲きのチューリップの一品種。
②2人で踊るダンスのステップの名前。
③乗馬用語で、なみあし(Walk)からはやあし(Trot)に変わる時の小走りの歩調。
物語はこの3つのエピソードをめぐる指輪の旅を追って行くのだが、
この魅力的なキーワードと小道具を活かしきれなかったのちょっとが残念。



ネタバレBOX

正方形に近い舞台には中央にこんもり砂場のようなアイランド。
そこに続くあぜ道のようなくねくねした道も砂で出来ている。
天井から吊るされた細い流木のような木が揺れる。
この流木が縦に長くなるとそこは山深い森になる。
波の音がして、今はここが砂浜だということが分かる。

照明でがらりと変化するセットがシンプルで素敵だし、
二手に分かれた客席の間を通って役者が出入りするのも空間を活かしていて面白い。
このセットが、効果音ひとつで海になり、砂場になり、山奥になる。

「FOXTROT」というキーワードが持つ意味の多様性がまず面白い。
それを上手く活かしたエピソードが指輪でつながって行くアイデアも良い。
セットもセンスがあって素敵だと思う。
だけどどうも共感しきれないまま終わってしまった感じがするのは何故だろう。
最後まで、もっとストレートに言って欲しいと思いながら観ていた。
一度だけ、津波警報のような激しいサイレンが鳴った時
これで全てが明らかになるのか、と期待したが
やはり観客の想像力に任された感じで、何となく判然としなかった。

東北を思わせる「何かで壊滅的な打撃を受けた町」、
「自分が放してやった馬」を探しに危険なエリアへ入って行く男、
砂山を作っては壊す少女、
どれもイメージを漠然と伝えてくるがはっきりとはわからない。
一番分かりやすそうな元ダンスのパートナーの男も
突然「ここで待っててくれ」と言い残していなくなるのは何故?
馬を探しに来た男と出会ったもう一人の男は誰?
あの少女は死者のイメージ?

打撃を受けた町で、ひとつの指輪が傷ついた人々の手に渡るたびに
ささやかな奇跡が起こり、小さな幸せが灯る・・・。
というストーリーでは、分かり易いだけの平凡な話になってダメなのかな。
でもせっかく奇跡が起こって砂浜にチューリップが咲いても
何だか誰にも感情移入できないままではどうも残念。
他の人は作品をもっと理解出来たのかもしれないけれど・・・。
設定と小道具が凝っているだけに、それを十分活かしきれていない感じがした。

震災の被災地を思わせる設定ながら、それをぼかし過ぎたかもしれない。
あの現実を突き付けられた今となっては
今さらぼかしたり控えめにしたりしても、反ってもどかしさを覚える。

「立ち上がることができたら歩いてみる
歩くことができたら駆け出してみる
ほんの少しだけ、早足で・・・」

という台詞に、打ちのめされた人を思いやる気持ちがにじんでいて印象的だった。
この温かい言葉には救われた気がする。
それと、犬役の女優さんの強い視線がとても良かった。
ばばあめし

ばばあめし

cineman

ワーサルシアター(東京都)

2012/04/04 (水) ~ 2012/04/08 (日)公演終了

満足度★★★★

魅力的な店主
「ごはん食べて行きませんか」という尚子の声がまだ聴こえる。
上手く言えない、上手く行かない人生の苦さと温もりを感じさせる舞台。
素朴な日常と再生の物語は饒舌過ぎず、ほろりとさせられた。

ネタバレBOX

登場人物の会話が硬質な印象を受けたのは
尚子の話し方が端正なためだろう。
家族なのに距離のある話し方に最初少し違和感を覚えたが、
やがてそれがそのまま人間関係の距離感だと判る。
母と異母姉弟、住み込みの女性、そこへやって来る人々。
皆どこか力を抜けないまま時にぶっきらぼうに、
あるいはことさら一生懸命にしゃべったりする。

「ごはん食べて行きませんか」
「食べられない物はありますか」
初対面の人にも丁寧に問うて、食事の支度をする尚子は何と魅力的なことだろう。
よその家のお母さんから、こんなことを言われなくなって久しい。
弱くなったり壊れかけたりした人間関係を尚子はきっちり受け止める。
誰もが彼女のごはんを食べて、人生をリセットして行く。
尚子役の眞田恵津子さん、声も振舞いも尚子そのまま端正で素晴らしい。
後半脳梗塞で倒れて半身が少し不自由になってもなお、その居住まいは変わらない。

犬のハジメが観ている私たちの代弁者のように、ツッコミを入れるのが可笑しい。
このハジメに対しては誰もが素直に接して来て、彼は全てをお見通し。
ハジメ役の石蔦弘忠さんは、人々の会話に入れないのに敏感に呼応する犬を
抜群のタイミングで演じる。
そう言えば顔も犬っぽいか・・・。

平凡なだけが日常ではない。
出会ったり別れたり、生まれたり死んだり、壊れたり修復したり・・・。
日常は多くを内包し、しかも簡単に失われたりはしないのだ。
この一家を見るとそれが感じられる。
最初2つだった食卓の椅子が、最後は4つになった。
尚子と子音、守、そしていなくなったけど(いつか戻ってくるかもしれない)葵の存在。
全部見届けて15歳の老犬ハジメが静かに眠っている・・・。
このラストがまた淡々として良かった。

ハジメの使い方次第ではコメディにもなりがちな設定だが、台詞も演出も控えめで上品。
このバランスのおかげで、誰もが持っている
「上手く言えない、上手く行かない」日常のほろ苦さがリアルになった。
その結果ちょっとくらい失敗しても、日常は再生するのだということに説得力が生まれた。

鬼界ヶ森

鬼界ヶ森

劇団め組

吉祥寺シアター(東京都)

2012/03/29 (木) ~ 2012/04/01 (日)公演終了

満足度★★★★★

黒沢映画のテイストもあり
時代劇ファンの私としてはとても楽しみに出かけた。
あの“毎日が死に近い”緊張感が好きだ。
印象に残る美しい衣装と立ち姿、効果的な音楽と映像美のような照明、
そして忘れ難いいくつもの台詞。
フライヤーのイメージ通りの美しさ。
黒沢映画のテイストも感じさせる素晴らしい舞台だった。

ネタバレBOX

吉祥寺シアターの奥行きある舞台の、さらに奥にある巨大な扉が開くと
そこには階段があり、異界への“きざはし”となっている。
細長い行燈のような照明が二本、天井から吊り下げられていて
少し薄暗い舞台が時代劇らしい雰囲気に包まれている。

鬼退治のため森へ入って行く一行の面々が魅力的だ。
虚空役の新宮乙矢さん、過酷な運命の果てに
虚無的な人生を送る孤独感が漂っていた。
立ち回りの際に足元が揺るがないところが素晴らしい。
武蔵役の藤原習作さん、落ちぶれた城主だが
かつての家臣を引き連れて歩き、人を惹きつけ包み込む温かさを持つ男が魅力的だった。
出家した道雪役の秋本一樹さん、潔く内省的な人柄がにじんでいて
武蔵と共に、虚空の心と人生を変える言葉に説得力があった。

そして鬼の正体、淀殿の生霊を演じた高橋沙織さん、
登場した時から圧倒的な存在感。
家康の豊臣家に対する仕打ちを恨むあまり生霊となって
関ヶ原の戦いで死んだ者達を呼び寄せ、さらに仲間を募る為に
男たちをさらって心を操り、支配下に置いていたのだった・・・。
一時は時代を動かし、その後時代に置き去りにされた女の口惜しさが
きれいな立ち姿と緋色の袴で槍を構える全身から立ち上るようだ。

ダイナミックな日本映画を観るようなこの舞台は
何と言っても台詞の素晴らしさだろう。
淀殿の生霊が虚空の剣に刺し貫かれるとき
「わらわは、母上のようにはならぬ」と叫ぶ、あの悲壮な声が忘れられない。
「人の心は操れぬ」という虚空の言葉も。
凝縮された無駄のない台詞が全体を引き締めていてあっという間の2時間弱だった。

ちょっと残念に感じたのは、村の女性たちの台詞が少しすべって聴こえたこと。
時代劇の台詞は返事一つでも現代劇とは違う。
着物を着たホームドラマならそれでもよいが、
ここまで丁寧に作り込んだ舞台となると男性陣の台詞の重みとの差が目立つ。
元々武家の女たちなのだから、もっと落ち着いて喋っても良かったような気がする。

階段の最上段に細川ガラシャの鬼を横たえた時と、淀殿を横たえた時の
照明とスモークの演出がとても幻想的で、
かつ自然に成仏した感じが伝わって感動的。
般若の面をつけてしゃべる時のスピーカーから聴こえる声や、
音楽の音量が程良く個人的にとても快適だった。

ラストが浪人二人の後ろ姿に見送る僧という、まるで黒沢映画のような
ちょっとユーモラスで明るい幕切れと言うのもよかったなあ。
再/生

再/生

東京デスロック

富士見市民文化会館キラリ☆ふじみ(埼玉県)

2012/03/24 (土) ~ 2012/03/25 (日)公演終了

満足度★★★★

だんだんわかってくること
白いスクリーンのほか、何のセットも無い空間。
やがて1人の女性が客席の方から登場。
彼女が“幸せ”について短く語ったあと、録音されたその声が繰り返し流れる。
彼女に続いて5人の役者が登場、合計6人による「再/生」が繰り広げられる。
まるで「再生ボタン」を押し続けるように正確なくり返し・・・。

ネタバレBOX

日常生活を表すような淡々とした無対象の動き。
ハンドルを握ったり、テーブルを拭いたりするような動きが繰り返される。
サザンオールスターズの「TUNAMI」やビートルズが流れ、
曲が頭に戻って繰り返されると人々もまた同じ動きを始める。
人々はすれ違い、交差し、営々といとなまれる日常が繰り返されていく。

曲が変わって次第に動きが激しくなる中、人々は不意にバタン!と倒れる。
それはまるで力尽きて二度と起き上がらないかのように見える。
だがまた起き上がって続きを始める。
憑かれたように腕を振り回し、五体投地のように倒れ込み、激しく足を踏み鳴らす。
やがて音楽が止み、汗だくの人々は倒れ込んで激しく息を弾ませている。
しばらくして 起き上がってまた客席の奥へと向かって歩き出して終わる・・・。

この動きの合間に7月からのツアーの様子がリアルに語られる。
横浜、京都、袋井、ソウル、福岡、北九州、青森と、
それぞれの土地での印象や
ひとつ終わった安堵感がにじむ劇団員のリラックスした会話が再現されて思わず笑ってしまう。

説明するとこんな文章になるが、とにかく身体表現の雄弁さに圧倒される。
激しさを増しても、動きは常に同じ腕の高さ、角度、勢いを保っている。
「言葉」に頼らない表現は「言葉」の制限を持たない分自由に広がる。
身体はその最強のツールであり、
役者はそのツールを最大限に活かそうとする。
アフタートークで多田さんが語ったところによると、あのくり返される動きは
「アドリブで動いたあと、それを正確に再生している」とのこと。
何度も同じ動きをくり返すうちに、だんだんと
良い意味での慣れと安定感が生まれるのがわかる。

曲が頭に戻ると一瞬うんざりした表情を浮かべつつ、
手を抜かずにまた動き始める姿に
前に進むしかない私たちの人生を垣間見る思いがする。
そして時折静かに前へ歩み出て立ち止まり、
はるか彼方へ視線を投げかけている。
後悔か、不安か、疑問か、誰もみな幸せを求めているはずなのに
その顔はあまり幸せそうに見えない。
切羽つまったようなその表情をみていると、何だか涙がにじんで来た。

くり返される日常の中に、時に大波小波が訪れ、
私たちは翻弄され流されながら暮らしている。
その素朴な幸せの手触りを確かめるのは皮肉にも
望まない力によって日常が分断された時だ。
何度も音を立てて倒れ込む人々の姿にその衝撃と絶望が重なる。
今度は立ち上がれないだろうと思っていると、また立ち上がるのだ。
それはまるでゾンビのようで、たくましさと同時にしかし痛々しさも感じさせる。
私たちの暮らしはまさにこんな風に「再生」と「/(分断)」のくり返しだ。
そしてこの日常が暴力的に損なわれることを
私たちは今、ひどく怖れている。

多田さんが
「ツアー中、東と西とでは震災の受け止め方に違いを感じた」と言っていたが
そうした地域性や風土をも、ライブで演劇の中に取り込む手法に
ダイナミックさを感じる。

私の好きな夏目慎也さんが今回もまた修行のように肉体を酷使していた。
お疲れ様でした、夏目さん。
「再/生」は、役者の痩せるようなストイックさで出来ている。
掏摸―スリ―

掏摸―スリ―

サイバー∴サイコロジック

OFF OFFシアター(東京都)

2012/03/14 (水) ~ 2012/03/18 (日)公演終了

満足度★★★★

掏摸師の哀しみ
フライヤーから立ち上る“ピカレスクの香り”に強く惹かれた。
荒川ユリエル演じる掏摸師は、繊細なたたずまいで14歳から29歳まで自然に見せる。
とてもナイーブでミステリアスな表現が出来る人だ。




ネタバレBOX

父親と木崎の台詞が重なり、呼応する演出に緊張感があって惹き込まれた。
この犯罪者サイドの勝手な論理を堂々と展開するのが原作の特徴かもしれない。
善悪を超えた、ある種の人間の、確かに存在するタイプの人間の黒い論理。
天才詐欺師の仕事ぶりをもう少しシーンや台詞で伝えてくれたら
彼がこの黒い論理に翻弄される哀しみが際立ったと思う。

原作の魅力的な言葉を忠実に再現しようとした結果か、
全体が饒舌でストーリーが時折立ち止まる。
ラップで犯行声明を出すところや首相を拉致したラームラのメンバーの仲間割れの場面、木崎の台詞とそれに伴う身ぶり手ぶりも、
もう少しコンパクトにメリハリつけたら
終盤なだれ込むような展開に勢いがついたかと思う。
大事な言葉を丁寧に言おうとするあまり、タメが長くなって
時折観る側の集中力が途切れがちなのが、とてももったいない気がした。

荒川ユリエルさん、名前と同様中性的で繊細な魅力があり、この役にぴったり。
「人を殺すな」と説得する悲痛な叫びは、彼自身が助けを求めているようにさえ聴こえた。

母親役の定塚ユリカさん、その絶妙な間や台詞にリアリティがあり
存在感抜群!

平平平平さん、絶対悪という父親の台詞に説得力があって
一体どうしてこんなオヤジになっちゃったんだ?とずっと思っていた。

ベッドのまん中に穴があいていて
そこからいろんな人が登場してくるというセットが面白い。
死んだはずの父親がはい出してきた時は「貞子」みたいで本当に怖かった。
会場のスタッフさん達が柔らかで快適な空間だった。



アイ・アム・アン・エイリアン

アイ・アム・アン・エイリアン

ユニークポイント

シアター711(東京都)

2012/03/13 (火) ~ 2012/03/18 (日)公演終了

満足度★★★★

そうだ、議論しよう
全く同じ条件でドナーからの移植を待つ患者二人。
どちらに移植するべきかを決める審査会に、市民から無作為に選ばれた7人が集まった。
ひとりを助ければ、もう一方はやがて死ぬだろう。
患者は二人とも幼い子どもである・・・。
普通の人がこんな重い選択を迫られるとき、人は何を基準に判断するのか。
そもそも人が決定出来ることなのか?

ストーリーは私たち市民の目線からブレることなく、
観客がちゃんとついて来ていることを確認するように慎重に進む。
その結果とても現実的で説得力のある舞台になった。





ネタバレBOX

舞台いっぱいにドーナツを半分にしたようなテーブルが半円を描いて置かれている。
テーブルは印象的なムラのある赤い天板、背もたれと脚が黒い椅子が10脚。
部屋の隅にはお茶のペットボトルと紙コップが用意されている。
そこへ患者2人との面会を終えたメンバー7人が入って来る。
ゆっくりと客席が暗くなった後は、照明も変化せず、暗転も無く役者はほぼ出ずっぱり。
舞台と同時進行の1時間半、私たちも一緒に辛い選択を迫られるのだ。

メンバー7人のキャラが明確でとても面白い。
ライターの男が移植の基礎を説明するのも、難しい話がすんなり入ってわかりやすい。判断のよりどころとなるのはやはり正確な情報だと思わせる。
とにかくさっさと終えて帰りたい気持ち満々の男は、全員一致にしようと説得を試みる。
その強引なやり方に強く反発する硬派な女は、議論しない結論は必ず後悔すると言う。
「母親なら絶対…」と感情的に主張する若い母親は次第にエスカレートしていく。
様々な背景が固有の価値観を生み、皆その価値観にしたがって
この難題に立ち向かおうとするのだが、その価値観がぶつかり合ってまとまらない。

やがてメンバーの中に疑問がわいてくる。
「A、 Bでなく患者の名前を知りたい」
「生活保護を受けている母親が美容院へ行くなんて…」
「ドナーの子どもはどうして脳死状態になったのか」
「ドナーの親はどうして移植に同意したのか」
「虐待していたのではないか」
「そもそも移植してまで生きるべきなのか」
この辺りの疑問の出し方が観る側を置いてきぼりにせず丁寧だと思う。

そしてついに決断が下され、全員一致で1人の患者が選ばれた。
解放され、ほっとして場が緩んだとたん、突然移植は中止になる。
誰も予期していなかった理由で・・・。

劇中、「犠牲者の数で悲劇が量られ、寄付金の額で善意が量られる」
という意味の台詞があった。
私たちは「物語」が大好きで、「物語」を欲している、という台詞も。
悲劇のドナー、移植を受けて喜ぶ親子、
死んだ子どもの臓器が生き続けることで納得するドナーの親・・・。
みんな自分を納得させるための「物語」でしかない。
マスコミもそうだ。
裁判員制度はもちろん、震災を強く意識させるこの台詞にどきりとさせられる。

キーワードや根幹にかかわる言葉が出てくると
トイピアノのような無機質な音が響く。
これがとても効果的で舞台にピシッと緊張が走る。
言葉を失うような、はっとするような場面が一瞬静止画になる。

ライター役のナギケイスケさんの静かな、でも誠実でリアルなたたずまいがとてもよかった。進行役の男を演じた古市裕貴さん、最後にメンバー全員にお礼を言う時の一瞬こみ上げた顔が忘れられない。どピンクのパンツを穿いたオネエ役の小林英樹さん、ひょっとして地なのかと思った。

「議論しましょう」という洪明花さんの切羽詰まった声がまだ聴こえる。
「ドナーは、いかなる瞬間でも移植の中止を申し出ることが出来る」という事実。
脳死とは生きているのか、死んでいるのか・・・。
回復の可能性はないが温かい人間とは何か・・・。
深く考えさせられた。





















青春の墓標 ~盗まれた革命~

青春の墓標 ~盗まれた革命~

オフィス再生

APOCシアター(東京都)

2012/03/10 (土) ~ 2012/03/11 (日)公演終了

満足度★★★★

あのころも今も変わらない絶望
千歳船橋の駅から1分、1階がカフェスペースで、2階が劇場という空間で
役者さんが立ち上げたと言う一軒家カフェシアターはとても快適だった。

今の若い人が感情移入するには難しい時代背景にも関わらず、出演者が豊かに共鳴しているのが伝わって来て「僕が死んだら」「私が死んだら」という悲痛な、切実な叫びに泣けてしまった。
なぜならそれは仮定の話ではなく本当に自ら命を断ってしまった人の声であり、「死んでも変わらない」ことを知ってしまった絶望の果ての死だから。


ネタバレBOX

普通のカフェに入って二階へ案内されたら、そこは劇場だったという感じ。
座布団付きパイプ椅子が40個ほどだろうか。
客席と同じ高さの舞台中央にパイプのごついやぐらが組んであり、ヘルメットがかかっている。
上手と下手にはそれぞれ小さいテーブルとライト。
バックの白い布のスクリーンには、何か文章がびっしり書かれている。
カルメンマキの「時には母のない子のように」や
井上陽水の「傘がない」などが流れている。

舞台は、基本的にテーブルの女性2人が本を読み、
他の4人がそこからインスピレーションされた台詞と動きを繰り広げる。
やぐらの上の武士は赤い糸の束を握っており、その先は
倒れている男性の衣装につながっている。
書物=思想に操られる哀れな「操り人形」の悲劇が連鎖して行くのを見せる。

樺美智子の死に影響された奥浩平が「青春の墓標」を残して自殺、
その「青春の墓標」から強い影響を受けた高野悦子が鉄道自殺して「二十歳の原点」を遺す。
「青春の墓標」が読まれ、やがてそこに「二十歳の原点」が呼応していく。

途中三島由紀夫の「盾の会」の「檄」が再現されたが、
その演説の間の操り人形の剣の舞い(?)が少し中途半端で残念だった。
台詞に迫力があっただけに、時代を映す出来事として挿入するならば
演出にも力強さが欲しい気がした。
それにしてもあの「檄」をよく覚えたなあと感心してしまった。
中盤にメリハリがついたのは確か。

懐中電灯でバックの白い布に書かれた文字を照らしながら読むところなど演出の工夫があって面白かった。
本のページを破って操り人形の亡骸を覆うところも良かったが、
若干長くて間延びした感があり、残念。

やぐらの上の武士、「檄」の鶴見直斗さんに華があり、
本を読んだあべあゆみさんに安定感があってバランスが良い。








東京ノーヴイ・レパートリーシアター 第8シーズン公演

東京ノーヴイ・レパートリーシアター 第8シーズン公演

TOKYO NOVYI・ART

東京ノーヴイ・レパートリーシアター(東京都)

2012/02/03 (金) ~ 2012/05/27 (日)公演終了

満足度★★★★★

孤独な美しい旅
初めての東京ノーヴィ・レパートリーシアター、
「銀河鉄道の夜」を選んだのは、一体どんな宇宙を創るのかぜひ観てみたかったからだ。
そしてその宇宙の旅は、今思い出しても泣きそうになるほど
果てしなく、孤独で、美しい旅だった。

   

ネタバレBOX

冒頭、子ども達を演じる役者さんの年齢が少し気になったが、場面が銀河鉄道の列車に移った辺りから気にならなくなった。
台詞の上手さとか技巧ではない。
ジョバンニを演じる金子幸代さんの、他者の台詞に涙をいっぱいためて反応するのを見ると、どうしようもなく泣けて来る。
ジョバンニはカンパネルラがもう死んでいることを知らないはずなのに
死者の言葉と知って聞けば、その台詞はひとつひとつ重い。
「ほんとうの幸い」とは何か。「ほんとうにいいことをしたら幸い」なのか。
たったひとりの友を喪ったジョバンニの孤独と相まって、死者の語る「幸い」は
あまりにも悲しい。
誰かのために死んでしまって、それを幸いと語る人にマジで泣いてしまう。

私が見たかった空間の創り方に関して言えば、期待をはるかに上回る素晴らしさだった。
足元の川の流れ、マリア像の照明、闇を横切る小さな列車、ケンタウル祭で川に流される灯篭。全てが息を飲むほど美しい。

この劇場の、この空間で「銀河鉄道の夜」を観ることに幸せを感じる、そんな舞台だった。
Turning Point 【分岐点】

Turning Point 【分岐点】

KAKUTA

ザ・スズナリ(東京都)

2012/02/23 (木) ~ 2012/03/04 (日)公演終了

満足度★★★★★

KAKUTAの大切な場所
3人の脚本×3人の演出のリレー形式によるオムニバスという
この冒険が大成功していると思う。
メリハリがあり、同時に貫く芯のようなものがくっきりした。
ここには、劇団が分岐点に立った時常に立ち返る大切な場所が描かれている。
温かく、雑多な、居心地の良いその場所は、
「変わらないこと」、「変わり続けること」、この二つの根っこは同じなのかもしれないと思わせる。
KAKUTAを初めて観たが、これまでもすごい役者さん達とやって来て、これからもやっていくんだろうなあ、と私も分岐点の端っこで思ったのだ。

ネタバレBOX

いきなりショッキングな出だしで、女二人のクライムロードムービーみたいになるのかと思いきや、第一話の繊細な音響と照明にすっかり魅せられてしまった。
蝉、ひぐらし、とんびの声に、なんて素敵な夕焼けの色なんだろう。
第二話は何と言ってもキローランの高山奈央子さんでしょ。よくぞここまでという感じ。みなさん振り切れるとこまで演ってるから面白くないはずがない。
Gカップの海老原(桑原裕子)さん、いいキャラだなあ、好きなタイプ。
第三話で貴和子と絵里が本音をぶつけ合うところでは、何だかボロ泣きしてしまった。反発しながら離れられない、そしていつも傷つけ合う心の底をさらけ出すところ。
ギャグが打率100%、ひとつもスベッてない。これってすごくレベル高いことだと思う。
狂おしき怠惰

狂おしき怠惰

TRASHMASTERS

駅前劇場(東京都)

2012/02/18 (土) ~ 2012/02/29 (水)公演終了

満足度★★★★★

超近未来
よくできたセットに感心してしまった。こんなの観たことない。
病院を舞台に次々露呈する人々の裏事情、それを辿れば霞が関につながるという現代の暗部がてんこ盛り。
その設定とスピーディーな展開が素晴らしい。
全ては抽象的な言葉ではなく、取材のたまもののようなリアルなデータで語られ、その説得力に圧倒される。
この話は超近未来のシミュレーションだ。
ゆっくりと落下していく「生」の重み。
生きているうちにそれを感じる人は、ごくわずかかもしれない。

「やるべきこともやらないで、たらたら生きてんじゃねーよ!」
その声を背中に聞きながら、私は劇場を後にした。




バックギャモン・プレイヤード

バックギャモン・プレイヤード

カムヰヤッセン

吉祥寺シアター(東京都)

2012/02/09 (木) ~ 2012/02/13 (月)公演終了

満足度★★★★

饒舌な良心で出来ている
多くを知ることで人は幸せになれるのか。
私たちはもう知らなかった時代に戻れないし、価値観の転換も出来なくなってしまった。何か大きな力によって全てを失わない限り・・・。
終盤、孤独な彼の叫びが私たち自身の痛恨の記憶を激しく揺さぶる。
まっとうな主張は饒舌だが、今はこの直球勝負を評価したい。
役者陣の熱演も○。
熊さんみたいな北川氏の良心が感じられる。

ネタバレBOX

先の読める展開に若干集中力が途切れそうになったところで
五所川原(小玉久仁子)さん登場。
ずん胴だったウエストがキュッとくびれた感じ。
客席の神経を一気に持ってった。いいキャラだ。
ひとり波に乗れないまま破滅の道を辿る花火職人が、行動をおこすに至るプロセスにもう少し説得力が欲しかった気がする。
こんなにも

こんなにも

クレネリ ZERO FACTORY

シアター711(東京都)

2012/02/01 (水) ~ 2012/02/05 (日)公演終了

満足度★★★★

鋭い台詞
人はそれぞれ「こんなにも」をたぎらせて生きている。
でもそれはどこかズレてる。
美しく温かいものに疑いの目を向ける作者の視点に共感。
初日から高い完成度の台詞と、なぜか劇中の音楽が耳に残る。

火葬

火葬

らくだ工務店

OFF OFFシアター(東京都)

2012/01/25 (水) ~ 2012/02/15 (水)公演終了

満足度★★★★★

「火葬」見届けました
あんな風に時折笑いながら観ていて良かったのか?
教師たちの秘密もさることながら、衝撃のラストシーンが
一夜明けた今でも頭から離れない。
もう一度落ち着いて検証しながら観たら
また違った物が見えるような気がする。
これ、世に溢れる「普通の善い人」全てに観て欲しい。

ある女

ある女

ハイバイ

こまばアゴラ劇場(東京都)

2012/01/18 (水) ~ 2012/02/01 (水)公演終了

満足度★★★★

マジな思いはすれ違う
不倫でも不倫でなくても、男と女はすれ違うものだ。
タイミングも盛り上がりもマジな思いも。
極端な行動はストーカーでもイタ電でもタカコの場合でも同じ。
すれ違う思いを目に見える形で伝えたいだけだ。
しょうもない女を、それでも岩井さんは優しく書いている。
いつもながら男岩井のスカートに違和感なし。

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