うさぎライターが投票した舞台芸術アワード!

2017年度 1-9位と総評
木ノ下歌舞伎『東海道四谷怪談ー通し上演ー』

1

木ノ下歌舞伎『東海道四谷怪談ー通し上演ー』

木ノ下歌舞伎

鶴屋南北の作品における「お岩さん」の怪談話はエピソードのひとつであり、
実は当時の社会の縮図のような、濃密な世界を描いた作品であることがよくわかる。
登場人物の個性が、それぞれの出自と生育環境の違いもあって鮮やかに描き分けられ
その結果としての悲劇が際立つ。
原作に忠実な現代語の台詞が的確で、普遍的な人の心情がストレートに響く。
6時間の長尺にも拘わらず、アフタートークに残った人数が満足感を示している。
いつもながらこれほど面白く、内容の濃いアフタートークを、私はほかに知らない。
江戸の歌舞伎の時代性と勢いを、新しい装いで蘇えらせてくれてありがとう!

大帝の葬送

2

大帝の葬送

ロデオ★座★ヘヴン

十七戦地の柳井祥緒さん脚本・演出でこのテーマなら、
繊細さと大胆な構成を両立させるに違いないと信じていたが、まさに期待以上だった。
大帝の葬送の実行に至る裏方の160日間を、会議室という限られた空間で描く。
柳井さん得意の設定で、史実をなぞるだけでない厚みのある人間ドラマになっている。
こんな重いテーマなのに、時々くすりと笑わせるのは台詞と役者の力。

マークドイエロー

3

マークドイエロー

もぴプロジェクト

緊張感あふれる照明とアホダラ経(?)唱和の迫力に冒頭から圧倒された。
正常と異常の境界は誰が決めるのか、複雑怪奇な共依存の心理、
そして謎解きよりも“自己の喪失”に戦く男の孤独と焦燥感に共感する。
狂言回しのさひがしジュンペイさんが軽妙さと渋さのグッドバランス!
愛とは、暴走したがるもの。


疾走

4

疾走

aibook

キャラにドンピシャの役者陣が素晴らしい。
松本紀保さんのたおやかさが際立って美しい。
危うい人々から目が離せない1時間50分、
それだけにラスト不思議な爽快感が残る。

室温 ~夜の音楽~

5

室温 ~夜の音楽~

天幕旅団

素晴らしく良く出来た戯曲、これを選び演出した渡辺さんのセンス、激情ほとばしる台詞を誰一人噛まない役者陣、と久しぶりに観ていて熱くなった。奇妙なオープニング、「たま」のシュールな乾いた歌詞が異様な世界に誘う。渡辺実希さんの罵倒するシーン、圧巻の迫力!

コーラないんですけど

6

コーラないんですけど

渡辺源四郎商店

三上晴佳さんと工藤良平さんにあて書きしたというだけあってドンピシャのキャラ。
少し歪んだ“日本の母子”が、“世界の現実”の濁流にのまれて行くさまが描かれる。
「この子の代わりに私が戦地へ…!」という愚かな母親がリアル。
それにしても音喜多咲子さん、3月に卒業式かってほどランドセル似合い過ぎ!


60'sエレジー

7

60'sエレジー

劇団チョコレートケーキ

高度経済成長期の高揚感と、その波に乗れない人々の悲哀が“日々のことば”で語られる。
上手く転身できない、あるいはしようとしない人々の、焦燥感と苛立ちが痛いほど切ない。
集団就職の少年役、足立英さんの初々しさと瑞々しさに感嘆。
脚本がいいなあ。台詞がいいなあ。
歴史物の格調高いのも好きだが、普通の会話でこんなにボロ泣きしたのは久しぶりだ。



泥の中

8

泥の中

VAICE★

会話の中に過去の人生が立ち上る面白さを堪能した。
台詞と間の良さ、それに登場人物を予感させる見事な“ショボい店”のセット。
男たちのキャラのバリエーションが絶妙。

カミサマの恋

9

カミサマの恋

ことのはbox

若干無理くりな感じはあるものの脚本が素晴らしい。
「カミサマ」とはつまり人の「苦」を知る者なのだろう。
「苦」を知って初めて言えることばがあるということを、道子は教えてくれる。
それを伝えることの大切さも。

総評

仕事と家族の都合で、劇場へ行くことがままならない1年だったが、結果として”企画のすばらしさ”を再認識した1年となった。木ノ下歌舞伎はそもそもが唯一無二の企画から始まっているし、「天皇の崩御」という題材、また「ドグラ・マグラ」や「室温」といった、既成の脚本を選択して新しい見せ方を模索する姿勢が大変面白かった。畑澤聖悟氏の作品は、シリアスなテーマとエンタメスピリッツが共存していて教育者としての視点も素晴らしい。演劇人の皆さま、今年もありがとうございました。

このページのQRコードです。

拡大